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そのものそのときせいなるもの 第一話・第二話・第三話
19 名無しさん@ピンキー sage 2008/09/30(火) 19:41:06 ID:Beoo/ShO
エチなにそれ?なかんじですが、どうぞ。
其のものは眠っていた。 長い眠りだ、人の時間にして6666日。
その数字に意味はない、ただ、其のものにとっては寝て起きただけ。
一度目を覚ませば、その生を終えるまで起きている。そういうものなのだ。
自分にとっては寝て起きただけの気楽な時。
しかし、その間宿主は一人だった。孤独を味あわせてしまったかもしれない。
そう思うと、すこしだけ悲しい気持ちになる。
寄生とは、本来、持ちつ持たれつの関係なのだ。
だが自分は毎回、毎回、彼女に与えてもらってばかりいるような気さえする。
しかしながら、そんな憂憐な気さえも。しばらくの間は彼女と共にいられるのだと思うと。
溢れ出す愛おしい気持ちに、打ち消された。
其のものの歴史を語ろう。
其のものが現れたのは、この世界の時間軸ではないし、この星の位置座標内でもない。違う時空、いわゆる異世界の人の住む星に落ちていった、一つの石だっ た。
そのまた違う世界から飛び出してきた一つの意思。宇宙空間に爆発を起こしながら吐き出され。
とても長い間……そう、いくつかの星の寿命ほどの時を彷徨い。
ようやく、ヒトの住む星に落ち着いた。
其の意思には、知能も知恵もまだ無かった。
また、長い旅をしてきた其の石は、ひどく歪んでいた。 外見も中身も。
もともとあった力も何も消え、すでに無い。 長い旅の間で、風化して失われてしまった。
だが、その程度のことは、其れを生み出したもの(創造主)には理解できていたこ とである。
其のものは、曲がりなしにも神の細工であった。
20 名無しさん@ピンキー sage 2008/09/30(火) 19:42:29 ID:Beoo/ShO
其の石は神の子であり、神に仕える意思。 それなりに上等な存在である。
つまり何の問題もなかった。想定範囲内の出来事でしかない。
其の意思は最寄りの生命反応を乗っ取るため行動する。
意思を拡散させ、疑似体積を肥大化、本体たる石を中心に森一つ、とまでは行かないが。
だいたい6割5分ほどを掌握する。 無機物を即座に管理下 にしき、水に浸透。そこからありとあらゆる物質に意思を広げ。 植物へ と寄生、一日かけて完了させた。
その間、数人のヒトの存在を感知する。
意思 を飛ばし後を追いかけたところ、集落を発見することができた。
ただ、今はまだ寄生、その時ではない。
本体が弱体化している今、人に 寄生することなどできなかった。
万全の状態ですら、全ての意思を本体に集めなければ、目標とする精神の搾取はできないのだ。
今は、体を作らねばならない。
長い時の間に失った力を取り戻さなければ、どうしようもないただの石だ。
時なんていくらでもあるのだから気楽なものだ った。 もっとも其のものに時という概念など無いのだが。
水に浸透した意思から、植物や魚を通り、地上を謳歌する動物へと寄生を進めていく。 なるべく進化した脊椎動物、哺乳類をおおく取り込まなければいけない。
神を創り出す精神力を持つような人間に寄生しなければならないのだ。 確固とした本体を作りあげなければ、返り討ちにあいはじめからやり直さなければいけなくなってしまう。
高度な脳も持たない生き物に寄生するのは何の問題もなかった。
無機物にさえ寄生できる。
ただ、知的生命体と呼べるもの持つ、条件づけされたある種の感情の移り変わり。
其のものが自らの神に献上するものはそれだけであった。
精神存在でしかない神が食すのは、精神であるのだ。
つまり其のものは神の食事の使い走りでしかない。
ただし、いまだに神が食事をする必要があるのかが理解できないが。
其のものはそのために生きている。 其のものには食事は必要なかった。
精神を刈り取る。 そのためには、たゆまない努力が必要である。
其のものは努力家であった。ヒトの常識と比較して、だが。
成功の可能性を少しづつあげていくことに余念がないのだ。
凝り性とも言う。少しばかり神経質でもある。
神がそう作られた。
21 名無しさん@ピンキー sage 2008/09/30(火) 19:43:21 ID:Beoo/ShO
少し、時を飛ばそう。
幾多もの下等生物に同時寄生し、乗っ取り、融合をしたことにより。
其のものは、ある程度の体を得、ようやく元の力を使えるようにまでな った。
すなわち、知的生命ヒトへの寄生を十分にできうる力。
つまり、すでにiヒトに匹敵するだけの能力値を持っていた。
膨大な量の時間を共に旅した石を核にし。 周囲を覆うように脳、その周りを骨が覆い、さらに筋肉皮と続く。
効率のため基盤は球体、それは少し宙に浮いている。手足などの移動や自衛、行動のための肢は取り込んだ生物、そのままの流用であった。 効率などあったものではない。
『とりあえずよくわかんないから何となく動くように した』 そんな感じだ。
そのさまざまな部位に口や目や何から何やらがある。 内蔵の重複など数えきれない。
これも 『とりあえず多いにこしたことはないよね』 という設計理念だ。
ただ、空間把握能力だけは生まれながら高いので、肢(生物)を絡ませたり躓いたりもせず、
数多くの視界もすべて把握していた。
神の細工などというものは、人の技巧、もしくは自然界の法則、式などの様式美や完全性を差す言葉であるからして。
神が、其のものを見た目はただの石としてしか作れなかったように。
神の子たる、其のものは……美的センスなんてもの持ってなかった。
まさにカオス、混沌である。コスモスってなにそれ栄養価高い?
