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(ゆうと私 後編)
970 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:26:47 ID:WA9DI9va
(1-13)
私は台所に向かうゆうに付いて行き、そして彼女の料理のお手伝いをした。とは言っても、硬化させた身体で冷蔵庫からお肉や野菜を取り出して彼女に手渡すぐらいしかできないのだが、
ゆうは私がそうするたびに「ありがとう」と声を掛けて私を撫でてくれた。
それからあっという間に料理は終わり、茶の間には綺麗に盛り付けをされた料理が並んでいた。
「はい、じゃあいただきます」
「いただきます」
それぞれのお皿にゆうがおかずを取り分けてから、ゆうの音頭に合わせて私もそう言った。
「あー、そんな無理しないで」
ゆうが苦笑いしながら私に言った。私が何をしようとしていたかと言うと、ゆうと同じようにお箸で料理をつまもうとしていたのだ。
しかし、いくら身体を硬化させてもこの2本の棒を上手く操るのはとても難しかった。
「けど、私みたいな食べ方は行儀が悪いって今日のテレビで言ってたから」
私の言葉にゆうは目を丸くして、それから少しの間を空けて楽しそうに笑った。
「あはははは、そんな番組見たんだ。勉強熱心なことだね。私なんかそんなの見てたらすぐに寝ちゃうよ」
そうは言うものの、ゆうは今日の番組でやっていたお箸の持ち方はしっかりと出来ている。流石、ゆう。
「けど、気にしなくてもいいよ。かおるはかおるなりの食べ方で食べていいよ」
「でも……」
私が反論しようとすると、ゆうはさっと私の前に掌をかざしそれを制した。
「じゃあ、こうしようか」
そう言ってゆうは、私のお皿の料理をお箸でつまむと、なんとそれを私の身体の上に優しく置いてくれたのだ。……優しすぎるよ、ゆう。
「ありがとう、ゆう」
「いえいえ、どうぞ」
そう言って私にそれを食べるように彼女は言った。私は身体の中心に料理を入り込ませると、それを溶解させて味わった。
「美味しい!」
言うまでもなかったが、言わずにはいれなかった。ゆうが作ってくれた野菜炒めは、お手製のソースが牛の肉にも野菜にもうまく絡んでいて、とても美味しかった。
「へっへ~ん。ありがと」
少し恥ずかしそうにはにかんで彼女は自分でもそれを口にし、そして満足そうに笑った。
971 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:29:28 ID:WA9DI9va
「んっん~、おはよー」
「おはよう、ゆう」
窓から差し込む朝日でゆうが目を覚ました。その胸に抱きしめられたままの私も挨拶を返した。
ゆうは目覚まし時計もないのにきっちりと起きる。この数日間彼女を見ていると……こう言ってはなんだが、意外としっかりとした人間であるように感じる。
「さぁさぁ、朝のお通じ~」
そう言ってゆうは私をテーブルに置くと、トイレに消えていった。程なくしてトイレからこんな声が聞こえた。
「あぁ、紙がない!?」
私はいそいそと冷蔵庫の中身を覗いた。よかった、間違えてここに入れたわけではないらしい。
「こらぁ~! いくらなんでもそんなところに入れないってば!」
冷蔵庫を開ける音でゆうも私がどこを確認したのか気付いたのだろう。トイレの中から反論する声が聞こえた。
そこで私はあることを思い出して家の窓に近づいて下を覗いた。すると、彼女の自転車のカゴにおそらくゆうが探しているものであろうそれがあった。
……しっかりしてる……しっかり、してる……しっかり、して……。
「じゃあ気をつけて人捜ししてきてね。明日は土曜日で休みだから一緒に探してあげるからね」
「うん、ありがとう。ゆうも気をつけてね」
「りょーかいしました! 行ってきま~す!」
そしてゆうは元気よく家の外へと飛び出して行った。
「行ってらっしゃ~い」
……見事に家の鍵を閉め忘れていった。
私はそれを閉めようとしたが、ゆうが家の鍵さえも忘れてしまっている可能性を考えやっぱり鍵は閉めないままにしておくことにした。
部屋を見渡した。綺麗に整頓されたゆうの大切なぬいぐるみの数々。一緒に食事をした茶の間のテーブル。そして一緒に寝たベッド。
決して広いとは言えない部屋にそうしたものが詰まっている。しかし掃除はしっかりと欠かさずしている綺麗な部屋。
私は今日の夜、ここを立つ予定だ。
明日までに寄生できればいいのだが、明日はゆうの仕事の休みの日と言うこともあって、彼女と私が一日をずっと一緒に過ごさなければならなくなる可能性もあったから、
今日の夜にお別れを言うことに決めたのだ。
それまで私はどう過ごそうか考えていたが、この6日目を迎えたこの身体で動き回れるのは今日で最後になるということで、もう一度だけ街を見て回ることにした。
別に人間の身体に寄生するようになれば嫌というほどこの街で過ごすことになるのだろうが、それでもやはりそれからでは見えなくなってしまうようなものがあるような気がして、私はそう決めた。
最後にガスなどの元栓が締まっているかどうかだけ確認すると、私はこの身体での最後の見聞を始めるため、ドアの隙間から街へと繰り出した。
972 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:38:08 ID:WA9DI9va
(1-15)
さて、その見聞はさしていつもと変わらないものだった。特別何か新しい発見をしたわけでもなければ、当然ながらゆう以上の素晴らしい人間もいなかった。そんな人間が存在しているとも思えないが。
それでもこの身体で最後になるということだけで、随分と見えるものが違った。空の色も、太陽の照りつけも、風が通り抜ける音も、
寄生したらきっと違うものに見えたり聞こえたり感じたりするんだろうな、と思うと嬉しくもあり哀しくもあった。
しかし、全ての人間に寄生し終わってしまったらどうするのだろうか? それから2週間経ってしまえばその最後に寄生した宿主の身体は腐り始め、そのままだと私も新しい宿主を見つけられずに一緒に腐ってしまうはずだが……。
まぁ、細かいこと考えても仕方ないか。それより、これからドンドンと産まれる事になる卵について考えるべきことがある。それはまずその私の子供たちの寄生対象だ。それに対して一つの制約を子供達に私は出す決意をしていた。
私の子供達はこれから宿主になった後からその宿主から私が抜け出した後もずっと、昼間はそれまでと同じように社会に溶け込ませ、夜になったら卵を産んでもらうことになっている。これは一応、生殖能力が高いことが望ましい。つまり若い人間だ。
あまりに年老いた人間だと、身体に私たちの種がなじむ前に腐敗が始まる可能性が高く、卵の数もあまり望めない。だから年齢が高めの個体は基本的にチャンスだと「食べる」ことにする。
これは私が制約を出す以前の問題で、基本的に種の本能としてそう命じられている。
そうでなければ、雄でも雌でも卵を産むことは可能だ。
しかし、私はゆうが嫌いな雄にそんなことをさせるつもりはない。なぜなら、卵を産むときにはその産む個体がそれを拒まないようにかなり快感が伴うようにされているからだ。そんな素敵なものをゆうが嫌いな雄に味あわせるつもりはない。
だからこうすることにした。子供達がチャンスだと思ったときがあれば、人間の雄を「食べなさい」ということに。年老いた個体と同じようにね。
私はつまり、人間の雄の絶滅を図ることにしたのだ。
しかしそれでも雌の人間も生殖相手が居なくなってしまって絶滅することになるのではないか? そうも考えたが、その不安を抹消する方法も考えた。おそらくその方法なら雌の人間が子を宿すことも可能だろう。もちろん人間の子供を、雌だけで、だ。
うん、これならうまくいくでしょ。我ながらグッドなアイディアだ。
さてと、後はゆうとお別れにどういう言葉を言うか考えようと思ったんだけど……。
「ゆう、遅いなぁ」
私は壁に掛かっている時計を見た。長針が12を指し、短針が5を指している。外を見てももう辺りは真っ赤に染まっている。昨日なら一緒にご飯を作り始めている時間だ。これからお別れの言葉を考えるなら、
ゆうがまだ帰ってこないのは好都合なのだが、ゆうに何かがあったのではないかと不安がよぎる。
その時、玄関の近くの電話機が電子音を鳴らし始めた。私はすぐにそれに近寄るものの、果たしてこれに出ていいものなのかどうか迷った。一応、人間が使っている様子を何度が見たことはあるから使えるとは思うのだが。
そう迷っていると、電子音が鳴り止み機械的な女性の声がこう話し始めた。
「ただいま留守にしております。ご用件がある方は、ピーッという発信音の後にメッセージをお願いします」
そしてピーッ、という発信音が鳴った。
「あ、私。ゆうです。かおる、まだ帰ってないかな?」
そこから聞こえてきたゆうの声に私はすぐに見よう見真似で受話器を持ち上げ、身体に近づけてこう言った。
「こちらかおる、こちらかおる、聞こえますか?」
「あはははは! またテレビで覚えたのかな?」
ゆうが楽しそうに笑った。まさに彼女の言うとおり、今日帰ってきてから見ていたテレビでなにやら緑色のヘルメットを被った人間の雄がそう喋っていたのを見たため、
あまり人間の雄が喋っていたことを真似したくなかったが、それ以外の言葉が思いつかずそう言ってしまった。
「そういう時はね、もしもし、って言えばいいんだよ」
そうだ。そう言えばこれを使う人間は皆そう言っていた。あまりに焦ってしまってそんなことさえ忘れてしまっていた。
973 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:40:37 ID:WA9DI9va
(1-16)
「でね、ちょっと今日オーナーがちょっとだけ仕事を手伝って欲しいって言うからちょっと遅くなるね。あ、男の人に会わなきゃいけない仕事じゃないから安心してね。ちょっと会計の整理を手伝って欲しいんだって」
「あっ、そうなんだ。大変そうだけど、大丈夫?」
「うん。ゴメンね。オーナーが私にそんな頼みごとをするなんて本当に珍しいから、できるだけ力になりたいんだ。本当にごめん。終わったらすぐに帰るからね」
「そんな、私のことは心配しなくていいから。とにかく気をつけてね?」
「ふふ、ありがとう。お腹すいたら、冷蔵庫の中に果物とかあるからそれ食べていいからね?」
「りょーかいしました!」
私は朝のゆうの調子をまねてそう言った。電話口からまた笑い声が聞こえる。
「じゃあね、かおる。また後で!」
「うん、頑張ってね!」
私がそう言うと電話機の画面に「通話終了」という文字が浮かび上がり、私は受話器を元の場所に戻した。そういえば忙しそうにしてたもんね、あのオーナーさん。
さて、じゃあ私は別れの挨拶をゆっくりと考えることにしますか。なにせあの優しいゆうに伝える感謝の気持ちを全て言葉にしていれば、何時間あっても足りないだろうから。
ゆうも疲れて帰ってくるだろうから、できるだけ短くそして納得のいく言葉が思いつくように、私は頭を働かせ始めた。
……それを考え始めてから、もう5時間が経とうとしている。いまだ鍵が掛かっていないドアをゆうが開けて帰ってくる様子はない。
あの電話から3時間ほど過ぎたあたりから私は不安になり始めたのだが、そのたびに大丈夫だろうと、ゆうとあのオーナーを信じて待っていた。
しかしそれにしてももう遅すぎるのでないのだろうか? 時計を見れば既に10時を回っている。私にはよく会計の整理と言う仕事が分からないが、
ゆうにとって5時間と言うのが「ちょっとだけ」という言葉の範囲に入るのだろうか。
いや、その可能性はあるかもしれない。だってあのゆうのことだから、オーナーに気を使ってそう言ったのかもしれないし、ただ単に彼女にとっては5時間はあっという間の時間なのかもしれない。
でも……でも、とてつもない不安が私を襲っている。まるでこの夜の暗闇がゆうのことを包み込み、二度と私の元にあの太陽のような笑顔を見せてくれないのではないかという不安が。
私はたまらず窓を開けて、外を見た。道の街灯と付近の家からのわずかな明かりだけが暗闇を照らしているが、そのどこにもゆうの姿は無い。
その時だった。玄関を荒々しく開ける音が私の身体を揺らした。どうやらすれ違いだったらしい。
とにかく私は玄関へと急いだ。そこには、肩で息をしながら俯くゆうがいた。
「ゆう!」
私は靴箱の上に移動して、それを出迎えた。しかし、明らかに様子がおかしいことにすぐに気付いた。
ふと彼女が背にしているドアを見ると、鍵もドアのチェーンもしっかりと閉まっているのが見えた。帰ってきてすぐに閉めたのだろう。
しかしそんな動作が出来たのに、なぜ彼女は靴も脱がず、そして私に声を掛けてもくれないのだろう。
そう思っていた矢先だった。
974 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:42:13 ID:WA9DI9va
(1-17)
「あああああああああああああああああああ!」
まるで獣のような咆哮でゆうは私の位置と逆にあった電話機を、その電話台ごと蹴り飛ばした。
そして靴のまま部屋に上がり込むと、テーブルを蹴り飛ばして、持っていたバックも私が開けたままの窓から外に投げ飛ばした。ピンクの可愛いお財布、可愛い絵柄のハンカチ、点滅する小さなぬいぐるみが付いた携帯電話機が下へと落ちていった。
「うわああああああああああああ! ああああああああああああああ!」
その様子に、私は彼女に近づきながらもただの一言も声を発することが出来なかった。ただその部屋が崩壊していく様子をまるでテレビの映像を見ているかのように、ただただ、それを見ていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ」
とても先ほどの同じ部屋とは思えなくなってしまったときに、彼女はへたりと床に座り込んだ。
箪笥の上で硬直していた私もそれでやっとこれが現実であることを理解した。ふと隣を見ればこの箪笥に乗っていたぬいぐるみなどは、まるで何もなかったかのように少しも被害を受けていなかった。
私はそこから降りると、ゆっくりと彼女の背後から近づき始めた。その肩は帰ってきてから今もまだ震え続けている。
そして私は彼女の目の前に回りこむと、ゆっくりと俯いている彼女の視線に入るように彼女のスカートに昇って、その顔を見上げた。
その時、暗闇が包んだその顔から私に向かって雫が落ちた。身体の中に入り込んだそれを、無意識のうちに私は溶解して身体に取り込んだ。
味は、いつかゆうに食べさせてもらった塩という調味料に似ていた。そして温かい温度だった。
ただ、温かいはずなのにそれはとても冷たかった。矛盾しているのに、どう考え直してもそれは温かく冷たいものだった。
「ううっ……うっ……うわあああああ!」
彼女はまた咆哮した。しかしそれは怒りの咆哮ではなく、悲しみの咆哮だった。私を胸に抱えてそのまま彼女は大声で泣き出したのだ。私が触れている胸から感じるのは、いつものような温かさ。
しかし、そのもっと奥の方から、先ほどの涙のような冷たさを私は確かに感じた。
975 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:43:23 ID:WA9DI9va
(1-18)
「ゆう……」
それから暫くして私は落ち着いてきたゆうに、そっと声を掛けた。
「……だめ。もう、だめ」
ゆうがこぼすように言葉を発し、その真っ赤な目で私を見た。
「私、もうだめだよ……。何も、何もかも、もうやだよ……」
そして再び目を閉じると、また小さな雫がいくつか落ちた。
「一体……何があったの?」
私は思わず聞いてしまった。しかし、ゆうは暫く目を閉じたまま、苦しそうに唇を噛んでいるだけで何も話してくれなかった。
しかし、やがてゆっくりと唇から歯を引き離すと、私に語り始めた。
「私は本当はお客さんが使う個室に行った。……手伝いに集中するために。オーナーがいつも居る場所、従業員の人が控え室で使うから。……オーナーは誰も来ないようにするから安心してね、って言ってた。
それからは、書類見ながら数字を足したり引いたりしてたの。そしたら……ううっ」
そこでまたゆうは唇を噛み締めた。
「ゆう、もういいから。お願いだから、それ以上思い出さないで」
私はそれを見てたまらずそう言った。自分で聞き出したのに何と言う勝手なことを、と思ったが、それ以上にもうゆうに悲しい思い出を掘り返させたくなかった。なんて酷なことを彼女に聞いてしまったのだろう。
しかしゆうは首を小さく振ると、話を続け始めてしまった。まるで怯えを抑えるように私を一層強く抱きしめて。
「酔っ払った男の人が来て、私を見て『オーナーの言う通りだ』って言って……私を……押し倒して……。私はその人の事、何とか蹴り飛ばして……後はもうひたすらに走って、走って……」
そう言うと彼女は私を抱きしめる力を少しだけ弱めた。
「ごめんなさい。ごめんなさい、ゆい」
「……なんでかおるが謝るの?」
ゆうは力なく笑って私を見て、そして顔を上げると天井の明かりを見ながら呟いた。
「私、みんな嫌い。だいっきらい。男も女もみんな、みんなだいだいだいっ嫌い。もう……死にたいよ」
……なんで……なんでよ。なんでゆうばっかりこんな目に……。酷いよ。やめてよ。もうお願いだから傷つけないであげてよ!
……いや、もう無理だよ。だってゆうが無理だって言ってるんだもん。それなのにこれ以上頑張れなんて彼女に言えるわけがないよ。
「……もう私には君だけしかいないよ。ねぇ、お願い。かおるだけは私と一緒に居て。私を好きになって。私を……愛して」
私はそれを聞いて、とても嬉しかった。私が彼女に愛されていることが分かったから。
「うん」
だから私は、彼女と一緒になることにした。
976 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:44:48 ID:WA9DI9va
(1-19)
「本当に、後悔しない?」
私は目の前の「穴」を前にして、改めてゆうに聞いた。
「もちろん。君と一緒になれるんだから」
ゆうは私に優しく微笑みかけ、私が入りやすいように、自らの両手でその穴を開いてくれた。綺麗なゆうの中に私はすぐにでも飛び込みたくなった。
しかし、それでもやはり不安に思ってしまう。彼女に私が寄生体であることだけを話し、最初に人間に寄生できるという事を教えるいなや、それから先の話も聞かずにすぐに「じゃあ一緒になろう」と言い出したからだ。
「ねぇ、話だけでも最後まで」
「もぉ~、心配性だなぁ。……ふふっ、ほらほら」
不敵に笑ったゆうが、私を持ち上げるとなんと自ら自分の穴に私を静かに押し付け始めた。
「んっ、気持ちいい。気持ちいいよぉ、かおる」
「ゆ、ゆう……」
私はゆうが光悦とした表情でよがる姿を見て、段々と今すぐにゆうと一緒になりたいという気持ちが湧き上がってきてしまった。ゆうは私を無理矢理自らの穴に入れ込もうとせず、私自身が自ら入るのを待っててくれている。
「じゃ、じゃあ……入るよ?」
「んんっ、あっ、い、いいよぉ」
私はそんなゆうを見ていてついに我慢の限界に達し、ゆっくりと彼女の中へと入っていった。
「ふぁあああ! はぁ……んっ、気持ちいいよぉ」
私が少し入っただけで、ゆうは甘い声を上げた。ゆうの中は暗闇に包まれているが、その中はゆうの優しい温かさで包まれていて、私自身もすごく心地よい……そう、つまり気持ちよかった。
「ゆうが……絡みついて、くるぅう」
私もゆうの中の感触に思わずそんな声を上げてしまう。
「くぅうんん……ああっ!」
ゆっくりとゆうの身体を味わいながら、私の身体の半分ほどが彼女の中に入りきろうとしたとき、ゆうが甘く吼えた。
「だ、大丈夫? ゆう」
「んんっ、ごめん。ちょっとそこが、その気持ちよかったから……」
ゆうが恥ずかしげに私にそう告げた。少しだけ赤く染まった頬が何とも可愛らしい。
それを見て私は少しだけ悪戯することにした。
977 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:45:54 ID:WA9DI9va
(1-20)
「えっ?! んあっ、っくふぅう! ちょ、ちょっと!?」
「んはぁああ。ねぇ、どう?」
私はそのゆうが気持ちよくなれる場所を素早く何度も行き来して刺激をした。とたんに、ゆうが身体を仰け反らせて身悶え始めた。
「やあぁん、す、すごぃい、すごいよかおるぅううう!」
「んんっ?! ゆ、ゆう!?」
突然、ゆうが液体を放ち、私の身体にそれが入り込んだ。その液体がゆうの体液であることに私は気付くと、すぐに溶解を始めた。
「美味しい……美味しいよぉ、ゆう」
「だ、だめっ、恥ずかしい! んんっ、恥ずかしい……けど、気持ちいい」
ゆうの顔はもう真っ赤で、肩で息をし始めている。
「ねぇ、もういいでしょ? そろそろ、来て?」
ゆうが優しく、そして妖しい微笑みで私を誘った。私はその微笑みに吸い込まれるように、ゆうへの浸入を再開した。
「かおるぅ、そう、そのまま来てぇ。どんどん、あっ、私の中に来てぇええ!」
吸い込まれるように私はゆうの中へと進んでいく。私の視界にもう、ゆうの顔は見えなくなっていた。
「くぅん、ゆう、もう少しだよ。もう少しで、一緒になれる、一緒になれるぅう、あぁああ!」
「ふぁああああん! かおるぅううううううう!」
ゆうが最後に甘美なる鳴き声を上げて、首をもたげた。それは私の身体が完全にゆうの中に入り、もう身体に根付き始めている結果だった。
「ゆう……ゆう……一緒だよ……一緒……」
私の意識も少しずつ途切れ始めてきた。おそらく始めての寄生の為に、身体が変化しているからだろう。
私の身体が宙に浮いているような感覚に包まれる。
薄れ行く意識の中で私が感じ続けていたのは、やはりこんな感覚だった。
「ゆう……気持ちいい……よぉ……」
978 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:47:32 ID:WA9DI9va
(1-21)
「んっ……んっんー」
私は自分の声としては聞きなれない声を上げた。身体が少し重い。意識もまだぼやけたままだ。
それから数分掛けて身体の各部の動きを確かめながら、なんとか身体を起こすことが出来た。
そしてまず自分の手を私の視界の範囲に移動させ、それが私を優しく突いてくれた白くて綺麗な指であることを確認した。
次に頭を動かして私を何度も抱きしめてくれたあの柔らかい胸を視界に入れる。そこには確かに二つの山があった。
私はその上に手を当てて、私が以前のように胸の上から感じていたのと同じ鼓動なのかを確かめた。確かめるまでもなかったが、やはりそれは私を愛してくれたゆうの鼓動で間違いなかった。
そして今は、手を当てなくてもそれを自らの身体の中から感じることが出来る。
そして私はゆっくりと立ちあがり、傾いた鏡の前に立った。そこに居たのは……私が愛して止まない「ゆう」の姿そのものだ。私は、一緒になれたのだ。愛しのゆうと。
思わず身体を抱きしめて、そして顔が自然と笑顔になってしまう。それも当然、私が大好きなゆうの笑顔である。それがまた嬉しくて私はもっと笑う。
しかし、そのとき頭が重くなり、そして多くの映像がテレビのように私の目の前を電光石火で駆け抜けていった。
私は思わず壁に左手を当てて、倒れそうになった身体を支える。右手で自分の右目の視界を少し遮るようにして今の映像と記憶を思い出してみた。
そこには鮮明にゆうの思い出があった。裏切られた友達の顔、いや荒瀬昇の顔。ゆうをレイプした中年の親父の顔が狂気の笑いを浮かべている。優しくしてくれたオーナーとの多くの思い出と私との出会いの記憶。そして……昨日の裏切りの映像も。
私は鏡をちらりと見た。そこに映る私の瞳は、いつかのゆうが輝きを失った目そのものだった。今ならゆうの気持ちが痛いほど分かる。
ゆうが私を愛していたことが真実だといま分かったのと同じように、ゆうが裏切られて本当に悲しかったこともまた本当に理解したからだ。今の私以上にゆうの怒りを分かる人物など居ないだろう。
何故なら私とゆうは一緒になれたのだから。彼女の喜びも、彼女の痛みも、彼女の悲しみも、彼女の……怒りも全て私のものでもあるのだ。
私は右手を思い切り握ると、鏡に向かってストレートパンチを繰り出した。鏡の砕ける音と共に私の拳に痛みが伝わってきた。ゆうも同じように汚されても汚されてもそのたびに綺麗にしてきたガラスのハートを、そのたびに誰かに割られてきたのだ。
しかし、彼女の受けた痛みはこの拳の痛みの何十倍以上のものだ。
「ごめんね、ゆう」
私はゆうに拳を傷つけてしまったことを謝り、手の甲を伝う血を吸って、傷を舐めてすぐに治癒を完了させた。そこにはしっかりと綺麗なゆうの右手が何事もなかったかのように存在している。
私は時計を見た。ゆうとの甘い時間を過ごしてから、私が意識を失っていたのは7時間ほどらしい。開け放たれた窓から外を見ると夜の暗闇が太陽の光によって切り裂かれ始めている。
私はひび割れた鏡に映るゆうに笑いながらこう言った。
「行こっか、ゆう」
私はいつものように笑ったはずなのに、鏡の向こうの私が随分恐ろしく笑っているように見えたのは、おそらく鏡が割れてしまったからなのだろう。
979 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:51:06 ID:WA9DI9va
(1-22)
私は唯一の無傷の生還者である箪笥君から代わりのお気に入りである服を引っ張り出して、すぐに着替えると随分と変わってしまった部屋を後にした。帰ってきたら掃除しよう。
部屋の鍵をしっかりと閉めて、街に繰り出した私が向かうのはもちろんあのお店。オーナーは居るかなぁ?
