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蛹1
帰りの満員電車ほど未央にとって苦痛なものはない。
陸上部が休みの日にはもう少し密度が減るが、一日も練習を欠かさない未央にとってそれは日課である。
わずかに体をよじる隙間もなくぎとついたオヤジの肌と数分間の密着を強いられるのは拷問と言って良かった。
背中まで伸ばしたストレートの髪が汗でうなじにベタつく。
キャンパスを出る前に結わえ直し忘れたのを後悔した。
未央は扉のそばに位置していた。扉の窓に向かい、明滅する街の灯りと、美人だが仏頂面、とよく言われる自分の顔が交互に映るのを眺めていた。
自分の顔は気に入らないわけではない。
切れ長の目と形の整った鼻筋は四年前に亡くなった父親譲りである。
未央には妹が一人がいるが、こちらは母親似で笑うと目がなくなる愛嬌のある顔つきだった。
もっぱら姉妹は似ていないという評判で、似ている所と言えば額が広いところぐらいか。
薄くはないがきりと結ばれた唇は意志の強さを感じさせ、未央としては顔の部分の中で一番気に入っていた。
多くの男子学生たちがこの口に一物を含まれる夢想で何度となく果てたことを未央は知らない。
幸いにして美人という風評を得ていた割には、大学生になった今でも「デビュー」していない。
それはどこかとっつきにくい印象を与えるこの顔によるところが大きいのだと未央は思い込んでいた。
窓の外が明るくなり、未央の顔もかき消された。駅に停車するのだ。この駅は人も降りるがそれ以上に乗り込んでくる、この45分間の拷問の中でも最大のヤマ場である。
電車が軋みながら止まり、扉が開く。未央は素早く降りて扉の左側へ。
列の先頭に並ぶ形となる。
ひとしきり人間が吐き出され、タイミングを見計らって再び乗り込んだ。
入り口付近で人々は軽くシャッフルされ、未央は結局元の扉の近くにいた。
しかし先ほどと違うのは、目の前にフィリピン系の女性が立っていることだ。
文字通り目の前、真正面。
普通なら満員電車独特の阿吽の呼吸により、立ち位置の角度とその視線が微妙にずらされた危うい均衡が保たれる。
しかし未央と彼女は完全に差し向かっていた。
ちょうど身長も160cmを越える程度、視線の高さも変わらない。
ソバージュがかった髪の向こうから黒目がちな瞳がこちらを見つめている。
恐らく自分よりも年上に見えたが、外国人の年齢はいまいちわかりにくい。
未央を見つめて彼女が微笑んだ。
扉が閉まるのと、視線を逸らした未央が無理やり窓側向きに体勢を変えたのは同時だった。すぐに電車が走り出す。
外の明かりで車内の様子が浮かんだり消えたりしている窓を見つめ、未央はほう、と息を吐いた。
いつから呼吸を止めていたのか気づかなかった。
と、明らかに甘い香りが鼻腔に押し入る。香水か、それにしてもどぎつく、どこか有機的な香りだった。
未央は軽く眉を寄せた。手を口元に添えたかったが身動きが取れない。やむなくまた呼吸だけを止めたところで、それは起きた。
するっ、と太腿に指が触れた。どきん、と心臓が跳ねる。
(うっ……そ)
何者かの指が太腿をゆっくりと上下に伝う。今まで痴漢に遭遇したことは何度かあるが、そのどれよりも繊細で、それだけで未央の背筋にまでぞくりと走るものがあった。
狼狽とともに、窓越しに車内に視線を巡らす。窓の中で、背後のフィリピン系の女があからさまに未央の視線に応えてにいと笑ったのが見えた。
(これって、レズ?)
