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Uターンラッシュ 予告
84 名無しさん@ピンキー sage 2010/08/11(水) 19:00:29 ID:w9KPCxT4
さわりだけだが書いてみる。本編はUターンラッシュ後にでも書けたら・・・俺はもう手遅れだろう。
最近、というか盆休みが明けてから・・・親友のさなえの様子がおかしい。
世の中が帰省ラッシュのまっただ中の時期、私と同様に地方出身の彼女も例外なく実家に帰っていたのだが、
今にして思えばそのころから何かがおかしかった。
彼女からの電話も、いつもの会話のような私の入り込めないマシンガントークではなく、
どこか大人びた、ある意味「妖艶な」という言葉の似合う話し方に変わっていたし、
ルームメイトである彼女を駅まで迎えに行ったときにも、容姿や着る服は変わらないのに、
香水も付けない彼女から艶めかしいオーラのようなものを感じていた。
そんな矢先、私は彼女がバイトに行っている間にネットで妙なニュースを目にした。
『○△県を中心に、断続的に停電が発生』
○△県というのは彼女の故郷だ。停電はそこから、円を広げるように全国に広がっているという。
他にもいくつかのニュースを見つける。
『登山家グループ消息不明。未確認生物目撃の情報も』
『海水浴客と連絡付かず。取材班も所在不明』
『合宿中の女子バスケ部が消息絶つ。女生徒一名入院』
『ボーイスカウトグループ、キャンプ場から姿を消す』
『通信機器の電波不良相次ぐ。全国的に拡大か』
共通していることは、5件とも○△県を中心に全国に広がっていることと、
最初の4件は全て集団で人間が行方不明になっているということだ。
これは偶然なんだろうか・・・?帰ってきたらさなえに聞いてみよう。何かあったのかもしれない。
そう思った時、部屋のドアが静かに開いた。
「美香・・・ただいま・・・ふふふっ」
今日はここまで。続くかどうかは寄生の進行度次第ということで………。
85 名無しさん@ピンキー sage 2010/08/12(木) 00:55:50 ID:GUzvqW78
>>84 乙
とりあえず全裸になった。
続きを待ってるよ
86 名無しさん@ピンキー sage 2010/08/12(木) 22:24:39 ID:x6++GZbm
>>84です。申し訳ない事にタイトルを付け忘れていました。
「Uターンラッシュ 予告」
タイトル通りといいますか、Uターンラッシュ後に本編に取り掛かろうかと思います。
さわりだけだが書いてみる。本編はUターンラッシュ後にでも書けたら・・・俺はもう手遅れだろう。
最近、というか盆休みが明けてから・・・親友のさなえの様子がおかしい。
世の中が帰省ラッシュのまっただ中の時期、私と同様に地方出身の彼女も例外なく実家に帰っていたのだが、
今にして思えばそのころから何かがおかしかった。
彼女からの電話も、いつもの会話のような私の入り込めないマシンガントークではなく、
どこか大人びた、ある意味「妖艶な」という言葉の似合う話し方に変わっていたし、
ルームメイトである彼女を駅まで迎えに行ったときにも、容姿や着る服は変わらないのに、
香水も付けない彼女から艶めかしいオーラのようなものを感じていた。
そんな矢先、私は彼女がバイトに行っている間にネットで妙なニュースを目にした。
『○△県を中心に、断続的に停電が発生』
○△県というのは彼女の故郷だ。停電はそこから、円を広げるように全国に広がっているという。
他にもいくつかのニュースを見つける。
『登山家グループ消息不明。未確認生物目撃の情報も』
『海水浴客と連絡付かず。取材班も所在不明』
『合宿中の女子バスケ部が消息絶つ。女生徒一名入院』
『ボーイスカウトグループ、キャンプ場から姿を消す』
『通信機器の電波不良相次ぐ。全国的に拡大か』
共通していることは、5件とも○△県を中心に全国に広がっていることと、
最初の4件は全て集団で人間が行方不明になっているということだ。
これは偶然なんだろうか・・・?帰ってきたらさなえに聞いてみよう。何かあったのかもしれない。
そう思った時、部屋のドアが静かに開いた。
「美香・・・ただいま・・・ふふふっ」
今日はここまで。続くかどうかは寄生の進行度次第ということで………。
85 名無しさん@ピンキー sage 2010/08/12(木) 00:55:50 ID:GUzvqW78
>>84 乙
とりあえず全裸になった。
続きを待ってるよ
86 名無しさん@ピンキー sage 2010/08/12(木) 22:24:39 ID:x6++GZbm
>>84です。申し訳ない事にタイトルを付け忘れていました。
「Uターンラッシュ 予告」
タイトル通りといいますか、Uターンラッシュ後に本編に取り掛かろうかと思います。
蛹3
「んふぅ、っく、ぅう」
妖しく未央の指が蠢き続け、喘ぎ声がやまない。
「いっ、いっ、ここ、こここなのっんん」
その嬌声がまた未央の指を指揮する。
今日目覚めてから何時間が経ったろうか。その間に未央は何度もイった。
途中で気絶するように数分まどろんだものの、異常なほど敏感になった身体が未央をすぐに呼び覚ますのだ。
「もう、もうっ、とまんない、とまんよぉっ」
指の動きはもう決して荒っぽいものにはならない。
未央は既に快楽を最大限に引き出す術を熟知している。
責めの手は極めて微妙で繊細だった。
触れるか触れぬかの距離で何度も陰核と乳首を指が行き来する。
擦り、押しつけ、思い出したようにつまんで、小さく捻り、またそうっと撫でる。
「すごい、すごいよ、そこ、そこそこ、あ、あ、ああっんああぁ」
もはやなんのためらいもなく、ぱぁっと未央の感覚が快楽に爆ぜる。
「イ、く、っ!」
絶頂を迎えて脱力する未央。
「はっ、は、ぁ、はっ、はっ」
50m走ダッシュを3本続けた直後のように、短く浅い呼吸が収まらない。
(ほんとに、どうして、こんなに、いいの)
「はっ、はぁ、ふ、ふぅ、ふぅ、んふ」
(いいかげん、そろそろ、やめなきゃ……)
未央は目の下の汗を拭いながら、呼吸を整え出した。
どくん。
「っ」
どくどく、どくん。
不整脈に似た心拍の不快を覚える。
と思うと、一段と身体の火照りが強まった。
(でも……)
再び両手が秘所に伸びる。
ひっきりなしに愛液をこぼして濡れそぼった陰唇をかきわけ、未央が一番弱い、一番好きな愛撫を繰り出す。
「くっはぅ、いっ、いいっ」
小休止したことでさらに感覚が鋭敏になったようだった。
一瞬のうちに軽い絶頂に追いやられる。
(だめ、どうして、とまらない、わたし、やめられない)
揃えた薬指と中指が未央の入り口で蠢きながら、人差し指は陰核を撫でる。
「いい、の、うぁっあっああぁ」
(だめっ、もう、そろそろやめないと)
「くぅ、また、またくる、とまんない、とめられないの」
未央の頭の片隅に小さな不安と焦りが生まれた。
「やめられない、やめたくない、もっと、いやぁ、もっともっともっとぉ……イくぅぅぅ」
今日何度となく未央の身体を駆け抜けた、渦巻く快感が未央を打ちのめした。
「はっ、は、ぁあん、いや、もっと、欲しい、きもちいいの、欲しいの」
絶頂に至っても指は動きを止めず、さらなる快楽を貪ろうとする。
恍惚感にたゆたいながら、未央の怖れは膨らんでいた。
(わたし……ほんとに、止められない?)
恐怖が高まっていくのと同時に、秘所から迸る快楽も強まっていく。
階段を1段、また1段と登っていくかのごとく、快感は増幅し目も眩むばかりになっていく。下腹部の熱さはまるでそこで炭が燃えているように、静かでしかし強かった。
意識を失いかけながらも、未央はおののていた。
(おかしいよ……絶対おかしい……こんなの……)
もはや手指の触感などない。ただ膨大な快感が全身に満たされて脈動しているだけだった。
飛び散った意識を必死でかき集めるようにして、固く閉じられた瞼を開く。
ぼんやりした視界の中、違和感に気づく。
(え……?)
未央の下腹部が、まるまると膨らんでいる。
驚愕で指の動きが止まり、一瞬で意識が覚醒する。
(これ……なに……うそ?)
まるで妊婦だ。マタニティードレスを着てもおかしくない曲線を未央の色白の肌が描いている。
巨大な恐怖に圧倒されながら、どうしようもない快楽に対する飢餓感が未央を襲う。考えるより速く、指が再び自分自身を蹂躙しはじめた。
「い……いい、いや、いや、これ、もう、すごい……」
もはや未央の身体は快楽の状態でいるのが当たり前になっているようだった。快感のない状態は呼吸を我慢しているのに等しい。
それぐらいの飢餓感だった。
(だめっ……やめないと、やめないと!)
強靭な意志を発揮し、未央は指を止めた。
そして冷静さを取り戻すべく、一度目を閉じた。
無理に忘れようとしていた、あの晩のことが思い出される。
奇妙な女。突然現れた銃を持った男。
もしあの場で男の制止に従っていたら―――
ちくりと後悔の針が未央を刺す。
どくん。
「ぐっ」
どくどくどく、どくん、どくどくん。
心臓が明らかにおかしなリズムを刻み、身体が今までとは比較にならない熱を帯びた。 そして、乳房から猛烈な快楽が湧き上がった。
「くはぁん!」
未央は触れてはいない。しかし、乳房と乳首から背中に向かって、暴力的な快楽が突き抜ける。まるで快感でできたドリルで両の胸を穿たれているようだ。
「うっはぁぁああっ、なにこれ、いやっ、いやぁぁっ」
未央の両手は固く拳をつくって、ベッドに押し付けられている。身体に触れてはいない。
快楽のドリルに胸から背中まで貫かれた感覚と共に、未央はまた絶頂に堕とされた。
下腹部がびくん、と震え、蠕動しだす。
意識を失いかけた未央はそれでまた「現実」へと引き戻された。
「いやっだめ、なに、それへん、へんだってば、いや、すごい、いい、いぁああぁ、ああぁあああん」
下腹部全体が、びく、びくと震えている。未央の感覚では、自分の下半身はすでに溶けてなくなっている。
快感のマグマの中に浸されて溶けきっている。
「うぅぅんう、もうすごすぎるよ、だめ、しんじゃうよ、いいい、いく、イく、イっくうううう!」
下腹部の蠕動が激しさを増していき、唐突に未央を無感覚が襲う。
もとより快楽を感じる以外の感覚は限りなく機能を停止していたが、その快感すら感じない。
ほんの一瞬だけ、何も考えなくていい安息の瞬間が訪れる。
その直後、天国とも地獄ともつかぬ快楽の暴発。
「うぁあああああぁあああぁぁあああぁあああああ!」
耳を除いた未央の穴という穴から、液体が迸った。
汗、涙、鼻水、小便、大便、愛液、小ぶりの乳首からぷっくりと玉のような母乳すら顔を出した。
「ああああぁあぁあああんぅ、あああああああぁああああ!」
頭を激しく振り、狂ったように声を上げ続ける未央。
その下腹部が大きく蠢いて波打つ。
続いて、未央の秘裂からどっと何かが生まれ出た。
無数の襞と無数の瘤を持った、未央の愛液と破瓜の血で濡れた無数の触手。
太さはさまざまで、最も細く数も多いものは針金ほど。
最も太いものは赤ん坊の腕ほどあった。
その無数の触手が、未央の秘裂を押し広げながらずるずると長く這い出してきた。
「うはぁああ、うぁぁん」
人外の壮絶な快楽に、瞳が瞼の奥に裏返ったまま未央はたゆたっている。
触手は意外な機敏さでくるりと方向を変え、未央の身体に群がった。
太腿に巻きつき足の指まで絡めとり、脇を掠めながら乳房を覆いつくし、臍でとぐろを巻いた。
小さな陰核に殺到し、鎖骨からうなじを通って耳の穴に潜り込み、乳首を優しく突つく。
「うふぅ、ふぅ、ぅうん」
未央が忘我の境地からかろうじて舞い戻った時には、既に全身が大小の触手で埋め尽くされていた。
半眼の視界でも、自分の身に起こっている驚異は見て取れた。
(なに……いや……こんな……こんなの、いや、いやぁあ!)