自転車をここにそのまま置いて帰ってしまったため、いつもより時間が掛かってしまったが、私が店の近くに来たときにちょうど従業員の子が一人、店から出てくるところだった。
私はわざと彼女に見つかるようにして、店へと近づいた。すると予想通り彼女が私を見て驚いたように目を見開くと、こちらに駆け寄って来てこう言った。
「ねぇ、あなた確か昼間ここで清掃してくれてる人だよね?! 何かオーナーが昨日大騒ぎしてたわよ、あなたを捜してって」
「そうなんですか。それで、オーナーはまだ店の中に居ます?」
「あ、うん。まだ居るよ。ほら、今日と明日は月に二回のお休みだから私が最後にお店を閉めることになってたんだけど、なんかまだオーナーは仕事があるらしいから残るって」
「あ、良かったぁ」
私は安心した素振りを見せてその女の子に笑いかけた。彼女はそれからあわせるように笑いかけてくる。確か彼女はこの店に入ったばかりの新人だが、20歳になりたての女の子らしい。
一応、オーナーの方針でお酒が飲めて、親に迷惑を掛けずに済む歳になってからということで、ここで働く従業員は20歳が最低雇用条件だといっていた。
昨日までは従業員のことを考えた決まりのように思えたが、今となってはそれもおそらく警察に検挙されないために仕方なくそうしたのだろう。
しかし私の場合は違う。昼間のお仕事と言うことで私を雇い、そして最初からこうして私をだましてお金をもうけるための算段をしておいたからあんな昼間の仕事でも多くのお金をくれていたのだ。
「あの、ちょっといいですか?」
私はその新人の女の子を路地の方へと誘った。彼女は首を傾げて私を見ながらも頷いて着いて来てくれた。
「どうかしたの? オーナーに会いづらいのなら私が伝言だけでもしてあげるけど」
路地の中ほどまで進んだ辺りで私が立ち止まると、彼女が私の背中に向けてそう声を掛けた。そんな面倒な手間は必要ないですよ。
「いいえ、大丈夫です。あ、服にゴミが付いてますよ」
私は振り返って彼女にそう告げると、少しずつ彼女との距離を縮めた。彼女は驚いたように、服を確認し始める。
そしてそのまま私がすぐ目の前まで来たところで、やっとこちらに顔を戻した。
私は彼女に笑いかけて、そしてその唇に自らの唇を押し当てた。と、同時に身体に腕を回して彼女の動きを封じる。ゆうより年下なのに華奢な身体つきなのは、やはり生き方の辛さが違うからだろうか?
というより彼女の胸はゆうのものより貧相で、身体に密着している分余計にそう感じてしまうのだろう。
「んんんっ!? んんっ! んんんんっ!」
彼女が必死に私から離れようとするが、逃がしてあげるつもりはない。私は彼女をあやすように笑うと、ゆっくりと浸入を始めた。
「んんっ?! んんんんんっ!」
彼女の口の中に浸入した寄生体の私を彼女は拒もうと必死になっている。そんな必死になっちゃってもだ~め。
980 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:53:39 ID:WA9DI9va
(1-23)
「んぐっ!? んんんんんんんっ!」
私はそんな彼女の抵抗をあっさりと通過すると、彼女の口から本格的に体内へと浸入を始めた。曲がりくねった彼女の中をどんどん私が支配していく。
「ん……んんっ……んぁっ」
そして段々と彼女の顔が光悦としたものになっていき、しまいには私を自ら体内に招きいれようと私を美味しそうに飲み始めている。
私はそれを見て彼女の身体を拘束する目的のものから、抱きしめることが目的のものへと変化させて、ひたすらに私を飲んでいるその頭を優しく撫でた。
いつかゆうが私にそうしてくれたように。すると彼女も私を抱きしめてくれた。
そして彼女の身体に私の寄生体が十分に浸透したところで、私は彼女を「食べはじめた」。
「んんっ? ……んんっ……んっ」
彼女は溶解が始まった自分の身体に少し驚いたようだったが、それもすぐに消え失せたようで私の舌に自分の舌を絡めたり、唾液を美味しそうに飲んだりしていた。
細胞をいじることによる変化なので、痛みを伴うことはない。それと同時になるべく快楽を感じるように神経に信号を送ったりしている。
そして彼女の身体が段々と私の寄生体と同じように緑色の身体に変化していく。顔は私に絡めていた舌も、だらだらと解け始めてきた。
私はそれを見計らって、彼女の身体を今の宿主であるゆうの身体に口から取り込み始めた。吸い込まなくても口から勝手に浸入してくるそれを私は気持ちよく迎え入れていた。
やがて私を抱きしめていた腕の部分の感触もなくなり、履き手がいなくなった黒いニーソックスがへたりとハイヒール居の上に落ちた。
そして最後に白と黒のワンピースがその上に落ちた。
「んぁ。……あはははは、美味しかったよ。ごちそう様」
私は唇を人差し指で拭うと、そこに付いた彼女の身体のわずかな残り部分と彼女の唾液を、ぺろりと舐めて彼女を一滴残らず「食べ終えた」。
「すいませんオーナー、忘れ物しちゃいました!」
私は頭を掻きながら店の中へと入った。カウンター席に座っていたオーナーはケータイをいじりながら忙しそうな顔をしていたが、
私がそう言うと少しだけ笑って、ウィスキーが入ったグラスを傾けた。カランとグラスの中の氷が音を立てる。
私は頭を下げながらその後ろを通り、控え室に入って目的のものを捜した。
うん、こんなものでいいでしょ。
私はそれを見つけると、片手に持ち上げて身体の後ろに隠すように持って控え室を出た。
981 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:55:19 ID:WA9DI9va
(1-24)
「忘れ物はちゃんとあった?」
「あ、はい。ありました」
私は空いている手を頭に当てて、そのまま頭を軽く何度か下げた。オーナーは少しだけ安心したように笑って、再びケータイをいじりはじめた。
それを見た私はゆっくりとオーナーに近づく。彼女には私がその先のドアに近づいているように思えるだろうが、そこを私が再びくぐるのは少しだけ先になるかな。
オーナーはそのまま私に気付かないままケータイをいじくり回し、私はもうその身体の横までやって来た。見ようとすればケータイの文字すらも見えそうだが、それはまだ先だ。先に、やることがある。
そして私はオーナーの背後でピタリと足を止め、彼女の方へと向き直って顔だけ元に戻った。
私が持っていたものを振り上げ始めたそのとき、オーナーがこちらを振り向きながらこんな間抜けなことを言っていた。
「あれ……その服って、ゆうちゃんがよく着てたやつじゃ」
言い終える前に高そうな赤ワインのビンが彼女の頭を直撃し、破片が赤い雫を反射させながら四散していく。
彼女は体勢を崩して椅子から転げ落ちながら悲鳴を上げた。カウンターのへりの向こうへと携帯電話機が消えていく。後でしっかりと回収しよっと。
「くあああああああっ! ちょ……っと、ううっ、どう……したの……?」
頭を抑えながらゆっくりとした動作で彼女は私を見た。先ほどとは顔が違う私を、視界に捉えた瞬間、彼女の目がどんどん大きく開かれていく。
「ゆ、ゆう……ちゃん?! なんで……? さっきまで……そこには……」
私はにっこりと笑うと、今度は身体を元に戻して、顔をさっきの新人、つまり源氏名で「あやか」ちゃんと呼ばれる子のものに変化させた。余裕があったシャツの服の部分が、大きくなった胸に押されてに苦しそうに膨らんでいく。
「なん……なの? いえ……今は……そんなことより」
オーナーは頭を振るうとゆっくりと身体を動かして頭を地面にピタリとつけた。そう、それはいわゆる土下座という体勢だ。さてさて、一体どんなつもりでしょうか。
いや、分かってる。そうやって命乞いをするんでしょ。昼間のドラマでそういうのよくやってますよねー、そういうの。
私は肩をすくめながら顔を元に戻して、ゆうの身体と顔でその腹を蹴り飛ばした。
「ぐぅう! うげぇ、げぇ……ごめ……んなさい、ごめんなさい」
蛙のようにひっくり返ったのに先ほどの土下座体勢をしようとしているのか、身体を起き上がらせようとしながら今度は言葉までつけてきた。なんていう外道なんだろう。
あそこまでゆうを傷つけておいて、あなたはまだ謝れば自分を殺さずにいてくれると思っているんだ。
私はその強欲さに呆れながらもあまりに見苦しいので、手っ取り早く終わらせようと、手の指紋をあやかのものに変えてから彼女が転がった椅子を持ち上げて、オーナーの胸の少し上辺りを片足で踏みつけて動けないようにした。
「ごめん……なさい。ごめ……んなさい」
その間も彼女は私に向かって謝り続ける。目には涙まで浮かべて、まったく持ってあなたは演技派なお方だ。その特技で私もゆうも騙したんですね。
私はもうため息を吐くほどあきれ返り、そして一思いに持っていた椅子をオーナーの頭に向かって振り下ろした。彼女は目を見開く間も、悲鳴を上げることさえ出来ずに息絶えた。
982 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:58:46 ID:WA9DI9va
(1-24)
達成感に浸るまでもなくその椅子を床に放り投げ、私はカウンターの向こう側へと回りこみ、携帯電話機が落ちていったであろう場所に移動した。
そこで私が目にしたのは、シンクの中に置いてあったアイスペールの中で浮かぶ携帯電話機だった。……どうやら氷が溶けてしまって中身がほとんど水になってしまっていたようだ。
私はそれをゆっくりと持ち上げると真っ黒な液晶を目に入り、何度か起動方法を試してみたが、その液晶画面に光ることはなかった。
拳を握り締めながらも、どうしようもないことは私自身がよく分かっていた。ゆうとあやかの記憶にパソコンを忙しくいじくるオーナーの姿もあるが、残念なことにゆうもあやかもパソコンの動かし方を知らないようだった。
これではあの中にゆうを襲った者の手掛かりが存在していても意味がない。
背に腹は変えられずとも、床に倒れている外道の身体を「たべる」ことは絶対にしたくなかった。こんな奴の姿かたちと記憶が残ると思ったら虫唾が走る。
私は大きなため息を一つ吐いて、なんとかふんぎりを付けるとカウンターを乗り越えて裏口へと顔を向けた。
その途中目に入ったウィスキーが注がれているグラスを私はオーナー投げつけた。
バラバラに割れていく破片がオーナーの死体に降りかかる様を見ても心が晴れることはなかったが、それでもなんとかふんぎりをつけて私はオーナーの屍を踏み越え、裏口から店を後にした。
真っ暗な部屋のベッドの上で、私は自分の身体を抱いていた。ゆう、やっぱりあなたの身体は温かいね。
顔を上げると、しっかりと整頓された部屋が私の視界に入ってくる。ゆう、やっぱりあなたの部屋は綺麗だね。
近くに置いてあった手鏡を手に取る。ゆう、やっぱりあなたは可愛いね。
電話線を抜いた電話機のボタンを押して、あの日のゆうの僅かな言葉を聞く。ゆう、やっぱりあなたは優しいね。
「……だめ。もう、だめ」
私の頬から流せなかった涙が流れる。この2週間、ずっと流し続けた温かい涙が、また流れ始めた。
「私、もうだめだよ……。何も、何もかも、もうやだよ……。ゆう……」
抱えた膝に目頭をつけた。一人でこの部屋を見ていたら、涙が止まらなくなってしまうから。
一体私はこれからどうすればいいのだろうか、あれからずっと私は頭を悩ませ続けた。
もうゆうは私しか愛してくれない。人間の雄も雌もゆうはだいっきらいになってしまった。
じゃあ、私が人間に寄生したら……彼女は私をだいっきらいになってしまうのではないか? いや……優しい彼女のことだ。きっと本心は嫌いでも私の前では笑ってくれるかもしれない。
しかし、そんなの私には耐えられない。それに私が見たいのはそんな彼女が無理した笑いではない。
ただ純粋で、綺麗で、可愛く、そして優しい笑顔なのだ。無理をした笑顔には、無理をした優しさしかない。
でもこのままではゆうの身体は腐り始めてしまう。もちろん、私も一緒に。だから私はまず、彼女の身体から出て行こうと思った。
つまり、ゆうに身体を返して私は死のうと。彼女なら私の子供を産むことに自体は、おそらく喜んでくれるはず。
しかしだからと言って一体何が彼女に残るのだろうか? 結局、彼女が産んだ子供達も人間に寄生をしなければ生きていけない。
そんな子供達に向かって、無理矢理な笑顔を強制させ続ける人生を送らせようと言うのか? そうなったらおそらく彼女は自らの優しさに縛られ、私の子供を産み続けるために自ら死ぬことも許されない人生を送るだろう。
だからと言って、彼女に私の子供を産ませないようにして私だけが死んでも、もう何も信じられない彼女はおそらくすぐに自殺をするだろう。
そう、なにより私の今の宿主が他ならぬゆう自身だからこそ、これらの予想は全て外れることがないだろうと確信を持ててしまった。
そして……結局、ゆうの笑いを取り戻し、私とゆうが共に生きる手段はなかった。
983 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:59:53 ID:WA9DI9va
(1-26)
だから私は決めた。
一緒に天国に行こうと。
私は身体をベットに横たえた。もう、実際のところ身体が重くなり始めていた。正直、ここまで早く腐敗が進むとは予想外だったが、いい踏ん切りになっただろう。
なるべく身体が見えないように私は天井を向いて首を動かそうとはしなかった。目も閉じて視界を完全に遮る。ゆうの綺麗な指が腐り行く過程など絶対に見たくなかった。
……ねぇ、ゆう。私たち、天国に行ってもずっと一緒だよ? ず~っと、ずっと。きっと、ゆうだってもう悲しい涙は流さなくてすむと思う。だって天国なんだもん。流すとしたらそれは嬉しい涙だけだと思うよ。
あはははは、やっぱりゆうも楽しみだよね。分かるよ、分かる。だって私はあなたの痛みも、悲しみも全て知ってるんだもん。
えっ? あまりに楽しみで眠れないって? あはは、気が早いなぁ。でもきっと天国は面白くて寝るのも惜しいぐらいな世界だと思うよ。
だから今のうちに思う存分寝て、起きたら思う存分楽しもうよ。ねっ?
あ、うん、ありがとう。やっぱりやさしいなゆうは。ゆうもいい夢見てね。
じゃあおやすみ、ゆう。
984 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 01:04:12 ID:WA9DI9va
これで、以上です
何とも分かりづらいので、最後に「終」ぐらいの文字を入れればよかったのですが、
すいません。忘れてしまいました。
更にまたしても番号の割り振りミスが……。
982は本来(1-25)となります。申し訳ありませんでした。
最後に投稿するに当たって、多くの方にご迷惑をお掛けしてしまったことを心よりお詫び申し上げます。
本当に申し訳ありませんでした。
(1-13)
私は台所に向かうゆうに付いて行き、そして彼女の料理のお手伝いをした。とは言っても、硬化させた身体で冷蔵庫からお肉や野菜を取り出して彼女に手渡すぐらいしかできないのだが、
ゆうは私がそうするたびに「ありがとう」と声を掛けて私を撫でてくれた。
それからあっという間に料理は終わり、茶の間には綺麗に盛り付けをされた料理が並んでいた。
「はい、じゃあいただきます」
「いただきます」
それぞれのお皿にゆうがおかずを取り分けてから、ゆうの音頭に合わせて私もそう言った。
「あー、そんな無理しないで」
ゆうが苦笑いしながら私に言った。私が何をしようとしていたかと言うと、ゆうと同じようにお箸で料理をつまもうとしていたのだ。
しかし、いくら身体を硬化させてもこの2本の棒を上手く操るのはとても難しかった。
「けど、私みたいな食べ方は行儀が悪いって今日のテレビで言ってたから」
私の言葉にゆうは目を丸くして、それから少しの間を空けて楽しそうに笑った。
「あはははは、そんな番組見たんだ。勉強熱心なことだね。私なんかそんなの見てたらすぐに寝ちゃうよ」
そうは言うものの、ゆうは今日の番組でやっていたお箸の持ち方はしっかりと出来ている。流石、ゆう。
「けど、気にしなくてもいいよ。かおるはかおるなりの食べ方で食べていいよ」
「でも……」
私が反論しようとすると、ゆうはさっと私の前に掌をかざしそれを制した。
「じゃあ、こうしようか」
そう言ってゆうは、私のお皿の料理をお箸でつまむと、なんとそれを私の身体の上に優しく置いてくれたのだ。……優しすぎるよ、ゆう。
「ありがとう、ゆう」
「いえいえ、どうぞ」
そう言って私にそれを食べるように彼女は言った。私は身体の中心に料理を入り込ませると、それを溶解させて味わった。
「美味しい!」
言うまでもなかったが、言わずにはいれなかった。ゆうが作ってくれた野菜炒めは、お手製のソースが牛の肉にも野菜にもうまく絡んでいて、とても美味しかった。
「へっへ~ん。ありがと」
少し恥ずかしそうにはにかんで彼女は自分でもそれを口にし、そして満足そうに笑った。
971 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:29:28 ID:WA9DI9va
「んっん~、おはよー」
「おはよう、ゆう」
窓から差し込む朝日でゆうが目を覚ました。その胸に抱きしめられたままの私も挨拶を返した。
ゆうは目覚まし時計もないのにきっちりと起きる。この数日間彼女を見ていると……こう言ってはなんだが、意外としっかりとした人間であるように感じる。
「さぁさぁ、朝のお通じ~」
そう言ってゆうは私をテーブルに置くと、トイレに消えていった。程なくしてトイレからこんな声が聞こえた。
「あぁ、紙がない!?」
私はいそいそと冷蔵庫の中身を覗いた。よかった、間違えてここに入れたわけではないらしい。
「こらぁ~! いくらなんでもそんなところに入れないってば!」
冷蔵庫を開ける音でゆうも私がどこを確認したのか気付いたのだろう。トイレの中から反論する声が聞こえた。
そこで私はあることを思い出して家の窓に近づいて下を覗いた。すると、彼女の自転車のカゴにおそらくゆうが探しているものであろうそれがあった。
……しっかりしてる……しっかり、してる……しっかり、して……。
「じゃあ気をつけて人捜ししてきてね。明日は土曜日で休みだから一緒に探してあげるからね」
「うん、ありがとう。ゆうも気をつけてね」
「りょーかいしました! 行ってきま~す!」
そしてゆうは元気よく家の外へと飛び出して行った。
「行ってらっしゃ~い」
……見事に家の鍵を閉め忘れていった。
私はそれを閉めようとしたが、ゆうが家の鍵さえも忘れてしまっている可能性を考えやっぱり鍵は閉めないままにしておくことにした。
部屋を見渡した。綺麗に整頓されたゆうの大切なぬいぐるみの数々。一緒に食事をした茶の間のテーブル。そして一緒に寝たベッド。
決して広いとは言えない部屋にそうしたものが詰まっている。しかし掃除はしっかりと欠かさずしている綺麗な部屋。
私は今日の夜、ここを立つ予定だ。
明日までに寄生できればいいのだが、明日はゆうの仕事の休みの日と言うこともあって、彼女と私が一日をずっと一緒に過ごさなければならなくなる可能性もあったから、
今日の夜にお別れを言うことに決めたのだ。
それまで私はどう過ごそうか考えていたが、この6日目を迎えたこの身体で動き回れるのは今日で最後になるということで、もう一度だけ街を見て回ることにした。
別に人間の身体に寄生するようになれば嫌というほどこの街で過ごすことになるのだろうが、それでもやはりそれからでは見えなくなってしまうようなものがあるような気がして、私はそう決めた。
最後にガスなどの元栓が締まっているかどうかだけ確認すると、私はこの身体での最後の見聞を始めるため、ドアの隙間から街へと繰り出した。
972 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:38:08 ID:WA9DI9va
(1-15)
さて、その見聞はさしていつもと変わらないものだった。特別何か新しい発見をしたわけでもなければ、当然ながらゆう以上の素晴らしい人間もいなかった。そんな人間が存在しているとも思えないが。
それでもこの身体で最後になるということだけで、随分と見えるものが違った。空の色も、太陽の照りつけも、風が通り抜ける音も、
寄生したらきっと違うものに見えたり聞こえたり感じたりするんだろうな、と思うと嬉しくもあり哀しくもあった。
しかし、全ての人間に寄生し終わってしまったらどうするのだろうか? それから2週間経ってしまえばその最後に寄生した宿主の身体は腐り始め、そのままだと私も新しい宿主を見つけられずに一緒に腐ってしまうはずだが……。
まぁ、細かいこと考えても仕方ないか。それより、これからドンドンと産まれる事になる卵について考えるべきことがある。それはまずその私の子供たちの寄生対象だ。それに対して一つの制約を子供達に私は出す決意をしていた。
私の子供達はこれから宿主になった後からその宿主から私が抜け出した後もずっと、昼間はそれまでと同じように社会に溶け込ませ、夜になったら卵を産んでもらうことになっている。これは一応、生殖能力が高いことが望ましい。つまり若い人間だ。
あまりに年老いた人間だと、身体に私たちの種がなじむ前に腐敗が始まる可能性が高く、卵の数もあまり望めない。だから年齢が高めの個体は基本的にチャンスだと「食べる」ことにする。
これは私が制約を出す以前の問題で、基本的に種の本能としてそう命じられている。
そうでなければ、雄でも雌でも卵を産むことは可能だ。
しかし、私はゆうが嫌いな雄にそんなことをさせるつもりはない。なぜなら、卵を産むときにはその産む個体がそれを拒まないようにかなり快感が伴うようにされているからだ。そんな素敵なものをゆうが嫌いな雄に味あわせるつもりはない。
だからこうすることにした。子供達がチャンスだと思ったときがあれば、人間の雄を「食べなさい」ということに。年老いた個体と同じようにね。
私はつまり、人間の雄の絶滅を図ることにしたのだ。
しかしそれでも雌の人間も生殖相手が居なくなってしまって絶滅することになるのではないか? そうも考えたが、その不安を抹消する方法も考えた。おそらくその方法なら雌の人間が子を宿すことも可能だろう。もちろん人間の子供を、雌だけで、だ。
うん、これならうまくいくでしょ。我ながらグッドなアイディアだ。
さてと、後はゆうとお別れにどういう言葉を言うか考えようと思ったんだけど……。
「ゆう、遅いなぁ」
私は壁に掛かっている時計を見た。長針が12を指し、短針が5を指している。外を見てももう辺りは真っ赤に染まっている。昨日なら一緒にご飯を作り始めている時間だ。これからお別れの言葉を考えるなら、
ゆうがまだ帰ってこないのは好都合なのだが、ゆうに何かがあったのではないかと不安がよぎる。
その時、玄関の近くの電話機が電子音を鳴らし始めた。私はすぐにそれに近寄るものの、果たしてこれに出ていいものなのかどうか迷った。一応、人間が使っている様子を何度が見たことはあるから使えるとは思うのだが。
そう迷っていると、電子音が鳴り止み機械的な女性の声がこう話し始めた。
「ただいま留守にしております。ご用件がある方は、ピーッという発信音の後にメッセージをお願いします」
そしてピーッ、という発信音が鳴った。
「あ、私。ゆうです。かおる、まだ帰ってないかな?」
そこから聞こえてきたゆうの声に私はすぐに見よう見真似で受話器を持ち上げ、身体に近づけてこう言った。
「こちらかおる、こちらかおる、聞こえますか?」
「あはははは! またテレビで覚えたのかな?」
ゆうが楽しそうに笑った。まさに彼女の言うとおり、今日帰ってきてから見ていたテレビでなにやら緑色のヘルメットを被った人間の雄がそう喋っていたのを見たため、
あまり人間の雄が喋っていたことを真似したくなかったが、それ以外の言葉が思いつかずそう言ってしまった。
「そういう時はね、もしもし、って言えばいいんだよ」
そうだ。そう言えばこれを使う人間は皆そう言っていた。あまりに焦ってしまってそんなことさえ忘れてしまっていた。
973 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:40:37 ID:WA9DI9va
(1-16)
「でね、ちょっと今日オーナーがちょっとだけ仕事を手伝って欲しいって言うからちょっと遅くなるね。あ、男の人に会わなきゃいけない仕事じゃないから安心してね。ちょっと会計の整理を手伝って欲しいんだって」
「あっ、そうなんだ。大変そうだけど、大丈夫?」
「うん。ゴメンね。オーナーが私にそんな頼みごとをするなんて本当に珍しいから、できるだけ力になりたいんだ。本当にごめん。終わったらすぐに帰るからね」
「そんな、私のことは心配しなくていいから。とにかく気をつけてね?」
「ふふ、ありがとう。お腹すいたら、冷蔵庫の中に果物とかあるからそれ食べていいからね?」
「りょーかいしました!」
私は朝のゆうの調子をまねてそう言った。電話口からまた笑い声が聞こえる。
「じゃあね、かおる。また後で!」
「うん、頑張ってね!」
私がそう言うと電話機の画面に「通話終了」という文字が浮かび上がり、私は受話器を元の場所に戻した。そういえば忙しそうにしてたもんね、あのオーナーさん。
さて、じゃあ私は別れの挨拶をゆっくりと考えることにしますか。なにせあの優しいゆうに伝える感謝の気持ちを全て言葉にしていれば、何時間あっても足りないだろうから。
ゆうも疲れて帰ってくるだろうから、できるだけ短くそして納得のいく言葉が思いつくように、私は頭を働かせ始めた。
……それを考え始めてから、もう5時間が経とうとしている。いまだ鍵が掛かっていないドアをゆうが開けて帰ってくる様子はない。
あの電話から3時間ほど過ぎたあたりから私は不安になり始めたのだが、そのたびに大丈夫だろうと、ゆうとあのオーナーを信じて待っていた。
しかしそれにしてももう遅すぎるのでないのだろうか? 時計を見れば既に10時を回っている。私にはよく会計の整理と言う仕事が分からないが、
ゆうにとって5時間と言うのが「ちょっとだけ」という言葉の範囲に入るのだろうか。
いや、その可能性はあるかもしれない。だってあのゆうのことだから、オーナーに気を使ってそう言ったのかもしれないし、ただ単に彼女にとっては5時間はあっという間の時間なのかもしれない。
でも……でも、とてつもない不安が私を襲っている。まるでこの夜の暗闇がゆうのことを包み込み、二度と私の元にあの太陽のような笑顔を見せてくれないのではないかという不安が。
私はたまらず窓を開けて、外を見た。道の街灯と付近の家からのわずかな明かりだけが暗闇を照らしているが、そのどこにもゆうの姿は無い。
その時だった。玄関を荒々しく開ける音が私の身体を揺らした。どうやらすれ違いだったらしい。
とにかく私は玄関へと急いだ。そこには、肩で息をしながら俯くゆうがいた。
「ゆう!」
私は靴箱の上に移動して、それを出迎えた。しかし、明らかに様子がおかしいことにすぐに気付いた。
ふと彼女が背にしているドアを見ると、鍵もドアのチェーンもしっかりと閉まっているのが見えた。帰ってきてすぐに閉めたのだろう。
しかしそんな動作が出来たのに、なぜ彼女は靴も脱がず、そして私に声を掛けてもくれないのだろう。
そう思っていた矢先だった。
974 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:42:13 ID:WA9DI9va
(1-17)
「あああああああああああああああああああ!」
まるで獣のような咆哮でゆうは私の位置と逆にあった電話機を、その電話台ごと蹴り飛ばした。
そして靴のまま部屋に上がり込むと、テーブルを蹴り飛ばして、持っていたバックも私が開けたままの窓から外に投げ飛ばした。ピンクの可愛いお財布、可愛い絵柄のハンカチ、点滅する小さなぬいぐるみが付いた携帯電話機が下へと落ちていった。
「うわああああああああああああ! ああああああああああああああ!」
その様子に、私は彼女に近づきながらもただの一言も声を発することが出来なかった。ただその部屋が崩壊していく様子をまるでテレビの映像を見ているかのように、ただただ、それを見ていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ」
とても先ほどの同じ部屋とは思えなくなってしまったときに、彼女はへたりと床に座り込んだ。
箪笥の上で硬直していた私もそれでやっとこれが現実であることを理解した。ふと隣を見ればこの箪笥に乗っていたぬいぐるみなどは、まるで何もなかったかのように少しも被害を受けていなかった。
私はそこから降りると、ゆっくりと彼女の背後から近づき始めた。その肩は帰ってきてから今もまだ震え続けている。
そして私は彼女の目の前に回りこむと、ゆっくりと俯いている彼女の視線に入るように彼女のスカートに昇って、その顔を見上げた。
その時、暗闇が包んだその顔から私に向かって雫が落ちた。身体の中に入り込んだそれを、無意識のうちに私は溶解して身体に取り込んだ。
味は、いつかゆうに食べさせてもらった塩という調味料に似ていた。そして温かい温度だった。
ただ、温かいはずなのにそれはとても冷たかった。矛盾しているのに、どう考え直してもそれは温かく冷たいものだった。
「ううっ……うっ……うわあああああ!」
彼女はまた咆哮した。しかしそれは怒りの咆哮ではなく、悲しみの咆哮だった。私を胸に抱えてそのまま彼女は大声で泣き出したのだ。私が触れている胸から感じるのは、いつものような温かさ。
しかし、そのもっと奥の方から、先ほどの涙のような冷たさを私は確かに感じた。
975 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:43:23 ID:WA9DI9va
(1-18)
「ゆう……」
それから暫くして私は落ち着いてきたゆうに、そっと声を掛けた。
「……だめ。もう、だめ」
ゆうがこぼすように言葉を発し、その真っ赤な目で私を見た。
「私、もうだめだよ……。何も、何もかも、もうやだよ……」
そして再び目を閉じると、また小さな雫がいくつか落ちた。
「一体……何があったの?」
私は思わず聞いてしまった。しかし、ゆうは暫く目を閉じたまま、苦しそうに唇を噛んでいるだけで何も話してくれなかった。
しかし、やがてゆっくりと唇から歯を引き離すと、私に語り始めた。
「私は本当はお客さんが使う個室に行った。……手伝いに集中するために。オーナーがいつも居る場所、従業員の人が控え室で使うから。……オーナーは誰も来ないようにするから安心してね、って言ってた。
それからは、書類見ながら数字を足したり引いたりしてたの。そしたら……ううっ」
そこでまたゆうは唇を噛み締めた。
「ゆう、もういいから。お願いだから、それ以上思い出さないで」
私はそれを見てたまらずそう言った。自分で聞き出したのに何と言う勝手なことを、と思ったが、それ以上にもうゆうに悲しい思い出を掘り返させたくなかった。なんて酷なことを彼女に聞いてしまったのだろう。
しかしゆうは首を小さく振ると、話を続け始めてしまった。まるで怯えを抑えるように私を一層強く抱きしめて。
「酔っ払った男の人が来て、私を見て『オーナーの言う通りだ』って言って……私を……押し倒して……。私はその人の事、何とか蹴り飛ばして……後はもうひたすらに走って、走って……」
そう言うと彼女は私を抱きしめる力を少しだけ弱めた。
「ごめんなさい。ごめんなさい、ゆい」
「……なんでかおるが謝るの?」
ゆうは力なく笑って私を見て、そして顔を上げると天井の明かりを見ながら呟いた。
「私、みんな嫌い。だいっきらい。男も女もみんな、みんなだいだいだいっ嫌い。もう……死にたいよ」
……なんで……なんでよ。なんでゆうばっかりこんな目に……。酷いよ。やめてよ。もうお願いだから傷つけないであげてよ!