22 名無しさん@ピンキー sage 2008/09/30(火) 19:44:48 ID:Beoo/ShO
ただ、当の其のものは、歓喜していた。
一度、一人の知的生命の魂への寄生に成功してしまえば。用無しとなるもので あったが。
其のものは、目標への道が手に届くようなったことへの充足感や、
生まれて初めての能動的行動の成功。その証拠としての肉体への愛着。
五感をもって自主的に動くことのできることの開放感。
それらの感情を 手に入れた肉体、脳で感じ取り。
神の子は自然を生命を謳歌していた。
そんなウキウキ気分で、其のものは歩き出す、腕やら脚やら触手やら鰭やらをわきわきわらわらさせながら。大行進である、たった一つのものでしかないが。
この後、其のものは何の考えも無く人の集落に向けて進み。
発見され、村人に切られ殴られ射られ火をつけられ、さらに魔法の追撃に追い立てられ、
ほうほうの体で森深くへと逃げだした。
この世界には魔法使いがいる。
さらに後日、魔物討伐に騎士団が派遣されてきた。
村に起こった異変を国がかぎつけたらしい。 この国の王は無能ではなかった。
其のものは騎士団にバラバラにされ、さらに火葬にされる。抵抗する暇もなかった。
手も足も出ず、解体作業は半刻で完了した。
其のものに集団戦のプロを倒す戦闘力はなかった。
作り上げた体は灰にされ、燃えずに後に残った核石は魔石として王都まで持ち帰られることになる。
魔力を持つ物体は貴重品であり、高値で取引されるのだ。
ヒトは強く、貪欲で強欲でしたたかであり、世界の支配者だった。
以上 プロローグ的なものでした。
24 そのものそのときせいなるもの プロローグてきな2話 sage 2008/09/30(火) 21:36:32 ID:Beoo/ShO
その日、久方ぶりに王立魔導研究塔地下2階は忙しかった。
新種の魔物が発見されたのだ。とはいっても、危険性の判断がされない新種は見敵必殺。
すでに討伐が完了され、今となっては残るものは、核とおもわれる魔石が一つだけ。危険性は少なかった。いや、なかった。
其の魔物が発見されたのは、王都より東にひとつ山を越えた麓の森。村と森の境目。
昼過ぎ、村の畑に、のっそりと無防備に現れた其の魔物は、
球体の本体からおそらく森で喰ったであろう生体の脚を自らの足として代用して動いていた。一見するとみこしに担がれるような
格好だ。
隠れもせずに現れた魔物は、当たり前のように発見され、数十秒後には村の警鐘が鳴りひびいた。
発見から5分もしないうちに腕の立つ村人たちに囲まれる。
その時は肢の2割ほどを犠牲にしての逃亡を許してしまう。 森の奥深くまで隠れ、新しい肢。新しい生物を補充していたと思われ
る。
2日後に騎士団が立ち会った時には、事前の村人の証言よりも遥かに多くの肢が生え、肢から肢が出ていたほどらしい。
戦闘能力の評価としては、討伐にあたった騎士は『解体作業』とだけ答えた。
事実、無傷とはいかないが。戦死者なし重傷者1名ほか軽傷者数名という、魔物討伐にしては快挙である。
1名の重傷者は、お約束の如く事故であった。馬に蹴られたらしい。
攻撃能力といったものはないに等しく、爪牙角など野生生物にみられる武器も確認されたが、特に注意するほどのものでもなかっ
た。
肢として奪ったときに、体ごとついてきたものであろうということ。
移動能力は巨体に似合わずにそれなりに俊敏。あくまでもそれなりに。
その体躯を生かした体当たり(質量攻撃)さえしてこなかった。と報告されている。
おそらくではあるが、他の生命によって危険に瀕したことがなかったのであろう。当然、戦闘などしたことはなかった、ただの一
度も。
野生生物に対しての何かしらの手段により、戦闘を回避、それ以上に肢として捕食してきた。ひたすら一方的に。
人に見つかるまでの僅かな間だけ不敗だったのだろう。失敗をしたことすらなかったのなら、弱いはずである。
25 そのものそのときせいなるもの プロローグてきな2話 sage 2008/09/30(火) 21:38:51 ID:Beoo/ShO
騎士団所属の魔導士によると強大な魔力を保持していたことが分かっている。
しかし戦闘用の魔法を使用した形跡は一切無い。生物の肢としての使役、そのために融合魔法を使用しているかと思われたが。
本体(核)から切り離された部位には、魔力が一切宿らずに霧散していまっていた。
肢は完全に使い捨てのものなのであろう。取り換え可能な消耗品といったところか。
ひとつ、驚くべきことに、行き当たりばったりの知能のかけらも感じさせない行動をしていたのに対して、
球状の本体には脳がみっちりと詰まっていた。 大きさだけで言うなら人の三倍はある脳髄が。皮と筋肉と骨に包まれてである。
いずれも使い込まれた形跡もなく、新生細胞であろうということ。
騎士団員いわく「実にうまそうな色をしていた」らしい。そういえば、このごろ肉を食べていない。蛇が食べたい。研究員の腹が盛大に鳴る。