未央の覚醒を待っていたかのように、触手の蹂躙が始まった。
初めは胸だった。乳首を押し倒し、擦り抜ける。軽く縛って、摘み上げる。
「いやぁ、んっ……こぉんな、の、うっ……そぁんん」
あくまでも優しく、そして不意をついて強く。
陰核を撫でるそれは、より優しく機微に満ちている。
「やっいっやぁぁあくうぅ、すごい、だめっ、今までのより、ぜんぜん、すごい……いや、いいいっ」
感じながら、未央はどきりとした。
これほど悪夢のような奇怪な状況にもかかわらず、恐怖心がないことに。
未央は落ち着いていた。純白の快楽にたゆたいながらも、心の片隅がちゃんと未央を失わずにいる。
その小さいが確たる自我が未央には恐かった。
ぐぐっと下腹部が動く。猛烈な、今までとは全く違う快楽が未央の秘所を貫いた。
「あ!」
がつんと頭を殴られたような絶頂感が訪れた。一撃で未央はイった。
ぐっ、ぐっと下腹部が動くたびに、股間から伸びた触手の一部がわずかに出入りを繰り返していた。
「あ! あ、あはあ!」
膣に強い違和感とそれを遥かに凌ぐ快楽。触手が動いて初めて、未央は自分の中から自身が貫かれていることに気がついた。
「そ、んな……、い、やぁ、わた、し、んふ、誰ともまだしてあ! っくはぁ!」
わずかに残念な気持ちがあったが、すぐにそれも未央の心から掻き消えた。
「だ、め、ぇぇえええっ、いぃ、これ……うそみたいに、すごい、よぉぉ」
徐々に膣を出入りする触手の動きが大胆になっていく。
ずちゅ、ず、ずちゅ、と不規則に、大きな抽送が繰り返される。
「いや、すごい、すごぉい、いく、いっちゃうわたし、いやいやイいぃ、イく、イっくぅ!」
背中を浮かせ、全身を痙攣させる未央。
その表情は無邪気な子どもの微笑みに近い。
すべての触手がざわっとひとつなびいて、ゆらゆらと揺らめきながら責めの手を休めている。
「っは、はぁう、ああう、はぁっ」
快楽の小波にただよいながら、ようやく未央は認めた。
この、のたうつ触手は、自分自身なのだ。
今の今まで19年間、未央の身体の奥底に完全に抑圧され、統制されてきた欲求。
「はっ、は、ふぅあっんん」
再び、触手が蠢き出す。
きっかけはあの女だったのだろう。
だが、身体の内に潜んだ本能の覚醒を望んだのは自分だ。
「んはぁ、すっご、すごいイいぃの、イイのぉ」
ただひたすら未央が未央を感じさせるための動き。
そして、今も望んでいる。
多分、これからも。
「もっと、もっと、もっとして、こわれちゃうぐらい、もっと」
全身すべからくざわざわと這いまわる触手。
そこが性感帯であるかどうかにかかわらず、すべての触手が未央の肌を優しく責めた。
濡れた触手が未央の耳と鼻をほじくって、ぴちゃぴちゃと音を立てる。
だらしなく開いた唇にするりと入り込み、舌を巻きとって揉み上げる。
「イく、イくイくぅ、どこまでもイけるの、イけちゃうのああぁあああ」
乳房はひとつサイズが大きくなるほど膨らんでいる。
薄桃色だった乳首は今や固く真っ赤にしこっている。
触手で乳房をやわやわと揉むと、乳首の先からとろとろと母乳が流れ出た。
「あっはぁあ、おっぱいもすごい、イイのっおっぱいがイイのっ」
細めの触手の何本か、尻を撫でまわしていたものがあった。
未央がわずかに腰を持ち上げると、肛門を柔らかく揉みしだきながら1本、また1本と侵入していく。
「っここもぉ、入れちゃうのっふぁああぁぁああん」
未央はもう無数の触手の隅々まで意志を伝えることができるようになっていた。
自分の身体を、思うように、どこまでも、高みに昇らせることができる。
「はぁあ、あはぁはああ、イく、とまらないの、イくのとまらない、いあぁああぅん、イきっぱなしなの、すごおいのとまんないのぉぉ!」
未央は解放されていた。
何の制約もなく、思うまま貪ることができる。
望めば望むほど快楽が得られた。
無限の循環。
膣の責め方も未央はすぐに心得た。
ただ闇雲に前後させていたさっきとは違う。
膣をいっぱいに埋め尽くした触手はそれぞれが自由自在だ。
膨らみ、震え、擦り、突つき、うねる。
特に感じる場所に、触手の瘤をあてがうようにしてぐりぐりと押し付ける。
「うっうわぁああ、すごい、すごいよこんなのいいいイぃいいもっとすごいのキちゃううううぅううっ」
感じるために動かす。
気持ちイイ。
気持ちいいから動かす。
気持ちイイ。
動かすと気持ちいい。
気持ちイイ。
イイ。
もういわゆる「絶頂感」はなく、常にその瞬間が最高の高みだった。
螺旋を描くように、どこまでも昇っていく。
しかしじわじわと、指や触手といった身体の先端の方から、とろとろと溶けて流れ出して行くような感覚が訪れた。
そして溶け出していくところに、段違いの快感が生まれていた。
溶けていく感覚が次第に速くなり、ぐんぐん身体の中心へと迫っていく。
「もう、わたし、狂うの、狂ってるの、こわれちゃう、こわして、ころして、イかせて、わたしイくの、イいぃっくぅぅううううううううう!」
すべてを溶かしつくす究極の快楽が遂に未央の全身を占領した。
どばぁあああっ。
未央の全身の穴から、白く濁った液が噴き出した。
白濁液は涙や汗や涎となり、母乳や愛液の代わりとなって未央を濡らした。
未央の切れ長の目が白い涙の跡をつけて、虚ろに天井を見つめていた。
広い額が白濁液でてらてらと光る。
多くの男子生徒たちが自分の一物を含まれる夢想で何度も果てたその口には、微笑みが浮かんでいた。
ゆっくりと触手の群れが全身を包み込み、その顔も見えなくなった。
その日、母親の美恵子が帰宅したのは日付けが変わる頃だった。
妹の美樹は翌日の夜。隣人の神田愛理が現れたのがその深夜。
この町が、ウロボロス症候群による壊滅が公式に確認された、日本で最初の場所となる。
―― 「蛹」完 ――
妖しく未央の指が蠢き続け、喘ぎ声がやまない。
「いっ、いっ、ここ、こここなのっんん」
その嬌声がまた未央の指を指揮する。
今日目覚めてから何時間が経ったろうか。その間に未央は何度もイった。
途中で気絶するように数分まどろんだものの、異常なほど敏感になった身体が未央をすぐに呼び覚ますのだ。
「もう、もうっ、とまんない、とまんよぉっ」
指の動きはもう決して荒っぽいものにはならない。
未央は既に快楽を最大限に引き出す術を熟知している。
責めの手は極めて微妙で繊細だった。
触れるか触れぬかの距離で何度も陰核と乳首を指が行き来する。
擦り、押しつけ、思い出したようにつまんで、小さく捻り、またそうっと撫でる。
「すごい、すごいよ、そこ、そこそこ、あ、あ、ああっんああぁ」
もはやなんのためらいもなく、ぱぁっと未央の感覚が快楽に爆ぜる。
「イ、く、っ!」
絶頂を迎えて脱力する未央。
「はっ、は、ぁ、はっ、はっ」
50m走ダッシュを3本続けた直後のように、短く浅い呼吸が収まらない。
(ほんとに、どうして、こんなに、いいの)
「はっ、はぁ、ふ、ふぅ、ふぅ、んふ」
(いいかげん、そろそろ、やめなきゃ……)
未央は目の下の汗を拭いながら、呼吸を整え出した。
どくん。
「っ」
どくどく、どくん。
不整脈に似た心拍の不快を覚える。
と思うと、一段と身体の火照りが強まった。
(でも……)
再び両手が秘所に伸びる。
ひっきりなしに愛液をこぼして濡れそぼった陰唇をかきわけ、未央が一番弱い、一番好きな愛撫を繰り出す。
「くっはぅ、いっ、いいっ」
小休止したことでさらに感覚が鋭敏になったようだった。
一瞬のうちに軽い絶頂に追いやられる。
(だめ、どうして、とまらない、わたし、やめられない)
揃えた薬指と中指が未央の入り口で蠢きながら、人差し指は陰核を撫でる。
「いい、の、うぁっあっああぁ」
(だめっ、もう、そろそろやめないと)
「くぅ、また、またくる、とまんない、とめられないの」
未央の頭の片隅に小さな不安と焦りが生まれた。
「やめられない、やめたくない、もっと、いやぁ、もっともっともっとぉ……イくぅぅぅ」
今日何度となく未央の身体を駆け抜けた、渦巻く快感が未央を打ちのめした。
「はっ、は、ぁあん、いや、もっと、欲しい、きもちいいの、欲しいの」
絶頂に至っても指は動きを止めず、さらなる快楽を貪ろうとする。
恍惚感にたゆたいながら、未央の怖れは膨らんでいた。
(わたし……ほんとに、止められない?)
恐怖が高まっていくのと同時に、秘所から迸る快楽も強まっていく。
階段を1段、また1段と登っていくかのごとく、快感は増幅し目も眩むばかりになっていく。下腹部の熱さはまるでそこで炭が燃えているように、静かでしかし強かった。
意識を失いかけながらも、未央はおののていた。
(おかしいよ……絶対おかしい……こんなの……)
もはや手指の触感などない。ただ膨大な快感が全身に満たされて脈動しているだけだった。
飛び散った意識を必死でかき集めるようにして、固く閉じられた瞼を開く。
ぼんやりした視界の中、違和感に気づく。
(え……?)
未央の下腹部が、まるまると膨らんでいる。
驚愕で指の動きが止まり、一瞬で意識が覚醒する。
(これ……なに……うそ?)
まるで妊婦だ。マタニティードレスを着てもおかしくない曲線を未央の色白の肌が描いている。
巨大な恐怖に圧倒されながら、どうしようもない快楽に対する飢餓感が未央を襲う。考えるより速く、指が再び自分自身を蹂躙しはじめた。
「い……いい、いや、いや、これ、もう、すごい……」
もはや未央の身体は快楽の状態でいるのが当たり前になっているようだった。快感のない状態は呼吸を我慢しているのに等しい。
それぐらいの飢餓感だった。
(だめっ……やめないと、やめないと!)
強靭な意志を発揮し、未央は指を止めた。
そして冷静さを取り戻すべく、一度目を閉じた。
無理に忘れようとしていた、あの晩のことが思い出される。
奇妙な女。突然現れた銃を持った男。
もしあの場で男の制止に従っていたら―――
ちくりと後悔の針が未央を刺す。
どくん。
「ぐっ」
どくどくどく、どくん、どくどくん。
心臓が明らかにおかしなリズムを刻み、身体が今までとは比較にならない熱を帯びた。 そして、乳房から猛烈な快楽が湧き上がった。
「くはぁん!」
未央は触れてはいない。しかし、乳房と乳首から背中に向かって、暴力的な快楽が突き抜ける。まるで快感でできたドリルで両の胸を穿たれているようだ。
「うっはぁぁああっ、なにこれ、いやっ、いやぁぁっ」
未央の両手は固く拳をつくって、ベッドに押し付けられている。身体に触れてはいない。
快楽のドリルに胸から背中まで貫かれた感覚と共に、未央はまた絶頂に堕とされた。
下腹部がびくん、と震え、蠕動しだす。
意識を失いかけた未央はそれでまた「現実」へと引き戻された。
「いやっだめ、なに、それへん、へんだってば、いや、すごい、いい、いぁああぁ、ああぁあああん」
下腹部全体が、びく、びくと震えている。未央の感覚では、自分の下半身はすでに溶けてなくなっている。
快感のマグマの中に浸されて溶けきっている。
「うぅぅんう、もうすごすぎるよ、だめ、しんじゃうよ、いいい、いく、イく、イっくうううう!」
下腹部の蠕動が激しさを増していき、唐突に未央を無感覚が襲う。
もとより快楽を感じる以外の感覚は限りなく機能を停止していたが、その快感すら感じない。
ほんの一瞬だけ、何も考えなくていい安息の瞬間が訪れる。
その直後、天国とも地獄ともつかぬ快楽の暴発。
「うぁあああああぁあああぁぁあああぁあああああ!」
耳を除いた未央の穴という穴から、液体が迸った。
汗、涙、鼻水、小便、大便、愛液、小ぶりの乳首からぷっくりと玉のような母乳すら顔を出した。
「ああああぁあぁあああんぅ、あああああああぁああああ!」
頭を激しく振り、狂ったように声を上げ続ける未央。
その下腹部が大きく蠢いて波打つ。
続いて、未央の秘裂からどっと何かが生まれ出た。
無数の襞と無数の瘤を持った、未央の愛液と破瓜の血で濡れた無数の触手。
太さはさまざまで、最も細く数も多いものは針金ほど。
最も太いものは赤ん坊の腕ほどあった。
その無数の触手が、未央の秘裂を押し広げながらずるずると長く這い出してきた。
「うはぁああ、うぁぁん」
人外の壮絶な快楽に、瞳が瞼の奥に裏返ったまま未央はたゆたっている。
触手は意外な機敏さでくるりと方向を変え、未央の身体に群がった。
太腿に巻きつき足の指まで絡めとり、脇を掠めながら乳房を覆いつくし、臍でとぐろを巻いた。
小さな陰核に殺到し、鎖骨からうなじを通って耳の穴に潜り込み、乳首を優しく突つく。
「うふぅ、ふぅ、ぅうん」
未央が忘我の境地からかろうじて舞い戻った時には、既に全身が大小の触手で埋め尽くされていた。
半眼の視界でも、自分の身に起こっている驚異は見て取れた。
(なに……いや……こんな……こんなの、いや、いやぁあ!)
