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Catastorphe.III 現実への非現実
816 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:02:14 ID:IEIU38QS
Catastorphe.III 現実への非現実
「ねむ・・・」
「お前、また夜更かしかよ」
「う・・・、まぁ・・・そんなもんかな・・・」
このところ亮は寝不足で、彼の友達はいつも心配する。
「オラそこ!! 何喋ってるんだゴルァ」
びくりとする二人。
今は授業中。
それも学院きっての鬼教師。
「あたしの授業中に喋るとはいい度胸だ・・・」
「す、すいませ」
「謝れとは言っていないが?」
「・・・・・・」
亮と烈はブルブル震えている。
怖いのだ。
「さぁて・・・、どうしてくれるかねぇ・・・」
教師は舌なめずりをする。
どんな仕置きをくれてやろうか考えているのだ。
だが、そんな中――誰かが倒れる音がした。
「?」
亮と烈も、教師もそちらを向く。
・・・そこには床に倒れ伏した翔子の姿。
「ん・・・、瀬川? どうした?」
教師が歩み寄り、声をかけるが返事がない。
「おい笹瀬、川上」
「は、はいッ!!」
アクシデントの中でも、恐怖が抜けていない。
「瀬川を保健室に連れて行け。それで許してやる」
「はいッ!!!」
「妙な真似をしたら・・・、どうなるかわかってるよなぁぁあああ!?」
「せ、先生! では女子を一人つけて」
「当たり前だろボケが」
亮と烈は翔子の親友、皐月と共に保健室へと向かった。
817 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:04:19 ID:IEIU38QS
だが、教師も亮も烈も気づかなかった。
翔子と皐月が状況に似合わない笑みを浮かべていることに・・・
「皐月、大丈夫?」
いわゆる『肩を貸す』という形で廊下を歩く4人。
翔子が声をかけるが、ゆっくり首を振るだけだ。
亮から見ても烈から見ても明らかに皐月の顔色は悪い。
「なぁ・・・」
「うん?」
烈が亮に話しかける。
「顔色悪いっていうか・・・」
「何だよ」
「いや、何でもない」
その様子を横目で翔子が見ていたが、二人ともそれには気づかない。
『・・・気づかれたかな?』
魔女とその僕のみに伝わるテレパシーで皐月が翔子に話しかける。
『ちょっと怪しいかも。ちゃんと精気吸ったの? あたしから見ても顔色悪いわ』
『そりゃ死者だし、多少は悪いでしょ』
『そうじゃなくてさ。顔が真っ青って良く言うじゃん?』
『うん』
『あんたの場合、土色なのよ土色』
『あぁー・・・、そういうこと。そりゃ確かにヤバイかも』
『だから、さ・・・』
亮と烈には全くわからない所で、その邪悪な計画は構築されていくのだった。
「失礼します」
「はいはい」
胸に熊谷と書かれたプレートをつけた白衣の教員が現れる。
「2-Nクラスの瀬川なんですが、授業中に体調が悪くなったみたいで・・・」
「じゃあとりあえず熱を測ってみようか。こっちに座って」
818 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:07:09 ID:IEIU38QS
熱である。
死者である皐月に体温などあろうはずもない。
計ろうとしても体温計は反応しないだろう。
何より胴体や額に直接触れられる危険もある。
肩を貸して保健室まで一緒に来た烈は、体温も相まって違和感を覚えたのだろう。
『まずいんじゃない? どうしようか』
皐月がテレパシーで翔子に話す。
『ヤっちゃおう』
『お。いきなりだねー』
『だって保健室の先生だよ? 薬大好きなんじゃないかなー』
『良くない噂が広まってるしね・・・』
『じゃ、早速』
皐月は熊谷養護教員に促されるままに椅子に腰掛ける。
そして、脇に挟むタイプの電子体温計を渡されて身につけた。
「最近少しずつ寒くなってきてるからねぇ・・・。私もこの間インフルエンザの予防接種を受けてきたのよ」
そう言って、腕まくりをして注射のあとを見せる。
「あなたたちも受けた方がいいわよ? 毎年流行するウイルスは違うからね」
「先生」
「なに?」
亮が声を上げる。
「先生、あの噂は嘘ですよね?」
「噂? あぁ・・・、私が怪しい薬を作ってるとか、そういう?」
「です」
「よせよ烈。失礼だろ」
「止めるな。俺は先生を信じたいんだよ。真実を知っていれば、噂を払うこともできるかもしれない」
「お前のそういう所は嫌いじゃないけどな・・・。時と場所ってものを」
「今だから、だ」
「嘘に決まってるじゃない」
「・・・」
その台詞を聞き、目つきが変わる翔子。
「だいたい保健室の先生やってるからって、そんな変な薬なんか手に入らないわよ。
強いて言うなら薬局で売ってるような薬くらいかなぁ・・・。だからそんな噂、嘘よ」
「信じて良いんですか?」
「あなたは自分の先生が信じられないの?」
亮に顔を思いっきり近づける熊谷教諭。
「そ・こ・ま・で」
819 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:11:27 ID:IEIU38QS
皐月が声を上げる。
「はい先生。体温計」
熊谷教諭は皐月から体温計を受け取る。
だが。
「・・・? エラーという訳じゃ・・・ないわね。電池切れかしら」
そこで熊谷は机の上にあるボタン電池のパッケージを見た。
「でもさっき電池交換したばかり・・・。故障? うーん・・・」
「先生、簡単なことです」
黙っていた翔子が話し始めた。
「それは、ね」
「何だよ」
早く言え、とつっつく亮。
「体温が無いからですよ」
その言葉に保健室は凍り付いた。
「・・・はぁ?」
「体温が無い、だって? 何言ってるんだよ・・・」
「どういうことかしら」
亮と烈、そして熊谷には理解できない。
それもそうだ。
