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とある悪魔の物語
355 278 sage 2010/10/26(火) 00:05:18 ID:1mMdjwIG
とある悪魔の物語
深く、霧に包まれた湖畔に館はあった。
近くの村人も近寄らぬその館は人の気配はなく、さりとて朽ち果てることもなく白く美しい姿をとどめていた。
ごくまれに使いという少女が村にやってきて、焼きたてのパンや牛乳、収穫時にはハムなどを買っていくほかはかかわりもなく、村人からはひとつの風景としか認識されていなかった。
ある日、館がこつぜんと消え去るまで。
天蓋のついた、東方産の絹をふんだんに使ったカーテンに覆われたベッドの上に二つの人影があった。
気だるそうに寝そべる一人はとしのころは十代の終わり、もしくは二十代の初めごろか。黒く長く伸ばした髪を真っ白なシーツに投げ出し、優雅に一糸まとわぬ姿を横たえている。
大理石から削りだしたような秀麗な顔立ちに、水晶を埋め込んだかのような紫の瞳。顔から首、そして胸にいたるラインは名工が幾年月も重ねて磨き上げたような、世の男だけではなく女すらも魅了する美しさを持っていた。
下半身にそそり立つ、異形の肉棒がなければ。
その肉棒に、一心に奉仕をしている給仕服姿の少女がいる。
古木のようにいびつに盛り上がった瘤の一つ一つを丁寧に舐めしゃぶり、あるときは情熱的に接吻をする。一通り舐め終われば先端をくわえ込むと、三十センチはあろうかと思える肉棒を、口全体のみならず喉の奥まで飲み込んでゆく。
ふと、奉仕を受けている麗人が上半身を起こした。手を伸ばし、奉仕を続ける少女の燃えるような赤毛を優しく、愛情をこめて撫でる。赤毛の少女は喜びに身を震わせ、喉奥まで入り込んだ肉棒を締め上げた。んっ、と声が漏れ、麗人の目元がほんの少し歪む。
「出すよ、ロッテ」
言葉と同時に灼熱の液体が先端から放たれ、ロッテと呼ばれた少女は目を細め、次々と打ち出される精を受け止めた。常人では耐えられないほどの量と時間なのに、平然と精を喉を鳴らしてすべてを飲み込んでいく。
「んっ……」
すべてを飲み込むと少女は口から肉棒を引き抜き、満足げな吐息を漏らす。それから丁寧にこびりついた粘液を舐め取ると、にっこりと微笑んだ。麗人とは対照的な、美しいというより可愛い、という印象をまず与える笑みだった。
「いつもご苦労様、ロッテ。……そういえば、キミが『奉公』にきてからどのくらいたつかな?」
主人の問いに少女は首をかしげ、考え込む。
「んー、だいたい百年くらいですか?」
「正確には百と七年、四十七日目だ。『契約』ももうとっくの昔に切れているよ」
あう、と頭を抱える少女に、麗人はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「さて、それでは『契約』も満了したことだし、そろそろ出かけよう。キミの作った美酒を味わいたいし、『妹』を作ってあげないと」
彼女の宣言に、赤毛の女の子は少し複雑な表情を浮かべたが、吹っ切れたように力強くうなずいた。
「はーいねえさま。まかせてくださいませ。ねえさまの望みのままにロッテは動きますよ!」
元気よく答えたロッテに「ねえさま」と呼ばれた黒髪の麗人は手を伸ばすと二の腕を取り、体を引き寄せた。白と黒の給仕服姿の少女は虚を突かれ、そのまま彼女の懐に飛び込む。
「望みのまま、か。じゃあ、まずキミをたっぷりと可愛がることからはじめようかな」
「あ、あん、ねえさま、えっちぃ……、ひゃあんっ!」
ずぶずぶと埋め込まれる肉棒を受け入れながら、少女は切ないあえぎで部屋を満たしていく。
356 278 sage 2010/10/26(火) 00:08:53 ID:1mMdjwIG