未央の覚醒を待っていたかのように、触手の蹂躙が始まった。
初めは胸だった。乳首を押し倒し、擦り抜ける。軽く縛って、摘み上げる。
「いやぁ、んっ……こぉんな、の、うっ……そぁんん」
あくまでも優しく、そして不意をついて強く。
陰核を撫でるそれは、より優しく機微に満ちている。
「やっいっやぁぁあくうぅ、すごい、だめっ、今までのより、ぜんぜん、すごい……いや、いいいっ」
感じながら、未央はどきりとした。
これほど悪夢のような奇怪な状況にもかかわらず、恐怖心がないことに。
未央は落ち着いていた。純白の快楽にたゆたいながらも、心の片隅がちゃんと未央を失わずにいる。
その小さいが確たる自我が未央には恐かった。
ぐぐっと下腹部が動く。猛烈な、今までとは全く違う快楽が未央の秘所を貫いた。
「あ!」
がつんと頭を殴られたような絶頂感が訪れた。一撃で未央はイった。
ぐっ、ぐっと下腹部が動くたびに、股間から伸びた触手の一部がわずかに出入りを繰り返していた。
「あ! あ、あはあ!」
膣に強い違和感とそれを遥かに凌ぐ快楽。触手が動いて初めて、未央は自分の中から自身が貫かれていることに気がついた。
「そ、んな……、い、やぁ、わた、し、んふ、誰ともまだしてあ! っくはぁ!」
わずかに残念な気持ちがあったが、すぐにそれも未央の心から掻き消えた。
「だ、め、ぇぇえええっ、いぃ、これ……うそみたいに、すごい、よぉぉ」
徐々に膣を出入りする触手の動きが大胆になっていく。
ずちゅ、ず、ずちゅ、と不規則に、大きな抽送が繰り返される。
「いや、すごい、すごぉい、いく、いっちゃうわたし、いやいやイいぃ、イく、イっくぅ!」
背中を浮かせ、全身を痙攣させる未央。
その表情は無邪気な子どもの微笑みに近い。
すべての触手がざわっとひとつなびいて、ゆらゆらと揺らめきながら責めの手を休めている。
「っは、はぁう、ああう、はぁっ」
快楽の小波にただよいながら、ようやく未央は認めた。
この、のたうつ触手は、自分自身なのだ。
今の今まで19年間、未央の身体の奥底に完全に抑圧され、統制されてきた欲求。
「はっ、は、ふぅあっんん」
再び、触手が蠢き出す。
きっかけはあの女だったのだろう。
だが、身体の内に潜んだ本能の覚醒を望んだのは自分だ。
「んはぁ、すっご、すごいイいぃの、イイのぉ」
ただひたすら未央が未央を感じさせるための動き。
そして、今も望んでいる。
多分、これからも。
「もっと、もっと、もっとして、こわれちゃうぐらい、もっと」
全身すべからくざわざわと這いまわる触手。
そこが性感帯であるかどうかにかかわらず、すべての触手が未央の肌を優しく責めた。
濡れた触手が未央の耳と鼻をほじくって、ぴちゃぴちゃと音を立てる。
だらしなく開いた唇にするりと入り込み、舌を巻きとって揉み上げる。
「イく、イくイくぅ、どこまでもイけるの、イけちゃうのああぁあああ」
乳房はひとつサイズが大きくなるほど膨らんでいる。
薄桃色だった乳首は今や固く真っ赤にしこっている。
触手で乳房をやわやわと揉むと、乳首の先からとろとろと母乳が流れ出た。
「あっはぁあ、おっぱいもすごい、イイのっおっぱいがイイのっ」
細めの触手の何本か、尻を撫でまわしていたものがあった。
未央がわずかに腰を持ち上げると、肛門を柔らかく揉みしだきながら1本、また1本と侵入していく。
「っここもぉ、入れちゃうのっふぁああぁぁああん」
未央はもう無数の触手の隅々まで意志を伝えることができるようになっていた。
自分の身体を、思うように、どこまでも、高みに昇らせることができる。
「はぁあ、あはぁはああ、イく、とまらないの、イくのとまらない、いあぁああぅん、イきっぱなしなの、すごおいのとまんないのぉぉ!」
未央は解放されていた。
何の制約もなく、思うまま貪ることができる。
望めば望むほど快楽が得られた。
無限の循環。
膣の責め方も未央はすぐに心得た。
ただ闇雲に前後させていたさっきとは違う。
膣をいっぱいに埋め尽くした触手はそれぞれが自由自在だ。
膨らみ、震え、擦り、突つき、うねる。
特に感じる場所に、触手の瘤をあてがうようにしてぐりぐりと押し付ける。
「うっうわぁああ、すごい、すごいよこんなのいいいイぃいいもっとすごいのキちゃううううぅううっ」
感じるために動かす。
気持ちイイ。
気持ちいいから動かす。
気持ちイイ。
動かすと気持ちいい。
気持ちイイ。
イイ。
もういわゆる「絶頂感」はなく、常にその瞬間が最高の高みだった。
螺旋を描くように、どこまでも昇っていく。
しかしじわじわと、指や触手といった身体の先端の方から、とろとろと溶けて流れ出して行くような感覚が訪れた。
そして溶け出していくところに、段違いの快感が生まれていた。
溶けていく感覚が次第に速くなり、ぐんぐん身体の中心へと迫っていく。
「もう、わたし、狂うの、狂ってるの、こわれちゃう、こわして、ころして、イかせて、わたしイくの、イいぃっくぅぅううううううううう!」
すべてを溶かしつくす究極の快楽が遂に未央の全身を占領した。
どばぁあああっ。
未央の全身の穴から、白く濁った液が噴き出した。
白濁液は涙や汗や涎となり、母乳や愛液の代わりとなって未央を濡らした。
未央の切れ長の目が白い涙の跡をつけて、虚ろに天井を見つめていた。
広い額が白濁液でてらてらと光る。
多くの男子生徒たちが自分の一物を含まれる夢想で何度も果てたその口には、微笑みが浮かんでいた。
ゆっくりと触手の群れが全身を包み込み、その顔も見えなくなった。
その日、母親の美恵子が帰宅したのは日付けが変わる頃だった。
妹の美樹は翌日の夜。隣人の神田愛理が現れたのがその深夜。
この町が、ウロボロス症候群による壊滅が公式に確認された、日本で最初の場所となる。
―― 「蛹」完 ――
蛹2
熱い。
身体の内側から、膿のような熱がじわじわと皮膚に向かって溶け出していくようだった。猛烈な倦怠感。朦朧とする意識。思い出したように時折走る悪寒。
あの晩から2日間を未央はほとんど眠って過ごしていた。陸上部はおろか講義を受けることもままならなかった。
つい今しがた目を覚まして、安物のパイプベッドの上で深く布団にもぐって横たわる自分に気がついたところだ。
じっとりとした汗が腋や太腿を伝うが、涼しくする気にはならない。
ただ今は何かに包まれて、じっとしていたかった。
熱の中心は下腹部にあった。生理の時のそれよりも遥かに強い熱が、未央の骨と肉を伝わって指先にまでこもっている。
わずかにみじろぐと、ふわぁっと胸に甘い痺れが広がった。
「っく」
喉の奥から声が漏れる。汗で濡れそぼったタンクトップと乳首が擦れただけでだ。
昨晩、あの女に襲われた悪夢で目を覚ました時から、どうしようもなく全身が敏感になっていた。
その前の晩にはただの風邪だと思っていた。
今は明らかな身体の変調に、病院へ行くことも考えないわけではない。
しかし、未央はひとりだった。
新橋にある割烹料理屋に勤める母親の帰りは遅く、昨夜も扉の向こうから声だけ未央にかけて眠りについていた。いつもは姉思いの妹も、彼氏に会いに行って昨夜は帰ってこない。
今日は土曜日。
たぶんお昼頃。
「っ」
首筋を伝う汗ですら愛撫のように未央を酔わせた。
いけない。
快感に伴う根拠のない罪悪感。
必死に未央は頭の中で拒んでいる。
そう、気持ち良い。
気持良くてたまらないのだ。
じっとしているのは理性。
布団に潜り込んで出てこないのは本能。
その真ん中に未央がいる。
急に熱が上がってきた気がした。
ベッドに横たわっているのに、ぐらりと身体が傾く錯覚を覚える。
はっとして身体をよじった。
「くふっ」
甘い声が漏れる。
全身を真綿のように包むけだるさ、その奥にある心地良さ。
熱い。
お腹の下が。その下の、太腿の間の、そこが。
「うぅ」
突然、柔らかなしかし強い快感を受ける。
そこに未央の手が伸びていた。自分で伸ばしたはずなのだが、そう意識はしていなかった。
ともかく、未央のパンティの上に彼女の手があった。
そっと軽く、こすってみる。
「ん!」
それだけで軽く意識は遠のいた。
いい。
良すぎる。
疑いを差し挟む余地もない。
それほどの快感をひと撫でで得られた。
もうひと撫で。
「んふぅ!」
陰唇から染みる快楽があっけなく未央の精神を捕らえた。
指が動く。
「んっ、あ、あ、あ、あ」
揃えた指が波打つように蠢く。
意識せずとも指先が震え、陰核に微妙な刺激を送り込む。
(なにこれ、なに、わたしどうなっちゃうの、いいっ、やっぱり、あの変な女……)
朦朧としていた意識が急速に覚醒して一点に集中していく。
燃え盛る波動が腰から背へ脳天へ一息に駆け抜けて止まらない。
「あっ、あっ、あ、あっ、あ、あ」
小刻みに動く指がパンティ越しに陰核と陰唇とを嬲る。
初めは遠慮がちだった動きが、ものの数十秒で大胆なものへと変化していった。
己の指の動きが快楽を生み、生まれた快楽が己を操る。
極めて簡潔な連鎖の輪。
するりと指がパンティの内側へ滑り込んだ。
もうすでにそこは愛液でぐっしょりと濡れ、生暖かい。
指はそのまま秘唇を捕らえる。
「あ!」
びくんっと身体が浮き上がり、布団から未央の顔が現れた。
寄せられた眉の上を汗が伝っていく。荒い息遣いが半開きの口から漏れる。
「はぁぅ、あ、はぁ、っ、ん」
止まらない。止められない。望めば望んだだけ快楽が手に入るのだ。
未央の指が秘唇を弄びながら愛液で濡れた陰核を打った。
「ふぁ!」
目を見開き、未央の動きが止まる。
延髄から大脳のてっぺんまでが白く焼けた。
深く白い靄が徐々に晴れていくかのように、未央の意識が戻ってくる。
(……わたし、イッた?)