つつ、と感触は登ってくる。紺色のフレアスカートの上から、柔らかな掌が未央の尻を揉みしだいた。
小さく快い波紋が尻肉に広がる。愕然と未央は窓に映った自分の背後に目をこらした。
女は恍惚とした表情を浮かべ、舌を出して自らの唇を舐める。
続いてはあと吐息をひとつ漏らすと、露骨に甘い香りの強さが増した。
薄々感づいてはいたが、やはり香りの元もこの女だ。
女のすべやかな褐色の肌が肩を露にした服の上でまぶしい。
首筋から鎖骨に流れる線が美しく、そこに金色の複雑な形をしたアクセサリが添えられていた。
大きく開いた胸元には豊かな胸がくっきりと線をつくり、その存在感を背中に感じられた。顎と頬は細めで、顔も小ぢんまりとしている。
そこに輝く大きな瞳は、多くの男を虜にして然るべき愛らしさを持っていた。
視線が合った。未央は思わず視線を逸らす。
そして再びそっと視線を女の顔に戻すと、にい、と白い歯を見せて彼女は笑った。
ち、ちいいと微かな音がした。
(それはいくらなんでもなしっ……)
スカートの左脇腹下にあったファスナーが開かれた。
信じられない、という表情で凍りついた未央をまったく無視して、容赦なく手が侵入して来た。
(やだやだ、ちょっと待っ)
相手の肘をつかもうとかろうじて後ろに回した手が、女のもう一方の手に捕らえられた。指をからめらとられる。
スカートの中に侵入した手が未央の秘所を探り当てた。
「ん」
喉の奥から声が漏れた。はっとなって未央はまた窓の反射を通して車内をうかがう。こちらを見ている者はいない。気づかれていない。
わずかな安堵とともに鋭いとももやもやともつかぬ、それらの入り混じった感覚が未央の秘所を襲う。
(うっ……これ)
未央には自慰の経験がなかった。知識として知ってはいたが、それについて級友と話し合うようなこともなかった。好奇心はなかったといえば嘘だが、たまたま実行に移すまでの興味をもつきっかけがなかったに過ぎない。
猛烈な違和感、羞恥心、罪悪感。さまざまな形の負の感情がその感覚を決して快感とはみなさない。
(や……だ)
女の指は白いパンティと薄い恥毛をかきわけて進み、ゆっくりと未央の形をなぞる。
不幸にして、生理は2週間前。
当てものがあればもう少しマシだったのに、いやそれ以前に珍しく色気を出してスカートなんてはいてこなければ。
間抜けな考えがちらちらと脳裏をよぎる。
指が埋もれた真珠を探り当てる。ぴいんと、背筋から頭のてっぺんまで刺激が走った。(嫌っ!)
反射的に身をよじって抵抗を試みる未央。その時タイミング悪くぐうんと列車が傾ぎ、人々の重みと背後の女の豊乳が窓に未央を押し付けた。
つぷり、と小陰唇を押し分け、女の指がわずかに侵入した。
(ひ)
その瞬間、突然生暖かいさらさらとした流体を感じ取る。未央はあまりの出来事に失禁したかと錯覚した。否。明らかに、女の指から何か液体が出されているのだ。
それまでの感覚から何か指に仕込んでいたようには思われなかったが、とにかく今未央の秘部に液体が触れている。
(嫌、嫌、嫌)
どんな汚いものか、どんな怪しい液体か。普段冷静な未央が、恐慌に陥る自分自身にすら気がつかない。
液体で潤わされたそこに、指が奥へ奥へと進んでいく。途端、じわあ、と熱い感覚が下腹部から広がりだした。
(う)
熱い。熾き火をそこに収めているかのように熱い。
(ああっ……)
心臓の鼓動がさらに早まっていく。意識が朦朧としていく。秘所の熱さだけに感覚が収束していく。
指が奥への侵入を止めた。処女壁に突き当たったのだ。
膣が急激に狭まっているそこを確かめるように指はくにくにとわずかに動いた。
未央のものではない謎の液体が膣から溢れ、下着を濡らし、つつと太ももを伝っていく。
己の純潔の瀬戸際に立たされているにもかかわらず、未央は危機感を持てない。
ただこの熱さと異物のはずの指に、意識は捕らえられていた。
(もしかして……気持ちいい?)