毒物の検出ができる魔導士も医師もいなかったので、誰一人口に入れていないらしが。
青二才の新兵が馬鹿をやらかしてでもくれれば、実験材料が増えたのに。と、研究員は惜しげに軽口を言う。
とりあえず、以上のことから、魔物は幼生体であったのだと推測ができる。 経験が圧倒的に無かったための無考慮の行動、警戒心の欠如。
足を手にいれて調子に乗って、行動範囲を広げようとしたところで村に行き着いたというわけだ。
自己回復力が優れていたための新鮮な細胞、だとも考えることができるが。其の様子もない。
騎士団は念を入れて、灰塵になるまで燃やし尽くしてきてくれたが。できれば、生け捕りにしてもらいたかったものだ。
もしも、この魔物の持っていたとおもわれる、『動植物に対しての何かしらの力』が人間にたいしても効果を持っていた場合、
面倒なことになっていたのだから正しいことであるのだが。
とてもとても悲しいことに、国の意思は 研究<民心 なのだ、こればかりは覆しようもない。
ただ一つの遺品についてだが。本体は、魔物にしては軟弱な構造であるのに対し、
逆に核はいかなる干渉も受け付けないほどの防御能力を持っていた。
斬撃 突撃 打撃 圧力 引力 熱気 冷気 雷気 研磨 腐食 酸化 音波、果ては最高位魔導士による精神波、空間断裂、概念干渉、自壊式注入、
何をしても無反応。
つまりそこから導き出される結論は
26 そのものそのときせいなるもの プロローグてきな2話 sage 2008/09/30(火) 21:40:21 ID:Beoo/ShO
『何を実験しても壊れないからだいじょうブイ』 研究員の優秀な脳が出した法則であった。
「じゃあ、とーりあえずっ、手っ始めにぃ~人・体・実・験♪い~っえい!!」 「「「いえーい!!!」」」
いついかなる時代・世界でも、天才という存在は、常人とは一線を画しているものであった。
国はこの者たち、この者たちの研究にに多くの資金を投じている。
曲がりなしに様々な分野においての最先端の技術を発見、応用してきているのだ。
今この国の王が生きていることすら、最先端医療のたまものでもある。
ヒトにとって魔物はまさしく金の生る木である。
この日、哀れな被験者として選ばれ、つれてこられたのは、一人の捕虜だった。
隣国のある戦闘部隊の副団長……付きの侍女である。
後に救国の英雄として崇められ。 世界の崩壊の時まで賞賛され続けた聖女。
不幸続きの、其のものにとっては珍しく運のよいことに。 清く正しい魂を持つ者である。
創造主に献上するに相応しい、高潔な精神であった。
……もっとも、始まりの石に戻ってしまった其のものにとっては、いささか荷が重すぎる相手のようだが。
運命の出会いはどこにでも転がっている。
現に、このような研究所の所長ですらも。熱烈な恋愛の上に結婚していて、こどもが3人いるのだ。
変なところで改行が入ってしまったことを深くお詫びします
27 そのものそのときせいなるもの やっとヒロイン登場な3話 sage 2008/09/30(火) 23:57:24 ID:Beoo/ShO
すまない……まだ、寄生の時間じゃないんだ。たぶん4話から本編
3
気がつけば、明るい牢獄の中で足枷を嵌められて。わたしは、幽閉されていた。
……ああ、負けたのか、と。ひとりごちる。何も感じない。
戦にかかわるものとして、武芸の稽古だけは怠らずに行っていたのだが。
完全に力不足だったわけではなかった。相手が悪かった、場所が悪かった、時間が悪かった。
そして、何よりも……油断していた自分が悪かったのだ。
わたしの位置づけは副団長の侍女ということになっているが。
実際は、団長の影武者である。旅団のなかでも背格好、髪、声色が似ていたためだ。
わたし以外に適したものがいなかった、だから影武者という大役を演じていた。仕事であったからだと思っている。
わたしが旅団に入団したのは、なりゆきである。愛国心なんてもの有る無いかもわからない。
ただの、生きていくための、成り行きでしかなかったんだ。
親もわからず、国営孤児院の前に捨てられていた私は、物心ついたときから剣を握っていた。
孤児院では、養子としての迎え入れなどがなければ、孤児は皆、兵士として育てられていく。男女分け隔てなく。
魔法の素養が無かった、わたしには戦士しかなかった。
わたしの国では、孤児院は慈善事業でもなんでもない。大人になり、働けるようになるまで、その間の養育費を代替えしている状態なのだ。
わたし達のような孤児に職業選択という自由は、ほとんど無い。というのも、借金全額を返済しなければ、兵役から逃れられないのだから。
逃げ出す者もいる。弱い者や、優しいものが、「もうヤダ」そういう愚痴をこぼす。
実際に逃げ出すものは少ない。逃亡に成功する者も、また、少ない。兵士の逃亡罪は極刑である。
不思議と、わたしは逃げ出したいとは思わなかった。ただの一度も。
勇気があるとか、そういうのじゃないと思う。