自慰もしたことがなかった未央の身体に訪れた、初めての快楽。
その先にたどり着いた絶頂。
未体験だった領域のあまりの甘美さに、未央はおののいた。
おののきながら、布団をはいだ。
横たわったまま、タンクトップを脱ぐ。
そして愛液でしみができたパンティの裾に手をかけ、するりと足首まで下ろした。
ひとつひとつの動作に、甘い痺れとさらなる快楽への予感がよぎる。
わずかに開いたカーテンから漏れる光に、露になった未央の白い肌と、玉となった汗がきらめく。
呼吸はすでに整っていた。
そおっと、右手が股間に伸びる。
指がそこに触れるとともに、膨大な快楽が未央の身体に行き渡る。
「うわぁ……っ」
未央は確信した。これまでがどうであれ、この先どうなるのであれ、今はこの感覚を欲している。
左手は自然に胸の上に置かれた。
未央の掌にぴったりと収まる乳房の上に、自分の体温を感じるだけでも心地良い。
ゆっくりと動かすと、秘所から迸るそれとは質の違う快感が沸き起こった。
ふと右手を止め、両手で乳房を揉んでみた。
ふわりと軽く、それでいて濃密な甘さが広がる。
「くはぁ」
動きが速く、大胆になっていく。
「ふわ、ふあ、ふわぁあああ」
汲めども汲めども尽きぬ快楽の泉がふたつ、未央の胸の上で波紋を広げ続けている。今まで未央が、決して豊かとは言えない自分の乳房を意識する時は、下着を着ける時と満員電車ぐらいのものだった。
それが今はどうだ。まるでそこが自分の身体の一部とは思えない。
両手の人差し指できれいな薄桃色の乳首にそうっと触れ、さらに押し込む。
「っあ!」
鋭い快感が背中まで突き抜ける。指の腹でそうっと擦るようにすると、感電したような快楽が未央を打った。
「は……あ……あ……」
指の動きが止まらない。どんどん速く、微妙な動きへと変化していく。
「い……い……これ……」
ゆっくりと、意識が遠のいていく。
さきほどクリトリスで急激に迎えた絶頂とは違う。
じりじりと押し流されていき、最後にぱぁっと拡散した。
声は出ない。けだるげな表情と半開きの口。
かすかに反った背中。足の指だけが奇妙に曲げられてふるふると震えていた。
「……っはぁっ、いいっ、いいの、いいのっ」
胸の奥に溜め込まれていた吐息とともに声が出た。
去り行く快楽の波を慌ててまた呼び戻そうとするかのように、未央の右手がさっと秘部に当てられた。
「いっ……い、どうして、どうしてこんなに、気持ぃっいいの」
未央の秘部から溢れた愛液が、太腿まで濡らしている。
細かく震え、小さく蠢く指が陰唇を押し広げてクリトリスを擦る。
さきほどの乳房とは比較にならない、圧倒的な量の快楽電流が未央の全身を焦がし続けた。
「うあ、うああ、すごい、すごいよこれぇぇ」
くちゅ。
ぴちゅ。
時折、濡れそぼった未央の秘部が音を立てる。未央の中指が既に、入り口から少し奥までを行ったり来たりしていた。
ぞくぞくとした快感が股間から背筋を通って脳まで駆け抜けている。
「ふ、うふぅぅ、んんん」
左の人差し指が右の乳首をかすめ、すぐに戻ると押し倒して擦り抜ける。何度も何度もそれが繰り返される。
「ひ、くぅ」
時折びくんと腰が跳ね上がり、そのたびに未央は小さく悲鳴にも似た喘ぎ声を漏らす。 右手の指がクリトリスをつまんだ。
きゅぅと微かに力を込め、柔らかく撫でまわす。
今日初めて覚えた自慰のはずだが、ものの数十分で手馴れた色事師の手つきに近づいていた。
その間に何度も小さな絶頂を繰り返しつつ、未央は自分自身の指で追い詰められていく。
「うぁぁ……変だ……変だよわたし……くる、すごいのきちゃぅっ」
巨大な絶頂の津波が押し寄せる予感がする。
そして未央は、自ら恍惚の淵へと駆け寄っていることを自覚していた。
指の動きはもはや繊細さを失い、荒々しく性感帯を蹂躙し続ける。
「イく、イくの、わたし、イくのぉぉっ!」
絶頂の瞬間。快楽で全身が白熱して蒸発してしまうかのような感覚が未央を襲う。
「んっぁあぁぁぁあぁー!」
全身の筋肉が不随意的に収縮し、腹筋が薄く浮きあがって未央の上体はがばっと持ち上げられた。
未央は目と唇を閉じたまま首をわずかに後ろに折り、肩をすぼめ、左手で右の二の腕を抱きしめた状態で、指先まで全身硬直して痙攣していた。
しばらくそのまま彫像のように天井を仰いでいたが、やがて固く閉じられた瞳がゆっくりと開かれ、浅く短い呼吸が再開された。
鈍い視界の向こうに、自分の鏡台が見えた。
そこに映るのは衣服を脱ぎ散らかしたベッドの上に座っている未央。
うっすらと全身にかいた未央の汗が、カーテンの隙間から漏れる光をきらきらと返していた。
目は細くけだるげに開けられ、口元には我知らず恍惚とした笑みが浮かんでいる。
一瞬、自分でない誰かが鏡に映り込んでいるかと思ったが、すぐに思い返した。
――わたし、意外とかわいいじゃない。
小さく笑って、そのままどさっと仰向けに倒れ込んだ。
身体はまだ火照っている。ごろりとうつ伏せになって、大きく深呼吸をした。
心臓の鼓動も収まっていない。
まだ、足りない。
身体の内側から、膿のような熱がじわじわと皮膚に向かって溶け出していくようだった。猛烈な倦怠感。朦朧とする意識。思い出したように時折走る悪寒。
あの晩から2日間を未央はほとんど眠って過ごしていた。陸上部はおろか講義を受けることもままならなかった。
つい今しがた目を覚まして、安物のパイプベッドの上で深く布団にもぐって横たわる自分に気がついたところだ。
じっとりとした汗が腋や太腿を伝うが、涼しくする気にはならない。
ただ今は何かに包まれて、じっとしていたかった。
熱の中心は下腹部にあった。生理の時のそれよりも遥かに強い熱が、未央の骨と肉を伝わって指先にまでこもっている。
わずかにみじろぐと、ふわぁっと胸に甘い痺れが広がった。
「っく」
喉の奥から声が漏れる。汗で濡れそぼったタンクトップと乳首が擦れただけでだ。
昨晩、あの女に襲われた悪夢で目を覚ました時から、どうしようもなく全身が敏感になっていた。
その前の晩にはただの風邪だと思っていた。
今は明らかな身体の変調に、病院へ行くことも考えないわけではない。
しかし、未央はひとりだった。
新橋にある割烹料理屋に勤める母親の帰りは遅く、昨夜も扉の向こうから声だけ未央にかけて眠りについていた。いつもは姉思いの妹も、彼氏に会いに行って昨夜は帰ってこない。
今日は土曜日。
たぶんお昼頃。
「っ」
首筋を伝う汗ですら愛撫のように未央を酔わせた。
いけない。
快感に伴う根拠のない罪悪感。
必死に未央は頭の中で拒んでいる。
そう、気持ち良い。
気持良くてたまらないのだ。
じっとしているのは理性。
布団に潜り込んで出てこないのは本能。
その真ん中に未央がいる。
急に熱が上がってきた気がした。
ベッドに横たわっているのに、ぐらりと身体が傾く錯覚を覚える。
はっとして身体をよじった。
「くふっ」
甘い声が漏れる。
全身を真綿のように包むけだるさ、その奥にある心地良さ。
熱い。
お腹の下が。その下の、太腿の間の、そこが。
「うぅ」
突然、柔らかなしかし強い快感を受ける。
そこに未央の手が伸びていた。自分で伸ばしたはずなのだが、そう意識はしていなかった。
ともかく、未央のパンティの上に彼女の手があった。
そっと軽く、こすってみる。
「ん!」
それだけで軽く意識は遠のいた。
いい。
良すぎる。
疑いを差し挟む余地もない。
それほどの快感をひと撫でで得られた。
もうひと撫で。
「んふぅ!」
陰唇から染みる快楽があっけなく未央の精神を捕らえた。
指が動く。
「んっ、あ、あ、あ、あ」
揃えた指が波打つように蠢く。
意識せずとも指先が震え、陰核に微妙な刺激を送り込む。
(なにこれ、なに、わたしどうなっちゃうの、いいっ、やっぱり、あの変な女……)
朦朧としていた意識が急速に覚醒して一点に集中していく。
燃え盛る波動が腰から背へ脳天へ一息に駆け抜けて止まらない。
「あっ、あっ、あ、あっ、あ、あ」
小刻みに動く指がパンティ越しに陰核と陰唇とを嬲る。
初めは遠慮がちだった動きが、ものの数十秒で大胆なものへと変化していった。
己の指の動きが快楽を生み、生まれた快楽が己を操る。
極めて簡潔な連鎖の輪。
するりと指がパンティの内側へ滑り込んだ。
もうすでにそこは愛液でぐっしょりと濡れ、生暖かい。
指はそのまま秘唇を捕らえる。
「あ!」
びくんっと身体が浮き上がり、布団から未央の顔が現れた。
寄せられた眉の上を汗が伝っていく。荒い息遣いが半開きの口から漏れる。
「はぁぅ、あ、はぁ、っ、ん」
止まらない。止められない。望めば望んだだけ快楽が手に入るのだ。
未央の指が秘唇を弄びながら愛液で濡れた陰核を打った。
「ふぁ!」
目を見開き、未央の動きが止まる。
延髄から大脳のてっぺんまでが白く焼けた。
深く白い靄が徐々に晴れていくかのように、未央の意識が戻ってくる。
(……わたし、イッた?)
自慰もしたことがなかった未央の身体に訪れた、初めての快楽。
その先にたどり着いた絶頂。
未体験だった領域のあまりの甘美さに、未央はおののいた。
おののきながら、布団をはいだ。
横たわったまま、タンクトップを脱ぐ。
そして愛液でしみができたパンティの裾に手をかけ、するりと足首まで下ろした。
ひとつひとつの動作に、甘い痺れとさらなる快楽への予感がよぎる。
わずかに開いたカーテンから漏れる光に、露になった未央の白い肌と、玉となった汗がきらめく。
呼吸はすでに整っていた。
そおっと、右手が股間に伸びる。
指がそこに触れるとともに、膨大な快楽が未央の身体に行き渡る。
「うわぁ……っ」
未央は確信した。これまでがどうであれ、この先どうなるのであれ、今はこの感覚を欲している。
左手は自然に胸の上に置かれた。
未央の掌にぴったりと収まる乳房の上に、自分の体温を感じるだけでも心地良い。
ゆっくりと動かすと、秘所から迸るそれとは質の違う快感が沸き起こった。
ふと右手を止め、両手で乳房を揉んでみた。
ふわりと軽く、それでいて濃密な甘さが広がる。
「くはぁ」
動きが速く、大胆になっていく。
「ふわ、ふあ、ふわぁあああ」
汲めども汲めども尽きぬ快楽の泉がふたつ、未央の胸の上で波紋を広げ続けている。今まで未央が、決して豊かとは言えない自分の乳房を意識する時は、下着を着ける時と満員電車ぐらいのものだった。
それが今はどうだ。まるでそこが自分の身体の一部とは思えない。
両手の人差し指できれいな薄桃色の乳首にそうっと触れ、さらに押し込む。
「っあ!」
鋭い快感が背中まで突き抜ける。指の腹でそうっと擦るようにすると、感電したような快楽が未央を打った。
「は……あ……あ……」
指の動きが止まらない。どんどん速く、微妙な動きへと変化していく。
「い……い……これ……」
ゆっくりと、意識が遠のいていく。
さきほどクリトリスで急激に迎えた絶頂とは違う。
じりじりと押し流されていき、最後にぱぁっと拡散した。
声は出ない。けだるげな表情と半開きの口。
かすかに反った背中。足の指だけが奇妙に曲げられてふるふると震えていた。
「……っはぁっ、いいっ、いいの、いいのっ」
胸の奥に溜め込まれていた吐息とともに声が出た。
去り行く快楽の波を慌ててまた呼び戻そうとするかのように、未央の右手がさっと秘部に当てられた。
「いっ……い、どうして、どうしてこんなに、気持ぃっいいの」
未央の秘部から溢れた愛液が、太腿まで濡らしている。
細かく震え、小さく蠢く指が陰唇を押し広げてクリトリスを擦る。
さきほどの乳房とは比較にならない、圧倒的な量の快楽電流が未央の全身を焦がし続けた。
「うあ、うああ、すごい、すごいよこれぇぇ」
くちゅ。
ぴちゅ。
時折、濡れそぼった未央の秘部が音を立てる。未央の中指が既に、入り口から少し奥までを行ったり来たりしていた。
ぞくぞくとした快感が股間から背筋を通って脳まで駆け抜けている。
「ふ、うふぅぅ、んんん」
左の人差し指が右の乳首をかすめ、すぐに戻ると押し倒して擦り抜ける。何度も何度もそれが繰り返される。
「ひ、くぅ」
時折びくんと腰が跳ね上がり、そのたびに未央は小さく悲鳴にも似た喘ぎ声を漏らす。 右手の指がクリトリスをつまんだ。
きゅぅと微かに力を込め、柔らかく撫でまわす。
今日初めて覚えた自慰のはずだが、ものの数十分で手馴れた色事師の手つきに近づいていた。
その間に何度も小さな絶頂を繰り返しつつ、未央は自分自身の指で追い詰められていく。
「うぁぁ……変だ……変だよわたし……くる、すごいのきちゃぅっ」
巨大な絶頂の津波が押し寄せる予感がする。
そして未央は、自ら恍惚の淵へと駆け寄っていることを自覚していた。
指の動きはもはや繊細さを失い、荒々しく性感帯を蹂躙し続ける。
「イく、イくの、わたし、イくのぉぉっ!」
絶頂の瞬間。快楽で全身が白熱して蒸発してしまうかのような感覚が未央を襲う。
「んっぁあぁぁぁあぁー!」
全身の筋肉が不随意的に収縮し、腹筋が薄く浮きあがって未央の上体はがばっと持ち上げられた。
未央は目と唇を閉じたまま首をわずかに後ろに折り、肩をすぼめ、左手で右の二の腕を抱きしめた状態で、指先まで全身硬直して痙攣していた。
しばらくそのまま彫像のように天井を仰いでいたが、やがて固く閉じられた瞳がゆっくりと開かれ、浅く短い呼吸が再開された。
鈍い視界の向こうに、自分の鏡台が見えた。
そこに映るのは衣服を脱ぎ散らかしたベッドの上に座っている未央。
うっすらと全身にかいた未央の汗が、カーテンの隙間から漏れる光をきらきらと返していた。
目は細くけだるげに開けられ、口元には我知らず恍惚とした笑みが浮かんでいる。
一瞬、自分でない誰かが鏡に映り込んでいるかと思ったが、すぐに思い返した。
――わたし、意外とかわいいじゃない。
小さく笑って、そのままどさっと仰向けに倒れ込んだ。
身体はまだ火照っている。ごろりとうつ伏せになって、大きく深呼吸をした。
心臓の鼓動も収まっていない。
まだ、足りない。
蛹1
帰りの満員電車ほど未央にとって苦痛なものはない。
陸上部が休みの日にはもう少し密度が減るが、一日も練習を欠かさない未央にとってそれは日課である。
わずかに体をよじる隙間もなくぎとついたオヤジの肌と数分間の密着を強いられるのは拷問と言って良かった。
背中まで伸ばしたストレートの髪が汗でうなじにベタつく。
キャンパスを出る前に結わえ直し忘れたのを後悔した。
未央は扉のそばに位置していた。扉の窓に向かい、明滅する街の灯りと、美人だが仏頂面、とよく言われる自分の顔が交互に映るのを眺めていた。
自分の顔は気に入らないわけではない。
切れ長の目と形の整った鼻筋は四年前に亡くなった父親譲りである。
未央には妹が一人がいるが、こちらは母親似で笑うと目がなくなる愛嬌のある顔つきだった。
もっぱら姉妹は似ていないという評判で、似ている所と言えば額が広いところぐらいか。
薄くはないがきりと結ばれた唇は意志の強さを感じさせ、未央としては顔の部分の中で一番気に入っていた。
多くの男子学生たちがこの口に一物を含まれる夢想で何度となく果てたことを未央は知らない。
幸いにして美人という風評を得ていた割には、大学生になった今でも「デビュー」していない。
それはどこかとっつきにくい印象を与えるこの顔によるところが大きいのだと未央は思い込んでいた。
窓の外が明るくなり、未央の顔もかき消された。駅に停車するのだ。この駅は人も降りるがそれ以上に乗り込んでくる、この45分間の拷問の中でも最大のヤマ場である。
電車が軋みながら止まり、扉が開く。未央は素早く降りて扉の左側へ。
列の先頭に並ぶ形となる。
ひとしきり人間が吐き出され、タイミングを見計らって再び乗り込んだ。
入り口付近で人々は軽くシャッフルされ、未央は結局元の扉の近くにいた。
しかし先ほどと違うのは、目の前にフィリピン系の女性が立っていることだ。
文字通り目の前、真正面。
普通なら満員電車独特の阿吽の呼吸により、立ち位置の角度とその視線が微妙にずらされた危うい均衡が保たれる。
しかし未央と彼女は完全に差し向かっていた。
ちょうど身長も160cmを越える程度、視線の高さも変わらない。
ソバージュがかった髪の向こうから黒目がちな瞳がこちらを見つめている。
恐らく自分よりも年上に見えたが、外国人の年齢はいまいちわかりにくい。
未央を見つめて彼女が微笑んだ。
扉が閉まるのと、視線を逸らした未央が無理やり窓側向きに体勢を変えたのは同時だった。すぐに電車が走り出す。
外の明かりで車内の様子が浮かんだり消えたりしている窓を見つめ、未央はほう、と息を吐いた。
いつから呼吸を止めていたのか気づかなかった。
と、明らかに甘い香りが鼻腔に押し入る。香水か、それにしてもどぎつく、どこか有機的な香りだった。
未央は軽く眉を寄せた。手を口元に添えたかったが身動きが取れない。やむなくまた呼吸だけを止めたところで、それは起きた。
するっ、と太腿に指が触れた。どきん、と心臓が跳ねる。
(うっ……そ)
何者かの指が太腿をゆっくりと上下に伝う。今まで痴漢に遭遇したことは何度かあるが、そのどれよりも繊細で、それだけで未央の背筋にまでぞくりと走るものがあった。
狼狽とともに、窓越しに車内に視線を巡らす。窓の中で、背後のフィリピン系の女があからさまに未央の視線に応えてにいと笑ったのが見えた。
(これって、レズ?)