……いや、もう無理だよ。だってゆうが無理だって言ってるんだもん。それなのにこれ以上頑張れなんて彼女に言えるわけがないよ。
「……もう私には君だけしかいないよ。ねぇ、お願い。かおるだけは私と一緒に居て。私を好きになって。私を……愛して」
私はそれを聞いて、とても嬉しかった。私が彼女に愛されていることが分かったから。
「うん」
だから私は、彼女と一緒になることにした。
976 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:44:48 ID:WA9DI9va
(1-19)
「本当に、後悔しない?」
私は目の前の「穴」を前にして、改めてゆうに聞いた。
「もちろん。君と一緒になれるんだから」
ゆうは私に優しく微笑みかけ、私が入りやすいように、自らの両手でその穴を開いてくれた。綺麗なゆうの中に私はすぐにでも飛び込みたくなった。
しかし、それでもやはり不安に思ってしまう。彼女に私が寄生体であることだけを話し、最初に人間に寄生できるという事を教えるいなや、それから先の話も聞かずにすぐに「じゃあ一緒になろう」と言い出したからだ。
「ねぇ、話だけでも最後まで」
「もぉ~、心配性だなぁ。……ふふっ、ほらほら」
不敵に笑ったゆうが、私を持ち上げるとなんと自ら自分の穴に私を静かに押し付け始めた。
「んっ、気持ちいい。気持ちいいよぉ、かおる」
「ゆ、ゆう……」
私はゆうが光悦とした表情でよがる姿を見て、段々と今すぐにゆうと一緒になりたいという気持ちが湧き上がってきてしまった。ゆうは私を無理矢理自らの穴に入れ込もうとせず、私自身が自ら入るのを待っててくれている。
「じゃ、じゃあ……入るよ?」
「んんっ、あっ、い、いいよぉ」
私はそんなゆうを見ていてついに我慢の限界に達し、ゆっくりと彼女の中へと入っていった。
「ふぁあああ! はぁ……んっ、気持ちいいよぉ」
私が少し入っただけで、ゆうは甘い声を上げた。ゆうの中は暗闇に包まれているが、その中はゆうの優しい温かさで包まれていて、私自身もすごく心地よい……そう、つまり気持ちよかった。
「ゆうが……絡みついて、くるぅう」
私もゆうの中の感触に思わずそんな声を上げてしまう。
「くぅうんん……ああっ!」
ゆっくりとゆうの身体を味わいながら、私の身体の半分ほどが彼女の中に入りきろうとしたとき、ゆうが甘く吼えた。
「だ、大丈夫? ゆう」
「んんっ、ごめん。ちょっとそこが、その気持ちよかったから……」
ゆうが恥ずかしげに私にそう告げた。少しだけ赤く染まった頬が何とも可愛らしい。
それを見て私は少しだけ悪戯することにした。
977 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:45:54 ID:WA9DI9va
(1-20)
「えっ?! んあっ、っくふぅう! ちょ、ちょっと!?」
「んはぁああ。ねぇ、どう?」
私はそのゆうが気持ちよくなれる場所を素早く何度も行き来して刺激をした。とたんに、ゆうが身体を仰け反らせて身悶え始めた。
「やあぁん、す、すごぃい、すごいよかおるぅううう!」
「んんっ?! ゆ、ゆう!?」
突然、ゆうが液体を放ち、私の身体にそれが入り込んだ。その液体がゆうの体液であることに私は気付くと、すぐに溶解を始めた。
「美味しい……美味しいよぉ、ゆう」
「だ、だめっ、恥ずかしい! んんっ、恥ずかしい……けど、気持ちいい」
ゆうの顔はもう真っ赤で、肩で息をし始めている。
「ねぇ、もういいでしょ? そろそろ、来て?」
ゆうが優しく、そして妖しい微笑みで私を誘った。私はその微笑みに吸い込まれるように、ゆうへの浸入を再開した。
「かおるぅ、そう、そのまま来てぇ。どんどん、あっ、私の中に来てぇええ!」
吸い込まれるように私はゆうの中へと進んでいく。私の視界にもう、ゆうの顔は見えなくなっていた。
「くぅん、ゆう、もう少しだよ。もう少しで、一緒になれる、一緒になれるぅう、あぁああ!」
「ふぁああああん! かおるぅううううううう!」
ゆうが最後に甘美なる鳴き声を上げて、首をもたげた。それは私の身体が完全にゆうの中に入り、もう身体に根付き始めている結果だった。
「ゆう……ゆう……一緒だよ……一緒……」
私の意識も少しずつ途切れ始めてきた。おそらく始めての寄生の為に、身体が変化しているからだろう。
私の身体が宙に浮いているような感覚に包まれる。
薄れ行く意識の中で私が感じ続けていたのは、やはりこんな感覚だった。
「ゆう……気持ちいい……よぉ……」
978 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:47:32 ID:WA9DI9va
(1-21)
「んっ……んっんー」
私は自分の声としては聞きなれない声を上げた。身体が少し重い。意識もまだぼやけたままだ。
それから数分掛けて身体の各部の動きを確かめながら、なんとか身体を起こすことが出来た。
そしてまず自分の手を私の視界の範囲に移動させ、それが私を優しく突いてくれた白くて綺麗な指であることを確認した。
次に頭を動かして私を何度も抱きしめてくれたあの柔らかい胸を視界に入れる。そこには確かに二つの山があった。
私はその上に手を当てて、私が以前のように胸の上から感じていたのと同じ鼓動なのかを確かめた。確かめるまでもなかったが、やはりそれは私を愛してくれたゆうの鼓動で間違いなかった。
そして今は、手を当てなくてもそれを自らの身体の中から感じることが出来る。
そして私はゆっくりと立ちあがり、傾いた鏡の前に立った。そこに居たのは……私が愛して止まない「ゆう」の姿そのものだ。私は、一緒になれたのだ。愛しのゆうと。
思わず身体を抱きしめて、そして顔が自然と笑顔になってしまう。それも当然、私が大好きなゆうの笑顔である。それがまた嬉しくて私はもっと笑う。
しかし、そのとき頭が重くなり、そして多くの映像がテレビのように私の目の前を電光石火で駆け抜けていった。
私は思わず壁に左手を当てて、倒れそうになった身体を支える。右手で自分の右目の視界を少し遮るようにして今の映像と記憶を思い出してみた。
そこには鮮明にゆうの思い出があった。裏切られた友達の顔、いや荒瀬昇の顔。ゆうをレイプした中年の親父の顔が狂気の笑いを浮かべている。優しくしてくれたオーナーとの多くの思い出と私との出会いの記憶。そして……昨日の裏切りの映像も。
私は鏡をちらりと見た。そこに映る私の瞳は、いつかのゆうが輝きを失った目そのものだった。今ならゆうの気持ちが痛いほど分かる。
ゆうが私を愛していたことが真実だといま分かったのと同じように、ゆうが裏切られて本当に悲しかったこともまた本当に理解したからだ。今の私以上にゆうの怒りを分かる人物など居ないだろう。
何故なら私とゆうは一緒になれたのだから。彼女の喜びも、彼女の痛みも、彼女の悲しみも、彼女の……怒りも全て私のものでもあるのだ。
私は右手を思い切り握ると、鏡に向かってストレートパンチを繰り出した。鏡の砕ける音と共に私の拳に痛みが伝わってきた。ゆうも同じように汚されても汚されてもそのたびに綺麗にしてきたガラスのハートを、そのたびに誰かに割られてきたのだ。
しかし、彼女の受けた痛みはこの拳の痛みの何十倍以上のものだ。
「ごめんね、ゆう」
私はゆうに拳を傷つけてしまったことを謝り、手の甲を伝う血を吸って、傷を舐めてすぐに治癒を完了させた。そこにはしっかりと綺麗なゆうの右手が何事もなかったかのように存在している。
私は時計を見た。ゆうとの甘い時間を過ごしてから、私が意識を失っていたのは7時間ほどらしい。開け放たれた窓から外を見ると夜の暗闇が太陽の光によって切り裂かれ始めている。
私はひび割れた鏡に映るゆうに笑いながらこう言った。
「行こっか、ゆう」
私はいつものように笑ったはずなのに、鏡の向こうの私が随分恐ろしく笑っているように見えたのは、おそらく鏡が割れてしまったからなのだろう。
979 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:51:06 ID:WA9DI9va
(1-22)
私は唯一の無傷の生還者である箪笥君から代わりのお気に入りである服を引っ張り出して、すぐに着替えると随分と変わってしまった部屋を後にした。帰ってきたら掃除しよう。
部屋の鍵をしっかりと閉めて、街に繰り出した私が向かうのはもちろんあのお店。オーナーは居るかなぁ?
自転車をここにそのまま置いて帰ってしまったため、いつもより時間が掛かってしまったが、私が店の近くに来たときにちょうど従業員の子が一人、店から出てくるところだった。
私はわざと彼女に見つかるようにして、店へと近づいた。すると予想通り彼女が私を見て驚いたように目を見開くと、こちらに駆け寄って来てこう言った。
「ねぇ、あなた確か昼間ここで清掃してくれてる人だよね?! 何かオーナーが昨日大騒ぎしてたわよ、あなたを捜してって」
「そうなんですか。それで、オーナーはまだ店の中に居ます?」
「あ、うん。まだ居るよ。ほら、今日と明日は月に二回のお休みだから私が最後にお店を閉めることになってたんだけど、なんかまだオーナーは仕事があるらしいから残るって」
「あ、良かったぁ」
私は安心した素振りを見せてその女の子に笑いかけた。彼女はそれからあわせるように笑いかけてくる。確か彼女はこの店に入ったばかりの新人だが、20歳になりたての女の子らしい。
一応、オーナーの方針でお酒が飲めて、親に迷惑を掛けずに済む歳になってからということで、ここで働く従業員は20歳が最低雇用条件だといっていた。
昨日までは従業員のことを考えた決まりのように思えたが、今となってはそれもおそらく警察に検挙されないために仕方なくそうしたのだろう。
しかし私の場合は違う。昼間のお仕事と言うことで私を雇い、そして最初からこうして私をだましてお金をもうけるための算段をしておいたからあんな昼間の仕事でも多くのお金をくれていたのだ。
「あの、ちょっといいですか?」
私はその新人の女の子を路地の方へと誘った。彼女は首を傾げて私を見ながらも頷いて着いて来てくれた。
「どうかしたの? オーナーに会いづらいのなら私が伝言だけでもしてあげるけど」
路地の中ほどまで進んだ辺りで私が立ち止まると、彼女が私の背中に向けてそう声を掛けた。そんな面倒な手間は必要ないですよ。
「いいえ、大丈夫です。あ、服にゴミが付いてますよ」
私は振り返って彼女にそう告げると、少しずつ彼女との距離を縮めた。彼女は驚いたように、服を確認し始める。
そしてそのまま私がすぐ目の前まで来たところで、やっとこちらに顔を戻した。
私は彼女に笑いかけて、そしてその唇に自らの唇を押し当てた。と、同時に身体に腕を回して彼女の動きを封じる。ゆうより年下なのに華奢な身体つきなのは、やはり生き方の辛さが違うからだろうか?
というより彼女の胸はゆうのものより貧相で、身体に密着している分余計にそう感じてしまうのだろう。
「んんんっ!? んんっ! んんんんっ!」
彼女が必死に私から離れようとするが、逃がしてあげるつもりはない。私は彼女をあやすように笑うと、ゆっくりと浸入を始めた。
「んんっ?! んんんんんっ!」
彼女の口の中に浸入した寄生体の私を彼女は拒もうと必死になっている。そんな必死になっちゃってもだ~め。
980 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:53:39 ID:WA9DI9va
(1-23)
「んぐっ!? んんんんんんんっ!」
私はそんな彼女の抵抗をあっさりと通過すると、彼女の口から本格的に体内へと浸入を始めた。曲がりくねった彼女の中をどんどん私が支配していく。
「ん……んんっ……んぁっ」
そして段々と彼女の顔が光悦としたものになっていき、しまいには私を自ら体内に招きいれようと私を美味しそうに飲み始めている。
私はそれを見て彼女の身体を拘束する目的のものから、抱きしめることが目的のものへと変化させて、ひたすらに私を飲んでいるその頭を優しく撫でた。
いつかゆうが私にそうしてくれたように。すると彼女も私を抱きしめてくれた。
そして彼女の身体に私の寄生体が十分に浸透したところで、私は彼女を「食べはじめた」。
「んんっ? ……んんっ……んっ」
彼女は溶解が始まった自分の身体に少し驚いたようだったが、それもすぐに消え失せたようで私の舌に自分の舌を絡めたり、唾液を美味しそうに飲んだりしていた。
細胞をいじることによる変化なので、痛みを伴うことはない。それと同時になるべく快楽を感じるように神経に信号を送ったりしている。
そして彼女の身体が段々と私の寄生体と同じように緑色の身体に変化していく。顔は私に絡めていた舌も、だらだらと解け始めてきた。
私はそれを見計らって、彼女の身体を今の宿主であるゆうの身体に口から取り込み始めた。吸い込まなくても口から勝手に浸入してくるそれを私は気持ちよく迎え入れていた。
やがて私を抱きしめていた腕の部分の感触もなくなり、履き手がいなくなった黒いニーソックスがへたりとハイヒール居の上に落ちた。
そして最後に白と黒のワンピースがその上に落ちた。
「んぁ。……あはははは、美味しかったよ。ごちそう様」
私は唇を人差し指で拭うと、そこに付いた彼女の身体のわずかな残り部分と彼女の唾液を、ぺろりと舐めて彼女を一滴残らず「食べ終えた」。
「すいませんオーナー、忘れ物しちゃいました!」
私は頭を掻きながら店の中へと入った。カウンター席に座っていたオーナーはケータイをいじりながら忙しそうな顔をしていたが、
私がそう言うと少しだけ笑って、ウィスキーが入ったグラスを傾けた。カランとグラスの中の氷が音を立てる。
私は頭を下げながらその後ろを通り、控え室に入って目的のものを捜した。
うん、こんなものでいいでしょ。
私はそれを見つけると、片手に持ち上げて身体の後ろに隠すように持って控え室を出た。
981 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:55:19 ID:WA9DI9va
(1-24)
「忘れ物はちゃんとあった?」
「あ、はい。ありました」
私は空いている手を頭に当てて、そのまま頭を軽く何度か下げた。オーナーは少しだけ安心したように笑って、再びケータイをいじりはじめた。
それを見た私はゆっくりとオーナーに近づく。彼女には私がその先のドアに近づいているように思えるだろうが、そこを私が再びくぐるのは少しだけ先になるかな。
オーナーはそのまま私に気付かないままケータイをいじくり回し、私はもうその身体の横までやって来た。見ようとすればケータイの文字すらも見えそうだが、それはまだ先だ。先に、やることがある。
そして私はオーナーの背後でピタリと足を止め、彼女の方へと向き直って顔だけ元に戻った。
私が持っていたものを振り上げ始めたそのとき、オーナーがこちらを振り向きながらこんな間抜けなことを言っていた。
「あれ……その服って、ゆうちゃんがよく着てたやつじゃ」
言い終える前に高そうな赤ワインのビンが彼女の頭を直撃し、破片が赤い雫を反射させながら四散していく。
彼女は体勢を崩して椅子から転げ落ちながら悲鳴を上げた。カウンターのへりの向こうへと携帯電話機が消えていく。後でしっかりと回収しよっと。
「くあああああああっ! ちょ……っと、ううっ、どう……したの……?」
頭を抑えながらゆっくりとした動作で彼女は私を見た。先ほどとは顔が違う私を、視界に捉えた瞬間、彼女の目がどんどん大きく開かれていく。
「ゆ、ゆう……ちゃん?! なんで……? さっきまで……そこには……」
私はにっこりと笑うと、今度は身体を元に戻して、顔をさっきの新人、つまり源氏名で「あやか」ちゃんと呼ばれる子のものに変化させた。余裕があったシャツの服の部分が、大きくなった胸に押されてに苦しそうに膨らんでいく。
「なん……なの? いえ……今は……そんなことより」
オーナーは頭を振るうとゆっくりと身体を動かして頭を地面にピタリとつけた。そう、それはいわゆる土下座という体勢だ。さてさて、一体どんなつもりでしょうか。
いや、分かってる。そうやって命乞いをするんでしょ。昼間のドラマでそういうのよくやってますよねー、そういうの。
私は肩をすくめながら顔を元に戻して、ゆうの身体と顔でその腹を蹴り飛ばした。
「ぐぅう! うげぇ、げぇ……ごめ……んなさい、ごめんなさい」
蛙のようにひっくり返ったのに先ほどの土下座体勢をしようとしているのか、身体を起き上がらせようとしながら今度は言葉までつけてきた。なんていう外道なんだろう。
あそこまでゆうを傷つけておいて、あなたはまだ謝れば自分を殺さずにいてくれると思っているんだ。
私はその強欲さに呆れながらもあまりに見苦しいので、手っ取り早く終わらせようと、手の指紋をあやかのものに変えてから彼女が転がった椅子を持ち上げて、オーナーの胸の少し上辺りを片足で踏みつけて動けないようにした。
「ごめん……なさい。ごめ……んなさい」
その間も彼女は私に向かって謝り続ける。目には涙まで浮かべて、まったく持ってあなたは演技派なお方だ。その特技で私もゆうも騙したんですね。
私はもうため息を吐くほどあきれ返り、そして一思いに持っていた椅子をオーナーの頭に向かって振り下ろした。彼女は目を見開く間も、悲鳴を上げることさえ出来ずに息絶えた。
982 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:58:46 ID:WA9DI9va
(1-24)
達成感に浸るまでもなくその椅子を床に放り投げ、私はカウンターの向こう側へと回りこみ、携帯電話機が落ちていったであろう場所に移動した。
そこで私が目にしたのは、シンクの中に置いてあったアイスペールの中で浮かぶ携帯電話機だった。……どうやら氷が溶けてしまって中身がほとんど水になってしまっていたようだ。
私はそれをゆっくりと持ち上げると真っ黒な液晶を目に入り、何度か起動方法を試してみたが、その液晶画面に光ることはなかった。
拳を握り締めながらも、どうしようもないことは私自身がよく分かっていた。ゆうとあやかの記憶にパソコンを忙しくいじくるオーナーの姿もあるが、残念なことにゆうもあやかもパソコンの動かし方を知らないようだった。
これではあの中にゆうを襲った者の手掛かりが存在していても意味がない。
背に腹は変えられずとも、床に倒れている外道の身体を「たべる」ことは絶対にしたくなかった。こんな奴の姿かたちと記憶が残ると思ったら虫唾が走る。
私は大きなため息を一つ吐いて、なんとかふんぎりを付けるとカウンターを乗り越えて裏口へと顔を向けた。
その途中目に入ったウィスキーが注がれているグラスを私はオーナー投げつけた。
バラバラに割れていく破片がオーナーの死体に降りかかる様を見ても心が晴れることはなかったが、それでもなんとかふんぎりをつけて私はオーナーの屍を踏み越え、裏口から店を後にした。
真っ暗な部屋のベッドの上で、私は自分の身体を抱いていた。ゆう、やっぱりあなたの身体は温かいね。
顔を上げると、しっかりと整頓された部屋が私の視界に入ってくる。ゆう、やっぱりあなたの部屋は綺麗だね。
近くに置いてあった手鏡を手に取る。ゆう、やっぱりあなたは可愛いね。
電話線を抜いた電話機のボタンを押して、あの日のゆうの僅かな言葉を聞く。ゆう、やっぱりあなたは優しいね。
「……だめ。もう、だめ」
私の頬から流せなかった涙が流れる。この2週間、ずっと流し続けた温かい涙が、また流れ始めた。
「私、もうだめだよ……。何も、何もかも、もうやだよ……。ゆう……」
抱えた膝に目頭をつけた。一人でこの部屋を見ていたら、涙が止まらなくなってしまうから。
一体私はこれからどうすればいいのだろうか、あれからずっと私は頭を悩ませ続けた。
もうゆうは私しか愛してくれない。人間の雄も雌もゆうはだいっきらいになってしまった。
じゃあ、私が人間に寄生したら……彼女は私をだいっきらいになってしまうのではないか? いや……優しい彼女のことだ。きっと本心は嫌いでも私の前では笑ってくれるかもしれない。
しかし、そんなの私には耐えられない。それに私が見たいのはそんな彼女が無理した笑いではない。
ただ純粋で、綺麗で、可愛く、そして優しい笑顔なのだ。無理をした笑顔には、無理をした優しさしかない。
でもこのままではゆうの身体は腐り始めてしまう。もちろん、私も一緒に。だから私はまず、彼女の身体から出て行こうと思った。
つまり、ゆうに身体を返して私は死のうと。彼女なら私の子供を産むことに自体は、おそらく喜んでくれるはず。
しかしだからと言って一体何が彼女に残るのだろうか? 結局、彼女が産んだ子供達も人間に寄生をしなければ生きていけない。
そんな子供達に向かって、無理矢理な笑顔を強制させ続ける人生を送らせようと言うのか? そうなったらおそらく彼女は自らの優しさに縛られ、私の子供を産み続けるために自ら死ぬことも許されない人生を送るだろう。
だからと言って、彼女に私の子供を産ませないようにして私だけが死んでも、もう何も信じられない彼女はおそらくすぐに自殺をするだろう。
そう、なにより私の今の宿主が他ならぬゆう自身だからこそ、これらの予想は全て外れることがないだろうと確信を持ててしまった。
そして……結局、ゆうの笑いを取り戻し、私とゆうが共に生きる手段はなかった。
983 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 00:59:53 ID:WA9DI9va
(1-26)
だから私は決めた。
一緒に天国に行こうと。
私は身体をベットに横たえた。もう、実際のところ身体が重くなり始めていた。正直、ここまで早く腐敗が進むとは予想外だったが、いい踏ん切りになっただろう。
なるべく身体が見えないように私は天井を向いて首を動かそうとはしなかった。目も閉じて視界を完全に遮る。ゆうの綺麗な指が腐り行く過程など絶対に見たくなかった。
……ねぇ、ゆう。私たち、天国に行ってもずっと一緒だよ? ず~っと、ずっと。きっと、ゆうだってもう悲しい涙は流さなくてすむと思う。だって天国なんだもん。流すとしたらそれは嬉しい涙だけだと思うよ。
あはははは、やっぱりゆうも楽しみだよね。分かるよ、分かる。だって私はあなたの痛みも、悲しみも全て知ってるんだもん。
えっ? あまりに楽しみで眠れないって? あはは、気が早いなぁ。でもきっと天国は面白くて寝るのも惜しいぐらいな世界だと思うよ。
だから今のうちに思う存分寝て、起きたら思う存分楽しもうよ。ねっ?
