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そのものそのときせいなるもの第四話・第五話
37 そのものそのときせいなるもの の人 sage 2008/10/01(水) 23:04:33 ID:4tXsJHcS
諦めるなんて選択肢はご主人様に≪検閲≫されていますから。その辺は大丈夫です。
てか、作家志望なので止めるわけにはいかない。
では、今日は書きまくって。24時くらいにAパートだけでも。書き終えれたらBパートまで。
38 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:08:14 ID:4tXsJHcS
円形の牢獄が、回り、揺れる。
当然の振動に、捕虜は立ち上がり、周囲を確認する。
ガチャギガリギャリガギャギイィグ、ゴン
鉄、石、木、土、そして魔力。様々なものが擦れあい、ぶつかり合い、組み替えられる音。
ネジを回すように、部屋が下降する。
二回転ほどすると、横壁から鉄格子ようなものが見え始める。
さらに一回転して、牢獄の下降は止まった。
鉄格子の奥から響く足音、二つ。スローテンポで牢獄に近づく。
捕虜は、身構えることもなく、立ち続ける。視線と意識だけは、牢獄の出入り口、足音のほうへ向けながら。
天窓からの距離が遠ざかった結果、日向は大きくなっていたが、壁までは届かない。鉄格子の向こうは暗い。
鉄格子が音をたてて外れる、鉄棒一本一本が交互に、上下にわかれて枠に吸い込まれる
薄暗がりを魔力の明かりが照らし出す。
「や~、おっはお~」
片手を軽く上げ、汚れた白衣の女性が捕虜に挨拶をする。
ただし……さかさまだ。
白衣の女性と、その後ろに立つ軽装の看守らしき者は、天井に足をつけてそこに立っていた。
看守が口を開き、呪文詠唱。朗々と、魔力が籠もった結果として澄んだ声が牢獄で反射する。
白衣の女性と看守の足もとから、天井(床)がせり出し、1平方メートルほどの足場が出来上がった。
2人が足を踏み出す。2人の足元の床と、牢獄の床が向かい合う形になる。
39 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:09:24 ID:pJ3kl82l
「出ろ」
看守の呼びかけに、捕虜は。
無視。
「お~い、聞こえてるか~い?ちょっと、こっちきてよ~」
白衣の声にも。
無視。
「せんせー。やっちゃってください」
「言われずとも」
実力行使に出る2人。
今まで、感情の無い声をしていた、看守の声が、少し弾む。嬉しいらしい。
看守の詠唱。中空に、おびただしい数の鎖が現れる。
手を掲げた看守の、指先から、全身に巻きつき。締め上げる。
看守は、全身を固定され、鎖に動かされるように、手を振るう。
「っん♪」
さらに鎖が締め上げ。自縛行為に看守がうめく。恍惚と。……変態だ。
鎖は重力を無視し、蛇のように鎌首をもたげると。首先を捕虜に向け、躍りかかった。
40 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:10:30 ID:pJ3kl82l
捕虜はシーツを放り、目くらましとする。
助走もつけずに、自らの身長以上に飛び上る。足枷など無いような動きをして見せた。
そのまま音もなく着地、魔法の足場の裏に。
どういった理由かはわからないが。捕虜と、ほかの2人の重力は、反転している。
白衣と看守、2人のいる足場の裏側に、息をひそめて捕虜は機をうかがう。シーツは投げてしまったために、全裸だ。いや、足枷だけ有る。
「あらま……」
緊張感のない、それでいて驚愕したようなつぶやきが聞こえた。瞬間、捕虜は足場のへりを掴み、逆上がりするようにして、2人の背後を取る。
ことができずに、首を掴まれた、と思うと壁に叩きつけられる。捕虜の肺から空気が抜ける。そのまま背中に回られ、伸しかかられる。
取り押さえられた。奇襲が見破られていた。
白衣の女性に、床に(捕虜にとっては天井)押し付けられる。両手を完全に極められている。
「はっはっは、ん~残念。まぁ私たち二人抜いたくらいで、逃げ出せるような場所でもないけどねぇ。
って、ちょっと腕疲れてきたんですけど。セルフボンテージに耽ってないで、この娘、押さえといて~」
重力は反転したままだ。捕虜にとっては、天井に押し付けられている状態で。
白衣の女性にとっては、浮き上がる捕虜を地面に押し付けている状態である。
荒い呼吸とうめき声と共に、鎖が捕虜に群がり。
床を貫通して地面ごと捕虜を縛り付ける。看守自身に比べると手抜きの縛だ。
いつの間にか背中から下りていた白衣の女性が、捕虜の足もとに回る。白衣の汚れは、血痕だった。
足枷周りの足首を、ひとめぐり指先が回ったと思うと。
捕虜の足枷が外されずに。足の裏をくすぐった。
「あれ、無反応?……なんか、悔しいな。負けるか!」
捕虜に効果は無いようだ。が、白衣の女性はむきになった。
看守は、恍惚としている。
白衣の女性は、しばらく足の裏をくすぐり続けていたが、効果がないとわかると、
41 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:12:09 ID:pJ3kl82l
「にゅっ、っつーーー・・・・・・!!」
「おっ、効果ありだね」
舐めた。
おもむろに口を開き、舌を這わせたのだ。
突然の違和感に、捕虜は思わず声を上げる。すぐに口を閉じ、歯を食いしばるが。一度あげてしまった嬌声は、無かったことにはならない。
二の腕に鳥肌を浮かばせ、動くに動かない足の震えを止めようとするが。止まらない。
白衣の女性は、足の裏から、親指の裏、親指と人差し指の間にと、順に舌を這わせると、親指を口に含み、ねぶる。
逃げようとする指を、ねぶり続ける。親指から他の指へ、指から足の甲へと舌をすすめ。足首に舌を絡ませる。
「いい加減に、仕事をしろ」
「きゃんっ」
そこで頭をはたかれた。いや、鎖がじゃら付いている腕ではたかれたので、かなり強く殴られた感じである。
ついさっきまで、自縛で悦っていた看守だ。少しだけ常識を持っていたらしい。顔は赤く、息も荒い、しかもまだ全身に鎖を絡みつかせているが。
白衣の女性は、大人しく捕虜の足枷に鍵を差し込み、捻る。足枷が今まで天井であった地面に落ちる。
足枷が外れると同時に、捕虜にかかっていた重力が反転した(元に戻った)。
突然のことに、血流が狂い、違和感が捕虜を襲うが、すぐに慣れる。
こちらが本来の世界だ。
「この牢屋はねぇ。さかさまになってるんだよ~。んで、ベットとシーツにだけ重力反転の魔法が掛かっていて。
この足枷をつけてる間だけ、重力が反転するってこと。下手に解錠の技術があると、足枷を外したとたん、奈落の底までまっさかさまさかさ(笑)
天窓に見せかけているのは、空間連結の幻影だね。全部、古代魔法だけど。そうそう、古代魔法といえば……(略)……」
白衣の女性は、聞きもしないことを説明しだした。
自分の知識をひけらかせようとするのは、研究者によくあることだ。捕虜は、その研究者に取り押さえられたのだが。
「研究職だけどね~、荒事に巻き込まれ無いわけでもないんだな。これがまたさぁ~。
いやほんと、うっと~しいのが沸いてくる沸いてくる。いやぁ~、天才はつらいね。私も影武者ほしいなぁ。
作ろうかな、クロ~ン。そうだね、いや、私けっこう強いほうなんじゃいかな。たぶん。何で貴女の奇襲が見破れたかというとねぇ。
いや、ただの透視なんだけどね。無詠唱、すごいでしょ~」
よく回る口である、情報漏洩の危険性を理解してないわけでもあるまいに。
42 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:15:41 ID:pJ3kl82l
ふと、そこで、捕虜はあることに気づく。前後の文脈と何も関係ない説明。突然の変更。
自分は、疑問を口にしたわけではない。
透『視』程度ではない。 だが、たまたま、という可能性も……
「うんうん、たまたまだよ。たまたま。ほんっと、すっごいぐ~ぜん」
「……」可能性はなかった。
「あっ! も~、呆れないでよ、まったく、のりがわるいなぁ。ねぇ、つっこみま、ち……ちょ、なにしてんのさ」
看守は恍惚としている。
「てい」
「ふぇっ!?……えっ、あ、ああ、いや。話が長かったから」
「ぶー、職務た~いま~ん。人のこと言えないんじゃないかなぁ」
何時まで漫才をしているつもりだ。などとは捕虜は思わない。
思考を読まれるとわかった時点で、考えるのをやめている。
俵運びに、肩に担がれる、腹部に鎖が食い込む。
白衣の言葉を信じるのなら、地下ということになるが。そうとは思わせない、明るい通路を、捕虜は連れて行かれた。
「ここの光源は(ry)」
ひとつの扉を選び、中に入ると、整然としていながら、散らかされた部屋に入る。
所狭しと物が並んでいる、研究室であろうが。紙が一切ない。
「頭ん中で整理できるからね。ものを書いてると時間かかるじゃんか。
あ~~、ん~~。うん、そこの診療台に置いといて~。あれ?その鎖、取り外し可能だったんだ。
便利~、でもないか、自縛しなきゃならないなんて。どんだけ趣味にはしってるんだ~、って感じだよね。
はいはい、おつかれさま~。ん?見てく?ああ、いや、いいや。てか、ダメ~。仕事しろよ~、私が今から仕事するのに」
看守は、一礼してその場を去って行った。詰め所に戻って……まぁ、再開するのだろう。
この部屋の主は、その後ろ姿を見送ると。おもむろに、振り向く。
「さあ、はじめようか。大丈夫、こう見えて医者でもあるからね。死にはしないさ……たぶんね」
白衣の女性は、にっこりと最上級の笑顔をみせた。美しい顔だ。だが、それよりも。
あまりにも邪悪な想いが、その場を支配した。世界が、空気が、空間がねじ曲がるほどの悪い顔。
ここまでの、無邪気なような行動とは相反する、邪気。
今まで、その表情と実力で、白衣の女性は最高議会と同等に交渉し、敵対者を下してきた。
悪意の塊を目にして、それでもその瞳を見返してきたものは、数えるほどしかいない。
気の強い者ですら、震え上がるその場において、なお。
捕虜の心は、何も感じないでいた。
4話A 了
いまさらですが、キャラの名前つけてないんですけど。読みにくくないでしょうか。
44 そのものそのときせいなるもの の人 sage 2008/10/02(木) 21:54:47 ID:pJ3kl82l
とりあえず、4話B・C書き終えました。
チェック入れてから投下になります。
じらして済まない、もしかすると、さらにじれったいことになっているかも。
45 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:08:09 ID:pJ3kl82l
「それじゃあ、まずは施術の説明、の前に確認からだね。まず、貴女は自分の体のことを、どれくらい理解しているのか?
