スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
(転性)
332 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:33:08.10 ID:7QBX1G3o
暑い夏の日。
死に場所を求めていた僕が樹海の奥底で出くわしたバケモノ。
それは、地面から伸びる一本の図太い触手だった。
『ねぇ……食べて、いい? きみの全て、もらっていい?』
ニュルニュルと蠢くそれは蠅を飲み込む食虫植物のように、四方へその身を裂いた。
赤黒くドクドクと脈打つ触手の中から、ダラリと粘っこい液体が僕の顔へと垂れてくる。
「……いいよ」
もはや自分の答えなど必要なさそうにも感じたが、口が勝手に動いていた。
背中のリュックに入った無機質な縄で最後を遂げるよりも、
それはまだ苦しくなさそうに見えたからかもしれない。
『そう♪ じゃあ遠慮なく……』
暗闇が迫ってくる。
木陰の御蔭で免れていた湿度に混じった暑さとは違う、生物的な暖かさを肌の向こうで感じた。
程なくして、僕の身体を触手が締め付けてきた。
苦しさはあるものの、やはり始めに考えていた最後よりも痛みはない。
加えて少しずつ僕を奥へ奥へと飲み込もうとする触手の脈動は、
21年前にいたハジマリの場所を連想させ、僕の心を安心させた。
『ふふっ……おやすみなさい……』
そして僕は、バケモノに食べられた。
333 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:34:39.95 ID:7QBX1G3o
――あたたかい。
肌の向こうから感じるぬくもりに、ボクの頭から単語が溢れた。
その単語を堺に、ボクの意識は急速に微睡みから目覚め始めた。
ゆっくりと、瞼を開く。だけど何も見えない。
見えなくてもいいじゃないかとボクは思ったのだけど、
ボクの身体は勝手に瞬きを繰り返し、やがて緑色に染まった世界をボクに見せてみせた。
そんな世界でも、鬱蒼とした森が広がっているのがよく見えた。
それはいつか映画で見た、死闘を求めて宇宙を彷徨う某狩猟宇宙人の視界に似ていた。
視覚が戻ると、身体の五感が一気にスタートアップを始めた。
「ん……ん、ごポ……」
そして嗅覚を感じようと息を吸おうとしたとき、ボクは液体に包まれていることを理解した。
その液体の質感にボクは覚えを感じ……そして全てを思い出した。
その時だった。
瞼を閉じれば再び眠れそうなボクの周りの小さな空間が、いきなり崩壊を始めたのだ。
そしてボクの身体は重力に従い、地面へと落とされた。
「ぐっ! ゲホッ、ゲホッ……!」
背中を打つと同時に身体の中を行き渡っていたその液体を宙へ吐き出す。
随分と久しぶりに感じる重力に、ボクは思わず気持ちが悪くなった。
『大丈夫、落ち着いて……』
混乱にグルグルと回転する脳に、誰かの声が静かに響く。
明らかに耳の奥底から聞こえてくるその声は、不思議と不安定なボクの気持ちをスッと安定させた。
「っ、はぁ、はぁ……」
『そう、その調子……ゆっくりと呼吸を繰り返すの』
身体が本能的に覚えていた呼吸法で、程なくして視界も安定を取り戻していく。
緑色の世界が静まるのと引き換えに黒が主体の色が世界が目の前を包み込む。、
わずかな月明かりに照らされた足元のヒメジョオンに目の焦点が合わさるのと、ボクが疑問を口にしたのはほぼ同時だった。
「……なんで……」
『クスッ……残念? 死ねなくて』
その純粋なボクの落胆を楽しむように、頭の中の声がほくそ笑んだ。
334 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:35:33.27 ID:7QBX1G3o
『でも誰も殺すなんて言ってないしね。と言っても、もう1年も前だし覚えてない、か』
「いち、ねん……?」
唐突に聞かされた時の経過に、ボクは記憶の栞を辿った。
その中で一番手前にある記憶は……そう、この頭の中に響く声の主に食べられた記憶だった。
それはつい昨日のことのように感じられながらも、どこか形が古ぼけていた。
『ほら、後ろの“繭”。その中でアナタは1年間眠っていたのよ?』
「ま、ゆ……?」
頭の中の声に従い、ボクは背後を振り返った。
するとそこには薄緑色の薄皮に包まれた半球体がぽうっと存在していた。
その上部はまるで花が開いたかのように四方にめくれ、球体を維持している下部は透明な液体で満たされていた。
それが、さっきまでボクの身体を包み、満たしていたあの液体だということは容易に想像がついた。
そして……ようやくボクは、僕でなくなっていることに気づいた。
「こ、れ……だれ……?」
『誰って……アナタしかいないでしょ?』
困惑したボクの調子にわざと合わせるかのように、頭の中の声は答えた。
このか弱くも肉付きの良い華奢な腕も、月夜に照らされ白く光る肌も、下半身を隠すこの胸も……ボク?
