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繭5
恵美子の誘いに乗るも乗らずもない。愛理の両足を固定していた十重二十重の触手がいそいそと肉卵に向かった。
愛理はだらしなく開けた唇に微かな期待を浮かべ、その様を見下ろしている。つま先が、ぷるぷるとした肉片の野原に埋もれる。柔らかくぬめる肉とも、どろりと澱んだ液体ともつかぬ感触の先に足の感覚は融ける。融けて、人外の快感がうねりさざめく。
「くぅんわぁあぁぁっ」
両足という新たな快楽の通路が開かれた。そしてずぶずぶとくるぶしからふくらはぎへと進むに連れて、狂喜の通路が途方もなく広がっていく。既に飲み込まれた両腕と呼応して、愛理の身体を莫大な快感が暴れ狂いながら堂々と往来する。その快感もちらと愛理が求めるだけで、十分過ぎるほど増幅された。
「い、い、か、は、あっ」
太腿の中ほどまで行くと、愛理の四肢は肉卵にずっぽりと飲み込まれた形となった。首をがっくりと後ろに折り、唇を小刻みに震わせながら白目を剥いた。
とめどない至悦の猛火の中に、両腕両足を投げ出した愛理の意識はもはや「白」。存在はしているが、真っ白な閃光に隅々まで埋め尽くされていた。
その真っ白な空間に、愛理の声だけが小さく震える。
「どうして………こんなに……いいの………気持いい、広がってく………」
あたかも悦楽が愛理の意識の境界を曖昧にし、肉体の枠をはみ出て拡大していくかのような感覚。
ゆるゆると、快楽のうねりのなかから答えめいた言葉が浮かび上がる。
「いいから、いいんだ……気持いいから……気持いいの………」
やがてはっきりと知覚していく。
「気持い……いい……いいの、いいよ、ほら……いいでしょ……」
快楽から言葉を受け取り言葉が快楽を増してまた反芻して満ち干いて螺旋を描く。
「わかる……何これ……そうだよ………これ……だから……」
「融けてる……融けたいもっと……ほら融けて……」
ふと違和感を感じた。意識の中に響く声が、微妙にオクターヴがずれたコーラスのように聞こえている。
愛理の感覚の向こうに、巨大な肉塊そのものの存在が視えた。微かに膨張と収縮を繰り返す肉卵の息遣い、無数の触手の蠢き、そこから思い出したような白濁液の噴出。
知覚しようと思えばどこまでも知覚できた。
肉卵に半ば咥えられた愛理の肉体、その指先にまで充満する快楽、それを与え貪り続けるのは自分。
「気持いい……でしょ……ほら、ずっとずぅっと……続いて……」
ぱくぱくと喘ぎながら、自分で自分に言葉を投げかけるのは愛理。
「もっと……求められる……欲しいだけあげる………欲しいだけ感じたい……」
視覚がゆっくりと蘇る。すぐ目の前に、自分が見えた。
仮に幽体離脱というものがあるならこれだろう。たとえば海で溺れかけた時に自分を外から見つめたらこう見えるのだろうと思えた。ただし溺れているのはうねり狂う触手と快楽の海だ。
ぐるりと白目を剥き、口元に狂った笑みを凍りつかせ、粘液だらけの額に照明の輝きが返る。その唇がぱくぱくと動き、愛理自身の意識の中でも響いた。
「ひとつになろう」
猛烈な違和感を感じた。
ひとつ? もうなってるじゃん。気持いい。気持良くなれる。気持良くできる。
あたし、気持いい……あなたを、ほら、すごく……あたし?