首都、スオルム。
港を有するこの地は、ほんの百年前まで小国だった。だが数代前から続く、君主のさまざまなてこ入れの結果、いつしかこの地域全体の海洋貿易の中心となっていた。
特に、苦労人から身を起こした先々代の王は「学び、手に職をつければ運命が切り開かれる」という言葉を残し、教育施設を多数設立した。それら学校は階層別、職業ごとに分化しながらいまも幼子たちを受け入れている。
その中のひとつ、貴族や裕福な子弟の通う高等学校「グランテ・ジリオ」。そこでは9月を迎え、新入生が続々と入校してきている。これから親元を離れ、寮生活を営み、三年後の卒業にむけて青春を謳歌していくのだ。
「ふう、人、多いなあ」
帆を畳んだ船からおろされた板を踏み、目の覚めるような赤毛の女の子が船から下りていく。その顔は生を楽しむかのように明るく輝き、港を行きかう人を眺めていた。すると、元気さを現しているようにいきいきとした黒の瞳が、ふと一点を見つめる。
先を降りる同年代の子が少しふらついている。見ているうちに渡し板に施してある滑り止めに脚をとられ、体がぐらりと崩れるのがわかった。
「あぶないっ!」
とっさに腕を掴んで引き寄せると、自分の胸に飛び込ませるような形になる。女の子が小さく悲鳴を上げた。
「きゃっ!?」
そのまま、赤毛の少女はまじまじと抱き寄せた少女を見つめた。細くしなやかな金髪、繊細さをうかがわせる線の細い顔立ち。そして、ややとがった耳。
「大丈夫? 怪我はない?」
赤毛の少女の言葉に、その手に抱かれた少女の顔がみるみる赤らんでくる。
「す、すみませんっ!」
そのまま、逃げるように身を翻し、彼女は走り去ってしまった。ぽかんとその後姿を見つめ、ややあって赤毛の少女は苦笑する。
「いきなりだったからびっくりさせちゃったかな?」
そしてかばんを持ち直すと、気を取り直して歩いていく。本来の目的地である丘の上の学校へ。
退屈なガイダンスが終わったあと、赤毛の少女は自分に割り当てられた寮の部屋にいた。富裕層が通う学校ゆえ、簡素ではあるがしっかりとしたつくりになっている。
二人部屋で、いまは比較的広いが、荷物を置いたらあまり余裕はなくなってしまうだろう。
これからどんな子がくるんだろう、と思いながら作り付けの二段ベットに寝そべっていると、こんこん、とノックの音が響いた。
「あいてるよー?」
返事を待っていたかのようにドアが開いたとき、赤毛の少女は目を見開いた。
そこには、ついさっき港で助けた娘が立っていたのだ。
「あ……」
彼女も気づいたのか、足を止めて呆然と部屋の中を見つめている。ためらうように部屋の入り口に立ったままの金髪の少女に、体を起こした赤毛の女の子は笑顔を向けた。
「やあ、あたしはロッテ! ロッテ・マイヤーだよ。あなたは?」
「あ、わ、わたしは……、リネーア・ディーツェ、です……」
つっかえつっかえ言う金髪の少女を赤毛の女の子……、ロッテは面白そうにみつめると、ベッドの上段から軽やかに飛び降りた。そのままリネーアのそばに着地すると、彼女を部屋に招き入れた。
357 278 sage 2010/10/26(火) 00:11:09 ID:1mMdjwIG
「リネーア、だね。北方系の名前だけどあなたはエルフ?」
「母が、そうだったんです。亡くなってから人間の父方に引き取られて……」
ベッドの端に腰掛け、二人の少女は自己紹介のように会話を続けている。といってもほぼロッテが話しかけ、リネーアが答えるというかたちであったが。
はにかむように顔を伏せるリネーアを見て、ロッテはもったいないな、と思う。
せっかく美人なのに台無しじゃない。もう少し積極的になれるように「して」あげようかな。そこまで考えてから、ふと、自分にそんな気持ちがないことに気がつく。
(むしろ、守ってあげたい?)