膣の入り口でまた液体の感覚を感じた。今度は体内で行われたため、さらに暖かい。
途端に一際熱さが増していく。
(ううっ)
未央は悟った。
(いい……んだ)
続く膨張感。入り口で、恐らく細めであったろう女の指が、ぐっと大きさを増したのだ。処女壁に加わる圧迫を感じ、はっとする未央。初めて、自分の操がどういうわけか危機にさらされていることに気づいた。
はっきり声に出して、嫌、と言いおうとしたその時、電車が減速する重力を感じた。電車が止まりかけていたことも気づかなかったのだ。
耳障りな空気の擦過音とともに電車の扉が開いた。
さっと股間から女の手が引き抜かれる。人間の圧力がどっと背後から押し寄せ、未央はよろよろと倒れかけた。
その肩を支えたのは女の手。
女に寄り添われながら、未央は人に押し流されるようにホームに降り立った。
そのままふらふらとホームの壁際まで連れ添われ、気がついた。
体に力が入らない。
自力では立っていることすらままならないのだ。
全身がひどい風邪にかかった時よりもだるく、重い。
「あ……」
愕然としながら女の顔を見る。女は、微笑んで言った。
「心配しないで」
自分がいつも降りる駅の一つ手前。その駅のすぐ裏手の小さな公園。
今どこにいて、自分がどうなっているのかはわかる。
しかし、体の自由は効かないしろれつもうまく回らない。
意識もはっきりしない。
何より、秘所から広がるどうしようもない火照りが、未央の冷静な思考を妨げていた。
電車内で遭遇した痴女は未央の隣に座り、そっと肩を抱いている。そちらを見るのが恐くて、呆然と未央は俯いていた。
「恐い?」
ぎくりとして未央は視線だけを女に向けた。
「だいじょうぶ。はじめだけだから」
「う、うう……」
いったい、なにが大丈夫なのだ。
抗議の声を上げたくてもうめき声にしかならない。
「よくしてあげる」
女はぐいっと未央の太股を開き、スカートをたくしあげてするりとその間に潜り込んだ。
驚く未央をよそに女の指は未央のパンティをぐいっと大きく右にずらした。
まだ誰にも、自分自身の指にさえほとんど蹂躙されていない秘所が露になった。
外気の冷たさが一瞬。次に猛烈な熱さがそこを襲った。
「ぅあ!」
反射で体がのけぞり、声があがる。女の舌が、容赦なくぺっとりと舐め上げたのだ。
ぺろり。
「っくぅ!」
ちろ、ちろちろ。
「いんっふ」
未央の体のまさしく「核」を、女の舌は捕らえていた。そこから走る激しく疾く甘い感覚が、未央の脳天まで通電して後頭部で火花を散らす。
ものの数秒で、未央は堕ちた。はっきりそれを快楽と感じ、受け入れ溺れる態勢が整ってしまった。
「いっ、いっ、いっ、いあああ~」
だらしなく口がいっぱいに開かれ、喉の奥から甘い声が引きずり出される。
ぼんやりと薄暗い公園の景色は未央の視界に入っていたが、認識されてはいない。
普段使われている脳細胞の多くが、この未知の感覚を急速に学習して伝達量を増していく。
「い、いい、いいいっいいいいっっっっ」
小刻みに上下左右を行き来する舌に、未央の秘唇はぷるぷると弾力をもって震えた。
「そこまでだッ!」
突如空気を震わす男声。
「そこまでだと言っている、ウロボロスの娘」
がば、と未央のスカートの中から女が顔を出す。その口には異様に太く長い舌がぶらさがっていた。
女の視線の先には、体格のいい短髪の男が両手に銃身の長い回転式拳銃を構えて立っていた。女の体が何か動きを見せようと微かに緊張を起こした、
どぐぉん。
その瞬間、発砲された。
女は真後ろに向かって頭から地面と平行にすっ飛んでいく。
未央も勢いで椅子から転げ落ちた。女の背中が接地し、長い跡を引いて止まった。
男は両手で硝煙のたなびく拳銃を構えたまま動かない。
女はゆっくりと上半身を起こした。