つつ、と感触は登ってくる。紺色のフレアスカートの上から、柔らかな掌が未央の尻を揉みしだいた。
小さく快い波紋が尻肉に広がる。愕然と未央は窓に映った自分の背後に目をこらした。
女は恍惚とした表情を浮かべ、舌を出して自らの唇を舐める。
続いてはあと吐息をひとつ漏らすと、露骨に甘い香りの強さが増した。
薄々感づいてはいたが、やはり香りの元もこの女だ。
女のすべやかな褐色の肌が肩を露にした服の上でまぶしい。
首筋から鎖骨に流れる線が美しく、そこに金色の複雑な形をしたアクセサリが添えられていた。
大きく開いた胸元には豊かな胸がくっきりと線をつくり、その存在感を背中に感じられた。顎と頬は細めで、顔も小ぢんまりとしている。
そこに輝く大きな瞳は、多くの男を虜にして然るべき愛らしさを持っていた。
視線が合った。未央は思わず視線を逸らす。
そして再びそっと視線を女の顔に戻すと、にい、と白い歯を見せて彼女は笑った。
ち、ちいいと微かな音がした。
(それはいくらなんでもなしっ……)
スカートの左脇腹下にあったファスナーが開かれた。
信じられない、という表情で凍りついた未央をまったく無視して、容赦なく手が侵入して来た。
(やだやだ、ちょっと待っ)
相手の肘をつかもうとかろうじて後ろに回した手が、女のもう一方の手に捕らえられた。指をからめらとられる。
スカートの中に侵入した手が未央の秘所を探り当てた。
「ん」
喉の奥から声が漏れた。はっとなって未央はまた窓の反射を通して車内をうかがう。こちらを見ている者はいない。気づかれていない。
わずかな安堵とともに鋭いとももやもやともつかぬ、それらの入り混じった感覚が未央の秘所を襲う。
(うっ……これ)
未央には自慰の経験がなかった。知識として知ってはいたが、それについて級友と話し合うようなこともなかった。好奇心はなかったといえば嘘だが、たまたま実行に移すまでの興味をもつきっかけがなかったに過ぎない。
猛烈な違和感、羞恥心、罪悪感。さまざまな形の負の感情がその感覚を決して快感とはみなさない。
(や……だ)
女の指は白いパンティと薄い恥毛をかきわけて進み、ゆっくりと未央の形をなぞる。
不幸にして、生理は2週間前。
当てものがあればもう少しマシだったのに、いやそれ以前に珍しく色気を出してスカートなんてはいてこなければ。
間抜けな考えがちらちらと脳裏をよぎる。
指が埋もれた真珠を探り当てる。ぴいんと、背筋から頭のてっぺんまで刺激が走った。(嫌っ!)
反射的に身をよじって抵抗を試みる未央。その時タイミング悪くぐうんと列車が傾ぎ、人々の重みと背後の女の豊乳が窓に未央を押し付けた。
つぷり、と小陰唇を押し分け、女の指がわずかに侵入した。
(ひ)
その瞬間、突然生暖かいさらさらとした流体を感じ取る。未央はあまりの出来事に失禁したかと錯覚した。否。明らかに、女の指から何か液体が出されているのだ。
それまでの感覚から何か指に仕込んでいたようには思われなかったが、とにかく今未央の秘部に液体が触れている。
(嫌、嫌、嫌)
どんな汚いものか、どんな怪しい液体か。普段冷静な未央が、恐慌に陥る自分自身にすら気がつかない。
液体で潤わされたそこに、指が奥へ奥へと進んでいく。途端、じわあ、と熱い感覚が下腹部から広がりだした。
(う)
熱い。熾き火をそこに収めているかのように熱い。
(ああっ……)
心臓の鼓動がさらに早まっていく。意識が朦朧としていく。秘所の熱さだけに感覚が収束していく。
指が奥への侵入を止めた。処女壁に突き当たったのだ。
膣が急激に狭まっているそこを確かめるように指はくにくにとわずかに動いた。
未央のものではない謎の液体が膣から溢れ、下着を濡らし、つつと太ももを伝っていく。
己の純潔の瀬戸際に立たされているにもかかわらず、未央は危機感を持てない。
ただこの熱さと異物のはずの指に、意識は捕らえられていた。
(もしかして……気持ちいい?)
膣の入り口でまた液体の感覚を感じた。今度は体内で行われたため、さらに暖かい。
途端に一際熱さが増していく。
(ううっ)
未央は悟った。
(いい……んだ)
続く膨張感。入り口で、恐らく細めであったろう女の指が、ぐっと大きさを増したのだ。処女壁に加わる圧迫を感じ、はっとする未央。初めて、自分の操がどういうわけか危機にさらされていることに気づいた。
はっきり声に出して、嫌、と言いおうとしたその時、電車が減速する重力を感じた。電車が止まりかけていたことも気づかなかったのだ。
耳障りな空気の擦過音とともに電車の扉が開いた。
さっと股間から女の手が引き抜かれる。人間の圧力がどっと背後から押し寄せ、未央はよろよろと倒れかけた。
その肩を支えたのは女の手。
女に寄り添われながら、未央は人に押し流されるようにホームに降り立った。
そのままふらふらとホームの壁際まで連れ添われ、気がついた。
体に力が入らない。
自力では立っていることすらままならないのだ。
全身がひどい風邪にかかった時よりもだるく、重い。
「あ……」
愕然としながら女の顔を見る。女は、微笑んで言った。
「心配しないで」
自分がいつも降りる駅の一つ手前。その駅のすぐ裏手の小さな公園。
今どこにいて、自分がどうなっているのかはわかる。
しかし、体の自由は効かないしろれつもうまく回らない。
意識もはっきりしない。
何より、秘所から広がるどうしようもない火照りが、未央の冷静な思考を妨げていた。
電車内で遭遇した痴女は未央の隣に座り、そっと肩を抱いている。そちらを見るのが恐くて、呆然と未央は俯いていた。
「恐い?」
ぎくりとして未央は視線だけを女に向けた。
「だいじょうぶ。はじめだけだから」
「う、うう……」
いったい、なにが大丈夫なのだ。
抗議の声を上げたくてもうめき声にしかならない。
「よくしてあげる」
女はぐいっと未央の太股を開き、スカートをたくしあげてするりとその間に潜り込んだ。
驚く未央をよそに女の指は未央のパンティをぐいっと大きく右にずらした。
まだ誰にも、自分自身の指にさえほとんど蹂躙されていない秘所が露になった。
外気の冷たさが一瞬。次に猛烈な熱さがそこを襲った。
「ぅあ!」
反射で体がのけぞり、声があがる。女の舌が、容赦なくぺっとりと舐め上げたのだ。
ぺろり。
「っくぅ!」
ちろ、ちろちろ。
「いんっふ」
未央の体のまさしく「核」を、女の舌は捕らえていた。そこから走る激しく疾く甘い感覚が、未央の脳天まで通電して後頭部で火花を散らす。
ものの数秒で、未央は堕ちた。はっきりそれを快楽と感じ、受け入れ溺れる態勢が整ってしまった。
「いっ、いっ、いっ、いあああ~」
だらしなく口がいっぱいに開かれ、喉の奥から甘い声が引きずり出される。
ぼんやりと薄暗い公園の景色は未央の視界に入っていたが、認識されてはいない。
普段使われている脳細胞の多くが、この未知の感覚を急速に学習して伝達量を増していく。
「い、いい、いいいっいいいいっっっっ」
小刻みに上下左右を行き来する舌に、未央の秘唇はぷるぷると弾力をもって震えた。
「そこまでだッ!」
突如空気を震わす男声。
「そこまでだと言っている、ウロボロスの娘」
がば、と未央のスカートの中から女が顔を出す。その口には異様に太く長い舌がぶらさがっていた。
女の視線の先には、体格のいい短髪の男が両手に銃身の長い回転式拳銃を構えて立っていた。女の体が何か動きを見せようと微かに緊張を起こした、
どぐぉん。
その瞬間、発砲された。
女は真後ろに向かって頭から地面と平行にすっ飛んでいく。
未央も勢いで椅子から転げ落ちた。女の背中が接地し、長い跡を引いて止まった。
男は両手で硝煙のたなびく拳銃を構えたまま動かない。
女はゆっくりと上半身を起こした。
拳のように丸められた女の舌が、華麗に回転しながら伸ばされた。
そこから弾頭が回りながら落ちていき、ことんと地面で跳ねた。
男は動けない。
女の股間から伸びた細く鋭い触手が、地面に倒れた未央の首筋に触れるか触れぬかのところでぴたりと固定されている。
男は動けないのだ。
わざわざ警告の声を発してまで被害者から離したのに。あまりに超人的な反射速度に男は動揺を隠せない。
にやあ、と真っ赤な唇を歪めて女はわらった。
そして猛烈な速さで斜め後ろに跳躍した。
尋常でない高さまで、土煙と女の体がふわりと浮かぶ。
どごぅ、どごぉぅむ。
仰角に向けて二発、続けて放たれた弾丸が女のそばをかすめていく。
女は公衆便所の屋根に着地し、続けて跳んだ。
暗闇に女の姿がかき消されていった。
男は小さく舌打った。
追っても詮無きことだ。
拳銃を素早くベストの内側にしまうと、未央にかけよる。
未央は両手で顔を覆い、小さくうずくまって震えていた。
「もう大丈夫だ」
あえて男は未央に触れない。
かちかちかち、と微かに未央の歯が触れ合う音が聞こえた。
首筋に細い血の筋が今にも描かれようとしている。
恐怖。
羞恥。
混乱。
どす黒い激情の塊が未央のはらわたでとぐろを巻いて、心臓を締め上げる。
「大丈夫だ」
男は繰り返した。
「心配ない。大丈夫」
いったい、なにがダイジョウブなのだ。
未央は立ち上がると同時に駆け出した。男の手が未央の髪をかすめた。爆発的な未央の加速。400m走で50秒台前半を叩き出す引き締まった両脚が、ぐいぐいと未央をトップスピードに乗せていく。
「待てっ!」
未央は速かった。
「待ってくれっ! 俺たちは」
味方だ、と小さく男がつぶやいた頃には、未央は路地の暗がりで見えなくなった。
陸上部が休みの日にはもう少し密度が減るが、一日も練習を欠かさない未央にとってそれは日課である。
わずかに体をよじる隙間もなくぎとついたオヤジの肌と数分間の密着を強いられるのは拷問と言って良かった。
背中まで伸ばしたストレートの髪が汗でうなじにベタつく。
キャンパスを出る前に結わえ直し忘れたのを後悔した。
未央は扉のそばに位置していた。扉の窓に向かい、明滅する街の灯りと、美人だが仏頂面、とよく言われる自分の顔が交互に映るのを眺めていた。
自分の顔は気に入らないわけではない。
切れ長の目と形の整った鼻筋は四年前に亡くなった父親譲りである。
未央には妹が一人がいるが、こちらは母親似で笑うと目がなくなる愛嬌のある顔つきだった。
もっぱら姉妹は似ていないという評判で、似ている所と言えば額が広いところぐらいか。
薄くはないがきりと結ばれた唇は意志の強さを感じさせ、未央としては顔の部分の中で一番気に入っていた。
多くの男子学生たちがこの口に一物を含まれる夢想で何度となく果てたことを未央は知らない。
幸いにして美人という風評を得ていた割には、大学生になった今でも「デビュー」していない。
それはどこかとっつきにくい印象を与えるこの顔によるところが大きいのだと未央は思い込んでいた。
窓の外が明るくなり、未央の顔もかき消された。駅に停車するのだ。この駅は人も降りるがそれ以上に乗り込んでくる、この45分間の拷問の中でも最大のヤマ場である。
電車が軋みながら止まり、扉が開く。未央は素早く降りて扉の左側へ。
列の先頭に並ぶ形となる。
ひとしきり人間が吐き出され、タイミングを見計らって再び乗り込んだ。
入り口付近で人々は軽くシャッフルされ、未央は結局元の扉の近くにいた。
しかし先ほどと違うのは、目の前にフィリピン系の女性が立っていることだ。
文字通り目の前、真正面。
普通なら満員電車独特の阿吽の呼吸により、立ち位置の角度とその視線が微妙にずらされた危うい均衡が保たれる。
しかし未央と彼女は完全に差し向かっていた。
ちょうど身長も160cmを越える程度、視線の高さも変わらない。
ソバージュがかった髪の向こうから黒目がちな瞳がこちらを見つめている。
恐らく自分よりも年上に見えたが、外国人の年齢はいまいちわかりにくい。
未央を見つめて彼女が微笑んだ。
扉が閉まるのと、視線を逸らした未央が無理やり窓側向きに体勢を変えたのは同時だった。すぐに電車が走り出す。
外の明かりで車内の様子が浮かんだり消えたりしている窓を見つめ、未央はほう、と息を吐いた。
いつから呼吸を止めていたのか気づかなかった。
と、明らかに甘い香りが鼻腔に押し入る。香水か、それにしてもどぎつく、どこか有機的な香りだった。
未央は軽く眉を寄せた。手を口元に添えたかったが身動きが取れない。やむなくまた呼吸だけを止めたところで、それは起きた。
するっ、と太腿に指が触れた。どきん、と心臓が跳ねる。
(うっ……そ)
何者かの指が太腿をゆっくりと上下に伝う。今まで痴漢に遭遇したことは何度かあるが、そのどれよりも繊細で、それだけで未央の背筋にまでぞくりと走るものがあった。
狼狽とともに、窓越しに車内に視線を巡らす。窓の中で、背後のフィリピン系の女があからさまに未央の視線に応えてにいと笑ったのが見えた。
(これって、レズ?)