いや……こんなの僕じゃない。
『うん。その身体は。アナタと私の……そう、きみと私の子供の身体』
ボクの否定を頭の中の声は肯定し、突拍子のない真実を口にした。
「ボクとキミの、こ、こど、も……?」
『そう。きみの精子を私の中で培養して作った子供。それが今のアナタの身体』
そんなのSFだ、と笑い飛ばすことは今のボクには到底できなかった。
ただただ困惑する頭で、なんとか現実を理解しようとすることだけが、ボクのできる唯一の努力だった。
335 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:36:52.19 ID:7QBX1G3o
”ここ”という言葉だけがやや右の方から聞こえ、ボクは促されるままに右の方向を向く。
するとそこには先ほどの繭と同じものがそこにあった。
薄い皮の向こうには確かに、僕の姿があった。
だけどその身体は体育座りのように丸くなり、まさしく眠っているかのようにふたつの瞼も静かに閉じられていた。
『言っとくけど、返さないわよ?』
ボクは意思を伝える前に、頭の中の声は返答をした。
「な、なんでよ!」
『当たり前でしょ。だって、もう私のだもん』
その頭の中の言葉を示すように、繭の中の僕はうっすらと目を開け、そしてニヤリとボクに笑いかけてきた。
薄皮の向こうにいる実像の僕のその表情に、ボクは思わず後退りをしてしまう。
しかしそれを踏ん張って、ボクは僕を取り戻そうと右足を一歩、繭の方向へと右足を――
「言っておくけど、この身体も私のモノだよ?」
踏み出せなかった。
持ち上がった右足が一瞬宙で停止すると、ボクの身体は急にボクの意思とは関係なく動き出した。
「この右足も、この右手も、この胸も、子宮も、脳みそも……そして、キミ自身も、ね。ふふっ」
ボクの身体でボク以上に自然に振舞うその身振り手振り口振りに、ボクは自分が一体どこにいるのかが分からなくなってしまう。
でも、たとえ身体がこの頭の中の声のモノだとしても、このボク自身はボクのものだ。
決して、頭の中の声のモノじゃない。
しかし下腹部から急にこみ上げてきた熱さが、そんなボクの答えをねじ伏せた。
336 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:37:48.95 ID:7QBX1G3o
「ふ、ぁ……! んっ、うぅ……」
突然のその感覚に嬌声が漏れ、思わず右手でむき出しの股間を覆い隠す。
それでも手のひらの向こうに存在する穴の奥底の場所からの火照りに、思わず両膝がくっつきあってしまう。
『ふふっ、感じてきたでしょ? 身体と、キミの心が』
再び頭の中に戻ってきた声は、いかにも自分がそうさせていると主張するように、嬉々とした口調で続ける。
『その気持ちよさはキミの身体が感じさせてるもの。でも、その感覚に“迷っている”のはキミの心自身、でしょ?』
そう。ボクは迷っていた。
ボクの身体の下腹部の火照りに応える方法は、本能的にわかっていた。
それは例えるなら、虫に刺されて痒くなったところを掻くような、ごくごく自然な行動だった。
『挿れたいんでしょ、その穴の中に指を』
頭の中の声が、ボクの心を代弁する。
ぷっくりと膨れた陰核に指先が触れるだけで、全身を痺れるような快感が走り抜ける。
ジリジリとくすぶっている欲求が、全てを飲み込む炎のように、その熱を上げていく。
『ねっ? キミのその綺麗な指先で、もっとグチャグチャにしたくない?』
「うっぅ……だ、ダメ、だよ、こん、なのっ……!」
内なる声から逃れるように頭を振るが、右手は股間から剥がれようとはしなかった。
一方で、左手が胸の突起を乱暴に揉みしだいていることにボクが気づいてしまったとき、
無意識下で右手の中指がボクの中へと滑り込んでしまった。
「ひっ、あっ!」
『あはっ、挿れちゃったね。ふふっ、気持ちいいでしょ?』
腹部に入り込んでくる異物感にボクは虚空を見上げ、快感の波に身を委ねる。
337 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:38:23.78 ID:7QBX1G3o
『ありゃまぁ、軽くイっちゃった?』
「だ、だめだよ、こんなの……」
『んふふ、そんなこと言いながらも身体はしっかりと素直なんだから』
「ふ、ぁ……!」
頭の中の声が言うとおりだった。
ボクは否定の言葉を口にしながらも、入り込んだ指で自らの中をかき回しつつ、
さらなる快感を求め続けていた。
どうすればもっと気持ちよくなれるのか、という純粋な気持ちでボクはひたすらに全身をまさぐり始めた。
「んぅ! ち、くびが、きもちい、っ!」
『ひぁ……私まで感じてきちゃった……♪』
先程まであった羞恥心は既に頭からはとっくのとうに剥がれ落ち、木の幹にもたれ掛かって白い息を吐き出し続けた。
ただ、ガサガサの木の幹は体に電流が走るたびボクの皮膚に引っかかり、その小さな苦痛がボクに少しだけ理性を残してくれていた。
そんな時、まるで慕ってくる動物のように、優しい力使いでボクの身体に何かが絡みついてきた。
「ひぁぅ! な、なに……!?」
『ふふっ、大丈夫。動かしてるのは私だから。ほら、こっちのほうがラクでしょ?』
ボクの両足と下腹部に巻き付いたそれは、見た目は森というよりジャングルに生い茂っていそうなツタのようだが、
そのウネウネとした動きは海をゆらめくタコを彷彿とさせた。
突如出現したその触手に、ボクは思わず呆然と身を硬直させてしまった。
『あ~もう、危なくなっていば。ほ、らっ♪』
その動きはまるで獲物ににじり寄るヘビのようだった。
下腹部に絡みついていた触手が乳首に、両足に絡みついていた触手は秘所に近づき、その丸っこい先端が開いたかと思うと、
粘りっけのある液体を垂らしながら、ぷっくりと膨れたそれぞれの敏感な部分に噛み付いてきたのだ。
その瞬間、ボクはまた快楽の渦の中へと一気に引きずり込まれた。
338 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:40:12.33 ID:7QBX1G3o
「っあぅ!? やっ、だっ、んんぅぅぅう!」
自分でいじった時とは全く別の刺激に、ボクの身体を激しい電流が駆け巡る。
しかしボクはどれだけ暴れようと、身体に絡みついた触手が丁寧に身体をつなぎとめてくれた。