無謀や、怖いもの知らず、蛮勇、そして勇猛果敢。そういうふうに称された。
でも、わたしが私自身を、勇気があるなんて感じたことはない。ただ、わたしは、怖くなかっただけなのだ、ただ単に。
ただ、生きることに必死だった。でも、生き残ることに必死にはなれなかった。
仕事をしていることに必死だった。向上心はあった、だけど、欲望はない。
28 そのものそのときせいなるもの やっとヒロイン登場な3話 sage 2008/09/30(火) 23:58:48 ID:Beoo/ShO
そうだ、わたしは仕事だから働いていただけなのだ。仕事だから戦った。
そして……負けたんだ。
奇襲だった。暗殺者は音もなく入り込んできていた。
わたしが気づいた時、時計はまだ朝の6時を回って、いなかった。
わずかな違和感を感じる。……時計の、いや、時間の進みが、遅い。
時空系の魔法を使われていると気づいた時には、荷物を放り、誰もいない廊下を駆け抜けていた。
よりによって本拠地に侵入された。全体が油断しているところを、それゆえに一番守りが厳重なはずな場所に。
こちらの警戒をすべて抜けてきた相手が、警戒していないわたし達を狙っている。
速く、もっと、早く、気付くべきだった。致命的に後れを取っている。
扉を蹴破って執務室に押し入った時には、わたしの守るべき副団長は赤いの水たまりに首以外があって。首は見当たらない。
団長は3人相手に切り結んでいた。護衛の姿は一人もない。殺されたか、気付けないでいるか。
わたしは、全力で疾走したため、抜剣すらしていない。息は乱れていないのが救いだ。
部屋に踏みった瞬間、足下の扉の残骸が爆発。残骸が吹き飛ぶ一瞬で、前に跳ぶ。
刹那の間に暗殺者の一人に肉薄、短刀を叩き、おとせずに、また爆発。爆心地は背中、服だ。
爆風でさらに吹き飛ばされる先には、副団長の遺体。爆音で耳がへんになっている。
視線が留まらず、いましがた自分が入ってきた扉跡には一人の暗殺者。
魔法の詠唱がかすかに聞こえたと思うと、団長の髪が揺らめき、宙を舞った。首ごと。
団長の金髪が床に触れる前に、首は跡かたもなくかき消える。
首を飛ばされた、どこかへと。
団長も、おそらく副団長も。もうあの二人が横柄に笑うことも、眼鏡の奥で鋭い眼光を走らせることもないのだろう。
さらに一度、詠唱が耳を打つ。
必死になって仕事を全うしていたのに。
いざ、失敗してみても、なにもない。何も感じることが出来ない。すこし、呆然としていると。
そこで意識が消えた。
29 そのものそのときせいなるもの やっとヒロイン登場な3話 sage 2008/10/01(水) 00:01:06 ID:4tXsJHcS
「死んで……無い?」
死んでいなかった。殺されていない。首はまだ繋がっている。
何のために生きているのだろう、なんていう問いも。答えは決まっている。生きるためでしかないのだ。
何のために殺されていないのか、誰一人気づいていなかったあの状態で、助けが入ったとも思わない。
団長(殺害目標)を三人で囲んでいて時点ですら、伏兵をしていたのだ。あの状況で手を抜く必要はない。
おそらくは、捕らえられた、ということなんだろうな。
おそらくは、『団長』を捕虜として捕らえたということにするつもりなのだろう。
こういった状況では、自害が命じられている。影武者として。
気づけば全裸にシーツ一枚という格好。あとは足かせのみ。
暗器なんて全て奪われている。咥内の毒薬も無い。念のため下も確認したが、無い。
そこで、舌を噛み切ろうとしたが……出来ない。
古代魔法か何かなのであろう。古臭い王城にはあるものだ。魔法の知識なんて有りもしない自分に、どうこうできるものでもない。
することがなくなると、とたん暇になる。
牢獄の中はまだ明るい、遥か高みから光が差し込んでいる。天井が高く、閉鎖感が感じられない。
壁際にあるベッドしか物はなく、しかも、広い分余計に簡素だ。扉も壁にはない。
天窓からは陽光が差し込み円形の日当を創っている。
白布をまといそこまで丸い足枷を引きずり、仰向けに寝転がる。床は大理石だろうか、冷たい。
いつも、団長はよくこうして空を見上げていて、副団長もそれに付き合わされていた。当然のように、次女であるわたしも。
わたしの失態で、死んだ。
いつものように、(何も)思う事が出来ない。
……いつか、いつもと変わらずに、空は蒼い。
ただ、いつもとは違い小さな青だった。
とても、小さくて、とても、遠い。
3話 了
4話は休日返上で書こうと思う
エチなにそれ?なかんじですが、どうぞ。
其のものは眠っていた。 長い眠りだ、人の時間にして6666日。
その数字に意味はない、ただ、其のものにとっては寝て起きただけ。
一度目を覚ませば、その生を終えるまで起きている。そういうものなのだ。
自分にとっては寝て起きただけの気楽な時。
しかし、その間宿主は一人だった。孤独を味あわせてしまったかもしれない。
そう思うと、すこしだけ悲しい気持ちになる。
寄生とは、本来、持ちつ持たれつの関係なのだ。