普通『熱が無い』『熱がある』という言い方はするが、『体温が無い』などとは言わない。
「そういうことですよ」
今度は皐月。
「私には体温がありません」
そう言うと、その手を熊谷の額に当てる。
「つ、冷たい・・・?」
「ついでに言うと、あたしにも無いですよ」
翔子も手を熊谷の頬に当てる。
「おい、どういうこった」
亮は理解できずに烈に問う。
「知るか・・・。でも体温が無いだって? それって、もしかしてやっぱり・・・」
「ふふ、やっぱり気づいてたのね。烈君は切れ者だから・・・」
「じゃあ、瀬川・・・。お前、死んでる・・・のか?」
烈は信じられず、手を震わせながら問いかけた。
「一度死んだの。そして、蘇ったの。死者としてね」
ゆらり、と不気味な気配と共に立ち上がる皐月。
「亮! にげ・・・」
820 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:14:50 ID:IEIU38QS
「無理無理」
翔子が烈の台詞を遮る。
「無理よ逃げるなんて。人外の私たちにお前たち人間の能力がかなうと思ってるの?」
「『私たち』だって・・・?」
「そう。私たち、よ」
「れ、烈・・・!」
亮はとっさに逃げようとはしたらしく、保健室のドアの方へ僅かに移動していた。
だが、ドアまであと2メートル程度という所で膝をついていた。
「亮!? どうしたんだ!」
「う、動けん・・・。全身が痺れたみたいなんだ」
「私も動けないわ。何で・・・」
そこで熊谷の言葉が止まる。
何か考えているようだ。
その様子を翔子と皐月は嬉しそうな表情で見つめる。
「わかったわ」
「え?」
その言葉に呆気にとられる烈。
「この香りは・・・ベンゾジアゼピン系・・・かしら」
「残念」
翔子はにこやかに答える。
「あたしのオリジナルよ。ベンゾジアゼピン系とか、その辺の薬品は多くが錠剤って知らない?」
「た、確かに・・・」
「わかった? 烈君。こういうことよ」
そこで熊谷は『しまった』という顔になる。
「そんな・・・」
「????」
一人、亮だけはこの会話のやりとりの意味がわからないようだ。
「亮君。先生は『怪しいおクスリ研究家』ってことだよ」
「え・・・」
「さ、絶望したところで君たち二人には安らぎをあげるわ」
翔子が亮に、皐月が烈に近づく。
だが、その二人の体型が徐々に変わっていく。
少しずつ胸が膨らみ、腰がくびれていくのだ。
顔つきも美しい大人のものになる。
821 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:17:57 ID:IEIU38QS
「君たちはあたしたちの食事になるの。お前たち人間は、あたしたち魔女のために生きればいいのよ」
翔子が亮の近くに歩み寄ると、そのまま服に手をかける。
「おい、何をす・・・」
言い終わる前に亮の制服は引きちぎられていた。
「うお!?」
制服とはいっても学ランだ。
生地は相当に分厚く、とても年頃の女子に引き裂けるような代物ではない。
「緊張しないでいいのよ」
翔子はそのまま顔を近づけ、亮にキスをした。
その背後では烈が皐月に襲われていた。
「やめ・・・」
「嫌」
皐月は速攻で烈の抗議を却下すると、その唇を奪う。
「あむ・・・」
艶めかしい声を上げる皐月。
静かな保健室に口内で粘液をかき混ぜる音が響く。
烈は皐月の舌の動きに翻弄されることしかできなかった。
たっぷり30秒ほどして、皐月は唇を解放した。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・」
烈は突如として30秒も呼吸を奪われたために息切れする。
だが。
「あれ・・・」
そのまま烈は床に倒れる。
「さ、酸・・・欠・・・?」
「違うよ」
「瀬川・・・」
「私が烈君の命をもらったんだ」
言うと皐月の制服はぐちゃぐちゃと溶け出し、皐月の身体の同化する。
「見て。私の身体。烈君の命のおかげでこんなに綺麗になったよ」
「な・・・」
先ほどまで死体のような土色だった皐月の肌は、今は瑞々しくなっている。
「ねぇ、烈君。私知ってるんだよ?」
「・・・」
822 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:20:19 ID:IEIU38QS
「烈君が私のこと、好きだってこと」
「根拠は?」
烈は冷静に振る舞う。
だが内心では恐慌状態であった。
なんとか助かる道を模索しようとしているのだが・・・
「あの日、烈君が亮君と一緒に帰ったでしょ。あのとき私、翔子と一緒に後をつけてたんだ」
「むっ・・・」
「翔子は魔女だから、空を飛ぶくらいできるんだけど私はできないの。だから翔子の触手で一緒に、ね」
「馬鹿・・・な・・・」
「だから、烈君は特別。永遠に私の物にしてあげるんだ」
皐月は再び烈に手をかけると、そのまま抱きしめた。
「こうやって抱きしめてるとね。だんだん私に命が奪われるんだよ」
「う・・・」
確かに烈は気が遠くなっていくような感覚に見舞われていた。
「そして」
両手で烈の下半身に手を伸ばし、
「私のアソコはね・・・」
烈の年相応のブツに手をつけ、
「命を吸うためのブラックホールなんだよ」
そのまま自分の秘所に入れた。
「!!??? っあああああああああああああ!!!」
「あはははははははは、気持ちイイ? イイでしょぉ?? きゃはははははは」
皐月は死者だ。
生きている人間から命を吸い取るための能力が随所に備わっている。
彼女の秘所は犠牲者の神経に直接快楽信号を流せるのだ。
すなわち、彼女に捕らわれた犠牲者はその瞬間に射精を強要される。
「ほぅら、ほぅら! 動いちゃうよ~」
「うっあああ・・・!!」
声にならない悲鳴になる烈。
ぐっちゃ、ぐっちゃと皐月の蜜壺の中身を掻き回す音が響く。
「気持ちイイ? 私もイイよぉ・・・」
快楽に濁った目で呟く皐月。
もはや烈には何もすることができない。
これこそ魔女による犠牲者の辿る道なのだ。
