スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
永久の果肉8
281 乙×風 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 17:56:11 ID:euBGPUwC
今日もロリータデイがやってきました。
最近れでぃ×○と!とか幼女の裸をプッシュする番組が多くて大変よろしい。
でもみみなちゃんのチクビまで見せるのはどうかと思うよ!! 嬉しかったけど!
はい。自重します。チラシの裏にでもって奴ですね。スレ違いだし。
>>278
何この娘可愛い。ハグされたい!!
葉っぱやら何やらで大事なところが見えない所がかえってエロスですな。
補足ですが、アネモネになると人だった時の足は無くなります。
下半身=花本体、みたいな。
そういう意味ではデビルメイクライ4のエキドナさんに近いか。
あ、そういえば、キメラシードって寄生要素かw
デビクラでエロSSは何か違う気がするけどw
さて。今回投稿分はエロシーン無しです。ごめんなさい。
内容はサブタイトル通り。NGワードは、
(エロ無し、バトル多め)
戦いの末に友情が生まれるかもしれません。なんという少年漫画。
そんなノリですが、それでもよろしければどうぞ。
以下、15レス消費します。
282 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 17:58:17 ID:euBGPUwC
第八話 ネーアVSマリオン
マリオン=リビディスタは森の中を駆けていた。
日は昇り、太陽光が木々を縫って真下へと降り注いでいる。
早朝、リオが居なくなってから五時間程度が経っていた。
魔物が闊歩するこの森で、五時間もの間生存出来る可能性は、低い。
(――おかしい)
そこでマリオンはふと気付いた。
森の中に足を踏み入れてから二時間程度経つが、今まで一匹も魔物と遭遇していない。
偶然なのか、それとも何か理由があるのか。
マリオンは脚を止め、意識を集中し、探索魔術を展開する。
青い魔術陣が足元から展開し、その余波で茜色のマントが揺れる。
探索魔術の範囲は半径300メートル程度。
その範囲内に存在する人や魔物の気配を捉える事が出来る。
熟練の魔術師ならもっと広範囲に渡って探索を掛ける事が出来るのだが。
(こんな事なら、もっと探索魔術の勉強をしておけばよかった…っ)
マリオンの魔術は攻撃と強化に特化している。
高等と言われる転移魔術すら扱えるので、魔術師としてはむしろ優秀だ。
母から施されたスパルタ教育の賜物と言える。
(でも、どれだけ強くてもっ、これじゃ意味がない!)
大切な妹を守る為に力をつけた。だがその守るべき対象が居なくなってしまったら。
自分は何の為に今まで生きてきたのか。
(――? 強い魔力反応がある)
探索魔術の範囲ぎりぎりの所で覚えのある魔力反応を感知した。
これは――あのアネモネの反応だ。
アネモネの撃破は、ヘスペリスとしての任務だ。放っておく訳にはいかない。
(でも、今は)
今はリオを見つけ出すのが最優先だ。アネモネはお呼びじゃない。
しかしそれにしてもこのモンスターは見つけ易い。
アネモネは催淫ガスは人間を引き寄せるだけではない。
獰猛な魔物を遠ざける効果があるのだ。これは最近判明した事である。
今までも、探索魔術でモンスターの少ない所を探し出す事で、アネモネを追跡したのだ。
(この辺りに魔物が少ないのはあのアネモネのせい――あ…)
ちょっと待て。
と、いう事はこの辺りは、森の中で唯一『人間にとって最も安全な場所』という事では。
最後の望みが見えた気がした。
マリオンは探索魔術を切り上げ、アネモネが居た方向へと走る。
木々の密度が増し、徐々に視界がピンクの靄で染まる。
走りながら防御魔術を展開し、催淫ガスを防ぐ。
リオが生きているかもしれない。
だが楽観視も出来ない。アドニスの種を植え付けられている可能性もあるのだから。
(いや、大丈夫。定着するほど、まだ時間が経ってない。今なら間に合う)
アドニスの種子を分離する術はこの二百年の間である程度研究が進んだ。
完全にアネモネ化していない限りは、人間へと戻す事が出来る。
精神や肉体――主に子宮を中心に少なからず後遺症は残るが、社会復帰も可能だ。
「――いた」
木々のカーテンが途切れる。
視界が開けたその先は、小さな泉だ。
その端で、蕾上となった肉の花が鎮座していた。
脚となる触手を泉に浸し、水分を吸収しているのか。
そう言えばここは日当たりもいい。植物らしく光合成でもしているのだろう。
(――寝ている?)