主から命じられたことは「汝の心のおもむくままにせよ」だ。逆に言えば、気が向かないことは強制的にやるべきではない。ならば。
そこまで考えたとき、気がついた。リネーアが心配そうに自分の顔を見つめている。
「あ、ごめんー、ちょっとぼーっとしちゃった」
「すみません……、わたし口下手だから」
「そんなことないない! ……えーと、これから、三年間よろしくねリネーア。そうだ、リネ……って呼んでいい?」
「あ、はい……」
親しく呼びかけられることに慣れていないのか、顔を紅くしてうつむいてしまうリネーアの姿を可愛いと思いつつ、ロッテはこれから始まる学園生活に心を躍らせていた。
入学式から一月がたった、ある授業の時間。
「……という経緯で、世を荒らしていた悪魔は当時の騎士団長、テレーゼによって封印された。彼女が最後の戦いにおもむく前に従者が持って帰った聖剣は、護国の剣として今も神聖騎士団の団長に伝えられている。二百五十年ものあいだ、聖剣は魔を断つ象徴として…・・・」
「ロッテちゃん、ロッテちゃん起きて……」
歴史の授業を受けながらリネーアは、必死で隣の席で寝息を立てているロッテを起こそうとしていた。三十路にさしかかろうかという風情の女教師の目を盗み、手で揺らすがロッテはリネーアの必死さをよそに幸せそうに眠りこんでいる。
すると、女教師がこちらを向き、つかつかと足音も高く近寄ってきた。リネーアは慌てて腕を引っ込める。
「いいご身分だな、ロッテ・マイヤー」
眼鏡の奥の瞳が歪み、指揮棒が振り下ろされ、ぱちーんと派手な音が響く。
「ふぎゃ!?」
慌てたように起き上がり、あちこちを見渡すロッテの姿に教室がどっと沸いた。
358 278 sage 2010/10/26(火) 00:12:34 ID:1mMdjwIG
「いたた、ココロも頭も痛い……」
「まったく、あの鬼ババの授業で寝るなんて、ロッテも命知らずだよ」
居眠りのペナルティとしてどっさり出された課題の前で、文字通り頭を抱えるロッテにあきれたように級友が話しかけてきた。ロッテはその屈託のない性格で新学期早々、たいていのクラスメイトと仲良くなっている。
「ヴァーリア先生、ここ数日ぴりぴりしているね。なんでだろ」
「それがね、カレシと喧嘩しているんだって。うわさじゃね」
「えーちょっとマジ!? あのババアにカレシいるなんて信じらんない! 世の中って不公平だよねー」
かしましくさえずる級友たちにあいづちを打ちながら、ロッテは脱力したかのように机につっぷす。その手の中で、銀色の何かをもてあそんでいた。
放課後。
こころなしか取り乱したような様子で、ヴァーリアは夕日の差し込む廊下を歩いていた。いつもは生徒たちが行きかうここももう下校時間は過ぎ、人影はない。
(どこで落としたのかしら……)
ぎゅ、と不安げに胸の辺りで手を組み、無意識に存在していたはずのペンダントをまさぐろうとするが、やはりない。
どこで落としたのかわからないという不安が、彼女のややきついが整った顔立ちを歪ませていた。
(あとは……、ここ?)
教室につくと、通路を丁寧に見定めながら歩いていく。だが、掃除された床には銀色に光るはずの細工物の姿はない。
やはり、無駄足だったか。内心でため息をつき、ドアに向かおうとしたそのときだった。
「センセ」
「え?」
振り向いたヴァーリアの目が見開かれた。さっきまで確かに誰もいなかったはずなのに、そこには社交服を簡素化し、黒く染めたような制服を身に着けた少女の姿があった。
どこに隠れていたのか、という疑問より先に、教壇に腰掛け、足を投げ出して笑みを浮かべている赤毛の少女の態度に、みるみる血圧が上がるのを感じた。思わず叱責するときのように声を荒げてしまう。
「なにをやっているのロッテ・マイヤー、すぐにそこから……」
そこまで言って息を呑んだ。少女が差し出した指の先に光るものがある。
「センセの探し物はこれ?」
遠目にもはっきりとわかる、銀細工のペンダント。それに引き寄せられるかのようにヴァーリアはふらふらと歩き出した。どこからか、甘い香りがする。
(キンモクセイ……? この子がつけている香水かしら)
妙に考えがまとまらない。夢の中をさまよっているような感覚に囚われながら、いつのまにか目の前に赤毛の少女の姿があった。
