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(帰り道での遭遇)
350 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/23(火) 01:44:55.80 ID:8lNbPl95
今日は特に暑かった。
流石に3日連続で約束を破ってしまったら、いくらあの子でも憤慨するかもしれない。
私はそんなことを思いながら通り慣れた路地を走り抜けていく。
「ああもう、……なんで今日も残業になっちゃうかなぁ……」
私はそそっかしく不器用で、おまけに頭が悪い。
今日の残業もそんなことが原因の些細なミスが重なったことによる遅れを取り戻さなくてはいけなくなったからだった。
いつもと同じ最悪な一日を私は頭の中で振り返り、あの子にメールも出していないことに気づいた。
まったく何をやってるんだ、私は!
足は止めずにカバンの中から携帯を取り出し、私は本文を打ち始めた。
「えっと……ご、ゴメン、違う、ゴメスじゃない! ええっと、ご、ゴメン、も、もうすぐ、つくから……って、わああ!」
送信ボタンを押そうとした瞬間、何かにつまづき私は大きくよろめいた。
そのままの勢いで私は斜め横にあった電柱に豪快な体当たりをかます。
ジーンと、鈍い電流が身体を伝っていくが、おかげでなんとか転ばずには済んだことにふぅと安堵の息を零した。
「あいたたた……やっぱり走りながらメールなんてしちゃいけないね……。ん? なんだろ、あれ」
ビリビリとしびれる左肩をさすりながら、私は自分がつまづいた何かに目を向けた。
それは……なんというか、ヘンだった。
いつも私を照らしてくれる電灯が今日はチカチカと点滅しているから、よくは見えなかったけど、それはどこかヘンだった。
いつの間にか肩の痛みも忘れ、私は引き寄せられるように明滅を繰り返す電灯の下に来ていた。
「まっくろ、だ……」
そう、真っ黒。
伝統の下にあったのは、真っ黒な人影のようなものだった。
マネキンに黒い全身タイツをかぶせて寝かせているかのようなそれは、私のいつもの日常にはとても似合わないものだった。
と、その時だった。
細かな明滅を繰り返していた電灯がぷっつりとその活動を止めた。
私は突然のことに思わず真上の電灯を見上げた。
べちゃ――
そんな音が鼓膜を揺らしたのと、電灯がいつものように明るく私を照らし始めたのは同時だった。
351 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/23(火) 01:45:28.90 ID:8lNbPl95
「んんんんっっっっ!!」
悲鳴が思わずお腹の中から溢れ出ていた。
だけどそれは私の身体が意図した音が出ることはなく、こもった叫び声となって私の中へと戻っていく。
それは私の口を、いや、顔の下半分を緑色に光るクラゲみたいな生物が塞いでいたからだった。
「んんんぅううううっぅつっ!」
そレを見て、私は更に狂ったように喉を震わす。
ただその私の声はクラゲの傘の部分をわずかに膨らましただけで、再び私の中に戻ってくる。
やばい、やばいやばいやばい怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
頭の奥でありえないほどに早くなる鼓動の音。
それが鳴り響く中、私は息をすることも忘れて必死の抵抗をした。
「んっっっ! んぅぅぅぅぅ!」
まるでマスクを引っ掛けるように耳に絡みついたそのクラゲの触手を剥がそうと爪を引っ掛けてもがいた。
それでも外れないから、気持ち悪いけどクラゲの傘の部分を掴んで思いっきり引っ張った。
ギチギチと耳の付け根が悲鳴を上げるのも構わず、引っ張った。
すると、私の唇にずっと重なっていたクラゲの傘が少しだけ離れ、ヌメった私の唇が湿った空気を感じた。
そのスキに、私はすかさず大きく息を吸い込んでめいいっぱいの叫び声を放とうとした。
路地裏で人通りが少なく、右も左も塀に囲まれているけど、その向こうには家がある。
大声を出せばきっと誰かが気づく……!