ゆっくりと近付けば花の様子を観察する。
しゅうしゅうとガスを撒く花は、人が呼吸するように一定の間隔で膨らみ、萎む。
足元の触手は微動だにしない。
(リオは――居ない、か)
探索魔術を使って辺りを調べるが泉周辺にはこのアネモネしか存在しない。
そしてアネモネの魔力反応が強すぎてその中に人が居るかどうか判別は出来なかった。
283 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:00:51 ID:euBGPUwC
(花びらの一枚でも切り取って、中を覗いてみよう)
気分としては散々引っ掻き回されたので一刀両断でもしてみたい。
だが中にリオが居る可能性がある以上、そんな事は出来なかった。
(起こさないようにしないと)
目が覚めたら、中に居るリオを人質に取られる可能性もある。
マリオンは腰の鞘から愛用のサーベルを引き抜いた。
刀身にやや反りがある、細身の剣だ。異国の地にカタナと呼ばれる類似種があるらしい。
マリオンはゆっくりとアネモネに近付く。
動作は一瞬だ。花弁の根元に剣を突き刺し、切り裂く。
中を覗いてリオが居るなら素早く取り戻して、すぐに転移魔術を起動。森の外へと、
『んふふ。いいわぁ。リオのぷにぷにお肌。病み付きになりそう♪』
閉じた花から、声が聞こえた。
『肌だけじゃない。この匂いも、その声も。だいすきよぉ♪
あたし、もう貴女を絶対に手放さない♪』
ぎり、と剣を持つ手に必要以上の力が篭った。
『ほらぁ。リオもいいでしょう? 気持ちいいでしょう?
アネモネの触手、癖になるでしょう? いいのよ? 好きなだけ味わって?
そしてエッチな声をあたしに沢山聞かせて? んふふ。んふふふふっ』
ぶちん。自分の血管が切れる音を聞いた気がした。
強化魔術発動。サーベルを納刀し、ロッドを両手で持つ。
足元で魔術陣が浮かび上がり、淡い光がマリオンの両手を包み込んだ。
光が晴れれば白いグローブの上にびっしりと魔術文字が浮かび上がる。
強化魔術の作用を表すそれは魔術文字の密度が濃ければ濃い程威力も比例する。
そしてマリオンの二の腕は魔術文字の光で真っ白に埋め尽くされていた。
これがどれくらいのものなのか――5メートル程度のゴーレムと殴り合いが出来る程度だ。
「死ね」
両手で握り締めたロッドをフルスイング。
渾身の力を込めてにっくきアネモネに怒りの一撃を、
「――っ!?」
足元の触手が急になぎ払われた。
こちらの胴を狙う横薙ぎの一撃だ。
しかしそれも牽制のつもりだったらしく、威力も、速さも大した事はない。
反射的に身を翻らせ、距離を取ってかわした。
「――寝込みを襲うとは、やってくれるじゃない」
着地し、眼前を見据えた瞬間、肉の花が咲いた。
ぐぱり、と音を立てて四つの花弁が割れる。
中から現れたのは豊満な肉体を持った浅葱色の肌の女。
何度も苦汁を舐めさせられた、アネモネだ。
――そう、花肉の中にはアネモネしか居なかった。
「ってあら? また貴女なの? いい加減しつこ、」
「リオは何処」
「え? 何、貴女リオの知り合いなの?」
「質問に答えて」
「は。最近の子供は礼儀がなってないわねぇ。それが人にものを頼む態度なのかしら?」
「人が相手なら、敬意は払う。でも貴女はモンスター」
「あら。あたし、これでも中身は立派な乙女よ♪」
ウィンクをするアネモネに向けてロッドを突きつけた。
魔力を収束させ、いつでも雷撃の魔術を発動できるようにする。
「私、そういう冗談は嫌い。もう一度だけ聞く。リオは何処」
こちらの心中を察して、アネモネは大袈裟に肩を竦めた。
「さあねぇ。何処に居るかまではちょっと分からないわ。
まあでも何をやっているかは想像つくけど?」
284 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:02:26 ID:euBGPUwC
「何を、やっているか?」
「分かってるでしょう? あたしはアネモネ。リオは人間。
アネモネに魅了された女の子がどうなるか」
「種子を、植え付けたのっ?」
「それがあの子の望みよ」
「え?」
今、何と言った。
(リオが、望んだ?)