唐突に気づいた。
脳裏に自分以外のものがいたことに、いや正確には自分と、恵美子と、美樹と未央が混ざり合っていたことに。
「いやぁっ!」
自分が自分でなくなる。根源的な恐怖とともに、愛理の知覚は自らの肉体に急速に収まった。拡大されていた知覚の枠がまた愛理という小さな肉の器に戻ったことで、猛烈な快楽の渦が愛理の感覚に溢れて気を失いそうになる。
「ぐぁっはぁああぁうぅわぁあああ」
「やっぱり」
触手の野原の中に咲く花のように色白な顔が、声を発した。その顔は美恵子とも美樹とも、未央ともつかなかった。
「身内じゃないと自然には来れないのかしらね……そうかも……こんなに、いいのに」
まったく無表情で、誰へともないつぶやきを口にする。
「ひぐっ、う、うぁは、あはぁあぁう」
愛理は悶え続けている。
「もっと時間をかけないと……そうね……包んでじっくり、愛してあげれば……多分、そう、わかってくれる彼女なら……」
「いひぃあん、ああっうはうわぁ」
「じゃあ……」
めりめりぶちぶち、という肉を引き裂くような音とともに、肉卵が開き出した。ぬちっ、ぬちっという音がするたびにゆっくりとそれは縦に真二つに開いていき、盛大に粘液をこぼしながら、鮮やかな肉卵の内部を披露した。
色鮮やかな珊瑚と磯巾着の水槽のようだった。ただしそれは空気中なのにゆらゆらと手招きをするようにたなびいていた。柔らかそうな不規則な襞と突起で覆われた触手が一面の野原をなし、それが生えていないところには人間の肛門にも似た大小の吸盤が見え隠れした。触手と同じ数ほどあると思われるふっくらと豊かな乳房に似た突起が、その上に白濁液の雨を断続的に降らせている。ところどころ、唇ほどの大きさの裂け目からも同じに見える液がよだれのように流れていた。
「いや、いやぁいやあうんいっくふいやぁあああ」
愛理は猛烈な快楽の嵐に襲われながら、必死に自分の肉体を認識することで守ろうとしていた。しかし肉体を知覚しようとすればするほど快楽をも認識してしまう。自分を確かめようとすれば快楽を確かにし、快楽を拒もうとすれば自分の境界線が曖昧になる恐怖に駆られる。
愛理は頭をぶんぶんと振って泣いた。
「いや! いやなのぉ! 気持いいのぉ! だめなのぉ! いやぁあぁ!」
どこからともなく声が響く。
「ねえ愛理ちゃん、おいで……もう今更逃げられないんだから……」
触手が、容赦なく愛理を肉卵の中へ運び込んでいく。
「いやいやっ、そんなの、そんなとこ、うはぁあう、いれられた、らやぁああっ、だめ、だめにぃぃいいいぃ、ぐぅううんはぅ」
ぬちゃ、と肉卵の中の触手が愛理を捕らえた。ざわざわと愛理の肉体に巻きついて埋め尽くしていく。
視界が暗くなっていく。肉卵が閉じているのだ。
「いやぁぁぁああああっぁあぁあああ」
心地よいぬめった圧迫感とともに、愛理の視界から光が消えた。
液まみれの唇にぬるりと触手が割り込んだ。その先が二つに割れ、食道と気道をそれぞれ突き進む。呼吸を妨げられ、愛理は涙を流しながら喘ぐ。
「うむぅっぐぇうっうんん」
胃の辺りがかっと熱くなる。例の液を吐き出され、一瞬気が遠くなる。胸の奥にはもっとじんわりと熱いものと痛みが襲った。
「んぐーーーーっ、んんんーーー、ぐむんんーーーー」」
そして徐々に、呼吸が苦しくなくなった。
「ん……んふ……ふぅ……」
わずかに愛理に落ち着きを与えるかのように全ての動きが緩んだあと、一斉攻撃が始まった。
乳房を強く柔らかく優しく揉みしだく触手のうちのひとつが、乳首を包んだ。その中で、極細の繊毛が乳首の先に当たる。鋭い痛みと猛烈な熱感とともに、それはためらいもなく深々と乳首に侵入していった。
「んっ! んぐぅっうううぃううううぅぅ」
暴力的な快感が乳房に充満した。触手に含み舐められていた時の感覚とはその質も量も比べ物にならない。実際にそうなのかも知れなかったが、快楽そのものといった液体が蛇口全開で流入するようだった。
「ひむぅ、ひむぅうううぅうううぅん」
愛理のふくよかな乳房にくまなく張り巡らされた乳腺の隅々まで、繊毛が行き渡って蠢いた。これだけで発狂できるほどの快楽が嫌も応もなく押し付けられる。