あ~、そう、はいはい。つまり、自分の特有技能もわかってないのね。んじゃ、そこの説明から入ろうか。」
捕虜は、台の上に大の字に、仰向けに縛り付けられていた。
良心としてシーツが掛けられているが、あいも変わらずの、全裸だ。
この部屋の主は、瓦礫に埋もれていた椅子を引っ張り出し。椅子の背を捕虜に向けながら、捕虜を向いて座っている。
相変わらず、笑顔を浮かべ続けながら、捕虜の目を見て一方的に話し続ける。
「よくいままで解剖されなかったね。いやいや、よく生きていてくれたよ。私に会うまで。
特異体質だよ。魔力に対する抗体が、うん、なんか変。とっても、変。
具体的にはね、突発的魔法測からの不干渉能力とでも言うのかな。すごいね。これ
攻撃系の魔法に関してはかなりの防御能力だ。
そうだね、報告によると、時空魔法の空間断裂、食らったでしょ。覚えてる?覚えてるね。
効かなかったんだって。いや、貴女が寝てる時に、三回実験してもらったけど。首狙って。ほんと効かなかったよ。
ああ、そうそう、貴女が生きてるのは実験材料。別に、団長さんの影武者とか関係ないよ。
ってか、暗殺者は人攫いなんてしないって、フツー。そういうのは別部隊だね。
まぁ、戦後交渉するなら、貴女が団長さんの身代わりになるかもしれないけど。もう、国家として飲みこんじゃうつもりだし。
まあね、よかったよかった。想定外の物事がある場合は、出来ることなら原因究明に努めよ。ってのが暗殺者のガイドブックにあるんだよね。
んで、わかった?あれ?わかんないか~。
えとね、ドカンって感じの魔法が効かなくて。ジワジワ~て染み込んでくる魔法は効くってこと。
そんで、魔法によって二次的に発生する自然現象も効く。
例としては、そうだね、炎熱系。魔力による熱や炎による、燃焼攻撃は無効化できるんだけど。体内熱の活性化なんかの戦闘補助はできる。
まあ、魔力が馴染むのに時間がかかるから、戦闘中は使えないね。使うなら戦闘前からの事前待機が必須。
通常の浸透速度だと、だいたい数十分かかるね。
(解り難い説明のための補足。デス、レイズ、ケアルは無効化。死の宣告、リレイズ、リジェネは×2)
相称にもよるけど、いい能力だよ、即死魔法は大体無効化できるからね。いいなぁ。あ、でも同調(シンクロ)魔法には無力なのか。やっぱいいや。
調べたところによるとだね、たぶん突然変異。遺伝もしないみたいだね。生まれもったものじゃなくて、生まれもった性質が変質した感じ」
捕虜、いや被験者は、口を挟もうとは思わなかったが、口を挟む暇もない。
疑問が浮かんだ瞬間には、その説明に入っているのだ。思考を読み取るという能力をフル活用している。
46 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:09:33 ID:pJ3kl82l
少しの疑問。なぜ、実験体である自分に、無駄な説明をする?
被験者の思考に疑問が浮かんだ。
「だから、ちゃんとした反応がわからないと困るでしょ。実験をして、観察するんだから。
体感する人が正しい認識をしてないと、思考にぶれが出ちゃうの。読み取れないと実験する意味ないじゃない。
OK?」
答えは必要ない。
「はい、よろしい。いいね、理解力が高いのは良いことだよね。おもに私に。
じゃあ、施術の説明に入ろう。ここに一つの石があります。たぶん魔石。
この石は、ある魔物の核だと思われるんだ。おそらく特質は融合。ただし、こちらからの干渉を、一切合財受け付けてくれない。つれないよね。
三日三晩ラブコールしたあげくに、音をあげた私たちは。
向こうから出てきてくれるように、仕向ければいいと思ったんだ。
天岩戸作戦だね。知ってる?天岩戸。引きこもりの神様を行事に引っ張り出す罠。
んで、なんで貴女が実験体に選ばれたかというのはだね。実は、特有技能とは直接の関係はないんだ。まあ副産物みたいなものだろうね。
貴女は、突発的な魔法の効き目が無いのに対して、浸透した魔力による魔法は人一倍効きやすいんだ。
魔力が入り難く、漏れにくいんだろうね。
つまり、だ。
ちょっとコレと融合してみてくれないかな。
生命体に対しての融合と改造、だとおもわれる能力だけど、人間に対しての融合は確認されてないんだ。
危険性の有無が分かんないし、魔法の式も解明できてないから。応用しようがないんだよね。
猿で実験してみたんだけど。なんていえばいいのかな、微妙だったから。状況がわかりやすい人間でやってみよ~、ってことになったんだ」
わかってはいたことであるが、研究者は笑顔をさらに深いものとしながら、人道を無視した計画の説明をした。
忌避すべき事を耳にし、自らの身に降りかかろうとしているのが、理解できているはずであるのに。とうの被験者は動じない。
研究者の瞳を見つめ返すだけだ。
「わかってはいたけど、面白い精神もしてるよね。いやあ~、ほんっと~に観察のし甲斐があるなぁ。ラッキ~ラッキ~。
さて、それじゃあ、今度こそ始めようか」
研究者は背もたれから手を放し、被験者に近づく。一歩足を踏み出して、つまずいてこける。
47 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:11:15 ID:pJ3kl82l
気を取り直し、施術台に片手をつき、身を乗り出す。シーツを剥いだ。
魔力光に、被験者の肌が浮かび上がる。白い肌であるが、傷跡が目立つ。そのひとつ、ヘソの上を斜めに裂いた後を、研究者の指先がなぞった。
「今から、貴女の中にコレを埋め込むわけだけど、どうしようか?一番楽ちんなのは、腹掻っ捌けばいいんだけど。回復魔法も効きが悪いよね。
やっぱり、入口から開けて入れるのでいいか。大きさも手ごろだしね」
拒否も了承も必要としていない。ただ被験者に、理解させるだけが目的の言葉。
理解しないという思考は、人間は意図的に行えない。
「その前に、魔力を浸透させなきゃならないわけなんだよね。あ~、私、夫も子供もいるんだけどな~。
浮気じゃないよね、研究~研究~。あっ、子供の写真見る?かあいいんだよ。もう、ワンパク盛りでね。っと、いけないいけない、施術中だね」
軽口を言いながら、研究者は被験者に口づけをする。
唇を舐めあげ、舌を差し込もうとするのを、被験者は拒まない。されるがままに咥内を蹂躙される。
むしろ舌を絡めようとしてさえいる、ように思われた。
実際は、出来なかったのだ。舌を噛み切ってやろうとするも、いつの間にか、体全体から力が抜けていたのだ。
それこそ、口蓋を噛み締めることはおろか、手のひらを握りしめることすらも出来ないほどに。
舌で押し返そうとする、弱弱しい抵抗も意味をなくしていた。
分泌される唾液が混ざりあう。味蕾(みらい)に、相手の味と自分の味が諾々と伝わってくる。
粘膜から、浸漸とした魔力が流し込まれ。弱々しい抗体が無駄なあがきをするも、熱に消えていく。
熱い、被験者の顔が火照る。傍目に見えて耳まで赤くなっている。
唾液の分泌を促すだけだ、と被験者が自らの舌で押し返すことも諦めた時、口付けが終わる。
離れた2人の、わずかな隙間に銀の粘糸が引かれ、垂れ落ちた。
捕虜の息は少しばかり荒い、肺にまで麻痺がおよんだのだろうか。それとも流し込まれた魔力による異物感か。はたまた……興奮か。
魔力の浸透は、栄養と同じように、消化器官からの吸収が一番手っ取り早い。
48 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:12:19 ID:pJ3kl82l
「いったでしょうに。一回浸透させれば楽なものなんだよ。まあ、これは神経混乱で。元々は貴女が暴れた時の保険だったんだけどね。
気付かなかったでしょう。昨日、流し込んだやつだし。あと浸透が促進されるのと、催淫も流し込んであるけど、使う?
まあ、使った方が楽だろうし、使おうか。
あれ、でも、思考が読み取りにくくなるなあ。ど~しよ。う~ん、痛いのは慣れてる?
あ~、でも貴女経験少なそうだし。痛みでも読み取りじゃまされるなぁ。
ちょっと複雑なの流し込もうか。部分麻酔……じゃあ、駄目だね。反応が鈍くなっちゃうし。
いっそ、私の経験憑依でもしようか?身体に無理やり教え込ませとけばいいよね、うん。
んで。今しがた流し込んだのが、測定やらの検査、観察用だね。半分くらい。んじゃ、も~1回。はい、あ~ん」
研究者は、そこで言葉を切り、またも覆いかぶさる。今度は台に乗り、体ごと被験者に被さり、口を塞ぐと同時に、掌が被験者のからだを弄った。
被験者は、閉じることも出来ない口を開かされ。またも、内臓をさらすことになる。
いつの間にか。研究者の、両手が皮膚を這うごとに、くぐもったうめきが。2人の口に籠るようになっていた。
呼吸が苦しいのかもしれない。被験者は、無理やりに息を吹き込まれてもいる。
再度、口が離れる。両者共に、大きく酸素を取り込んだ。さらに、呼吸が荒くなっている。
「スイッチはいった?や~、初々しいね。性格からわかってたけど、これほどとは。あっ、もしかしてファーストキス?
いや、いきなりディープはきつかったかな。って、はい、きにしてな~い、と。溜まったこと無いのかな?