あ、うん、ありがとう。やっぱりやさしいなゆうは。ゆうもいい夢見てね。
じゃあおやすみ、ゆう。
984 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/18(火) 01:04:12 ID:WA9DI9va
これで、以上です
何とも分かりづらいので、最後に「終」ぐらいの文字を入れればよかったのですが、
すいません。忘れてしまいました。
更にまたしても番号の割り振りミスが……。
982は本来(1-25)となります。申し訳ありませんでした。
最後に投稿するに当たって、多くの方にご迷惑をお掛けしてしまったことを心よりお詫び申し上げます。
本当に申し訳ありませんでした。
(スレ11埋め)
958 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 22:47:18 ID:C4m4zeYv
ぐじゅり、という粘液質の物が擦れる音。
その音が聞こえた瞬間、>>999の股間から何かが現れた。
>>999の異常な姿に激しくおびえる>>1000。
「ほら・・・>>1000、見てよ。生えちゃった。
あなたのことが大好きなの。私、あなたと一緒になりたいの」
>>1000は>>999の本音を聞くが、しかしその身体を見た以上は恐怖しか覚えなかった。
じりじりと後ずさる>>1000。
しかし、それを追うかのように近づいてくる>>999。
「はぁ、はぁ、おびえてる? 怖い? ねぇ、>>1000・・・」
959 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 22:51:29 ID:C4m4zeYv
「こ、怖いに決まってるよ・・・ ねぇ、一体どうしちゃったのよ>>999!」
「簡単な話だよ。あたし、>>998先生に貴女が大好きだって相談したんだよ。
大好き・・・、友達としてじゃなくて、Hとかする相手としても大好きだって」
「・・・!」
>>1000は>>999の告白を聞き、その異常性が深刻な物であると確信した。
だが、ここは校内でも最も人通りも少ない、地下1階の資料室。
おまけに広さも無い。
>>1000は逃げたくて仕方ないが、しかしそのチャンスは訪れそうにない。
「ね、ねぇ・・・、考え直すからさ! こないだの『嫌い』は冗談なの」
「もう、遅いよ>>1000。あたし、あなたを愛するためだけの身体になったから」
「え・・・!?」
>>999はなおも近づいてくる。
そこで>>1000は気づいてしまった。
>>999が近づくその一歩一歩こどに、彼女の股間から生えるものが脈打つことに。
「あは・・・、気づいた? これはただのち○こじゃないんだよ?」
960 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 22:56:26 ID:C4m4zeYv
「ち、ち○こって・・・」
「知らないわけないよね? 男の子のアレだって」
>>999はそんなことを言いつつも、更に距離を詰めてくる。
先ほどから同じように後ずさる>>1000だったが、いよいよそれも最後の時が来た。
ついに>>1000の背後は壁しか無い状態となったのだ。
「こうやって、>>1000に近づいてる間もね。あたし、>>1000を愛してるとこをイメージしちゃうんだ。
そうすると、なんだか本当に愛してるみたいな感じになっちゃってさ・・・
ま○こもち○こも、両方とっても気持ちよくなれちゃうの」
「ひっ・・・」
逃げる場所を失った>>1000は、あと2メートル程度に近づいた>>999の姿を見ることしか出来ない。
「>>998先生はね・・・、愛するのは良いことだって教えてくれたんだよ。・・・んんぅ」
くぐもった声と同時に、>>999の股間は更に凶悪な物へと進化していく。
最初に生えた物の周囲から、細い管のような触手が現れたのだ。
961 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:01:51 ID:C4m4zeYv
「ふふ、どうかな? >>998先生がくれた子。>>1000を愛するためだけの子なんだよ」
言うと、>>999は股間の中心にあるそれを両手で包むように握った。
そして・・・
「こう、やって・・・、擦るとね、あっ、どん、どん、気持ちよく・・・、なる、の」
「え・・・、それって」
>>1000の頭の中では「自慰行為」という語が浮かぶ。
しかし・・・、男性が行うような行為を>>999が行っている現実はおかしかった。
「ね、ねぇ! 今から病院行こう? ね? きっと治るからさ」
>>1000は>>999が何か悪性の病に冒されていると勝手な判断をした。
だが、その発言と姿は結果として・・・
「あん、あたし、病気なんだ、よ? でね、そのまんま>>1000を愛しちゃうと、>>1000にも、
伝染っちゃうか、ら、>>998先生、に、この子をもらった、んだよ・・・あ、出る、出ちゃう!!」
>>999が股間のそれを擦る速度は、どんどん速まっていた。
やがて股間のそれは硬度を増し、また膨張していき・・・、
「ああああっ!」
びくん、と大きくそれははねると、先端からは黒く濁ったゲル状の液体が大量に放たれた。
962 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:05:38 ID:C4m4zeYv
液体はそのまま、>>1000の全身に浴びせられる。
「だめ、止まらないぃぃいいいい! >>998先生の、言う通り、だぁああ!」
「>>999、やめて、やめてぇぇええ!」
>>1000はパニック状態に陥るが、もはや>>999を止めることは出来ない。
「あぁ、>>1000、犯す、犯すうううう」
「いやああああ!」
壁際に追い詰められていた>>1000は、瞬くまま>>999の股間の触手に捕らわれる。
そしてそのまま・・・
「入れるよ、入れちゃうよぉ」
「だめ、やめてぇ!!」
ずぶずぶと音が聞こえるかのように、>>999の股間のそれは>>1000の中へと侵略していく。
勿論、先ほどから黒く濁った液体は止まらないままだ。
「あったかい、あったかいよぉお・・・、もっとも出すの、>>1000の中に出すのぉ」
「あっ、あっ・・・」
その凄まじいまでの性愛を全身で受け止めることしか出来ない>>1000。
もはや言葉を発することすら不可能なまでに、彼女は>>999の愛を享受していた。
963 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:09:28 ID:C4m4zeYv
「・・・」
別室では白衣の人影が立っていた。
その耳にはカナル式のイヤホン。
「ふふ・・・、>>999は本当に>>1000が大好きなのね」
呟くと、傍らに設置されているコンピュータを操作し始める。
「すぐに>>1000の子宮は黒精で満たされる。二人はこの校舎に無限の性愛をもたらす」
イヤホンからは、別室の>>999と>>1000の声。
コンピュータにはその別室の映像と何らかの計算結果。
「もうじきお盆だしね。くく・・・」
満足そうな笑みを浮かべ、白衣の人影はキーボードを操作し始めた。
964 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:13:39 ID:C4m4zeYv
「も、だ、め、ゆる、し・・・」
「大好きだよ、大好きぃ、>>1000、だいすきぃ、はぁ、いい、だいすき」
自らの愛を言葉で、身体で、性愛で表現する>>999。
もはや>>1000はそれに耐えられないのか、まともな声は出ない。
しかし。
「たす、け、・・・ ああ、あああ・・・」
救助を求めるような声をわずかに上げていた>>1000だったが、様子が変化した。
虚ろな目つきで、か細いうめき声を上げはじめたのだ。
だが>>999はそんなことを感じさえもせず、ひたすらに>>1000を突き上げ、腰を打ち付け、
そして自らの黒い欲望を>>1000の中へはき出し続ける。
「あああ・・・」
>>1000は自分の中に放たれた液体が、自分を変えていることを感じた。
身体の様々な部分が、至る場所の細胞が、自分の思考が。
全てが別な物に変わっていく・・・
965 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:18:11 ID:C4m4zeYv
「>>999。離して」
突然、はっきりとした声を>>1000を上げたかと思うと、>>999を吹き飛ばした。
どけたのではなく、部屋の反対側へ吹き飛ばしたのだ。
「>>999。あたしを仲間にして、愛するつもりだったんでしょ」
「う・・・」
「それは無理。だって」
そこまで言うと、>>1000の身体が変化しはじめた。
美しい黒髪は青く微細な触手に。
肌には妖しい模様が浮かび、秘所はまるで食虫植物のような形状の触手。
「あたし・・・、適性があるから」
突如として>>1000は>>999の目前へと移動した。
既に人外である>>999の目にも見えなかったのだ。
「さぁ、あたしの僕に」
>>1000の口から太い触手が現れると、>>999の口内へと入り込んでいく。
966 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:22:07 ID:C4m4zeYv
>>999は抵抗しない。
むしろ、抵抗出来ない様子であった。
>>999の口内に突入した触手は先端が分かれ、彼女を>>1000の僕とするべく活動する。
脳に入り込んだ物は>>999の脳を溶かし、再構築を行う。
各種の臓器に入り込んだ物は、>>1000の種族として相応しいものへと作り替える。
性器に入り込んだ物は、その性器を>>999と同様のものへと作り替えた。
「立って」
「・・・」
>>1000の命令に従い、>>999は立ち上がる。
その姿は>>1000と同じような物であった。
「行こう。あたし達が永遠に愛し合える世界を作るの」
>>999と>>1000は部屋を出る。
残されたのは、二人の激しい性愛の後であった・・・
967 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:22:47 ID:C4m4zeYv
投下しておられた方がいたので、埋め側でやってみました。
久々に早く帰れたので・・・
まだしばらくちゃんと時間作れそうにないですOTL
ぐじゅり、という粘液質の物が擦れる音。
その音が聞こえた瞬間、>>999の股間から何かが現れた。
>>999の異常な姿に激しくおびえる>>1000。
「ほら・・・>>1000、見てよ。生えちゃった。
あなたのことが大好きなの。私、あなたと一緒になりたいの」
>>1000は>>999の本音を聞くが、しかしその身体を見た以上は恐怖しか覚えなかった。
じりじりと後ずさる>>1000。
しかし、それを追うかのように近づいてくる>>999。
「はぁ、はぁ、おびえてる? 怖い? ねぇ、>>1000・・・」
959 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 22:51:29 ID:C4m4zeYv
「こ、怖いに決まってるよ・・・ ねぇ、一体どうしちゃったのよ>>999!」
「簡単な話だよ。あたし、>>998先生に貴女が大好きだって相談したんだよ。
大好き・・・、友達としてじゃなくて、Hとかする相手としても大好きだって」
「・・・!」
>>1000は>>999の告白を聞き、その異常性が深刻な物であると確信した。
だが、ここは校内でも最も人通りも少ない、地下1階の資料室。
おまけに広さも無い。
>>1000は逃げたくて仕方ないが、しかしそのチャンスは訪れそうにない。
「ね、ねぇ・・・、考え直すからさ! こないだの『嫌い』は冗談なの」
「もう、遅いよ>>1000。あたし、あなたを愛するためだけの身体になったから」
「え・・・!?」
>>999はなおも近づいてくる。
そこで>>1000は気づいてしまった。
>>999が近づくその一歩一歩こどに、彼女の股間から生えるものが脈打つことに。
「あは・・・、気づいた? これはただのち○こじゃないんだよ?」
960 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 22:56:26 ID:C4m4zeYv
「ち、ち○こって・・・」
「知らないわけないよね? 男の子のアレだって」
>>999はそんなことを言いつつも、更に距離を詰めてくる。
先ほどから同じように後ずさる>>1000だったが、いよいよそれも最後の時が来た。
ついに>>1000の背後は壁しか無い状態となったのだ。
「こうやって、>>1000に近づいてる間もね。あたし、>>1000を愛してるとこをイメージしちゃうんだ。
そうすると、なんだか本当に愛してるみたいな感じになっちゃってさ・・・
ま○こもち○こも、両方とっても気持ちよくなれちゃうの」
「ひっ・・・」
逃げる場所を失った>>1000は、あと2メートル程度に近づいた>>999の姿を見ることしか出来ない。
「>>998先生はね・・・、愛するのは良いことだって教えてくれたんだよ。・・・んんぅ」
くぐもった声と同時に、>>999の股間は更に凶悪な物へと進化していく。
最初に生えた物の周囲から、細い管のような触手が現れたのだ。
961 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:01:51 ID:C4m4zeYv
「ふふ、どうかな? >>998先生がくれた子。>>1000を愛するためだけの子なんだよ」
言うと、>>999は股間の中心にあるそれを両手で包むように握った。
そして・・・
「こう、やって・・・、擦るとね、あっ、どん、どん、気持ちよく・・・、なる、の」
「え・・・、それって」
>>1000の頭の中では「自慰行為」という語が浮かぶ。
しかし・・・、男性が行うような行為を>>999が行っている現実はおかしかった。
「ね、ねぇ! 今から病院行こう? ね? きっと治るからさ」
>>1000は>>999が何か悪性の病に冒されていると勝手な判断をした。
だが、その発言と姿は結果として・・・
「あん、あたし、病気なんだ、よ? でね、そのまんま>>1000を愛しちゃうと、>>1000にも、
伝染っちゃうか、ら、>>998先生、に、この子をもらった、んだよ・・・あ、出る、出ちゃう!!」
>>999が股間のそれを擦る速度は、どんどん速まっていた。
やがて股間のそれは硬度を増し、また膨張していき・・・、
「ああああっ!」
びくん、と大きくそれははねると、先端からは黒く濁ったゲル状の液体が大量に放たれた。
962 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:05:38 ID:C4m4zeYv
液体はそのまま、>>1000の全身に浴びせられる。
「だめ、止まらないぃぃいいいい! >>998先生の、言う通り、だぁああ!」
「>>999、やめて、やめてぇぇええ!」
>>1000はパニック状態に陥るが、もはや>>999を止めることは出来ない。
「あぁ、>>1000、犯す、犯すうううう」
「いやああああ!」
壁際に追い詰められていた>>1000は、瞬くまま>>999の股間の触手に捕らわれる。
そしてそのまま・・・
「入れるよ、入れちゃうよぉ」
「だめ、やめてぇ!!」
ずぶずぶと音が聞こえるかのように、>>999の股間のそれは>>1000の中へと侵略していく。
勿論、先ほどから黒く濁った液体は止まらないままだ。
「あったかい、あったかいよぉお・・・、もっとも出すの、>>1000の中に出すのぉ」
「あっ、あっ・・・」
その凄まじいまでの性愛を全身で受け止めることしか出来ない>>1000。
もはや言葉を発することすら不可能なまでに、彼女は>>999の愛を享受していた。
963 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:09:28 ID:C4m4zeYv
「・・・」
別室では白衣の人影が立っていた。
その耳にはカナル式のイヤホン。
「ふふ・・・、>>999は本当に>>1000が大好きなのね」
呟くと、傍らに設置されているコンピュータを操作し始める。
「すぐに>>1000の子宮は黒精で満たされる。二人はこの校舎に無限の性愛をもたらす」
イヤホンからは、別室の>>999と>>1000の声。
コンピュータにはその別室の映像と何らかの計算結果。
「もうじきお盆だしね。くく・・・」
満足そうな笑みを浮かべ、白衣の人影はキーボードを操作し始めた。
964 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:13:39 ID:C4m4zeYv
「も、だ、め、ゆる、し・・・」
「大好きだよ、大好きぃ、>>1000、だいすきぃ、はぁ、いい、だいすき」
自らの愛を言葉で、身体で、性愛で表現する>>999。
もはや>>1000はそれに耐えられないのか、まともな声は出ない。
しかし。
「たす、け、・・・ ああ、あああ・・・」
救助を求めるような声をわずかに上げていた>>1000だったが、様子が変化した。
虚ろな目つきで、か細いうめき声を上げはじめたのだ。
だが>>999はそんなことを感じさえもせず、ひたすらに>>1000を突き上げ、腰を打ち付け、
そして自らの黒い欲望を>>1000の中へはき出し続ける。
「あああ・・・」
>>1000は自分の中に放たれた液体が、自分を変えていることを感じた。
身体の様々な部分が、至る場所の細胞が、自分の思考が。
全てが別な物に変わっていく・・・
965 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:18:11 ID:C4m4zeYv
「>>999。離して」
突然、はっきりとした声を>>1000を上げたかと思うと、>>999を吹き飛ばした。
どけたのではなく、部屋の反対側へ吹き飛ばしたのだ。
「>>999。あたしを仲間にして、愛するつもりだったんでしょ」
「う・・・」
「それは無理。だって」
そこまで言うと、>>1000の身体が変化しはじめた。
美しい黒髪は青く微細な触手に。
肌には妖しい模様が浮かび、秘所はまるで食虫植物のような形状の触手。
「あたし・・・、適性があるから」
突如として>>1000は>>999の目前へと移動した。
既に人外である>>999の目にも見えなかったのだ。
「さぁ、あたしの僕に」
>>1000の口から太い触手が現れると、>>999の口内へと入り込んでいく。
966 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:22:07 ID:C4m4zeYv
>>999は抵抗しない。
むしろ、抵抗出来ない様子であった。
>>999の口内に突入した触手は先端が分かれ、彼女を>>1000の僕とするべく活動する。
脳に入り込んだ物は>>999の脳を溶かし、再構築を行う。
各種の臓器に入り込んだ物は、>>1000の種族として相応しいものへと作り替える。
性器に入り込んだ物は、その性器を>>999と同様のものへと作り替えた。
「立って」
「・・・」
>>1000の命令に従い、>>999は立ち上がる。
その姿は>>1000と同じような物であった。
「行こう。あたし達が永遠に愛し合える世界を作るの」
>>999と>>1000は部屋を出る。
残されたのは、二人の激しい性愛の後であった・・・
967 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2009/08/17(月) 23:22:47 ID:C4m4zeYv
投下しておられた方がいたので、埋め側でやってみました。
久々に早く帰れたので・・・
まだしばらくちゃんと時間作れそうにないですOTL
(ゆうと私 前編)
936 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 11:30:03 ID:eoTp0hKU
(1-1)
私が生まれてから4日目。私はまだ寄生を始めていなかった。それは宿主になる生命体が存在しなかったからではない。
寄生目標生命体はこの星で最大の個体数が生息する「人間」。私はこの星にやってきた最初の寄生体として子供を増やし、最終的に全人類への寄生が私に与えられた使命とされていた。
卵だった私が落ちたここはどうやら小さな島国だったようだが、それでもその人間という生命体はどこを見ても存在していた。
しかし私は「それ」に寄生する気にはなれなかった。なぜなら街という集落を練り歩く彼らの表情はそのほとんどが同じようなものだったから。
どれもつまらなさそうな顔をして、すれ違う多くの仲間達には挨拶もせずに彼らは過ごしている。私自身が生まれたのはこの星だが、
それでも私の種が巡って来た星ではそんなことがまったくなかったというのが記憶として埋め込まれている。
だから私はそれを見て思わず疑ってしまった。本当に「これ」がこの星で一番の知性を持ち、星を埋め尽くさんばかりに生きている生命体なのか、と。
だって、その周りを飛行する生命体や、木にしがみつく小さな生命体のほうが仲間達と充分にコミュニケーションを交わしているではないか。
そのため、私はそんなことも出来ない生命体に寄生など「したくもなかった」。だが、生まれてから寄生せずに生きていられるのは7日間。
既に3日は人間と言う生命体の奇異な生物社会に圧巻されるばかりの毎日を過ごしてしまった。もう私に多くの時間はない。
私は木に作られていた穴から這い出ると、安全のために硬化させていた全身を元の液状に戻した。
そして身体の一部分を隣の木に飛ばし、そのたどり着いた身体の一部に引き寄せられるようにして
隣の木に移動するという方法を使っていつものように宿主探しを始めた。
私はまた街に溢れかえる「あれら」の下らない生活を見るのかと思うと嫌気がさしたが、
ふと視界に入った西から昇って来た力強い太陽に少しだけ私は元気付けられた。
937 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 11:37:54 ID:eoTp0hKU
(1-2)
「はぁ……やっぱり無理」
私はこの数日である程度覚えてしまったこの国の人間の言葉でそう独り言をこぼして落胆した。もう4日目に昇った日は逆の方角に移動し、沈んでいこうとしている。
とにかく私は人間の中でも私の理想に近い者に寄生をしようと心に決めていた。その理想は自らの仲間である人間としっかりとコミュニケーションを取れている人間にしようという、
当初の私からは大分低い理想を掲げることにしていた。
よさそうな人間は何人かはいた。自らより長く生きている仲間を手助けする若い雄、多くの仲間と共にはしゃぐ若い雌、
白い建物の前で道案内をしている青い衣を纏った雄、住処の近くで似たような体型の雌と大声で笑い合う丸い体型の雌……そうした人間を見つけるたびに
私は「それ」を尾行して本当に宿主に相応しいかを調べた。
結果から言えば、どれも呆れるような人間だったけど。自然に浄化できないようなものを道に捨てたり、先ほど会ったばかりの仲間の悪口を他の仲間と話しているところを見たら、
とてもじゃないが寄生する気にはなれなかった。
木の上から下の風景を覗くと、幼い何人かの人間達が砂で山を忙しそうに作っていた。彼らは仲間にしきりに声を掛け合い、その顔は純粋そうな笑顔で満ち溢れていた。まったく、
歳を取った者より彼らのほうがよっぽどコミュニケーションがとれているではないか。私は思わず呆れてしまった。
しかしながらあんな幼い人間に寄生しても、私がいずれ生むであろう卵の事を考えるとあまり良い宿主とはいえなかった。
暫くその様子を私は見ていたが、彼らは大きな山を作る喜びを分かち合った後、別れの挨拶を交わしておそらく自らの家族の元へと帰っていった。
途端に見るものがなくなり、私は赤く染まる空に視線を動かした。
宿主が見つかっていないのに私がこんなに悠々と過ごしているのは、もし期日が迫るまでに宿主が見つからなくてもそこらへんの人間に寄生をしようと考えているからだ。
そう、私自身も今日の観察で宿主に関して大分割り切れるようになった。
どうせ宿主を見つけても、2週間以内に次の宿主を見つけなければその宿主の身体が拒絶反応を起こして耐え切れなくなり、腐敗し始めて
しまう。つまりどんなにいい宿主を見つけても、その宿主の身体にいられるのは2週間が限界と言うことだ。
それでもすぐに寄生を開始しなかったのは、これが私の初めての寄生でその人間が私の初めての宿主になるからだった。だからせめて最初
だけは理想に近い宿主を見つけたかった。宿主に寄生すると、その次の宿主に私が寄生するまでは元の宿主の意識は昏睡して私の意識しかなくな
るのだが、それでも私にとってはなるべく良い宿主を見つけるということは譲りがたい部分だった。
「あ、ネコ君やっと見つけた!」
そんな時、私が居た公園の外から声が聞こえ、私は暇だったこともあって興味を注がれてその声の主を探し始めた。
938 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 11:48:27 ID:eoTp0hKU
(1-3)
「ほら、今日はすっごく高い“ネコの、ネコによる、ネコのためのネコ缶”を買ってきちゃったよ~」
私が公園のすぐ近くにある人間の家の屋根にから見えたのは、若い人間の雌が猫という生命体になにやら餌のようなものを与えているという場面だった。
餌の缶を開けている人間のほうはいかにも嬉々としているのだが、一方の猫のほうはといえば馬鹿な「カモ」がまた来た、と鳴き声をあげている。
「あぁ~、またそんな鳴き声と愛くるしい顔で……。待ってね、今開けるから!」
理解できていない人間のほうには、それがまったく伝わっていないようだが。
私は滑稽に思いながらも、興味を引かれたその様子を覗き見していた。
開けた餌を猫の前に置くと、猫は待ってましたばかりに餌にかぶりついた。その様子を満足そうに人間は見ている。
すぐに餌はなくなったようで、猫は餌の入っていた容器から顔を上げると、恩知らずも甚だしく人間に尻尾を向けて歩き始めた。
「ああ! ネコ君待ってよ!」
人間はそれを追いかけようとしたが、猫は素早く家の塀に登ると、その向こう側へと消えていった。
静まり返った道路で人間が一人、空になった容器をじっと見ていた。
しかし、やがてその雌の人間はその場にしゃがみこんで俯いてしまった。その肩がわずかに震えているように見えた。
それが泣いているということは、これまでの経験上すぐに分かったが、その行動は私にとって以外だった。
何故なら私は似たような場面を2日ほど前に見たからだ。そのとき、猫に愛想を尽かれてその場に一人残された人間は
何事もなかったかのようにすぐにその場を歩き去ったのだ。
そうでなくても人間というのはあれだけ人に会いながらも、何も声を掛けていないのだ。
それの方が私はよっぽど悲しい出来事だと思っていた。
しかしこの人間が泣いている理由はおそらく猫に逃げられたから。人間的に言えば他の生物に逃げられただけで、この人間は泣いている。
それが不思議に感じて、私は本当は泣いているわけじゃないのではないかと考え、屋根から身を乗り出した。その人間がもっと見えるように
しかしそれが失敗だった。
身を乗り出しすぎた私の身体は、気付けば全身の半分以上を宙に預けていた。そして重力で私の身体は地面へと引きずられ始めた。
ゆっくりと私の身体は落下し、私が昇っていた家の下に合った塀に見事に直撃。ビチャ、という音と共に私の身体はバラバラに粉砕し、その半分ほどが道路に落下した。
しかし私が何もしなくてもすぐに私の身体は勝手に修復をはじめ、あっという間に元に戻った。
問題は私が塀に直撃をした辺りから、一人の人間にその様子を見られてしまっていたことだ。
それを見ていたのは先ほどまでしゃがみこんでいた雌の人間であった。
939 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 11:53:59 ID:eoTp0hKU
(1-4)
「それ」は私が分裂し、元に戻る肯定を目を丸くしながら見ていたが、私が元の形に戻るやいなやこちらに駆け寄ってきた。この行動自体不思議だった。
人間と言うのは気味の悪いものを見れば、まず逃げ出す生物だと経験上思っていたからだ。
その私の経験則を裏切って私に駆け寄ってきた人間は、私の元でまたしてもしゃがみこみ一瞬だけ私の様子を見ていたかと思うと、私の身体を指でツンツンと突いてきたのだ。
「わ、わ! プニプニしてる!」
私の身体をさも楽しそうに突きながら人間は笑った。私はむずかゆい感覚を覚えながらも、危機感を感じていた。しかしそう身体が警告を発しながらも私は動けなかった。
何故なら、私が分裂した瞬間、こちらを向いた人間の目にはやはり涙が浮かんでいたからだ。それを見てやはりこの人間はどこか他の人間と違う気がして私は興味を注がれたからだ。
つまり私は、この人間に興味を持ち始めていた。
それはどちらかといえば寄生という目的ではなく、ただ単にこの人間について知りたくなっていた。
「可愛いなぁ、この子。ほれ、ほれ」
そんなことを考えている間にもこの人間は飽きることもなく私の身体を突き続ける。それは先ほどの子供が山を作っているときの無邪気さを感じさせた。
その時、この人間はふと私から視線を外して道の向こうから歩み寄ってくる若い雄の人間を見て、
驚いたような表情を浮かべ、そしてすぐに視線を泳がせた。
その人間の雄は携帯電話機で誰かと話すことに夢中らしく、私にも私を突いていた人間にも気付いている様子はなかった。
「あ、あのごめん!」
突如私の身体から指を引き抜いた雌の人間は、私に向かってそれだけ言うと、何を思ったのか先ほど猫の餌を入れていたビニール製の袋に
私を無理矢理詰め込んでその口を固く縛ってしまったのだ。
私はとっさのことに何一つ文句も言えないまま、大きく揺れ始めた袋の中を右往左往していた。どうやら私を閉じ込めた人間が走り出したらしい。ビニールからぼやけて見える景色がめまぐるしく動いている。
その私にぴたりと当たる温かい感触があった。どうやらそれは形から察するに彼女の胸らしい。その二つの渓谷に私を抱えながら走っているようだ。
そこから伝わる人間の体温と、走っていることから来る振動よりも弱い振動ながらもなぜか力強く感じる「それ」の心臓の鼓動を感じながら、私は拉致されたという不安よりも
これからこの雌の人間について色々と知れるのではないかという期待があったことに気付いた。
941 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 13:12:03 ID:eoTp0hKU
「やっほ! ごめん、ごめんね!」
それから3分ほどして私はやっと袋から出してもらうことが出来た。呼吸はしない身体でも、外に出してもらって全身に感じた空気はとても気持ちよかった。
私を両手で持ち上げた人間は、ゆっくりと私を木目のテーブルに置いた。部屋の中は猫や犬などの生物を模した置物などが部屋中に置かれていた。
「ねぇねぇ、君ってどこから来たの? 沖縄? 北海道? あ、外国? それともまさか、宇宙?!」
人間はまたしても私を突きながら聞いてきた。私はおそらくこの人間と会話を始めてしまえば、面倒なことになるということを本能的に予感し、押し黙ることを決めた。
「……う~ん、やっぱり言葉は喋れないよね~。でも、君って生きてるんだよね? さっきもあんな風にバラバラになったのに元に戻っちゃったもんね」
人間は私の端と端をつまんで軽く左右に引っ張り、私の身体が伸びる様子を見て楽しそうに笑った。
「あ、でもこのマンションってペット禁止なんだよね……」
人間は勝手に話を進め、そして勝手に悩み始めた。別に無理に一緒に過ごすこともないので、どうせなら出て行きましょうかねぇ? 私はとりあえず
あなたがどうして普通の人間と違う感じに見えたのかが知りたいだけだから。
そんな風にならないかなと思っていると、人間は勝手に何かを思いついたように口を大きく開くとこう言った。
「なら、君は今日から私の“同居人”ってことにしよう! はい、決定! 頭良い、私!」
人間は満足そうに宣言を終えると、飽きることもなくまた私をいじり始めた。
「そう言えば、君って何を食べるのかな? ちっちゃい虫とか小魚? あ、でも口がない。じゃあ水とかジュースとかなら……ってあれも口から入れるものだよね」
そう言って人間は立ち上がると、なにやら白い大きな入れ物の中を物色し始めた。確かあれは食料とかを冷やすための冷蔵庫とかいう物だったかな。
「あ、そうだ! さっき1個持っていかなかったのがあるや」
何を思い出したか、冷蔵庫を勢いよく閉めると、人間はそのまま私の視界から消えたと思ったらすぐに戻ってきた。その片手に見覚えのあるものを携えて。
「はい、これ高いんだよ! その名も“ネコの、ネコによる、ネコのためのネコ缶”!」
……先ほど口がないということにこの人間は気付いたはずであり、そのちょっと前にこれを食していた猫は口からこれを食べていたということ
もあったのに、人間は私の前に既に蓋がないネコの餌を置いた。……言うまでもないと思うけど、私がネコじゃないことには
気付いているんだよ、ね……?