秘裂と肛門から深く愛理の肉体を支配していた触手が、中で猛然と液体を噴出しはじめた。縦横無尽に愛理の中で蠢くそれが、例の白濁液であろうものを吐き出しながら動き続ける。触手の動きとその放出のリズムには何の関係性もない。ただ垂れ流しながら、膣と直腸の襞を絡め擦りながら引いては曲がりまた突進する。
「うぐん! うぐぅおぉぅううん! むぁ、うわぁあああん!」
愛理のクリトリスにしゃぶりついて放さなかった細い触手も、てろてろと液をこぼす。口腔、胸、秘所と後ろ、それらの箇所で快楽が炸裂し続け、どこがどう気持ちいいのかという認識すら曖昧になっているはずなのに、そこから深く鋭い快感が尾てい骨まで突き抜けるのがわかった。
「いひぃ、いひぃのぉぉおんんあああっく、いひぃいいいいぃ」
円形の巨大な肛門に似た器官が、ちょうど愛理のお尻を包んで震える。柔らかく深い襞が白い肌に密着して小さく波打つ。背中、腋の下、臍、太もも、膝の裏、愛理の肉体のすべての場所に肉卵の中の何かが触れている。それらは派手な動きを見せず、ただ愛理をやさしく包み撫でているようだった。
「ふぅう、うううううんぅうううう」
両方の肩甲骨の辺りと踝ににまるで人間の乳房のような器官が当たっている。愛理が少しみじろぎをするたびに、ぶぴゅっと音を立てて液を流した。さらに肉卵の内側に数多あるぽってりした唇のうちのいくつかが、愛理の広げられた小陰唇にディープキスを加える。恵美子のそれと同じように熱く、やさしく、深かった。
愛理の中ではこれまでに経験したどんなものよりも激しい感覚が吹き荒れる。自我はすでに純白のまぶしい快楽に埋め尽くされていた。
(いい! いい! 気持ちいい! いい! いく! いってる! いい、気持ちいい! いい!)
「このまま」
肉卵の中ではっきりと声が通った。
「融かしちゃえば」
「たぶん」
つるりと両耳の中に触手が潜り込む。それらは激しく抽送したりはせず、ただ愛理の中の空白を埋めた。さらに別のものが鼻の穴へと滑り込み、喉から気管を埋める触手と融合した。
愛理を包む襞が愛理の体に合わせるようにむにむにと形を変えていく。手指の形をなし、腰を包み、肩に押し付け、両のふくらはぎを圧迫し、ぴったりと愛理の体に吸い付いていく。髪の毛までも一本一本、選り分けるように襞がかたどっていく。もはや愛理と肉卵の間に一片の隙間もない。
「せえので」
「いっぺんに」
「おいで」
「融けて」
「来て」
(いい! いいい! 気持ちいい! いいっ! いい、いい、いいぃ)
「ひとつになろう」
肉卵のすべての動きが加速した。加速すると共に動きは小刻みになっていく。二次曲線的に動きは小さく、速くなっていき、肉卵全体がぶぅんと振動していった。
(いいい! 何これ! いく、あたしいく! すごいの! いく!)
むくむくと愛理の中で強烈な不安感と焦燥感が高まっていく。これまでの肉体的な絶頂とは比較にならない。普段見ることのできる快楽の頂の向こうに、超えてはならない絶壁が見える。そしてそれがわざわざむこうから愛理に向かって、迫ってくる。それは死の瞬間と等しかったが、愛理にはもうわからない。
我思う故にある「我」の最期。
(あたし! あそこ! あそこにいく! すごいの! いく、いく、いくいくいくいくいいいいいい)
振動が極まる。肉卵の内部にあるあらゆる器官から、白濁液がいっぺんに噴出された。
(いいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃっっっっーーーーーーー)
内部は白濁液で満たされ、肉卵自体が膨れ上がった。ぶぴゅっ、ぶぴゅっと表面からも溢れ出た。
愛理は絶壁から投げ捨てられた。あまりに急速な浮遊感とともに、自分の境界線を失っていくのを感じた。
しかし恐怖や不安はなく、安らいでいた。愛理は開放され、希釈されていく。
「神田愛理」はいなくなっていた。
東の空がうっすらと明るくなっていた。路地に小鳥が降り立ち、またすぐに飛び立っていった。微かな光の粒子を受けて、氷上家の窓枠がぼんやりと形を得た。わずかに開いた窓の向こうに、カーテンか何か、影がゆらめいた。
自転車のリムが回転する摩擦音が朝の静寂を破る。今時新聞配達を懸命に続ける男子中学生が、神田家のポストに朝刊を2つ突っ込んだ。
わずかに眉をひそめる。
(甘い……。なんだろ?)