なんか、体は反応してるのに、全然乗ってこないね。まったく、こ~も強情だとちょっと堕としてみたくもあるなぁ。
でも、けんきゅ~がなぁ~。む~、クローンもあれだしな。まあ、いいや。
次いこっ。はい、じゃあ。憑依と石との神経結合補助、一辺にいっちゃおうか」
研究者は、説明を口にしながらも、その手は止まらない。
髪を掬い、梳き。耳を弄る。首周りを柔らかくなぞり、鎖骨を叩く。手の甲を擦り付けながら、鎖骨の間から胸の谷間に滑らせる。
触れるか触れないかの瀬戸際で、すり合わせたかとおもうと、優しく包み込む。そこで両手の左右対称が終わる。
左手はそのまま、心臓の鼓動に合わせ、やわやわと開閉。右手は、脇を滑り、右脇腹を幾度か擦ると。臍を掠りながら、さらに下へ。
濃くなった体毛に辿り着くと、引っ張ったり、混ぜたりと、弄る。
そのまま手のひらを、形にあわせたかと思うと。
「ぁ……」
「そういえば、ここに毒針仕込んでたね。本拠地でも気を抜かないのは良いことだと思うけど~。
ありゃ、そいえば、別に気負ってるってわけでもなかったね。
いい人材だなぁ。駒としては最適なんだよね。実力不足と判断能力と、あと詰めが甘い以外は。
戦闘中に考え事してちゃあ、ダメだよ。ちゃんと切り替えなきゃ」
中指を突き立てた。
49 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:14:16 ID:pJ3kl82l
被験者の、しめられない口。喉の奥の声帯から、思いもよらずに声が上がる。生理現象である。
「……ぁあ……ぁ、…ヒュ、んぁ……うぁ……っはぁ……」
左手、右手共に律動が激しくなる。肺を圧迫され、感度が鋭敏な部位を刺激され。被験者から断続的に音が発せられる。
左手が胸部から離される。研究者が、被験者の上を後ずさりする。
感度が鋭く上がっている肌の上を、渇いた血まみれの白衣が擦れる。それにさえも、被験者の喉は、そして体は意志とは関係なく反応してしまう。
右手は相も変わらずに動きつづけている。左手を滑らかにすべらせ、内太腿をなぞりあげ、ひざの裏をくすぐる。
少し上に持ち上げたかと思うと。頭が下げられる。
研究者は、陰唇に口唇で口づけ、蓋をした。
「っつ、ふぃ、ぁにっぅ――っひ……ぁ、らぁ……っきゅ……る、ぬ……うぃ、あぁぁ……んっっ、つぁ・・・・・・っは、っひっっ……っ――――」
さらに舌を差し込まれる。研究者の口から流し込まれる唾液が、魔法により、蚯蚓の様にのたうち。膣を奥に進む。魔力が熱い。
何の抵抗もなく、子宮口から内部に侵入を果たし。そのまま内壁にその身を擦り付けるように、螺旋を巻く。
熱が広がる、違和感だけが、被験者の体の中で起こっていることのたよりだ。
研究者には、全てが目に映っていることであるが。
呼吸を許されていないような、声なき嗚咽が尚も鳴る。
「所長ーーーー!!! 大発見ですよ、大発見!! もっかい! 大!発!見!! さあ、ご一緒にもう一声!!!
だいって、ののわ!! お楽しみちゅー、見事にチュー。チューしてる再中。
ハイ! すんません、お邪魔さまでっす。馬に蹴られないうちに悪霊退散!!
じゃなくて、勤務時間ですよ! ズルイ! 1人で、ズリーですよ!! それに、今きづいたが浮気だーーー!!!
こいつぁ、大発見なんて目じゃねぇ!! さっそく旦那さんと子供さん等へ報告に゛ギャン、一つ目の鎧騎士」
奇才が舞い込んで馬鹿なこと言ったかと思うと、椅子が飛んで黙らせた。唐突過ぎる。空気が読めないとはこういうことを言うのだろう。
勢いよく開かれた扉に空気が流れ、風が被験者の意識を少し取り戻した。
研究者が口を放し、話しだす。
「あとは、突っ込むだけだから、ちょっと待っててよ。あと、家庭に口出したら、アジのひらきにしてやる」
「うぃ、むっしゅムラムラ、ちょっと裸にコーフンしてます」
「じゃあ、入れよっか。一気に入れるのと、少しづつやるのどっちがいい」
「じわじわずるずるぬちゅぬちゅウーパールーパーとエビ反りな感じで、出したり入れたりを繰り返しながら、
機を見計らって止めてはつづけてをさらに繰り返し、焦らしに焦らしてから、おねだりするまで続けて。
天☆国入場料子供料金に連れってってあげればいいんじゃないかとおもいま~す」
「ん、一気に行こうか。これの言う大発見も気になるし」
「無視はひどいですよー。あと、椅子重いです。重力加算しないでください。!?って増やさないで! 増やさんといて!! 圧力釜!!
マジ! あれ、これマジ!! 色々と出るって! 出ちゃうよ、いロリろ、十二指腸的なものがぁぁあ!!! って、うは、違うものが出た」
終に、被験者の下腹部を激痛が奔った。
喚き声がなり響いている。
4話B 了
50 そのものそのときせいなるもの 綺麗な寄生だ4話C sage 2008/10/02(木) 22:16:05 ID:pJ3kl82l
其のものは、突然に降って湧いてきた幸運に小躍りしたくなった。体はないのだが。
最初の体が破壊されてからというもの、成すがままにもてあそばれて。心身……精神が主に大打撃を受けていた。
肢を次々と切り飛ばされて、もう切られる物がなくなったかと一息、本体が真っ二つ。
あまりの出来事、超展開の連続に、しばらくのあいだ呆然と石にひきこもっていたのだが。
突然の温度急上昇。気づいたら灼熱の渦の中に取り残されていた。
さらに呆然自失、唖然、情報収集もおぼつかない状況に追い込まれた。
精神体である其のものは、精神的なショックがそのままダメージとなる。
(えっ?? え? え、炎? 火? ひ? 火ぃ!? な、なに? これ、何? やだ、火ヤダ!? ヤダ、ヤダ、やだぁぁ)
動物を取り入れ、その多重複合とした脳を一度持った其のものは。その経験を、精神として持ち続けていた。
肉体を失い、脳という拠り所を失っても尚、その記憶を存続できる能力があったのだ。
そして、それゆえに。
動物が恐れる、『火』というものを。其のものも、また、同じように恐れるようになっていた。
肉体を失い、石のままでは動くこともままならない其のものは、爆熱のただなかに1人。
石から意識を飛ばすことも、火に阻まれてできず。逃げることが出来ないまま、石の裡に籠ったままに、ただ恐怖に襲われ続けた。
其のものの肉体だったものを、焼却し尽くし。火炎が消え去っても、其のものの意識が平常値に戻ることはなかった。
完全に我を忘れ、逃避のため、防御のため、意識を保つことをやめていた。
51 そのものそのときせいなるもの 綺麗な寄生だ4話C sage 2008/10/02(木) 22:18:16 ID:pJ3kl82l
其のものが、朧げながらも意識を取り戻した時は。
(いやだ、いやだ、いやだ、いやだいやだい、やだやだやだやだやだぁ。やめて、やだよ、怖い恐いこわいコワイこわいよやだよ。いやだ……)
研究所で実験の真っ最中であった。
すなわち。斬撃 突撃 打撃 圧力 引力 熱気 冷気 雷気 研磨 腐食 酸化 音波、精神波、空間断裂、概念干渉、自壊式注入、その他。
ありとあらゆる手段で、其のものを引きずり出そうとする行為の真っただ中。
それらのほぼすべてが、野生生物には生命の脅威と成り得るもの。其のものに対しては、死の恐怖となった。
始まりの石が頑丈であったことが、救いであった、かどうかは判断できない。
ただ、初っ端から、過激な方法をとっていたわけではない。
はじめは手優しく、手ぬるく、様々な方法での反応を観察していたのだ。リトマス紙とか。
もっともその段階では、其のものは寝ていたのだが。
何をしても無反応であったということが、研究員のニトログリセリンのような研究心に、火をつけてしまった。
1つがだめなら、2つ同時に、2つでもだめなら3つで。4・5がなくて6に禁呪。と、研究員の思考が飛ぶこともあったが。
年間予算を大幅に喰った結果。成果、無し。無駄遣い。その年は、研究塔から三時のおやつが消えた。
最終的には国王が「いいかげんなんかしろよ、魔石のくせにダメダメな落しもの」とのたまったとか。
『落としもの』とは、魔物から手に入る貴重品のことを示す俗語である。
その実験のあいだ中。其のものは、何時この石の殻が割られて、依り辺を亡くした自分が四散霧消するかという。勘違いの恐怖にとらわれていた。
はるか長き旅路の間にあった、風化や星の滅びのこと、それらを乗り越えてきたことなど。
圧倒的なリアルの情動「恐怖」によって、頭の片隅に追いやられた。今の其のものに頭部は無いが。
時たま、生物に埋め込まれたりもしたが。しばらくすると引きずり出される。
其のものには、何がしたいのかさっぱり理解できなかった。
悪夢のような時間が続いた。
其んなある時
突然の幸福に、其のものは驚いた。喜びに驚嘆した。
其のものが埋め込まれたのは。ヒト胎内であった。
その躯の持ち主に、其のものは、強く、清らかで、気高き、美しい魂の欠片を見た。
其のものの生み出された理由。悪夢の中で薄れていた目的。
創造主足る神に、献上する。尊き精神を、其のものは見つけたのだった。
暗黒に引きずり込まれている最中に、希望の光が差し込んだ。
嬉しかった。光が暖かかった。精神が、力を、想いを、意思を取り戻す。
石が淡く、それでいて強く、光を放つと、子宮内部が照らし出される。
白衣の女性は、その様子を、笑顔で見ている。
彼女の瞳は、其のものの放つ精神の輝きを、魔力発光としてしか視ていなかった。
4話 完了
エチが難しいなんてLVじゃない、だめだ、どうにかしないと。