「センセのペンダント、すごく想いがこもってるね。恋人さんが大好きだったんだ」
そう、だからわたしは……、あの人のことを大切に。
「でも、つい最近喧嘩して、別れちゃった。深い悲しみがこれにこびりついていたよ」
そう。そうなの。だから……、教師にあるまじきことに、生徒にあたってしまって。
「その悲しみ、取ってあげようか?」
くすくすと笑う声が聞こえる。ああ、この子の瞳がこうも紅く輝くのは、夕日のせいなんだろうか。雑然とした思いのなかで、ただ、悲しみを取り除いてくれるという言葉だけがはっきりと聞こえる。
迷うことなく、うなずいた。
「ふふ、センセ。忘れさせてあげる。あなたを苛む、その苦しみを」
差し出された両手のあいだに、導かれるように体を投げ出す。失った支えを見つけたかのように。
359 278 sage 2010/10/26(火) 00:13:46 ID:1mMdjwIG
今回はココまでー
プロローグがメインです
次はえろえろ一色の予定
とある悪魔の物語
深く、霧に包まれた湖畔に館はあった。
近くの村人も近寄らぬその館は人の気配はなく、さりとて朽ち果てることもなく白く美しい姿をとどめていた。
ごくまれに使いという少女が村にやってきて、焼きたてのパンや牛乳、収穫時にはハムなどを買っていくほかはかかわりもなく、村人からはひとつの風景としか認識されていなかった。
ある日、館がこつぜんと消え去るまで。
天蓋のついた、東方産の絹をふんだんに使ったカーテンに覆われたベッドの上に二つの人影があった。
気だるそうに寝そべる一人はとしのころは十代の終わり、もしくは二十代の初めごろか。黒く長く伸ばした髪を真っ白なシーツに投げ出し、優雅に一糸まとわぬ姿を横たえている。
大理石から削りだしたような秀麗な顔立ちに、水晶を埋め込んだかのような紫の瞳。顔から首、そして胸にいたるラインは名工が幾年月も重ねて磨き上げたような、世の男だけではなく女すらも魅了する美しさを持っていた。
下半身にそそり立つ、異形の肉棒がなければ。
その肉棒に、一心に奉仕をしている給仕服姿の少女がいる。
古木のようにいびつに盛り上がった瘤の一つ一つを丁寧に舐めしゃぶり、あるときは情熱的に接吻をする。一通り舐め終われば先端をくわえ込むと、三十センチはあろうかと思える肉棒を、口全体のみならず喉の奥まで飲み込んでゆく。
ふと、奉仕を受けている麗人が上半身を起こした。手を伸ばし、奉仕を続ける少女の燃えるような赤毛を優しく、愛情をこめて撫でる。赤毛の少女は喜びに身を震わせ、喉奥まで入り込んだ肉棒を締め上げた。んっ、と声が漏れ、麗人の目元がほんの少し歪む。
「出すよ、ロッテ」
言葉と同時に灼熱の液体が先端から放たれ、ロッテと呼ばれた少女は目を細め、次々と打ち出される精を受け止めた。常人では耐えられないほどの量と時間なのに、平然と精を喉を鳴らしてすべてを飲み込んでいく。
「んっ……」
すべてを飲み込むと少女は口から肉棒を引き抜き、満足げな吐息を漏らす。それから丁寧にこびりついた粘液を舐め取ると、にっこりと微笑んだ。麗人とは対照的な、美しいというより可愛い、という印象をまず与える笑みだった。
「いつもご苦労様、ロッテ。……そういえば、キミが『奉公』にきてからどのくらいたつかな?」
主人の問いに少女は首をかしげ、考え込む。
「んー、だいたい百年くらいですか?」
「正確には百と七年、四十七日目だ。『契約』ももうとっくの昔に切れているよ」
あう、と頭を抱える少女に、麗人はいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「さて、それでは『契約』も満了したことだし、そろそろ出かけよう。キミの作った美酒を味わいたいし、『妹』を作ってあげないと」
彼女の宣言に、赤毛の女の子は少し複雑な表情を浮かべたが、吹っ切れたように力強くうなずいた。
「はーいねえさま。まかせてくださいませ。ねえさまの望みのままにロッテは動きますよ!」
元気よく答えたロッテに「ねえさま」と呼ばれた黒髪の麗人は手を伸ばすと二の腕を取り、体を引き寄せた。白と黒の給仕服姿の少女は虚を突かれ、そのまま彼女の懐に飛び込む。