823 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:22:25 ID:IEIU38QS
「さぁ、最後だよ。永遠に、私のモ・ノ」
皐月は烈に口づけをした。
なおも烈は悲鳴をあげているが、皐月はその悲鳴ごと・・・
「ごちそうさま」
悲鳴ごと、烈を吸い取ってしまったのだ。
「・・・あ・・・あ・・・」
熊谷は眼前で繰り広げられた邪悪な宴に、ただうろたえることしかできなかった。
翔子は亮を食し、皐月は烈を永遠の物にした。
今や自分の前には二人の死者・・・
「わ・・・」
辛うじて言葉を発する熊谷。
「私も・・・?」
「どうして?」
「そんな訳ないじゃない。あたしは食べないよ」
だが、翔子は代わりに指を鳴らす。
「え・・・?」
その瞬間、熊谷は背筋が突然寒くなった。
「先生も仲間になるんだから、ね」
翔子はそう言うと熊谷に口づけをする。
「あ・・・」
翔子の全身から触手が現れるのを最後に、熊谷は意識を手放すのだった。
目を開く。
そこは、自宅だった。
「あれ・・・」
『うふふ、おはよう』
「!?」
熊谷は飛び起きて周囲を見回す。
「誰!?」
『挨拶くらいしなさいよぉ・・・』
「どこ!!」
窓を開けて外を見たり、玄関の鍵を閉めたりする。
だが、その声は止まることがなかった。
『無駄よ。私はあなたの中にいるんだから』
824 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:25:32 ID:IEIU38QS
『もちろん身体の中』
「嘘・・・」
『嘘じゃないわ。じゃあ聞くけど、保健室の出来事は?』
「!!!!」
脳内に響くその妖艶な声に恐怖の記憶が呼び起こされる。
「ど、どうしてそれを!」
『あなたの中にいるんだもの。わかるわよ、そのくらい』
まるで面白い事を言うかのように笑う、その声。
『ま、簡単に教えてあげるわ。私は翔子に呼び出された妖女。あなたの味方』
「よう・・・じょ? 味方って・・・私には敵なんて」
『嘘は言わない方がいいわよ。さっきも言ったでしょ。あなたの心も記憶も全部見えるの』
「・・・」
熊谷の表情が消える。
『本当の事なんて言わなくていいわ。わかるからさ、レミ?』
熊谷 レミは黙ったまま、自宅の壁に近づく。
そして壁に一定の手順で手を這わせると、壁が横にスライドする。
『話が早いじゃない。早速あなたの欲望を見せてくれるのね?』
「五月蠅い。黙ってろ」
とても普段のレミからは想像できない口調だ。
壁が完全に開くと、そこには階段。
レミはそのまま階段を下りていく。
『これはたいしたものね』
「・・・」
隠し階段の先には、それこそ化学物質の研究所の一室のような空間があった。
試験管、フラスコ、アルコールランプ、ビュレット、メートルグラス・・・
『こんなに沢山。どのくらい注ぎ込んだの?』
「親の資産よ。全部そろえるのに1億かかった」
一言だけ言うと、手近な棚にあるビンを取り出す。
『それにしても、自宅の地下に隠し部屋を作っておクスリ研究とはねぇ・・・』
「何よ」
『人間ってわかんないわね。ま、私はその人間と・・・ふふ』
「・・・」
不思議な事を言う妖女の声。
レミは気にすることなくビンを取り出していく。
825 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:28:44 ID:IEIU38QS
そのビンは一つ一つにラベルが貼ってある。
その全てが英語で書かれていた。
『・・・これって・・・・・・なるほどねぇ・・・』
そう。
レミが研究している『怪しいおクスリ』とは。
opium、morphine、diamorphin、cocaine、lysergic acid diethylamide・・・
すなわち。
阿片、モルヒネ、ヘロイン、コカイン、リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)。
属に言う、麻薬だった。
「それで? 私の秘密を暴いてどうするつもり?」
『あら、暴くだなんて・・・。ただ私は欲望に素直にさせてあげるだけ』
その声を聞きながら、レミはmorphineと書かれたビンから注射器に液体を移す。
『ふふふ、早速キメるのね』
「中毒性とか依存性は計算済みよ。いずれ身体が壊れるだろうけど、だいぶ先になるように調節してる」
『あら、そうなの。でもいずれは壊れる訳よね』
注射器の針を確認している手を止めた。
「何が言いたいの?」
『私に任せれば、いくらでもおクスリを楽しめるようになるってこと』
「え・・・」
『んふふ、本当に好きなのね。心の底から喜んでない?』
レミと妖女以外に誰もいない地下室に、注射器が床に落ちて割れる音が響く。
『私は妖女エスト。あなたを永遠のおクスリ天国に導く者よ』
「本当ね・・・?」
『疑うの? 私はあなたの心すら覗けるのよ?』
「・・・ならば私の答えはわかってるんじゃないの?」
『もちろん。それじゃ、裸になってちょうだい』
826 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:32:34 ID:IEIU38QS
「理由が気になるけど・・・まぁいいわ」
『あ、そうそう。人が入れるくらいの容器なんか、あったりする?』
「あるわ。もしかしたら必要になるかも、と思って買っておいたのがね」
『流石ね~・・・』
その声と共に、部屋のどこからか巨大な容器が現れる。
「何をしたの?」
『私の力よ。サイコキネシスって言えばわかる?』
「あぁ、超能力みたいな?」
『そう。私に任せておけば、あなたも使えるようになる』
「便利そうじゃない」
ゆっくりと地下室の中央に歩いていくレミ。
少し開けた構造になっているその場所で、儀式が行われようとしていた。
『しっかし、バレた時に自殺するために用意とは・・・たいしたものね』
「そうよ。ま、どうやって自殺するつもりだったかは知っての通りだけどね。