それはまるで心地よく揺れるハンモックのようだった。
それでも触手の先端はしっかりとあまがみを続け、時折いやらしい音を立てて吸い付けてくる。
「っあぅううぅ! らっ、めっ! こんなっ、きもちよす、っぅう!」
『ひゃぅっ♪ そろそろ、かなっ……』
どこか艶っぽい頭の中の声がボクの高まりを後押しする。
木々の隙間から夜空を見上げ、何もしなくても快感を与えられるということに更なる快感を覚えながら、
ボクは何かが下腹部の奥から出ようとしているのを感じた。
それはオトコノコの時のあの気持ちよさに似ていて、自然と息が小刻みに震え始めた。
「で、るぅ……♪ なにか、出ちゃうっっっ……!」
『う、んっっ♪ いこっ、いっしょ、にっっ……!』
いっしょに、という言葉がボクの全てをぎゅっと抱き込むように感じ、身体から溢れる快感に身を委ねた。
「『ふっ、あっっっっっっっううううううう♪』」
頭を後ろに投げ出し、全身を支配する快感に何度も身体を震わせる。
音が消えた耳の奥底に時折、びしゃっと響く粘っこい音がボクがイッたことを実感させてくれていた。
『んぅぅ……たまんない♪ ほらっ、いっぱい出てる……♪」
「ぁっ♪ ……ぅ、ん……♪」
段々と快感の波が引いてくると、頭の中の声に従い、触手がボクの頭をゆっくりと持ち上げてくれた。
そしてボクは未だ快感が残る秘所に目をやると、その快感の小さな波に合わせて、
液体のようなものがびしゃりびしゃりとボクの中から外へと溢れ出ているのが見えた。
そのままボクはしばらくの間、先ほどの大波の余韻に浸りつつ、その様子を眺めていた。
339 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:41:44.09 ID:7QBX1G3o
『……よし、お疲れ様♪』
頭の中の声がそんな言葉を口にすると、触手たちは優しくボクを地面へと降ろしてくれた。
あれだけの快楽に身を委ねていたのに、不思議と身体に疲労感はなかった。
「ふぅ……ひゃっ!?」
火照ったままのむき出しのお尻に触れる、夜露に濡れた葉っぱの程よい冷たさに思考を停止していると、
爪先にぬるっとした感覚をボクは感じ、間の抜けた声を吐き出した。
『あっ、こら。だめだめ、暴れちゃ。その子、さっきキミが産んだ“子”よ』
「えっ? ひぅぅ!」
頭の中の声に疑問を抱いた一瞬の隙に、その感覚はボクの下腹部まで這い上がっていた。
その一瞬、ボクの下半身がぬらっと光るのを見て、ボクは目を凝らした。
そしてボクは気づいた。
その感覚の原因が、先ほどボクの中から溢れ出したあの液体であったことに。
見た目は無色透明な液体なのだが、月明かりに照らされた部分が妖しく煌き、
獲物を丸呑みするかのように脈動しながらボクの頭の方へと迫ってきていた。
本能的な危機感を感じながらも声を出すことも忘れ、しかし身体をよじらせてなんとかその動きを止めようとボクはもがく。
身体からそれをはじき飛ばそうと両手を払うものの、今度はその手の指先にしっかりと液体が絡みつき、
肩の方へとせり上がってくる。
やがて抵抗むなしく、ボクの首までの身体の表面はその液体に覆い尽くされてしまった。
心臓がドクンと脈を打つたびに小さな波を立てながら全身を愛撫するその液体を、ボクはなすすべもなく見つめていた。
「ぅぅ……え……? っぁ……!」
快感とは微妙に違う全身の感覚にボクが戸惑いの声を上げると、液体が繭の中のそれに似た緑色の光を発し始めた。
それらは全身を行き交う血液のように蠢き、何とも言えないもどかしさにもじもじと身体をくねらせた。
数秒ほど経つとその光と感覚はなりを潜め始め、ボクの身体は再び月明かりによって色付けがされた。
するとそこには、黒いセーラー服に身を包んだボクの姿があった。
342 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/22(月) 02:17:11.94 ID:L/Rb1QRm
『うんうん、よく似合ってる』
「こ、これって……?」
『それはさっきキミが産んだ子が擬態してくれてるの。ふふっ、よくできてるでしょ?』
擬態、という言葉にボクはこれが偽物なのかと思わず手が伸びた。
人工的なセーラー服の布地の感覚、スカートの裾の翻り具合、ツルツルとしたいやらしいパンストの締め付け具合。
とてもではないが偽物とは思えないその感覚にボクが驚いていると、不意に秘所を何かが撫でていった。
「ひゃうっ!?」
『あはは、キミが好きだからじゃれてるみたい。まぁ“おかあさん”だもんね』
「お、おかあさんって……ボク、が……?』
『もちろん。キミ自身、さっきその子が自分のナカから生まれたのを見たでしょ?』
そうは言われても理解が追いつかないボクに、頭の中の声は続ける。
『キミが宿ってるのは私が持ってきた“卵”とオトコノコのキミの“種”で産まれた子供のカラダ。
つまり、その子供においてキミはおとうさんで私がおかあさん、ってこと。ふふっ』
嬉々とた様子で説明する頭の中の声の言葉に、ボクはちらりと繭の中で眠る僕の身体を見た。
いつの間にかボクに笑いかけたあの不気味な表情はなりを潜め、彼はゆっくりと眠っているようだった。
『そしてその子供、つまり今のキミが寝ている間に、“種”を仕込んでおいたの。今度は私が、ね。
それがキミの中の“卵”と結びついてその子が生まれたの。まぁ本来、人の“卵”じゃ生まれないんだけど、
なんせ今のキミの身体は見た目こそ人間だけど、その中身は人間と“エイリアン”のハーフだからね』
饒舌に非現実的な言葉を羅列した頭の中の声は、やっとその正体をボクに明言した。
不思議とボクに大きな驚きなかった。
それは頭の中の声のとおり、ボクが既に人間じゃなくなっていることを裏付けているようにも感じた。
そのせいか、ボクの口からはひどく冷え切った質問が溢れた。
「目的は、地球の侵略、とか?」
『う~ん、そんな大それたものじゃないんだけど……。第一目的は私という個体の維持だけど、
まぁでもどうせなら、家族を増やしたいかな』
この星の外にも“家族”という概念があること、ボクは喜びと悲しみを覚えた。
343 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/22(月) 02:17:57.54 ID:L/Rb1QRm
