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五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』
397 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(1/20) sage 2013/06/16(日) 07:50:03.55 ID:CJ8TnpxM
森の中で、清見は暗い青色の寄生スーツを身にまとっていた。
性交後の余韻を象徴するかのように、露出した肌の部分から淫靡な香りが漂う。
半液状の触手達が汗ばんだ肉体を愛撫する。
だが、彼女の顔立ちはいつもの無表情に戻っていた。
清見は抜け目の無い人間である。
例え妖魔のしもべになった今でも、その性格が変わることは無かった。
だから足元から違和感を覚えた瞬間、清見はすかさず体を横へと滑らせた。
やや遅れて一本のツタが地表から跳ね上がり、彼女の足元を空振る。
地面はいつの間にかイバラの大群に覆われていた。
赤い花が満開すると、血のような花びらの旋風が巻き起こる。
清見は咄嗟に顔面を両腕でガードした。
体を覆った触手スーツは瞬時にバリアのように広がり、
接着剤のごとく花びらを粘つける。
だがその隙に、木の上から一本の蔓が伸び出て、
清見の腕から烈火の勾玉をはたき落とした。
一つの影が飛び出て、勾玉を空中でキャッチすると、
そのまま清見の後方にある巨大水玉へと駆けつけた。
その人影は木の槍を掲げ、全力で巨大水玉の表面に突き刺した。
ブスッという異音とともに、水玉の大目玉から無数の黒液が噴き出る。
木の槍を放った人物は躊躇すること無く、その中から灯を引っぱり出し、
赤い勾玉をその胸にかざした。
主人を認識した霊玉は命を吹き込まれたように輝き、灯の体を炎で包み込む。
少女の体に染み込んだ黒い淫液は蒸発したかのように消え、
本来の健康的な肌色をあぶり出す。
だが炎が完全なバトルスーツに変身する直前、激しい水流が襲来してそれを打ち消した。
人影は灯の体を守るように抱きかかえ、水流を割って飛び出した。
その身に着けていた暗緑色の寄生スーツが、体に付着した液体を自動的に吸い取る。
「これは驚いた。翠、あなたがまだ堕ちていなかったとは」
「清見……っ!」
翠と呼ばれた少女は、肩で息をしながら答えた。
彼女はもう一度清見を悔しそうに見つめ、それから灯を抱きしめて走り去った。
彼女の後ろ姿を冷ややかな目線で追いながら、
清見は自分の触手スーツに指先を入れて目玉を一つえぐり取った。
その青い眼球を、灯を閉じ込めた水玉の残滓にぽちゃんと落とす。
水溜りが怪しくうねると、そこから犬のような妖獣が立ち上がった。
化け物の体は常に波紋が揺らぎ、その顔面には清見の落とした目玉が青く光る。
「ゆけっ」
清見が短く命令すると、妖獣はバネのように地面を蹴り出した。
翠が踏みつけた跡に草花が生え渡った。
そこで異物を感知すると、植物は一斉に棘のある蔓を伸ばした。
縛り付けられた妖獣は、一瞬苦しそうにもがいたが、形勢はすぐに逆転した。
妖獣の表面の毒々しい粘液に触れていた植物は、
まるで濃硫酸を浴びせられたように枯れ始める。
そしてボロボロに黒ずんだ植物を力で千切り、妖獣が再び駆け出した。
398 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(2/20) sage 2013/06/16(日) 07:53:03.07 ID:CJ8TnpxM
翠はもともと満足に走れる状態ではなかった。
足元がふらついて、意識もおぼつかない。
一歩進むごとに貞操帯が股間に食い込み、その隙間から愛液がとろりと垂れ下がる。
今にも狂い出しそうな快感に、翠はその場でうずくまって体をまさぐりたかった。
それを我慢できたのも、懐にある灯の存在だからだ。
(せめて、灯だけでも……!)
翠は唇をかみ締め、その痛みで快楽をこらえた。
変身までさせられなかったが、灯を浸蝕していた黒液はだいぶ浄化できた。
自分が助かる望みはもはや皆無。
ならば、せめて親友だけでも助かってほしかった。
だが翠の覚悟を、妖眼蟲は許さなかった。
迅雷のごとく疾走する妖獣は、あっという間に翠達に追いついた。
一つ目が大きく輝くと、妖獣は翠の脚にがぶりと噛み付き、
首を回転させて引っ張った。
「っ……!」
激痛を感じるも束の間、翠はバランスを崩して倒れた。
牙の鋭い先端が脚を覆った触肉のブーツを貫き、その下にある肉体まで届く。
奮闘も虚しく、彼女は灯を投げ出して倒れ込んでしまった。
「呆れたわ。それほど強い淫気を発しながら、まだ抗おうとするなんて。
まあ、だから感心もするけど」
清見は寄生スーツに刺さった花びらを取り除きながら、悠々と翠の前へやってきた。
その冷徹な瞳は青く湛えながら、翠の艶姿を捉える。
とっくに限界に達しているのか、翠の触手服の寄生眼は頻繁に点滅し、
明暗を繰り返すと同時に宿主の体を震わせる。
スーツを組成していた肉布もほとんど触手に解放され、宿主の肌を自動的に撫で回した。
翠の肌に浮かぶ汗も赤く染まった顔も、見た者の欲情を十分に焚き付ける。
そして清見の言う通り、彼女の体から発する凄まじい淫気は、
取り込んだ者を一瞬にして色欲の虜にしてしまう。
何より滑稽なのは、翠が抑制しようとすればするほど、
色気がより官能的に高まることだった。
「あら、鈴華から戒めを受けたようね」
「っ……!」
清見が視線を移すと、翠は羞恥に満ちながら胸や股間のあたりを隠した。
美乳の先端につけられた金色のピアス。
陰部から臀部にかけて食い込んだ貞操帯。
ピアスと貞操帯を細い鎖で繋ぎ、白いうなじに装着された首輪。
キラキラ輝く金属の装飾品は、卑猥な触肉スーツとアンバランスな対照を作り、
少女の清純だった体を美しい娼婦に作り替える。
「妖眼蟲の下僕になるのがそんなに嫌なら、一人で逃げることだって選べたはずよ」
「仲間を見捨てることは……できません」
「おかしなことを言うわね。私が今の姿になったのも、そもそもあなたのせいなのに」
「ええ……すべてはあの時、私の心が弱かったせいです」
翠はひっそりと俯いた。
その顔は赤く染まりながらも、悔しい感情が滲んでいた。
「私のせいで、たくさんの人が犠牲になりました。その罪からただ逃げるために、
私は快楽に溺れようとしました。でも……あなたと再び会えたおかげで、
もう一度立ち上がる勇気を手にしたので」
「鈴華と一緒に、私と戦った時にか」
399 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(3/20) sage 2013/06/16(日) 07:55:47.27 ID:CJ8TnpxM
「あの時、清見ちゃんが奮戦する姿を見ていたからこそ、
自分の役目を思い出せたのです」
「その本人がこうして悪の味方となったのに?」
「だからこそ……清見ちゃんが私のような過ちを犯す前に!」
翠は拳を握り締め、凛とした眼差しで清見を見上げた。
体が淫気に蝕まれても、彼女が本来持つ凛々しさは埋もれることはなかった。
だが清見は一歩も気負いしなかった。
その正義心におされたのか、触手スーツも動きを鈍らせた。
だが清見は少しも気負しなかった。
彼女はむしろ翠に顔を近づけた。
その深海のような瞳に見つめられると、翠は唐突に寒気を感じた。
「素晴らしい……どんなに汚されてもなお自浄し、他人まで感化する心。
本当に綺麗だわ」
清見は感心したように言った後、一転して残酷な言葉を綴る。
「だからこそ、完全なる闇に染める価値がある。あなたほどの者なら、
どんな正しい心の持ち主であっても、悪に堕落させる誘惑者となれる」
「そんな……!」
自分の言葉はもう決して届かない。
そう思い知らされた翠は、谷底に突き落とされたような気持ちになった。
彼女の表情をよく鑑賞できるように、清見は顎に指を添えて持ち上げた。
「翠、ありがとう。あなたが私を思っていると同じに、
私もあなたのことを大事に思っている。だから心配しなくてもいいよ。
もう一度闇に心を委ねる快楽を思い出させてやる」
清見は青暗い瞳を輝かせ、手を振り上げた。
触手スーツの袖の部分は幾つかのミミズのように分裂して飛びかかった。
翠は目をつむった。
すでに一度は淫乱な性質を植えつけられた身と心は、簡単に屈してしまうだろう。
魂にまで刻み込まれた奴隷の呪縛に、もはや抵抗する勇気さえ無かった。
むしろ心のどこかにホッとするような安堵感さえあった。
(みんな、ごめんなさい……)
翠は謝罪とともに、諦めの言葉を呟いた。
その時。
一陣の砂の線が目にも止まらぬ速さで清見と翠の合間を横切る。
空中に放たれていた水触手は、一瞬にして乾ききって断裂した。
すぐ横の地面から、一つの人影がのろりと起き上がる。
水の隻眼獣はすぐさま翠から離れ、その人物に噛み付きかかった。
だが妖獣が口を開こうとした直前、咽喉元から掴み上げられた。
そして塩漬けされたナメクジのごとく全身から水分が抜けて、
目玉はひび割れながら爆ぜ散った。
清見は素早く後ろへ飛びのき、自分に向かって投げつけられた残骸を回避した。
砂と接触した寄生スーツは一瞬石化したが、
すぐにまわりの触肉に同化されて再び触手化した。
400 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(4/20) sage 2013/06/16(日) 07:58:01.64 ID:CJ8TnpxM
「翠、大丈夫か」
「ああ、平気よ……」
地面から抜け出た睦美は、苦悶をこらえる翠や、失神している灯を抱え起こす。
腐食液のせいで、妖獣をじかに掴んだ手のひらは軽いヤケドを負った。
しかし、睦美はその痛みなどまったく意に介さなかった。
彼女はただ岩盤よりも硬い目線を清見にぶつけた。
清見は逆に睦美の切り刻まれた戦闘スーツを観察した。
「ダメージを負っているようね」
「鈴華のおかげさ」
「逃げるつもり? 鈴華や私を置いて」
「できないことを挑むのは勇気ではない。残念ながら、
今の私にはあなたを抑えつつ鈴華に勝つ方法が思いつかない」
睦美はそう言うと、翠や灯を抱えたまま背を向けた。
その時、清見の背後の茂みから鈴華が駆け抜け出る。
彼女の触手スーツもまた、睦美と同じくらい損傷していた。
睦美は槍の雨に打たれたようだったが、
鈴華の場合は土砂崩れの中から掘り起こしたボロ雑巾のようだ。
「許さないんだから! 絶対捕まえて、この屈辱を晴らしてやるんだから!」
鈴華の小綺麗だった顔が泥にまみれ、怒りの形相をあらわにした。
彼女は身丈の倍ほどある矛を振り回し、穂先の先端を睦美の背中に狙い定めた。
だが睦美は振り返ること無く、霊呪を念じながら土を蹴った。
地面はその場で大きく盛り上がると、巨大な土の聖獣が瀑布のように涌き出た。
その表面に突き刺さった無数の刃や、そこから流出し続ける砂は、
今まで繰り広げた激戦を痛々しく物語る。
「すまない、土麒麟(どきりん)……最後の力を振り絞ってくれ!」
「そんなボロボロの姿で何の役に立つ!」
鈴華は全力で矛をはね上げ、動きが鈍くなった召喚獣に向かって飛びかかった。
穂先は豪快に一回転し、土麒麟の頚部に深くつらぬく。
鈍重な唸り声が森の木々を揺るがす。
ついに限界までダメージが達したのか、聖獣のあちこちから砂が血流のように迸った。
鈴華は容赦無く手首を返すと、土麒麟の首より上の部分が空中へと刎ねのけられた。
頭部を失った砂体はゆっくり横へと倒れていく。
「この堅物め! 体力だけはすごいんだから……」
完全に崩壊した砂の前で、鈴華はぜえぜえ息を変えながら矛にもたれかかった。
召喚獣の首は空中でぐるりと回転すると、ふと大口を開いたまま鈴華に向かって落下した。
だが、その最後の一撃は決して届くことは無かった。
横から一筋の水流が噴射して頭部を貫通すると、
今度こそただの土石となってに砕け散った。
「ふぇ、なに?」
降りかかってくる土砂に、鈴華は初めて気付く。
彼女の横まで歩んだ清見は肩をすぼめてみせた。
「だから昔から注意してやったのに。最後まで油断しないでって」
「おお、清見ちゃん! 無事寄生が終わったんだね。それより、睦美のやつは?」
「彼女達ならもうここにいない」
「えええっ!?」
清見が指差した方向を見ると、その地面には胴体が通れるくらいの穴があいていた。
鈴華は小柄な体を精一杯使って地団駄を踏んだ。
401 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(5/20) sage 2013/06/16(日) 08:00:27.78 ID:CJ8TnpxM
地中は、あらゆる追撃を阻む特殊な地形である。
そして五行戦隊の中で、睦美の土遁術がその唯一の移動手段であった。
この中でいる限り、睦美はどんな敵でも振り切れる自信があった。
例え二人分の人間を抱えて、スピードが大幅にダウンしたとしても。
睦美は魚のように地中空間を泳ぐ。
「翠、もう少し耐えてくれ。陽子先生が帰ってくれれば、きっと全てがうまくいくから」
「うん、ありがと……」
翠は瞳の焦点がぼやけながらも、健気に笑みを見せた。
その様子に胸を痛めながらも、睦美は無視せざるを得なかった。
地行術により、睦美は霊力を消費することで地中を一時的に通過することができる。
だが自分以外の物質を帯同する場合、術者への負担が何倍もの激しくなる。
普段よりずっと通過しにくい土質を感じながら、
睦美は集中力を高めて掘り進んだ。
突然、彼女の後方から一本の鉄索が猛烈な勢いで土を突き破った。
「なにっ!?」
睦美はすかさず方向転換したが、鎖はあたかも追尾するように経路を辿り続ける。
「睦美、鈴華が私を狙っているんだわ!」
翠は疼きに眉をしかめて叫んだ。
彼女の首輪や貞操帯に寄生した妖眼が、まるで鎖を呼応するかのように妖しく輝く。
睦美がいくらモグラのように地層を貫通しても、鎖は決して彼女達を見失わなかった。
そしてついに鎖はカチャリと翠の首輪を繋ぎ止めた。
途端、睦美は腕から凄まじい反発力を覚えた。
「ちっ……!」
そのまま地中を進みながら、睦美は必死に考えを巡らせた。
彼女のスピードに合わせて鉄索も無尽蔵に伸張してくる。
そして次第に、腕の中の重さが増え始めた。
(このままではまずい……!)