拳のように丸められた女の舌が、華麗に回転しながら伸ばされた。
そこから弾頭が回りながら落ちていき、ことんと地面で跳ねた。
男は動けない。
女の股間から伸びた細く鋭い触手が、地面に倒れた未央の首筋に触れるか触れぬかのところでぴたりと固定されている。
男は動けないのだ。
わざわざ警告の声を発してまで被害者から離したのに。あまりに超人的な反射速度に男は動揺を隠せない。
にやあ、と真っ赤な唇を歪めて女はわらった。
そして猛烈な速さで斜め後ろに跳躍した。
尋常でない高さまで、土煙と女の体がふわりと浮かぶ。
どごぅ、どごぉぅむ。
仰角に向けて二発、続けて放たれた弾丸が女のそばをかすめていく。
女は公衆便所の屋根に着地し、続けて跳んだ。
暗闇に女の姿がかき消されていった。
男は小さく舌打った。
追っても詮無きことだ。
拳銃を素早くベストの内側にしまうと、未央にかけよる。
未央は両手で顔を覆い、小さくうずくまって震えていた。
「もう大丈夫だ」
あえて男は未央に触れない。
かちかちかち、と微かに未央の歯が触れ合う音が聞こえた。
首筋に細い血の筋が今にも描かれようとしている。
恐怖。
羞恥。
混乱。
どす黒い激情の塊が未央のはらわたでとぐろを巻いて、心臓を締め上げる。
「大丈夫だ」
男は繰り返した。
「心配ない。大丈夫」
いったい、なにがダイジョウブなのだ。
未央は立ち上がると同時に駆け出した。男の手が未央の髪をかすめた。爆発的な未央の加速。400m走で50秒台前半を叩き出す引き締まった両脚が、ぐいぐいと未央をトップスピードに乗せていく。
「待てっ!」
未央は速かった。
「待ってくれっ! 俺たちは」
味方だ、と小さく男がつぶやいた頃には、未央は路地の暗がりで見えなくなった。
陸上部が休みの日にはもう少し密度が減るが、一日も練習を欠かさない未央にとってそれは日課である。
わずかに体をよじる隙間もなくぎとついたオヤジの肌と数分間の密着を強いられるのは拷問と言って良かった。
背中まで伸ばしたストレートの髪が汗でうなじにベタつく。
キャンパスを出る前に結わえ直し忘れたのを後悔した。
未央は扉のそばに位置していた。扉の窓に向かい、明滅する街の灯りと、美人だが仏頂面、とよく言われる自分の顔が交互に映るのを眺めていた。
自分の顔は気に入らないわけではない。
切れ長の目と形の整った鼻筋は四年前に亡くなった父親譲りである。
未央には妹が一人がいるが、こちらは母親似で笑うと目がなくなる愛嬌のある顔つきだった。
もっぱら姉妹は似ていないという評判で、似ている所と言えば額が広いところぐらいか。
薄くはないがきりと結ばれた唇は意志の強さを感じさせ、未央としては顔の部分の中で一番気に入っていた。
多くの男子学生たちがこの口に一物を含まれる夢想で何度となく果てたことを未央は知らない。
幸いにして美人という風評を得ていた割には、大学生になった今でも「デビュー」していない。
それはどこかとっつきにくい印象を与えるこの顔によるところが大きいのだと未央は思い込んでいた。
窓の外が明るくなり、未央の顔もかき消された。駅に停車するのだ。この駅は人も降りるがそれ以上に乗り込んでくる、この45分間の拷問の中でも最大のヤマ場である。
電車が軋みながら止まり、扉が開く。未央は素早く降りて扉の左側へ。
列の先頭に並ぶ形となる。
ひとしきり人間が吐き出され、タイミングを見計らって再び乗り込んだ。
入り口付近で人々は軽くシャッフルされ、未央は結局元の扉の近くにいた。
しかし先ほどと違うのは、目の前にフィリピン系の女性が立っていることだ。
文字通り目の前、真正面。
普通なら満員電車独特の阿吽の呼吸により、立ち位置の角度とその視線が微妙にずらされた危うい均衡が保たれる。
しかし未央と彼女は完全に差し向かっていた。