『とは言っても、私たちはキミたちと違って安定した“肉体”がないの。ただ、生命体に宿って支配することができる。
いわゆる……そう、寄生。今の私は、ほらこの木に宿ってるの』
ゆらりと現れた触手が示す、繭の隣の木。
それはこの森の中でも一際小さい、わずか2mほどの小さな木だった。
『1年前にキミがこの森を訪れるよりも少し前に、私は不時着して、その時は寄生していた別の星の生命体……つまり、、
キミたちから見れば宇宙人の身体に宿ってたんだけどその身体が力尽きちゃって、
色々な設備とかも壊れちゃて……弱った私がやっと宿れたのはこの木だけだったの』
その言葉に合わせて、どこか自虐的に触手を震わせてかか、頭の中の声は続けた。
『でもこの木に宿ったのはいいけど、これだけ背が低いと陽の光も当たらないから光合成のエネルギーが手に入らなくて……、
かと言って別の何かに寄生し直すだけの力も残っていなかった。……正直、あの時はもう諦めてた』
「……そこに、僕がやってきた」
『ふふっ、そう。私と同じように、生きることを諦めたキミが、ね』
触手がふわりとボクの頬を愛でるように撫でた。
『そしてキミを取り込んだあと、私はキミだったものの“種”を食べて私自身を回復させてながら、
唯一残った私の“卵”にキミだったものの“種”を植え付けた。そして1年後の今日、やっとその卵が孵った』
「それが……この、身体」
『そう。私とキミの、子供』
ボクは改めて自分の身体を見下ろした。
白い指先、たわわに実った胸のふくらみ、華奢ながらも艶やかに伸びた足。
僕の“種”から生まれたというその身体を見てから、ボクは言った。
「じゃあなんで……ボクは自分自身の子供の身体に宿っているの?」
『その理由は簡単。私の力が完全じゃなくて、その身体に魂が作れなかったから、代わりにキミの魂を入れてあげたの。
人間ってそう考えるとすごいわよ? 無意識でも孕みさえすれば魂を作れちゃうんだから』
頭の中の声に言われて、ボクも確かにと少しだけ感心してしまう。
『魂っていうのは身体じゃなくて心から生まれるものだから。ほら、キミが生んだその子。
その子はキミが母体となっていたから魂が宿っているの』
その言葉に呼応するように、服に擬態しているボクの子供は優しくボクの身体を少し締め付けてきた。
きっと本来のセーラー服には存在していないであろうポカポカとした暖かさを、ボクは一瞬だけ感じた。
344 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/22(月) 02:20:12.09 ID:L/Rb1QRm
『私がキミをその身体に定着させて1年間育ててきた理由の一つは、つまり私の代わりにキミに子供を生んでもらうため。
もう一つは……』
焦らすように、頭の中の声は間を開ける。
だけどボク自身もはやそれは気になることではなく、頭の中の声もそれを察したのか、程なくしてもうひとつの理由を口にした。
『それはキミに興味を持ったから』
「ボク、に?」
どうとでも捉えることができそうなアバウトな答えにボクが聞き返すと、頭の中の声はなめらかに答えた。
『そっ。だって死にたい死にたいって自分の身体に言わせておきながら、心は生きたい生きたいって言ってるんだもん。
ヘンな子だなぁ、って思ったから』
「ボ、ボクは生きたいなんて思ってない!」
考えるよりも先に、口が先に動いていた。
それを待っていたかのように、頭の中の声は笑う。
『ほら。キミはよくも考えもせずに死にたいって言ってるだけ。死にたいんじゃなくて、死んで“楽になりたい”だけ』
「っ! ……ボクの……ボクの何が分かるんだよ、キミに!」
またしても口が勝手に動く。
この感覚を、ボクは1年前にも味わっていた。
そう、今と全く同じように目の前の触手へと僕は辛さをぶちまけ、そして彼女は僕の話を静かに聞き、そしてボクを優しく食べた。
だけどその時と、今は違った。
『そっ。じゃあ、死ねば』
「えっ……? ぐっ、うぐんんぅぅううううう!?」
それは一瞬の出来事だった。
目の前の触手がわずかに身をくねらせたかと思うと、乱暴にボクの口へと侵入してきたのだ。
さらにいつの間にか周りを取り囲んでいた触手に四肢が拘束される。その力はまるでボクを引き裂かんとするかのように容赦がない。
『このままキミの心を食べちゃえば、キミの心は死ねるわ。キミの望み通りに、ね』
一瞬、胸の奥から身体が引きずり出されるような感覚を感じ、そして何も感じなくなった。
ただ次の瞬間には口から続く異物感と共に、言いようのない苦しみが全身を襲った。
『ふふっ、今キミの心にアマガミしてあげたの。どう? 死にそうだったでしょ』
温かみを失った頭の中の声が冷ややかにボクに囁いた。
345 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/22(月) 02:20:46.62 ID:L/Rb1QRm
『まぁキミの元の身体は私の栄養分として、子供の身体は人間との接触に、それぞれだ~いじに使わせてもらうから、安心して』
先ほどこの身体がボクの意思とは無関係に言葉を喋ったことを思い出した。
そうだ。ボクはこの身体を使わせてもらっているに過ぎなかったんだ。
彼女にしてみれば、その逆。使わせて上げているに過ぎない。
なのにボクが死にたい死にたいといったのが、逆鱗に触れてしまったのだろう。
身体は苦しいはずなのに、頭の中はそんなことが考えられるくらいにボクは冷め切っていた。
それは捕食者と非捕食者の関係がどうしようもないぐらいに理解できたからであった。
でも、彼女はボクの心を食べることはしなかった。
「っ……んげほっ、ぐぅtゲホッゲホッ!」
突然ボクの中に入り込んだ触手が逆流して抜け出たかと思うと、四肢を拘束していた触手たちもボクを解放した。
地面に四つん這いになり、酸素を取り込むボクの背中を優しく撫でてくれる感覚を感じた。
それが身にまとっているボクの子供がしてくれていることだと、ボクはすぐに気づいた。
苦しいのに、胸がポカポカと暖かくなるその懐かしい感覚に、ボクは思いを巡らせてから言った。
「はぁはぁ……あり、がと」
ボクの言葉に、ボクの子供はまるで懐くかのようにボクの全身にその身をこすらせてきた。