灯が健在していればこんな鎖すぐに断ち切れるだろうが、
自分の能力ではどれくらいかかるか予測できない。
そして彼女が止まった瞬間を狙って、鈴華は鎖を引き上げるだろう。
「睦美、灯ちゃんのことは頼みましたわ」
「翠?」
側から掛けられた励ましの言葉に、睦美は小さく驚いた。
そんな翠はニコッと優しい微笑を浮かべる。
「ごめんなさい。私が付いて来られるのがここまでみたいです。
でも、あなたが必ず悪を打ちかつことを信じていますから」
「翠、早まるなっ!」
睦美が阻止するよりも速く、翠は彼女から腕を離した。
掴み直そうと伸びた睦美の手は虚しくも届かない。
次の瞬間、翠の体は一気に後方へと引っ張られて、完全に見えなくなってしまった。
「くっ……!」
その場でとどまりたい気持ちを必死にこらえ、睦美は更にスピードを上げた。
402 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(6/20) sage 2013/06/16(日) 08:03:33.44 ID:CJ8TnpxM
□
地表の上で、清見が傘をさしていた。
傘の表面にいくつもの目玉が見開き、裏側からは激しい雨水が穴の中へと降り注いだ。
その傍らで、悔しがる鈴華と地面に伏せる翠の姿があった。
「もう、もう! あとちょっとだったのに」
「ぅん……!」
鈴華は手に持っている鎖を乱暴に振り回した。
鎖が揺れるたびに、首輪を繋がれた翠が苦しげな声を漏らす。
ふと、穴の中の水が逆流して雨傘の裏側に吸収されていく。
清見は傘を畳み、それを自分の触手服の中に押し込んだ。
傘はたちまち触手スーツの一部に同化し、傘にあった目玉はスーツの妖眼に戻される。
「清見ちゃん、どう?」
「完全にロスト。水が途中で地下湖に合流してしまった。途中で横穴を作って、
そこへ誘導されたんだろう。さすが睦美といったところかしら」
「きぃ――くやしい! 翠ちゃんが余計なことさえしなければ、
こんなことにはならなかったのに!」
鈴華が鎖を振るうと、翠は快楽と苦悶に呻いた。
「まあまあ。私は無事寄生されたし、翠も失わずに済んだ。
それだけでも十分な収穫だ」
「そうなんだけどさ……」
清見が冷静な態度を見せると、鈴華は好奇心に満ちた目線を向けた。
「清見ちゃんって寄生されたはずなのに、なんか前と変わらないね」
「どうなっていれば満足してくれるかしら」
「私や翠の場合は、すっごくエッチになったのに」
「そういう欲望なら、もちろん私にも植え付けられた。なんなら、体で試してみる?」
清見はそう言うと、両目を細めて指先を舐めとった。
青い触手スーツはにょろりと蠢き、半透明化した水の羽衣が肢体のラインを浮かばせる。
今まで冷静沈着なイメージから、絶対に想像できない狡猾さと蠱惑さ。
その挑発な目線に見つめられただけで、鈴華の心がドキッとした。
自分を見透かされたような妖しい冷たさに、
思わず被虐的な気持ちに陥ってしまいそうだ。
だが鈴華が清見の体に触れようとした途端、清見に頭を押さえつけられた。
「はい、そこまで」
「ちょっと、焦らさないでよ!」
「睦美と灯を捕まえるほうが先でしょ?
ちょうど翠がこちらの手にあることだし」
鈴華は一度落胆したが、睦美と灯の名前を聞いた途端、
また新しい悪戯を発見した子供の目になった。
「翠ちゃんを餌に二人をおびき出すつもり? ははっ、なんか悪役っぽくて面白そう」
「……私を人質にしても徒労ですわ」
翠は辛そうに首をあげて呟いた。
403 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(7/20) sage 2013/06/16(日) 08:06:17.46 ID:CJ8TnpxM
「睦美は正義を見失う人ではありません。私一人を救うために、
妖魔に屈することは決してないはずです」
「ああ。そういう意味では、私達五人の中で睦美が一番正義に近いだろうね」
「えっ?」
翠は清見を見上げた。
清見の両目は静かな水面のようで、何を考えているか分からない。
「だから人質を取るなら、あなたよりもっと都合の良い存在を選ぶ。
人数が多く、閉鎖環境で、妖力の源となる精気も取れやすく、
蟲の生産基地にもしやすい。そして、睦美達や私達が良く知っている人達」
「そんな都合の良い人質って……?」
清見の言葉を反芻する鈴華は、何か閃いたかのように顔をほころばせた。
(そんな……まさか!)
翠の心情が激しく揺れた。
彼女も鈴華と同様に、森の外に視線を向けた。
東側のどんよりとした空の底に、朝焼けの薄い赤色が見え始めた。
その方向上にある場所を想起した時、翠は心の奥から絶望と戦慄を覚えた。
□
暁の光が地上を弱々しく照らし、新しい朝を迎えたことを告げる。
雲の合間を抜けるのが精一杯だったのか、朝日の色合いは極めて曖昧なものだった。
その元気に欠けた光に、灯は意識を取り戻していく。
「ううっ……」
徐々に覚醒しながら、灯はゆっくりと目蓋を開けた。
ひどく堅い寝心地だった。
床の上で、自分は一枚の薄汚れた毛布を掛けて寝かされていた。
周りに目をやると、そこは久しく使われていない倉庫のような場所だった。
小屋の中に錆付いたパイプ椅子や机やらが所狭しと積まれる。
そのパイプ椅子の列を背にして、睦美は体育座りの状態で眠っていた。
古びた雨戸の隙間から光が漏れる。
(……助かった、のか)
灯は意識を回復させながら、物音を立てないよう起き上がった。
そして自分が被っていた毛布を睦美にそっと掛け、半壊した窓から外を眺めた。
道端にはバス停やガードレール、さらに下り坂が見えた。
坂道から視線を落とせば、商店街の一部が見えてくる。
素早く脳内地図と照合をとった。
ここは市街地に近い高台、森とは学校を挟んで反対側の位置にある。
丘からの町への見晴らしが良く、攻めにも守りにも適したポイントだ。
睦美らしい思慮深い選択と言える。
昨夜のことは、清見と戦ったことまでは覚えている。
だが自分がどうやって負けたか、その先の記憶がおぼろげだった。
睦美と翠が必死に自分を助けた記憶は印象にあった。
そういえば、一緒に脱出したはずの翠はどこにいるだろうか。
ふと灯は上着をめくり、自分のお腹を見おろした。
少女らしいすべすべした肌には、これといった変わりは無かった。
(あれは……夢か?)
何かおぞましい感覚が湧きそうになり、灯は慌てて思い出すのを止めて。
曖昧ながらも、自分の体が清見に何かされたような覚えはあった。
もし寄生されているのなら、一刻も早く睦美に知らせなければならない。
404 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(8/20) sage 2013/06/16(日) 08:17:30.83 ID:CJ8TnpxM
そう思って睦美を揺り起こそうとした時、その穏やかな寝顔が目に入った。
いつも堅物のイメージがある睦美だが、今ではまぶたを深く閉じて、
静かな寝息を立てて眠っていた。
しな垂れた頭から、白いうなじが無防備のまま晒し出される。
(睦美のやつ、こんな可愛かったのか)
灯は不覚にもトキメキに似た感情を覚えた。
スペースを譲るためか、体が小さく縮こまるところがまたしおらしい。
顔を近づけば、自分以外の女の子の良い匂いを感じる。
そんな時、灯の心臓が突然高鳴り出した。
下腹部に強い疼きを感じるや否や、全身に強い衝撃が立ち起こる。
(ちょっと、なに……!)
ハッとなって一度上着をはだけると、
なんと今度はヘソのまわりに薄っすらと妖眼の紋様が浮かび上がっていた。
子宮に甘い快感が生じるとともに、口から喘ぎが漏れそうになる。
(くうぅぅんっ!)
声が喉を通るのを必死に我慢しながら、灯は睦美から離れた。
赤い勾玉を握ると、瞬時に炎をまとったバトルスーツとなって身を包む。
すかさず両手で印を結び、体内から膨らむ妖気を封じ込めた。
素早い行動が功を奏したのか、
妖気の広がりはなんとかバトルスーツの内側に留まった。
しかし体のほうは沸騰したポットように、
抑え切れないほど膨大な淫欲が暴れ回る。
かすかな記憶の糸に、ある光景だけが力強く再生される。
自分を嘲笑する黒い影。
その口から紡がれる言葉には、悪魔の囁きのように甘い誘惑が満ちていた。
(百眼……さま)
ついに、心の中で復唱してしまった。
その言葉に口にした途端、
体中の細胞の一つ一つが震えて視界や意識が弾けそうになる。
本能が妖眼蟲のものにすり替わっていく。
淫気を集める。
胎内に宿る蟲を育む。
ほかの女を犯し、自分と同類のメスを増やしていく。
無意識のうちに、灯の虚ろになった瞳がある一点にとどまる。
睦美の寝顔だった。
こちらの邪念に気付くこともなく、ただ天使のような顔立ち。
――睦美を陵辱したい。
あまりにも自然と浮かんだ考えに、灯はビックリした。
下腹部に妖呪が現れてから、どす黒い疼きが神経を蝕み始めた。
心地良い脱力感とともに、全身の霊力が子宮のほうへと吸収されていく。
それに比例して、妖眼も淫紋がよりはっきりと浮かび上がる。
(まさか……霊力を妖気に作り変えている!?)
増大していく寄生の快感に、灯は唇をかみ締めた。
護霊服はもともと外からの攻撃を防ぐものであり、
内側の妖気に対しては一切機能しない。
405 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(9/20) sage 2013/06/16(日) 08:20:05.59 ID:CJ8TnpxM
ならば、自らの手で浄化するほか無い。
彼女は残る力を振り絞って、一枚の霊符を取り出した。
五行戦隊で一番解呪に長けているのは清見で、逆に灯は一番苦手としていた。
だが今はそんなことを言っている場合でもない。
下着をおろすと、布切れは甘い匂いの汁がたっぷりと沁み込んで、
股の間と蜜の糸を引いた。
羞恥心をぐっとこらえて、灯は妖気が発散する自分の股に霊符を宛がった。
だが彼女の予想に反して霊符は愛液に触れた途端、
墨汁を浴びたかのように一瞬にして黒く変色した。
御札の表面にある炎の霊言も妖しい目玉模様に上書きされ、
浄化するどころか、逆に強い妖気を放つ魔の札に変化した。
驚いたあまりに、灯は思わず黒化した霊符を握り潰して灰に燃やした。
なんて強力な呪詛だろうか。
動揺している間に、灯は重大なことを思い出した。
この呪詛を施した人物は清見である。
解呪の優れた彼女ならば、その対抗策を練ることだってできるはずだ。
(だめ、これ以上は……!)
奥から一際大きい鼓動を感じると、灯は高揚感のあまり体を抱きしめた。
そのまま背中を強く反らすと、陰部から愛液がほとばしる。
(なにか……出るっ!)
全身の力を吸い取られたように、灯に膣から一本の触手が生え出た。
細蛇のような触手は粘液にまみれ、淫らな香りをあたりに散らす。
異型が下からスカートを押し上げる光景は、
まるで正義の象徴をあざ笑っているかのようだ。
目の前が真っ暗になった気分だった。
(そんな……! 速く、元に戻さないと……)
朦朧となりかけた意識で、灯は触手をなんとか押し込めようとした。
だが指が一物の先端に触れた途端、脊髄に甚大な快感が跳ね返ってきた。
(ヒャアァ――くッッ!)
声を噛み殺すだけで精一杯だった。
指紋の一つ一つが鎌首をなぞる度に、快楽の火花が脳に焼きつける。
最初こそ刺激的だったが、それもあっという間に物足りない快感に変わった。
灯は恍惚の表情を浮かべて、スカートの下から触手をあらわにさせた。
表面の荒れた筋や見開く妖眼は、少女の可愛さと酷烈なコントラストを作り、
背徳さを一層際立たせる。
完全に解放されたせいか、むせ返るほど甘い淫気が外に漏れ出た。
これほど濃密な淫気が潜んでいたかと驚いたが、
すぐに心までその虜になってしまった。
硬くなった触手を握り締めただけで、熱さやドクドクした脈打ちが伝わってくる。
脳内にまたあの囁き声が現われる。
意識が薄れた灯にとって、それはあたかも己の意思のように聞こえた。
406 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(10/20) sage 2013/06/16(日) 08:22:50.68 ID:CJ8TnpxM
『速くそれを鎮めなさい。じゃないと、蟲が成長してしまうわ』
(うん。蟲の成長は、なんとしても阻止しなきゃ……)
『そのためなら、一時的に快楽を求めるのは仕方ないこと』
(うん、ちょっとだけだから……そうしなきゃ、もっと大変なことになるんだから)
『触手をシゴくのが気持ちいい』
(ううぅ、気持ちいい……!)
『でも、これは決して快楽のためにやっているわけではない』
(そう……あくまでも蟲の成長を防ぐためだから)
誘導された通り反芻しながら、灯は虚ろな目で触手をこすり始めた。
最初はゆっくり、段々速く。
次第に意識するまでもなく腕が勝手に加速していった。
どうすれば快楽が得られるか、どこがポイントなのか、
それら全て勝手に思い浮かんだ。
あとは見よう見真似て自分の手によって再現するだけ。
(……睦美……!)
友達の寝顔を見つめながら、灯は心中の欲望をギラギラと燃やし広げた。
生徒会長であり、強い信念を持つ睦美。
学校では誰からも憧れる存在だった。
だがその制服の下には、灯とは変わらない無垢で淫らな肉体が存在している。
彼女を汚したい。
力ずくで屈服させ、快楽を渇望するはしたない声で鳴かせたい。
そして彼女の子宮にも妖眼蟲を分け与え、
その端正な顔立ちが欲情に染まっていく様子を見たい。
とりとめのない罪悪感にさいなまれつつ、
灯はこれまで感じたことも無いような高揚感を味わった。
もうこれ以上考えてはならない。
頭の中で何度も警鐘が鳴り響いたが、そのたびに別の心地良い声によって揉み消される。
(睦美、ごめん……!)