「望みのまま、か。じゃあ、まずキミをたっぷりと可愛がることからはじめようかな」
「あ、あん、ねえさま、えっちぃ……、ひゃあんっ!」
ずぶずぶと埋め込まれる肉棒を受け入れながら、少女は切ないあえぎで部屋を満たしていく。
356 278 sage 2010/10/26(火) 00:08:53 ID:1mMdjwIG
首都、スオルム。
港を有するこの地は、ほんの百年前まで小国だった。だが数代前から続く、君主のさまざまなてこ入れの結果、いつしかこの地域全体の海洋貿易の中心となっていた。
特に、苦労人から身を起こした先々代の王は「学び、手に職をつければ運命が切り開かれる」という言葉を残し、教育施設を多数設立した。それら学校は階層別、職業ごとに分化しながらいまも幼子たちを受け入れている。
その中のひとつ、貴族や裕福な子弟の通う高等学校「グランテ・ジリオ」。そこでは9月を迎え、新入生が続々と入校してきている。これから親元を離れ、寮生活を営み、三年後の卒業にむけて青春を謳歌していくのだ。
「ふう、人、多いなあ」
帆を畳んだ船からおろされた板を踏み、目の覚めるような赤毛の女の子が船から下りていく。その顔は生を楽しむかのように明るく輝き、港を行きかう人を眺めていた。すると、元気さを現しているようにいきいきとした黒の瞳が、ふと一点を見つめる。
先を降りる同年代の子が少しふらついている。見ているうちに渡し板に施してある滑り止めに脚をとられ、体がぐらりと崩れるのがわかった。
「あぶないっ!」
とっさに腕を掴んで引き寄せると、自分の胸に飛び込ませるような形になる。女の子が小さく悲鳴を上げた。
「きゃっ!?」
そのまま、赤毛の少女はまじまじと抱き寄せた少女を見つめた。細くしなやかな金髪、繊細さをうかがわせる線の細い顔立ち。そして、ややとがった耳。
「大丈夫? 怪我はない?」
赤毛の少女の言葉に、その手に抱かれた少女の顔がみるみる赤らんでくる。
「す、すみませんっ!」
そのまま、逃げるように身を翻し、彼女は走り去ってしまった。ぽかんとその後姿を見つめ、ややあって赤毛の少女は苦笑する。
「いきなりだったからびっくりさせちゃったかな?」
そしてかばんを持ち直すと、気を取り直して歩いていく。本来の目的地である丘の上の学校へ。
退屈なガイダンスが終わったあと、赤毛の少女は自分に割り当てられた寮の部屋にいた。富裕層が通う学校ゆえ、簡素ではあるがしっかりとしたつくりになっている。
二人部屋で、いまは比較的広いが、荷物を置いたらあまり余裕はなくなってしまうだろう。
これからどんな子がくるんだろう、と思いながら作り付けの二段ベットに寝そべっていると、こんこん、とノックの音が響いた。
「あいてるよー?」
返事を待っていたかのようにドアが開いたとき、赤毛の少女は目を見開いた。
そこには、ついさっき港で助けた娘が立っていたのだ。
「あ……」
彼女も気づいたのか、足を止めて呆然と部屋の中を見つめている。ためらうように部屋の入り口に立ったままの金髪の少女に、体を起こした赤毛の女の子は笑顔を向けた。
「やあ、あたしはロッテ! ロッテ・マイヤーだよ。あなたは?」
「あ、わ、わたしは……、リネーア・ディーツェ、です……」
つっかえつっかえ言う金髪の少女を赤毛の女の子……、ロッテは面白そうにみつめると、ベッドの上段から軽やかに飛び降りた。そのままリネーアのそばに着地すると、彼女を部屋に招き入れた。
357 278 sage 2010/10/26(火) 00:11:09 ID:1mMdjwIG
「リネーア、だね。北方系の名前だけどあなたはエルフ?」
「母が、そうだったんです。亡くなってから人間の父方に引き取られて……」
ベッドの端に腰掛け、二人の少女は自己紹介のように会話を続けている。といってもほぼロッテが話しかけ、リネーアが答えるというかたちであったが。
はにかむように顔を伏せるリネーアを見て、ロッテはもったいないな、と思う。
せっかく美人なのに台無しじゃない。もう少し積極的になれるように「して」あげようかな。そこまで考えてから、ふと、自分にそんな気持ちがないことに気がつく。
(むしろ、守ってあげたい?)