私はおクスリが大好きだもの。おクスリのためなら何でもできる。死ぬことだって厭わないわ」
自虐的な笑みを浮かべるレミ。
「これでいいかしら」
レミは自分から透明な容器の中に入る。
『準備OKね。それじゃ、あなたの身体を作り替えるわよ』
その声がレミの脳内に響くと、レミの身体から黒っぽい煙のようなものが立ち上り始める。
「な、何? コレ」
『私の邪気よ。あなたの身体と同化するのに必要なのよ』
「同化? それで私はおクスリ天国に行けるの?」
『それは約束するわ。妖女は約束を破らない。破ると消滅するから』
「それなら信じるわ。私の欲望を叶えて。永遠におクスリを楽しめて、他の人にもこの素晴らしさを
教えてあげられる身体にして。私はそのために地下に研究所を作ったんだもの」
『ふふふふ・・・、ここまで邪悪に墜ちた人間も珍しいわね。堕落した人間が他者を堕落させる存在になる』
周囲の棚から様々な薬品のビンが飛び出してくる。
すると独りでに蓋が開き、その中にある人間を狂わせる物質を容器に注いでいく。
「夢みたい・・・。おクスリに溺れながら、私は変わるのね」
『そうよ。あなたにとっておクスリが全てだもの。だからおクスリと一緒に同化するの』
青、黄色、緑、桃、赤褐色・・・
どう見ても毒物としか思えない物質が容器に貯められていく。
同時にレミの身体から立ち上る邪気が増幅していく。
『さぁ、そろそろ頭まで浸かるわ。心を欲望で満たせばい
827 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:42:05 ID:IEIU38QS
『さぁ、そろそろ頭まで浸かるわ。心を欲望で満たせばいつでも始まる』
「待つ理由なんか、あるわけないじゃない」
言い切ると、レミはいよいよ頭まで薬品に浸かる。
その瞬間、変化は始まった。
毒々しい色の液体は、邪気の影響からか暗い色に変わっていく。
同時に液体の量がどんどん増えていき、容器があふれる。
レミはその中で歓喜の叫びを上げるかのような表情で、液体を飲み干す。
彼女が嚥下すると、その分だけ身体が変わる。
年齢にしては小さめだった胸が成長する。
最近ちょっと悩みの種になっていた腰がくびれる。
長くしたかった足が、理想の長さになる。
短かった髪は魔女に相応しい長髪になる。
クスリを試した為に毒されていた秘所は、瑞々しさを取り戻す。
そして人間には備わっていない、異形の器官が現れると・・・
妖女エストと熊谷 レミの同化は終わった。
パン、と小気味の良い音で容器が粉砕されると、そこには熊谷 レミだった存在。
肌の色は青みがかっており、豊満な肉体には黒い刺青のような模様がある。
そして何より、両腰にある管のような器官が彼女が魔女であることを物語っていた。
「ハァ・・・」
彼女の吐息は青かった。
「おクスリ・・・」
言うと右腰の器官が触手のように伸び、彼女の口もとに来る。
それを咥えると、器官が蠕動運動を始める。
「んぐっ、んぐっ・・・」
どうやら何かを分泌しており、レミはそれを飲んでいるようだ。
たっぷりと飲んで口を離すと、その器官は腰に戻る。
「さいこぉ・・・」
828 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:53:11 ID:IEIU38QS
クスリにより高揚感を味わいながら、部屋の隅にある大きな鏡の前に立つ。
右手を顔の前に持ってきて、開いたり閉じたりする。
その指先には紫色の鋭い爪。
今度は右手をおろし、腰の器官や秘所を見る。
粘膜は毒々しい紫色になっていた。
最後に鏡に映る自分の目を見る。
「私は依存の魔女。エスト・・・、ありがとう」
心から感謝すると、レミは地下室をあとにした。
次の日の昼、学院は異変に見舞われた。
正午ちょうどになった瞬間から、校舎の至る所から化学臭が漂ってきたのだ。
「先生! 熊谷先生!」
保健室に飛び込んでくる梶田教諭。
彼女は翔子達の担任で、学院の鬼教員として名をはせている。
「これは一体・・・」
「あらぁ・・・どうしたんですかぁ?」
レミは普段の姿に戻り、青色の液体が入ったビーカーを手にしていた。
「そ、それは何ですか? ・・・いや、それよりこのにおいは!」
「あぁ、おクスリですよ」
「お・・・クス・・・リ?」
「そう。あー、麻薬って言った方がわかりやすいかな?」
「ま!?」
「でも梶田先生にはあげなぁーい。先生にはコ・レ」
レミが指を鳴らす。
「うっ?」
梶田は背筋に寒気を覚える。
「邪魔してほしくないから、ここでおやすみなさーい」
そのまま梶田にキスをすると、その場に崩れ落ちる。
「さ、出ておいで」
言うと棚の陰から数人の女子生徒。
829 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:53:57 ID:IEIU38QS
「私の喜びを分けてきなさい。墜ちない子は連れてくるように」
その命令に抑揚のない返事をする女子生徒たち。
その様子に満足したようにうなずくと、レミはあの異形の姿になる。
「さ、たっぷりあ・げ・る」
腰の器官をのばし、女子生徒の口や秘密の場所に入り込む。
どくん、どくんと蠕動し、彼女たちに毒の蜜を注いでいくのだ。
「さぁ、注いだ子からお行き。魔女の住みよい世界にするために・・・」
数日後、一つの学校が閉鎖された。
理由は明らかにされていない、とマスコミは報道する。
真実を知る者は・・・魔女のみであった。
830 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2007/11/15(木) 04:57:25 ID:IEIU38QS
以上、久々の魔女伝説でした。
前回の0話がちょっと不評っぽかったので頑張ってみたですよ。
その代わり妖女たんにはちょっと遠慮してもらって・・・
私のSSが読みたい、というその一言は非常に嬉しいです。
本業が多忙だったのもあってモチベーションが低下してたんですが、