だが自分は毎回、毎回、彼女に与えてもらってばかりいるような気さえする。
しかしながら、そんな憂憐な気さえも。しばらくの間は彼女と共にいられるのだと思うと。
溢れ出す愛おしい気持ちに、打ち消された。
其のものの歴史を語ろう。
其のものが現れたのは、この世界の時間軸ではないし、この星の位置座標内でもない。違う時空、いわゆる異世界の人の住む星に落ちていった、一つの石だっ た。
そのまた違う世界から飛び出してきた一つの意思。宇宙空間に爆発を起こしながら吐き出され。
とても長い間……そう、いくつかの星の寿命ほどの時を彷徨い。
ようやく、ヒトの住む星に落ち着いた。
其の意思には、知能も知恵もまだ無かった。
また、長い旅をしてきた其の石は、ひどく歪んでいた。 外見も中身も。
もともとあった力も何も消え、すでに無い。 長い旅の間で、風化して失われてしまった。
だが、その程度のことは、其れを生み出したもの(創造主)には理解できていたこ とである。
其のものは、曲がりなしにも神の細工であった。
20 名無しさん@ピンキー sage 2008/09/30(火) 19:42:29 ID:Beoo/ShO
其の石は神の子であり、神に仕える意思。 それなりに上等な存在である。
つまり何の問題もなかった。想定範囲内の出来事でしかない。
其の意思は最寄りの生命反応を乗っ取るため行動する。
意思を拡散させ、疑似体積を肥大化、本体たる石を中心に森一つ、とまでは行かないが。
だいたい6割5分ほどを掌握する。 無機物を即座に管理下 にしき、水に浸透。そこからありとあらゆる物質に意思を広げ。 植物へ と寄生、一日かけて完了させた。
その間、数人のヒトの存在を感知する。
意思 を飛ばし後を追いかけたところ、集落を発見することができた。
ただ、今はまだ寄生、その時ではない。
本体が弱体化している今、人に 寄生することなどできなかった。
万全の状態ですら、全ての意思を本体に集めなければ、目標とする精神の搾取はできないのだ。
今は、体を作らねばならない。
長い時の間に失った力を取り戻さなければ、どうしようもないただの石だ。
時なんていくらでもあるのだから気楽なものだ った。 もっとも其のものに時という概念など無いのだが。
水に浸透した意思から、植物や魚を通り、地上を謳歌する動物へと寄生を進めていく。 なるべく進化した脊椎動物、哺乳類をおおく取り込まなければいけない。
神を創り出す精神力を持つような人間に寄生しなければならないのだ。 確固とした本体を作りあげなければ、返り討ちにあいはじめからやり直さなければいけなくなってしまう。
高度な脳も持たない生き物に寄生するのは何の問題もなかった。
無機物にさえ寄生できる。
ただ、知的生命体と呼べるもの持つ、条件づけされたある種の感情の移り変わり。
其のものが自らの神に献上するものはそれだけであった。
精神存在でしかない神が食すのは、精神であるのだ。
つまり其のものは神の食事の使い走りでしかない。
ただし、いまだに神が食事をする必要があるのかが理解できないが。
其のものはそのために生きている。 其のものには食事は必要なかった。
精神を刈り取る。 そのためには、たゆまない努力が必要である。
其のものは努力家であった。ヒトの常識と比較して、だが。
成功の可能性を少しづつあげていくことに余念がないのだ。
凝り性とも言う。少しばかり神経質でもある。
神がそう作られた。
21 名無しさん@ピンキー sage 2008/09/30(火) 19:43:21 ID:Beoo/ShO
少し、時を飛ばそう。
幾多もの下等生物に同時寄生し、乗っ取り、融合をしたことにより。
其のものは、ある程度の体を得、ようやく元の力を使えるようにまでな った。
すなわち、知的生命ヒトへの寄生を十分にできうる力。
つまり、すでにiヒトに匹敵するだけの能力値を持っていた。
膨大な量の時間を共に旅した石を核にし。 周囲を覆うように脳、その周りを骨が覆い、さらに筋肉皮と続く。
効率のため基盤は球体、それは少し宙に浮いている。手足などの移動や自衛、行動のための肢は取り込んだ生物、そのままの流用であった。 効率などあったものではない。
『とりあえずよくわかんないから何となく動くように した』 そんな感じだ。
そのさまざまな部位に口や目や何から何やらがある。 内蔵の重複など数えきれない。
これも 『とりあえず多いにこしたことはないよね』 という設計理念だ。
ただ、空間把握能力だけは生まれながら高いので、肢(生物)を絡ませたり躓いたりもせず、
数多くの視界もすべて把握していた。
神の細工などというものは、人の技巧、もしくは自然界の法則、式などの様式美や完全性を差す言葉であるからして。
神が、其のものを見た目はただの石としてしか作れなかったように。
神の子たる、其のものは……美的センスなんてもの持ってなかった。
まさにカオス、混沌である。コスモスってなにそれ栄養価高い?