『……キミのその身体はまだまだ不完全。5日間、外で活動したらまた私の中で作り直さないといけない。
その5日間だけ、私たちに協力してみない? それでも生きるのが嫌だったら、キミの心を食べてあげる。
もちろん、さっきみたいな痛さなんて感じさせないように、優しく、ね』
触手がボクの頬を撫で、それから顔の前で止まった。
この返答次第では、再びこの触手がボクの中に入り込み、きっとボクを殺してくれるだろう。
背中に感じた鳥肌のような感覚は、一体誰のものなんだろうと感じながら、ボクは考えた。
そしてボクは、その触手を握った。
それは体液で滑りながらも、身に纏ったボクの子供と同じような暖かさが確かにあった。
「……正直、生きたいとは思えないけど……その……」
うまく言葉にできないその思いに、ボクはセーラー服の袖を撫でた。
彼女はそのボクの仕草に、優しい声を掛けてくれた。
『ふふっ……5日間でどうしても嫌だったら、その子に気兼ねすることはないよ。
キミは死を選んでも、私がいるから。それに、その子もキミが苦しむことは、望んでないから』
「……うん。ありがとう」
『ぅ~、でもなんか妬けちゃうなぁ。一応私も、キミの家族なんだけどなぁ~』
その嫉妬心を表すかのように、目の前の触手は頭を垂れながらそっぽを向いた。
「……ぷっ。ふふふっ」
思わず笑いが溢れていた。
そんな風に自然と笑えたは何年ぶりだろうか、と思い出そうとしてボクはやめた。
だってボクはもう、生まれ変わったのだから。
『そう。キミはもう人間じゃない。私たち、エイリアンの家族』
「……うん。よろしく、ね」
『ふふっ、こちらこそ』
そしてボクの新たな生活が幕を開けた。
暑い夏の日。
死に場所を求めていた僕が樹海の奥底で出くわしたバケモノ。
それは、地面から伸びる一本の図太い触手だった。
『ねぇ……食べて、いい? きみの全て、もらっていい?』
ニュルニュルと蠢くそれは蠅を飲み込む食虫植物のように、四方へその身を裂いた。
赤黒くドクドクと脈打つ触手の中から、ダラリと粘っこい液体が僕の顔へと垂れてくる。
「……いいよ」
もはや自分の答えなど必要なさそうにも感じたが、口が勝手に動いていた。
背中のリュックに入った無機質な縄で最後を遂げるよりも、
それはまだ苦しくなさそうに見えたからかもしれない。
『そう♪ じゃあ遠慮なく……』
暗闇が迫ってくる。
木陰の御蔭で免れていた湿度に混じった暑さとは違う、生物的な暖かさを肌の向こうで感じた。
程なくして、僕の身体を触手が締め付けてきた。
苦しさはあるものの、やはり始めに考えていた最後よりも痛みはない。
加えて少しずつ僕を奥へ奥へと飲み込もうとする触手の脈動は、
21年前にいたハジマリの場所を連想させ、僕の心を安心させた。
『ふふっ……おやすみなさい……』
そして僕は、バケモノに食べられた。
333 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:34:39.95 ID:7QBX1G3o
――あたたかい。
肌の向こうから感じるぬくもりに、ボクの頭から単語が溢れた。
その単語を堺に、ボクの意識は急速に微睡みから目覚め始めた。
ゆっくりと、瞼を開く。だけど何も見えない。
見えなくてもいいじゃないかとボクは思ったのだけど、
ボクの身体は勝手に瞬きを繰り返し、やがて緑色に染まった世界をボクに見せてみせた。
そんな世界でも、鬱蒼とした森が広がっているのがよく見えた。
それはいつか映画で見た、死闘を求めて宇宙を彷徨う某狩猟宇宙人の視界に似ていた。
視覚が戻ると、身体の五感が一気にスタートアップを始めた。
「ん……ん、ごポ……」
そして嗅覚を感じようと息を吸おうとしたとき、ボクは液体に包まれていることを理解した。
その液体の質感にボクは覚えを感じ……そして全てを思い出した。
その時だった。
瞼を閉じれば再び眠れそうなボクの周りの小さな空間が、いきなり崩壊を始めたのだ。
そしてボクの身体は重力に従い、地面へと落とされた。
「ぐっ! ゲホッ、ゲホッ……!」
背中を打つと同時に身体の中を行き渡っていたその液体を宙へ吐き出す。
随分と久しぶりに感じる重力に、ボクは思わず気持ちが悪くなった。
『大丈夫、落ち着いて……』
混乱にグルグルと回転する脳に、誰かの声が静かに響く。
明らかに耳の奥底から聞こえてくるその声は、不思議と不安定なボクの気持ちをスッと安定させた。
「っ、はぁ、はぁ……」
『そう、その調子……ゆっくりと呼吸を繰り返すの』
身体が本能的に覚えていた呼吸法で、程なくして視界も安定を取り戻していく。
緑色の世界が静まるのと引き換えに黒が主体の色が世界が目の前を包み込む。、
わずかな月明かりに照らされた足元のヒメジョオンに目の焦点が合わさるのと、ボクが疑問を口にしたのはほぼ同時だった。
「……なんで……」
『クスッ……残念? 死ねなくて』
その純粋なボクの落胆を楽しむように、頭の中の声がほくそ笑んだ。
334 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:35:33.27 ID:7QBX1G3o
『でも誰も殺すなんて言ってないしね。と言っても、もう1年も前だし覚えてない、か』
「いち、ねん……?」
唐突に聞かされた時の経過に、ボクは記憶の栞を辿った。
その中で一番手前にある記憶は……そう、この頭の中に響く声の主に食べられた記憶だった。
それはつい昨日のことのように感じられながらも、どこか形が古ぼけていた。
『ほら、後ろの“繭”。その中でアナタは1年間眠っていたのよ?』
「ま、ゆ……?」
頭の中の声に従い、ボクは背後を振り返った。
するとそこには薄緑色の薄皮に包まれた半球体がぽうっと存在していた。
その上部はまるで花が開いたかのように四方にめくれ、球体を維持している下部は透明な液体で満たされていた。
それが、さっきまでボクの身体を包み、満たしていたあの液体だということは容易に想像がついた。
そして……ようやくボクは、僕でなくなっていることに気づいた。
「こ、れ……だれ……?」
『誰って……アナタしかいないでしょ?』
困惑したボクの調子にわざと合わせるかのように、頭の中の声は答えた。
このか弱くも肉付きの良い華奢な腕も、月夜に照らされ白く光る肌も、下半身を隠すこの胸も……ボク?