だけども大きく吸い込んだ息はそのまま、私のお腹の中へと押し戻されていった。
「っ、ひぁっ、だ、んぐうううぅぅううううう!?」
助けを求めるための最初の言葉がわずかに出た瞬間、ぐにゃっとしたものが私の口の中に入り込んできた。
それが自らの身体を縦長に丸めたクラゲだと分かるまでに、そう時間はかからなかった。
ただ、このクラゲが私の抵抗を先読みしてそんな行動に出たのだと理解したとき、言いようのない恐怖が胸の中に広がった。
「ん、ぐぅう、ぐっ、ちゅ!」
助けを求めることなど二の次に押し込め、なんとかそれを吐き出そうと私はもがく。
ただ、呼吸さえもままならない私の身体は既にろくな抵抗もできず、異物感に苦しむ喉だけが最後の防衛線となっていた。
352 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/23(火) 01:46:10.17 ID:8lNbPl95
そして、その防衛線が必死の抵抗を続けているとき、私はハッと閃いた。
そうだ……気持ち悪いけど、噛んじゃえばいい!
唇からだらりとたれている傘の先端を噛み切れば、きっと痛みでひるむはず。
その好きに吐き出して、走れば……逃げられるっ!
その閃きに、仕事の時もこうやって頭が働けばなぁと、のんきな考えが一瞬頭をよぎった。
それだけこの閃きに、私は安堵感と確信を持っていた。
そう、タコ! タコと思って噛みつけばいい!
噛みついて犬みたいにブルブルと頭を震えば、きっと噛みちぎれる!
私はそう自分に言い聞かせ、顎を一瞬を緩め、そして一気に力を込め――
「んぁ……あ……ぁ……」
……え?
あれ……? あれ……?
何かが、おかしかった。
身体が、ない。
そう表現するのが一番近しい感覚が、ただ呆然と私の中に残った。
必死の抵抗を続けていた息の苦しさも、喉を支配していた異物感も、汗で湿ったブラウスの感触も……どこかに飛んでいってしまった。
まるで身体が空に飛んでいるかのようだった。
……なんだか、このままでいたいな……。
そんな思いが頭をよぎったとき、力の抜けた両目がそれを捉えた。
だらりと垂れ下がるクラゲの傘から伸びる2本の触手。
それが私の鼻の中に入り込んでいるところを。
ぷつん。
額の部分から後頭部に何かが通り抜けていくような感覚。
それと同時にクラゲは、まるでパチンコを放とうとしているゴムのように、その身を私の唇の向こうへと伸ばした。
「んっ、あ~ん♪」
なんとものんきな私の声。
でもそれは、私が意図して出したものではなかった。
その次の瞬間、クラゲはその身を一気に私の口の中へと飛び込ませてきた。
353 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/23(火) 01:47:27.05 ID:8lNbPl95
「ん♪ ……んぐぅっっぅううう!? んんんんんん!」
そのクラゲの動作の一瞬後になって、私の身体は感覚を取り戻し、本能的にそれを吐き出そうと喉を脈動させる。
だけどもまるでゲル状の何かが喉を降りていくかのように、それはゆっくりと私の中へと降下していく。
駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ぇえええええええ!
「んっ、ごく、んっ……」
あっけない音と共に、それは私の喉を通って、私の中へと取り込まれてしまった。
私は何が起きたかわからなくて、口をパクパクとさせながら、喉を掴む。
まるで、自分の命をここで終わらせるかのように。
それはまるで私の人間としての身体が生命の遺伝子として起こしている、拒絶反応のように感じられた。
『あらあら、ダメよ、そんなことしちゃ♪ 私の大切な身体なんだから』
聞いたことのない口調で、私の声が頭の中に響く。
……誰?
『くすっ、私が誰であるかなんてどうでもいいわ。だってそんなこと……意味がなくなるもの』
私の問いかけに、私の声で答えるそれ。
それ? ……それって……どれ……?
あれ……? 私って、ん……? あれ、私って、どれ……だっけ……?
『だから言ったでしょ。意味がなくなる、って』
意味? 意味……意味、って、なんだっけ?
あれ、なんで私、自分に向かってそんなこと聞いてるんだろう?