主から命じられたことは「汝の心のおもむくままにせよ」だ。逆に言えば、気が向かないことは強制的にやるべきではない。ならば。
そこまで考えたとき、気がついた。リネーアが心配そうに自分の顔を見つめている。
「あ、ごめんー、ちょっとぼーっとしちゃった」
「すみません……、わたし口下手だから」
「そんなことないない! ……えーと、これから、三年間よろしくねリネーア。そうだ、リネ……って呼んでいい?」
「あ、はい……」
親しく呼びかけられることに慣れていないのか、顔を紅くしてうつむいてしまうリネーアの姿を可愛いと思いつつ、ロッテはこれから始まる学園生活に心を躍らせていた。
入学式から一月がたった、ある授業の時間。
「……という経緯で、世を荒らしていた悪魔は当時の騎士団長、テレーゼによって封印された。彼女が最後の戦いにおもむく前に従者が持って帰った聖剣は、護国の剣として今も神聖騎士団の団長に伝えられている。二百五十年ものあいだ、聖剣は魔を断つ象徴として…・・・」
「ロッテちゃん、ロッテちゃん起きて……」
歴史の授業を受けながらリネーアは、必死で隣の席で寝息を立てているロッテを起こそうとしていた。三十路にさしかかろうかという風情の女教師の目を盗み、手で揺らすがロッテはリネーアの必死さをよそに幸せそうに眠りこんでいる。
すると、女教師がこちらを向き、つかつかと足音も高く近寄ってきた。リネーアは慌てて腕を引っ込める。
「いいご身分だな、ロッテ・マイヤー」
眼鏡の奥の瞳が歪み、指揮棒が振り下ろされ、ぱちーんと派手な音が響く。
「ふぎゃ!?」
慌てたように起き上がり、あちこちを見渡すロッテの姿に教室がどっと沸いた。
358 278 sage 2010/10/26(火) 00:12:34 ID:1mMdjwIG
「いたた、ココロも頭も痛い……」
「まったく、あの鬼ババの授業で寝るなんて、ロッテも命知らずだよ」
居眠りのペナルティとしてどっさり出された課題の前で、文字通り頭を抱えるロッテにあきれたように級友が話しかけてきた。ロッテはその屈託のない性格で新学期早々、たいていのクラスメイトと仲良くなっている。
「ヴァーリア先生、ここ数日ぴりぴりしているね。なんでだろ」
「それがね、カレシと喧嘩しているんだって。うわさじゃね」
「えーちょっとマジ!? あのババアにカレシいるなんて信じらんない! 世の中って不公平だよねー」
かしましくさえずる級友たちにあいづちを打ちながら、ロッテは脱力したかのように机につっぷす。その手の中で、銀色の何かをもてあそんでいた。
放課後。
こころなしか取り乱したような様子で、ヴァーリアは夕日の差し込む廊下を歩いていた。いつもは生徒たちが行きかうここももう下校時間は過ぎ、人影はない。
(どこで落としたのかしら……)
ぎゅ、と不安げに胸の辺りで手を組み、無意識に存在していたはずのペンダントをまさぐろうとするが、やはりない。
どこで落としたのかわからないという不安が、彼女のややきついが整った顔立ちを歪ませていた。
(あとは……、ここ?)
教室につくと、通路を丁寧に見定めながら歩いていく。だが、掃除された床には銀色に光るはずの細工物の姿はない。
やはり、無駄足だったか。内心でため息をつき、ドアに向かおうとしたそのときだった。
「センセ」
「え?」
振り向いたヴァーリアの目が見開かれた。さっきまで確かに誰もいなかったはずなのに、そこには社交服を簡素化し、黒く染めたような制服を身に着けた少女の姿があった。
どこに隠れていたのか、という疑問より先に、教壇に腰掛け、足を投げ出して笑みを浮かべている赤毛の少女の態度に、みるみる血圧が上がるのを感じた。思わず叱責するときのように声を荒げてしまう。
「なにをやっているのロッテ・マイヤー、すぐにそこから……」
そこまで言って息を呑んだ。少女が差し出した指の先に光るものがある。
「センセの探し物はこれ?」
遠目にもはっきりとわかる、銀細工のペンダント。それに引き寄せられるかのようにヴァーリアはふらふらと歩き出した。どこからか、甘い香りがする。
(キンモクセイ……? この子がつけている香水かしら)
妙に考えがまとまらない。夢の中をさまよっているような感覚に囚われながら、いつのまにか目の前に赤毛の少女の姿があった。
「センセのペンダント、すごく想いがこもってるね。恋人さんが大好きだったんだ」
そう、だからわたしは……、あの人のことを大切に。
「でも、つい最近喧嘩して、別れちゃった。深い悲しみがこれにこびりついていたよ」
そう。そうなの。だから……、教師にあるまじきことに、生徒にあたってしまって。
「その悲しみ、取ってあげようか?」
くすくすと笑う声が聞こえる。ああ、この子の瞳がこうも紅く輝くのは、夕日のせいなんだろうか。雑然とした思いのなかで、ただ、悲しみを取り除いてくれるという言葉だけがはっきりと聞こえる。
迷うことなく、うなずいた。
「ふふ、センセ。忘れさせてあげる。あなたを苛む、その苦しみを」
差し出された両手のあいだに、導かれるように体を投げ出す。失った支えを見つけたかのように。
359 278 sage 2010/10/26(火) 00:13:46 ID:1mMdjwIG
今回はココまでー
プロローグがメインです
次はえろえろ一色の予定
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