そんなつぶやきを見て元気が出てきたとこです。
いつまで続くかは不明ですがw
ま、そんなんで今夜はこのあたりで。
#間違えて@魔女伝説を#の後に入れてたのに気づいたOTL
Catastorphe.III 現実への非現実
「ねむ・・・」
「お前、また夜更かしかよ」
「う・・・、まぁ・・・そんなもんかな・・・」
このところ亮は寝不足で、彼の友達はいつも心配する。
「オラそこ!! 何喋ってるんだゴルァ」
びくりとする二人。
今は授業中。
それも学院きっての鬼教師。
「あたしの授業中に喋るとはいい度胸だ・・・」
「す、すいませ」
「謝れとは言っていないが?」
「・・・・・・」
亮と烈はブルブル震えている。
怖いのだ。
「さぁて・・・、どうしてくれるかねぇ・・・」
教師は舌なめずりをする。
どんな仕置きをくれてやろうか考えているのだ。
だが、そんな中――誰かが倒れる音がした。
「?」
亮と烈も、教師もそちらを向く。
・・・そこには床に倒れ伏した翔子の姿。
「ん・・・、瀬川? どうした?」
教師が歩み寄り、声をかけるが返事がない。
「おい笹瀬、川上」
「は、はいッ!!」
アクシデントの中でも、恐怖が抜けていない。
「瀬川を保健室に連れて行け。それで許してやる」
「はいッ!!!」
「妙な真似をしたら・・・、どうなるかわかってるよなぁぁあああ!?」
「せ、先生! では女子を一人つけて」
「当たり前だろボケが」
亮と烈は翔子の親友、皐月と共に保健室へと向かった。
817 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:04:19 ID:IEIU38QS
だが、教師も亮も烈も気づかなかった。
翔子と皐月が状況に似合わない笑みを浮かべていることに・・・
「皐月、大丈夫?」
いわゆる『肩を貸す』という形で廊下を歩く4人。
翔子が声をかけるが、ゆっくり首を振るだけだ。
亮から見ても烈から見ても明らかに皐月の顔色は悪い。
「なぁ・・・」
「うん?」
烈が亮に話しかける。
「顔色悪いっていうか・・・」
「何だよ」
「いや、何でもない」
その様子を横目で翔子が見ていたが、二人ともそれには気づかない。
『・・・気づかれたかな?』
魔女とその僕のみに伝わるテレパシーで皐月が翔子に話しかける。
『ちょっと怪しいかも。ちゃんと精気吸ったの? あたしから見ても顔色悪いわ』
『そりゃ死者だし、多少は悪いでしょ』
『そうじゃなくてさ。顔が真っ青って良く言うじゃん?』
『うん』
『あんたの場合、土色なのよ土色』
『あぁー・・・、そういうこと。そりゃ確かにヤバイかも』
『だから、さ・・・』
亮と烈には全くわからない所で、その邪悪な計画は構築されていくのだった。
「失礼します」
「はいはい」
胸に熊谷と書かれたプレートをつけた白衣の教員が現れる。
「2-Nクラスの瀬川なんですが、授業中に体調が悪くなったみたいで・・・」
「じゃあとりあえず熱を測ってみようか。こっちに座って」
818 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:07:09 ID:IEIU38QS
熱である。
死者である皐月に体温などあろうはずもない。
計ろうとしても体温計は反応しないだろう。
何より胴体や額に直接触れられる危険もある。
肩を貸して保健室まで一緒に来た烈は、体温も相まって違和感を覚えたのだろう。
『まずいんじゃない? どうしようか』
皐月がテレパシーで翔子に話す。
『ヤっちゃおう』
『お。いきなりだねー』
『だって保健室の先生だよ? 薬大好きなんじゃないかなー』
『良くない噂が広まってるしね・・・』
『じゃ、早速』
皐月は熊谷養護教員に促されるままに椅子に腰掛ける。
そして、脇に挟むタイプの電子体温計を渡されて身につけた。
「最近少しずつ寒くなってきてるからねぇ・・・。私もこの間インフルエンザの予防接種を受けてきたのよ」
そう言って、腕まくりをして注射のあとを見せる。
「あなたたちも受けた方がいいわよ? 毎年流行するウイルスは違うからね」
「先生」
「なに?」
亮が声を上げる。
「先生、あの噂は嘘ですよね?」
「噂? あぁ・・・、私が怪しい薬を作ってるとか、そういう?」
「です」
「よせよ烈。失礼だろ」
「止めるな。俺は先生を信じたいんだよ。真実を知っていれば、噂を払うこともできるかもしれない」
「お前のそういう所は嫌いじゃないけどな・・・。時と場所ってものを」
「今だから、だ」
「嘘に決まってるじゃない」
「・・・」
その台詞を聞き、目つきが変わる翔子。
「だいたい保健室の先生やってるからって、そんな変な薬なんか手に入らないわよ。
強いて言うなら薬局で売ってるような薬くらいかなぁ・・・。だからそんな噂、嘘よ」
「信じて良いんですか?」
「あなたは自分の先生が信じられないの?」
亮に顔を思いっきり近づける熊谷教諭。
「そ・こ・ま・で」
819 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:11:27 ID:IEIU38QS
皐月が声を上げる。
「はい先生。体温計」
熊谷教諭は皐月から体温計を受け取る。
だが。
「・・・? エラーという訳じゃ・・・ないわね。電池切れかしら」
そこで熊谷は机の上にあるボタン電池のパッケージを見た。
「でもさっき電池交換したばかり・・・。故障? うーん・・・」
「先生、簡単なことです」
黙っていた翔子が話し始めた。
「それは、ね」
「何だよ」
早く言え、とつっつく亮。
「体温が無いからですよ」
その言葉に保健室は凍り付いた。
「・・・はぁ?」
「体温が無い、だって? 何言ってるんだよ・・・」
「どういうことかしら」
亮と烈、そして熊谷には理解できない。
それもそうだ。
普通『熱が無い』『熱がある』という言い方はするが、『体温が無い』などとは言わない。
「そういうことですよ」
今度は皐月。
「私には体温がありません」
そう言うと、その手を熊谷の額に当てる。