仲間を裏切った意識に苦しみながらも、灯は止めることができなかった。
睦美を陵辱する光景を想像しただけで、脳みそが溶鉱炉のようにドクドクと滾った。
やがて爆発に差し掛かった直前、灯の下腹部の妖呪は最大限に黒く輝いた。
その時、灯は妖しい声に言われるがまま言葉を繰り返した。
(私は百眼様に寄生されたしもべ……
妖眼蟲をこの身に宿し、その繁栄のために全てを捧げます……!)
言葉を一字一句吐き出すにつれ、快楽の高潮が盛り上がっていく。
そしてついに、灯は意識が吹き飛ばすほどの絶頂を迎えた。
「うっ……くっ、かあぁっ……!」
全身の霊力が子宮に引き寄せられた。
体がビクビク震えた次の瞬間、触手陰茎から大量の濁液が発射された。
潰れそうになるほど抑制した喉の隙間から、悲鳴がかすれて弾き出される。
淫らな白液は自分だけでなく、睦美の護霊服までに飛び散った。
放心状態となった灯は、がっくりと地面に膝をついた。
触手陰茎はいつのまにか膣の奥へ引っ込み、気付いたらもう見当たらなくなった。
残るは汗だくの体と火照りと、胸に広がる虚しい気持ちだけだった。
親友をおかずに自慰してしまった罪悪感。
彼女のバトルスーツにぶっかけた粘液を目にしただけで、心が引き裂かれそうになる。
睦美が目を開けたのは、その時だった。
407 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(11/20) sage 2013/06/16(日) 08:26:00.86 ID:CJ8TnpxM
ギクッ、と灯が石膏像のように固まった。
だが睦美は立ち上がるや否や灯の背後に回りこみ、
右手から一粒の小石を弾き飛ばした。
小石は弾丸のように射出され、倉庫の入り口を跨ぐ一匹の妖眼蟲に命中する。
目玉を貫通されたスライム体はドロドロに溶け出し、床に小さな染み跡を残す。
「気を抜くな、灯。敵がいつ現れるか分からないから。
まあ一応結界を張ってはいたが」
「え、えっ?」
睦美に言われて初めて、灯は倉庫の四方にお札が貼られていることに気付く。
札自体の霊力は弱く、境界線を越えた妖魔を知らせるのが主な役目のようだ。
(って、睦美は気付いていないの?)
灯は慌てて睦美のバトルスーツを観察した。
白と褐色が織り成す正義の衣装は、睦美の凛とした雰囲気をより引き立たせる。
だが、その服にはさきほどの……
(あれ……?)
灯は急に戸惑った。
ついさっきまでの記憶が蒸発したかのように、ごっそり思い出せなくなった。
更にしばらくすると、どうして自分が戸惑っていのるかさえ分からなくなった。
ただ何か良くないことが進行している気がするが、
それを思い出すことを本能が拒絶しているようだ。
「灯、どうした?」
「ごめん……オレ、どうかしてるみたいだ。今までのことが曖昧で……」
「無理もない。昨晩、あんなことがあったから」
いや睦美、言いたいのはそれではない。
灯は改めて伝えようとした時、
ふと睦美のスーツの端っこにシミのようなものを見つけた。
そのシミは一瞬だけ触肉のように変化したが、二三度まばたきすれば消えてなくなった。
偶然じっと見ていなかったら、きっと錯覚だと思っていただろう。
だがその現象が一体何を意味するのか、灯にはどうしても思い出せない。
「灯、大丈夫か?」
「あっ、うん……助けてくれて、ありがとう」
「体に目立った外傷は無かったが、しばらくは無理しないほうがいいだろう」
「ああ、そうさせてもらうよ」
灯は自分の口から出てくる言葉に混乱した。
彼女が考えるよりも速く、まるで誰かに操られているように勝手に言葉を綴った。
肝心なのは、睦美は何も気付いていないことだ。
しかし、一体何に気付けというのか?
「どうしたの?」
「いいえ……それより、翠はどこにいるの」
灯は考えを巡らせながらも、話題を逸らすように尋ねた。
だが意外なことに、睦美の視線が俯いた。
「ちょっと、翠はどうした? アイツと一緒にオレを助けたんだろ?」
「敵に捕らえられてしまった。私達を守るために」
「そんな……!」
灯は呆然となった。
つらい気持ちがぐっと込み上がって来る。
408 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(12/20) sage 2013/06/16(日) 08:29:01.25 ID:CJ8TnpxM
睦美は表情を強張らせたまま、言葉を続ける。
「大丈夫ならもう少し休んでおけ。昼になれば妖魔の動きも鈍くなる。
その隙にここを出る」
「なんだと?」
「妖眼蟲の活動範囲がすでにここまで拡大した。さっきは一匹だけだが、
敵に察知されるのも時間の問題だ。その前に町を出て、一度陽子先生と合流……」
「ふざけるな!」
灯は大きな声をあげて、灼熱のような目つきで睦美をねめつけた。
「今オレ達が離れたら、誰が町を守る? 誰が妖魔と戦う?
誰が鈴華や清見や翠を助ける? みんなを見捨てるというのか!」
「見捨てるわけじゃない。先生は三日後に退魔機関の本部から返ってくるはずだ。
そこで体勢を直してから、またここに……」
「戻って妖魔を退治するっての? ハハンッ……! 三日も経ったら、
この町にどれだけの犠牲者が増えると思ってる?」
「だからと言って現状ではこちらに勝ち目は無い。鈴華と清見が敵になった時点で
こっちとは二対二。その上、敵には大勢の妖眼蟲だっている。
もし翠までが敵の戦力になっていたら、完全にこちらの劣勢だ」
「勝ち目が無ければ戦わないのか?」
「今回が特別すぎるのだ。私達が負ければそのまま敵の戦力を増やすことを意味する。
それよりも今私達が知っている妖眼蟲の情報を、退魔本部に知らせることが重要だ」
「要するに負けるかもしれないから、尻尾を巻いて逃げるってことだろ?」
灯は睦美の襟元を掴み取った。
その烈火にも勝る気迫を、睦美は逆に睨み返した。
「五行戦隊に入った時から、この命を捨てる覚悟ができている。
私が何よりも怖いのは、このまま誰にも知られること無く、
妖眼蟲の侵略を許してしまうことだ」
睦美の毅然とした表情はまるで頑固な岩から掘り出されたように、
灯の激怒に対し微動だにしなかった。
彼女のまっすぐな目線にひるんだのか、
やがて灯は手を離し悔しそうに顔を言葉を吐き捨てた。
「くっ……あとでオレに反省させてくれよな。
あの時お前の言うことを聞いて、やっぱり正解だったと」
「灯……!」
「納得したわけじゃないからな! ただ睦美のことは信用しているというだけで」
灯は不器用そうに背を向けた。
目の前の犠牲を我慢できるほど、灯は融通の利いた人間ではなかった。
しかし、彼女は睦美の性格をよく知っていた。
その睦美が信念を曲げてまで決めた選択を、無下にすることができなかった。
ある異変が起きるまでは。
突如、床に広がっていた水の残滓が変色した。
灯と睦美は咄嗟に構える。
妖眼蟲が残した水溜りに波紋が広がると、ぐにゃりぐにゃりと揺らぎながら、
一つの明瞭な映像に変化した。
飛び出さんばかりに、小柄なシルエットがそこに現われる。
409 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(13/20) sage 2013/06/16(日) 08:31:21.88 ID:CJ8TnpxM
『ハ~イ。灯と睦美、見てる?』
「鈴華……!」
驚きに怒りを交えて、灯は仲間だった人物の名前を呼んだ。
水の鏡面には、鈴華の明るい笑顔がいっぱいに映し出される。
もともとある小悪魔な魅力も、
その暗黄色の触手スーツによって淫らに仕立てられた。
『この映像はね、清見の能力で蟲に封じたものなの。
コアを破壊すると、映像が再生されるってわけ。あっ、それじゃあ
この蟲さんはもう殺されちゃったってことかな? あーあ、残酷ぅ~』
映像の中の鈴華はわざとらしく両手を広げてため息をついた。
悪戯っぽい言動は、以前の彼女の快活さを思い出させる。
それが余計に灯の怒りに触れた。
「この……っ!」
「待て、これはただのビジョンだ。破壊しても意味は無い」
飛びかかろうとする灯を睦美が抑制した。
その間にも、鈴を鳴らしたようなかわいい声が小屋に響き続ける。
『ところで、私は今どこにいるでしょう?』
唐突な問いに、灯と睦美は初めて映像の背景に注意を払った。
鈴華の足元を走る白いコンクリートの床。
曇り空へと続く間には、落下防止用の欄干が見える。
それらの景色を照らし合わせると、二人の顔色が激しく変わった。
『正解は、学校の屋上でーす!』
鈴華が手を伸ばすと、映像の視界が後ろの景色を映し出す。
屋上から見える校舎や校庭、そして登校するのに使う通学路。
灯や睦美にとって、どの場所も生活の一部だった。
『さて、今回のゲストを紹介しましょう』
映像の枠外から、鈴華が一人の少女を押し込んだ。
体操着を身に着けた少女は、事情がまったくのみ込めない様子でただ半べそをかいでいた。
彼女の顔立ちを確認した途端、灯はきょとんとなった。
「そんな……祥子!?」
『とりあえず、自己紹介してもらおうかしら。
クラス、氏名……あっ、カメラ目線はこの目玉にね』
『ふぇぇ……に、二年、B組……滝沢祥子、です』
『ところで、あなたはなんてこんな朝早くから学校にいるの?』
『私……陸上部だから、朝練で……』
『まあ可哀相に。真面目に朝練に来たばかりに、こんな目に遭っちゃうなんて。
でも刺激的だったでしょ? あなた以外の女の子達が、
みんな触手に愛撫されてアンアン鳴いていたのを』
『ひ、ひぃ……!』
少女は途端に怯えきった様子に陥った。
鈴華が意地悪そうに笑みを浮かべると、寄生スーツから幾本もの触手が分裂して、
少女の体や頬にまき付いた。
その触手がよっぽどトラウマなのか、少女は逃げることも大声を出すこともできず、
ただほっそりとした体をわななかせた。
410 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(14/20) sage 2013/06/16(日) 08:35:05.36 ID:CJ8TnpxM
『あなたをここに連れてきたのは、実はこれから祥子ちゃんに寄生してもらって、
それをテレビの前の人に見せるためなんだ。
すごく気持ちの良いものだから、怖がらなくてもいいよ』
『き……せい? い、いやぁ……』
恐怖のあまりに、少女の悲鳴はかすれた。
その様子を楽しんでいるかのように、鈴華は得意満面の表情を作る。
『今だけサービスタイム! 特別に寄生の方法を選ばせてあげるわ。
私の首輪や貞操帯に責められたい?
それとも清見ちゃんの精液風呂に浸かりたい?』
『い、いや……!』
『ああん、どっちも気持ち良さそうで選べない!
――そんな優柔不断なあなたに、こちらがオススメ!