ちょうど身長も160cmを越える程度、視線の高さも変わらない。
ソバージュがかった髪の向こうから黒目がちな瞳がこちらを見つめている。
恐らく自分よりも年上に見えたが、外国人の年齢はいまいちわかりにくい。
未央を見つめて彼女が微笑んだ。
扉が閉まるのと、視線を逸らした未央が無理やり窓側向きに体勢を変えたのは同時だった。すぐに電車が走り出す。
外の明かりで車内の様子が浮かんだり消えたりしている窓を見つめ、未央はほう、と息を吐いた。
いつから呼吸を止めていたのか気づかなかった。
と、明らかに甘い香りが鼻腔に押し入る。香水か、それにしてもどぎつく、どこか有機的な香りだった。
未央は軽く眉を寄せた。手を口元に添えたかったが身動きが取れない。やむなくまた呼吸だけを止めたところで、それは起きた。
するっ、と太腿に指が触れた。どきん、と心臓が跳ねる。
(うっ……そ)
何者かの指が太腿をゆっくりと上下に伝う。今まで痴漢に遭遇したことは何度かあるが、そのどれよりも繊細で、それだけで未央の背筋にまでぞくりと走るものがあった。
狼狽とともに、窓越しに車内に視線を巡らす。窓の中で、背後のフィリピン系の女があからさまに未央の視線に応えてにいと笑ったのが見えた。
(これって、レズ?)
つつ、と感触は登ってくる。紺色のフレアスカートの上から、柔らかな掌が未央の尻を揉みしだいた。
小さく快い波紋が尻肉に広がる。愕然と未央は窓に映った自分の背後に目をこらした。
女は恍惚とした表情を浮かべ、舌を出して自らの唇を舐める。
続いてはあと吐息をひとつ漏らすと、露骨に甘い香りの強さが増した。
薄々感づいてはいたが、やはり香りの元もこの女だ。
女のすべやかな褐色の肌が肩を露にした服の上でまぶしい。
首筋から鎖骨に流れる線が美しく、そこに金色の複雑な形をしたアクセサリが添えられていた。
大きく開いた胸元には豊かな胸がくっきりと線をつくり、その存在感を背中に感じられた。顎と頬は細めで、顔も小ぢんまりとしている。
そこに輝く大きな瞳は、多くの男を虜にして然るべき愛らしさを持っていた。
視線が合った。未央は思わず視線を逸らす。
そして再びそっと視線を女の顔に戻すと、にい、と白い歯を見せて彼女は笑った。
ち、ちいいと微かな音がした。
(それはいくらなんでもなしっ……)
スカートの左脇腹下にあったファスナーが開かれた。
信じられない、という表情で凍りついた未央をまったく無視して、容赦なく手が侵入して来た。
(やだやだ、ちょっと待っ)
相手の肘をつかもうとかろうじて後ろに回した手が、女のもう一方の手に捕らえられた。指をからめらとられる。
スカートの中に侵入した手が未央の秘所を探り当てた。
「ん」
喉の奥から声が漏れた。はっとなって未央はまた窓の反射を通して車内をうかがう。こちらを見ている者はいない。気づかれていない。
わずかな安堵とともに鋭いとももやもやともつかぬ、それらの入り混じった感覚が未央の秘所を襲う。
(うっ……これ)
未央には自慰の経験がなかった。知識として知ってはいたが、それについて級友と話し合うようなこともなかった。好奇心はなかったといえば嘘だが、たまたま実行に移すまでの興味をもつきっかけがなかったに過ぎない。
猛烈な違和感、羞恥心、罪悪感。さまざまな形の負の感情がその感覚を決して快感とはみなさない。
(や……だ)
女の指は白いパンティと薄い恥毛をかきわけて進み、ゆっくりと未央の形をなぞる。
不幸にして、生理は2週間前。
当てものがあればもう少しマシだったのに、いやそれ以前に珍しく色気を出してスカートなんてはいてこなければ。
間抜けな考えがちらちらと脳裏をよぎる。
指が埋もれた真珠を探り当てる。ぴいんと、背筋から頭のてっぺんまで刺激が走った。(嫌っ!)