「つ、冷たい・・・?」
「ついでに言うと、あたしにも無いですよ」
翔子も手を熊谷の頬に当てる。
「おい、どういうこった」
亮は理解できずに烈に問う。
「知るか・・・。でも体温が無いだって? それって、もしかしてやっぱり・・・」
「ふふ、やっぱり気づいてたのね。烈君は切れ者だから・・・」
「じゃあ、瀬川・・・。お前、死んでる・・・のか?」
烈は信じられず、手を震わせながら問いかけた。
「一度死んだの。そして、蘇ったの。死者としてね」
ゆらり、と不気味な気配と共に立ち上がる皐月。
「亮! にげ・・・」
820 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:14:50 ID:IEIU38QS
「無理無理」
翔子が烈の台詞を遮る。
「無理よ逃げるなんて。人外の私たちにお前たち人間の能力がかなうと思ってるの?」
「『私たち』だって・・・?」
「そう。私たち、よ」
「れ、烈・・・!」
亮はとっさに逃げようとはしたらしく、保健室のドアの方へ僅かに移動していた。
だが、ドアまであと2メートル程度という所で膝をついていた。
「亮!? どうしたんだ!」
「う、動けん・・・。全身が痺れたみたいなんだ」
「私も動けないわ。何で・・・」
そこで熊谷の言葉が止まる。
何か考えているようだ。
その様子を翔子と皐月は嬉しそうな表情で見つめる。
「わかったわ」
「え?」
その言葉に呆気にとられる烈。
「この香りは・・・ベンゾジアゼピン系・・・かしら」
「残念」
翔子はにこやかに答える。
「あたしのオリジナルよ。ベンゾジアゼピン系とか、その辺の薬品は多くが錠剤って知らない?」
「た、確かに・・・」
「わかった? 烈君。こういうことよ」
そこで熊谷は『しまった』という顔になる。
「そんな・・・」
「????」
一人、亮だけはこの会話のやりとりの意味がわからないようだ。
「亮君。先生は『怪しいおクスリ研究家』ってことだよ」
「え・・・」
「さ、絶望したところで君たち二人には安らぎをあげるわ」
翔子が亮に、皐月が烈に近づく。
だが、その二人の体型が徐々に変わっていく。
少しずつ胸が膨らみ、腰がくびれていくのだ。
顔つきも美しい大人のものになる。
821 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:17:57 ID:IEIU38QS
「君たちはあたしたちの食事になるの。お前たち人間は、あたしたち魔女のために生きればいいのよ」
翔子が亮の近くに歩み寄ると、そのまま服に手をかける。
「おい、何をす・・・」
言い終わる前に亮の制服は引きちぎられていた。
「うお!?」
制服とはいっても学ランだ。
生地は相当に分厚く、とても年頃の女子に引き裂けるような代物ではない。
「緊張しないでいいのよ」
翔子はそのまま顔を近づけ、亮にキスをした。
その背後では烈が皐月に襲われていた。
「やめ・・・」
「嫌」
皐月は速攻で烈の抗議を却下すると、その唇を奪う。
「あむ・・・」
艶めかしい声を上げる皐月。
静かな保健室に口内で粘液をかき混ぜる音が響く。
烈は皐月の舌の動きに翻弄されることしかできなかった。
たっぷり30秒ほどして、皐月は唇を解放した。
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・」
烈は突如として30秒も呼吸を奪われたために息切れする。
だが。
「あれ・・・」
そのまま烈は床に倒れる。
「さ、酸・・・欠・・・?」
「違うよ」
「瀬川・・・」
「私が烈君の命をもらったんだ」
言うと皐月の制服はぐちゃぐちゃと溶け出し、皐月の身体の同化する。
「見て。私の身体。烈君の命のおかげでこんなに綺麗になったよ」
「な・・・」
先ほどまで死体のような土色だった皐月の肌は、今は瑞々しくなっている。
「ねぇ、烈君。私知ってるんだよ?」
「・・・」
822 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:20:19 ID:IEIU38QS
「烈君が私のこと、好きだってこと」
「根拠は?」
烈は冷静に振る舞う。
だが内心では恐慌状態であった。
なんとか助かる道を模索しようとしているのだが・・・
「あの日、烈君が亮君と一緒に帰ったでしょ。あのとき私、翔子と一緒に後をつけてたんだ」
「むっ・・・」
「翔子は魔女だから、空を飛ぶくらいできるんだけど私はできないの。だから翔子の触手で一緒に、ね」
「馬鹿・・・な・・・」
「だから、烈君は特別。永遠に私の物にしてあげるんだ」
皐月は再び烈に手をかけると、そのまま抱きしめた。
「こうやって抱きしめてるとね。だんだん私に命が奪われるんだよ」
「う・・・」
確かに烈は気が遠くなっていくような感覚に見舞われていた。
「そして」
両手で烈の下半身に手を伸ばし、
「私のアソコはね・・・」
烈の年相応のブツに手をつけ、
「命を吸うためのブラックホールなんだよ」
そのまま自分の秘所に入れた。
「!!??? っあああああああああああああ!!!」
「あはははははははは、気持ちイイ? イイでしょぉ?? きゃはははははは」
皐月は死者だ。
生きている人間から命を吸い取るための能力が随所に備わっている。
彼女の秘所は犠牲者の神経に直接快楽信号を流せるのだ。
すなわち、彼女に捕らわれた犠牲者はその瞬間に射精を強要される。
「ほぅら、ほぅら! 動いちゃうよ~」
「うっあああ・・・!!」
声にならない悲鳴になる烈。
ぐっちゃ、ぐっちゃと皐月の蜜壺の中身を掻き回す音が響く。
「気持ちイイ? 私もイイよぉ・・・」
快楽に濁った目で呟く皐月。
もはや烈には何もすることができない。
これこそ魔女による犠牲者の辿る道なのだ。
823 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:22:25 ID:IEIU38QS
「さぁ、最後だよ。永遠に、私のモ・ノ」