私と清見ちゃんの能力をハイブリットさせた真新しい寄生法!』
じゃじゃん、と鈴華は意気揚々と身辺にある物体を示した。
金属製の棺桶のような鋳物が鈴華の横で直立していた。
その物体は鈴華の背丈よりも高く、正面には女体の輪郭がかたどられ、
不気味な雰囲気は中世の拷問器具を連想させる。
鈴華が扉を開くと、中が空洞であることが分かる。
だが目を良く凝らして見ると、そこに恐ろしい光景が潜んでいることに気付く。
金属の裏側には、びっしり埋め尽くす触手が存在していたのだ。
『ひ、ひゃああっ……!』
あまりにもおぞましい景色に、少女の声がうわずった。
金属の裏側から絶え間なく粘液が滴り、空洞内の空気と触手を濡らせる。
外からの光を感知したか、触手は緩慢な動きで伸び始めた。
触手の表面には不気味な目玉がぎょろつき、淫液が糸を引いて垂れ落ちる。
その淫液が床と接触すると、その場を黒く染み広がった。
画面越しでも、灯や睦美にはその匂いが漂って来るように感じた。
一目見ただけで、今までずっと強い寄生能力が備わっていることが分かった。
彼女達ほどの退魔士とて、護霊服が無い状態で長く閉じ込められたら、
寄生支配されてしまいそうだ。
触手の目玉は獲物に気付いたかのように、一斉にぎょろりと女学生を見つめる。
『きゃあっ……!』
『ああん、そんな熱い眼差しで見つめないで、私もう濡れちゃうわ!……あはは。
まあ、恨むなら私達じゃなくて、五行戦隊を恨みなさいね』
『五行……戦隊?』
その言葉を聴いた途端、少女の瞳に一筋の希望が輝いた。
五行戦隊の活躍は、都市伝説のように生徒達の間で囁かれていた。
少女自身も興味半分知っていたが、本物の妖魔を見た今、
その存在は彼女にとって唯一の希望だった。
『五行戦隊は知っているんだ。じゃあ、そのうちの一人の名前が灯で、
あなたと同じ陸上部の子であることは知ってるの?』
『あ、灯ちゃん……!?』
411 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(15/20) sage 2013/06/16(日) 08:38:02.99 ID:CJ8TnpxM
『うん。そもそも私達がこの学校を襲った理由は、彼女がここの生徒だからなんだよ。
ちなみに、あなたは彼女との関係は?』
『と、友達なんです……』
『おおう、友達! なんという幸運! じゃあぜひ彼女の助けを呼ばないと。
もしかしたら、今この瞬間もあなたのピンチを見ているかもしれないよ。
ねぇ灯ちゃん、聞こえてる? 速く助けに来ないとこの子をこの拘束具の中に入れて、
触手ちゃん達にレイプさせちゃうわ』
『い、いやああぁぁ!』
「この……!」
灯は拳を強く握り締めた。
そうでもしないと、膨れ上がる怒りを抑えられなかった。
『おかしいね。友達がピンチなのに、全然来ないじゃない。
ほら、あなたも呼ぶのを手伝ってよ。灯ちゃん、助けてって』
『あ、灯ちゃん……た、助けて……』
『もっと大きな声出してみたら? ほらほら、触手ちゃんがあなたを欲しがってわよ』
自分の身にどんどん近付く触手に、
少女は目に涙を滲ませながらはち切れんばかりの声で叫んだ。
『灯ちゃん、お願い! 速く助けに来て!』
『……全然来る気配が無いね。
どうやらあなたは彼女にとって、人質の価値も無かったみたいだね』
『待って、もう少し待って下さい! 彼女は絶対来ます! だから……』
少女が言い終わるのを待たずに、鈴華は指を鳴らした。
すると空洞の中から無数の触手が飛び出て、少女を体操着の上から絡め込んだ。
粘液が体操着に染み込むと、瞬時に黒い粘質に染め替えた。
『いやああああ!』
触手がそのまま少女を空洞に引っ込むと、
金属の蓋はバタンと閉まり、中からの悲鳴をシャットアウトした。
棺桶の蓋の輪郭がぐにゃりと歪み、
顔の形から足先まで少女にピッタリフィットするよう変形していく。
その作業が終わって固定化すると、拘束具はまるで少女に銀メッキを施したかのように、
体のラインを生々しく浮かび上がらせた。
金属の光沢が映える胸の谷間や、股間の陰り。
生気を失った顔立ちに伝わる怯えた感情。
それらは不気味ながらも、どこか官能的な雰囲気を醸した。
『はい、新しい寄生者の誕生です。ふふふ、大丈夫。あなたがそこから出る時は、
今よりもっとずっと素敵なメス奴隷になれるわ』
鈴華は妖しい笑みを浮かべ、鉄になった少女の胸をいやらしく撫でた。
灯は外に向かって歩き出した。
それを予測したのか、睦美は間髪入れず灯の肩を捕まる。
「冷静になれ。この映像は今よりも前に撮ったはず。
今駆けつけたところで、彼女はもう……」
「だからなんだって言うの? 今この瞬間にも、犠牲者が増えているんだぞ!」
「見て分からんのか。敵はわざと私達を挑発してるのよ!」
412 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(16/20) sage 2013/06/16(日) 08:43:51.85 ID:CJ8TnpxM
二人の諍いをよそに、水の鏡面に青い触手服をまとった人物が映し出された。
彼女の切れ長の目は深淵の湖のように静けさを帯びる。
右手を差し出すと、手のひらに乗せてある水色の妖眼蟲を見せつけた。
そして彼女の口から無情な言葉が紡がれる。
『今日の正午、蟲達を屋上の貯水槽に放つ』
「清見……!」
「どういうこと?」
睦美達の反応に構うこと無く、青い寄生少女は冷酷な口調で語り続けた。
『私が産み出した寄生種は、水に触れただけで無色透明に溶ける。
その水を摂取することで、ここにいる人間は一斉に寄生されることだろう』
「そんなことしたら……!」
灯は愕然となって、清見の手の中にあるガラス球を見つめた。
妖眼蟲の核である眼球は、光を反射してみずみずしく輝く。
別物だと頭の中で分かっていても、どうしても人間の目玉を連想して嫌な気分になる。
『その液体は人間に害は無いわ。むしろ免疫能力が強くなって、
健康状態が向上するくらいだわ。私が念じない限り体内にずっと潜伏状態でいるから、
普段の生活に支障を出すことも無い。それこそ霊力による精密検査でもしない限り、
普通の人間と違いが分からないくらいにね』
「そんな馬鹿な!」
睦美はぞっとしたように声をあげた。
ただでさえ妖眼蟲の発見はしにくく、その高い寄生力と繁殖力で人間を脅かしてきた。
それが新たに潜伏能力を得たら、
感染が広がる前に発見することが更に難しくなるだろう。
『兆候がまったく無いわけでもない。これに寄生された人間は、
繁殖本能が物凄く強くなる。そして、彼らと体液を交換した――
すなわち性交した人間もまた、同じ寄生状態になってしまう』
「それってつまり、感染が速く広がるってことじゃないか!」
灯のつっこみを無視して、清見は淡々と続ける。
『ここでの実験が終わったら、この寄生種を全国の水道局や河川に流す予定だ。
戦いを起こさず、人々が幸せの中で寄生される。
とても平和なアイディアだと思わない?』
予想を遥かに上回る計画性に、灯と睦美は背中に冷え汗を流した。
もし清見の目論見が達成されたら、被害規模はもはや町だけでは済まない。
日本はもちろん、世界中の人々が妖魔に支配されてもおかしくないだろう。
『じゃあ、私と鈴華は学校で待ってくるから。
正義の味方さんなら、こんなことを許すはずないわよね?』
最後に清見が嫌味っぽい薄笑みを残すと、映像はそこで途切れて元の水溜りに戻った。
倉庫の中は再び静かになる。
睦美は自分が掴んでいるのは人間の肩ではなく、高熱に焼かれた鉄板のような気がした。
手のひらに伝わる温度は、映像が終わった後も上昇し続けた。
「落ち着いて、灯……」
「こんなもの見せられて、誰が落ち着いていられるか」
灯は睦美の手を振り払い、それまで溜め込んだストレスを一気に爆発させた。
413 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(17/20) sage 2013/06/16(日) 08:48:38.49 ID:CJ8TnpxM
「睦美が行きたくないならそれでいい。だがオレは絶対行くからな!」
「このまま君が敵の戦力になるのを知って、行かせるわけにはいかない」
「ふざけるな!
だいたい最初に鈴華が敵に捕らわれたのも、睦美のせいじゃないか」
言い終わって、灯はハッとなって後悔した。
睦美は明らかに落ち込んだのだ。
決して弱みを見せない睦美が、潮水に摩滅された石のような表情を浮かべた。
そこでやっと、灯は最近の睦美がどういう心境だったのか理解できた。
鈴華の寄生を発端に始まった一連の事件。
睦美はずっと鈴華のことで自分を責めていたが、
みんなの前では一切素振りを見せなかった。
その気丈さに感心すると同時に、灯は自分の鈍さに慙愧した。
すぐに謝ろうと口を開いた。
だがその瞬間、灯に灯の脳内に妖しい目線が蘇る。
どす黒い感情とともに、口から出た言葉は彼女の意思とまったく逆のものだった。
「睦美にそれを言う資格はあるのか? あの時、あなたが鈴華と一緒に戦っていれば、
鈴華が寄生されることは無かったはずだ。
翠だって、どうせ睦美が彼女のことを見放したんでしょ?」
「……!」
灯が放った言葉は、次々と睦美の心を傷つけた。
その消沈していく様子を目にするだけで、灯は胸を締め付けるような痛みを感じた。
だがその一方で、腹の奥ではまったく異質の快感が膨れ上がった。
――もっと睦美の苦しむ表情が見たい。
その邪悪な感情が下腹部の疼きと合わさって、体中にじんわりと広がっていく。
何かがおかしかった。
(だめ……このままだと、もっと酷いことを口に言ってしまう……!)
興奮の汗が体中から涌き出る。
狂乱する心臓の鼓動を抑えながら、灯は睦美に背中を向け外へ走り出した。
睦美の弱くなる姿を見ただけで邪悪な欲望に支配されそうになる。
頭の中で、誰かに呼ばれているような気がする。
それに答えてしまったら、大事なものを失ってしまいそうだ。
時間が進むにつれ、呼び声の間隔が縮まって灯の心を揺らし始める。
ぼやけていく頭の中で、最後まではっきり保った意識が一つだけあった。
(……ここにいたら、睦美まで……巻き込んじゃう)
そう感じると、灯は目が虚ろになったまま呼び声の方へ駆け出した。
彼女の行動を、睦美は止める事ができなかった。
「クソッ……!」
睦美は床に膝をついて、やりきれない表情で拳を振り下ろした。
思考が麻のごとく乱れていく。
414 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(18/20) sage 2013/06/16(日) 08:50:49.00 ID:CJ8TnpxM
灯の選択は正しいかもしれない。
翠は捕まってしまったが、今ならまだ完全支配されていないはず。
鈴華と清見が敵側にいるとはいえ、灯と協力すれば戦い方次第勝てるかもしれない。
だがもし翠が敵に加勢したら、勝率は限りなく低くなる。
仕掛けるとしたら、今が最後のチャンスだろう。
このままほうって置くと、ミスミス灯を敵の手に渡すようなものだ。
だが自分まで負けて寄生されたら、敵を更に増長させてしまう――
睦美はできるだけ灯の言葉を考えないようにした。
だが避ければ避けるほど、灯のセリフが頭にまとわり付いた。
今の彼女には、行動を起こす余裕の欠片も無かった。
灯を阻止することも。
妖眼蟲の残骸以外の微かな妖気に気付くことも。
空は一段と濃厚な黒雲に覆われ、霧雨に町が煙り始めた。
その中には、学校の建物も含まれているだろう。
どんよりとした町景色を眺めていると、睦美の心は急激に寂しさを覚えた。
今ほど太陽の光が恋しいと思った時はない。
□
メッセージを伝え終えると、清見は妖眼蟲の核を貯水槽に放り投げた。
水に触れた途端、妖眼は溶け広がり、ほのかな残り香を漂わせる。
その無造作な行動に、鈴華は瞳を大きく見開かせた。
「えええ、睦美達が来るまで、人質にとっておくじゃなかったの?」
「人質というのは彼女達の認識であって、私達とは無関係な話。そうでしょ?」
清見は淡々と答えた。
彼女の近くにいた四人の少女が男達の剛直から離れ、
頬や肌に快楽の余韻を残しながら貯水槽の周囲に集まった。
少女達は蓋のまわりでしゃがみ込むと、その股の間から白い粘液が太ももを伝って滴る。
いずれの少女も裸に近い格好で、艶かしい肢体に淫靡な触肉がまとい付いた。
そんな異様な光景にも関わらず、少女達は誰一人怯えた様子もなく、
陶酔しきった目つきで自分達の股間をまさぐり始めた。
魂をとろかすような喘ぎ声とともに、新たな寄生のコアが貯水槽に産み落とされる。
清見の口から嘲弄の意図を悟ると、鈴華は面白そうにまばたきをした。
「灯達が必死に助けようと来てみたら、実は全員すでに私達の奴隷だった!ってオチ?
きゃはは……清見ちゃんって、実は悪役のほうが向いてるんじゃない?」
「正義は決して悪に勝てない。その理由は、
悪は目的のためにどんな作戦も実行できるが、正義にはそれができない。
だから私のような人間は、最初から悪の側にいるべきだった」
清見は冷静に語りながら、部下となった少女達の働きを見守った。
少し前まで、彼女達は普通の女子高生だった。
それが今では、清見に従う忠実なしもべとなった。
学校の屋上には寄生の棺以外に、十数人もの男女が乱交を繰り広げていた。
「くくく……灯と睦美の絶望した表情、今からでも想像するだけでゾクゾクしちゃう。
あなたもそう思わない、翠ちゃん?」
鈴華は自分が腰掛けていた棺を開けると、喘ぎ声のボリュームが大きくなった。
中には一人の少女が鎖に縛られ、半身が白い粘液に浸かっていた。
415 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(19/20) sage 2013/06/16(日) 08:54:01.74 ID:CJ8TnpxM
棺を開けた瞬間、むせ返るような甘い発情臭が外に漏れ出る。
彼女の暗緑色の寄生スーツと棺の裏側に生えた触手が絡め合って、
絶妙な加減で女体を撫で回る。
股間につけてある貞操帯の隙間から絶えず愛液が溢れ出て、
白粘液風呂と混ざり合った。
「翠の体からすごく良い匂いがするわ……これほどに性欲を高められるなんて、羨ましいわ」
「ぐぅん、うぅんんん!」
鈴華が翠の胸の谷間に鼻を埋めると、翠は大きく物音を立てた。
彼女は首輪やボールギャグを装着された状態で、両目も眼帯に覆われていた。
眼帯の表面には水色の目玉が一つ輝き、その点滅と同調して少女の体が震え上がる。
手足まで縛られた彼女には、悶える以外の行動が許されなかった。
「今すぐにもイキそうだね」
「普通の人間ならとっくに狂い出す状況だが、翠の精神力はさすがのものだ。
そのおかげで、みんなの洗脳時間を大幅に短縮できた」
清見は感心したように翠の姿を眺めた。
床に置かれた棺同士の間に太い触手が繋がり、その中心に翠の棺が位置していた。
翠が悶えるたびに、触手間に信号のような光が転送されていく。
「今の翠ちゃんは、自分が寄生された時の記憶を、繰り返し見せられているんだよね?