あらためて意識して嗅ぐと、甘ったるい匂いが不快ではない。
(そういや昨日も……)
はたと思い当たる。その視線の先には、何か影がゆらめく氷上家の窓があった。
-了-
愛理はだらしなく開けた唇に微かな期待を浮かべ、その様を見下ろしている。つま先が、ぷるぷるとした肉片の野原に埋もれる。柔らかくぬめる肉とも、どろりと澱んだ液体ともつかぬ感触の先に足の感覚は融ける。融けて、人外の快感がうねりさざめく。
「くぅんわぁあぁぁっ」
両足という新たな快楽の通路が開かれた。そしてずぶずぶとくるぶしからふくらはぎへと進むに連れて、狂喜の通路が途方もなく広がっていく。既に飲み込まれた両腕と呼応して、愛理の身体を莫大な快感が暴れ狂いながら堂々と往来する。その快感もちらと愛理が求めるだけで、十分過ぎるほど増幅された。
「い、い、か、は、あっ」
太腿の中ほどまで行くと、愛理の四肢は肉卵にずっぽりと飲み込まれた形となった。首をがっくりと後ろに折り、唇を小刻みに震わせながら白目を剥いた。
とめどない至悦の猛火の中に、両腕両足を投げ出した愛理の意識はもはや「白」。存在はしているが、真っ白な閃光に隅々まで埋め尽くされていた。
その真っ白な空間に、愛理の声だけが小さく震える。
「どうして………こんなに……いいの………気持いい、広がってく………」
あたかも悦楽が愛理の意識の境界を曖昧にし、肉体の枠をはみ出て拡大していくかのような感覚。
ゆるゆると、快楽のうねりのなかから答えめいた言葉が浮かび上がる。
「いいから、いいんだ……気持いいから……気持いいの………」
やがてはっきりと知覚していく。
「気持い……いい……いいの、いいよ、ほら……いいでしょ……」
快楽から言葉を受け取り言葉が快楽を増してまた反芻して満ち干いて螺旋を描く。
「わかる……何これ……そうだよ………これ……だから……」
「融けてる……融けたいもっと……ほら融けて……」
ふと違和感を感じた。意識の中に響く声が、微妙にオクターヴがずれたコーラスのように聞こえている。
愛理の感覚の向こうに、巨大な肉塊そのものの存在が視えた。微かに膨張と収縮を繰り返す肉卵の息遣い、無数の触手の蠢き、そこから思い出したような白濁液の噴出。
知覚しようと思えばどこまでも知覚できた。
肉卵に半ば咥えられた愛理の肉体、その指先にまで充満する快楽、それを与え貪り続けるのは自分。
「気持いい……でしょ……ほら、ずっとずぅっと……続いて……」
ぱくぱくと喘ぎながら、自分で自分に言葉を投げかけるのは愛理。
「もっと……求められる……欲しいだけあげる………欲しいだけ感じたい……」
視覚がゆっくりと蘇る。すぐ目の前に、自分が見えた。
仮に幽体離脱というものがあるならこれだろう。たとえば海で溺れかけた時に自分を外から見つめたらこう見えるのだろうと思えた。ただし溺れているのはうねり狂う触手と快楽の海だ。
ぐるりと白目を剥き、口元に狂った笑みを凍りつかせ、粘液だらけの額に照明の輝きが返る。その唇がぱくぱくと動き、愛理自身の意識の中でも響いた。
「ひとつになろう」
猛烈な違和感を感じた。
ひとつ? もうなってるじゃん。気持いい。気持良くなれる。気持良くできる。
あたし、気持いい……あなたを、ほら、すごく……あたし?