私は頭を悩ませた。一応、溶解さえすれば身体に取り込むことは可能なものであろう。しかしそれで栄養を補給できる身体でない私にとってそれはあま
り意味のない行為といえる。それにこの人間の前で変な行為をすれば、更に面妖なことをやらされかねないような気がしてならない。
そして何より……私にもなぜ備わっているか不明なのに味覚というものが存在している。しかし食欲自体がない上にする必要もないものだから、この星に来てか
らというものそこまで進んで食事を摂ったことはない。それでも興味本位で人間が食べているものをいくつか口にしたが、なるほど中々私の口にも合うものであった。
それなのに私の前にはネコの餌が出されている。これはその名前のとおり、ネコのための餌なのだろうから人間が食べるに適していないものなのだろう。
そうだとすれば、私が食べても決して美味しいものであるとは思えない。
942 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 13:23:47 ID:eoTp0hKU
(1-6)
だから結論として私は食べたくはない。食べたくはないのだが……私の様子をじっと見ている人間の顔は、期待に満ち溢れていて、目が眩しく輝いていた。
このまま何も反応をしないでじっとしているには、かなりの障害要素だ。
それでも、どう考慮しても私はそれを食べる気にはなれなかったので、わずかに身体を動かしてゆっくりと餌の容器を遠ざけようと押してみた。
しかしわずかに私から容器が離れた出した瞬間、人間が容器を片手で掴み、元の場所まで押し返してきた。
「だめだよ、口もつけずに。ためしに食べてみようよ、ね?」
人間はそう言うと、なんと容器の中身を指で少しすくうと自らの口に運び込んだ。しかしその直後、口の中に入れた指を抜き出すこともせずに動きが硬直する。
その表情も笑顔のまま時が止まったかのように固まっている。
それから10秒ほどして、やっと人間は再び動き出した。一人で納得するように頷き、私にこう言った。
「うん、独特な味だね。さっ、君も食べてみようね?」
嫌です。絶対に嫌です。だってそれはやはり不味いということでしょう? だって確かにこの国は夏という温暖な季節に入っているらしいが、明らかに先ほどまで
はなかった汗があなたの額から発生してるのに……そのような様子を見させておきながら私にまだ食べさせようと試みるのか!?
当然私は餌の容器を私から遠ざけようとした。しかし、先ほどより力強く私が押そうとすると、負けじと人間も強く押し返してきた。
暫く私と人間の無言の鍔迫り合いが続いた。正直に言えば、私の身体を硬化させれば人間にはとても出せないような力で押し返すことができたのだが、何故だかそんなことをしたくはなかった。
それをしてしまえば、なんだか興ざめしてしまうような気がしたからだ。
そう、つまり私はそれを楽しんでいたのだ。その無言のコミュニケーションを。
やがて私は降参して仕方なく押すのをやめた。人間はそれに納得したのか、満足そうな笑みを一層強め、そして餌を指し示した。
私は気を落ち着かせると、ゆっくりと身体の一部をその餌の片隅に載せ、その部分から餌を身体の中に吸い寄せた。ちぎれた餌の破片が私
の身体の中でぷかぷかと浮かんでいる。後は溶解するのみ。
羨望の眼差しを受ける中、私は決心するとその餌を一気に溶解した。……あれ、味がない?
そう思った次の瞬間だった。
「うぁああああ、不味い……」
そんな声を私は聞いた。私の味覚は溶解を始めた当初、何も反応を示さなかった。しかし、やがてじわじわと私の味覚に
面妖な味が広がっていった。これは……ないよ。
ふと、味覚が発し続けていた反応が薄れ始めたとき、私は人間が丸い目で私を見ていることに気付いた。
はて、私は何かしてしまったのだろうか?
ん? してしまったのだろ……。
してしまったの……。
「しゃ、喋ったぁあああああああああ!」
……してしまった。私は思わず自分がしてしまったことを理解した。ああ……恥ずかしい。
私のことを両手で掲げて、満面の笑みを浮かべながら私を覗き込む人間を見て、私はあることを考えていた。この国の人間は確かこんな時
に何というのだっけ、と。
程なくして私はそれを思い出した。そうだ、こう言うのだ。
「穴があったら入りたい」と。
944 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 13:57:10 ID:eoTp0hKU
(1-7)
さて、それから私は色々なことを人間に聞かれた。どこから何をしに来たのか、どうやって来たのか、何を食べるのか、
身体に触っても怒らないか……などなど。
そのほとんどの問いに私は曖昧な答えを提示をすることにしていた。いや、最初はどうにかだんまりを決め込もうとしていたのだが、
この人間はいやにしつこい部分がある。私がだんまりを始めると人間は私の身体をいじくりまわしながら、「答えてよぉ~」などと駄々をこね始めるのだ。
まったく持って、私を何だと思っているのか。
挙句、黙る私を火で炙ろうとしたり、電子レンジと呼ばれる機械で加熱する、という脅しをしてきたので私はしぶしぶ答えていた。
「でも、嬉しいなぁ。こんな可愛い子を見つけられたなんて」
「あの……私は可愛い、かな?」
私は正直、この人間の「可愛い」という判断基準が分からなかった。だから、それをそのまま聞いてみた。
すると、人間は突然と顔が真剣になり、そしてこう言った。
「可愛いよ!」
有無を言わさぬ口調でたった一声、人間はそう言った。私はその威圧に押されて何も言えなくなってしまった。
と、いうよりこの人間が可愛いというのならそれでいいではないか、と自分に言い聞かせて納得することにしたのだった。
「それに、私は嬉しいなぁ。私って一人ぼっちだからさ」
「あなたには」
「さ・え・き・か・お・る、だってば。ゆう、って呼んでね」
人間は私にそう呼ぶことを強制した。まったくもって面倒な人間である。そして「ゆう」という愛称は一体どこから捻り出された
愛称なのだろうか。
「ゆうには親はいないの?」
「ああ、私も人間、というか生き物だから親はいるよ。ただ、お父さんとお母さんは離婚しちゃって、私はお母さんと暮らしてたんだけど、
私が中学卒業すると同時に別の人と再婚して、その人の子供が出来ちゃってて。だから私は中学卒業すると同時に一人暮らし。
一応仕送りとしてお金は送ってもらってたんだけど、1年ぐらいでそれも止まっちゃってさ。連絡もつかなくなっちゃった」
そう言ってベロンと舌を出して頭を掻いた。うーん、やはり人間の社会と言うのはすごく複雑に感じる。
けど、つまりこの人間は自らの両親に捨てられたということになるのだろうか。私には信じられないな。
私自身、卵の私を産んだ親を見たこともないが、記憶によれば親にとって子は愛しくなって当然というものらしい。
だから私にはその愛しいものを自ら放り出すこと自体が信じられない。
「寂しくなかったの?」
私は思わず聞いてしまった。すると人間は笑ってこう答えた。
「そりゃ、やっぱり寂しかったよ。けど、中学時代の友達が励ましてくれたりして……」
話していた人間から突然、笑いが消え去り今までと同じ人間が発しているとは思えない暗い雰囲気を漂わせた。
私は黙ったまま下を向いてしまった人間に、どう声をかければいいのか分からなかった。
それにそれまでの印象からかけ離れた状態の人間に、そう、少なからずの恐怖を感じていた。
すると先ほどまでの輝きを失った両目で人間は私を見ると、まるで無機物が言葉を発しているかのような口調で話し始めた。
945 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 14:12:59 ID:eoTp0hKU
(1-8)
「1年後に仕送りが止まった。困ってたらその友達に声掛けられた。仕事くれるって言ってた。私は着いて行った。そしたら……レイプされ
ちゃった。いろんな男の人に。それでお金貰った。1円。友達が「ばーか」だって。私、泣いちゃった。その男の子、好きだったから」
冷たい言葉の連鎖が私を襲った。聞きなれない文の構成のはずなのに、私にはこの人間が何が言いたかったのかが、返ってよく理解できた。
つまりこの人間は、この人間が好んでいた雄の人間に騙され、雄に無理矢理交尾を強制させられたのだろう。そして1円と言うこの国の最低額の金銭を貰い受け、
最後にその好んでいた雄に罵倒された。
「なに、それ? ……なんで? なんでそんなことされるの?」
私には……分からなかった。なんでこの人間はそんな目に会っているのだろうか。一体この人間が……「ゆう」が何をしたというのだろうか?
親に捨てられて、生きていくための金銭も遮られて、挙句の果てに好んだ雄には騙され……なんでその非道な仕打ちを「彼女」が受けなければならないのだろうか?
「おかしいよ。なんで、なんでそれでゆうは笑ってるの? なんで、なんで怒らないの? そんなことされ」
「怒るに決まってるじゃない!」
ゆうが大声で叫んだ。長く垂れた髪のせいで顔は見えないが、その肩はつい数時間前に見たときのように震えていた。
そしてその時、彼女がなぜあの時にも同じように泣いていたのか、分かった気がした。
何故なら私も今、とても……そう、とても悲しい気分になっていたから。
ゆうの顔から一粒の雫が落ちた。それは私にはとても生み出せないほど綺麗で、そしてとても儚げなとても小さな、小さな雫だった。
「ごめん、なさい」
私は思いついたその単語を口にした。何故なら私は彼女自身が痛いほど理解していることを、それこそ馬鹿みたいに改めて聞いてしまったからだ。
「本当にごめんなさい」
私はそれ以上どうすればいいのか、分からなかった。私には彼女とコミュニケーションする言葉しかない。彼女と同じように涙も流せない
ほど、私は無力な存在だから。
すると、ゆうは顔をゆっくりと顔をあげて私を見た。その目は輝きを失ったままだ。彼女は私を許す気はないらしい。当たり前だ。
そう思っていたのに、彼女は私をゆっくりと抱き上げてその胸に私を抱いた。私は驚いたが、そのシャツから伝わる温かいぬくもりを
決して離さないようにしがみついた。
「ありがとう。君も泣いてくれたんだ」
ゆうはそう言って私を一層抱きしめてくれた。顔を見ると、先ほどの眩しいほどの輝きではない、夜空の月のような優しい光が瞳に灯っていた。
946 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 14:24:51 ID:eoTp0hKU
(1-9)
ゆうは私を胸から離して顔の前まで持ち上げて、久しぶりの笑顔を私に見せてくれた。
心地よいぬくもりが離れてしまって少しだけ寂しかったが、ゆうの笑顔は綺麗で、とても可愛いものだった。
「ねぇ、君って男の子?」
「私に具体的な性別はないよ」
私の種の寄生体には感情があるため、性格の差は少しずつ存在するが、繁殖方法から性別という概念はなかった。
「へぇ……でも君は女の子だよ」
「そうかな?」
私がそう聞くとゆうは自信に満ち溢れた様子で力強く頷いた。
「そうだよ。君が男の子だったらこうして話せない。だって私、男の人が苦手だもん」
「当たり前だよ。あんな事されたら」
「ううん、当たり前じゃないよ。だって男の人は女の人を好きになって、女の人は男の人を好きになるのが人間で一番多いんだよ?