わざわざ寄生前の心情に戻されて、何度も堕ちた瞬間が味わえるなんて」
「その記憶をほかの寄生者に見せることで、強制的に堕ちた時の心情を学習させていく。
そうして、短時間のうちに高いレベルの寄生者が産み出せる」
「良かったね、翠。百眼様のために、挽回のチャンスがもらえて」
鈴華はそう言って翠の口からボールギャグを外し、
そこにベットリとついた唾液を舐め取った。
口が自由になった途端、翠は悲鳴に近い声で叫んだ。
「お願い、もう許して! もう二度と逆らうことなんて考えないから
……だから、イカせて!」
首を左右に振って懇願する少女。
懸命に身を捻らせるも、全身を拘束された今、それは更なる欲情を煽る行為でしかなかった。
だが今の翠には、それに気付く余裕さえ持たなかった。
「翠ちゃんは反省中なんだから、イカせるわけないじゃん」
「そんなこと言わないで! 全て私が悪かったです……
百眼様のためなら何でもします、鈴華や清見の命令だって何でも従います! だから……」
「その言葉に偽りは無いのだな?」
清見は翠から目玉の眼帯を剥ぎ取り、その顔を晒した。
淫欲に潤んだ虚ろな目は、媚薬に盛られた淫婦のように焦がれていた。
「は、はい……!」
「じゃあ手始めに、この学校を蟲達の苗床に作り変えてもらおうか。
そうすれば、あなたが期待する快楽も得られるだろう」
「えっ……きゃあああああ!?」
清見が貞操帯に足先を乗せると、翠は魂消るような叫び声を上げた。
絶頂に達しないギリギリの快感が翠の全身を震わせる。
416 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(20/20) sage 2013/06/16(日) 08:56:47.61 ID:CJ8TnpxM
「いいのか、清見」
「灯と睦美は必ずここに来る。彼女達を歓迎するためにも、
翠の調教を終わらせてやらないと。正義の心が腐ってしまうくらい、
快楽の蜜液に浸して……!」
「ひゃあ、怖い怖い」
鈴華はペロッと舌を出した。
清見は敵としては手強いが、味方となればこれ以上心強いものはない。
彼女の心に宿る黒い興奮を感じると、鈴華も邪悪な笑みを浮かべた。
― つづく ―
森の中で、清見は暗い青色の寄生スーツを身にまとっていた。
性交後の余韻を象徴するかのように、露出した肌の部分から淫靡な香りが漂う。
半液状の触手達が汗ばんだ肉体を愛撫する。
だが、彼女の顔立ちはいつもの無表情に戻っていた。
清見は抜け目の無い人間である。
例え妖魔のしもべになった今でも、その性格が変わることは無かった。
だから足元から違和感を覚えた瞬間、清見はすかさず体を横へと滑らせた。
やや遅れて一本のツタが地表から跳ね上がり、彼女の足元を空振る。
地面はいつの間にかイバラの大群に覆われていた。
赤い花が満開すると、血のような花びらの旋風が巻き起こる。
清見は咄嗟に顔面を両腕でガードした。
体を覆った触手スーツは瞬時にバリアのように広がり、
接着剤のごとく花びらを粘つける。
だがその隙に、木の上から一本の蔓が伸び出て、
清見の腕から烈火の勾玉をはたき落とした。
一つの影が飛び出て、勾玉を空中でキャッチすると、
そのまま清見の後方にある巨大水玉へと駆けつけた。
その人影は木の槍を掲げ、全力で巨大水玉の表面に突き刺した。
ブスッという異音とともに、水玉の大目玉から無数の黒液が噴き出る。
木の槍を放った人物は躊躇すること無く、その中から灯を引っぱり出し、
赤い勾玉をその胸にかざした。
主人を認識した霊玉は命を吹き込まれたように輝き、灯の体を炎で包み込む。
少女の体に染み込んだ黒い淫液は蒸発したかのように消え、
本来の健康的な肌色をあぶり出す。
だが炎が完全なバトルスーツに変身する直前、激しい水流が襲来してそれを打ち消した。
人影は灯の体を守るように抱きかかえ、水流を割って飛び出した。
その身に着けていた暗緑色の寄生スーツが、体に付着した液体を自動的に吸い取る。
「これは驚いた。翠、あなたがまだ堕ちていなかったとは」
「清見……っ!」
翠と呼ばれた少女は、肩で息をしながら答えた。
彼女はもう一度清見を悔しそうに見つめ、それから灯を抱きしめて走り去った。
彼女の後ろ姿を冷ややかな目線で追いながら、
清見は自分の触手スーツに指先を入れて目玉を一つえぐり取った。
その青い眼球を、灯を閉じ込めた水玉の残滓にぽちゃんと落とす。
水溜りが怪しくうねると、そこから犬のような妖獣が立ち上がった。
化け物の体は常に波紋が揺らぎ、その顔面には清見の落とした目玉が青く光る。
「ゆけっ」
清見が短く命令すると、妖獣はバネのように地面を蹴り出した。
翠が踏みつけた跡に草花が生え渡った。
そこで異物を感知すると、植物は一斉に棘のある蔓を伸ばした。
縛り付けられた妖獣は、一瞬苦しそうにもがいたが、形勢はすぐに逆転した。
妖獣の表面の毒々しい粘液に触れていた植物は、
まるで濃硫酸を浴びせられたように枯れ始める。
そしてボロボロに黒ずんだ植物を力で千切り、妖獣が再び駆け出した。
398 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(2/20) sage 2013/06/16(日) 07:53:03.07 ID:CJ8TnpxM
翠はもともと満足に走れる状態ではなかった。
足元がふらついて、意識もおぼつかない。
一歩進むごとに貞操帯が股間に食い込み、その隙間から愛液がとろりと垂れ下がる。
今にも狂い出しそうな快感に、翠はその場でうずくまって体をまさぐりたかった。
それを我慢できたのも、懐にある灯の存在だからだ。
(せめて、灯だけでも……!)
翠は唇をかみ締め、その痛みで快楽をこらえた。
変身までさせられなかったが、灯を浸蝕していた黒液はだいぶ浄化できた。
自分が助かる望みはもはや皆無。
ならば、せめて親友だけでも助かってほしかった。
だが翠の覚悟を、妖眼蟲は許さなかった。
迅雷のごとく疾走する妖獣は、あっという間に翠達に追いついた。
一つ目が大きく輝くと、妖獣は翠の脚にがぶりと噛み付き、
首を回転させて引っ張った。
「っ……!」
激痛を感じるも束の間、翠はバランスを崩して倒れた。
牙の鋭い先端が脚を覆った触肉のブーツを貫き、その下にある肉体まで届く。
奮闘も虚しく、彼女は灯を投げ出して倒れ込んでしまった。
「呆れたわ。それほど強い淫気を発しながら、まだ抗おうとするなんて。
まあ、だから感心もするけど」
清見は寄生スーツに刺さった花びらを取り除きながら、悠々と翠の前へやってきた。
その冷徹な瞳は青く湛えながら、翠の艶姿を捉える。
とっくに限界に達しているのか、翠の触手服の寄生眼は頻繁に点滅し、
明暗を繰り返すと同時に宿主の体を震わせる。
スーツを組成していた肉布もほとんど触手に解放され、宿主の肌を自動的に撫で回した。
翠の肌に浮かぶ汗も赤く染まった顔も、見た者の欲情を十分に焚き付ける。
そして清見の言う通り、彼女の体から発する凄まじい淫気は、
取り込んだ者を一瞬にして色欲の虜にしてしまう。
何より滑稽なのは、翠が抑制しようとすればするほど、
色気がより官能的に高まることだった。
「あら、鈴華から戒めを受けたようね」
「っ……!」
清見が視線を移すと、翠は羞恥に満ちながら胸や股間のあたりを隠した。
美乳の先端につけられた金色のピアス。
陰部から臀部にかけて食い込んだ貞操帯。
ピアスと貞操帯を細い鎖で繋ぎ、白いうなじに装着された首輪。
キラキラ輝く金属の装飾品は、卑猥な触肉スーツとアンバランスな対照を作り、
少女の清純だった体を美しい娼婦に作り替える。
「妖眼蟲の下僕になるのがそんなに嫌なら、一人で逃げることだって選べたはずよ」
「仲間を見捨てることは……できません」
「おかしなことを言うわね。私が今の姿になったのも、そもそもあなたのせいなのに」
「ええ……すべてはあの時、私の心が弱かったせいです」
翠はひっそりと俯いた。
その顔は赤く染まりながらも、悔しい感情が滲んでいた。
「私のせいで、たくさんの人が犠牲になりました。その罪からただ逃げるために、
私は快楽に溺れようとしました。でも……あなたと再び会えたおかげで、
もう一度立ち上がる勇気を手にしたので」
「鈴華と一緒に、私と戦った時にか」
399 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(3/20) sage 2013/06/16(日) 07:55:47.27 ID:CJ8TnpxM
「あの時、清見ちゃんが奮戦する姿を見ていたからこそ、
自分の役目を思い出せたのです」
「その本人がこうして悪の味方となったのに?」
「だからこそ……清見ちゃんが私のような過ちを犯す前に!」
翠は拳を握り締め、凛とした眼差しで清見を見上げた。
体が淫気に蝕まれても、彼女が本来持つ凛々しさは埋もれることはなかった。
だが清見は一歩も気負いしなかった。
その正義心におされたのか、触手スーツも動きを鈍らせた。
だが清見は少しも気負しなかった。
彼女はむしろ翠に顔を近づけた。
その深海のような瞳に見つめられると、翠は唐突に寒気を感じた。
「素晴らしい……どんなに汚されてもなお自浄し、他人まで感化する心。
本当に綺麗だわ」
清見は感心したように言った後、一転して残酷な言葉を綴る。
「だからこそ、完全なる闇に染める価値がある。あなたほどの者なら、
どんな正しい心の持ち主であっても、悪に堕落させる誘惑者となれる」
「そんな……!」
自分の言葉はもう決して届かない。
そう思い知らされた翠は、谷底に突き落とされたような気持ちになった。
彼女の表情をよく鑑賞できるように、清見は顎に指を添えて持ち上げた。
「翠、ありがとう。あなたが私を思っていると同じに、
私もあなたのことを大事に思っている。だから心配しなくてもいいよ。
もう一度闇に心を委ねる快楽を思い出させてやる」
清見は青暗い瞳を輝かせ、手を振り上げた。
触手スーツの袖の部分は幾つかのミミズのように分裂して飛びかかった。
翠は目をつむった。
すでに一度は淫乱な性質を植えつけられた身と心は、簡単に屈してしまうだろう。
魂にまで刻み込まれた奴隷の呪縛に、もはや抵抗する勇気さえ無かった。
むしろ心のどこかにホッとするような安堵感さえあった。
(みんな、ごめんなさい……)
翠は謝罪とともに、諦めの言葉を呟いた。
その時。
一陣の砂の線が目にも止まらぬ速さで清見と翠の合間を横切る。
空中に放たれていた水触手は、一瞬にして乾ききって断裂した。
すぐ横の地面から、一つの人影がのろりと起き上がる。
水の隻眼獣はすぐさま翠から離れ、その人物に噛み付きかかった。
だが妖獣が口を開こうとした直前、咽喉元から掴み上げられた。
そして塩漬けされたナメクジのごとく全身から水分が抜けて、
目玉はひび割れながら爆ぜ散った。
清見は素早く後ろへ飛びのき、自分に向かって投げつけられた残骸を回避した。
砂と接触した寄生スーツは一瞬石化したが、
すぐにまわりの触肉に同化されて再び触手化した。
400 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(4/20) sage 2013/06/16(日) 07:58:01.64 ID:CJ8TnpxM
「翠、大丈夫か」
「ああ、平気よ……」
地面から抜け出た睦美は、苦悶をこらえる翠や、失神している灯を抱え起こす。
腐食液のせいで、妖獣をじかに掴んだ手のひらは軽いヤケドを負った。
しかし、睦美はその痛みなどまったく意に介さなかった。
彼女はただ岩盤よりも硬い目線を清見にぶつけた。
清見は逆に睦美の切り刻まれた戦闘スーツを観察した。
「ダメージを負っているようね」
「鈴華のおかげさ」
「逃げるつもり? 鈴華や私を置いて」
「できないことを挑むのは勇気ではない。残念ながら、
今の私にはあなたを抑えつつ鈴華に勝つ方法が思いつかない」
睦美はそう言うと、翠や灯を抱えたまま背を向けた。
その時、清見の背後の茂みから鈴華が駆け抜け出る。
彼女の触手スーツもまた、睦美と同じくらい損傷していた。
睦美は槍の雨に打たれたようだったが、
鈴華の場合は土砂崩れの中から掘り起こしたボロ雑巾のようだ。
「許さないんだから! 絶対捕まえて、この屈辱を晴らしてやるんだから!」
鈴華の小綺麗だった顔が泥にまみれ、怒りの形相をあらわにした。
彼女は身丈の倍ほどある矛を振り回し、穂先の先端を睦美の背中に狙い定めた。
だが睦美は振り返ること無く、霊呪を念じながら土を蹴った。
地面はその場で大きく盛り上がると、巨大な土の聖獣が瀑布のように涌き出た。
その表面に突き刺さった無数の刃や、そこから流出し続ける砂は、
今まで繰り広げた激戦を痛々しく物語る。
「すまない、土麒麟(どきりん)……最後の力を振り絞ってくれ!」
「そんなボロボロの姿で何の役に立つ!」
鈴華は全力で矛をはね上げ、動きが鈍くなった召喚獣に向かって飛びかかった。
穂先は豪快に一回転し、土麒麟の頚部に深くつらぬく。
鈍重な唸り声が森の木々を揺るがす。
ついに限界までダメージが達したのか、聖獣のあちこちから砂が血流のように迸った。
鈴華は容赦無く手首を返すと、土麒麟の首より上の部分が空中へと刎ねのけられた。
頭部を失った砂体はゆっくり横へと倒れていく。
「この堅物め! 体力だけはすごいんだから……」
完全に崩壊した砂の前で、鈴華はぜえぜえ息を変えながら矛にもたれかかった。
召喚獣の首は空中でぐるりと回転すると、ふと大口を開いたまま鈴華に向かって落下した。
だが、その最後の一撃は決して届くことは無かった。
横から一筋の水流が噴射して頭部を貫通すると、
今度こそただの土石となってに砕け散った。
「ふぇ、なに?」
降りかかってくる土砂に、鈴華は初めて気付く。
彼女の横まで歩んだ清見は肩をすぼめてみせた。
「だから昔から注意してやったのに。最後まで油断しないでって」
「おお、清見ちゃん! 無事寄生が終わったんだね。それより、睦美のやつは?」
「彼女達ならもうここにいない」
「えええっ!?」
清見が指差した方向を見ると、その地面には胴体が通れるくらいの穴があいていた。
鈴華は小柄な体を精一杯使って地団駄を踏んだ。
401 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(5/20) sage 2013/06/16(日) 08:00:27.78 ID:CJ8TnpxM
地中は、あらゆる追撃を阻む特殊な地形である。
そして五行戦隊の中で、睦美の土遁術がその唯一の移動手段であった。
この中でいる限り、睦美はどんな敵でも振り切れる自信があった。
例え二人分の人間を抱えて、スピードが大幅にダウンしたとしても。
睦美は魚のように地中空間を泳ぐ。
「翠、もう少し耐えてくれ。陽子先生が帰ってくれれば、きっと全てがうまくいくから」
「うん、ありがと……」
翠は瞳の焦点がぼやけながらも、健気に笑みを見せた。
その様子に胸を痛めながらも、睦美は無視せざるを得なかった。
地行術により、睦美は霊力を消費することで地中を一時的に通過することができる。
だが自分以外の物質を帯同する場合、術者への負担が何倍もの激しくなる。
普段よりずっと通過しにくい土質を感じながら、
睦美は集中力を高めて掘り進んだ。
突然、彼女の後方から一本の鉄索が猛烈な勢いで土を突き破った。
「なにっ!?」
睦美はすかさず方向転換したが、鎖はあたかも追尾するように経路を辿り続ける。
「睦美、鈴華が私を狙っているんだわ!」
翠は疼きに眉をしかめて叫んだ。
彼女の首輪や貞操帯に寄生した妖眼が、まるで鎖を呼応するかのように妖しく輝く。
睦美がいくらモグラのように地層を貫通しても、鎖は決して彼女達を見失わなかった。
そしてついに鎖はカチャリと翠の首輪を繋ぎ止めた。
途端、睦美は腕から凄まじい反発力を覚えた。
「ちっ……!」
そのまま地中を進みながら、睦美は必死に考えを巡らせた。
彼女のスピードに合わせて鉄索も無尽蔵に伸張してくる。
そして次第に、腕の中の重さが増え始めた。
(このままではまずい……!)