皐月は烈に口づけをした。
なおも烈は悲鳴をあげているが、皐月はその悲鳴ごと・・・
「ごちそうさま」
悲鳴ごと、烈を吸い取ってしまったのだ。
「・・・あ・・・あ・・・」
熊谷は眼前で繰り広げられた邪悪な宴に、ただうろたえることしかできなかった。
翔子は亮を食し、皐月は烈を永遠の物にした。
今や自分の前には二人の死者・・・
「わ・・・」
辛うじて言葉を発する熊谷。
「私も・・・?」
「どうして?」
「そんな訳ないじゃない。あたしは食べないよ」
だが、翔子は代わりに指を鳴らす。
「え・・・?」
その瞬間、熊谷は背筋が突然寒くなった。
「先生も仲間になるんだから、ね」
翔子はそう言うと熊谷に口づけをする。
「あ・・・」
翔子の全身から触手が現れるのを最後に、熊谷は意識を手放すのだった。
目を開く。
そこは、自宅だった。
「あれ・・・」
『うふふ、おはよう』
「!?」
熊谷は飛び起きて周囲を見回す。
「誰!?」
『挨拶くらいしなさいよぉ・・・』
「どこ!!」
窓を開けて外を見たり、玄関の鍵を閉めたりする。
だが、その声は止まることがなかった。
『無駄よ。私はあなたの中にいるんだから』
824 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:25:32 ID:IEIU38QS
『もちろん身体の中』
「嘘・・・」
『嘘じゃないわ。じゃあ聞くけど、保健室の出来事は?』
「!!!!」
脳内に響くその妖艶な声に恐怖の記憶が呼び起こされる。
「ど、どうしてそれを!」
『あなたの中にいるんだもの。わかるわよ、そのくらい』
まるで面白い事を言うかのように笑う、その声。
『ま、簡単に教えてあげるわ。私は翔子に呼び出された妖女。あなたの味方』
「よう・・・じょ? 味方って・・・私には敵なんて」
『嘘は言わない方がいいわよ。さっきも言ったでしょ。あなたの心も記憶も全部見えるの』
「・・・」
熊谷の表情が消える。
『本当の事なんて言わなくていいわ。わかるからさ、レミ?』
熊谷 レミは黙ったまま、自宅の壁に近づく。
そして壁に一定の手順で手を這わせると、壁が横にスライドする。
『話が早いじゃない。早速あなたの欲望を見せてくれるのね?』
「五月蠅い。黙ってろ」
とても普段のレミからは想像できない口調だ。
壁が完全に開くと、そこには階段。
レミはそのまま階段を下りていく。
『これはたいしたものね』
「・・・」
隠し階段の先には、それこそ化学物質の研究所の一室のような空間があった。
試験管、フラスコ、アルコールランプ、ビュレット、メートルグラス・・・
『こんなに沢山。どのくらい注ぎ込んだの?』
「親の資産よ。全部そろえるのに1億かかった」
一言だけ言うと、手近な棚にあるビンを取り出す。
『それにしても、自宅の地下に隠し部屋を作っておクスリ研究とはねぇ・・・』
「何よ」
『人間ってわかんないわね。ま、私はその人間と・・・ふふ』
「・・・」
不思議な事を言う妖女の声。
レミは気にすることなくビンを取り出していく。
825 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:28:44 ID:IEIU38QS
そのビンは一つ一つにラベルが貼ってある。
その全てが英語で書かれていた。
『・・・これって・・・・・・なるほどねぇ・・・』
そう。
レミが研究している『怪しいおクスリ』とは。
opium、morphine、diamorphin、cocaine、lysergic acid diethylamide・・・
すなわち。
阿片、モルヒネ、ヘロイン、コカイン、リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)。
属に言う、麻薬だった。
「それで? 私の秘密を暴いてどうするつもり?」
『あら、暴くだなんて・・・。ただ私は欲望に素直にさせてあげるだけ』
その声を聞きながら、レミはmorphineと書かれたビンから注射器に液体を移す。
『ふふふ、早速キメるのね』
「中毒性とか依存性は計算済みよ。いずれ身体が壊れるだろうけど、だいぶ先になるように調節してる」
『あら、そうなの。でもいずれは壊れる訳よね』
注射器の針を確認している手を止めた。
「何が言いたいの?」
『私に任せれば、いくらでもおクスリを楽しめるようになるってこと』
「え・・・」
『んふふ、本当に好きなのね。心の底から喜んでない?』
レミと妖女以外に誰もいない地下室に、注射器が床に落ちて割れる音が響く。
『私は妖女エスト。あなたを永遠のおクスリ天国に導く者よ』
「本当ね・・・?」
『疑うの? 私はあなたの心すら覗けるのよ?』
「・・・ならば私の答えはわかってるんじゃないの?」
『もちろん。それじゃ、裸になってちょうだい』
826 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:32:34 ID:IEIU38QS
「理由が気になるけど・・・まぁいいわ」
『あ、そうそう。人が入れるくらいの容器なんか、あったりする?』
「あるわ。もしかしたら必要になるかも、と思って買っておいたのがね」
『流石ね~・・・』
その声と共に、部屋のどこからか巨大な容器が現れる。
「何をしたの?」
『私の力よ。サイコキネシスって言えばわかる?』
「あぁ、超能力みたいな?」
『そう。私に任せておけば、あなたも使えるようになる』
「便利そうじゃない」
ゆっくりと地下室の中央に歩いていくレミ。
少し開けた構造になっているその場所で、儀式が行われようとしていた。
『しっかし、バレた時に自殺するために用意とは・・・たいしたものね』
「そうよ。ま、どうやって自殺するつもりだったかは知っての通りだけどね。
私はおクスリが大好きだもの。おクスリのためなら何でもできる。死ぬことだって厭わないわ」
自虐的な笑みを浮かべるレミ。
「これでいいかしら」
レミは自分から透明な容器の中に入る。