いや……こんなの僕じゃない。
『うん。その身体は。アナタと私の……そう、きみと私の子供の身体』
ボクの否定を頭の中の声は肯定し、突拍子のない真実を口にした。
「ボクとキミの、こ、こど、も……?」
『そう。きみの精子を私の中で培養して作った子供。それが今のアナタの身体』
そんなのSFだ、と笑い飛ばすことは今のボクには到底できなかった。
ただただ困惑する頭で、なんとか現実を理解しようとすることだけが、ボクのできる唯一の努力だった。
335 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:36:52.19 ID:7QBX1G3o
”ここ”という言葉だけがやや右の方から聞こえ、ボクは促されるままに右の方向を向く。
するとそこには先ほどの繭と同じものがそこにあった。
薄い皮の向こうには確かに、僕の姿があった。
だけどその身体は体育座りのように丸くなり、まさしく眠っているかのようにふたつの瞼も静かに閉じられていた。
『言っとくけど、返さないわよ?』
ボクは意思を伝える前に、頭の中の声は返答をした。
「な、なんでよ!」
『当たり前でしょ。だって、もう私のだもん』
その頭の中の言葉を示すように、繭の中の僕はうっすらと目を開け、そしてニヤリとボクに笑いかけてきた。
薄皮の向こうにいる実像の僕のその表情に、ボクは思わず後退りをしてしまう。
しかしそれを踏ん張って、ボクは僕を取り戻そうと右足を一歩、繭の方向へと右足を――
「言っておくけど、この身体も私のモノだよ?」
踏み出せなかった。
持ち上がった右足が一瞬宙で停止すると、ボクの身体は急にボクの意思とは関係なく動き出した。
「この右足も、この右手も、この胸も、子宮も、脳みそも……そして、キミ自身も、ね。ふふっ」
ボクの身体でボク以上に自然に振舞うその身振り手振り口振りに、ボクは自分が一体どこにいるのかが分からなくなってしまう。
でも、たとえ身体がこの頭の中の声のモノだとしても、このボク自身はボクのものだ。
決して、頭の中の声のモノじゃない。
しかし下腹部から急にこみ上げてきた熱さが、そんなボクの答えをねじ伏せた。
336 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:37:48.95 ID:7QBX1G3o
「ふ、ぁ……! んっ、うぅ……」
突然のその感覚に嬌声が漏れ、思わず右手でむき出しの股間を覆い隠す。
それでも手のひらの向こうに存在する穴の奥底の場所からの火照りに、思わず両膝がくっつきあってしまう。
『ふふっ、感じてきたでしょ? 身体と、キミの心が』
再び頭の中に戻ってきた声は、いかにも自分がそうさせていると主張するように、嬉々とした口調で続ける。
『その気持ちよさはキミの身体が感じさせてるもの。でも、その感覚に“迷っている”のはキミの心自身、でしょ?』
そう。ボクは迷っていた。
ボクの身体の下腹部の火照りに応える方法は、本能的にわかっていた。
それは例えるなら、虫に刺されて痒くなったところを掻くような、ごくごく自然な行動だった。
『挿れたいんでしょ、その穴の中に指を』
頭の中の声が、ボクの心を代弁する。
ぷっくりと膨れた陰核に指先が触れるだけで、全身を痺れるような快感が走り抜ける。
ジリジリとくすぶっている欲求が、全てを飲み込む炎のように、その熱を上げていく。
『ねっ? キミのその綺麗な指先で、もっとグチャグチャにしたくない?』
「うっぅ……だ、ダメ、だよ、こん、なのっ……!」
内なる声から逃れるように頭を振るが、右手は股間から剥がれようとはしなかった。
一方で、左手が胸の突起を乱暴に揉みしだいていることにボクが気づいてしまったとき、
無意識下で右手の中指がボクの中へと滑り込んでしまった。
「ひっ、あっ!」
『あはっ、挿れちゃったね。ふふっ、気持ちいいでしょ?』
腹部に入り込んでくる異物感にボクは虚空を見上げ、快感の波に身を委ねる。
337 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:38:23.78 ID:7QBX1G3o
『ありゃまぁ、軽くイっちゃった?』
「だ、だめだよ、こんなの……」
『んふふ、そんなこと言いながらも身体はしっかりと素直なんだから』
「ふ、ぁ……!」
頭の中の声が言うとおりだった。
ボクは否定の言葉を口にしながらも、入り込んだ指で自らの中をかき回しつつ、
さらなる快感を求め続けていた。
どうすればもっと気持ちよくなれるのか、という純粋な気持ちでボクはひたすらに全身をまさぐり始めた。
「んぅ! ち、くびが、きもちい、っ!」
『ひぁ……私まで感じてきちゃった……♪』
先程まであった羞恥心は既に頭からはとっくのとうに剥がれ落ち、木の幹にもたれ掛かって白い息を吐き出し続けた。
ただ、ガサガサの木の幹は体に電流が走るたびボクの皮膚に引っかかり、その小さな苦痛がボクに少しだけ理性を残してくれていた。
そんな時、まるで慕ってくる動物のように、優しい力使いでボクの身体に何かが絡みついてきた。
「ひぁぅ! な、なに……!?」
『ふふっ、大丈夫。動かしてるのは私だから。ほら、こっちのほうがラクでしょ?』
ボクの両足と下腹部に巻き付いたそれは、見た目は森というよりジャングルに生い茂っていそうなツタのようだが、
そのウネウネとした動きは海をゆらめくタコを彷彿とさせた。
突如出現したその触手に、ボクは思わず呆然と身を硬直させてしまった。
『あ~もう、危なくなっていば。ほ、らっ♪』
その動きはまるで獲物ににじり寄るヘビのようだった。
下腹部に絡みついていた触手が乳首に、両足に絡みついていた触手は秘所に近づき、その丸っこい先端が開いたかと思うと、
粘りっけのある液体を垂らしながら、ぷっくりと膨れたそれぞれの敏感な部分に噛み付いてきたのだ。
その瞬間、ボクはまた快楽の渦の中へと一気に引きずり込まれた。
338 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:40:12.33 ID:7QBX1G3o
「っあぅ!? やっ、だっ、んんぅぅぅう!」
自分でいじった時とは全く別の刺激に、ボクの身体を激しい電流が駆け巡る。
しかしボクはどれだけ暴れようと、身体に絡みついた触手が丁寧に身体をつなぎとめてくれた。
それはまるで心地よく揺れるハンモックのようだった。
それでも触手の先端はしっかりとあまがみを続け、時折いやらしい音を立てて吸い付けてくる。
「っあぅううぅ! らっ、めっ! こんなっ、きもちよす、っぅう!」
『ひゃぅっ♪ そろそろ、かなっ……』
どこか艶っぽい頭の中の声がボクの高まりを後押しする。
木々の隙間から夜空を見上げ、何もしなくても快感を与えられるということに更なる快感を覚えながら、
ボクは何かが下腹部の奥から出ようとしているのを感じた。