唐突に気づいた。
脳裏に自分以外のものがいたことに、いや正確には自分と、恵美子と、美樹と未央が混ざり合っていたことに。
「いやぁっ!」
自分が自分でなくなる。根源的な恐怖とともに、愛理の知覚は自らの肉体に急速に収まった。拡大されていた知覚の枠がまた愛理という小さな肉の器に戻ったことで、猛烈な快楽の渦が愛理の感覚に溢れて気を失いそうになる。
「ぐぁっはぁああぁうぅわぁあああ」
「やっぱり」
触手の野原の中に咲く花のように色白な顔が、声を発した。その顔は美恵子とも美樹とも、未央ともつかなかった。
「身内じゃないと自然には来れないのかしらね……そうかも……こんなに、いいのに」
まったく無表情で、誰へともないつぶやきを口にする。
「ひぐっ、う、うぁは、あはぁあぁう」
愛理は悶え続けている。
「もっと時間をかけないと……そうね……包んでじっくり、愛してあげれば……多分、そう、わかってくれる彼女なら……」
「いひぃあん、ああっうはうわぁ」
「じゃあ……」
めりめりぶちぶち、という肉を引き裂くような音とともに、肉卵が開き出した。ぬちっ、ぬちっという音がするたびにゆっくりとそれは縦に真二つに開いていき、盛大に粘液をこぼしながら、鮮やかな肉卵の内部を披露した。
色鮮やかな珊瑚と磯巾着の水槽のようだった。ただしそれは空気中なのにゆらゆらと手招きをするようにたなびいていた。柔らかそうな不規則な襞と突起で覆われた触手が一面の野原をなし、それが生えていないところには人間の肛門にも似た大小の吸盤が見え隠れした。触手と同じ数ほどあると思われるふっくらと豊かな乳房に似た突起が、その上に白濁液の雨を断続的に降らせている。ところどころ、唇ほどの大きさの裂け目からも同じに見える液がよだれのように流れていた。
「いや、いやぁいやあうんいっくふいやぁあああ」
愛理は猛烈な快楽の嵐に襲われながら、必死に自分の肉体を認識することで守ろうとしていた。しかし肉体を知覚しようとすればするほど快楽をも認識してしまう。自分を確かめようとすれば快楽を確かにし、快楽を拒もうとすれば自分の境界線が曖昧になる恐怖に駆られる。
愛理は頭をぶんぶんと振って泣いた。
「いや! いやなのぉ! 気持いいのぉ! だめなのぉ! いやぁあぁ!」
どこからともなく声が響く。
「ねえ愛理ちゃん、おいで……もう今更逃げられないんだから……」
触手が、容赦なく愛理を肉卵の中へ運び込んでいく。
「いやいやっ、そんなの、そんなとこ、うはぁあう、いれられた、らやぁああっ、だめ、だめにぃぃいいいぃ、ぐぅううんはぅ」
ぬちゃ、と肉卵の中の触手が愛理を捕らえた。ざわざわと愛理の肉体に巻きついて埋め尽くしていく。
視界が暗くなっていく。肉卵が閉じているのだ。
「いやぁぁぁああああっぁあぁあああ」
心地よいぬめった圧迫感とともに、愛理の視界から光が消えた。
液まみれの唇にぬるりと触手が割り込んだ。その先が二つに割れ、食道と気道をそれぞれ突き進む。呼吸を妨げられ、愛理は涙を流しながら喘ぐ。
「うむぅっぐぇうっうんん」
胃の辺りがかっと熱くなる。例の液を吐き出され、一瞬気が遠くなる。胸の奥にはもっとじんわりと熱いものと痛みが襲った。
「んぐーーーーっ、んんんーーー、ぐむんんーーーー」」
そして徐々に、呼吸が苦しくなくなった。
「ん……んふ……ふぅ……」
わずかに愛理に落ち着きを与えるかのように全ての動きが緩んだあと、一斉攻撃が始まった。
乳房を強く柔らかく優しく揉みしだく触手のうちのひとつが、乳首を包んだ。その中で、極細の繊毛が乳首の先に当たる。鋭い痛みと猛烈な熱感とともに、それはためらいもなく深々と乳首に侵入していった。
「んっ! んぐぅっうううぃううううぅぅ」
暴力的な快感が乳房に充満した。触手に含み舐められていた時の感覚とはその質も量も比べ物にならない。実際にそうなのかも知れなかったが、快楽そのものといった液体が蛇口全開で流入するようだった。
「ひむぅ、ひむぅうううぅうううぅん」
愛理のふくよかな乳房にくまなく張り巡らされた乳腺の隅々まで、繊毛が行き渡って蠢いた。これだけで発狂できるほどの快楽が嫌も応もなく押し付けられる。
秘裂と肛門から深く愛理の肉体を支配していた触手が、中で猛然と液体を噴出しはじめた。縦横無尽に愛理の中で蠢くそれが、例の白濁液であろうものを吐き出しながら動き続ける。触手の動きとその放出のリズムには何の関係性もない。ただ垂れ流しながら、膣と直腸の襞を絡め擦りながら引いては曲がりまた突進する。