灯が健在していればこんな鎖すぐに断ち切れるだろうが、
自分の能力ではどれくらいかかるか予測できない。
そして彼女が止まった瞬間を狙って、鈴華は鎖を引き上げるだろう。
「睦美、灯ちゃんのことは頼みましたわ」
「翠?」
側から掛けられた励ましの言葉に、睦美は小さく驚いた。
そんな翠はニコッと優しい微笑を浮かべる。
「ごめんなさい。私が付いて来られるのがここまでみたいです。
でも、あなたが必ず悪を打ちかつことを信じていますから」
「翠、早まるなっ!」
睦美が阻止するよりも速く、翠は彼女から腕を離した。
掴み直そうと伸びた睦美の手は虚しくも届かない。
次の瞬間、翠の体は一気に後方へと引っ張られて、完全に見えなくなってしまった。
「くっ……!」
その場でとどまりたい気持ちを必死にこらえ、睦美は更にスピードを上げた。
402 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(6/20) sage 2013/06/16(日) 08:03:33.44 ID:CJ8TnpxM
□
地表の上で、清見が傘をさしていた。
傘の表面にいくつもの目玉が見開き、裏側からは激しい雨水が穴の中へと降り注いだ。
その傍らで、悔しがる鈴華と地面に伏せる翠の姿があった。
「もう、もう! あとちょっとだったのに」
「ぅん……!」
鈴華は手に持っている鎖を乱暴に振り回した。
鎖が揺れるたびに、首輪を繋がれた翠が苦しげな声を漏らす。
ふと、穴の中の水が逆流して雨傘の裏側に吸収されていく。
清見は傘を畳み、それを自分の触手服の中に押し込んだ。
傘はたちまち触手スーツの一部に同化し、傘にあった目玉はスーツの妖眼に戻される。
「清見ちゃん、どう?」
「完全にロスト。水が途中で地下湖に合流してしまった。途中で横穴を作って、
そこへ誘導されたんだろう。さすが睦美といったところかしら」
「きぃ――くやしい! 翠ちゃんが余計なことさえしなければ、
こんなことにはならなかったのに!」
鈴華が鎖を振るうと、翠は快楽と苦悶に呻いた。
「まあまあ。私は無事寄生されたし、翠も失わずに済んだ。
それだけでも十分な収穫だ」
「そうなんだけどさ……」
清見が冷静な態度を見せると、鈴華は好奇心に満ちた目線を向けた。
「清見ちゃんって寄生されたはずなのに、なんか前と変わらないね」
「どうなっていれば満足してくれるかしら」
「私や翠の場合は、すっごくエッチになったのに」
「そういう欲望なら、もちろん私にも植え付けられた。なんなら、体で試してみる?」
清見はそう言うと、両目を細めて指先を舐めとった。
青い触手スーツはにょろりと蠢き、半透明化した水の羽衣が肢体のラインを浮かばせる。
今まで冷静沈着なイメージから、絶対に想像できない狡猾さと蠱惑さ。
その挑発な目線に見つめられただけで、鈴華の心がドキッとした。
自分を見透かされたような妖しい冷たさに、
思わず被虐的な気持ちに陥ってしまいそうだ。
だが鈴華が清見の体に触れようとした途端、清見に頭を押さえつけられた。
「はい、そこまで」
「ちょっと、焦らさないでよ!」
「睦美と灯を捕まえるほうが先でしょ?
ちょうど翠がこちらの手にあることだし」
鈴華は一度落胆したが、睦美と灯の名前を聞いた途端、
また新しい悪戯を発見した子供の目になった。
「翠ちゃんを餌に二人をおびき出すつもり? ははっ、なんか悪役っぽくて面白そう」
「……私を人質にしても徒労ですわ」
翠は辛そうに首をあげて呟いた。
403 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(7/20) sage 2013/06/16(日) 08:06:17.46 ID:CJ8TnpxM
「睦美は正義を見失う人ではありません。私一人を救うために、
妖魔に屈することは決してないはずです」
「ああ。そういう意味では、私達五人の中で睦美が一番正義に近いだろうね」
「えっ?」
翠は清見を見上げた。
清見の両目は静かな水面のようで、何を考えているか分からない。
「だから人質を取るなら、あなたよりもっと都合の良い存在を選ぶ。
人数が多く、閉鎖環境で、妖力の源となる精気も取れやすく、
蟲の生産基地にもしやすい。そして、睦美達や私達が良く知っている人達」
「そんな都合の良い人質って……?」
清見の言葉を反芻する鈴華は、何か閃いたかのように顔をほころばせた。
(そんな……まさか!)
翠の心情が激しく揺れた。
彼女も鈴華と同様に、森の外に視線を向けた。
東側のどんよりとした空の底に、朝焼けの薄い赤色が見え始めた。
その方向上にある場所を想起した時、翠は心の奥から絶望と戦慄を覚えた。
□
暁の光が地上を弱々しく照らし、新しい朝を迎えたことを告げる。
雲の合間を抜けるのが精一杯だったのか、朝日の色合いは極めて曖昧なものだった。
その元気に欠けた光に、灯は意識を取り戻していく。
「ううっ……」
徐々に覚醒しながら、灯はゆっくりと目蓋を開けた。
ひどく堅い寝心地だった。
床の上で、自分は一枚の薄汚れた毛布を掛けて寝かされていた。
周りに目をやると、そこは久しく使われていない倉庫のような場所だった。
小屋の中に錆付いたパイプ椅子や机やらが所狭しと積まれる。
そのパイプ椅子の列を背にして、睦美は体育座りの状態で眠っていた。
古びた雨戸の隙間から光が漏れる。
(……助かった、のか)
灯は意識を回復させながら、物音を立てないよう起き上がった。
そして自分が被っていた毛布を睦美にそっと掛け、半壊した窓から外を眺めた。
道端にはバス停やガードレール、さらに下り坂が見えた。
坂道から視線を落とせば、商店街の一部が見えてくる。
素早く脳内地図と照合をとった。
ここは市街地に近い高台、森とは学校を挟んで反対側の位置にある。
丘からの町への見晴らしが良く、攻めにも守りにも適したポイントだ。
睦美らしい思慮深い選択と言える。
昨夜のことは、清見と戦ったことまでは覚えている。
だが自分がどうやって負けたか、その先の記憶がおぼろげだった。
睦美と翠が必死に自分を助けた記憶は印象にあった。
そういえば、一緒に脱出したはずの翠はどこにいるだろうか。
ふと灯は上着をめくり、自分のお腹を見おろした。
少女らしいすべすべした肌には、これといった変わりは無かった。
(あれは……夢か?)
何かおぞましい感覚が湧きそうになり、灯は慌てて思い出すのを止めて。
曖昧ながらも、自分の体が清見に何かされたような覚えはあった。
もし寄生されているのなら、一刻も早く睦美に知らせなければならない。
404 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(8/20) sage 2013/06/16(日) 08:17:30.83 ID:CJ8TnpxM
そう思って睦美を揺り起こそうとした時、その穏やかな寝顔が目に入った。
いつも堅物のイメージがある睦美だが、今ではまぶたを深く閉じて、
静かな寝息を立てて眠っていた。
しな垂れた頭から、白いうなじが無防備のまま晒し出される。
(睦美のやつ、こんな可愛かったのか)
灯は不覚にもトキメキに似た感情を覚えた。
スペースを譲るためか、体が小さく縮こまるところがまたしおらしい。
顔を近づけば、自分以外の女の子の良い匂いを感じる。
そんな時、灯の心臓が突然高鳴り出した。
下腹部に強い疼きを感じるや否や、全身に強い衝撃が立ち起こる。
(ちょっと、なに……!)
ハッとなって一度上着をはだけると、
なんと今度はヘソのまわりに薄っすらと妖眼の紋様が浮かび上がっていた。
子宮に甘い快感が生じるとともに、口から喘ぎが漏れそうになる。
(くうぅぅんっ!)
声が喉を通るのを必死に我慢しながら、灯は睦美から離れた。
赤い勾玉を握ると、瞬時に炎をまとったバトルスーツとなって身を包む。
すかさず両手で印を結び、体内から膨らむ妖気を封じ込めた。
素早い行動が功を奏したのか、
妖気の広がりはなんとかバトルスーツの内側に留まった。
しかし体のほうは沸騰したポットように、
抑え切れないほど膨大な淫欲が暴れ回る。
かすかな記憶の糸に、ある光景だけが力強く再生される。
自分を嘲笑する黒い影。
その口から紡がれる言葉には、悪魔の囁きのように甘い誘惑が満ちていた。
(百眼……さま)
ついに、心の中で復唱してしまった。
その言葉に口にした途端、
体中の細胞の一つ一つが震えて視界や意識が弾けそうになる。
本能が妖眼蟲のものにすり替わっていく。
淫気を集める。
胎内に宿る蟲を育む。
ほかの女を犯し、自分と同類のメスを増やしていく。
無意識のうちに、灯の虚ろになった瞳がある一点にとどまる。
睦美の寝顔だった。
こちらの邪念に気付くこともなく、ただ天使のような顔立ち。
――睦美を陵辱したい。
あまりにも自然と浮かんだ考えに、灯はビックリした。
下腹部に妖呪が現れてから、どす黒い疼きが神経を蝕み始めた。
心地良い脱力感とともに、全身の霊力が子宮のほうへと吸収されていく。
それに比例して、妖眼も淫紋がよりはっきりと浮かび上がる。
(まさか……霊力を妖気に作り変えている!?)
増大していく寄生の快感に、灯は唇をかみ締めた。
護霊服はもともと外からの攻撃を防ぐものであり、
内側の妖気に対しては一切機能しない。
405 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(9/20) sage 2013/06/16(日) 08:20:05.59 ID:CJ8TnpxM
ならば、自らの手で浄化するほか無い。
彼女は残る力を振り絞って、一枚の霊符を取り出した。
五行戦隊で一番解呪に長けているのは清見で、逆に灯は一番苦手としていた。
だが今はそんなことを言っている場合でもない。
下着をおろすと、布切れは甘い匂いの汁がたっぷりと沁み込んで、
股の間と蜜の糸を引いた。
羞恥心をぐっとこらえて、灯は妖気が発散する自分の股に霊符を宛がった。
だが彼女の予想に反して霊符は愛液に触れた途端、
墨汁を浴びたかのように一瞬にして黒く変色した。
御札の表面にある炎の霊言も妖しい目玉模様に上書きされ、
浄化するどころか、逆に強い妖気を放つ魔の札に変化した。
驚いたあまりに、灯は思わず黒化した霊符を握り潰して灰に燃やした。
なんて強力な呪詛だろうか。
動揺している間に、灯は重大なことを思い出した。
この呪詛を施した人物は清見である。
解呪の優れた彼女ならば、その対抗策を練ることだってできるはずだ。
(だめ、これ以上は……!)
奥から一際大きい鼓動を感じると、灯は高揚感のあまり体を抱きしめた。
そのまま背中を強く反らすと、陰部から愛液がほとばしる。
(なにか……出るっ!)
全身の力を吸い取られたように、灯に膣から一本の触手が生え出た。
細蛇のような触手は粘液にまみれ、淫らな香りをあたりに散らす。
異型が下からスカートを押し上げる光景は、
まるで正義の象徴をあざ笑っているかのようだ。
目の前が真っ暗になった気分だった。
(そんな……! 速く、元に戻さないと……)
朦朧となりかけた意識で、灯は触手をなんとか押し込めようとした。
だが指が一物の先端に触れた途端、脊髄に甚大な快感が跳ね返ってきた。
(ヒャアァ――くッッ!)
声を噛み殺すだけで精一杯だった。
指紋の一つ一つが鎌首をなぞる度に、快楽の火花が脳に焼きつける。
最初こそ刺激的だったが、それもあっという間に物足りない快感に変わった。
灯は恍惚の表情を浮かべて、スカートの下から触手をあらわにさせた。
表面の荒れた筋や見開く妖眼は、少女の可愛さと酷烈なコントラストを作り、
背徳さを一層際立たせる。
完全に解放されたせいか、むせ返るほど甘い淫気が外に漏れ出た。
これほど濃密な淫気が潜んでいたかと驚いたが、
すぐに心までその虜になってしまった。
硬くなった触手を握り締めただけで、熱さやドクドクした脈打ちが伝わってくる。
脳内にまたあの囁き声が現われる。
意識が薄れた灯にとって、それはあたかも己の意思のように聞こえた。
406 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(10/20) sage 2013/06/16(日) 08:22:50.68 ID:CJ8TnpxM
『速くそれを鎮めなさい。じゃないと、蟲が成長してしまうわ』
(うん。蟲の成長は、なんとしても阻止しなきゃ……)
『そのためなら、一時的に快楽を求めるのは仕方ないこと』
(うん、ちょっとだけだから……そうしなきゃ、もっと大変なことになるんだから)
『触手をシゴくのが気持ちいい』
(ううぅ、気持ちいい……!)
『でも、これは決して快楽のためにやっているわけではない』
(そう……あくまでも蟲の成長を防ぐためだから)
誘導された通り反芻しながら、灯は虚ろな目で触手をこすり始めた。
最初はゆっくり、段々速く。
次第に意識するまでもなく腕が勝手に加速していった。
どうすれば快楽が得られるか、どこがポイントなのか、
それら全て勝手に思い浮かんだ。
あとは見よう見真似て自分の手によって再現するだけ。
(……睦美……!)
友達の寝顔を見つめながら、灯は心中の欲望をギラギラと燃やし広げた。
生徒会長であり、強い信念を持つ睦美。
学校では誰からも憧れる存在だった。
だがその制服の下には、灯とは変わらない無垢で淫らな肉体が存在している。
彼女を汚したい。
力ずくで屈服させ、快楽を渇望するはしたない声で鳴かせたい。
そして彼女の子宮にも妖眼蟲を分け与え、
その端正な顔立ちが欲情に染まっていく様子を見たい。
とりとめのない罪悪感にさいなまれつつ、
灯はこれまで感じたことも無いような高揚感を味わった。
もうこれ以上考えてはならない。
頭の中で何度も警鐘が鳴り響いたが、そのたびに別の心地良い声によって揉み消される。
(睦美、ごめん……!)