22 名無しさん@ピンキー sage 2008/09/30(火) 19:44:48 ID:Beoo/ShO
ただ、当の其のものは、歓喜していた。
一度、一人の知的生命の魂への寄生に成功してしまえば。用無しとなるもので あったが。
其のものは、目標への道が手に届くようなったことへの充足感や、
生まれて初めての能動的行動の成功。その証拠としての肉体への愛着。
五感をもって自主的に動くことのできることの開放感。
それらの感情を 手に入れた肉体、脳で感じ取り。
神の子は自然を生命を謳歌していた。
そんなウキウキ気分で、其のものは歩き出す、腕やら脚やら触手やら鰭やらをわきわきわらわらさせながら。大行進である、たった一つのものでしかないが。
この後、其のものは何の考えも無く人の集落に向けて進み。
発見され、村人に切られ殴られ射られ火をつけられ、さらに魔法の追撃に追い立てられ、
ほうほうの体で森深くへと逃げだした。
この世界には魔法使いがいる。
さらに後日、魔物討伐に騎士団が派遣されてきた。
村に起こった異変を国がかぎつけたらしい。 この国の王は無能ではなかった。
其のものは騎士団にバラバラにされ、さらに火葬にされる。抵抗する暇もなかった。
手も足も出ず、解体作業は半刻で完了した。
其のものに集団戦のプロを倒す戦闘力はなかった。
作り上げた体は灰にされ、燃えずに後に残った核石は魔石として王都まで持ち帰られることになる。
魔力を持つ物体は貴重品であり、高値で取引されるのだ。
ヒトは強く、貪欲で強欲でしたたかであり、世界の支配者だった。
以上 プロローグ的なものでした。
24 そのものそのときせいなるもの プロローグてきな2話 sage 2008/09/30(火) 21:36:32 ID:Beoo/ShO
その日、久方ぶりに王立魔導研究塔地下2階は忙しかった。
新種の魔物が発見されたのだ。とはいっても、危険性の判断がされない新種は見敵必殺。
すでに討伐が完了され、今となっては残るものは、核とおもわれる魔石が一つだけ。危険性は少なかった。いや、なかった。
其の魔物が発見されたのは、王都より東にひとつ山を越えた麓の森。村と森の境目。
昼過ぎ、村の畑に、のっそりと無防備に現れた其の魔物は、
球体の本体からおそらく森で喰ったであろう生体の脚を自らの足として代用して動いていた。一見するとみこしに担がれるような
格好だ。
隠れもせずに現れた魔物は、当たり前のように発見され、数十秒後には村の警鐘が鳴りひびいた。
発見から5分もしないうちに腕の立つ村人たちに囲まれる。
その時は肢の2割ほどを犠牲にしての逃亡を許してしまう。 森の奥深くまで隠れ、新しい肢。新しい生物を補充していたと思われ
る。
2日後に騎士団が立ち会った時には、事前の村人の証言よりも遥かに多くの肢が生え、肢から肢が出ていたほどらしい。
戦闘能力の評価としては、討伐にあたった騎士は『解体作業』とだけ答えた。
事実、無傷とはいかないが。戦死者なし重傷者1名ほか軽傷者数名という、魔物討伐にしては快挙である。
1名の重傷者は、お約束の如く事故であった。馬に蹴られたらしい。
攻撃能力といったものはないに等しく、爪牙角など野生生物にみられる武器も確認されたが、特に注意するほどのものでもなかっ
た。
肢として奪ったときに、体ごとついてきたものであろうということ。
移動能力は巨体に似合わずにそれなりに俊敏。あくまでもそれなりに。
その体躯を生かした体当たり(質量攻撃)さえしてこなかった。と報告されている。
おそらくではあるが、他の生命によって危険に瀕したことがなかったのであろう。当然、戦闘などしたことはなかった、ただの一
度も。
野生生物に対しての何かしらの手段により、戦闘を回避、それ以上に肢として捕食してきた。ひたすら一方的に。
人に見つかるまでの僅かな間だけ不敗だったのだろう。失敗をしたことすらなかったのなら、弱いはずである。
25 そのものそのときせいなるもの プロローグてきな2話 sage 2008/09/30(火) 21:38:51 ID:Beoo/ShO
騎士団所属の魔導士によると強大な魔力を保持していたことが分かっている。
しかし戦闘用の魔法を使用した形跡は一切無い。生物の肢としての使役、そのために融合魔法を使用しているかと思われたが。
本体(核)から切り離された部位には、魔力が一切宿らずに霧散していまっていた。
肢は完全に使い捨てのものなのであろう。取り換え可能な消耗品といったところか。
ひとつ、驚くべきことに、行き当たりばったりの知能のかけらも感じさせない行動をしていたのに対して、
球状の本体には脳がみっちりと詰まっていた。 大きさだけで言うなら人の三倍はある脳髄が。皮と筋肉と骨に包まれてである。
いずれも使い込まれた形跡もなく、新生細胞であろうということ。