それはオトコノコの時のあの気持ちよさに似ていて、自然と息が小刻みに震え始めた。
「で、るぅ……♪ なにか、出ちゃうっっっ……!」
『う、んっっ♪ いこっ、いっしょ、にっっ……!』
いっしょに、という言葉がボクの全てをぎゅっと抱き込むように感じ、身体から溢れる快感に身を委ねた。
「『ふっ、あっっっっっっっううううううう♪』」
頭を後ろに投げ出し、全身を支配する快感に何度も身体を震わせる。
音が消えた耳の奥底に時折、びしゃっと響く粘っこい音がボクがイッたことを実感させてくれていた。
『んぅぅ……たまんない♪ ほらっ、いっぱい出てる……♪」
「ぁっ♪ ……ぅ、ん……♪」
段々と快感の波が引いてくると、頭の中の声に従い、触手がボクの頭をゆっくりと持ち上げてくれた。
そしてボクは未だ快感が残る秘所に目をやると、その快感の小さな波に合わせて、
液体のようなものがびしゃりびしゃりとボクの中から外へと溢れ出ているのが見えた。
そのままボクはしばらくの間、先ほどの大波の余韻に浸りつつ、その様子を眺めていた。
339 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/21(日) 03:41:44.09 ID:7QBX1G3o
『……よし、お疲れ様♪』
頭の中の声がそんな言葉を口にすると、触手たちは優しくボクを地面へと降ろしてくれた。
あれだけの快楽に身を委ねていたのに、不思議と身体に疲労感はなかった。
「ふぅ……ひゃっ!?」
火照ったままのむき出しのお尻に触れる、夜露に濡れた葉っぱの程よい冷たさに思考を停止していると、
爪先にぬるっとした感覚をボクは感じ、間の抜けた声を吐き出した。
『あっ、こら。だめだめ、暴れちゃ。その子、さっきキミが産んだ“子”よ』
「えっ? ひぅぅ!」
頭の中の声に疑問を抱いた一瞬の隙に、その感覚はボクの下腹部まで這い上がっていた。
その一瞬、ボクの下半身がぬらっと光るのを見て、ボクは目を凝らした。
そしてボクは気づいた。
その感覚の原因が、先ほどボクの中から溢れ出したあの液体であったことに。
見た目は無色透明な液体なのだが、月明かりに照らされた部分が妖しく煌き、
獲物を丸呑みするかのように脈動しながらボクの頭の方へと迫ってきていた。
本能的な危機感を感じながらも声を出すことも忘れ、しかし身体をよじらせてなんとかその動きを止めようとボクはもがく。
身体からそれをはじき飛ばそうと両手を払うものの、今度はその手の指先にしっかりと液体が絡みつき、
肩の方へとせり上がってくる。
やがて抵抗むなしく、ボクの首までの身体の表面はその液体に覆い尽くされてしまった。
心臓がドクンと脈を打つたびに小さな波を立てながら全身を愛撫するその液体を、ボクはなすすべもなく見つめていた。
「ぅぅ……え……? っぁ……!」
快感とは微妙に違う全身の感覚にボクが戸惑いの声を上げると、液体が繭の中のそれに似た緑色の光を発し始めた。
それらは全身を行き交う血液のように蠢き、何とも言えないもどかしさにもじもじと身体をくねらせた。
数秒ほど経つとその光と感覚はなりを潜め始め、ボクの身体は再び月明かりによって色付けがされた。
するとそこには、黒いセーラー服に身を包んだボクの姿があった。
342 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/22(月) 02:17:11.94 ID:L/Rb1QRm
『うんうん、よく似合ってる』
「こ、これって……?」
『それはさっきキミが産んだ子が擬態してくれてるの。ふふっ、よくできてるでしょ?』
擬態、という言葉にボクはこれが偽物なのかと思わず手が伸びた。
人工的なセーラー服の布地の感覚、スカートの裾の翻り具合、ツルツルとしたいやらしいパンストの締め付け具合。
とてもではないが偽物とは思えないその感覚にボクが驚いていると、不意に秘所を何かが撫でていった。
「ひゃうっ!?」
『あはは、キミが好きだからじゃれてるみたい。まぁ“おかあさん”だもんね』
「お、おかあさんって……ボク、が……?』
『もちろん。キミ自身、さっきその子が自分のナカから生まれたのを見たでしょ?』
そうは言われても理解が追いつかないボクに、頭の中の声は続ける。
『キミが宿ってるのは私が持ってきた“卵”とオトコノコのキミの“種”で産まれた子供のカラダ。
つまり、その子供においてキミはおとうさんで私がおかあさん、ってこと。ふふっ』
嬉々とた様子で説明する頭の中の声の言葉に、ボクはちらりと繭の中で眠る僕の身体を見た。
いつの間にかボクに笑いかけたあの不気味な表情はなりを潜め、彼はゆっくりと眠っているようだった。
『そしてその子供、つまり今のキミが寝ている間に、“種”を仕込んでおいたの。今度は私が、ね。
それがキミの中の“卵”と結びついてその子が生まれたの。まぁ本来、人の“卵”じゃ生まれないんだけど、
なんせ今のキミの身体は見た目こそ人間だけど、その中身は人間と“エイリアン”のハーフだからね』
饒舌に非現実的な言葉を羅列した頭の中の声は、やっとその正体をボクに明言した。
不思議とボクに大きな驚きなかった。
それは頭の中の声のとおり、ボクが既に人間じゃなくなっていることを裏付けているようにも感じた。
そのせいか、ボクの口からはひどく冷え切った質問が溢れた。
「目的は、地球の侵略、とか?」
『う~ん、そんな大それたものじゃないんだけど……。第一目的は私という個体の維持だけど、
まぁでもどうせなら、家族を増やしたいかな』
この星の外にも“家族”という概念があること、ボクは喜びと悲しみを覚えた。
343 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/22(月) 02:17:57.54 ID:L/Rb1QRm
『とは言っても、私たちはキミたちと違って安定した“肉体”がないの。ただ、生命体に宿って支配することができる。
いわゆる……そう、寄生。今の私は、ほらこの木に宿ってるの』
ゆらりと現れた触手が示す、繭の隣の木。
それはこの森の中でも一際小さい、わずか2mほどの小さな木だった。
『1年前にキミがこの森を訪れるよりも少し前に、私は不時着して、その時は寄生していた別の星の生命体……つまり、、
キミたちから見れば宇宙人の身体に宿ってたんだけどその身体が力尽きちゃって、
色々な設備とかも壊れちゃて……弱った私がやっと宿れたのはこの木だけだったの』
その言葉に合わせて、どこか自虐的に触手を震わせてかか、頭の中の声は続けた。
『でもこの木に宿ったのはいいけど、これだけ背が低いと陽の光も当たらないから光合成のエネルギーが手に入らなくて……、
かと言って別の何かに寄生し直すだけの力も残っていなかった。……正直、あの時はもう諦めてた』
「……そこに、僕がやってきた」
『ふふっ、そう。私と同じように、生きることを諦めたキミが、ね』