つつ、と感触は登ってくる。紺色のフレアスカートの上から、柔らかな掌が未央の尻を揉みしだいた。
小さく快い波紋が尻肉に広がる。愕然と未央は窓に映った自分の背後に目をこらした。
女は恍惚とした表情を浮かべ、舌を出して自らの唇を舐める。
続いてはあと吐息をひとつ漏らすと、露骨に甘い香りの強さが増した。
薄々感づいてはいたが、やはり香りの元もこの女だ。
女のすべやかな褐色の肌が肩を露にした服の上でまぶしい。
首筋から鎖骨に流れる線が美しく、そこに金色の複雑な形をしたアクセサリが添えられていた。
大きく開いた胸元には豊かな胸がくっきりと線をつくり、その存在感を背中に感じられた。顎と頬は細めで、顔も小ぢんまりとしている。
そこに輝く大きな瞳は、多くの男を虜にして然るべき愛らしさを持っていた。
視線が合った。未央は思わず視線を逸らす。
そして再びそっと視線を女の顔に戻すと、にい、と白い歯を見せて彼女は笑った。
ち、ちいいと微かな音がした。
(それはいくらなんでもなしっ……)
スカートの左脇腹下にあったファスナーが開かれた。
信じられない、という表情で凍りついた未央をまったく無視して、容赦なく手が侵入して来た。
(やだやだ、ちょっと待っ)
相手の肘をつかもうとかろうじて後ろに回した手が、女のもう一方の手に捕らえられた。指をからめらとられる。
スカートの中に侵入した手が未央の秘所を探り当てた。
「ん」
喉の奥から声が漏れた。はっとなって未央はまた窓の反射を通して車内をうかがう。こちらを見ている者はいない。気づかれていない。
わずかな安堵とともに鋭いとももやもやともつかぬ、それらの入り混じった感覚が未央の秘所を襲う。
(うっ……これ)
未央には自慰の経験がなかった。知識として知ってはいたが、それについて級友と話し合うようなこともなかった。好奇心はなかったといえば嘘だが、たまたま実行に移すまでの興味をもつきっかけがなかったに過ぎない。
猛烈な違和感、羞恥心、罪悪感。さまざまな形の負の感情がその感覚を決して快感とはみなさない。
(や……だ)
女の指は白いパンティと薄い恥毛をかきわけて進み、ゆっくりと未央の形をなぞる。
不幸にして、生理は2週間前。
当てものがあればもう少しマシだったのに、いやそれ以前に珍しく色気を出してスカートなんてはいてこなければ。
間抜けな考えがちらちらと脳裏をよぎる。
指が埋もれた真珠を探り当てる。ぴいんと、背筋から頭のてっぺんまで刺激が走った。(嫌っ!)
反射的に身をよじって抵抗を試みる未央。その時タイミング悪くぐうんと列車が傾ぎ、人々の重みと背後の女の豊乳が窓に未央を押し付けた。
つぷり、と小陰唇を押し分け、女の指がわずかに侵入した。
(ひ)
その瞬間、突然生暖かいさらさらとした流体を感じ取る。未央はあまりの出来事に失禁したかと錯覚した。否。明らかに、女の指から何か液体が出されているのだ。
それまでの感覚から何か指に仕込んでいたようには思われなかったが、とにかく今未央の秘部に液体が触れている。
(嫌、嫌、嫌)
どんな汚いものか、どんな怪しい液体か。普段冷静な未央が、恐慌に陥る自分自身にすら気がつかない。
液体で潤わされたそこに、指が奥へ奥へと進んでいく。途端、じわあ、と熱い感覚が下腹部から広がりだした。
(う)
熱い。熾き火をそこに収めているかのように熱い。
(ああっ……)
心臓の鼓動がさらに早まっていく。意識が朦朧としていく。秘所の熱さだけに感覚が収束していく。
指が奥への侵入を止めた。処女壁に突き当たったのだ。
膣が急激に狭まっているそこを確かめるように指はくにくにとわずかに動いた。
未央のものではない謎の液体が膣から溢れ、下着を濡らし、つつと太ももを伝っていく。
己の純潔の瀬戸際に立たされているにもかかわらず、未央は危機感を持てない。
ただこの熱さと異物のはずの指に、意識は捕らえられていた。
(もしかして……気持ちいい?)
膣の入り口でまた液体の感覚を感じた。今度は体内で行われたため、さらに暖かい。
途端に一際熱さが増していく。
(ううっ)
未央は悟った。
(いい……んだ)
続く膨張感。入り口で、恐らく細めであったろう女の指が、ぐっと大きさを増したのだ。処女壁に加わる圧迫を感じ、はっとする未央。初めて、自分の操がどういうわけか危機にさらされていることに気づいた。
はっきり声に出して、嫌、と言いおうとしたその時、電車が減速する重力を感じた。電車が止まりかけていたことも気づかなかったのだ。
耳障りな空気の擦過音とともに電車の扉が開いた。
さっと股間から女の手が引き抜かれる。人間の圧力がどっと背後から押し寄せ、未央はよろよろと倒れかけた。
その肩を支えたのは女の手。
女に寄り添われながら、未央は人に押し流されるようにホームに降り立った。
そのままふらふらとホームの壁際まで連れ添われ、気がついた。
体に力が入らない。
自力では立っていることすらままならないのだ。
全身がひどい風邪にかかった時よりもだるく、重い。
「あ……」
愕然としながら女の顔を見る。女は、微笑んで言った。
「心配しないで」
自分がいつも降りる駅の一つ手前。その駅のすぐ裏手の小さな公園。
今どこにいて、自分がどうなっているのかはわかる。
しかし、体の自由は効かないしろれつもうまく回らない。
意識もはっきりしない。
何より、秘所から広がるどうしようもない火照りが、未央の冷静な思考を妨げていた。
電車内で遭遇した痴女は未央の隣に座り、そっと肩を抱いている。そちらを見るのが恐くて、呆然と未央は俯いていた。
「恐い?」
ぎくりとして未央は視線だけを女に向けた。
「だいじょうぶ。はじめだけだから」
「う、うう……」
いったい、なにが大丈夫なのだ。
抗議の声を上げたくてもうめき声にしかならない。
「よくしてあげる」
女はぐいっと未央の太股を開き、スカートをたくしあげてするりとその間に潜り込んだ。
驚く未央をよそに女の指は未央のパンティをぐいっと大きく右にずらした。
まだ誰にも、自分自身の指にさえほとんど蹂躙されていない秘所が露になった。
外気の冷たさが一瞬。次に猛烈な熱さがそこを襲った。
「ぅあ!」
反射で体がのけぞり、声があがる。女の舌が、容赦なくぺっとりと舐め上げたのだ。
ぺろり。
「っくぅ!」
ちろ、ちろちろ。
「いんっふ」
未央の体のまさしく「核」を、女の舌は捕らえていた。そこから走る激しく疾く甘い感覚が、未央の脳天まで通電して後頭部で火花を散らす。
ものの数秒で、未央は堕ちた。はっきりそれを快楽と感じ、受け入れ溺れる態勢が整ってしまった。
「いっ、いっ、いっ、いあああ~」
だらしなく口がいっぱいに開かれ、喉の奥から甘い声が引きずり出される。
ぼんやりと薄暗い公園の景色は未央の視界に入っていたが、認識されてはいない。
普段使われている脳細胞の多くが、この未知の感覚を急速に学習して伝達量を増していく。
「い、いい、いいいっいいいいっっっっ」
小刻みに上下左右を行き来する舌に、未央の秘唇はぷるぷると弾力をもって震えた。
「そこまでだッ!」
突如空気を震わす男声。
「そこまでだと言っている、ウロボロスの娘」
がば、と未央のスカートの中から女が顔を出す。その口には異様に太く長い舌がぶらさがっていた。
女の視線の先には、体格のいい短髪の男が両手に銃身の長い回転式拳銃を構えて立っていた。女の体が何か動きを見せようと微かに緊張を起こした、
どぐぉん。
その瞬間、発砲された。
女は真後ろに向かって頭から地面と平行にすっ飛んでいく。
未央も勢いで椅子から転げ落ちた。女の背中が接地し、長い跡を引いて止まった。
男は両手で硝煙のたなびく拳銃を構えたまま動かない。
女はゆっくりと上半身を起こした。
拳のように丸められた女の舌が、華麗に回転しながら伸ばされた。
そこから弾頭が回りながら落ちていき、ことんと地面で跳ねた。
男は動けない。
女の股間から伸びた細く鋭い触手が、地面に倒れた未央の首筋に触れるか触れぬかのところでぴたりと固定されている。
男は動けないのだ。
わざわざ警告の声を発してまで被害者から離したのに。あまりに超人的な反射速度に男は動揺を隠せない。
にやあ、と真っ赤な唇を歪めて女はわらった。
そして猛烈な速さで斜め後ろに跳躍した。
尋常でない高さまで、土煙と女の体がふわりと浮かぶ。
どごぅ、どごぉぅむ。
仰角に向けて二発、続けて放たれた弾丸が女のそばをかすめていく。
女は公衆便所の屋根に着地し、続けて跳んだ。
暗闇に女の姿がかき消されていった。
男は小さく舌打った。
追っても詮無きことだ。
拳銃を素早くベストの内側にしまうと、未央にかけよる。
未央は両手で顔を覆い、小さくうずくまって震えていた。
「もう大丈夫だ」
あえて男は未央に触れない。
かちかちかち、と微かに未央の歯が触れ合う音が聞こえた。
首筋に細い血の筋が今にも描かれようとしている。
恐怖。
羞恥。
混乱。
どす黒い激情の塊が未央のはらわたでとぐろを巻いて、心臓を締め上げる。
「大丈夫だ」
男は繰り返した。
「心配ない。大丈夫」
いったい、なにがダイジョウブなのだ。
未央は立ち上がると同時に駆け出した。男の手が未央の髪をかすめた。爆発的な未央の加速。400m走で50秒台前半を叩き出す引き締まった両脚が、ぐいぐいと未央をトップスピードに乗せていく。
「待てっ!」
未央は速かった。
「待ってくれっ! 俺たちは」
味方だ、と小さく男がつぶやいた頃には、未央は路地の暗がりで見えなくなった。
繭5
恵美子の誘いに乗るも乗らずもない。愛理の両足を固定していた十重二十重の触手がいそいそと肉卵に向かった。
愛理はだらしなく開けた唇に微かな期待を浮かべ、その様を見下ろしている。つま先が、ぷるぷるとした肉片の野原に埋もれる。柔らかくぬめる肉とも、どろりと澱んだ液体ともつかぬ感触の先に足の感覚は融ける。融けて、人外の快感がうねりさざめく。
「くぅんわぁあぁぁっ」
両足という新たな快楽の通路が開かれた。そしてずぶずぶとくるぶしからふくらはぎへと進むに連れて、狂喜の通路が途方もなく広がっていく。既に飲み込まれた両腕と呼応して、愛理の身体を莫大な快感が暴れ狂いながら堂々と往来する。その快感もちらと愛理が求めるだけで、十分過ぎるほど増幅された。
「い、い、か、は、あっ」
太腿の中ほどまで行くと、愛理の四肢は肉卵にずっぽりと飲み込まれた形となった。首をがっくりと後ろに折り、唇を小刻みに震わせながら白目を剥いた。
とめどない至悦の猛火の中に、両腕両足を投げ出した愛理の意識はもはや「白」。存在はしているが、真っ白な閃光に隅々まで埋め尽くされていた。