騎士団員いわく「実にうまそうな色をしていた」らしい。そういえば、このごろ肉を食べていない。蛇が食べたい。研究員の腹が盛大に鳴る。
毒物の検出ができる魔導士も医師もいなかったので、誰一人口に入れていないらしが。
青二才の新兵が馬鹿をやらかしてでもくれれば、実験材料が増えたのに。と、研究員は惜しげに軽口を言う。
とりあえず、以上のことから、魔物は幼生体であったのだと推測ができる。 経験が圧倒的に無かったための無考慮の行動、警戒心の欠如。
足を手にいれて調子に乗って、行動範囲を広げようとしたところで村に行き着いたというわけだ。
自己回復力が優れていたための新鮮な細胞、だとも考えることができるが。其の様子もない。
騎士団は念を入れて、灰塵になるまで燃やし尽くしてきてくれたが。できれば、生け捕りにしてもらいたかったものだ。
もしも、この魔物の持っていたとおもわれる、『動植物に対しての何かしらの力』が人間にたいしても効果を持っていた場合、
面倒なことになっていたのだから正しいことであるのだが。
とてもとても悲しいことに、国の意思は 研究<民心 なのだ、こればかりは覆しようもない。
ただ一つの遺品についてだが。本体は、魔物にしては軟弱な構造であるのに対し、
逆に核はいかなる干渉も受け付けないほどの防御能力を持っていた。
斬撃 突撃 打撃 圧力 引力 熱気 冷気 雷気 研磨 腐食 酸化 音波、果ては最高位魔導士による精神波、空間断裂、概念干渉、自壊式注入、
何をしても無反応。
つまりそこから導き出される結論は
26 そのものそのときせいなるもの プロローグてきな2話 sage 2008/09/30(火) 21:40:21 ID:Beoo/ShO
『何を実験しても壊れないからだいじょうブイ』 研究員の優秀な脳が出した法則であった。
「じゃあ、とーりあえずっ、手っ始めにぃ~人・体・実・験♪い~っえい!!」 「「「いえーい!!!」」」
いついかなる時代・世界でも、天才という存在は、常人とは一線を画しているものであった。
国はこの者たち、この者たちの研究にに多くの資金を投じている。
曲がりなしに様々な分野においての最先端の技術を発見、応用してきているのだ。
今この国の王が生きていることすら、最先端医療のたまものでもある。
ヒトにとって魔物はまさしく金の生る木である。
この日、哀れな被験者として選ばれ、つれてこられたのは、一人の捕虜だった。
隣国のある戦闘部隊の副団長……付きの侍女である。
後に救国の英雄として崇められ。 世界の崩壊の時まで賞賛され続けた聖女。
不幸続きの、其のものにとっては珍しく運のよいことに。 清く正しい魂を持つ者である。
創造主に献上するに相応しい、高潔な精神であった。
……もっとも、始まりの石に戻ってしまった其のものにとっては、いささか荷が重すぎる相手のようだが。
運命の出会いはどこにでも転がっている。
現に、このような研究所の所長ですらも。熱烈な恋愛の上に結婚していて、こどもが3人いるのだ。
変なところで改行が入ってしまったことを深くお詫びします
27 そのものそのときせいなるもの やっとヒロイン登場な3話 sage 2008/09/30(火) 23:57:24 ID:Beoo/ShO
すまない……まだ、寄生の時間じゃないんだ。たぶん4話から本編
3
気がつけば、明るい牢獄の中で足枷を嵌められて。わたしは、幽閉されていた。
……ああ、負けたのか、と。ひとりごちる。何も感じない。
戦にかかわるものとして、武芸の稽古だけは怠らずに行っていたのだが。
完全に力不足だったわけではなかった。相手が悪かった、場所が悪かった、時間が悪かった。
そして、何よりも……油断していた自分が悪かったのだ。
わたしの位置づけは副団長の侍女ということになっているが。
実際は、団長の影武者である。旅団のなかでも背格好、髪、声色が似ていたためだ。
わたし以外に適したものがいなかった、だから影武者という大役を演じていた。仕事であったからだと思っている。
わたしが旅団に入団したのは、なりゆきである。愛国心なんてもの有る無いかもわからない。
ただの、生きていくための、成り行きでしかなかったんだ。
親もわからず、国営孤児院の前に捨てられていた私は、物心ついたときから剣を握っていた。
孤児院では、養子としての迎え入れなどがなければ、孤児は皆、兵士として育てられていく。男女分け隔てなく。
魔法の素養が無かった、わたしには戦士しかなかった。
わたしの国では、孤児院は慈善事業でもなんでもない。大人になり、働けるようになるまで、その間の養育費を代替えしている状態なのだ。
わたし達のような孤児に職業選択という自由は、ほとんど無い。というのも、借金全額を返済しなければ、兵役から逃れられないのだから。
逃げ出す者もいる。弱い者や、優しいものが、「もうヤダ」そういう愚痴をこぼす。