75 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:44:32 ID:JJuAj88y
5
いつの間にか、体の麻痺は消えていた。
掌を握りしめ、歯を食いしばることができるようになっていた。
しかし、体は変わらずに、思うように動きはしない。
無意識に筋肉がしまり、体を引き攣らせる。
ただ、―――痛かった。
「―――ッ! アアァァア!。っは、ッハぁ、ィっ、ギィ、ャアッァァア!!」
奥底に押し込まれた其のものが、ざわめき、存在が広がる。
内側からしみ込んでいこうとする異物。
魂はそれを許しはしない。全力をもって抗うがゆえに、苦痛が広がる。
だが、其のものはあらかじめ耕され楔を打たれていた土壌に、確実に領域を拡大させていく。
下腹部、へその奥、子宮を震源として確実に広がっていく痛苦に、全身が悲鳴を上げる。
「うぎィ、がッ、あぁぁア、ハァあぁアあぁアぁああ!!!!!」
耐え切れずに、喉から悲鳴が奔った。
ヒトの出す言葉ではない、生命としての悲鳴。
だが、それよりも、辛い。意識を保つことが辛い。
やめてくれ、と一瞬思う……搔き消された。
脳が、思考よりも反射を優先して処理していく。
考えを、感情を、ことごとく邪魔され、潰されていく。
今のわたしは人間ではない、思う事が出来ないわたしは……
刹那、彼女に浮かんだ思考も、自らの絶叫に搔き消された。
痛みはさらに四肢へと拡がり、白じむほど握りしめた掌から血がにじむ。
鋼の鎖がきしむ音がする。
「ッダっ、イギィぃガっ、ィァア゛あァ、フぃッ、っアぁあああ、ダぁアァ……」
「予想外だったね、融合に痛みが伴うことは動物実験では無かったんだけど」
生物が本能的に忌避するはずの悲鳴ですら、探究の申し子達は顔色一つ変えない。
うるさがるそぶりすらも見せずに、いつもの様に観察を続けている。
「ァガぁあっ、づぅぅウっ、ギュ、イハぁっ、ァつうっッ、っつあゼぇ、っガぁァ」
魂が傷つけられている痛み。じわりじわりとではなくジリジリとギリギリと広がっていく。
「なかはどーなってんですかー?てかよく気絶しませんね。傍目にヤバげですよ」
「っぎィゃッ、っは、つ、ぅィいィイ゛ぎぃァ、っッっつっギッ!!!……ッっガっゴはッ」
かろうじて途絶えていなかった呼吸が、衝撃により一時的に止まる。胸が灼ける。
「あ、肺に到達。すっごい活発だよ。思考が読めないのがなんか悔しいけどね。
まあ、明らかに反応が違うよ、シュガーちゃんの時とは比べ物にならない」
「あのときは、『反応があったと思ったら終わってた』って感じでしたっけ。
うは、エビぞり。熱も上がってますよ。ほんと、壊れるより先に死にそうですね」
シュガーちゃんは実験用の類人猿。研究塔用マスコットの21代目であった。
76 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:45:51 ID:JJuAj88y
叫び呻く声は途絶えていない。さらに痛々しきものへと悪化していく。
「―――アぁあっ、つギぃィイ、シぃいいイィグッ、ガゥギィイッはっ、っっ……」
その、焼けつくすような灼熱の痛みを、白衣の女性は理解出来ている。……だが。
「まだまだ平気だよ。でもこの様子だと、歯が砕けちゃうね。噛み布つけてあげて」
「らっじゃー。コレ、鎖も食い込んじゃってますけどー」
「それは私じゃ外せないからなぁ。って、あれ?」
ついに、押し返そうと抵抗する魂が薄れ、其のものが勝利した。
「っッ!っ!??ィガァああぁぁあぁぁぁぁぁあああああああああああっ!!!―――」
其のものの意思が脳へと行き着いた。瞬間、身を襲うものがはじけ飛ぶ。
一際強い痛みが巡り、五感すべてが激痛に消し飛ばされる。
見開いた瞳には白閃が、悲鳴を拾う耳は爆音による消音、鼻も口も実感がない。
そしてなによりも、激痛。
痛みに体が跳ね躍る。
だが、気絶はしなかった。
耐えきれない波が、全身へと廻っていた辛苦が、前触れもなく鳴りを潜めた。
「ぁ……?…っっんっ、んぁぁあ゛ンっ?? カ、ハぁっ、ハァっ、はぁ、はー、ヒっ、ひゅーー……」
「ありゃ?おさまってますね。完了したんですかー?」
「いや、やっぱりよくわかんね。小休止なのかな? やっぱグダグダだなぁ、この魔石。
……お~い、落ち着いたかい? とりあえず感想のほどは?」
「……ぁー……・・・―――」
「あ、気絶。いや、寝た? んで、どうでした?」
答える意思がないのか、答えることができないのか、返答はなかった。
凄まじい勢いで体力が消耗され。意識はすでに閉じていた。
だがその前に、耳に届き聞こえてはいた、それだけで十分である。
「キモイってさ。激痛以外には高熱、吐き気、頭痛、めまい、寒気、まるで風邪の症状だね」
「それじゃあひと段落したところで。え~と、大発見なんですよ、たぶん、いやおそらく……」
「飛び込んできたときの勢いはどこ行ったの?」
「おしっこと一緒に飛び出ました」
「ああそう、掃除しといてね」
何も問題はなく、話題は移り変わる。何事もなかったかのように。
77 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:47:29 ID:JJuAj88y
其のものによる干渉は止まり。肉体への意識の浸透を完了させた。
しかし、精神の搾取が完了したわけではない。
脳髄を手中に収めたからと言って、完了するようなことではなかった。
肉体しか手に入れていない。
脳内で神経を弄繰り回して出来ることは、あくまでも肉体的な反応でしかないのだ。
其のものの目的は、肉体の乗っ取りではない、精神の搾取である。
いまだに、精神には直接手を出せてすらいなかった。
―――躊躇したのだ。
お膳立てをされたナカ、サクサクと寄生が進み。当たり前のように成功した。
脳を手中に収めた、身体を手に入れた、とたんに。
其のものは躊躇した。
たった一瞬、新しい身体にはしった激痛に、止められた。
いまや、自分の身体として手に入れてしまった痛み。
すでに名残が残るだけであったが。
それだけで、少しも進めなくなった。
本能的な恐怖や、ただの肉体的な痛みとは違う。
ヒトが感じる痛みに直に触れてしまったのだ。
はじめて作った身体をバラバラにされた時とは違っていた。
あの時は、痛みを『恐怖を引き起こすための電気信号』程度にしか感じていなかった。
だが今は、魂の拒絶反応という性質の違う痛みが、身体に反映されている。
その痛みが、精神体である其のものには、怖かった。
直接的に存在を傷つけられる痛みが。
恐怖を知った其のものには恐ろしかった。
(あ……)
そこで、宿主の意識が落ちてしまう。
其のものがまごまごしているうちに、宿主は寝てしまった。
精神が表に出ていない時に介入はできない。
其のものは器用ではない。
寝てる人に物事を言い聞かせることなんてできない。
無理やり身体を動かすことはできるが、体力も消耗している。
それに、囚われの身ではできることも無い。
(とりあえず、調子の悪い身体を治しておこう)
静かに、魂がざわめくが、痛みはもう無い。
……ほっ。一息身構えたが痛みはない。一応は完遂している。
静かに、静かに、柔らかい光が身体の内を癒してゆく。
78 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:48:18 ID:JJuAj88y
気がつけば、体の中に何かいる。
自分のものではないと確信できる存在が、わたしのナカに。
体の中に巣くっているということを認識した。
―――つまりは、わたしを喰おうということなのか。
勝手に心に思いが拡がっていく。
譲渡を。
差し出すことを思い込んでいるのだ。
わたしの思いじゃない。思うことの少ないわたしには解かる。
望んでなどいないのに、願っている。
いまや、体がそれを望むように作りかえられ、仕向けられてしまった。
自分だけのものでなくなったしまった身体に……吐き気がする。
正直、うっとうしい。腹が立った。
わたしは、目的も何もなく生きてきていた。
考えようによっては、何時死んでも未練はないとさえ思うこともあった。
自殺することに躊躇いなんてなかった。
ただ、それはわたしとしてだ。
わたし自身として、わたしのまま死ぬこと。
そして。わたしが無くなっても生きることを、嫌悪していることに気づけた。
―――させてたまるか……
必死で生きてきた、わたしが生きてきた理由だったのだと。今、気付いた。
必ず、わたしのままに生き、死ぬことが、生きる意味。
ひどく自己中心的な思想である。不毛な信念。だが、かえりみることはないだろう。
この想いは酷くわたしに馴染んでいた。
今までは、わたしが求めるものがなかったから、社会から破錠せず生きてこられた。
今現在も求めるものは無いに等しい。
略奪された体は生きようとしているが。
わたし自身には、今もそんなことは思えない。
生きたいなどとは、いまだ思わない。
だが、今のわたしは。わたしとして在りたい、とだけ想えている。
清々しい気持ちだった。初めての経験だ。
自分の中から、1つの意志を見い出しただけで、幸せになれたような気がする。
その幸せを手放したくない、そう強く想う。
強く、とても強く、始めての想いが、心のなかで息づいた。
鼓動に魔力が目覚める。
79 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:49:44 ID:JJuAj88y
(おきた!)