そうじゃなきゃ子供がいなくなっちゃうよ」
「それは大半の人がゆうみたいな辛い目に遭遇してないからだよ」
そう言ってしまって、私はすぐに酷いことをまた言ってしまったと気付いた。
「ご、ごめんなさい!」
「あはは、気にしないでいいよ。君は優しいね。私以上に「ゆう」って名前が似合う子だよ」
「え? どうして?」
私が聞くとゆうは少しだけ恥ずかしそうにして、少しだけ小さな声で言った。
「『優』しいっていう言葉がこの国にはあってね、その一文字目の漢字の別の読み方から取って自分でつけた愛称……ううん、名前なんだ。
優しい人になれますように、ってね。……あはは、恥ずかしいや」
「なんでよ、すごくいいと思うよ。けど、なんで優しい人になりたいの?」
私も優しいというのは良い事だと理解はしているが、それを自らの名前にまでしているのにはそれなりの理由があるのではないかと思ったから
聞いてみた。
「それは、もしかしたら実は私を騙した友達に私は以前に酷いことしちゃって、そのせいで私は騙されたかもしれないと思ったからなんだ」
「でも、そんなことした覚えがあるの?」
「私自身は正直した覚えはないんだ。けど、テレビとかでそういうドラマを見てたら、実は自分もそういうちゃんとした理由で騙されたんじ
ゃないかな、って思ったから。知らないところで人を傷つけたりとか、私に悪い部分があって、それで騙されたのなら少しだけ割り切れるよ
うな気がしたから」
「悪くない」
私は堪らずゆうの言葉を遮ってそう言った。ゆうは途端に目を丸くした。
「ゆうは絶対に悪くない。絶対に、悪くない」
私は自分に言い聞かすように言葉を発した。でも、ゆう自身も私の思いを分かってくれたようで私に優しい笑顔を向けてくれた。
947 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 14:41:41 ID:eoTp0hKU
(1-10)
「ありがとう。君は本当に優しい子だね」
そう言って私をまた私をぬくもりが詰まった胸に抱いてくれた。
「けどそう割り切っても、やっぱり男の人は好きになれないんだ。ううん、違う。はっきり言って嫌い。だいっきらい」
「私も嫌い。だいっきらい」
私もゆうに負けじと言うと、ゆうはまた目を丸くして、それから段々と湧き上がるように笑い出した。
「あははははっ! 本当に君は、優しい子だよ」
そう言って抱いたまま私を優しく突いてきた。先ほどまではうるさく感じていたそれも、今となってはとても気持ちがいい。
「ねぇ、そう言えば君の名前は?」
「名前なんて持ってないよ」
「ありゃりゃ、そりゃ可哀そうに。……あ」
ゆうが何かを思いついたように少し不敵に笑い、そしてこう言った。
「じゃあ、私の名前あげるよ。今ならもれなく苗字つきで。あ、『ゆう』って名前じゃないよ?」
「え、それはだめだよ。そういう名前って親から貰ったものなんでしょ? 大事にしないと」
私がそう言ってやめさせようとしても、ゆうはこう言い切ってしまった。
「いいのいいの。私には『ゆう』って名前があるから。……って言っても名義とかには使えないと思うから、そう、共有ってことにしよう。はい、決定!」
またしても強制的に話は進められてしまい、ゆうは一人で拍手をした。その様子を見て、私も反論するのに気が引けてしまいやめることにした。
「じゃあ、よろしくね。かおる」
首を傾けて改めてゆうは私に挨拶をしてきた。
「こちらこそ、ゆう」
こうして私は彼女の名前に寄生する事になった。
949 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 19:50:59 ID:eoTp0hKU
(1-11)
「ふう、ただいまぁ~」
私がこの星に生まれてから5日目の夕方。茶色い鉄のドアを開けて、両手に袋を持ったゆうが家に帰ってきた。私は茶の間から玄関の靴箱まで、素早く移動して彼女を出迎えた。
「おかえり~。お仕事、お疲れ様です」
「ただいま、かおる。どう? 探してる人は見つかった?」
袋の中のものを冷蔵庫に入れながら、ゆうは私に聞いてきた。
「ううん、やっぱり見つからなかった」
「ありゃりゃ。うーん、やっぱり私も一緒に探すよ」
「いやいやいやいや、大丈夫だから、ね? ご安心を」
私は必死にゆうの心優しい提案を却下させてもらった。
結局、私はこの星に来た理由を「人探し」ということでゆうに伝えた。ある人物に私の種の更なる進化の可能性の道しるべとなる情報を聞き出す、というのが彼女に話した私の嘘の使命だ。
何故私が彼女自身に寄生をしないか。その理由はあまりに単純だ。
私が彼女を好きだからである。
私の宿主の理想など軽く越えてしまっている、そう愛すべき人物であり、逆にその理想を越えすぎてしまっているがゆえに寄生したくなかった。
では私はどうしようと考えているか。それは私の本当の使命を果たしながら、ゆうとの関係も持続できるような方法を必死に考えた末に出した策だった。
それは、ゆうが好きな人間の女の子として彼女の前に現れ、彼女と同じ人間の友達になることだった。
私に与えられた能力である宿主に寄生する能力と、寄生した宿主の身体をある方法で得た別の人間の情報を元に書き換える能力、つまり擬態能力。
この二つを利用して私が考えた策はこうだ。
まず、ゆうが好きそうな人物を見つけてその人物を見つける。そして見つかり次第、ゆうに別れを告げて私はこの家を去り、ゆうが好きな人物を「食べる」。
これがその人物に擬態するための情報を得る手段だ。そして後は、どんどんと宿主を乗り換えていきながら、ゆうに会うときだけ「食べた」人物に擬態して彼女と会う。
我ながら完璧な作戦だと思った。そう、私が今探している人物とは宿主の対象ではなく、ゆうが好きそうな人物なのだ。
しかしこれを闇雲に探しても中々見つからない。私はやはり、ゆうのような優しい人物を探したのだがどうしても彼女ほどに優しい人物は見つからない。
そこで私が目をつけたのは彼女が働く仕事場の雇い主だ。
950 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 19:56:13 ID:eoTp0hKU
(1-12)
ゆうはあの酷い事件の後、なんとか男性と接しないで済む仕事場を頑張って探したらしい。そしてやっとたどり着いたのが、キャバクラという店の清掃係と言う仕事だった。どうやらそこのオーナーが理解が事情を知って、理解を示してくれたらしい。
そのオーナーも当然女性であり、それもお店で人気NO.1とのことだ。
キャバクラという店は夜中に男を来店者として迎えるお店だが、昼間ならそうした客に会わずに済むのではないかというオーナーのはからいだったようだ。
そう、何とも素晴らしい人物ではないか。つい昨日、私もこっそりとその仕事場を覗きに行ってその人物を観察した。ゆうに見つからないようにする観察は思った以上に大変だったが、
そのオーナー自身も昼間だというのにパーソナルコンピューターや携帯電話機で店の仕事をどうやらこなしているほどの忙しい人物であるようだった。
その仕事ぶりのせいか、オーナーという人間社会では上流に位置する階級なのに歳も若く、やはり美人でナイスバディである。……私はゆうだって充分ナイスバディだと思うのだが、
彼女曰く「私が東京タワーなら、オーナーはエッフェル塔」という私には分かりづらい例えを言っていた。
まぁ、つまりゆうもオーナーという人物を敬愛し、私にも中々素晴らしい人物だと思っている。そのオーナー様には申し訳ないが私に「食べられてもらう」つもりだ。予定としてはこの身体で私が過ごす最後の日となる7日目、つまりは明後日に。
すぐに食べないのは、私もできるだけこの身体でゆうともう少しだけ一緒に過ごしたかったからである。私の身体は一度宿主に寄生してしまえば、この身体で活動できるのは宿主から宿主に移動するときに存在するごくごくわずかな時間のみだ。
その状態でゆうに会うのはかなり限界があると思った。
擬態してからもゆうに正体を明かすつもりもない。それは私自身がゆうと一人の人間として向き合いたいからである。
だから私はこの身体で彼女と会える残された時間で今しか作れない大切な思い出を作っておきたいと思った。もし、いずれ私が擬態してからその正体を明かしたいと思っても、もう彼女とこの身体で向き合うことは出来ないからだ。
「さて、と。一緒にテレビでも見よっか? 今ならドラマの再放送をやってるでしょ」
そう言って私をその胸に抱え込むと茶の間に移動してテレビのチャンネルを変えた。ちなみに私が先ほどまで見ていたのは人間がルールに従って競い合う、陸上という競技の大会だった。
なるほど、自分の身体をあのように使って様々なものに挑戦するのは中々面白い映像だった。
それから私とゆうは一緒にドラマを見た。それも中々面白い内容だったのだが、それよりも面白かったのはゆうがドラマで起こる一つ一つの出来事に喜怒哀楽をそれぞれ精一杯表していたからだ。
場面によってめまぐるしく変わるゆうの表情は見ててとても滑稽で、そして素直だと思った。
「ああ、面白かった。ね?」
「うん、とっても」
私がゆうの言葉に同意すると彼女も嬉しそうに笑ってくれた。
「本当にオーナーには感謝しないと。昼間に掃除しかできないのに、お給料は充分すぎるほどくれるし。そのお陰でかおるとこうして過ごせるんだもんね」
ゆうはそう言って窓の外を見た。今は力強く赤い空だが、数時間もすれば妖しい暗闇を孕んだ夜に変貌していく。これからがオーナーにとって本当に忙しい時間なのだろう。
そう言えば明後日から私がそれを引き継ぐことになるのだろうか? 正直私も男をお客とするそんな商売は絶対にしたくはないのだが、ゆうの仕事場がなくなるのは困ることだ。
まぁ、どこかの上流階級の人間に寄生したときにでもその金銭を流用してお店を切り盛りすれば大丈夫かな。
「さってと、じゃあよるごはんの用意をしようかな。今日は牛のお肉を買ってきたんだけど、君は食べられるかな?」
「うん。全然おっけーだよ」
毎回、食事を作る前に私がそれを食べられるかどうかをゆうは忘れずに聞いてくれた。でも、あれから何回かゆうの手作りお料理を食べさせてもらったが、やはり一人暮らしの経験が多いせいなのか、どれも美味しいものばかりだった。
(1-1)
私が生まれてから4日目。私はまだ寄生を始めていなかった。それは宿主になる生命体が存在しなかったからではない。
寄生目標生命体はこの星で最大の個体数が生息する「人間」。私はこの星にやってきた最初の寄生体として子供を増やし、最終的に全人類への寄生が私に与えられた使命とされていた。
卵だった私が落ちたここはどうやら小さな島国だったようだが、それでもその人間という生命体はどこを見ても存在していた。
しかし私は「それ」に寄生する気にはなれなかった。なぜなら街という集落を練り歩く彼らの表情はそのほとんどが同じようなものだったから。
どれもつまらなさそうな顔をして、すれ違う多くの仲間達には挨拶もせずに彼らは過ごしている。私自身が生まれたのはこの星だが、
それでも私の種が巡って来た星ではそんなことがまったくなかったというのが記憶として埋め込まれている。
だから私はそれを見て思わず疑ってしまった。本当に「これ」がこの星で一番の知性を持ち、星を埋め尽くさんばかりに生きている生命体なのか、と。
だって、その周りを飛行する生命体や、木にしがみつく小さな生命体のほうが仲間達と充分にコミュニケーションを交わしているではないか。
そのため、私はそんなことも出来ない生命体に寄生など「したくもなかった」。だが、生まれてから寄生せずに生きていられるのは7日間。
既に3日は人間と言う生命体の奇異な生物社会に圧巻されるばかりの毎日を過ごしてしまった。もう私に多くの時間はない。
私は木に作られていた穴から這い出ると、安全のために硬化させていた全身を元の液状に戻した。
そして身体の一部分を隣の木に飛ばし、そのたどり着いた身体の一部に引き寄せられるようにして
隣の木に移動するという方法を使っていつものように宿主探しを始めた。
私はまた街に溢れかえる「あれら」の下らない生活を見るのかと思うと嫌気がさしたが、
ふと視界に入った西から昇って来た力強い太陽に少しだけ私は元気付けられた。
937 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 11:37:54 ID:eoTp0hKU
(1-2)
「はぁ……やっぱり無理」
私はこの数日である程度覚えてしまったこの国の人間の言葉でそう独り言をこぼして落胆した。もう4日目に昇った日は逆の方角に移動し、沈んでいこうとしている。
とにかく私は人間の中でも私の理想に近い者に寄生をしようと心に決めていた。その理想は自らの仲間である人間としっかりとコミュニケーションを取れている人間にしようという、
当初の私からは大分低い理想を掲げることにしていた。
よさそうな人間は何人かはいた。自らより長く生きている仲間を手助けする若い雄、多くの仲間と共にはしゃぐ若い雌、
白い建物の前で道案内をしている青い衣を纏った雄、住処の近くで似たような体型の雌と大声で笑い合う丸い体型の雌……そうした人間を見つけるたびに
私は「それ」を尾行して本当に宿主に相応しいかを調べた。
結果から言えば、どれも呆れるような人間だったけど。自然に浄化できないようなものを道に捨てたり、先ほど会ったばかりの仲間の悪口を他の仲間と話しているところを見たら、
とてもじゃないが寄生する気にはなれなかった。
木の上から下の風景を覗くと、幼い何人かの人間達が砂で山を忙しそうに作っていた。彼らは仲間にしきりに声を掛け合い、その顔は純粋そうな笑顔で満ち溢れていた。まったく、
歳を取った者より彼らのほうがよっぽどコミュニケーションがとれているではないか。私は思わず呆れてしまった。
しかしながらあんな幼い人間に寄生しても、私がいずれ生むであろう卵の事を考えるとあまり良い宿主とはいえなかった。
暫くその様子を私は見ていたが、彼らは大きな山を作る喜びを分かち合った後、別れの挨拶を交わしておそらく自らの家族の元へと帰っていった。
途端に見るものがなくなり、私は赤く染まる空に視線を動かした。
宿主が見つかっていないのに私がこんなに悠々と過ごしているのは、もし期日が迫るまでに宿主が見つからなくてもそこらへんの人間に寄生をしようと考えているからだ。
そう、私自身も今日の観察で宿主に関して大分割り切れるようになった。
どうせ宿主を見つけても、2週間以内に次の宿主を見つけなければその宿主の身体が拒絶反応を起こして耐え切れなくなり、腐敗し始めて
しまう。つまりどんなにいい宿主を見つけても、その宿主の身体にいられるのは2週間が限界と言うことだ。
それでもすぐに寄生を開始しなかったのは、これが私の初めての寄生でその人間が私の初めての宿主になるからだった。だからせめて最初
だけは理想に近い宿主を見つけたかった。宿主に寄生すると、その次の宿主に私が寄生するまでは元の宿主の意識は昏睡して私の意識しかなくな
るのだが、それでも私にとってはなるべく良い宿主を見つけるということは譲りがたい部分だった。
「あ、ネコ君やっと見つけた!」
そんな時、私が居た公園の外から声が聞こえ、私は暇だったこともあって興味を注がれてその声の主を探し始めた。
938 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 11:48:27 ID:eoTp0hKU
(1-3)
「ほら、今日はすっごく高い“ネコの、ネコによる、ネコのためのネコ缶”を買ってきちゃったよ~」
私が公園のすぐ近くにある人間の家の屋根にから見えたのは、若い人間の雌が猫という生命体になにやら餌のようなものを与えているという場面だった。
餌の缶を開けている人間のほうはいかにも嬉々としているのだが、一方の猫のほうはといえば馬鹿な「カモ」がまた来た、と鳴き声をあげている。
「あぁ~、またそんな鳴き声と愛くるしい顔で……。待ってね、今開けるから!」
理解できていない人間のほうには、それがまったく伝わっていないようだが。
私は滑稽に思いながらも、興味を引かれたその様子を覗き見していた。
開けた餌を猫の前に置くと、猫は待ってましたばかりに餌にかぶりついた。その様子を満足そうに人間は見ている。
すぐに餌はなくなったようで、猫は餌の入っていた容器から顔を上げると、恩知らずも甚だしく人間に尻尾を向けて歩き始めた。
「ああ! ネコ君待ってよ!」
人間はそれを追いかけようとしたが、猫は素早く家の塀に登ると、その向こう側へと消えていった。
静まり返った道路で人間が一人、空になった容器をじっと見ていた。
しかし、やがてその雌の人間はその場にしゃがみこんで俯いてしまった。その肩がわずかに震えているように見えた。
それが泣いているということは、これまでの経験上すぐに分かったが、その行動は私にとって以外だった。
何故なら私は似たような場面を2日ほど前に見たからだ。そのとき、猫に愛想を尽かれてその場に一人残された人間は
何事もなかったかのようにすぐにその場を歩き去ったのだ。
そうでなくても人間というのはあれだけ人に会いながらも、何も声を掛けていないのだ。
それの方が私はよっぽど悲しい出来事だと思っていた。
しかしこの人間が泣いている理由はおそらく猫に逃げられたから。人間的に言えば他の生物に逃げられただけで、この人間は泣いている。
それが不思議に感じて、私は本当は泣いているわけじゃないのではないかと考え、屋根から身を乗り出した。その人間がもっと見えるように
しかしそれが失敗だった。
身を乗り出しすぎた私の身体は、気付けば全身の半分以上を宙に預けていた。そして重力で私の身体は地面へと引きずられ始めた。
ゆっくりと私の身体は落下し、私が昇っていた家の下に合った塀に見事に直撃。ビチャ、という音と共に私の身体はバラバラに粉砕し、その半分ほどが道路に落下した。
しかし私が何もしなくてもすぐに私の身体は勝手に修復をはじめ、あっという間に元に戻った。
問題は私が塀に直撃をした辺りから、一人の人間にその様子を見られてしまっていたことだ。
それを見ていたのは先ほどまでしゃがみこんでいた雌の人間であった。
939 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 11:53:59 ID:eoTp0hKU
(1-4)
「それ」は私が分裂し、元に戻る肯定を目を丸くしながら見ていたが、私が元の形に戻るやいなやこちらに駆け寄ってきた。この行動自体不思議だった。
人間と言うのは気味の悪いものを見れば、まず逃げ出す生物だと経験上思っていたからだ。
その私の経験則を裏切って私に駆け寄ってきた人間は、私の元でまたしてもしゃがみこみ一瞬だけ私の様子を見ていたかと思うと、私の身体を指でツンツンと突いてきたのだ。
「わ、わ! プニプニしてる!」
私の身体をさも楽しそうに突きながら人間は笑った。私はむずかゆい感覚を覚えながらも、危機感を感じていた。しかしそう身体が警告を発しながらも私は動けなかった。
何故なら、私が分裂した瞬間、こちらを向いた人間の目にはやはり涙が浮かんでいたからだ。それを見てやはりこの人間はどこか他の人間と違う気がして私は興味を注がれたからだ。
つまり私は、この人間に興味を持ち始めていた。
それはどちらかといえば寄生という目的ではなく、ただ単にこの人間について知りたくなっていた。
「可愛いなぁ、この子。ほれ、ほれ」
そんなことを考えている間にもこの人間は飽きることもなく私の身体を突き続ける。それは先ほどの子供が山を作っているときの無邪気さを感じさせた。
その時、この人間はふと私から視線を外して道の向こうから歩み寄ってくる若い雄の人間を見て、
驚いたような表情を浮かべ、そしてすぐに視線を泳がせた。
その人間の雄は携帯電話機で誰かと話すことに夢中らしく、私にも私を突いていた人間にも気付いている様子はなかった。
「あ、あのごめん!」
突如私の身体から指を引き抜いた雌の人間は、私に向かってそれだけ言うと、何を思ったのか先ほど猫の餌を入れていたビニール製の袋に
私を無理矢理詰め込んでその口を固く縛ってしまったのだ。
私はとっさのことに何一つ文句も言えないまま、大きく揺れ始めた袋の中を右往左往していた。どうやら私を閉じ込めた人間が走り出したらしい。ビニールからぼやけて見える景色がめまぐるしく動いている。
その私にぴたりと当たる温かい感触があった。どうやらそれは形から察するに彼女の胸らしい。その二つの渓谷に私を抱えながら走っているようだ。
そこから伝わる人間の体温と、走っていることから来る振動よりも弱い振動ながらもなぜか力強く感じる「それ」の心臓の鼓動を感じながら、私は拉致されたという不安よりも
これからこの雌の人間について色々と知れるのではないかという期待があったことに気付いた。
941 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 13:12:03 ID:eoTp0hKU
「やっほ! ごめん、ごめんね!」
それから3分ほどして私はやっと袋から出してもらうことが出来た。呼吸はしない身体でも、外に出してもらって全身に感じた空気はとても気持ちよかった。
私を両手で持ち上げた人間は、ゆっくりと私を木目のテーブルに置いた。部屋の中は猫や犬などの生物を模した置物などが部屋中に置かれていた。
「ねぇねぇ、君ってどこから来たの? 沖縄? 北海道? あ、外国? それともまさか、宇宙?!」
人間はまたしても私を突きながら聞いてきた。私はおそらくこの人間と会話を始めてしまえば、面倒なことになるということを本能的に予感し、押し黙ることを決めた。
「……う~ん、やっぱり言葉は喋れないよね~。でも、君って生きてるんだよね? さっきもあんな風にバラバラになったのに元に戻っちゃったもんね」
人間は私の端と端をつまんで軽く左右に引っ張り、私の身体が伸びる様子を見て楽しそうに笑った。
「あ、でもこのマンションってペット禁止なんだよね……」
人間は勝手に話を進め、そして勝手に悩み始めた。別に無理に一緒に過ごすこともないので、どうせなら出て行きましょうかねぇ? 私はとりあえず
あなたがどうして普通の人間と違う感じに見えたのかが知りたいだけだから。
そんな風にならないかなと思っていると、人間は勝手に何かを思いついたように口を大きく開くとこう言った。
「なら、君は今日から私の“同居人”ってことにしよう! はい、決定! 頭良い、私!」
人間は満足そうに宣言を終えると、飽きることもなくまた私をいじり始めた。
「そう言えば、君って何を食べるのかな? ちっちゃい虫とか小魚? あ、でも口がない。じゃあ水とかジュースとかなら……ってあれも口から入れるものだよね」
そう言って人間は立ち上がると、なにやら白い大きな入れ物の中を物色し始めた。確かあれは食料とかを冷やすための冷蔵庫とかいう物だったかな。
「あ、そうだ! さっき1個持っていかなかったのがあるや」
何を思い出したか、冷蔵庫を勢いよく閉めると、人間はそのまま私の視界から消えたと思ったらすぐに戻ってきた。その片手に見覚えのあるものを携えて。
「はい、これ高いんだよ! その名も“ネコの、ネコによる、ネコのためのネコ缶”!」
……先ほど口がないということにこの人間は気付いたはずであり、そのちょっと前にこれを食していた猫は口からこれを食べていたということ
もあったのに、人間は私の前に既に蓋がないネコの餌を置いた。……言うまでもないと思うけど、私がネコじゃないことには
気付いているんだよ、ね……?
私は頭を悩ませた。一応、溶解さえすれば身体に取り込むことは可能なものであろう。しかしそれで栄養を補給できる身体でない私にとってそれはあま
り意味のない行為といえる。それにこの人間の前で変な行為をすれば、更に面妖なことをやらされかねないような気がしてならない。
そして何より……私にもなぜ備わっているか不明なのに味覚というものが存在している。しかし食欲自体がない上にする必要もないものだから、この星に来てか
らというものそこまで進んで食事を摂ったことはない。それでも興味本位で人間が食べているものをいくつか口にしたが、なるほど中々私の口にも合うものであった。
それなのに私の前にはネコの餌が出されている。これはその名前のとおり、ネコのための餌なのだろうから人間が食べるに適していないものなのだろう。
そうだとすれば、私が食べても決して美味しいものであるとは思えない。
942 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 13:23:47 ID:eoTp0hKU
(1-6)
だから結論として私は食べたくはない。食べたくはないのだが……私の様子をじっと見ている人間の顔は、期待に満ち溢れていて、目が眩しく輝いていた。
このまま何も反応をしないでじっとしているには、かなりの障害要素だ。
それでも、どう考慮しても私はそれを食べる気にはなれなかったので、わずかに身体を動かしてゆっくりと餌の容器を遠ざけようと押してみた。
しかしわずかに私から容器が離れた出した瞬間、人間が容器を片手で掴み、元の場所まで押し返してきた。
「だめだよ、口もつけずに。ためしに食べてみようよ、ね?」
人間はそう言うと、なんと容器の中身を指で少しすくうと自らの口に運び込んだ。しかしその直後、口の中に入れた指を抜き出すこともせずに動きが硬直する。
その表情も笑顔のまま時が止まったかのように固まっている。
それから10秒ほどして、やっと人間は再び動き出した。一人で納得するように頷き、私にこう言った。
「うん、独特な味だね。さっ、君も食べてみようね?」
嫌です。絶対に嫌です。だってそれはやはり不味いということでしょう? だって確かにこの国は夏という温暖な季節に入っているらしいが、明らかに先ほどまで
はなかった汗があなたの額から発生してるのに……そのような様子を見させておきながら私にまだ食べさせようと試みるのか!?
当然私は餌の容器を私から遠ざけようとした。しかし、先ほどより力強く私が押そうとすると、負けじと人間も強く押し返してきた。
暫く私と人間の無言の鍔迫り合いが続いた。正直に言えば、私の身体を硬化させれば人間にはとても出せないような力で押し返すことができたのだが、何故だかそんなことをしたくはなかった。
それをしてしまえば、なんだか興ざめしてしまうような気がしたからだ。
そう、つまり私はそれを楽しんでいたのだ。その無言のコミュニケーションを。
やがて私は降参して仕方なく押すのをやめた。人間はそれに納得したのか、満足そうな笑みを一層強め、そして餌を指し示した。
私は気を落ち着かせると、ゆっくりと身体の一部をその餌の片隅に載せ、その部分から餌を身体の中に吸い寄せた。ちぎれた餌の破片が私
の身体の中でぷかぷかと浮かんでいる。後は溶解するのみ。
羨望の眼差しを受ける中、私は決心するとその餌を一気に溶解した。……あれ、味がない?
そう思った次の瞬間だった。
「うぁああああ、不味い……」
そんな声を私は聞いた。私の味覚は溶解を始めた当初、何も反応を示さなかった。しかし、やがてじわじわと私の味覚に
面妖な味が広がっていった。これは……ないよ。
ふと、味覚が発し続けていた反応が薄れ始めたとき、私は人間が丸い目で私を見ていることに気付いた。
はて、私は何かしてしまったのだろうか?
ん? してしまったのだろ……。
してしまったの……。
「しゃ、喋ったぁあああああああああ!」
……してしまった。私は思わず自分がしてしまったことを理解した。ああ……恥ずかしい。
私のことを両手で掲げて、満面の笑みを浮かべながら私を覗き込む人間を見て、私はあることを考えていた。この国の人間は確かこんな時
に何というのだっけ、と。
程なくして私はそれを思い出した。そうだ、こう言うのだ。
「穴があったら入りたい」と。
944 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 13:57:10 ID:eoTp0hKU
(1-7)
さて、それから私は色々なことを人間に聞かれた。どこから何をしに来たのか、どうやって来たのか、何を食べるのか、
身体に触っても怒らないか……などなど。
そのほとんどの問いに私は曖昧な答えを提示をすることにしていた。いや、最初はどうにかだんまりを決め込もうとしていたのだが、
この人間はいやにしつこい部分がある。私がだんまりを始めると人間は私の身体をいじくりまわしながら、「答えてよぉ~」などと駄々をこね始めるのだ。
まったく持って、私を何だと思っているのか。
挙句、黙る私を火で炙ろうとしたり、電子レンジと呼ばれる機械で加熱する、という脅しをしてきたので私はしぶしぶ答えていた。
「でも、嬉しいなぁ。こんな可愛い子を見つけられたなんて」
「あの……私は可愛い、かな?」
私は正直、この人間の「可愛い」という判断基準が分からなかった。だから、それをそのまま聞いてみた。
すると、人間は突然と顔が真剣になり、そしてこう言った。
「可愛いよ!」
有無を言わさぬ口調でたった一声、人間はそう言った。私はその威圧に押されて何も言えなくなってしまった。
と、いうよりこの人間が可愛いというのならそれでいいではないか、と自分に言い聞かせて納得することにしたのだった。
「それに、私は嬉しいなぁ。私って一人ぼっちだからさ」
「あなたには」
「さ・え・き・か・お・る、だってば。ゆう、って呼んでね」
人間は私にそう呼ぶことを強制した。まったくもって面倒な人間である。そして「ゆう」という愛称は一体どこから捻り出された
愛称なのだろうか。
「ゆうには親はいないの?」
「ああ、私も人間、というか生き物だから親はいるよ。ただ、お父さんとお母さんは離婚しちゃって、私はお母さんと暮らしてたんだけど、
私が中学卒業すると同時に別の人と再婚して、その人の子供が出来ちゃってて。だから私は中学卒業すると同時に一人暮らし。
一応仕送りとしてお金は送ってもらってたんだけど、1年ぐらいでそれも止まっちゃってさ。連絡もつかなくなっちゃった」
そう言ってベロンと舌を出して頭を掻いた。うーん、やはり人間の社会と言うのはすごく複雑に感じる。
けど、つまりこの人間は自らの両親に捨てられたということになるのだろうか。私には信じられないな。
私自身、卵の私を産んだ親を見たこともないが、記憶によれば親にとって子は愛しくなって当然というものらしい。
だから私にはその愛しいものを自ら放り出すこと自体が信じられない。
「寂しくなかったの?」
私は思わず聞いてしまった。すると人間は笑ってこう答えた。
「そりゃ、やっぱり寂しかったよ。けど、中学時代の友達が励ましてくれたりして……」
話していた人間から突然、笑いが消え去り今までと同じ人間が発しているとは思えない暗い雰囲気を漂わせた。
私は黙ったまま下を向いてしまった人間に、どう声をかければいいのか分からなかった。
それにそれまでの印象からかけ離れた状態の人間に、そう、少なからずの恐怖を感じていた。
すると先ほどまでの輝きを失った両目で人間は私を見ると、まるで無機物が言葉を発しているかのような口調で話し始めた。
945 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 14:12:59 ID:eoTp0hKU
(1-8)
「1年後に仕送りが止まった。困ってたらその友達に声掛けられた。仕事くれるって言ってた。私は着いて行った。そしたら……レイプされ
ちゃった。いろんな男の人に。それでお金貰った。1円。友達が「ばーか」だって。私、泣いちゃった。その男の子、好きだったから」
冷たい言葉の連鎖が私を襲った。聞きなれない文の構成のはずなのに、私にはこの人間が何が言いたかったのかが、返ってよく理解できた。
つまりこの人間は、この人間が好んでいた雄の人間に騙され、雄に無理矢理交尾を強制させられたのだろう。そして1円と言うこの国の最低額の金銭を貰い受け、
最後にその好んでいた雄に罵倒された。
「なに、それ? ……なんで? なんでそんなことされるの?」
私には……分からなかった。なんでこの人間はそんな目に会っているのだろうか。一体この人間が……「ゆう」が何をしたというのだろうか?
親に捨てられて、生きていくための金銭も遮られて、挙句の果てに好んだ雄には騙され……なんでその非道な仕打ちを「彼女」が受けなければならないのだろうか?
「おかしいよ。なんで、なんでそれでゆうは笑ってるの? なんで、なんで怒らないの? そんなことされ」
「怒るに決まってるじゃない!」
ゆうが大声で叫んだ。長く垂れた髪のせいで顔は見えないが、その肩はつい数時間前に見たときのように震えていた。
そしてその時、彼女がなぜあの時にも同じように泣いていたのか、分かった気がした。
何故なら私も今、とても……そう、とても悲しい気分になっていたから。
ゆうの顔から一粒の雫が落ちた。それは私にはとても生み出せないほど綺麗で、そしてとても儚げなとても小さな、小さな雫だった。
「ごめん、なさい」
私は思いついたその単語を口にした。何故なら私は彼女自身が痛いほど理解していることを、それこそ馬鹿みたいに改めて聞いてしまったからだ。
「本当にごめんなさい」
私はそれ以上どうすればいいのか、分からなかった。私には彼女とコミュニケーションする言葉しかない。彼女と同じように涙も流せない
ほど、私は無力な存在だから。
すると、ゆうは顔をゆっくりと顔をあげて私を見た。その目は輝きを失ったままだ。彼女は私を許す気はないらしい。当たり前だ。
そう思っていたのに、彼女は私をゆっくりと抱き上げてその胸に私を抱いた。私は驚いたが、そのシャツから伝わる温かいぬくもりを
決して離さないようにしがみついた。
「ありがとう。君も泣いてくれたんだ」
ゆうはそう言って私を一層抱きしめてくれた。顔を見ると、先ほどの眩しいほどの輝きではない、夜空の月のような優しい光が瞳に灯っていた。
946 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 14:24:51 ID:eoTp0hKU
(1-9)
ゆうは私を胸から離して顔の前まで持ち上げて、久しぶりの笑顔を私に見せてくれた。
心地よいぬくもりが離れてしまって少しだけ寂しかったが、ゆうの笑顔は綺麗で、とても可愛いものだった。
「ねぇ、君って男の子?」
「私に具体的な性別はないよ」
私の種の寄生体には感情があるため、性格の差は少しずつ存在するが、繁殖方法から性別という概念はなかった。
「へぇ……でも君は女の子だよ」
「そうかな?」
私がそう聞くとゆうは自信に満ち溢れた様子で力強く頷いた。
「そうだよ。君が男の子だったらこうして話せない。だって私、男の人が苦手だもん」
「当たり前だよ。あんな事されたら」
「ううん、当たり前じゃないよ。だって男の人は女の人を好きになって、女の人は男の人を好きになるのが人間で一番多いんだよ?