その真っ白な空間に、愛理の声だけが小さく震える。
「どうして………こんなに……いいの………気持いい、広がってく………」
あたかも悦楽が愛理の意識の境界を曖昧にし、肉体の枠をはみ出て拡大していくかのような感覚。
ゆるゆると、快楽のうねりのなかから答えめいた言葉が浮かび上がる。
「いいから、いいんだ……気持いいから……気持いいの………」
やがてはっきりと知覚していく。
「気持い……いい……いいの、いいよ、ほら……いいでしょ……」
快楽から言葉を受け取り言葉が快楽を増してまた反芻して満ち干いて螺旋を描く。
「わかる……何これ……そうだよ………これ……だから……」
「融けてる……融けたいもっと……ほら融けて……」
ふと違和感を感じた。意識の中に響く声が、微妙にオクターヴがずれたコーラスのように聞こえている。
愛理の感覚の向こうに、巨大な肉塊そのものの存在が視えた。微かに膨張と収縮を繰り返す肉卵の息遣い、無数の触手の蠢き、そこから思い出したような白濁液の噴出。
知覚しようと思えばどこまでも知覚できた。
肉卵に半ば咥えられた愛理の肉体、その指先にまで充満する快楽、それを与え貪り続けるのは自分。
「気持いい……でしょ……ほら、ずっとずぅっと……続いて……」
ぱくぱくと喘ぎながら、自分で自分に言葉を投げかけるのは愛理。
「もっと……求められる……欲しいだけあげる………欲しいだけ感じたい……」
視覚がゆっくりと蘇る。すぐ目の前に、自分が見えた。
仮に幽体離脱というものがあるならこれだろう。たとえば海で溺れかけた時に自分を外から見つめたらこう見えるのだろうと思えた。ただし溺れているのはうねり狂う触手と快楽の海だ。
ぐるりと白目を剥き、口元に狂った笑みを凍りつかせ、粘液だらけの額に照明の輝きが返る。その唇がぱくぱくと動き、愛理自身の意識の中でも響いた。
「ひとつになろう」
猛烈な違和感を感じた。
ひとつ? もうなってるじゃん。気持いい。気持良くなれる。気持良くできる。
あたし、気持いい……あなたを、ほら、すごく……あたし?
唐突に気づいた。
脳裏に自分以外のものがいたことに、いや正確には自分と、恵美子と、美樹と未央が混ざり合っていたことに。
「いやぁっ!」
自分が自分でなくなる。根源的な恐怖とともに、愛理の知覚は自らの肉体に急速に収まった。拡大されていた知覚の枠がまた愛理という小さな肉の器に戻ったことで、猛烈な快楽の渦が愛理の感覚に溢れて気を失いそうになる。
「ぐぁっはぁああぁうぅわぁあああ」
「やっぱり」
触手の野原の中に咲く花のように色白な顔が、声を発した。その顔は美恵子とも美樹とも、未央ともつかなかった。
「身内じゃないと自然には来れないのかしらね……そうかも……こんなに、いいのに」
まったく無表情で、誰へともないつぶやきを口にする。
「ひぐっ、う、うぁは、あはぁあぁう」
愛理は悶え続けている。
「もっと時間をかけないと……そうね……包んでじっくり、愛してあげれば……多分、そう、わかってくれる彼女なら……」
「いひぃあん、ああっうはうわぁ」
「じゃあ……」
めりめりぶちぶち、という肉を引き裂くような音とともに、肉卵が開き出した。ぬちっ、ぬちっという音がするたびにゆっくりとそれは縦に真二つに開いていき、盛大に粘液をこぼしながら、鮮やかな肉卵の内部を披露した。
色鮮やかな珊瑚と磯巾着の水槽のようだった。ただしそれは空気中なのにゆらゆらと手招きをするようにたなびいていた。柔らかそうな不規則な襞と突起で覆われた触手が一面の野原をなし、それが生えていないところには人間の肛門にも似た大小の吸盤が見え隠れした。触手と同じ数ほどあると思われるふっくらと豊かな乳房に似た突起が、その上に白濁液の雨を断続的に降らせている。ところどころ、唇ほどの大きさの裂け目からも同じに見える液がよだれのように流れていた。
「いや、いやぁいやあうんいっくふいやぁあああ」
愛理は猛烈な快楽の嵐に襲われながら、必死に自分の肉体を認識することで守ろうとしていた。しかし肉体を知覚しようとすればするほど快楽をも認識してしまう。自分を確かめようとすれば快楽を確かにし、快楽を拒もうとすれば自分の境界線が曖昧になる恐怖に駆られる。
愛理は頭をぶんぶんと振って泣いた。
「いや! いやなのぉ! 気持いいのぉ! だめなのぉ! いやぁあぁ!」
どこからともなく声が響く。
「ねえ愛理ちゃん、おいで……もう今更逃げられないんだから……」
触手が、容赦なく愛理を肉卵の中へ運び込んでいく。
「いやいやっ、そんなの、そんなとこ、うはぁあう、いれられた、らやぁああっ、だめ、だめにぃぃいいいぃ、ぐぅううんはぅ」
ぬちゃ、と肉卵の中の触手が愛理を捕らえた。ざわざわと愛理の肉体に巻きついて埋め尽くしていく。
視界が暗くなっていく。肉卵が閉じているのだ。
「いやぁぁぁああああっぁあぁあああ」
心地よいぬめった圧迫感とともに、愛理の視界から光が消えた。
液まみれの唇にぬるりと触手が割り込んだ。その先が二つに割れ、食道と気道をそれぞれ突き進む。呼吸を妨げられ、愛理は涙を流しながら喘ぐ。
「うむぅっぐぇうっうんん」
胃の辺りがかっと熱くなる。例の液を吐き出され、一瞬気が遠くなる。胸の奥にはもっとじんわりと熱いものと痛みが襲った。
「んぐーーーーっ、んんんーーー、ぐむんんーーーー」」
そして徐々に、呼吸が苦しくなくなった。
「ん……んふ……ふぅ……」
わずかに愛理に落ち着きを与えるかのように全ての動きが緩んだあと、一斉攻撃が始まった。
乳房を強く柔らかく優しく揉みしだく触手のうちのひとつが、乳首を包んだ。その中で、極細の繊毛が乳首の先に当たる。鋭い痛みと猛烈な熱感とともに、それはためらいもなく深々と乳首に侵入していった。
「んっ! んぐぅっうううぃううううぅぅ」
暴力的な快感が乳房に充満した。触手に含み舐められていた時の感覚とはその質も量も比べ物にならない。実際にそうなのかも知れなかったが、快楽そのものといった液体が蛇口全開で流入するようだった。
「ひむぅ、ひむぅうううぅうううぅん」
愛理のふくよかな乳房にくまなく張り巡らされた乳腺の隅々まで、繊毛が行き渡って蠢いた。これだけで発狂できるほどの快楽が嫌も応もなく押し付けられる。
秘裂と肛門から深く愛理の肉体を支配していた触手が、中で猛然と液体を噴出しはじめた。縦横無尽に愛理の中で蠢くそれが、例の白濁液であろうものを吐き出しながら動き続ける。触手の動きとその放出のリズムには何の関係性もない。ただ垂れ流しながら、膣と直腸の襞を絡め擦りながら引いては曲がりまた突進する。
「うぐん! うぐぅおぉぅううん! むぁ、うわぁあああん!」
愛理のクリトリスにしゃぶりついて放さなかった細い触手も、てろてろと液をこぼす。口腔、胸、秘所と後ろ、それらの箇所で快楽が炸裂し続け、どこがどう気持ちいいのかという認識すら曖昧になっているはずなのに、そこから深く鋭い快感が尾てい骨まで突き抜けるのがわかった。
「いひぃ、いひぃのぉぉおんんあああっく、いひぃいいいいぃ」
円形の巨大な肛門に似た器官が、ちょうど愛理のお尻を包んで震える。柔らかく深い襞が白い肌に密着して小さく波打つ。背中、腋の下、臍、太もも、膝の裏、愛理の肉体のすべての場所に肉卵の中の何かが触れている。それらは派手な動きを見せず、ただ愛理をやさしく包み撫でているようだった。
「ふぅう、うううううんぅうううう」
両方の肩甲骨の辺りと踝ににまるで人間の乳房のような器官が当たっている。愛理が少しみじろぎをするたびに、ぶぴゅっと音を立てて液を流した。さらに肉卵の内側に数多あるぽってりした唇のうちのいくつかが、愛理の広げられた小陰唇にディープキスを加える。恵美子のそれと同じように熱く、やさしく、深かった。
愛理の中ではこれまでに経験したどんなものよりも激しい感覚が吹き荒れる。自我はすでに純白のまぶしい快楽に埋め尽くされていた。
(いい! いい! 気持ちいい! いい! いく! いってる! いい、気持ちいい! いい!)
「このまま」
肉卵の中ではっきりと声が通った。
「融かしちゃえば」
「たぶん」
つるりと両耳の中に触手が潜り込む。それらは激しく抽送したりはせず、ただ愛理の中の空白を埋めた。さらに別のものが鼻の穴へと滑り込み、喉から気管を埋める触手と融合した。
愛理を包む襞が愛理の体に合わせるようにむにむにと形を変えていく。手指の形をなし、腰を包み、肩に押し付け、両のふくらはぎを圧迫し、ぴったりと愛理の体に吸い付いていく。髪の毛までも一本一本、選り分けるように襞がかたどっていく。もはや愛理と肉卵の間に一片の隙間もない。
「せえので」
「いっぺんに」
「おいで」
「融けて」
「来て」
(いい! いいい! 気持ちいい! いいっ! いい、いい、いいぃ)
「ひとつになろう」
肉卵のすべての動きが加速した。加速すると共に動きは小刻みになっていく。二次曲線的に動きは小さく、速くなっていき、肉卵全体がぶぅんと振動していった。
(いいい! 何これ! いく、あたしいく! すごいの! いく!)
むくむくと愛理の中で強烈な不安感と焦燥感が高まっていく。これまでの肉体的な絶頂とは比較にならない。普段見ることのできる快楽の頂の向こうに、超えてはならない絶壁が見える。そしてそれがわざわざむこうから愛理に向かって、迫ってくる。それは死の瞬間と等しかったが、愛理にはもうわからない。
我思う故にある「我」の最期。
(あたし! あそこ! あそこにいく! すごいの! いく、いく、いくいくいくいくいいいいいい)
振動が極まる。肉卵の内部にあるあらゆる器官から、白濁液がいっぺんに噴出された。
(いいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃっっっっーーーーーーー)
内部は白濁液で満たされ、肉卵自体が膨れ上がった。ぶぴゅっ、ぶぴゅっと表面からも溢れ出た。
愛理は絶壁から投げ捨てられた。あまりに急速な浮遊感とともに、自分の境界線を失っていくのを感じた。
しかし恐怖や不安はなく、安らいでいた。愛理は開放され、希釈されていく。
「神田愛理」はいなくなっていた。
東の空がうっすらと明るくなっていた。路地に小鳥が降り立ち、またすぐに飛び立っていった。微かな光の粒子を受けて、氷上家の窓枠がぼんやりと形を得た。わずかに開いた窓の向こうに、カーテンか何か、影がゆらめいた。
自転車のリムが回転する摩擦音が朝の静寂を破る。今時新聞配達を懸命に続ける男子中学生が、神田家のポストに朝刊を2つ突っ込んだ。
わずかに眉をひそめる。
(甘い……。なんだろ?)