宿主が目を覚ましたことに、其のものは喜び……ひどく狼狽した。
思わず、宿主の精神へと差し向けようと用意していた分裂意識を引っ込める。
不快感、拒絶心、否定思考。つまりは、怒り。
其のものがコンタクトを取ろうとするより早く。
寝起きとは思えないほどの圧倒的な意志を叩きつけられる。
何一つ認めない怒気。
その威圧感だけで、其のものは完全に竦みあがってしまった。
本能的に、怒りは恐怖を誘う。
其のものの方が圧倒的有利な立場にいるにもかかわらず。
何ひとつすることが出来なかった。
ただ、恐怖で混乱して、動揺してしまい思考が定まらない。何も出来ない。
いつもどおりだ。
いつもの様に、なにひとつ出来ていない。
其のものは勇気を知らない。
いままで、このところずっと、おびえつづけてきた。
恐怖の前で、あえてそれに挑むということを知らなかったのだ。
其のものは、尊いものを手に入れようとするわりに、気高きものを知らなかった。
80 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:51:26 ID:JJuAj88y
5話 了
以上です。
其のものが構想段階よりヘタレ増し増し。
諦めるなんて選択肢はご主人様に≪検閲≫されていますから。その辺は大丈夫です。
てか、作家志望なので止めるわけにはいかない。
では、今日は書きまくって。24時くらいにAパートだけでも。書き終えれたらBパートまで。
38 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:08:14 ID:4tXsJHcS
円形の牢獄が、回り、揺れる。
当然の振動に、捕虜は立ち上がり、周囲を確認する。
ガチャギガリギャリガギャギイィグ、ゴン
鉄、石、木、土、そして魔力。様々なものが擦れあい、ぶつかり合い、組み替えられる音。
ネジを回すように、部屋が下降する。
二回転ほどすると、横壁から鉄格子ようなものが見え始める。
さらに一回転して、牢獄の下降は止まった。
鉄格子の奥から響く足音、二つ。スローテンポで牢獄に近づく。
捕虜は、身構えることもなく、立ち続ける。視線と意識だけは、牢獄の出入り口、足音のほうへ向けながら。
天窓からの距離が遠ざかった結果、日向は大きくなっていたが、壁までは届かない。鉄格子の向こうは暗い。
鉄格子が音をたてて外れる、鉄棒一本一本が交互に、上下にわかれて枠に吸い込まれる
薄暗がりを魔力の明かりが照らし出す。
「や~、おっはお~」
片手を軽く上げ、汚れた白衣の女性が捕虜に挨拶をする。
ただし……さかさまだ。
白衣の女性と、その後ろに立つ軽装の看守らしき者は、天井に足をつけてそこに立っていた。
看守が口を開き、呪文詠唱。朗々と、魔力が籠もった結果として澄んだ声が牢獄で反射する。
白衣の女性と看守の足もとから、天井(床)がせり出し、1平方メートルほどの足場が出来上がった。
2人が足を踏み出す。2人の足元の床と、牢獄の床が向かい合う形になる。
39 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:09:24 ID:pJ3kl82l
「出ろ」
看守の呼びかけに、捕虜は。
無視。
「お~い、聞こえてるか~い?ちょっと、こっちきてよ~」
白衣の声にも。
無視。
「せんせー。やっちゃってください」
「言われずとも」
実力行使に出る2人。
今まで、感情の無い声をしていた、看守の声が、少し弾む。嬉しいらしい。
看守の詠唱。中空に、おびただしい数の鎖が現れる。
手を掲げた看守の、指先から、全身に巻きつき。締め上げる。
看守は、全身を固定され、鎖に動かされるように、手を振るう。
「っん♪」
さらに鎖が締め上げ。自縛行為に看守がうめく。恍惚と。……変態だ。
鎖は重力を無視し、蛇のように鎌首をもたげると。首先を捕虜に向け、躍りかかった。
40 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:10:30 ID:pJ3kl82l
捕虜はシーツを放り、目くらましとする。
助走もつけずに、自らの身長以上に飛び上る。足枷など無いような動きをして見せた。
そのまま音もなく着地、魔法の足場の裏に。
どういった理由かはわからないが。捕虜と、ほかの2人の重力は、反転している。
白衣と看守、2人のいる足場の裏側に、息をひそめて捕虜は機をうかがう。シーツは投げてしまったために、全裸だ。いや、足枷だけ有る。
「あらま……」
緊張感のない、それでいて驚愕したようなつぶやきが聞こえた。瞬間、捕虜は足場のへりを掴み、逆上がりするようにして、2人の背後を取る。
ことができずに、首を掴まれた、と思うと壁に叩きつけられる。捕虜の肺から空気が抜ける。そのまま背中に回られ、伸しかかられる。
取り押さえられた。奇襲が見破られていた。
白衣の女性に、床に(捕虜にとっては天井)押し付けられる。両手を完全に極められている。
「はっはっは、ん~残念。まぁ私たち二人抜いたくらいで、逃げ出せるような場所でもないけどねぇ。
って、ちょっと腕疲れてきたんですけど。セルフボンテージに耽ってないで、この娘、押さえといて~」
重力は反転したままだ。捕虜にとっては、天井に押し付けられている状態で。
白衣の女性にとっては、浮き上がる捕虜を地面に押し付けている状態である。
荒い呼吸とうめき声と共に、鎖が捕虜に群がり。
床を貫通して地面ごと捕虜を縛り付ける。看守自身に比べると手抜きの縛だ。
いつの間にか背中から下りていた白衣の女性が、捕虜の足もとに回る。白衣の汚れは、血痕だった。
足枷周りの足首を、ひとめぐり指先が回ったと思うと。
捕虜の足枷が外されずに。足の裏をくすぐった。
「あれ、無反応?……なんか、悔しいな。負けるか!」
捕虜に効果は無いようだ。が、白衣の女性はむきになった。
看守は、恍惚としている。
白衣の女性は、しばらく足の裏をくすぐり続けていたが、効果がないとわかると、
41 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:12:09 ID:pJ3kl82l
「にゅっ、っつーーー・・・・・・!!」
「おっ、効果ありだね」
舐めた。
おもむろに口を開き、舌を這わせたのだ。
突然の違和感に、捕虜は思わず声を上げる。すぐに口を閉じ、歯を食いしばるが。一度あげてしまった嬌声は、無かったことにはならない。
二の腕に鳥肌を浮かばせ、動くに動かない足の震えを止めようとするが。止まらない。
白衣の女性は、足の裏から、親指の裏、親指と人差し指の間にと、順に舌を這わせると、親指を口に含み、ねぶる。
逃げようとする指を、ねぶり続ける。親指から他の指へ、指から足の甲へと舌をすすめ。足首に舌を絡ませる。
「いい加減に、仕事をしろ」
「きゃんっ」
そこで頭をはたかれた。いや、鎖がじゃら付いている腕ではたかれたので、かなり強く殴られた感じである。
ついさっきまで、自縛で悦っていた看守だ。少しだけ常識を持っていたらしい。顔は赤く、息も荒い、しかもまだ全身に鎖を絡みつかせているが。
白衣の女性は、大人しく捕虜の足枷に鍵を差し込み、捻る。足枷が今まで天井であった地面に落ちる。
足枷が外れると同時に、捕虜にかかっていた重力が反転した(元に戻った)。
突然のことに、血流が狂い、違和感が捕虜を襲うが、すぐに慣れる。
こちらが本来の世界だ。
「この牢屋はねぇ。さかさまになってるんだよ~。んで、ベットとシーツにだけ重力反転の魔法が掛かっていて。
この足枷をつけてる間だけ、重力が反転するってこと。下手に解錠の技術があると、足枷を外したとたん、奈落の底までまっさかさまさかさ(笑)
天窓に見せかけているのは、空間連結の幻影だね。全部、古代魔法だけど。そうそう、古代魔法といえば……(略)……」
白衣の女性は、聞きもしないことを説明しだした。
自分の知識をひけらかせようとするのは、研究者によくあることだ。捕虜は、その研究者に取り押さえられたのだが。
「研究職だけどね~、荒事に巻き込まれ無いわけでもないんだな。これがまたさぁ~。
いやほんと、うっと~しいのが沸いてくる沸いてくる。いやぁ~、天才はつらいね。私も影武者ほしいなぁ。
作ろうかな、クロ~ン。そうだね、いや、私けっこう強いほうなんじゃいかな。たぶん。何で貴女の奇襲が見破れたかというとねぇ。
いや、ただの透視なんだけどね。無詠唱、すごいでしょ~」
よく回る口である、情報漏洩の危険性を理解してないわけでもあるまいに。
42 そのものそのときせいなるもの 展開遅いよ4話A sage 2008/10/02(木) 00:15:41 ID:pJ3kl82l
ふと、そこで、捕虜はあることに気づく。前後の文脈と何も関係ない説明。突然の変更。
自分は、疑問を口にしたわけではない。
透『視』程度ではない。 だが、たまたま、という可能性も……
「うんうん、たまたまだよ。たまたま。ほんっと、すっごいぐ~ぜん」
「……」可能性はなかった。
「あっ! も~、呆れないでよ、まったく、のりがわるいなぁ。ねぇ、つっこみま、ち……ちょ、なにしてんのさ」
看守は恍惚としている。
「てい」
「ふぇっ!?……えっ、あ、ああ、いや。話が長かったから」
「ぶー、職務た~いま~ん。人のこと言えないんじゃないかなぁ」
何時まで漫才をしているつもりだ。などとは捕虜は思わない。
思考を読まれるとわかった時点で、考えるのをやめている。
俵運びに、肩に担がれる、腹部に鎖が食い込む。
白衣の言葉を信じるのなら、地下ということになるが。そうとは思わせない、明るい通路を、捕虜は連れて行かれた。
「ここの光源は(ry)」
ひとつの扉を選び、中に入ると、整然としていながら、散らかされた部屋に入る。
所狭しと物が並んでいる、研究室であろうが。紙が一切ない。
「頭ん中で整理できるからね。ものを書いてると時間かかるじゃんか。
あ~~、ん~~。うん、そこの診療台に置いといて~。あれ?その鎖、取り外し可能だったんだ。
便利~、でもないか、自縛しなきゃならないなんて。どんだけ趣味にはしってるんだ~、って感じだよね。
はいはい、おつかれさま~。ん?見てく?ああ、いや、いいや。てか、ダメ~。仕事しろよ~、私が今から仕事するのに」
看守は、一礼してその場を去って行った。詰め所に戻って……まぁ、再開するのだろう。
この部屋の主は、その後ろ姿を見送ると。おもむろに、振り向く。
「さあ、はじめようか。大丈夫、こう見えて医者でもあるからね。死にはしないさ……たぶんね」
白衣の女性は、にっこりと最上級の笑顔をみせた。美しい顔だ。だが、それよりも。
あまりにも邪悪な想いが、その場を支配した。世界が、空気が、空間がねじ曲がるほどの悪い顔。
ここまでの、無邪気なような行動とは相反する、邪気。
今まで、その表情と実力で、白衣の女性は最高議会と同等に交渉し、敵対者を下してきた。
悪意の塊を目にして、それでもその瞳を見返してきたものは、数えるほどしかいない。
気の強い者ですら、震え上がるその場において、なお。
捕虜の心は、何も感じないでいた。
4話A 了
いまさらですが、キャラの名前つけてないんですけど。読みにくくないでしょうか。
44 そのものそのときせいなるもの の人 sage 2008/10/02(木) 21:54:47 ID:pJ3kl82l
とりあえず、4話B・C書き終えました。
チェック入れてから投下になります。
じらして済まない、もしかすると、さらにじれったいことになっているかも。
45 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:08:09 ID:pJ3kl82l
「それじゃあ、まずは施術の説明、の前に確認からだね。まず、貴女は自分の体のことを、どれくらい理解しているのか?