そうじゃなきゃ子供がいなくなっちゃうよ」
「それは大半の人がゆうみたいな辛い目に遭遇してないからだよ」
そう言ってしまって、私はすぐに酷いことをまた言ってしまったと気付いた。
「ご、ごめんなさい!」
「あはは、気にしないでいいよ。君は優しいね。私以上に「ゆう」って名前が似合う子だよ」
「え? どうして?」
私が聞くとゆうは少しだけ恥ずかしそうにして、少しだけ小さな声で言った。
「『優』しいっていう言葉がこの国にはあってね、その一文字目の漢字の別の読み方から取って自分でつけた愛称……ううん、名前なんだ。
優しい人になれますように、ってね。……あはは、恥ずかしいや」
「なんでよ、すごくいいと思うよ。けど、なんで優しい人になりたいの?」
私も優しいというのは良い事だと理解はしているが、それを自らの名前にまでしているのにはそれなりの理由があるのではないかと思ったから
聞いてみた。
「それは、もしかしたら実は私を騙した友達に私は以前に酷いことしちゃって、そのせいで私は騙されたかもしれないと思ったからなんだ」
「でも、そんなことした覚えがあるの?」
「私自身は正直した覚えはないんだ。けど、テレビとかでそういうドラマを見てたら、実は自分もそういうちゃんとした理由で騙されたんじ
ゃないかな、って思ったから。知らないところで人を傷つけたりとか、私に悪い部分があって、それで騙されたのなら少しだけ割り切れるよ
うな気がしたから」
「悪くない」
私は堪らずゆうの言葉を遮ってそう言った。ゆうは途端に目を丸くした。
「ゆうは絶対に悪くない。絶対に、悪くない」
私は自分に言い聞かすように言葉を発した。でも、ゆう自身も私の思いを分かってくれたようで私に優しい笑顔を向けてくれた。
947 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 14:41:41 ID:eoTp0hKU
(1-10)
「ありがとう。君は本当に優しい子だね」
そう言って私をまた私をぬくもりが詰まった胸に抱いてくれた。
「けどそう割り切っても、やっぱり男の人は好きになれないんだ。ううん、違う。はっきり言って嫌い。だいっきらい」
「私も嫌い。だいっきらい」
私もゆうに負けじと言うと、ゆうはまた目を丸くして、それから段々と湧き上がるように笑い出した。
「あははははっ! 本当に君は、優しい子だよ」
そう言って抱いたまま私を優しく突いてきた。先ほどまではうるさく感じていたそれも、今となってはとても気持ちがいい。
「ねぇ、そう言えば君の名前は?」
「名前なんて持ってないよ」
「ありゃりゃ、そりゃ可哀そうに。……あ」
ゆうが何かを思いついたように少し不敵に笑い、そしてこう言った。
「じゃあ、私の名前あげるよ。今ならもれなく苗字つきで。あ、『ゆう』って名前じゃないよ?」
「え、それはだめだよ。そういう名前って親から貰ったものなんでしょ? 大事にしないと」
私がそう言ってやめさせようとしても、ゆうはこう言い切ってしまった。
「いいのいいの。私には『ゆう』って名前があるから。……って言っても名義とかには使えないと思うから、そう、共有ってことにしよう。はい、決定!」
またしても強制的に話は進められてしまい、ゆうは一人で拍手をした。その様子を見て、私も反論するのに気が引けてしまいやめることにした。
「じゃあ、よろしくね。かおる」
首を傾けて改めてゆうは私に挨拶をしてきた。
「こちらこそ、ゆう」
こうして私は彼女の名前に寄生する事になった。
949 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 19:50:59 ID:eoTp0hKU
(1-11)
「ふう、ただいまぁ~」
私がこの星に生まれてから5日目の夕方。茶色い鉄のドアを開けて、両手に袋を持ったゆうが家に帰ってきた。私は茶の間から玄関の靴箱まで、素早く移動して彼女を出迎えた。
「おかえり~。お仕事、お疲れ様です」
「ただいま、かおる。どう? 探してる人は見つかった?」
袋の中のものを冷蔵庫に入れながら、ゆうは私に聞いてきた。
「ううん、やっぱり見つからなかった」
「ありゃりゃ。うーん、やっぱり私も一緒に探すよ」
「いやいやいやいや、大丈夫だから、ね? ご安心を」
私は必死にゆうの心優しい提案を却下させてもらった。
結局、私はこの星に来た理由を「人探し」ということでゆうに伝えた。ある人物に私の種の更なる進化の可能性の道しるべとなる情報を聞き出す、というのが彼女に話した私の嘘の使命だ。
何故私が彼女自身に寄生をしないか。その理由はあまりに単純だ。
私が彼女を好きだからである。
私の宿主の理想など軽く越えてしまっている、そう愛すべき人物であり、逆にその理想を越えすぎてしまっているがゆえに寄生したくなかった。
では私はどうしようと考えているか。それは私の本当の使命を果たしながら、ゆうとの関係も持続できるような方法を必死に考えた末に出した策だった。
それは、ゆうが好きな人間の女の子として彼女の前に現れ、彼女と同じ人間の友達になることだった。
私に与えられた能力である宿主に寄生する能力と、寄生した宿主の身体をある方法で得た別の人間の情報を元に書き換える能力、つまり擬態能力。
この二つを利用して私が考えた策はこうだ。
まず、ゆうが好きそうな人物を見つけてその人物を見つける。そして見つかり次第、ゆうに別れを告げて私はこの家を去り、ゆうが好きな人物を「食べる」。
これがその人物に擬態するための情報を得る手段だ。そして後は、どんどんと宿主を乗り換えていきながら、ゆうに会うときだけ「食べた」人物に擬態して彼女と会う。
我ながら完璧な作戦だと思った。そう、私が今探している人物とは宿主の対象ではなく、ゆうが好きそうな人物なのだ。
しかしこれを闇雲に探しても中々見つからない。私はやはり、ゆうのような優しい人物を探したのだがどうしても彼女ほどに優しい人物は見つからない。
そこで私が目をつけたのは彼女が働く仕事場の雇い主だ。
950 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/17(月) 19:56:13 ID:eoTp0hKU
(1-12)
ゆうはあの酷い事件の後、なんとか男性と接しないで済む仕事場を頑張って探したらしい。そしてやっとたどり着いたのが、キャバクラという店の清掃係と言う仕事だった。どうやらそこのオーナーが理解が事情を知って、理解を示してくれたらしい。
そのオーナーも当然女性であり、それもお店で人気NO.1とのことだ。
キャバクラという店は夜中に男を来店者として迎えるお店だが、昼間ならそうした客に会わずに済むのではないかというオーナーのはからいだったようだ。
そう、何とも素晴らしい人物ではないか。つい昨日、私もこっそりとその仕事場を覗きに行ってその人物を観察した。ゆうに見つからないようにする観察は思った以上に大変だったが、
そのオーナー自身も昼間だというのにパーソナルコンピューターや携帯電話機で店の仕事をどうやらこなしているほどの忙しい人物であるようだった。
その仕事ぶりのせいか、オーナーという人間社会では上流に位置する階級なのに歳も若く、やはり美人でナイスバディである。……私はゆうだって充分ナイスバディだと思うのだが、
彼女曰く「私が東京タワーなら、オーナーはエッフェル塔」という私には分かりづらい例えを言っていた。
まぁ、つまりゆうもオーナーという人物を敬愛し、私にも中々素晴らしい人物だと思っている。そのオーナー様には申し訳ないが私に「食べられてもらう」つもりだ。予定としてはこの身体で私が過ごす最後の日となる7日目、つまりは明後日に。
すぐに食べないのは、私もできるだけこの身体でゆうともう少しだけ一緒に過ごしたかったからである。私の身体は一度宿主に寄生してしまえば、この身体で活動できるのは宿主から宿主に移動するときに存在するごくごくわずかな時間のみだ。
その状態でゆうに会うのはかなり限界があると思った。
擬態してからもゆうに正体を明かすつもりもない。それは私自身がゆうと一人の人間として向き合いたいからである。
だから私はこの身体で彼女と会える残された時間で今しか作れない大切な思い出を作っておきたいと思った。もし、いずれ私が擬態してからその正体を明かしたいと思っても、もう彼女とこの身体で向き合うことは出来ないからだ。
「さて、と。一緒にテレビでも見よっか? 今ならドラマの再放送をやってるでしょ」
そう言って私をその胸に抱え込むと茶の間に移動してテレビのチャンネルを変えた。ちなみに私が先ほどまで見ていたのは人間がルールに従って競い合う、陸上という競技の大会だった。
なるほど、自分の身体をあのように使って様々なものに挑戦するのは中々面白い映像だった。
それから私とゆうは一緒にドラマを見た。それも中々面白い内容だったのだが、それよりも面白かったのはゆうがドラマで起こる一つ一つの出来事に喜怒哀楽をそれぞれ精一杯表していたからだ。
場面によってめまぐるしく変わるゆうの表情は見ててとても滑稽で、そして素直だと思った。
「ああ、面白かった。ね?」
「うん、とっても」
私がゆうの言葉に同意すると彼女も嬉しそうに笑ってくれた。
「本当にオーナーには感謝しないと。昼間に掃除しかできないのに、お給料は充分すぎるほどくれるし。そのお陰でかおるとこうして過ごせるんだもんね」
ゆうはそう言って窓の外を見た。今は力強く赤い空だが、数時間もすれば妖しい暗闇を孕んだ夜に変貌していく。これからがオーナーにとって本当に忙しい時間なのだろう。
そう言えば明後日から私がそれを引き継ぐことになるのだろうか? 正直私も男をお客とするそんな商売は絶対にしたくはないのだが、ゆうの仕事場がなくなるのは困ることだ。
まぁ、どこかの上流階級の人間に寄生したときにでもその金銭を流用してお店を切り盛りすれば大丈夫かな。
「さってと、じゃあよるごはんの用意をしようかな。今日は牛のお肉を買ってきたんだけど、君は食べられるかな?」
「うん。全然おっけーだよ」
毎回、食事を作る前に私がそれを食べられるかどうかをゆうは忘れずに聞いてくれた。でも、あれから何回かゆうの手作りお料理を食べさせてもらったが、やはり一人暮らしの経験が多いせいなのか、どれも美味しいものばかりだった。
(ポスターで童謡の赤い靴の歌詞を見たんだが )
885 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/13(木) 19:49:51 ID:bxPiW5C+
ポスターで童謡の赤い靴の歌詞を見たんだが
「つれられて行っちゃった」とか「今では青い目になっちゃって異人さんのお国にいるんだろう」といったフレーズで寄生や悪堕ちを連想するから困る
886 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 00:37:12 ID:lEUnCuXU
>>885
(=゚ω゚)ノぃょぅ俺
887 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 01:04:04 ID:7szGwFnL
>>885
( ゚ー゚)ノぃょぅ俺
888 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 02:52:25 ID:Nra6mgoI
「…は、ここはどこ!?」
「異人の国よ」
白目も黒目もなく、眼球全体がコバルトブルーになっている奇怪な女性が少女に声をかける。
「うふふふ、あなたも異人に生まれ変わるのよ」
「いや!異人なんていや!!おうちに帰して!!」
「もう遅いわ。見なさい」
女の差し出した鏡に映った少女の目はすでに半ば「異人」と化している。
黒目と白目の境界が溶解し、全体が水色から青へと変色を始めているのである。
「いやあああああ!」
そんな少女の様子を冷たい笑みを浮かべて見つめる女性。
「大丈夫。すぐに『いや』じゃなくなるわ」
少女は青く変色しつつある目に涙を浮かべながら懇願する。
「いやよ!『いや』じゃなくなるのはいや!いや!」
懇願はやがて嗚咽に変わる。
「…お願い…もとに戻して……えっく……おうちに…帰して…助けて…お兄ちゃん…」
少女の脳裏には優しかったお兄ちゃんの顔が浮かぶ。
異形の女は面白そうに少女に話しかける。
「大丈夫。あなたが完全に異人になったら、ちゃんとおうちに帰してあげるわ」
少女はその言葉に泣くのをやめかける。だが続く言葉は彼女をさらなる絶望に追い込んだ。
「おうちに帰ったら、あなたには周りの男たちの精気を吸い取り、意志を持たない
使い魔に作りかえるの。とっっっても気持ちいいのよ!」
「いやあああああ、そんなのいやああああああ!!」
だが、少女の目を禍々しい青色が覆うにつれ、その声は弱まっていくのだった。
<了>
889 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 03:12:24 ID:Nra6mgoI
そういえばたしかウルトラマンタロウにメモールという怪獣が出る話があって、
その中に出てきましたよね。ある隊員の幼なじみの女の子が子供の頃
宇宙人にさらわれ、大人になってから帰還し、再会する。二人はしばし
楽しい時を過ごす。でも彼女は宇宙人に改造されていて、宇宙人の指令を受け、
苦しみ、抵抗しながらも怪獣に変身させられてしまう。
ZATとしては怪獣は倒さないわけにいかなくてタロウと一緒に倒す。
で、すべてが終わった後、その隊員が寂しそうに「赤い靴~」と歌う、という。
890 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 05:47:14 ID:lOZ0yX7P
異人さんに犯されてイッちゃった
891 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 08:25:03 ID:+i1uBUJ2
>>890
イージス艦に連れられて行っちゃった
…海外派遣ですね、わかります。
ポスターで童謡の赤い靴の歌詞を見たんだが
「つれられて行っちゃった」とか「今では青い目になっちゃって異人さんのお国にいるんだろう」といったフレーズで寄生や悪堕ちを連想するから困る
886 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 00:37:12 ID:lEUnCuXU
>>885
(=゚ω゚)ノぃょぅ俺
887 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 01:04:04 ID:7szGwFnL
>>885
( ゚ー゚)ノぃょぅ俺
888 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 02:52:25 ID:Nra6mgoI
「…は、ここはどこ!?」
「異人の国よ」
白目も黒目もなく、眼球全体がコバルトブルーになっている奇怪な女性が少女に声をかける。
「うふふふ、あなたも異人に生まれ変わるのよ」
「いや!異人なんていや!!おうちに帰して!!」
「もう遅いわ。見なさい」
女の差し出した鏡に映った少女の目はすでに半ば「異人」と化している。
黒目と白目の境界が溶解し、全体が水色から青へと変色を始めているのである。
「いやあああああ!」
そんな少女の様子を冷たい笑みを浮かべて見つめる女性。
「大丈夫。すぐに『いや』じゃなくなるわ」
少女は青く変色しつつある目に涙を浮かべながら懇願する。
「いやよ!『いや』じゃなくなるのはいや!いや!」
懇願はやがて嗚咽に変わる。
「…お願い…もとに戻して……えっく……おうちに…帰して…助けて…お兄ちゃん…」
少女の脳裏には優しかったお兄ちゃんの顔が浮かぶ。
異形の女は面白そうに少女に話しかける。
「大丈夫。あなたが完全に異人になったら、ちゃんとおうちに帰してあげるわ」
少女はその言葉に泣くのをやめかける。だが続く言葉は彼女をさらなる絶望に追い込んだ。
「おうちに帰ったら、あなたには周りの男たちの精気を吸い取り、意志を持たない
使い魔に作りかえるの。とっっっても気持ちいいのよ!」
「いやあああああ、そんなのいやああああああ!!」
だが、少女の目を禍々しい青色が覆うにつれ、その声は弱まっていくのだった。
<了>
889 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 03:12:24 ID:Nra6mgoI
そういえばたしかウルトラマンタロウにメモールという怪獣が出る話があって、
その中に出てきましたよね。ある隊員の幼なじみの女の子が子供の頃
宇宙人にさらわれ、大人になってから帰還し、再会する。二人はしばし
楽しい時を過ごす。でも彼女は宇宙人に改造されていて、宇宙人の指令を受け、
苦しみ、抵抗しながらも怪獣に変身させられてしまう。
ZATとしては怪獣は倒さないわけにいかなくてタロウと一緒に倒す。
で、すべてが終わった後、その隊員が寂しそうに「赤い靴~」と歌う、という。
890 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 05:47:14 ID:lOZ0yX7P
異人さんに犯されてイッちゃった
891 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/14(金) 08:25:03 ID:+i1uBUJ2
>>890
イージス艦に連れられて行っちゃった
…海外派遣ですね、わかります。
白濁の巫女5
773 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:53:24 ID:moCDUYaq
何も知らない無垢な(?)寄生生物に色々教えて行く育成ゲーム・・・
専門のブリーダーになって、どれだけ女の子を気持ちよく堕とせるかを競ったりする・・・そんなものを思いついた。
長らくお待たせしました。続・白濁の巫女の続きが出来ましたので投下させていただきます。
このスレの住人さんが「抜いたら話書く気がなくなった」って言ってたからしばらく慰みを自重してたら、性欲も創作意欲も減退して来て、さぁ、まいった。
そう言う訳ですので、お恥ずかしながらまだ完結しておりませんが・・・ではどうぞ。おそらく5レスほど消費します。
・要素 連鎖落ち、蛭、巫女
・NGワード 続・白濁の巫女
774 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:54:30 ID:moCDUYaq
「じゃあ、生まれ変わった先輩の体を見てもらいましょう」
そう言って、直美は梢の服を脱がしにかかった。体を動かせない梢は、なすがまま、服を脱がされる。
「ぁっ・・・・・・んんっ」
レギンスを脱がされるとき、知らない間に太ももに出来ていたイボのようなものが生地と擦れた。通常なら痛みなどを催しそうなそれは、全く異質な信号を梢の脳に送り出す。
「わぁっ、凄いですよ、先輩! 首だけ動かせるようにしてあげますから見てみてくださいよぉ」
「・・・ぃ、ゃ・・・・・・」
「え?」
梢の頭の中には悪い予感しか無かった。
とっさに浮かんだのは拒否の言葉。
自分の体がおかしくなってしまっているのはわかっていたから。
だからこれ以上、どうおかしくなってしまったのかなんて知りたくなかった。
「ダメじゃないですか、先輩。『現実から目をそらすな』って、私がまだ新入りだった頃に教えてくれたの、先輩ですよ? まあ、先輩が見たくないなら先輩が直接見る必要はないですけど」
一瞬でも「助かった」と思ってしまったことを、梢はこの後後悔することになる。
「私が視てあげます♪」
「!!!」
梢の視界が暗くなった。そして段々と明るくなる。
目の前には色白の人間が居た。しかし、直美ではない。明らかに髪型も体格も違う。
「わ・・・たし?」
自分が喋ったはずだ。しかし、目の前に居る人形のものが3音節の単語を発し、そして驚愕に目を見開く所を梢は見た。
775 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:55:40 ID:moCDUYaq
「あ、わかりましたね。今先輩は、私が見てる光景を見てるんです」
直美が言った後、段々と視界が下を向く。
「やめっ・・・・・・!!」
梢自身が声を発した瞬間を視界の上端に見ながら、直美は真っすぐに、レギンスを脱がされた梢の脚を見ていた。
「あああっ・・・・・・」
「ふふふっ、『私』も定着してますよ。もう、取れません」
「ぅ、そ・・・・・・」
「ホントですよ? 嫌だなぁ、先輩。全然いつもの先輩らしくないです」
白くなった肌に、空豆程度の膨らみが沢山散らばっている。
梢の脚にまばらに取り付いていた蛭は、噛み付いたその場で梢の体と表皮を一体化させ、完全に梢の体の一部になっていた。
直美は梢の足下にしゃがみ込む。眼前には梢に張り付いた蛭だったものが、梢の心臓の鼓動にあわせて、微妙に膨縮を繰り返していた。
「しかもぉ、触るととっても気持ちよくなれるんです。ほら、こんな風に・・・・・・」
「ゃ、やめっ・・・・・・」
緩慢な動作で、直美が膨らみに指を伸ばす。
「んひっ・・・!」
触れるか触れないかの微妙な所で指が止まった。
そのはずなのに、ごく敏感になった既に梢の肌と化したそこは、今にも達しそうになるほどの快感を、ジワジワと、少しずつ送り出している。
「ふあっ・・・ふあぁっ・・・」
梢の体の疼きがどんどん激しくなっていった。
「あははっ、先輩の顔、どんどん気持ち良さそうになってきましたよ?」
「そんなはず・・・・・・なぃっ・・・」
「なかなか先輩も頑固ですねー。じゃーあー・・・」
梢は、頑に自分の体が脳に送り出す信号を否定する。意地悪げに口の端をゆがめた直美は、膨らみから指を離し、今度は梢のシャツを脱がしにかかった。
「一体こっちはどうなってるんでしょうねぇ」
ハラリ、とシャツが床に落ちる。ブラのホックに直美の手が回されると、直美が送り続ける映像は見えているのに、梢は耐えるように目を固くつむった。
直美がホックを外すと、手を離されたブラは重力に従って落ちてゆく。途中、ストラップが、腕に出来た蛭だった膨らみを擦り、梢に悩ましい声をあげさせる。
張りがよく、綺麗な形をした、梢の乳房が微かに揺れた。
776 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:56:33 ID:moCDUYaq
「あ、ほら、先輩のおっぱいの先。ツンって上向いてますよ♪」
「み、見るなぁ・・・・・・」
「もぉ、恥ずかしがり屋さんですねぇ。白い血じゃなければ顔が真っ赤になってるんじゃないですか?」
「っ!!!」
直美の言葉によって、自分が既に人間でない、というメッセージが脳髄に叩き込まれる。
嫌悪しか無いはずだった。絶望に落ち込むはずだった。
確かにそのはずだった梢の精神は、しかし快楽を感じている。
心臓が跳ねる。血液でない、別のものがまた体中に押し流される。
汗が流れる。白く、粘度を持ったそれは、梢の体をいやらしくデコレートしてゆく。
乳首が充血する。ついさっきまでより色を薄くしたそれは、代わりに体積を大きくして自己の存在をアピールする。
膣壁が粘液を分泌する。ショーツが張り付く面積が少しずつ大きくなって行く感覚に、梢は自分の体が性的に興奮していることを気づかされる。
明らかに異常。
梢はそう感じていたが、直美が放つ邪気にあてられた体は、そんな思考すら許さない。
「そんな先輩見てると、もっと悪戯したくなっちゃいますよぉ」
いかにも楽しそうに笑いながら、直美は梢の右の乳房に顔を寄せた。
「ぅ・・・・・・んっ・・・・・・」
顔が近づくことで、体温によって対流する、ごく微妙な空気の流れが梢の乳首の先を刺激する。
決して大きくはなく、刺激的ではなく、だが確実に無視は出来ない触感が梢の思考を揺さぶった。
刻一刻と、梢のなかで快楽の占める割合が大きくなってゆく。
それを見た直美は再び口の端をゆがめ、梢の乳房の先端に向けて、凍えた手を暖めるように、柔らかく暖かな吐息を浴びせた。
「んひゃうっ! んぁっ!!」
「こんな、『はぁ~』って息かけただけでそんなに感じちゃうんですか? 先輩は敏感ですねぇ」
「んあぁぁっ! ぃ、息っ、かけないでぇっ?!」
「え~? じゃあ止めますけどぉ」
「ふぁ、ふあぁぁ・・・・・・」
直美が胸から顔を離す。悪戯が見つかって膨れつらをしている子供のような顔をして、直美は口をとんがらせた。
「おかしいなぁ、先輩はきちんと『気持ちいい』って思ってくれてるはずなんですけれどねぇ」
「はぁっ、はあ、な、何を根拠にそんなっ・・・・・・」
「先輩の考えてること、感じてること、ぜぇ~んぶわかってますから」
「そ、そんなっ」
「だぁって、『私』が先輩の体をちょこっと『ドレスアップ』してあげたんですもの。・・・あ、『本物の伊上直美はどこに居るんだろう』『助けて』とかって思ってますね。それと、『気持ちいい』とも・・・やぁん、先輩やっぱり感じてくれてるじゃないですかぁ」
「っ・・・・・・!」
自分の何もかもが直美に筒抜けになっていた事実に、梢は戦慄する。
「あ、やっぱりびっくりしますか? じゃあもっとびっくりしましょう」
「こ、これ以上何を・・・」
「左手を上げてください?」
「!!」
直美の声に反応して、梢の体が勝手にその通りに動き出した。左腕は、授業中に生徒が教師に質問するかのごとく、軽く天に向かって突き出されている。
「ぇっ、そ、そんな・・・・・・」
梢はその上がった腕を下ろそうとして、再び背筋に寒いものを感じた。
「な、なんで・・・・・・」
「あー、私が他の人を動かそうとしちゃうとこうなっちゃうんだ」
結局、梢は梢の意思で、自分の左腕を動かすことは出来なかった。しかし、梢が驚いたのはそこではなかった。
777 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:57:09 ID:moCDUYaq
「腕が・・・・・・ない・・・・・・」
確かに目には見えているのに、それが自分のものだと頭は理解しているのに、体は『そこに初めから左腕なんてものは存在しない』とでも言っているように、左腕に関する一切の情報を脳へは送って来ない。
およそ「協会」の巫女という非常識な経験を日常的にしている人間でも経験し得ない超非常識な経験に、梢は、目の前に居る存在が間違いなく妖などではない、それ以上のものだとようやく感じ取った。
「きもち・・・わるい・・・・・・」
「じゃあ、気持ちよくなりましょう。左手で左のおっぱいを揉んでみましょうか」
「えっ」
梢が声を上げると同時に、自然な動きで梢の左手は梢の乳房へと掴みかかる。
「くうぅんっ!」
乳房の上にも出来ていた膨らみに手が触れ、快感に目の前が白く染まりかけた。
「んっはあぁぁぁ!」
本人の意思を完全に無視して動く、もはや梢のものではない梢の腕は、初めはゆっくりと、その果実の出来具合を確かめるように動いていたが、段々と揉み方が乱暴になってくる。
乳房周辺にも出来ている元は蛭だった膨らみに触れる度に、思い出したかのように時々乳首が摘まれる度に、梢の声は艶を増して行き、そしてとうとう
「あ、あ、あ、なに? な、なんか来るっ、胸の奥がっ」
「そろそろですね。もうちょっと強く揉んでみましょう」
「なにするの、止めてっ! これ以上変なことしないでぇっ!!」
「さぁ、ギュッて」
梢の左手は、その感触を楽しむように、優しく白い果実を握りつぶした。
「いやあぁぁぁっ!!!!」
梢の悲鳴と同時に、指の隙間の左胸の先端から白い粘性の液が大量に飛び出す。それは直美の顔の右側を擦って行き、頬に白い筋を描いた。直美は白線を指で拭い、それを自らの口に含む。
「あはっ、先輩の味。とってもおいしいですよ♪ 濃厚で、クリーミィで、でもしつこくないですね。こんなにおいしいものが毎日飲めるなんて、『私』は幸せだなぁ」
「やだ、そんな・・・どうしちゃったの、私の体・・・・・・」
梢は、半ば呆然として呟いた。
蛭に噛み付かれて同化され、全身は白くなり、挙げ句の果てに妊娠していないというのに母乳を分泌するようになってしまった自分の体。
その体は梢ではあったが、もはや梢のものでなかった。
「嫌あぁぁ・・・・・・」
「そんなに嫌なんですかぁ?」
「もう、これ以上は、いや・・・・・・」
荒い息を繰り返す梢はそれしか答えない。
唐突に、直美が言った。
「そんなに嫌なら、チャンスをあげます」
「ちゃん、す・・・?」
「そうです。実はまだ先輩の体は、『私』を産めるようになってません」
「・・・ぇ?」
「そのためにはもうひと手順必要なんです。でも、先輩がど~しても嫌だって言うんでしたら・・・」
次に言われるであろう直美の台詞。
梢はそれに一抹の希望を抱く。
直美の言った通り、梢は普段の梢らしくなかった。
「ここの『協会』の人たちが助からない代わりに、その手順をしないでおいてあげます」
778 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:58:52 ID:moCDUYaq
今度こそ、梢の目の前が真っ暗になった。
直美を通して見える梢自身の真っ白な顔は、この世の地獄を見た、とでも言いたげな表情をたたえている。
妖の襲撃を受けて倒れ伏した自分の部下たち。
直美を携帯で呼び出したときに、助けに入ってくれた同僚。
封印庫の異常を知らせに来た、おびえた顔の新人。
自分が封印庫の様子を見に行った時、辛そうな顔で戦線に指示を出すのを変わってくれた後輩。
そしてきっとどこか別の場所に居る、本物の直美。
次々に職員の顔が浮かんでは消えてゆく。
ここの「協会」の人たちが助からない代わりに、ということは、直美が職員の命を握っているということなのか、それとも、直美なら施設内の妖を全て退治出来るということなのか。
そして、直美がする「手順」とはなんのことだろうか。「産む」とはどういうことか。直美の言う『私』というのは、この蛭のことらしい。人間はどうやった所で蛭は産めない。
一体、目の前の直美は何をするつもりなのか。
―でも、気持ちいいだろうなぁ
梢は、ハッとなった。
突然、自分のなかにわき起こった期待感。それが何なのか、この瞬間では、梢にはわからない。
―「産む」って言うくらいだから、きっと赤ちゃんを作る所に何かされる
―さっき直美が私にした『何か』は、とても気持ちがよかった
―だから
―次もきっと
―気持ち良いはず・・・・・・
違う、私はこんなものは欲しくない、と梢は大きく首を横に振る。
―それに、みんなはどうする?