反射的に身をよじって抵抗を試みる未央。その時タイミング悪くぐうんと列車が傾ぎ、人々の重みと背後の女の豊乳が窓に未央を押し付けた。
つぷり、と小陰唇を押し分け、女の指がわずかに侵入した。
(ひ)
その瞬間、突然生暖かいさらさらとした流体を感じ取る。未央はあまりの出来事に失禁したかと錯覚した。否。明らかに、女の指から何か液体が出されているのだ。
それまでの感覚から何か指に仕込んでいたようには思われなかったが、とにかく今未央の秘部に液体が触れている。
(嫌、嫌、嫌)
どんな汚いものか、どんな怪しい液体か。普段冷静な未央が、恐慌に陥る自分自身にすら気がつかない。
液体で潤わされたそこに、指が奥へ奥へと進んでいく。途端、じわあ、と熱い感覚が下腹部から広がりだした。
(う)
熱い。熾き火をそこに収めているかのように熱い。
(ああっ……)
心臓の鼓動がさらに早まっていく。意識が朦朧としていく。秘所の熱さだけに感覚が収束していく。
指が奥への侵入を止めた。処女壁に突き当たったのだ。
膣が急激に狭まっているそこを確かめるように指はくにくにとわずかに動いた。
未央のものではない謎の液体が膣から溢れ、下着を濡らし、つつと太ももを伝っていく。
己の純潔の瀬戸際に立たされているにもかかわらず、未央は危機感を持てない。
ただこの熱さと異物のはずの指に、意識は捕らえられていた。
(もしかして……気持ちいい?)
膣の入り口でまた液体の感覚を感じた。今度は体内で行われたため、さらに暖かい。
途端に一際熱さが増していく。
(ううっ)
未央は悟った。
(いい……んだ)
続く膨張感。入り口で、恐らく細めであったろう女の指が、ぐっと大きさを増したのだ。処女壁に加わる圧迫を感じ、はっとする未央。初めて、自分の操がどういうわけか危機にさらされていることに気づいた。
はっきり声に出して、嫌、と言いおうとしたその時、電車が減速する重力を感じた。電車が止まりかけていたことも気づかなかったのだ。
耳障りな空気の擦過音とともに電車の扉が開いた。
さっと股間から女の手が引き抜かれる。人間の圧力がどっと背後から押し寄せ、未央はよろよろと倒れかけた。
その肩を支えたのは女の手。
女に寄り添われながら、未央は人に押し流されるようにホームに降り立った。
そのままふらふらとホームの壁際まで連れ添われ、気がついた。
体に力が入らない。
自力では立っていることすらままならないのだ。
全身がひどい風邪にかかった時よりもだるく、重い。
「あ……」
愕然としながら女の顔を見る。女は、微笑んで言った。
「心配しないで」
自分がいつも降りる駅の一つ手前。その駅のすぐ裏手の小さな公園。
今どこにいて、自分がどうなっているのかはわかる。
しかし、体の自由は効かないしろれつもうまく回らない。
意識もはっきりしない。
何より、秘所から広がるどうしようもない火照りが、未央の冷静な思考を妨げていた。
電車内で遭遇した痴女は未央の隣に座り、そっと肩を抱いている。そちらを見るのが恐くて、呆然と未央は俯いていた。
「恐い?」
ぎくりとして未央は視線だけを女に向けた。
「だいじょうぶ。はじめだけだから」
「う、うう……」
いったい、なにが大丈夫なのだ。
抗議の声を上げたくてもうめき声にしかならない。
「よくしてあげる」
女はぐいっと未央の太股を開き、スカートをたくしあげてするりとその間に潜り込んだ。
驚く未央をよそに女の指は未央のパンティをぐいっと大きく右にずらした。
まだ誰にも、自分自身の指にさえほとんど蹂躙されていない秘所が露になった。