あ~、そう、はいはい。つまり、自分の特有技能もわかってないのね。んじゃ、そこの説明から入ろうか。」
捕虜は、台の上に大の字に、仰向けに縛り付けられていた。
良心としてシーツが掛けられているが、あいも変わらずの、全裸だ。
この部屋の主は、瓦礫に埋もれていた椅子を引っ張り出し。椅子の背を捕虜に向けながら、捕虜を向いて座っている。
相変わらず、笑顔を浮かべ続けながら、捕虜の目を見て一方的に話し続ける。
「よくいままで解剖されなかったね。いやいや、よく生きていてくれたよ。私に会うまで。
特異体質だよ。魔力に対する抗体が、うん、なんか変。とっても、変。
具体的にはね、突発的魔法測からの不干渉能力とでも言うのかな。すごいね。これ
攻撃系の魔法に関してはかなりの防御能力だ。
そうだね、報告によると、時空魔法の空間断裂、食らったでしょ。覚えてる?覚えてるね。
効かなかったんだって。いや、貴女が寝てる時に、三回実験してもらったけど。首狙って。ほんと効かなかったよ。
ああ、そうそう、貴女が生きてるのは実験材料。別に、団長さんの影武者とか関係ないよ。
ってか、暗殺者は人攫いなんてしないって、フツー。そういうのは別部隊だね。
まぁ、戦後交渉するなら、貴女が団長さんの身代わりになるかもしれないけど。もう、国家として飲みこんじゃうつもりだし。
まあね、よかったよかった。想定外の物事がある場合は、出来ることなら原因究明に努めよ。ってのが暗殺者のガイドブックにあるんだよね。
んで、わかった?あれ?わかんないか~。
えとね、ドカンって感じの魔法が効かなくて。ジワジワ~て染み込んでくる魔法は効くってこと。
そんで、魔法によって二次的に発生する自然現象も効く。
例としては、そうだね、炎熱系。魔力による熱や炎による、燃焼攻撃は無効化できるんだけど。体内熱の活性化なんかの戦闘補助はできる。
まあ、魔力が馴染むのに時間がかかるから、戦闘中は使えないね。使うなら戦闘前からの事前待機が必須。
通常の浸透速度だと、だいたい数十分かかるね。
(解り難い説明のための補足。デス、レイズ、ケアルは無効化。死の宣告、リレイズ、リジェネは×2)
相称にもよるけど、いい能力だよ、即死魔法は大体無効化できるからね。いいなぁ。あ、でも同調(シンクロ)魔法には無力なのか。やっぱいいや。
調べたところによるとだね、たぶん突然変異。遺伝もしないみたいだね。生まれもったものじゃなくて、生まれもった性質が変質した感じ」
捕虜、いや被験者は、口を挟もうとは思わなかったが、口を挟む暇もない。
疑問が浮かんだ瞬間には、その説明に入っているのだ。思考を読み取るという能力をフル活用している。
46 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:09:33 ID:pJ3kl82l
少しの疑問。なぜ、実験体である自分に、無駄な説明をする?
被験者の思考に疑問が浮かんだ。
「だから、ちゃんとした反応がわからないと困るでしょ。実験をして、観察するんだから。
体感する人が正しい認識をしてないと、思考にぶれが出ちゃうの。読み取れないと実験する意味ないじゃない。
OK?」
答えは必要ない。
「はい、よろしい。いいね、理解力が高いのは良いことだよね。おもに私に。
じゃあ、施術の説明に入ろう。ここに一つの石があります。たぶん魔石。
この石は、ある魔物の核だと思われるんだ。おそらく特質は融合。ただし、こちらからの干渉を、一切合財受け付けてくれない。つれないよね。
三日三晩ラブコールしたあげくに、音をあげた私たちは。
向こうから出てきてくれるように、仕向ければいいと思ったんだ。
天岩戸作戦だね。知ってる?天岩戸。引きこもりの神様を行事に引っ張り出す罠。
んで、なんで貴女が実験体に選ばれたかというのはだね。実は、特有技能とは直接の関係はないんだ。まあ副産物みたいなものだろうね。
貴女は、突発的な魔法の効き目が無いのに対して、浸透した魔力による魔法は人一倍効きやすいんだ。
魔力が入り難く、漏れにくいんだろうね。
つまり、だ。
ちょっとコレと融合してみてくれないかな。
生命体に対しての融合と改造、だとおもわれる能力だけど、人間に対しての融合は確認されてないんだ。
危険性の有無が分かんないし、魔法の式も解明できてないから。応用しようがないんだよね。
猿で実験してみたんだけど。なんていえばいいのかな、微妙だったから。状況がわかりやすい人間でやってみよ~、ってことになったんだ」
わかってはいたことであるが、研究者は笑顔をさらに深いものとしながら、人道を無視した計画の説明をした。
忌避すべき事を耳にし、自らの身に降りかかろうとしているのが、理解できているはずであるのに。とうの被験者は動じない。
研究者の瞳を見つめ返すだけだ。
「わかってはいたけど、面白い精神もしてるよね。いやあ~、ほんっと~に観察のし甲斐があるなぁ。ラッキ~ラッキ~。
さて、それじゃあ、今度こそ始めようか」
研究者は背もたれから手を放し、被験者に近づく。一歩足を踏み出して、つまずいてこける。
47 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:11:15 ID:pJ3kl82l
気を取り直し、施術台に片手をつき、身を乗り出す。シーツを剥いだ。
魔力光に、被験者の肌が浮かび上がる。白い肌であるが、傷跡が目立つ。そのひとつ、ヘソの上を斜めに裂いた後を、研究者の指先がなぞった。
「今から、貴女の中にコレを埋め込むわけだけど、どうしようか?一番楽ちんなのは、腹掻っ捌けばいいんだけど。回復魔法も効きが悪いよね。
やっぱり、入口から開けて入れるのでいいか。大きさも手ごろだしね」
拒否も了承も必要としていない。ただ被験者に、理解させるだけが目的の言葉。
理解しないという思考は、人間は意図的に行えない。
「その前に、魔力を浸透させなきゃならないわけなんだよね。あ~、私、夫も子供もいるんだけどな~。
浮気じゃないよね、研究~研究~。あっ、子供の写真見る?かあいいんだよ。もう、ワンパク盛りでね。っと、いけないいけない、施術中だね」
軽口を言いながら、研究者は被験者に口づけをする。
唇を舐めあげ、舌を差し込もうとするのを、被験者は拒まない。されるがままに咥内を蹂躙される。
むしろ舌を絡めようとしてさえいる、ように思われた。
実際は、出来なかったのだ。舌を噛み切ってやろうとするも、いつの間にか、体全体から力が抜けていたのだ。
それこそ、口蓋を噛み締めることはおろか、手のひらを握りしめることすらも出来ないほどに。
舌で押し返そうとする、弱弱しい抵抗も意味をなくしていた。
分泌される唾液が混ざりあう。味蕾(みらい)に、相手の味と自分の味が諾々と伝わってくる。
粘膜から、浸漸とした魔力が流し込まれ。弱々しい抗体が無駄なあがきをするも、熱に消えていく。
熱い、被験者の顔が火照る。傍目に見えて耳まで赤くなっている。
唾液の分泌を促すだけだ、と被験者が自らの舌で押し返すことも諦めた時、口付けが終わる。
離れた2人の、わずかな隙間に銀の粘糸が引かれ、垂れ落ちた。
捕虜の息は少しばかり荒い、肺にまで麻痺がおよんだのだろうか。それとも流し込まれた魔力による異物感か。はたまた……興奮か。
魔力の浸透は、栄養と同じように、消化器官からの吸収が一番手っ取り早い。
48 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:12:19 ID:pJ3kl82l
「いったでしょうに。一回浸透させれば楽なものなんだよ。まあ、これは神経混乱で。元々は貴女が暴れた時の保険だったんだけどね。
気付かなかったでしょう。昨日、流し込んだやつだし。あと浸透が促進されるのと、催淫も流し込んであるけど、使う?
まあ、使った方が楽だろうし、使おうか。
あれ、でも、思考が読み取りにくくなるなあ。ど~しよ。う~ん、痛いのは慣れてる?
あ~、でも貴女経験少なそうだし。痛みでも読み取りじゃまされるなぁ。
ちょっと複雑なの流し込もうか。部分麻酔……じゃあ、駄目だね。反応が鈍くなっちゃうし。
いっそ、私の経験憑依でもしようか?身体に無理やり教え込ませとけばいいよね、うん。
んで。今しがた流し込んだのが、測定やらの検査、観察用だね。半分くらい。んじゃ、も~1回。はい、あ~ん」
研究者は、そこで言葉を切り、またも覆いかぶさる。今度は台に乗り、体ごと被験者に被さり、口を塞ぐと同時に、掌が被験者のからだを弄った。
被験者は、閉じることも出来ない口を開かされ。またも、内臓をさらすことになる。
いつの間にか。研究者の、両手が皮膚を這うごとに、くぐもったうめきが。2人の口に籠るようになっていた。
呼吸が苦しいのかもしれない。被験者は、無理やりに息を吹き込まれてもいる。
再度、口が離れる。両者共に、大きく酸素を取り込んだ。さらに、呼吸が荒くなっている。
「スイッチはいった?や~、初々しいね。性格からわかってたけど、これほどとは。あっ、もしかしてファーストキス?
いや、いきなりディープはきつかったかな。って、はい、きにしてな~い、と。溜まったこと無いのかな?