だって私は――。
「『“私”じゃない。くすっ。なに言ってんだろ、私』」
そう……私は、私。
さぁ、早く帰らないと。
あの子が待ってる。
「くすっ。えっと……待っててね。今、帰るから♪」
私はメールの本文にそう打ち込んで、送信ボタンを押した。
今日は特に暑かった。
流石に3日連続で約束を破ってしまったら、いくらあの子でも憤慨するかもしれない。
私はそんなことを思いながら通り慣れた路地を走り抜けていく。
「ああもう、……なんで今日も残業になっちゃうかなぁ……」
私はそそっかしく不器用で、おまけに頭が悪い。
今日の残業もそんなことが原因の些細なミスが重なったことによる遅れを取り戻さなくてはいけなくなったからだった。
いつもと同じ最悪な一日を私は頭の中で振り返り、あの子にメールも出していないことに気づいた。
まったく何をやってるんだ、私は!
足は止めずにカバンの中から携帯を取り出し、私は本文を打ち始めた。
「えっと……ご、ゴメン、違う、ゴメスじゃない! ええっと、ご、ゴメン、も、もうすぐ、つくから……って、わああ!」
送信ボタンを押そうとした瞬間、何かにつまづき私は大きくよろめいた。
そのままの勢いで私は斜め横にあった電柱に豪快な体当たりをかます。
ジーンと、鈍い電流が身体を伝っていくが、おかげでなんとか転ばずには済んだことにふぅと安堵の息を零した。
「あいたたた……やっぱり走りながらメールなんてしちゃいけないね……。ん? なんだろ、あれ」
ビリビリとしびれる左肩をさすりながら、私は自分がつまづいた何かに目を向けた。
それは……なんというか、ヘンだった。
いつも私を照らしてくれる電灯が今日はチカチカと点滅しているから、よくは見えなかったけど、それはどこかヘンだった。
いつの間にか肩の痛みも忘れ、私は引き寄せられるように明滅を繰り返す電灯の下に来ていた。
「まっくろ、だ……」
そう、真っ黒。
伝統の下にあったのは、真っ黒な人影のようなものだった。
マネキンに黒い全身タイツをかぶせて寝かせているかのようなそれは、私のいつもの日常にはとても似合わないものだった。
と、その時だった。
細かな明滅を繰り返していた電灯がぷっつりとその活動を止めた。
私は突然のことに思わず真上の電灯を見上げた。
べちゃ――
そんな音が鼓膜を揺らしたのと、電灯がいつものように明るく私を照らし始めたのは同時だった。
351 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/23(火) 01:45:28.90 ID:8lNbPl95
「んんんんっっっっ!!」
悲鳴が思わずお腹の中から溢れ出ていた。
だけどそれは私の身体が意図した音が出ることはなく、こもった叫び声となって私の中へと戻っていく。
それは私の口を、いや、顔の下半分を緑色に光るクラゲみたいな生物が塞いでいたからだった。
「んんんぅううううっぅつっ!」
そレを見て、私は更に狂ったように喉を震わす。
ただその私の声はクラゲの傘の部分をわずかに膨らましただけで、再び私の中に戻ってくる。
やばい、やばいやばいやばい怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
頭の奥でありえないほどに早くなる鼓動の音。
それが鳴り響く中、私は息をすることも忘れて必死の抵抗をした。
「んっっっ! んぅぅぅぅぅ!」
まるでマスクを引っ掛けるように耳に絡みついたそのクラゲの触手を剥がそうと爪を引っ掛けてもがいた。
それでも外れないから、気持ち悪いけどクラゲの傘の部分を掴んで思いっきり引っ張った。
ギチギチと耳の付け根が悲鳴を上げるのも構わず、引っ張った。
すると、私の唇にずっと重なっていたクラゲの傘が少しだけ離れ、ヌメった私の唇が湿った空気を感じた。
そのスキに、私はすかさず大きく息を吸い込んでめいいっぱいの叫び声を放とうとした。
路地裏で人通りが少なく、右も左も塀に囲まれているけど、その向こうには家がある。
大声を出せばきっと誰かが気づく……!