外気の冷たさが一瞬。次に猛烈な熱さがそこを襲った。
「ぅあ!」
反射で体がのけぞり、声があがる。女の舌が、容赦なくぺっとりと舐め上げたのだ。
ぺろり。
「っくぅ!」
ちろ、ちろちろ。
「いんっふ」
未央の体のまさしく「核」を、女の舌は捕らえていた。そこから走る激しく疾く甘い感覚が、未央の脳天まで通電して後頭部で火花を散らす。
ものの数秒で、未央は堕ちた。はっきりそれを快楽と感じ、受け入れ溺れる態勢が整ってしまった。
「いっ、いっ、いっ、いあああ~」
だらしなく口がいっぱいに開かれ、喉の奥から甘い声が引きずり出される。
ぼんやりと薄暗い公園の景色は未央の視界に入っていたが、認識されてはいない。
普段使われている脳細胞の多くが、この未知の感覚を急速に学習して伝達量を増していく。
「い、いい、いいいっいいいいっっっっ」
小刻みに上下左右を行き来する舌に、未央の秘唇はぷるぷると弾力をもって震えた。
「そこまでだッ!」
突如空気を震わす男声。
「そこまでだと言っている、ウロボロスの娘」
がば、と未央のスカートの中から女が顔を出す。その口には異様に太く長い舌がぶらさがっていた。
女の視線の先には、体格のいい短髪の男が両手に銃身の長い回転式拳銃を構えて立っていた。女の体が何か動きを見せようと微かに緊張を起こした、
どぐぉん。
その瞬間、発砲された。
女は真後ろに向かって頭から地面と平行にすっ飛んでいく。
未央も勢いで椅子から転げ落ちた。女の背中が接地し、長い跡を引いて止まった。
男は両手で硝煙のたなびく拳銃を構えたまま動かない。
女はゆっくりと上半身を起こした。
拳のように丸められた女の舌が、華麗に回転しながら伸ばされた。
そこから弾頭が回りながら落ちていき、ことんと地面で跳ねた。
男は動けない。
女の股間から伸びた細く鋭い触手が、地面に倒れた未央の首筋に触れるか触れぬかのところでぴたりと固定されている。
男は動けないのだ。
わざわざ警告の声を発してまで被害者から離したのに。あまりに超人的な反射速度に男は動揺を隠せない。
にやあ、と真っ赤な唇を歪めて女はわらった。
そして猛烈な速さで斜め後ろに跳躍した。
尋常でない高さまで、土煙と女の体がふわりと浮かぶ。
どごぅ、どごぉぅむ。
仰角に向けて二発、続けて放たれた弾丸が女のそばをかすめていく。
女は公衆便所の屋根に着地し、続けて跳んだ。
暗闇に女の姿がかき消されていった。
男は小さく舌打った。
追っても詮無きことだ。
拳銃を素早くベストの内側にしまうと、未央にかけよる。
未央は両手で顔を覆い、小さくうずくまって震えていた。
「もう大丈夫だ」
あえて男は未央に触れない。
かちかちかち、と微かに未央の歯が触れ合う音が聞こえた。
首筋に細い血の筋が今にも描かれようとしている。
恐怖。
羞恥。
混乱。
どす黒い激情の塊が未央のはらわたでとぐろを巻いて、心臓を締め上げる。
「大丈夫だ」
男は繰り返した。
「心配ない。大丈夫」
いったい、なにがダイジョウブなのだ。
未央は立ち上がると同時に駆け出した。男の手が未央の髪をかすめた。爆発的な未央の加速。400m走で50秒台前半を叩き出す引き締まった両脚が、ぐいぐいと未央をトップスピードに乗せていく。
「待てっ!」
未央は速かった。
「待ってくれっ! 俺たちは」
味方だ、と小さく男がつぶやいた頃には、未央は路地の暗がりで見えなくなった。
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