「うぐん! うぐぅおぉぅううん! むぁ、うわぁあああん!」
愛理のクリトリスにしゃぶりついて放さなかった細い触手も、てろてろと液をこぼす。口腔、胸、秘所と後ろ、それらの箇所で快楽が炸裂し続け、どこがどう気持ちいいのかという認識すら曖昧になっているはずなのに、そこから深く鋭い快感が尾てい骨まで突き抜けるのがわかった。
「いひぃ、いひぃのぉぉおんんあああっく、いひぃいいいいぃ」
円形の巨大な肛門に似た器官が、ちょうど愛理のお尻を包んで震える。柔らかく深い襞が白い肌に密着して小さく波打つ。背中、腋の下、臍、太もも、膝の裏、愛理の肉体のすべての場所に肉卵の中の何かが触れている。それらは派手な動きを見せず、ただ愛理をやさしく包み撫でているようだった。
「ふぅう、うううううんぅうううう」
両方の肩甲骨の辺りと踝ににまるで人間の乳房のような器官が当たっている。愛理が少しみじろぎをするたびに、ぶぴゅっと音を立てて液を流した。さらに肉卵の内側に数多あるぽってりした唇のうちのいくつかが、愛理の広げられた小陰唇にディープキスを加える。恵美子のそれと同じように熱く、やさしく、深かった。
愛理の中ではこれまでに経験したどんなものよりも激しい感覚が吹き荒れる。自我はすでに純白のまぶしい快楽に埋め尽くされていた。
(いい! いい! 気持ちいい! いい! いく! いってる! いい、気持ちいい! いい!)
「このまま」
肉卵の中ではっきりと声が通った。
「融かしちゃえば」
「たぶん」
つるりと両耳の中に触手が潜り込む。それらは激しく抽送したりはせず、ただ愛理の中の空白を埋めた。さらに別のものが鼻の穴へと滑り込み、喉から気管を埋める触手と融合した。
愛理を包む襞が愛理の体に合わせるようにむにむにと形を変えていく。手指の形をなし、腰を包み、肩に押し付け、両のふくらはぎを圧迫し、ぴったりと愛理の体に吸い付いていく。髪の毛までも一本一本、選り分けるように襞がかたどっていく。もはや愛理と肉卵の間に一片の隙間もない。
「せえので」
「いっぺんに」
「おいで」
「融けて」
「来て」
(いい! いいい! 気持ちいい! いいっ! いい、いい、いいぃ)
「ひとつになろう」
肉卵のすべての動きが加速した。加速すると共に動きは小刻みになっていく。二次曲線的に動きは小さく、速くなっていき、肉卵全体がぶぅんと振動していった。
(いいい! 何これ! いく、あたしいく! すごいの! いく!)
むくむくと愛理の中で強烈な不安感と焦燥感が高まっていく。これまでの肉体的な絶頂とは比較にならない。普段見ることのできる快楽の頂の向こうに、超えてはならない絶壁が見える。そしてそれがわざわざむこうから愛理に向かって、迫ってくる。それは死の瞬間と等しかったが、愛理にはもうわからない。
我思う故にある「我」の最期。
(あたし! あそこ! あそこにいく! すごいの! いく、いく、いくいくいくいくいいいいいい)
振動が極まる。肉卵の内部にあるあらゆる器官から、白濁液がいっぺんに噴出された。
(いいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃっっっっーーーーーーー)
内部は白濁液で満たされ、肉卵自体が膨れ上がった。ぶぴゅっ、ぶぴゅっと表面からも溢れ出た。
愛理は絶壁から投げ捨てられた。あまりに急速な浮遊感とともに、自分の境界線を失っていくのを感じた。
しかし恐怖や不安はなく、安らいでいた。愛理は開放され、希釈されていく。
「神田愛理」はいなくなっていた。
東の空がうっすらと明るくなっていた。路地に小鳥が降り立ち、またすぐに飛び立っていった。微かな光の粒子を受けて、氷上家の窓枠がぼんやりと形を得た。わずかに開いた窓の向こうに、カーテンか何か、影がゆらめいた。
自転車のリムが回転する摩擦音が朝の静寂を破る。今時新聞配達を懸命に続ける男子中学生が、神田家のポストに朝刊を2つ突っ込んだ。
わずかに眉をひそめる。
(甘い……。なんだろ?)
あらためて意識して嗅ぐと、甘ったるい匂いが不快ではない。
(そういや昨日も……)
はたと思い当たる。その視線の先には、何か影がゆらめく氷上家の窓があった。
-了-
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