仲間を裏切った意識に苦しみながらも、灯は止めることができなかった。
睦美を陵辱する光景を想像しただけで、脳みそが溶鉱炉のようにドクドクと滾った。
やがて爆発に差し掛かった直前、灯の下腹部の妖呪は最大限に黒く輝いた。
その時、灯は妖しい声に言われるがまま言葉を繰り返した。
(私は百眼様に寄生されたしもべ……
妖眼蟲をこの身に宿し、その繁栄のために全てを捧げます……!)
言葉を一字一句吐き出すにつれ、快楽の高潮が盛り上がっていく。
そしてついに、灯は意識が吹き飛ばすほどの絶頂を迎えた。
「うっ……くっ、かあぁっ……!」
全身の霊力が子宮に引き寄せられた。
体がビクビク震えた次の瞬間、触手陰茎から大量の濁液が発射された。
潰れそうになるほど抑制した喉の隙間から、悲鳴がかすれて弾き出される。
淫らな白液は自分だけでなく、睦美の護霊服までに飛び散った。
放心状態となった灯は、がっくりと地面に膝をついた。
触手陰茎はいつのまにか膣の奥へ引っ込み、気付いたらもう見当たらなくなった。
残るは汗だくの体と火照りと、胸に広がる虚しい気持ちだけだった。
親友をおかずに自慰してしまった罪悪感。
彼女のバトルスーツにぶっかけた粘液を目にしただけで、心が引き裂かれそうになる。
睦美が目を開けたのは、その時だった。
407 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(11/20) sage 2013/06/16(日) 08:26:00.86 ID:CJ8TnpxM
ギクッ、と灯が石膏像のように固まった。
だが睦美は立ち上がるや否や灯の背後に回りこみ、
右手から一粒の小石を弾き飛ばした。
小石は弾丸のように射出され、倉庫の入り口を跨ぐ一匹の妖眼蟲に命中する。
目玉を貫通されたスライム体はドロドロに溶け出し、床に小さな染み跡を残す。
「気を抜くな、灯。敵がいつ現れるか分からないから。
まあ一応結界を張ってはいたが」
「え、えっ?」
睦美に言われて初めて、灯は倉庫の四方にお札が貼られていることに気付く。
札自体の霊力は弱く、境界線を越えた妖魔を知らせるのが主な役目のようだ。
(って、睦美は気付いていないの?)
灯は慌てて睦美のバトルスーツを観察した。
白と褐色が織り成す正義の衣装は、睦美の凛とした雰囲気をより引き立たせる。
だが、その服にはさきほどの……
(あれ……?)
灯は急に戸惑った。
ついさっきまでの記憶が蒸発したかのように、ごっそり思い出せなくなった。
更にしばらくすると、どうして自分が戸惑っていのるかさえ分からなくなった。
ただ何か良くないことが進行している気がするが、
それを思い出すことを本能が拒絶しているようだ。
「灯、どうした?」
「ごめん……オレ、どうかしてるみたいだ。今までのことが曖昧で……」
「無理もない。昨晩、あんなことがあったから」
いや睦美、言いたいのはそれではない。
灯は改めて伝えようとした時、
ふと睦美のスーツの端っこにシミのようなものを見つけた。
そのシミは一瞬だけ触肉のように変化したが、二三度まばたきすれば消えてなくなった。
偶然じっと見ていなかったら、きっと錯覚だと思っていただろう。
だがその現象が一体何を意味するのか、灯にはどうしても思い出せない。
「灯、大丈夫か?」
「あっ、うん……助けてくれて、ありがとう」
「体に目立った外傷は無かったが、しばらくは無理しないほうがいいだろう」
「ああ、そうさせてもらうよ」
灯は自分の口から出てくる言葉に混乱した。
彼女が考えるよりも速く、まるで誰かに操られているように勝手に言葉を綴った。
肝心なのは、睦美は何も気付いていないことだ。
しかし、一体何に気付けというのか?
「どうしたの?」
「いいえ……それより、翠はどこにいるの」
灯は考えを巡らせながらも、話題を逸らすように尋ねた。
だが意外なことに、睦美の視線が俯いた。
「ちょっと、翠はどうした? アイツと一緒にオレを助けたんだろ?」
「敵に捕らえられてしまった。私達を守るために」
「そんな……!」
灯は呆然となった。
つらい気持ちがぐっと込み上がって来る。
408 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(12/20) sage 2013/06/16(日) 08:29:01.25 ID:CJ8TnpxM
睦美は表情を強張らせたまま、言葉を続ける。
「大丈夫ならもう少し休んでおけ。昼になれば妖魔の動きも鈍くなる。
その隙にここを出る」
「なんだと?」
「妖眼蟲の活動範囲がすでにここまで拡大した。さっきは一匹だけだが、
敵に察知されるのも時間の問題だ。その前に町を出て、一度陽子先生と合流……」
「ふざけるな!」
灯は大きな声をあげて、灼熱のような目つきで睦美をねめつけた。
「今オレ達が離れたら、誰が町を守る? 誰が妖魔と戦う?
誰が鈴華や清見や翠を助ける? みんなを見捨てるというのか!」
「見捨てるわけじゃない。先生は三日後に退魔機関の本部から返ってくるはずだ。
そこで体勢を直してから、またここに……」
「戻って妖魔を退治するっての? ハハンッ……! 三日も経ったら、
この町にどれだけの犠牲者が増えると思ってる?」
「だからと言って現状ではこちらに勝ち目は無い。鈴華と清見が敵になった時点で
こっちとは二対二。その上、敵には大勢の妖眼蟲だっている。
もし翠までが敵の戦力になっていたら、完全にこちらの劣勢だ」
「勝ち目が無ければ戦わないのか?」
「今回が特別すぎるのだ。私達が負ければそのまま敵の戦力を増やすことを意味する。
それよりも今私達が知っている妖眼蟲の情報を、退魔本部に知らせることが重要だ」
「要するに負けるかもしれないから、尻尾を巻いて逃げるってことだろ?」
灯は睦美の襟元を掴み取った。
その烈火にも勝る気迫を、睦美は逆に睨み返した。
「五行戦隊に入った時から、この命を捨てる覚悟ができている。
私が何よりも怖いのは、このまま誰にも知られること無く、
妖眼蟲の侵略を許してしまうことだ」
睦美の毅然とした表情はまるで頑固な岩から掘り出されたように、
灯の激怒に対し微動だにしなかった。
彼女のまっすぐな目線にひるんだのか、
やがて灯は手を離し悔しそうに顔を言葉を吐き捨てた。
「くっ……あとでオレに反省させてくれよな。
あの時お前の言うことを聞いて、やっぱり正解だったと」
「灯……!」
「納得したわけじゃないからな! ただ睦美のことは信用しているというだけで」
灯は不器用そうに背を向けた。
目の前の犠牲を我慢できるほど、灯は融通の利いた人間ではなかった。
しかし、彼女は睦美の性格をよく知っていた。
その睦美が信念を曲げてまで決めた選択を、無下にすることができなかった。
ある異変が起きるまでは。
突如、床に広がっていた水の残滓が変色した。
灯と睦美は咄嗟に構える。
妖眼蟲が残した水溜りに波紋が広がると、ぐにゃりぐにゃりと揺らぎながら、
一つの明瞭な映像に変化した。
飛び出さんばかりに、小柄なシルエットがそこに現われる。
409 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(13/20) sage 2013/06/16(日) 08:31:21.88 ID:CJ8TnpxM
『ハ~イ。灯と睦美、見てる?』
「鈴華……!」
驚きに怒りを交えて、灯は仲間だった人物の名前を呼んだ。
水の鏡面には、鈴華の明るい笑顔がいっぱいに映し出される。
もともとある小悪魔な魅力も、
その暗黄色の触手スーツによって淫らに仕立てられた。
『この映像はね、清見の能力で蟲に封じたものなの。
コアを破壊すると、映像が再生されるってわけ。あっ、それじゃあ
この蟲さんはもう殺されちゃったってことかな? あーあ、残酷ぅ~』
映像の中の鈴華はわざとらしく両手を広げてため息をついた。
悪戯っぽい言動は、以前の彼女の快活さを思い出させる。
それが余計に灯の怒りに触れた。
「この……っ!」
「待て、これはただのビジョンだ。破壊しても意味は無い」
飛びかかろうとする灯を睦美が抑制した。
その間にも、鈴を鳴らしたようなかわいい声が小屋に響き続ける。
『ところで、私は今どこにいるでしょう?』
唐突な問いに、灯と睦美は初めて映像の背景に注意を払った。
鈴華の足元を走る白いコンクリートの床。
曇り空へと続く間には、落下防止用の欄干が見える。
それらの景色を照らし合わせると、二人の顔色が激しく変わった。
『正解は、学校の屋上でーす!』
鈴華が手を伸ばすと、映像の視界が後ろの景色を映し出す。
屋上から見える校舎や校庭、そして登校するのに使う通学路。
灯や睦美にとって、どの場所も生活の一部だった。
『さて、今回のゲストを紹介しましょう』
映像の枠外から、鈴華が一人の少女を押し込んだ。
体操着を身に着けた少女は、事情がまったくのみ込めない様子でただ半べそをかいでいた。
彼女の顔立ちを確認した途端、灯はきょとんとなった。
「そんな……祥子!?」
『とりあえず、自己紹介してもらおうかしら。
クラス、氏名……あっ、カメラ目線はこの目玉にね』
『ふぇぇ……に、二年、B組……滝沢祥子、です』
『ところで、あなたはなんてこんな朝早くから学校にいるの?』
『私……陸上部だから、朝練で……』
『まあ可哀相に。真面目に朝練に来たばかりに、こんな目に遭っちゃうなんて。
でも刺激的だったでしょ? あなた以外の女の子達が、
みんな触手に愛撫されてアンアン鳴いていたのを』
『ひ、ひぃ……!』
少女は途端に怯えきった様子に陥った。
鈴華が意地悪そうに笑みを浮かべると、寄生スーツから幾本もの触手が分裂して、
少女の体や頬にまき付いた。
その触手がよっぽどトラウマなのか、少女は逃げることも大声を出すこともできず、
ただほっそりとした体をわななかせた。
410 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(14/20) sage 2013/06/16(日) 08:35:05.36 ID:CJ8TnpxM
『あなたをここに連れてきたのは、実はこれから祥子ちゃんに寄生してもらって、
それをテレビの前の人に見せるためなんだ。
すごく気持ちの良いものだから、怖がらなくてもいいよ』
『き……せい? い、いやぁ……』
恐怖のあまりに、少女の悲鳴はかすれた。
その様子を楽しんでいるかのように、鈴華は得意満面の表情を作る。
『今だけサービスタイム! 特別に寄生の方法を選ばせてあげるわ。
私の首輪や貞操帯に責められたい?
それとも清見ちゃんの精液風呂に浸かりたい?』
『い、いや……!』
『ああん、どっちも気持ち良さそうで選べない!
――そんな優柔不断なあなたに、こちらがオススメ!