あらためて意識して嗅ぐと、甘ったるい匂いが不快ではない。
(そういや昨日も……)
はたと思い当たる。その視線の先には、何か影がゆらめく氷上家の窓があった。
-了-
愛理はだらしなく開けた唇に微かな期待を浮かべ、その様を見下ろしている。つま先が、ぷるぷるとした肉片の野原に埋もれる。柔らかくぬめる肉とも、どろりと澱んだ液体ともつかぬ感触の先に足の感覚は融ける。融けて、人外の快感がうねりさざめく。
「くぅんわぁあぁぁっ」
両足という新たな快楽の通路が開かれた。そしてずぶずぶとくるぶしからふくらはぎへと進むに連れて、狂喜の通路が途方もなく広がっていく。既に飲み込まれた両腕と呼応して、愛理の身体を莫大な快感が暴れ狂いながら堂々と往来する。その快感もちらと愛理が求めるだけで、十分過ぎるほど増幅された。
「い、い、か、は、あっ」
太腿の中ほどまで行くと、愛理の四肢は肉卵にずっぽりと飲み込まれた形となった。首をがっくりと後ろに折り、唇を小刻みに震わせながら白目を剥いた。
とめどない至悦の猛火の中に、両腕両足を投げ出した愛理の意識はもはや「白」。存在はしているが、真っ白な閃光に隅々まで埋め尽くされていた。
その真っ白な空間に、愛理の声だけが小さく震える。
「どうして………こんなに……いいの………気持いい、広がってく………」
あたかも悦楽が愛理の意識の境界を曖昧にし、肉体の枠をはみ出て拡大していくかのような感覚。
ゆるゆると、快楽のうねりのなかから答えめいた言葉が浮かび上がる。
「いいから、いいんだ……気持いいから……気持いいの………」
やがてはっきりと知覚していく。
「気持い……いい……いいの、いいよ、ほら……いいでしょ……」
快楽から言葉を受け取り言葉が快楽を増してまた反芻して満ち干いて螺旋を描く。
「わかる……何これ……そうだよ………これ……だから……」
「融けてる……融けたいもっと……ほら融けて……」
ふと違和感を感じた。意識の中に響く声が、微妙にオクターヴがずれたコーラスのように聞こえている。
愛理の感覚の向こうに、巨大な肉塊そのものの存在が視えた。微かに膨張と収縮を繰り返す肉卵の息遣い、無数の触手の蠢き、そこから思い出したような白濁液の噴出。
知覚しようと思えばどこまでも知覚できた。
肉卵に半ば咥えられた愛理の肉体、その指先にまで充満する快楽、それを与え貪り続けるのは自分。
「気持いい……でしょ……ほら、ずっとずぅっと……続いて……」
ぱくぱくと喘ぎながら、自分で自分に言葉を投げかけるのは愛理。
「もっと……求められる……欲しいだけあげる………欲しいだけ感じたい……」
視覚がゆっくりと蘇る。すぐ目の前に、自分が見えた。
仮に幽体離脱というものがあるならこれだろう。たとえば海で溺れかけた時に自分を外から見つめたらこう見えるのだろうと思えた。ただし溺れているのはうねり狂う触手と快楽の海だ。
ぐるりと白目を剥き、口元に狂った笑みを凍りつかせ、粘液だらけの額に照明の輝きが返る。その唇がぱくぱくと動き、愛理自身の意識の中でも響いた。
「ひとつになろう」
猛烈な違和感を感じた。
ひとつ? もうなってるじゃん。気持いい。気持良くなれる。気持良くできる。
あたし、気持いい……あなたを、ほら、すごく……あたし?
唐突に気づいた。
脳裏に自分以外のものがいたことに、いや正確には自分と、恵美子と、美樹と未央が混ざり合っていたことに。
「いやぁっ!」
自分が自分でなくなる。根源的な恐怖とともに、愛理の知覚は自らの肉体に急速に収まった。拡大されていた知覚の枠がまた愛理という小さな肉の器に戻ったことで、猛烈な快楽の渦が愛理の感覚に溢れて気を失いそうになる。
「ぐぁっはぁああぁうぅわぁあああ」
「やっぱり」
触手の野原の中に咲く花のように色白な顔が、声を発した。その顔は美恵子とも美樹とも、未央ともつかなかった。
「身内じゃないと自然には来れないのかしらね……そうかも……こんなに、いいのに」
まったく無表情で、誰へともないつぶやきを口にする。
「ひぐっ、う、うぁは、あはぁあぁう」
愛理は悶え続けている。
「もっと時間をかけないと……そうね……包んでじっくり、愛してあげれば……多分、そう、わかってくれる彼女なら……」
「いひぃあん、ああっうはうわぁ」
「じゃあ……」
めりめりぶちぶち、という肉を引き裂くような音とともに、肉卵が開き出した。ぬちっ、ぬちっという音がするたびにゆっくりとそれは縦に真二つに開いていき、盛大に粘液をこぼしながら、鮮やかな肉卵の内部を披露した。
色鮮やかな珊瑚と磯巾着の水槽のようだった。ただしそれは空気中なのにゆらゆらと手招きをするようにたなびいていた。柔らかそうな不規則な襞と突起で覆われた触手が一面の野原をなし、それが生えていないところには人間の肛門にも似た大小の吸盤が見え隠れした。触手と同じ数ほどあると思われるふっくらと豊かな乳房に似た突起が、その上に白濁液の雨を断続的に降らせている。ところどころ、唇ほどの大きさの裂け目からも同じに見える液がよだれのように流れていた。
「いや、いやぁいやあうんいっくふいやぁあああ」
愛理は猛烈な快楽の嵐に襲われながら、必死に自分の肉体を認識することで守ろうとしていた。しかし肉体を知覚しようとすればするほど快楽をも認識してしまう。自分を確かめようとすれば快楽を確かにし、快楽を拒もうとすれば自分の境界線が曖昧になる恐怖に駆られる。
愛理は頭をぶんぶんと振って泣いた。
「いや! いやなのぉ! 気持いいのぉ! だめなのぉ! いやぁあぁ!」
どこからともなく声が響く。
「ねえ愛理ちゃん、おいで……もう今更逃げられないんだから……」
触手が、容赦なく愛理を肉卵の中へ運び込んでいく。
「いやいやっ、そんなの、そんなとこ、うはぁあう、いれられた、らやぁああっ、だめ、だめにぃぃいいいぃ、ぐぅううんはぅ」
ぬちゃ、と肉卵の中の触手が愛理を捕らえた。ざわざわと愛理の肉体に巻きついて埋め尽くしていく。
視界が暗くなっていく。肉卵が閉じているのだ。
「いやぁぁぁああああっぁあぁあああ」
心地よいぬめった圧迫感とともに、愛理の視界から光が消えた。
液まみれの唇にぬるりと触手が割り込んだ。その先が二つに割れ、食道と気道をそれぞれ突き進む。呼吸を妨げられ、愛理は涙を流しながら喘ぐ。
「うむぅっぐぇうっうんん」
胃の辺りがかっと熱くなる。例の液を吐き出され、一瞬気が遠くなる。胸の奥にはもっとじんわりと熱いものと痛みが襲った。
「んぐーーーーっ、んんんーーー、ぐむんんーーーー」」
そして徐々に、呼吸が苦しくなくなった。
「ん……んふ……ふぅ……」
わずかに愛理に落ち着きを与えるかのように全ての動きが緩んだあと、一斉攻撃が始まった。
乳房を強く柔らかく優しく揉みしだく触手のうちのひとつが、乳首を包んだ。その中で、極細の繊毛が乳首の先に当たる。鋭い痛みと猛烈な熱感とともに、それはためらいもなく深々と乳首に侵入していった。
「んっ! んぐぅっうううぃううううぅぅ」
暴力的な快感が乳房に充満した。触手に含み舐められていた時の感覚とはその質も量も比べ物にならない。実際にそうなのかも知れなかったが、快楽そのものといった液体が蛇口全開で流入するようだった。
「ひむぅ、ひむぅうううぅうううぅん」
愛理のふくよかな乳房にくまなく張り巡らされた乳腺の隅々まで、繊毛が行き渡って蠢いた。これだけで発狂できるほどの快楽が嫌も応もなく押し付けられる。
秘裂と肛門から深く愛理の肉体を支配していた触手が、中で猛然と液体を噴出しはじめた。縦横無尽に愛理の中で蠢くそれが、例の白濁液であろうものを吐き出しながら動き続ける。触手の動きとその放出のリズムには何の関係性もない。ただ垂れ流しながら、膣と直腸の襞を絡め擦りながら引いては曲がりまた突進する。
「うぐん! うぐぅおぉぅううん! むぁ、うわぁあああん!」
愛理のクリトリスにしゃぶりついて放さなかった細い触手も、てろてろと液をこぼす。口腔、胸、秘所と後ろ、それらの箇所で快楽が炸裂し続け、どこがどう気持ちいいのかという認識すら曖昧になっているはずなのに、そこから深く鋭い快感が尾てい骨まで突き抜けるのがわかった。
「いひぃ、いひぃのぉぉおんんあああっく、いひぃいいいいぃ」
円形の巨大な肛門に似た器官が、ちょうど愛理のお尻を包んで震える。柔らかく深い襞が白い肌に密着して小さく波打つ。背中、腋の下、臍、太もも、膝の裏、愛理の肉体のすべての場所に肉卵の中の何かが触れている。それらは派手な動きを見せず、ただ愛理をやさしく包み撫でているようだった。
「ふぅう、うううううんぅうううう」
両方の肩甲骨の辺りと踝ににまるで人間の乳房のような器官が当たっている。愛理が少しみじろぎをするたびに、ぶぴゅっと音を立てて液を流した。さらに肉卵の内側に数多あるぽってりした唇のうちのいくつかが、愛理の広げられた小陰唇にディープキスを加える。恵美子のそれと同じように熱く、やさしく、深かった。
愛理の中ではこれまでに経験したどんなものよりも激しい感覚が吹き荒れる。自我はすでに純白のまぶしい快楽に埋め尽くされていた。
(いい! いい! 気持ちいい! いい! いく! いってる! いい、気持ちいい! いい!)
「このまま」
肉卵の中ではっきりと声が通った。
「融かしちゃえば」
「たぶん」
つるりと両耳の中に触手が潜り込む。それらは激しく抽送したりはせず、ただ愛理の中の空白を埋めた。さらに別のものが鼻の穴へと滑り込み、喉から気管を埋める触手と融合した。
愛理を包む襞が愛理の体に合わせるようにむにむにと形を変えていく。手指の形をなし、腰を包み、肩に押し付け、両のふくらはぎを圧迫し、ぴったりと愛理の体に吸い付いていく。髪の毛までも一本一本、選り分けるように襞がかたどっていく。もはや愛理と肉卵の間に一片の隙間もない。
「せえので」
「いっぺんに」
「おいで」
「融けて」
「来て」
(いい! いいい! 気持ちいい! いいっ! いい、いい、いいぃ)
「ひとつになろう」
肉卵のすべての動きが加速した。加速すると共に動きは小刻みになっていく。二次曲線的に動きは小さく、速くなっていき、肉卵全体がぶぅんと振動していった。
(いいい! 何これ! いく、あたしいく! すごいの! いく!)
むくむくと愛理の中で強烈な不安感と焦燥感が高まっていく。これまでの肉体的な絶頂とは比較にならない。普段見ることのできる快楽の頂の向こうに、超えてはならない絶壁が見える。そしてそれがわざわざむこうから愛理に向かって、迫ってくる。それは死の瞬間と等しかったが、愛理にはもうわからない。
我思う故にある「我」の最期。
(あたし! あそこ! あそこにいく! すごいの! いく、いく、いくいくいくいくいいいいいい)
振動が極まる。肉卵の内部にあるあらゆる器官から、白濁液がいっぺんに噴出された。
(いいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃっっっっーーーーーーー)
内部は白濁液で満たされ、肉卵自体が膨れ上がった。ぶぴゅっ、ぶぴゅっと表面からも溢れ出た。
愛理は絶壁から投げ捨てられた。あまりに急速な浮遊感とともに、自分の境界線を失っていくのを感じた。
しかし恐怖や不安はなく、安らいでいた。愛理は開放され、希釈されていく。
「神田愛理」はいなくなっていた。
東の空がうっすらと明るくなっていた。路地に小鳥が降り立ち、またすぐに飛び立っていった。微かな光の粒子を受けて、氷上家の窓枠がぼんやりと形を得た。わずかに開いた窓の向こうに、カーテンか何か、影がゆらめいた。
自転車のリムが回転する摩擦音が朝の静寂を破る。今時新聞配達を懸命に続ける男子中学生が、神田家のポストに朝刊を2つ突っ込んだ。
わずかに眉をひそめる。
(甘い……。なんだろ?)
あらためて意識して嗅ぐと、甘ったるい匂いが不快ではない。
(そういや昨日も……)
はたと思い当たる。その視線の先には、何か影がゆらめく氷上家の窓があった。
-了-