触手がふわりとボクの頬を愛でるように撫でた。
『そしてキミを取り込んだあと、私はキミだったものの“種”を食べて私自身を回復させてながら、
唯一残った私の“卵”にキミだったものの“種”を植え付けた。そして1年後の今日、やっとその卵が孵った』
「それが……この、身体」
『そう。私とキミの、子供』
ボクは改めて自分の身体を見下ろした。
白い指先、たわわに実った胸のふくらみ、華奢ながらも艶やかに伸びた足。
僕の“種”から生まれたというその身体を見てから、ボクは言った。
「じゃあなんで……ボクは自分自身の子供の身体に宿っているの?」
『その理由は簡単。私の力が完全じゃなくて、その身体に魂が作れなかったから、代わりにキミの魂を入れてあげたの。
人間ってそう考えるとすごいわよ? 無意識でも孕みさえすれば魂を作れちゃうんだから』
頭の中の声に言われて、ボクも確かにと少しだけ感心してしまう。
『魂っていうのは身体じゃなくて心から生まれるものだから。ほら、キミが生んだその子。
その子はキミが母体となっていたから魂が宿っているの』
その言葉に呼応するように、服に擬態しているボクの子供は優しくボクの身体を少し締め付けてきた。
きっと本来のセーラー服には存在していないであろうポカポカとした暖かさを、ボクは一瞬だけ感じた。
344 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/22(月) 02:20:12.09 ID:L/Rb1QRm
『私がキミをその身体に定着させて1年間育ててきた理由の一つは、つまり私の代わりにキミに子供を生んでもらうため。
もう一つは……』
焦らすように、頭の中の声は間を開ける。
だけどボク自身もはやそれは気になることではなく、頭の中の声もそれを察したのか、程なくしてもうひとつの理由を口にした。
『それはキミに興味を持ったから』
「ボク、に?」
どうとでも捉えることができそうなアバウトな答えにボクが聞き返すと、頭の中の声はなめらかに答えた。
『そっ。だって死にたい死にたいって自分の身体に言わせておきながら、心は生きたい生きたいって言ってるんだもん。
ヘンな子だなぁ、って思ったから』
「ボ、ボクは生きたいなんて思ってない!」
考えるよりも先に、口が先に動いていた。
それを待っていたかのように、頭の中の声は笑う。
『ほら。キミはよくも考えもせずに死にたいって言ってるだけ。死にたいんじゃなくて、死んで“楽になりたい”だけ』
「っ! ……ボクの……ボクの何が分かるんだよ、キミに!」
またしても口が勝手に動く。
この感覚を、ボクは1年前にも味わっていた。
そう、今と全く同じように目の前の触手へと僕は辛さをぶちまけ、そして彼女は僕の話を静かに聞き、そしてボクを優しく食べた。
だけどその時と、今は違った。
『そっ。じゃあ、死ねば』
「えっ……? ぐっ、うぐんんぅぅううううう!?」
それは一瞬の出来事だった。
目の前の触手がわずかに身をくねらせたかと思うと、乱暴にボクの口へと侵入してきたのだ。
さらにいつの間にか周りを取り囲んでいた触手に四肢が拘束される。その力はまるでボクを引き裂かんとするかのように容赦がない。
『このままキミの心を食べちゃえば、キミの心は死ねるわ。キミの望み通りに、ね』
一瞬、胸の奥から身体が引きずり出されるような感覚を感じ、そして何も感じなくなった。
ただ次の瞬間には口から続く異物感と共に、言いようのない苦しみが全身を襲った。
『ふふっ、今キミの心にアマガミしてあげたの。どう? 死にそうだったでしょ』
温かみを失った頭の中の声が冷ややかにボクに囁いた。
345 名無しさん@ピンキー sage 2013/04/22(月) 02:20:46.62 ID:L/Rb1QRm
『まぁキミの元の身体は私の栄養分として、子供の身体は人間との接触に、それぞれだ~いじに使わせてもらうから、安心して』
先ほどこの身体がボクの意思とは無関係に言葉を喋ったことを思い出した。
そうだ。ボクはこの身体を使わせてもらっているに過ぎなかったんだ。
彼女にしてみれば、その逆。使わせて上げているに過ぎない。
なのにボクが死にたい死にたいといったのが、逆鱗に触れてしまったのだろう。
身体は苦しいはずなのに、頭の中はそんなことが考えられるくらいにボクは冷め切っていた。
それは捕食者と非捕食者の関係がどうしようもないぐらいに理解できたからであった。
でも、彼女はボクの心を食べることはしなかった。
「っ……んげほっ、ぐぅtゲホッゲホッ!」
突然ボクの中に入り込んだ触手が逆流して抜け出たかと思うと、四肢を拘束していた触手たちもボクを解放した。
地面に四つん這いになり、酸素を取り込むボクの背中を優しく撫でてくれる感覚を感じた。
それが身にまとっているボクの子供がしてくれていることだと、ボクはすぐに気づいた。
苦しいのに、胸がポカポカと暖かくなるその懐かしい感覚に、ボクは思いを巡らせてから言った。
「はぁはぁ……あり、がと」
ボクの言葉に、ボクの子供はまるで懐くかのようにボクの全身にその身をこすらせてきた。
『……キミのその身体はまだまだ不完全。5日間、外で活動したらまた私の中で作り直さないといけない。
その5日間だけ、私たちに協力してみない? それでも生きるのが嫌だったら、キミの心を食べてあげる。
もちろん、さっきみたいな痛さなんて感じさせないように、優しく、ね』
触手がボクの頬を撫で、それから顔の前で止まった。
この返答次第では、再びこの触手がボクの中に入り込み、きっとボクを殺してくれるだろう。
背中に感じた鳥肌のような感覚は、一体誰のものなんだろうと感じながら、ボクは考えた。
そしてボクは、その触手を握った。
それは体液で滑りながらも、身に纏ったボクの子供と同じような暖かさが確かにあった。
「……正直、生きたいとは思えないけど……その……」
うまく言葉にできないその思いに、ボクはセーラー服の袖を撫でた。
彼女はそのボクの仕草に、優しい声を掛けてくれた。
『ふふっ……5日間でどうしても嫌だったら、その子に気兼ねすることはないよ。
キミは死を選んでも、私がいるから。それに、その子もキミが苦しむことは、望んでないから』
「……うん。ありがとう」
『ぅ~、でもなんか妬けちゃうなぁ。一応私も、キミの家族なんだけどなぁ~』
その嫉妬心を表すかのように、目の前の触手は頭を垂れながらそっぽを向いた。
「……ぷっ。ふふふっ」
思わず笑いが溢れていた。
そんな風に自然と笑えたは何年ぶりだろうか、と思い出そうとしてボクはやめた。
だってボクはもう、生まれ変わったのだから。
『そう。キミはもう人間じゃない。私たち、エイリアンの家族』
「……うん。よろしく、ね」
『ふふっ、こちらこそ』
そしてボクの新たな生活が幕を開けた。
コメント
コメントの投稿
« (帰り道での遭遇) l ホーム l 魔界の種 »