実際に逃げ出すものは少ない。逃亡に成功する者も、また、少ない。兵士の逃亡罪は極刑である。
不思議と、わたしは逃げ出したいとは思わなかった。ただの一度も。
勇気があるとか、そういうのじゃないと思う。
無謀や、怖いもの知らず、蛮勇、そして勇猛果敢。そういうふうに称された。
でも、わたしが私自身を、勇気があるなんて感じたことはない。ただ、わたしは、怖くなかっただけなのだ、ただ単に。
ただ、生きることに必死だった。でも、生き残ることに必死にはなれなかった。
仕事をしていることに必死だった。向上心はあった、だけど、欲望はない。
28 そのものそのときせいなるもの やっとヒロイン登場な3話 sage 2008/09/30(火) 23:58:48 ID:Beoo/ShO
そうだ、わたしは仕事だから働いていただけなのだ。仕事だから戦った。
そして……負けたんだ。
奇襲だった。暗殺者は音もなく入り込んできていた。
わたしが気づいた時、時計はまだ朝の6時を回って、いなかった。
わずかな違和感を感じる。……時計の、いや、時間の進みが、遅い。
時空系の魔法を使われていると気づいた時には、荷物を放り、誰もいない廊下を駆け抜けていた。
よりによって本拠地に侵入された。全体が油断しているところを、それゆえに一番守りが厳重なはずな場所に。
こちらの警戒をすべて抜けてきた相手が、警戒していないわたし達を狙っている。
速く、もっと、早く、気付くべきだった。致命的に後れを取っている。
扉を蹴破って執務室に押し入った時には、わたしの守るべき副団長は赤いの水たまりに首以外があって。首は見当たらない。
団長は3人相手に切り結んでいた。護衛の姿は一人もない。殺されたか、気付けないでいるか。
わたしは、全力で疾走したため、抜剣すらしていない。息は乱れていないのが救いだ。
部屋に踏みった瞬間、足下の扉の残骸が爆発。残骸が吹き飛ぶ一瞬で、前に跳ぶ。
刹那の間に暗殺者の一人に肉薄、短刀を叩き、おとせずに、また爆発。爆心地は背中、服だ。
爆風でさらに吹き飛ばされる先には、副団長の遺体。爆音で耳がへんになっている。
視線が留まらず、いましがた自分が入ってきた扉跡には一人の暗殺者。
魔法の詠唱がかすかに聞こえたと思うと、団長の髪が揺らめき、宙を舞った。首ごと。
団長の金髪が床に触れる前に、首は跡かたもなくかき消える。
首を飛ばされた、どこかへと。
団長も、おそらく副団長も。もうあの二人が横柄に笑うことも、眼鏡の奥で鋭い眼光を走らせることもないのだろう。
さらに一度、詠唱が耳を打つ。
必死になって仕事を全うしていたのに。
いざ、失敗してみても、なにもない。何も感じることが出来ない。すこし、呆然としていると。
そこで意識が消えた。
29 そのものそのときせいなるもの やっとヒロイン登場な3話 sage 2008/10/01(水) 00:01:06 ID:4tXsJHcS
「死んで……無い?」
死んでいなかった。殺されていない。首はまだ繋がっている。
何のために生きているのだろう、なんていう問いも。答えは決まっている。生きるためでしかないのだ。
何のために殺されていないのか、誰一人気づいていなかったあの状態で、助けが入ったとも思わない。
団長(殺害目標)を三人で囲んでいて時点ですら、伏兵をしていたのだ。あの状況で手を抜く必要はない。
おそらくは、捕らえられた、ということなんだろうな。
おそらくは、『団長』を捕虜として捕らえたということにするつもりなのだろう。
こういった状況では、自害が命じられている。影武者として。
気づけば全裸にシーツ一枚という格好。あとは足かせのみ。
暗器なんて全て奪われている。咥内の毒薬も無い。念のため下も確認したが、無い。
そこで、舌を噛み切ろうとしたが……出来ない。
古代魔法か何かなのであろう。古臭い王城にはあるものだ。魔法の知識なんて有りもしない自分に、どうこうできるものでもない。
することがなくなると、とたん暇になる。
牢獄の中はまだ明るい、遥か高みから光が差し込んでいる。天井が高く、閉鎖感が感じられない。
壁際にあるベッドしか物はなく、しかも、広い分余計に簡素だ。扉も壁にはない。
天窓からは陽光が差し込み円形の日当を創っている。
白布をまといそこまで丸い足枷を引きずり、仰向けに寝転がる。床は大理石だろうか、冷たい。
いつも、団長はよくこうして空を見上げていて、副団長もそれに付き合わされていた。当然のように、次女であるわたしも。
わたしの失態で、死んだ。
いつものように、(何も)思う事が出来ない。
……いつか、いつもと変わらずに、空は蒼い。
ただ、いつもとは違い小さな青だった。
とても、小さくて、とても、遠い。
3話 了
4話は休日返上で書こうと思う
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