なんか、体は反応してるのに、全然乗ってこないね。まったく、こ~も強情だとちょっと堕としてみたくもあるなぁ。
でも、けんきゅ~がなぁ~。む~、クローンもあれだしな。まあ、いいや。
次いこっ。はい、じゃあ。憑依と石との神経結合補助、一辺にいっちゃおうか」
研究者は、説明を口にしながらも、その手は止まらない。
髪を掬い、梳き。耳を弄る。首周りを柔らかくなぞり、鎖骨を叩く。手の甲を擦り付けながら、鎖骨の間から胸の谷間に滑らせる。
触れるか触れないかの瀬戸際で、すり合わせたかとおもうと、優しく包み込む。そこで両手の左右対称が終わる。
左手はそのまま、心臓の鼓動に合わせ、やわやわと開閉。右手は、脇を滑り、右脇腹を幾度か擦ると。臍を掠りながら、さらに下へ。
濃くなった体毛に辿り着くと、引っ張ったり、混ぜたりと、弄る。
そのまま手のひらを、形にあわせたかと思うと。
「ぁ……」
「そういえば、ここに毒針仕込んでたね。本拠地でも気を抜かないのは良いことだと思うけど~。
ありゃ、そいえば、別に気負ってるってわけでもなかったね。
いい人材だなぁ。駒としては最適なんだよね。実力不足と判断能力と、あと詰めが甘い以外は。
戦闘中に考え事してちゃあ、ダメだよ。ちゃんと切り替えなきゃ」
中指を突き立てた。
49 そのものそのときせいなるもの 台詞が止まんないよ4話B sage 2008/10/02(木) 22:14:16 ID:pJ3kl82l
被験者の、しめられない口。喉の奥の声帯から、思いもよらずに声が上がる。生理現象である。
「……ぁあ……ぁ、…ヒュ、んぁ……うぁ……っはぁ……」
左手、右手共に律動が激しくなる。肺を圧迫され、感度が鋭敏な部位を刺激され。被験者から断続的に音が発せられる。
左手が胸部から離される。研究者が、被験者の上を後ずさりする。
感度が鋭く上がっている肌の上を、渇いた血まみれの白衣が擦れる。それにさえも、被験者の喉は、そして体は意志とは関係なく反応してしまう。
右手は相も変わらずに動きつづけている。左手を滑らかにすべらせ、内太腿をなぞりあげ、ひざの裏をくすぐる。
少し上に持ち上げたかと思うと。頭が下げられる。
研究者は、陰唇に口唇で口づけ、蓋をした。
「っつ、ふぃ、ぁにっぅ――っひ……ぁ、らぁ……っきゅ……る、ぬ……うぃ、あぁぁ……んっっ、つぁ・・・・・・っは、っひっっ……っ――――」
さらに舌を差し込まれる。研究者の口から流し込まれる唾液が、魔法により、蚯蚓の様にのたうち。膣を奥に進む。魔力が熱い。
何の抵抗もなく、子宮口から内部に侵入を果たし。そのまま内壁にその身を擦り付けるように、螺旋を巻く。
熱が広がる、違和感だけが、被験者の体の中で起こっていることのたよりだ。
研究者には、全てが目に映っていることであるが。
呼吸を許されていないような、声なき嗚咽が尚も鳴る。
「所長ーーーー!!! 大発見ですよ、大発見!! もっかい! 大!発!見!! さあ、ご一緒にもう一声!!!
だいって、ののわ!! お楽しみちゅー、見事にチュー。チューしてる再中。
ハイ! すんません、お邪魔さまでっす。馬に蹴られないうちに悪霊退散!!
じゃなくて、勤務時間ですよ! ズルイ! 1人で、ズリーですよ!! それに、今きづいたが浮気だーーー!!!
こいつぁ、大発見なんて目じゃねぇ!! さっそく旦那さんと子供さん等へ報告に゛ギャン、一つ目の鎧騎士」
奇才が舞い込んで馬鹿なこと言ったかと思うと、椅子が飛んで黙らせた。唐突過ぎる。空気が読めないとはこういうことを言うのだろう。
勢いよく開かれた扉に空気が流れ、風が被験者の意識を少し取り戻した。
研究者が口を放し、話しだす。
「あとは、突っ込むだけだから、ちょっと待っててよ。あと、家庭に口出したら、アジのひらきにしてやる」
「うぃ、むっしゅムラムラ、ちょっと裸にコーフンしてます」
「じゃあ、入れよっか。一気に入れるのと、少しづつやるのどっちがいい」
「じわじわずるずるぬちゅぬちゅウーパールーパーとエビ反りな感じで、出したり入れたりを繰り返しながら、
機を見計らって止めてはつづけてをさらに繰り返し、焦らしに焦らしてから、おねだりするまで続けて。
天☆国入場料子供料金に連れってってあげればいいんじゃないかとおもいま~す」
「ん、一気に行こうか。これの言う大発見も気になるし」
「無視はひどいですよー。あと、椅子重いです。重力加算しないでください。!?って増やさないで! 増やさんといて!! 圧力釜!!
マジ! あれ、これマジ!! 色々と出るって! 出ちゃうよ、いロリろ、十二指腸的なものがぁぁあ!!! って、うは、違うものが出た」
終に、被験者の下腹部を激痛が奔った。
喚き声がなり響いている。
4話B 了
50 そのものそのときせいなるもの 綺麗な寄生だ4話C sage 2008/10/02(木) 22:16:05 ID:pJ3kl82l
其のものは、突然に降って湧いてきた幸運に小躍りしたくなった。体はないのだが。
最初の体が破壊されてからというもの、成すがままにもてあそばれて。心身……精神が主に大打撃を受けていた。
肢を次々と切り飛ばされて、もう切られる物がなくなったかと一息、本体が真っ二つ。
あまりの出来事、超展開の連続に、しばらくのあいだ呆然と石にひきこもっていたのだが。
突然の温度急上昇。気づいたら灼熱の渦の中に取り残されていた。
さらに呆然自失、唖然、情報収集もおぼつかない状況に追い込まれた。
精神体である其のものは、精神的なショックがそのままダメージとなる。
(えっ?? え? え、炎? 火? ひ? 火ぃ!? な、なに? これ、何? やだ、火ヤダ!? ヤダ、ヤダ、やだぁぁ)
動物を取り入れ、その多重複合とした脳を一度持った其のものは。その経験を、精神として持ち続けていた。
肉体を失い、脳という拠り所を失っても尚、その記憶を存続できる能力があったのだ。
そして、それゆえに。
動物が恐れる、『火』というものを。其のものも、また、同じように恐れるようになっていた。
肉体を失い、石のままでは動くこともままならない其のものは、爆熱のただなかに1人。
石から意識を飛ばすことも、火に阻まれてできず。逃げることが出来ないまま、石の裡に籠ったままに、ただ恐怖に襲われ続けた。
其のものの肉体だったものを、焼却し尽くし。火炎が消え去っても、其のものの意識が平常値に戻ることはなかった。
完全に我を忘れ、逃避のため、防御のため、意識を保つことをやめていた。
51 そのものそのときせいなるもの 綺麗な寄生だ4話C sage 2008/10/02(木) 22:18:16 ID:pJ3kl82l
其のものが、朧げながらも意識を取り戻した時は。
(いやだ、いやだ、いやだ、いやだいやだい、やだやだやだやだやだぁ。やめて、やだよ、怖い恐いこわいコワイこわいよやだよ。いやだ……)
研究所で実験の真っ最中であった。
すなわち。斬撃 突撃 打撃 圧力 引力 熱気 冷気 雷気 研磨 腐食 酸化 音波、精神波、空間断裂、概念干渉、自壊式注入、その他。
ありとあらゆる手段で、其のものを引きずり出そうとする行為の真っただ中。
それらのほぼすべてが、野生生物には生命の脅威と成り得るもの。其のものに対しては、死の恐怖となった。
始まりの石が頑丈であったことが、救いであった、かどうかは判断できない。
ただ、初っ端から、過激な方法をとっていたわけではない。
はじめは手優しく、手ぬるく、様々な方法での反応を観察していたのだ。リトマス紙とか。
もっともその段階では、其のものは寝ていたのだが。
何をしても無反応であったということが、研究員のニトログリセリンのような研究心に、火をつけてしまった。
1つがだめなら、2つ同時に、2つでもだめなら3つで。4・5がなくて6に禁呪。と、研究員の思考が飛ぶこともあったが。
年間予算を大幅に喰った結果。成果、無し。無駄遣い。その年は、研究塔から三時のおやつが消えた。
最終的には国王が「いいかげんなんかしろよ、魔石のくせにダメダメな落しもの」とのたまったとか。
『落としもの』とは、魔物から手に入る貴重品のことを示す俗語である。
その実験のあいだ中。其のものは、何時この石の殻が割られて、依り辺を亡くした自分が四散霧消するかという。勘違いの恐怖にとらわれていた。
はるか長き旅路の間にあった、風化や星の滅びのこと、それらを乗り越えてきたことなど。
圧倒的なリアルの情動「恐怖」によって、頭の片隅に追いやられた。今の其のものに頭部は無いが。
時たま、生物に埋め込まれたりもしたが。しばらくすると引きずり出される。
其のものには、何がしたいのかさっぱり理解できなかった。
悪夢のような時間が続いた。
其んなある時
突然の幸福に、其のものは驚いた。喜びに驚嘆した。
其のものが埋め込まれたのは。ヒト胎内であった。
その躯の持ち主に、其のものは、強く、清らかで、気高き、美しい魂の欠片を見た。
其のものの生み出された理由。悪夢の中で薄れていた目的。
創造主足る神に、献上する。尊き精神を、其のものは見つけたのだった。
暗黒に引きずり込まれている最中に、希望の光が差し込んだ。
嬉しかった。光が暖かかった。精神が、力を、想いを、意思を取り戻す。
石が淡く、それでいて強く、光を放つと、子宮内部が照らし出される。
白衣の女性は、その様子を、笑顔で見ている。
彼女の瞳は、其のものの放つ精神の輝きを、魔力発光としてしか視ていなかった。
4話 完了
エチが難しいなんてLVじゃない、だめだ、どうにかしないと。
75 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:44:32 ID:JJuAj88y
5
いつの間にか、体の麻痺は消えていた。
掌を握りしめ、歯を食いしばることができるようになっていた。
しかし、体は変わらずに、思うように動きはしない。
無意識に筋肉がしまり、体を引き攣らせる。
ただ、―――痛かった。
「―――ッ! アアァァア!。っは、ッハぁ、ィっ、ギィ、ャアッァァア!!」
奥底に押し込まれた其のものが、ざわめき、存在が広がる。
内側からしみ込んでいこうとする異物。
魂はそれを許しはしない。全力をもって抗うがゆえに、苦痛が広がる。