―みんなを助けないと
―大きな力で目の前の化け物を倒せれば万事が解決したかもしれなかったのに、私にはそんな力は無い。
―私はみんなを見捨てるのか?
―自分が化け物の子供を産めと責められているから、引き換えに?
―みんなが居なくなるなんて嫌だ
―やっと見つけたのに・・・・・・
―またなくすのは嫌だ・・・・・・
―私の居場所を・・・・・・・・・・・・
チーフになって、それまで梢には無かった定位置らしい居場所は、あっさりと見つかった。
みんなが居なくなってしまえば、自分の居場所は無くなってしまうだろう。皆を束ね、皆を信頼し、皆に信頼されることで出来ているこの居場所は、強く眩いが、儚く脆い。
自分が皆を裏切るようなことがあれば、それこそ見つかった時以上にあっさりと、梢の帰るべき場所は消えてなくなる。
自分がチーフになった時に、自分に誓ったことは何だったか。
―これから私がここを纏めて行くんだ! 誰も失ったりしないように、それでいてみんなが着実に成長出来る環境を作って行くぞ!
この誓いを守りきってこそ、自分の居場所がある。
―私は常に、みんなと一緒に居た・・・
―これからは・・・・・・?
779 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 01:00:04 ID:moCDUYaq
「さあ、どうしますか? 先輩」
選択の時は来た。
―皆を見捨てるような、妖の心を持つか
―皆を助けて、妖の親になるか
「・・・・・・私はっ、」
白い涙が、糸を引いて梢の頬を離れてゆく。
「心まで・・・ヒック、妖には、なりたくないよぉっ・・・・・・」
顔をくしゃくしゃにして、粘つく涙をぼろぼろとこぼしながら、梢は自分の意志を打ち明けた。
「ということは?」
「みんなを、ううっ、みんなを助けて・・・・・・ヒッ」
「・・・・・・」
梢の見ている風景が、自分のものに戻る。涙で白く濁った視界では、直美がどんな顔をしているのかが、梢からはまるで分からなかった。
「先輩」
直美の声がかかる。
「ようこそ」
ふわり、と梢の肩に腕が回される。触れ合う胸同士から、白い母乳が、糸を引きながら落ちて行った。圧力で変形した直美の乳房から出て来た小さな蠢くものが、直美の服の内側をゆっくりと下降して来ているのを、梢は布越しに感じた。
しばらくそうしていた後、直美は梢から離れ、纏っていた、粘液を吸ってベトベトになった布を全て脱ぎ捨てる。
真っ白な肌の上を、ぬめるような光沢が飾っていた。絶妙な細さの腰の辺りを白濁した体液が流れて行く様を見て、そのあまりの艶っぽさに梢は涙を流すことも忘れて息を飲む。
「さあ、こっちに来てください、先輩」
直美に言われるがまま、梢の体は直美の居る所へフラフラと歩き出した。
そのまま梢は床に座り込み、膝を曲げたまま脚を広げ、自らの秘所を直美へとさらけ出す。
その目の前に直美がしゃがみ込んで指をしゃぶった。すぐに口から指を出したかと思うと、指はたっぷりと白い粘液を纏っている。直美はそれを梢の中へと侵入させて行った。
「んっ、あああぁぁっ!!」
「あ、膜がある。先輩まだ処女だったんですね。よかったぁ」
「な、何が良いの・・・ひゃあっ!」
「だって先輩の初めてですよ! 嬉しいじゃないですか」
言いつつ、直美も床へと腰を下ろす。そのまま自分の秘裂を梢のそこに押し当て、脚を絡めて、貝合わせの格好になった。梢が、先ほどとはまた違う艶の息を吐く。
「先輩、ちょっと上下に動かしてみたください」
直美の命令に、梢の体は逆らえない。すぐに性器が上下に動くように、腰を揺らし始めた。タイミングをずらして、直美も同じように動く。
部屋の中には、既に人間ではなくなった雌の欲情に染まった声、淫らな水音、そして色が付いて見えるのではないかというほど、濃密な邪気が渦巻いていた。
780 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 01:02:48 ID:moCDUYaq
・・・まだ終わりが見えてきません。
なんとか色んな欲求を回復させて、早めに書き上げてしまいたいです。
もうしばらく、お付き合いくだされば幸いです。
何も知らない無垢な(?)寄生生物に色々教えて行く育成ゲーム・・・
専門のブリーダーになって、どれだけ女の子を気持ちよく堕とせるかを競ったりする・・・そんなものを思いついた。
長らくお待たせしました。続・白濁の巫女の続きが出来ましたので投下させていただきます。
このスレの住人さんが「抜いたら話書く気がなくなった」って言ってたからしばらく慰みを自重してたら、性欲も創作意欲も減退して来て、さぁ、まいった。
そう言う訳ですので、お恥ずかしながらまだ完結しておりませんが・・・ではどうぞ。おそらく5レスほど消費します。
・要素 連鎖落ち、蛭、巫女
・NGワード 続・白濁の巫女
774 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:54:30 ID:moCDUYaq
「じゃあ、生まれ変わった先輩の体を見てもらいましょう」
そう言って、直美は梢の服を脱がしにかかった。体を動かせない梢は、なすがまま、服を脱がされる。
「ぁっ・・・・・・んんっ」
レギンスを脱がされるとき、知らない間に太ももに出来ていたイボのようなものが生地と擦れた。通常なら痛みなどを催しそうなそれは、全く異質な信号を梢の脳に送り出す。
「わぁっ、凄いですよ、先輩! 首だけ動かせるようにしてあげますから見てみてくださいよぉ」
「・・・ぃ、ゃ・・・・・・」
「え?」
梢の頭の中には悪い予感しか無かった。
とっさに浮かんだのは拒否の言葉。
自分の体がおかしくなってしまっているのはわかっていたから。
だからこれ以上、どうおかしくなってしまったのかなんて知りたくなかった。
「ダメじゃないですか、先輩。『現実から目をそらすな』って、私がまだ新入りだった頃に教えてくれたの、先輩ですよ? まあ、先輩が見たくないなら先輩が直接見る必要はないですけど」
一瞬でも「助かった」と思ってしまったことを、梢はこの後後悔することになる。
「私が視てあげます♪」
「!!!」
梢の視界が暗くなった。そして段々と明るくなる。
目の前には色白の人間が居た。しかし、直美ではない。明らかに髪型も体格も違う。
「わ・・・たし?」
自分が喋ったはずだ。しかし、目の前に居る人形のものが3音節の単語を発し、そして驚愕に目を見開く所を梢は見た。
775 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:55:40 ID:moCDUYaq
「あ、わかりましたね。今先輩は、私が見てる光景を見てるんです」
直美が言った後、段々と視界が下を向く。
「やめっ・・・・・・!!」
梢自身が声を発した瞬間を視界の上端に見ながら、直美は真っすぐに、レギンスを脱がされた梢の脚を見ていた。
「あああっ・・・・・・」
「ふふふっ、『私』も定着してますよ。もう、取れません」
「ぅ、そ・・・・・・」
「ホントですよ? 嫌だなぁ、先輩。全然いつもの先輩らしくないです」
白くなった肌に、空豆程度の膨らみが沢山散らばっている。
梢の脚にまばらに取り付いていた蛭は、噛み付いたその場で梢の体と表皮を一体化させ、完全に梢の体の一部になっていた。
直美は梢の足下にしゃがみ込む。眼前には梢に張り付いた蛭だったものが、梢の心臓の鼓動にあわせて、微妙に膨縮を繰り返していた。
「しかもぉ、触るととっても気持ちよくなれるんです。ほら、こんな風に・・・・・・」
「ゃ、やめっ・・・・・・」
緩慢な動作で、直美が膨らみに指を伸ばす。
「んひっ・・・!」
触れるか触れないかの微妙な所で指が止まった。
そのはずなのに、ごく敏感になった既に梢の肌と化したそこは、今にも達しそうになるほどの快感を、ジワジワと、少しずつ送り出している。
「ふあっ・・・ふあぁっ・・・」
梢の体の疼きがどんどん激しくなっていった。
「あははっ、先輩の顔、どんどん気持ち良さそうになってきましたよ?」
「そんなはず・・・・・・なぃっ・・・」
「なかなか先輩も頑固ですねー。じゃーあー・・・」
梢は、頑に自分の体が脳に送り出す信号を否定する。意地悪げに口の端をゆがめた直美は、膨らみから指を離し、今度は梢のシャツを脱がしにかかった。
「一体こっちはどうなってるんでしょうねぇ」
ハラリ、とシャツが床に落ちる。ブラのホックに直美の手が回されると、直美が送り続ける映像は見えているのに、梢は耐えるように目を固くつむった。
直美がホックを外すと、手を離されたブラは重力に従って落ちてゆく。途中、ストラップが、腕に出来た蛭だった膨らみを擦り、梢に悩ましい声をあげさせる。
張りがよく、綺麗な形をした、梢の乳房が微かに揺れた。
776 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:56:33 ID:moCDUYaq
「あ、ほら、先輩のおっぱいの先。ツンって上向いてますよ♪」
「み、見るなぁ・・・・・・」
「もぉ、恥ずかしがり屋さんですねぇ。白い血じゃなければ顔が真っ赤になってるんじゃないですか?」
「っ!!!」
直美の言葉によって、自分が既に人間でない、というメッセージが脳髄に叩き込まれる。
嫌悪しか無いはずだった。絶望に落ち込むはずだった。
確かにそのはずだった梢の精神は、しかし快楽を感じている。
心臓が跳ねる。血液でない、別のものがまた体中に押し流される。
汗が流れる。白く、粘度を持ったそれは、梢の体をいやらしくデコレートしてゆく。
乳首が充血する。ついさっきまでより色を薄くしたそれは、代わりに体積を大きくして自己の存在をアピールする。
膣壁が粘液を分泌する。ショーツが張り付く面積が少しずつ大きくなって行く感覚に、梢は自分の体が性的に興奮していることを気づかされる。
明らかに異常。
梢はそう感じていたが、直美が放つ邪気にあてられた体は、そんな思考すら許さない。
「そんな先輩見てると、もっと悪戯したくなっちゃいますよぉ」
いかにも楽しそうに笑いながら、直美は梢の右の乳房に顔を寄せた。
「ぅ・・・・・・んっ・・・・・・」
顔が近づくことで、体温によって対流する、ごく微妙な空気の流れが梢の乳首の先を刺激する。
決して大きくはなく、刺激的ではなく、だが確実に無視は出来ない触感が梢の思考を揺さぶった。
刻一刻と、梢のなかで快楽の占める割合が大きくなってゆく。
それを見た直美は再び口の端をゆがめ、梢の乳房の先端に向けて、凍えた手を暖めるように、柔らかく暖かな吐息を浴びせた。
「んひゃうっ! んぁっ!!」
「こんな、『はぁ~』って息かけただけでそんなに感じちゃうんですか? 先輩は敏感ですねぇ」
「んあぁぁっ! ぃ、息っ、かけないでぇっ?!」
「え~? じゃあ止めますけどぉ」
「ふぁ、ふあぁぁ・・・・・・」
直美が胸から顔を離す。悪戯が見つかって膨れつらをしている子供のような顔をして、直美は口をとんがらせた。
「おかしいなぁ、先輩はきちんと『気持ちいい』って思ってくれてるはずなんですけれどねぇ」
「はぁっ、はあ、な、何を根拠にそんなっ・・・・・・」
「先輩の考えてること、感じてること、ぜぇ~んぶわかってますから」
「そ、そんなっ」
「だぁって、『私』が先輩の体をちょこっと『ドレスアップ』してあげたんですもの。・・・あ、『本物の伊上直美はどこに居るんだろう』『助けて』とかって思ってますね。それと、『気持ちいい』とも・・・やぁん、先輩やっぱり感じてくれてるじゃないですかぁ」
「っ・・・・・・!」
自分の何もかもが直美に筒抜けになっていた事実に、梢は戦慄する。
「あ、やっぱりびっくりしますか? じゃあもっとびっくりしましょう」
「こ、これ以上何を・・・」
「左手を上げてください?」
「!!」
直美の声に反応して、梢の体が勝手にその通りに動き出した。左腕は、授業中に生徒が教師に質問するかのごとく、軽く天に向かって突き出されている。
「ぇっ、そ、そんな・・・・・・」
梢はその上がった腕を下ろそうとして、再び背筋に寒いものを感じた。
「な、なんで・・・・・・」
「あー、私が他の人を動かそうとしちゃうとこうなっちゃうんだ」
結局、梢は梢の意思で、自分の左腕を動かすことは出来なかった。しかし、梢が驚いたのはそこではなかった。
777 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:57:09 ID:moCDUYaq
「腕が・・・・・・ない・・・・・・」
確かに目には見えているのに、それが自分のものだと頭は理解しているのに、体は『そこに初めから左腕なんてものは存在しない』とでも言っているように、左腕に関する一切の情報を脳へは送って来ない。
およそ「協会」の巫女という非常識な経験を日常的にしている人間でも経験し得ない超非常識な経験に、梢は、目の前に居る存在が間違いなく妖などではない、それ以上のものだとようやく感じ取った。
「きもち・・・わるい・・・・・・」
「じゃあ、気持ちよくなりましょう。左手で左のおっぱいを揉んでみましょうか」
「えっ」
梢が声を上げると同時に、自然な動きで梢の左手は梢の乳房へと掴みかかる。
「くうぅんっ!」
乳房の上にも出来ていた膨らみに手が触れ、快感に目の前が白く染まりかけた。
「んっはあぁぁぁ!」
本人の意思を完全に無視して動く、もはや梢のものではない梢の腕は、初めはゆっくりと、その果実の出来具合を確かめるように動いていたが、段々と揉み方が乱暴になってくる。
乳房周辺にも出来ている元は蛭だった膨らみに触れる度に、思い出したかのように時々乳首が摘まれる度に、梢の声は艶を増して行き、そしてとうとう
「あ、あ、あ、なに? な、なんか来るっ、胸の奥がっ」
「そろそろですね。もうちょっと強く揉んでみましょう」
「なにするの、止めてっ! これ以上変なことしないでぇっ!!」
「さぁ、ギュッて」
梢の左手は、その感触を楽しむように、優しく白い果実を握りつぶした。
「いやあぁぁぁっ!!!!」
梢の悲鳴と同時に、指の隙間の左胸の先端から白い粘性の液が大量に飛び出す。それは直美の顔の右側を擦って行き、頬に白い筋を描いた。直美は白線を指で拭い、それを自らの口に含む。
「あはっ、先輩の味。とってもおいしいですよ♪ 濃厚で、クリーミィで、でもしつこくないですね。こんなにおいしいものが毎日飲めるなんて、『私』は幸せだなぁ」
「やだ、そんな・・・どうしちゃったの、私の体・・・・・・」
梢は、半ば呆然として呟いた。
蛭に噛み付かれて同化され、全身は白くなり、挙げ句の果てに妊娠していないというのに母乳を分泌するようになってしまった自分の体。
その体は梢ではあったが、もはや梢のものでなかった。
「嫌あぁぁ・・・・・・」
「そんなに嫌なんですかぁ?」
「もう、これ以上は、いや・・・・・・」
荒い息を繰り返す梢はそれしか答えない。
唐突に、直美が言った。
「そんなに嫌なら、チャンスをあげます」
「ちゃん、す・・・?」
「そうです。実はまだ先輩の体は、『私』を産めるようになってません」
「・・・ぇ?」
「そのためにはもうひと手順必要なんです。でも、先輩がど~しても嫌だって言うんでしたら・・・」
次に言われるであろう直美の台詞。
梢はそれに一抹の希望を抱く。
直美の言った通り、梢は普段の梢らしくなかった。
「ここの『協会』の人たちが助からない代わりに、その手順をしないでおいてあげます」
778 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 00:58:52 ID:moCDUYaq
今度こそ、梢の目の前が真っ暗になった。
直美を通して見える梢自身の真っ白な顔は、この世の地獄を見た、とでも言いたげな表情をたたえている。
妖の襲撃を受けて倒れ伏した自分の部下たち。
直美を携帯で呼び出したときに、助けに入ってくれた同僚。
封印庫の異常を知らせに来た、おびえた顔の新人。
自分が封印庫の様子を見に行った時、辛そうな顔で戦線に指示を出すのを変わってくれた後輩。
そしてきっとどこか別の場所に居る、本物の直美。
次々に職員の顔が浮かんでは消えてゆく。
ここの「協会」の人たちが助からない代わりに、ということは、直美が職員の命を握っているということなのか、それとも、直美なら施設内の妖を全て退治出来るということなのか。
そして、直美がする「手順」とはなんのことだろうか。「産む」とはどういうことか。直美の言う『私』というのは、この蛭のことらしい。人間はどうやった所で蛭は産めない。
一体、目の前の直美は何をするつもりなのか。
―でも、気持ちいいだろうなぁ
梢は、ハッとなった。
突然、自分のなかにわき起こった期待感。それが何なのか、この瞬間では、梢にはわからない。
―「産む」って言うくらいだから、きっと赤ちゃんを作る所に何かされる
―さっき直美が私にした『何か』は、とても気持ちがよかった
―だから
―次もきっと
―気持ち良いはず・・・・・・
違う、私はこんなものは欲しくない、と梢は大きく首を横に振る。
―それに、みんなはどうする?
―みんなを助けないと
―大きな力で目の前の化け物を倒せれば万事が解決したかもしれなかったのに、私にはそんな力は無い。
―私はみんなを見捨てるのか?
―自分が化け物の子供を産めと責められているから、引き換えに?
―みんなが居なくなるなんて嫌だ
―やっと見つけたのに・・・・・・
―またなくすのは嫌だ・・・・・・
―私の居場所を・・・・・・・・・・・・
チーフになって、それまで梢には無かった定位置らしい居場所は、あっさりと見つかった。
みんなが居なくなってしまえば、自分の居場所は無くなってしまうだろう。皆を束ね、皆を信頼し、皆に信頼されることで出来ているこの居場所は、強く眩いが、儚く脆い。
自分が皆を裏切るようなことがあれば、それこそ見つかった時以上にあっさりと、梢の帰るべき場所は消えてなくなる。
自分がチーフになった時に、自分に誓ったことは何だったか。
―これから私がここを纏めて行くんだ! 誰も失ったりしないように、それでいてみんなが着実に成長出来る環境を作って行くぞ!
この誓いを守りきってこそ、自分の居場所がある。
―私は常に、みんなと一緒に居た・・・
―これからは・・・・・・?
779 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 01:00:04 ID:moCDUYaq
「さあ、どうしますか? 先輩」
選択の時は来た。
―皆を見捨てるような、妖の心を持つか
―皆を助けて、妖の親になるか
「・・・・・・私はっ、」
白い涙が、糸を引いて梢の頬を離れてゆく。
「心まで・・・ヒック、妖には、なりたくないよぉっ・・・・・・」
顔をくしゃくしゃにして、粘つく涙をぼろぼろとこぼしながら、梢は自分の意志を打ち明けた。
「ということは?」
「みんなを、ううっ、みんなを助けて・・・・・・ヒッ」
「・・・・・・」
梢の見ている風景が、自分のものに戻る。涙で白く濁った視界では、直美がどんな顔をしているのかが、梢からはまるで分からなかった。
「先輩」
直美の声がかかる。
「ようこそ」
ふわり、と梢の肩に腕が回される。触れ合う胸同士から、白い母乳が、糸を引きながら落ちて行った。圧力で変形した直美の乳房から出て来た小さな蠢くものが、直美の服の内側をゆっくりと下降して来ているのを、梢は布越しに感じた。
しばらくそうしていた後、直美は梢から離れ、纏っていた、粘液を吸ってベトベトになった布を全て脱ぎ捨てる。
真っ白な肌の上を、ぬめるような光沢が飾っていた。絶妙な細さの腰の辺りを白濁した体液が流れて行く様を見て、そのあまりの艶っぽさに梢は涙を流すことも忘れて息を飲む。
「さあ、こっちに来てください、先輩」
直美に言われるがまま、梢の体は直美の居る所へフラフラと歩き出した。
そのまま梢は床に座り込み、膝を曲げたまま脚を広げ、自らの秘所を直美へとさらけ出す。
その目の前に直美がしゃがみ込んで指をしゃぶった。すぐに口から指を出したかと思うと、指はたっぷりと白い粘液を纏っている。直美はそれを梢の中へと侵入させて行った。
「んっ、あああぁぁっ!!」
「あ、膜がある。先輩まだ処女だったんですね。よかったぁ」
「な、何が良いの・・・ひゃあっ!」
「だって先輩の初めてですよ! 嬉しいじゃないですか」
言いつつ、直美も床へと腰を下ろす。そのまま自分の秘裂を梢のそこに押し当て、脚を絡めて、貝合わせの格好になった。梢が、先ほどとはまた違う艶の息を吐く。
「先輩、ちょっと上下に動かしてみたください」
直美の命令に、梢の体は逆らえない。すぐに性器が上下に動くように、腰を揺らし始めた。タイミングをずらして、直美も同じように動く。
部屋の中には、既に人間ではなくなった雌の欲情に染まった声、淫らな水音、そして色が付いて見えるのではないかというほど、濃密な邪気が渦巻いていた。
780 続・白濁の巫女 sage 2009/07/15(水) 01:02:48 ID:moCDUYaq
・・・まだ終わりが見えてきません。
なんとか色んな欲求を回復させて、早めに書き上げてしまいたいです。
もうしばらく、お付き合いくだされば幸いです。