だけども大きく吸い込んだ息はそのまま、私のお腹の中へと押し戻されていった。
「っ、ひぁっ、だ、んぐうううぅぅううううう!?」
助けを求めるための最初の言葉がわずかに出た瞬間、ぐにゃっとしたものが私の口の中に入り込んできた。
それが自らの身体を縦長に丸めたクラゲだと分かるまでに、そう時間はかからなかった。
ただ、このクラゲが私の抵抗を先読みしてそんな行動に出たのだと理解したとき、言いようのない恐怖が胸の中に広がった。
「ん、ぐぅう、ぐっ、ちゅ!」
助けを求めることなど二の次に押し込め、なんとかそれを吐き出そうと私はもがく。
ただ、呼吸さえもままならない私の身体は既にろくな抵抗もできず、異物感に苦しむ喉だけが最後の防衛線となっていた。
352 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/23(火) 01:46:10.17 ID:8lNbPl95
そして、その防衛線が必死の抵抗を続けているとき、私はハッと閃いた。
そうだ……気持ち悪いけど、噛んじゃえばいい!
唇からだらりとたれている傘の先端を噛み切れば、きっと痛みでひるむはず。
その好きに吐き出して、走れば……逃げられるっ!
その閃きに、仕事の時もこうやって頭が働けばなぁと、のんきな考えが一瞬頭をよぎった。
それだけこの閃きに、私は安堵感と確信を持っていた。
そう、タコ! タコと思って噛みつけばいい!
噛みついて犬みたいにブルブルと頭を震えば、きっと噛みちぎれる!
私はそう自分に言い聞かせ、顎を一瞬を緩め、そして一気に力を込め――
「んぁ……あ……ぁ……」
……え?
あれ……? あれ……?
何かが、おかしかった。
身体が、ない。
そう表現するのが一番近しい感覚が、ただ呆然と私の中に残った。
必死の抵抗を続けていた息の苦しさも、喉を支配していた異物感も、汗で湿ったブラウスの感触も……どこかに飛んでいってしまった。
まるで身体が空に飛んでいるかのようだった。
……なんだか、このままでいたいな……。
そんな思いが頭をよぎったとき、力の抜けた両目がそれを捉えた。
だらりと垂れ下がるクラゲの傘から伸びる2本の触手。
それが私の鼻の中に入り込んでいるところを。
ぷつん。
額の部分から後頭部に何かが通り抜けていくような感覚。
それと同時にクラゲは、まるでパチンコを放とうとしているゴムのように、その身を私の唇の向こうへと伸ばした。
「んっ、あ~ん♪」
なんとものんきな私の声。
でもそれは、私が意図して出したものではなかった。
その次の瞬間、クラゲはその身を一気に私の口の中へと飛び込ませてきた。
353 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/23(火) 01:47:27.05 ID:8lNbPl95
「ん♪ ……んぐぅっっぅううう!? んんんんんん!」
そのクラゲの動作の一瞬後になって、私の身体は感覚を取り戻し、本能的にそれを吐き出そうと喉を脈動させる。
だけどもまるでゲル状の何かが喉を降りていくかのように、それはゆっくりと私の中へと降下していく。
駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目駄目ぇえええええええ!
「んっ、ごく、んっ……」
あっけない音と共に、それは私の喉を通って、私の中へと取り込まれてしまった。
私は何が起きたかわからなくて、口をパクパクとさせながら、喉を掴む。
まるで、自分の命をここで終わらせるかのように。
それはまるで私の人間としての身体が生命の遺伝子として起こしている、拒絶反応のように感じられた。
『あらあら、ダメよ、そんなことしちゃ♪ 私の大切な身体なんだから』
聞いたことのない口調で、私の声が頭の中に響く。
……誰?
『くすっ、私が誰であるかなんてどうでもいいわ。だってそんなこと……意味がなくなるもの』
私の問いかけに、私の声で答えるそれ。
それ? ……それって……どれ……?
あれ……? 私って、ん……? あれ、私って、どれ……だっけ……?
『だから言ったでしょ。意味がなくなる、って』
意味? 意味……意味、って、なんだっけ?
あれ、なんで私、自分に向かってそんなこと聞いてるんだろう?
だって私は――。
「『“私”じゃない。くすっ。なに言ってんだろ、私』」
そう……私は、私。
さぁ、早く帰らないと。
あの子が待ってる。
「くすっ。えっと……待っててね。今、帰るから♪」
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