私と清見ちゃんの能力をハイブリットさせた真新しい寄生法!』
じゃじゃん、と鈴華は意気揚々と身辺にある物体を示した。
金属製の棺桶のような鋳物が鈴華の横で直立していた。
その物体は鈴華の背丈よりも高く、正面には女体の輪郭がかたどられ、
不気味な雰囲気は中世の拷問器具を連想させる。
鈴華が扉を開くと、中が空洞であることが分かる。
だが目を良く凝らして見ると、そこに恐ろしい光景が潜んでいることに気付く。
金属の裏側には、びっしり埋め尽くす触手が存在していたのだ。
『ひ、ひゃああっ……!』
あまりにもおぞましい景色に、少女の声がうわずった。
金属の裏側から絶え間なく粘液が滴り、空洞内の空気と触手を濡らせる。
外からの光を感知したか、触手は緩慢な動きで伸び始めた。
触手の表面には不気味な目玉がぎょろつき、淫液が糸を引いて垂れ落ちる。
その淫液が床と接触すると、その場を黒く染み広がった。
画面越しでも、灯や睦美にはその匂いが漂って来るように感じた。
一目見ただけで、今までずっと強い寄生能力が備わっていることが分かった。
彼女達ほどの退魔士とて、護霊服が無い状態で長く閉じ込められたら、
寄生支配されてしまいそうだ。
触手の目玉は獲物に気付いたかのように、一斉にぎょろりと女学生を見つめる。
『きゃあっ……!』
『ああん、そんな熱い眼差しで見つめないで、私もう濡れちゃうわ!……あはは。
まあ、恨むなら私達じゃなくて、五行戦隊を恨みなさいね』
『五行……戦隊?』
その言葉を聴いた途端、少女の瞳に一筋の希望が輝いた。
五行戦隊の活躍は、都市伝説のように生徒達の間で囁かれていた。
少女自身も興味半分知っていたが、本物の妖魔を見た今、
その存在は彼女にとって唯一の希望だった。
『五行戦隊は知っているんだ。じゃあ、そのうちの一人の名前が灯で、
あなたと同じ陸上部の子であることは知ってるの?』
『あ、灯ちゃん……!?』
411 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(15/20) sage 2013/06/16(日) 08:38:02.99 ID:CJ8TnpxM
『うん。そもそも私達がこの学校を襲った理由は、彼女がここの生徒だからなんだよ。
ちなみに、あなたは彼女との関係は?』
『と、友達なんです……』
『おおう、友達! なんという幸運! じゃあぜひ彼女の助けを呼ばないと。
もしかしたら、今この瞬間もあなたのピンチを見ているかもしれないよ。
ねぇ灯ちゃん、聞こえてる? 速く助けに来ないとこの子をこの拘束具の中に入れて、
触手ちゃん達にレイプさせちゃうわ』
『い、いやああぁぁ!』
「この……!」
灯は拳を強く握り締めた。
そうでもしないと、膨れ上がる怒りを抑えられなかった。
『おかしいね。友達がピンチなのに、全然来ないじゃない。
ほら、あなたも呼ぶのを手伝ってよ。灯ちゃん、助けてって』
『あ、灯ちゃん……た、助けて……』
『もっと大きな声出してみたら? ほらほら、触手ちゃんがあなたを欲しがってわよ』
自分の身にどんどん近付く触手に、
少女は目に涙を滲ませながらはち切れんばかりの声で叫んだ。
『灯ちゃん、お願い! 速く助けに来て!』
『……全然来る気配が無いね。
どうやらあなたは彼女にとって、人質の価値も無かったみたいだね』
『待って、もう少し待って下さい! 彼女は絶対来ます! だから……』
少女が言い終わるのを待たずに、鈴華は指を鳴らした。
すると空洞の中から無数の触手が飛び出て、少女を体操着の上から絡め込んだ。
粘液が体操着に染み込むと、瞬時に黒い粘質に染め替えた。
『いやああああ!』
触手がそのまま少女を空洞に引っ込むと、
金属の蓋はバタンと閉まり、中からの悲鳴をシャットアウトした。
棺桶の蓋の輪郭がぐにゃりと歪み、
顔の形から足先まで少女にピッタリフィットするよう変形していく。
その作業が終わって固定化すると、拘束具はまるで少女に銀メッキを施したかのように、
体のラインを生々しく浮かび上がらせた。
金属の光沢が映える胸の谷間や、股間の陰り。
生気を失った顔立ちに伝わる怯えた感情。
それらは不気味ながらも、どこか官能的な雰囲気を醸した。
『はい、新しい寄生者の誕生です。ふふふ、大丈夫。あなたがそこから出る時は、
今よりもっとずっと素敵なメス奴隷になれるわ』
鈴華は妖しい笑みを浮かべ、鉄になった少女の胸をいやらしく撫でた。
灯は外に向かって歩き出した。
それを予測したのか、睦美は間髪入れず灯の肩を捕まる。
「冷静になれ。この映像は今よりも前に撮ったはず。
今駆けつけたところで、彼女はもう……」
「だからなんだって言うの? 今この瞬間にも、犠牲者が増えているんだぞ!」
「見て分からんのか。敵はわざと私達を挑発してるのよ!」
412 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(16/20) sage 2013/06/16(日) 08:43:51.85 ID:CJ8TnpxM
二人の諍いをよそに、水の鏡面に青い触手服をまとった人物が映し出された。
彼女の切れ長の目は深淵の湖のように静けさを帯びる。
右手を差し出すと、手のひらに乗せてある水色の妖眼蟲を見せつけた。
そして彼女の口から無情な言葉が紡がれる。
『今日の正午、蟲達を屋上の貯水槽に放つ』
「清見……!」
「どういうこと?」
睦美達の反応に構うこと無く、青い寄生少女は冷酷な口調で語り続けた。
『私が産み出した寄生種は、水に触れただけで無色透明に溶ける。
その水を摂取することで、ここにいる人間は一斉に寄生されることだろう』
「そんなことしたら……!」
灯は愕然となって、清見の手の中にあるガラス球を見つめた。
妖眼蟲の核である眼球は、光を反射してみずみずしく輝く。
別物だと頭の中で分かっていても、どうしても人間の目玉を連想して嫌な気分になる。
『その液体は人間に害は無いわ。むしろ免疫能力が強くなって、
健康状態が向上するくらいだわ。私が念じない限り体内にずっと潜伏状態でいるから、
普段の生活に支障を出すことも無い。それこそ霊力による精密検査でもしない限り、
普通の人間と違いが分からないくらいにね』
「そんな馬鹿な!」
睦美はぞっとしたように声をあげた。
ただでさえ妖眼蟲の発見はしにくく、その高い寄生力と繁殖力で人間を脅かしてきた。
それが新たに潜伏能力を得たら、
感染が広がる前に発見することが更に難しくなるだろう。
『兆候がまったく無いわけでもない。これに寄生された人間は、
繁殖本能が物凄く強くなる。そして、彼らと体液を交換した――
すなわち性交した人間もまた、同じ寄生状態になってしまう』
「それってつまり、感染が速く広がるってことじゃないか!」
灯のつっこみを無視して、清見は淡々と続ける。
『ここでの実験が終わったら、この寄生種を全国の水道局や河川に流す予定だ。
戦いを起こさず、人々が幸せの中で寄生される。
とても平和なアイディアだと思わない?』
予想を遥かに上回る計画性に、灯と睦美は背中に冷え汗を流した。
もし清見の目論見が達成されたら、被害規模はもはや町だけでは済まない。
日本はもちろん、世界中の人々が妖魔に支配されてもおかしくないだろう。
『じゃあ、私と鈴華は学校で待ってくるから。
正義の味方さんなら、こんなことを許すはずないわよね?』
最後に清見が嫌味っぽい薄笑みを残すと、映像はそこで途切れて元の水溜りに戻った。
倉庫の中は再び静かになる。
睦美は自分が掴んでいるのは人間の肩ではなく、高熱に焼かれた鉄板のような気がした。
手のひらに伝わる温度は、映像が終わった後も上昇し続けた。
「落ち着いて、灯……」
「こんなもの見せられて、誰が落ち着いていられるか」
灯は睦美の手を振り払い、それまで溜め込んだストレスを一気に爆発させた。
413 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(17/20) sage 2013/06/16(日) 08:48:38.49 ID:CJ8TnpxM
「睦美が行きたくないならそれでいい。だがオレは絶対行くからな!」
「このまま君が敵の戦力になるのを知って、行かせるわけにはいかない」
「ふざけるな!
だいたい最初に鈴華が敵に捕らわれたのも、睦美のせいじゃないか」
言い終わって、灯はハッとなって後悔した。
睦美は明らかに落ち込んだのだ。
決して弱みを見せない睦美が、潮水に摩滅された石のような表情を浮かべた。
そこでやっと、灯は最近の睦美がどういう心境だったのか理解できた。
鈴華の寄生を発端に始まった一連の事件。
睦美はずっと鈴華のことで自分を責めていたが、
みんなの前では一切素振りを見せなかった。
その気丈さに感心すると同時に、灯は自分の鈍さに慙愧した。
すぐに謝ろうと口を開いた。
だがその瞬間、灯に灯の脳内に妖しい目線が蘇る。
どす黒い感情とともに、口から出た言葉は彼女の意思とまったく逆のものだった。
「睦美にそれを言う資格はあるのか? あの時、あなたが鈴華と一緒に戦っていれば、
鈴華が寄生されることは無かったはずだ。
翠だって、どうせ睦美が彼女のことを見放したんでしょ?」
「……!」
灯が放った言葉は、次々と睦美の心を傷つけた。
その消沈していく様子を目にするだけで、灯は胸を締め付けるような痛みを感じた。
だがその一方で、腹の奥ではまったく異質の快感が膨れ上がった。
――もっと睦美の苦しむ表情が見たい。
その邪悪な感情が下腹部の疼きと合わさって、体中にじんわりと広がっていく。
何かがおかしかった。
(だめ……このままだと、もっと酷いことを口に言ってしまう……!)
興奮の汗が体中から涌き出る。
狂乱する心臓の鼓動を抑えながら、灯は睦美に背中を向け外へ走り出した。
睦美の弱くなる姿を見ただけで邪悪な欲望に支配されそうになる。
頭の中で、誰かに呼ばれているような気がする。
それに答えてしまったら、大事なものを失ってしまいそうだ。
時間が進むにつれ、呼び声の間隔が縮まって灯の心を揺らし始める。
ぼやけていく頭の中で、最後まではっきり保った意識が一つだけあった。
(……ここにいたら、睦美まで……巻き込んじゃう)
そう感じると、灯は目が虚ろになったまま呼び声の方へ駆け出した。
彼女の行動を、睦美は止める事ができなかった。
「クソッ……!」
睦美は床に膝をついて、やりきれない表情で拳を振り下ろした。
思考が麻のごとく乱れていく。
414 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(18/20) sage 2013/06/16(日) 08:50:49.00 ID:CJ8TnpxM
灯の選択は正しいかもしれない。
翠は捕まってしまったが、今ならまだ完全支配されていないはず。
鈴華と清見が敵側にいるとはいえ、灯と協力すれば戦い方次第勝てるかもしれない。
だがもし翠が敵に加勢したら、勝率は限りなく低くなる。
仕掛けるとしたら、今が最後のチャンスだろう。
このままほうって置くと、ミスミス灯を敵の手に渡すようなものだ。
だが自分まで負けて寄生されたら、敵を更に増長させてしまう――
睦美はできるだけ灯の言葉を考えないようにした。
だが避ければ避けるほど、灯のセリフが頭にまとわり付いた。
今の彼女には、行動を起こす余裕の欠片も無かった。
灯を阻止することも。
妖眼蟲の残骸以外の微かな妖気に気付くことも。
空は一段と濃厚な黒雲に覆われ、霧雨に町が煙り始めた。
その中には、学校の建物も含まれているだろう。
どんよりとした町景色を眺めていると、睦美の心は急激に寂しさを覚えた。
今ほど太陽の光が恋しいと思った時はない。
□
メッセージを伝え終えると、清見は妖眼蟲の核を貯水槽に放り投げた。
水に触れた途端、妖眼は溶け広がり、ほのかな残り香を漂わせる。
その無造作な行動に、鈴華は瞳を大きく見開かせた。
「えええ、睦美達が来るまで、人質にとっておくじゃなかったの?」
「人質というのは彼女達の認識であって、私達とは無関係な話。そうでしょ?」
清見は淡々と答えた。
彼女の近くにいた四人の少女が男達の剛直から離れ、
頬や肌に快楽の余韻を残しながら貯水槽の周囲に集まった。
少女達は蓋のまわりでしゃがみ込むと、その股の間から白い粘液が太ももを伝って滴る。
いずれの少女も裸に近い格好で、艶かしい肢体に淫靡な触肉がまとい付いた。
そんな異様な光景にも関わらず、少女達は誰一人怯えた様子もなく、
陶酔しきった目つきで自分達の股間をまさぐり始めた。
魂をとろかすような喘ぎ声とともに、新たな寄生のコアが貯水槽に産み落とされる。
清見の口から嘲弄の意図を悟ると、鈴華は面白そうにまばたきをした。
「灯達が必死に助けようと来てみたら、実は全員すでに私達の奴隷だった!ってオチ?
きゃはは……清見ちゃんって、実は悪役のほうが向いてるんじゃない?」
「正義は決して悪に勝てない。その理由は、
悪は目的のためにどんな作戦も実行できるが、正義にはそれができない。
だから私のような人間は、最初から悪の側にいるべきだった」
清見は冷静に語りながら、部下となった少女達の働きを見守った。
少し前まで、彼女達は普通の女子高生だった。
それが今では、清見に従う忠実なしもべとなった。
学校の屋上には寄生の棺以外に、十数人もの男女が乱交を繰り広げていた。
「くくく……灯と睦美の絶望した表情、今からでも想像するだけでゾクゾクしちゃう。
あなたもそう思わない、翠ちゃん?」
鈴華は自分が腰掛けていた棺を開けると、喘ぎ声のボリュームが大きくなった。
中には一人の少女が鎖に縛られ、半身が白い粘液に浸かっていた。
415 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(19/20) sage 2013/06/16(日) 08:54:01.74 ID:CJ8TnpxM
棺を開けた瞬間、むせ返るような甘い発情臭が外に漏れ出る。
彼女の暗緑色の寄生スーツと棺の裏側に生えた触手が絡め合って、
絶妙な加減で女体を撫で回る。
股間につけてある貞操帯の隙間から絶えず愛液が溢れ出て、
白粘液風呂と混ざり合った。
「翠の体からすごく良い匂いがするわ……これほどに性欲を高められるなんて、羨ましいわ」
「ぐぅん、うぅんんん!」
鈴華が翠の胸の谷間に鼻を埋めると、翠は大きく物音を立てた。
彼女は首輪やボールギャグを装着された状態で、両目も眼帯に覆われていた。
眼帯の表面には水色の目玉が一つ輝き、その点滅と同調して少女の体が震え上がる。
手足まで縛られた彼女には、悶える以外の行動が許されなかった。
「今すぐにもイキそうだね」
「普通の人間ならとっくに狂い出す状況だが、翠の精神力はさすがのものだ。
そのおかげで、みんなの洗脳時間を大幅に短縮できた」
清見は感心したように翠の姿を眺めた。
床に置かれた棺同士の間に太い触手が繋がり、その中心に翠の棺が位置していた。
翠が悶えるたびに、触手間に信号のような光が転送されていく。
「今の翠ちゃんは、自分が寄生された時の記憶を、繰り返し見せられているんだよね?
わざわざ寄生前の心情に戻されて、何度も堕ちた瞬間が味わえるなんて」
「その記憶をほかの寄生者に見せることで、強制的に堕ちた時の心情を学習させていく。
そうして、短時間のうちに高いレベルの寄生者が産み出せる」
「良かったね、翠。百眼様のために、挽回のチャンスがもらえて」
鈴華はそう言って翠の口からボールギャグを外し、
そこにベットリとついた唾液を舐め取った。
口が自由になった途端、翠は悲鳴に近い声で叫んだ。
「お願い、もう許して! もう二度と逆らうことなんて考えないから
……だから、イカせて!」
首を左右に振って懇願する少女。
懸命に身を捻らせるも、全身を拘束された今、それは更なる欲情を煽る行為でしかなかった。
だが今の翠には、それに気付く余裕さえ持たなかった。
「翠ちゃんは反省中なんだから、イカせるわけないじゃん」
「そんなこと言わないで! 全て私が悪かったです……
百眼様のためなら何でもします、鈴華や清見の命令だって何でも従います! だから……」
「その言葉に偽りは無いのだな?」
清見は翠から目玉の眼帯を剥ぎ取り、その顔を晒した。
淫欲に潤んだ虚ろな目は、媚薬に盛られた淫婦のように焦がれていた。
「は、はい……!」
「じゃあ手始めに、この学校を蟲達の苗床に作り変えてもらおうか。
そうすれば、あなたが期待する快楽も得られるだろう」
「えっ……きゃあああああ!?」
清見が貞操帯に足先を乗せると、翠は魂消るような叫び声を上げた。
絶頂に達しないギリギリの快感が翠の全身を震わせる。
416 五行戦隊 第七話『静かなる侵蝕』(20/20) sage 2013/06/16(日) 08:56:47.61 ID:CJ8TnpxM
「いいのか、清見」
「灯と睦美は必ずここに来る。彼女達を歓迎するためにも、
翠の調教を終わらせてやらないと。正義の心が腐ってしまうくらい、
快楽の蜜液に浸して……!」
「ひゃあ、怖い怖い」
鈴華はペロッと舌を出した。
清見は敵としては手強いが、味方となればこれ以上心強いものはない。
彼女の心に宿る黒い興奮を感じると、鈴華も邪悪な笑みを浮かべた。
― つづく ―
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