『準備OKね。それじゃ、あなたの身体を作り替えるわよ』
その声がレミの脳内に響くと、レミの身体から黒っぽい煙のようなものが立ち上り始める。
「な、何? コレ」
『私の邪気よ。あなたの身体と同化するのに必要なのよ』
「同化? それで私はおクスリ天国に行けるの?」
『それは約束するわ。妖女は約束を破らない。破ると消滅するから』
「それなら信じるわ。私の欲望を叶えて。永遠におクスリを楽しめて、他の人にもこの素晴らしさを
教えてあげられる身体にして。私はそのために地下に研究所を作ったんだもの」
『ふふふふ・・・、ここまで邪悪に墜ちた人間も珍しいわね。堕落した人間が他者を堕落させる存在になる』
周囲の棚から様々な薬品のビンが飛び出してくる。
すると独りでに蓋が開き、その中にある人間を狂わせる物質を容器に注いでいく。
「夢みたい・・・。おクスリに溺れながら、私は変わるのね」
『そうよ。あなたにとっておクスリが全てだもの。だからおクスリと一緒に同化するの』
青、黄色、緑、桃、赤褐色・・・
どう見ても毒物としか思えない物質が容器に貯められていく。
同時にレミの身体から立ち上る邪気が増幅していく。
『さぁ、そろそろ頭まで浸かるわ。心を欲望で満たせばい
827 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:42:05 ID:IEIU38QS
『さぁ、そろそろ頭まで浸かるわ。心を欲望で満たせばいつでも始まる』
「待つ理由なんか、あるわけないじゃない」
言い切ると、レミはいよいよ頭まで薬品に浸かる。
その瞬間、変化は始まった。
毒々しい色の液体は、邪気の影響からか暗い色に変わっていく。
同時に液体の量がどんどん増えていき、容器があふれる。
レミはその中で歓喜の叫びを上げるかのような表情で、液体を飲み干す。
彼女が嚥下すると、その分だけ身体が変わる。
年齢にしては小さめだった胸が成長する。
最近ちょっと悩みの種になっていた腰がくびれる。
長くしたかった足が、理想の長さになる。
短かった髪は魔女に相応しい長髪になる。
クスリを試した為に毒されていた秘所は、瑞々しさを取り戻す。
そして人間には備わっていない、異形の器官が現れると・・・
妖女エストと熊谷 レミの同化は終わった。
パン、と小気味の良い音で容器が粉砕されると、そこには熊谷 レミだった存在。
肌の色は青みがかっており、豊満な肉体には黒い刺青のような模様がある。
そして何より、両腰にある管のような器官が彼女が魔女であることを物語っていた。
「ハァ・・・」
彼女の吐息は青かった。
「おクスリ・・・」
言うと右腰の器官が触手のように伸び、彼女の口もとに来る。
それを咥えると、器官が蠕動運動を始める。
「んぐっ、んぐっ・・・」
どうやら何かを分泌しており、レミはそれを飲んでいるようだ。
たっぷりと飲んで口を離すと、その器官は腰に戻る。
「さいこぉ・・・」
828 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:53:11 ID:IEIU38QS
クスリにより高揚感を味わいながら、部屋の隅にある大きな鏡の前に立つ。
右手を顔の前に持ってきて、開いたり閉じたりする。
その指先には紫色の鋭い爪。
今度は右手をおろし、腰の器官や秘所を見る。
粘膜は毒々しい紫色になっていた。
最後に鏡に映る自分の目を見る。
「私は依存の魔女。エスト・・・、ありがとう」
心から感謝すると、レミは地下室をあとにした。
次の日の昼、学院は異変に見舞われた。
正午ちょうどになった瞬間から、校舎の至る所から化学臭が漂ってきたのだ。
「先生! 熊谷先生!」
保健室に飛び込んでくる梶田教諭。
彼女は翔子達の担任で、学院の鬼教員として名をはせている。
「これは一体・・・」
「あらぁ・・・どうしたんですかぁ?」
レミは普段の姿に戻り、青色の液体が入ったビーカーを手にしていた。
「そ、それは何ですか? ・・・いや、それよりこのにおいは!」
「あぁ、おクスリですよ」
「お・・・クス・・・リ?」
「そう。あー、麻薬って言った方がわかりやすいかな?」
「ま!?」
「でも梶田先生にはあげなぁーい。先生にはコ・レ」
レミが指を鳴らす。
「うっ?」
梶田は背筋に寒気を覚える。
「邪魔してほしくないから、ここでおやすみなさーい」
そのまま梶田にキスをすると、その場に崩れ落ちる。
「さ、出ておいで」
言うと棚の陰から数人の女子生徒。
829 FBX ◆5dCxUBywBA sage 2007/11/15(木) 04:53:57 ID:IEIU38QS
「私の喜びを分けてきなさい。墜ちない子は連れてくるように」
その命令に抑揚のない返事をする女子生徒たち。
その様子に満足したようにうなずくと、レミはあの異形の姿になる。
「さ、たっぷりあ・げ・る」
腰の器官をのばし、女子生徒の口や秘密の場所に入り込む。
どくん、どくんと蠕動し、彼女たちに毒の蜜を注いでいくのだ。
「さぁ、注いだ子からお行き。魔女の住みよい世界にするために・・・」
数日後、一つの学校が閉鎖された。
理由は明らかにされていない、とマスコミは報道する。
真実を知る者は・・・魔女のみであった。
830 FBX ◆4gA1RyNyf. sage 2007/11/15(木) 04:57:25 ID:IEIU38QS
以上、久々の魔女伝説でした。
前回の0話がちょっと不評っぽかったので頑張ってみたですよ。
その代わり妖女たんにはちょっと遠慮してもらって・・・
私のSSが読みたい、というその一言は非常に嬉しいです。
本業が多忙だったのもあってモチベーションが低下してたんですが、
そんなつぶやきを見て元気が出てきたとこです。
いつまで続くかは不明ですがw
ま、そんなんで今夜はこのあたりで。
#間違えて@魔女伝説を#の後に入れてたのに気づいたOTL
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