だが、其のものはあらかじめ耕され楔を打たれていた土壌に、確実に領域を拡大させていく。
下腹部、へその奥、子宮を震源として確実に広がっていく痛苦に、全身が悲鳴を上げる。
「うぎィ、がッ、あぁぁア、ハァあぁアあぁアぁああ!!!!!」
耐え切れずに、喉から悲鳴が奔った。
ヒトの出す言葉ではない、生命としての悲鳴。
だが、それよりも、辛い。意識を保つことが辛い。
やめてくれ、と一瞬思う……搔き消された。
脳が、思考よりも反射を優先して処理していく。
考えを、感情を、ことごとく邪魔され、潰されていく。
今のわたしは人間ではない、思う事が出来ないわたしは……
刹那、彼女に浮かんだ思考も、自らの絶叫に搔き消された。
痛みはさらに四肢へと拡がり、白じむほど握りしめた掌から血がにじむ。
鋼の鎖がきしむ音がする。
「ッダっ、イギィぃガっ、ィァア゛あァ、フぃッ、っアぁあああ、ダぁアァ……」
「予想外だったね、融合に痛みが伴うことは動物実験では無かったんだけど」
生物が本能的に忌避するはずの悲鳴ですら、探究の申し子達は顔色一つ変えない。
うるさがるそぶりすらも見せずに、いつもの様に観察を続けている。
「ァガぁあっ、づぅぅウっ、ギュ、イハぁっ、ァつうっッ、っつあゼぇ、っガぁァ」
魂が傷つけられている痛み。じわりじわりとではなくジリジリとギリギリと広がっていく。
「なかはどーなってんですかー?てかよく気絶しませんね。傍目にヤバげですよ」
「っぎィゃッ、っは、つ、ぅィいィイ゛ぎぃァ、っッっつっギッ!!!……ッっガっゴはッ」
かろうじて途絶えていなかった呼吸が、衝撃により一時的に止まる。胸が灼ける。
「あ、肺に到達。すっごい活発だよ。思考が読めないのがなんか悔しいけどね。
まあ、明らかに反応が違うよ、シュガーちゃんの時とは比べ物にならない」
「あのときは、『反応があったと思ったら終わってた』って感じでしたっけ。
うは、エビぞり。熱も上がってますよ。ほんと、壊れるより先に死にそうですね」
シュガーちゃんは実験用の類人猿。研究塔用マスコットの21代目であった。
76 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:45:51 ID:JJuAj88y
叫び呻く声は途絶えていない。さらに痛々しきものへと悪化していく。
「―――アぁあっ、つギぃィイ、シぃいいイィグッ、ガゥギィイッはっ、っっ……」
その、焼けつくすような灼熱の痛みを、白衣の女性は理解出来ている。……だが。
「まだまだ平気だよ。でもこの様子だと、歯が砕けちゃうね。噛み布つけてあげて」
「らっじゃー。コレ、鎖も食い込んじゃってますけどー」
「それは私じゃ外せないからなぁ。って、あれ?」
ついに、押し返そうと抵抗する魂が薄れ、其のものが勝利した。
「っッ!っ!??ィガァああぁぁあぁぁぁぁぁあああああああああああっ!!!―――」
其のものの意思が脳へと行き着いた。瞬間、身を襲うものがはじけ飛ぶ。
一際強い痛みが巡り、五感すべてが激痛に消し飛ばされる。
見開いた瞳には白閃が、悲鳴を拾う耳は爆音による消音、鼻も口も実感がない。
そしてなによりも、激痛。
痛みに体が跳ね躍る。
だが、気絶はしなかった。
耐えきれない波が、全身へと廻っていた辛苦が、前触れもなく鳴りを潜めた。
「ぁ……?…っっんっ、んぁぁあ゛ンっ?? カ、ハぁっ、ハァっ、はぁ、はー、ヒっ、ひゅーー……」
「ありゃ?おさまってますね。完了したんですかー?」
「いや、やっぱりよくわかんね。小休止なのかな? やっぱグダグダだなぁ、この魔石。
……お~い、落ち着いたかい? とりあえず感想のほどは?」
「……ぁー……・・・―――」
「あ、気絶。いや、寝た? んで、どうでした?」
答える意思がないのか、答えることができないのか、返答はなかった。
凄まじい勢いで体力が消耗され。意識はすでに閉じていた。
だがその前に、耳に届き聞こえてはいた、それだけで十分である。
「キモイってさ。激痛以外には高熱、吐き気、頭痛、めまい、寒気、まるで風邪の症状だね」
「それじゃあひと段落したところで。え~と、大発見なんですよ、たぶん、いやおそらく……」
「飛び込んできたときの勢いはどこ行ったの?」
「おしっこと一緒に飛び出ました」
「ああそう、掃除しといてね」
何も問題はなく、話題は移り変わる。何事もなかったかのように。
77 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:47:29 ID:JJuAj88y
其のものによる干渉は止まり。肉体への意識の浸透を完了させた。
しかし、精神の搾取が完了したわけではない。
脳髄を手中に収めたからと言って、完了するようなことではなかった。
肉体しか手に入れていない。
脳内で神経を弄繰り回して出来ることは、あくまでも肉体的な反応でしかないのだ。
其のものの目的は、肉体の乗っ取りではない、精神の搾取である。
いまだに、精神には直接手を出せてすらいなかった。
―――躊躇したのだ。
お膳立てをされたナカ、サクサクと寄生が進み。当たり前のように成功した。
脳を手中に収めた、身体を手に入れた、とたんに。
其のものは躊躇した。
たった一瞬、新しい身体にはしった激痛に、止められた。
いまや、自分の身体として手に入れてしまった痛み。
すでに名残が残るだけであったが。
それだけで、少しも進めなくなった。
本能的な恐怖や、ただの肉体的な痛みとは違う。
ヒトが感じる痛みに直に触れてしまったのだ。
はじめて作った身体をバラバラにされた時とは違っていた。
あの時は、痛みを『恐怖を引き起こすための電気信号』程度にしか感じていなかった。
だが今は、魂の拒絶反応という性質の違う痛みが、身体に反映されている。
その痛みが、精神体である其のものには、怖かった。
直接的に存在を傷つけられる痛みが。
恐怖を知った其のものには恐ろしかった。
(あ……)
そこで、宿主の意識が落ちてしまう。
其のものがまごまごしているうちに、宿主は寝てしまった。
精神が表に出ていない時に介入はできない。
其のものは器用ではない。
寝てる人に物事を言い聞かせることなんてできない。
無理やり身体を動かすことはできるが、体力も消耗している。
それに、囚われの身ではできることも無い。
(とりあえず、調子の悪い身体を治しておこう)
静かに、魂がざわめくが、痛みはもう無い。
……ほっ。一息身構えたが痛みはない。一応は完遂している。
静かに、静かに、柔らかい光が身体の内を癒してゆく。
78 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:48:18 ID:JJuAj88y
気がつけば、体の中に何かいる。
自分のものではないと確信できる存在が、わたしのナカに。
体の中に巣くっているということを認識した。
―――つまりは、わたしを喰おうということなのか。
勝手に心に思いが拡がっていく。
譲渡を。
差し出すことを思い込んでいるのだ。
わたしの思いじゃない。思うことの少ないわたしには解かる。
望んでなどいないのに、願っている。
いまや、体がそれを望むように作りかえられ、仕向けられてしまった。
自分だけのものでなくなったしまった身体に……吐き気がする。
正直、うっとうしい。腹が立った。
わたしは、目的も何もなく生きてきていた。
考えようによっては、何時死んでも未練はないとさえ思うこともあった。
自殺することに躊躇いなんてなかった。
ただ、それはわたしとしてだ。
わたし自身として、わたしのまま死ぬこと。
そして。わたしが無くなっても生きることを、嫌悪していることに気づけた。
―――させてたまるか……
必死で生きてきた、わたしが生きてきた理由だったのだと。今、気付いた。
必ず、わたしのままに生き、死ぬことが、生きる意味。
ひどく自己中心的な思想である。不毛な信念。だが、かえりみることはないだろう。
この想いは酷くわたしに馴染んでいた。
今までは、わたしが求めるものがなかったから、社会から破錠せず生きてこられた。
今現在も求めるものは無いに等しい。
略奪された体は生きようとしているが。
わたし自身には、今もそんなことは思えない。
生きたいなどとは、いまだ思わない。
だが、今のわたしは。わたしとして在りたい、とだけ想えている。
清々しい気持ちだった。初めての経験だ。
自分の中から、1つの意志を見い出しただけで、幸せになれたような気がする。
その幸せを手放したくない、そう強く想う。
強く、とても強く、始めての想いが、心のなかで息づいた。
鼓動に魔力が目覚める。
79 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:49:44 ID:JJuAj88y
(おきた!)
宿主が目を覚ましたことに、其のものは喜び……ひどく狼狽した。
思わず、宿主の精神へと差し向けようと用意していた分裂意識を引っ込める。
不快感、拒絶心、否定思考。つまりは、怒り。
其のものがコンタクトを取ろうとするより早く。
寝起きとは思えないほどの圧倒的な意志を叩きつけられる。
何一つ認めない怒気。
その威圧感だけで、其のものは完全に竦みあがってしまった。
本能的に、怒りは恐怖を誘う。
其のものの方が圧倒的有利な立場にいるにもかかわらず。
何ひとつすることが出来なかった。
ただ、恐怖で混乱して、動揺してしまい思考が定まらない。何も出来ない。
いつもどおりだ。
いつもの様に、なにひとつ出来ていない。
其のものは勇気を知らない。
いままで、このところずっと、おびえつづけてきた。
恐怖の前で、あえてそれに挑むということを知らなかったのだ。
其のものは、尊いものを手に入れようとするわりに、気高きものを知らなかった。
80 そのものそのときせいなるもの ヘタレ5話 sage 2008/10/05(日) 23:51:26 ID:JJuAj88y
5話 了
以上です。
其のものが構想段階よりヘタレ増し増し。
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