自ら、進んでアドニスの種子を受けれた? そんな馬鹿な。
あの子は優しくて、臆病な子だ。
魔物に襲われて、犯されて、そして自らも魔物へと変わる事を、恐れない筈がない。
「嘘。リオに限って、そんな事ある筈ない」
「は。笑わせるじゃない。貴女にリオの何が分かるのよ」
「分かる。だって私はリオのお姉さんだから」
そうだ。リシュテアの意思を受け継ぎ、あの子を守るとあの日誓った。
そしてその為に強くなった。
厳しい父と母の教育にも耐えて、ヘスペリスになり、過酷な任務をいくつもこなした。
その間、リオの事を忘れた事など一度もない。
「貴女の言う事なんて信じない。きっとガスのせいでリオはおかしくなった。
だからアドニスの種子を受け入れた。そうに決まってる」
「貴女、救いようのない馬鹿ね」
心底呆れたような声だった。
いや、その表情の奥底に、別の感情が垣間見える――それは、怒り。
「モンスターに説教される謂れはない」
「あっそう。丁度良かったわ。話し合いの通じる相手じゃないな、って思ったところよ」
「化け物と話す舌なんて持ってない」
「それは残念だわ。あたし貴女の妹さんとは楽しくお喋りしたのに」
「嘘。そんな筈ない。貴女は卑怯。リオの事を話して、私を混乱させようとしている」
だったらもう言葉はいらない。
「リオを探すつもりだったけど、もういい。先に貴女を始末する」
「やれるものならやってみなさい。でも泣いても謝っても許さないわ。
貴女みたいな分からず屋の頑固者は一度きつーくお灸を据えてあげなきゃね?」
骨の一本や二本、覚悟しなさい。
そう、アネモネが宣言すると同時に、ロッドから紫電を放った。
不意打ち上等。問答無用の四連射。
それらを大した狙いも付けず、巨体に向けて放つ。
「ふん。おざなりな攻撃ね」
避ける気もないのか、四つの雷撃は四本の触手に迎撃され、消滅する。
だがそれは只の牽制。次弾を放つ為、注意を逸らしたに過ぎない。
ロッドに収束させていた魔力のストックはまだある。
次は計八発の雷撃を生み出し、放つ。
ばじばじ。空気が爆ぜる音を響かせ、紫電の矢がアネモネを襲う。
「数撃てば当たるって? 芸のない攻撃ね」
触手が再びなぎ払われ、五つの電撃が消滅した。
残る三発はかすりもしない。雷撃をわざと拡散させたのだ。
そのせいで一発はアネモネの上方へと逸れ、一発は森の奥へと吸い込まれる。
だが最後の一発は違う。
適当に撃った七発の雷撃に交えて、こちらは狙いを定めていた。
魔術の集弾率を広げ、あたかも適当に打ったと見せかけて。
最後の一発、その狙いは、泉の水面。
「――っ!?」
アネモネがこちらの意図に気付いた。が――遅い。
彼女が、泉に浸した触手を水面から引き上げるよりも早く、雷撃が水面に着弾した!
285 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:04:09 ID:euBGPUwC
「きゃあぁっ!!」
悲鳴を上げ、アネモネが体を仰け反らせる。
だがダメージ自体はそれほどではない。魔力をセーブし威力を搾ったのだ。
次の一撃で終わらせる為に。
ロッドを放り出し、腰のサーベルに手を掛ける。
何故愛用の剣が『サーベル』なのか、勿論理由がある。
魔術と剣術の両方を体得する為、マリオンはとある近道をした。
魔術にしろ、剣術にしろ多種多様な種類があり、戦術がある。
魔術なら攻撃、防御、回復、補助、探索。
剣術にしてもそうだ。そもそもどんな剣を使うかで覚えるべき技術も変わる。
女の細腕と低い体力で切り合いをするならば、速度と技術に特化した短期決戦しかない。
マリオンは父と母と共に考えた。
父の戦士としての才能。母の魔術師としての才能。
それら両方を生かす為に、娘にどんな戦闘スタイルを身に着けさせるべきか。
結果、魔術にしろ剣術にしろ、汎用性を切り捨て、たった一つの戦術を極めた――
剣の柄に手を添えたまま、アネモネに肉薄する。
「っ、このっ、小癪なまねをっ」
ダメージから回復したアネモネが触手を繰り出す。
その瞬間、体内にストックして魔力を開放。転移魔術を発動させる。
「っ!?」
そして転移先は、目標を失い、混乱するアネモネの真後ろ。
――マリオンの戦術は実にシンプルだ。
攻撃魔術はあくまで牽制。敵の注意を引き付け、本命を叩き込む為の布石。
ダメージを与え、弱らせる事も目的ではあるが、それで終わらない時もある。
本命は剣による直接攻撃。
しかし、女の腕では限界がある。
スピードによるかく乱も、緻密な技術も、通じるのは人間同士の決闘だけだ。
こと魔物相手には兎に角、威力だけが求められる。
そして女の力では限界がある。
それ故の強化魔術だった。筋力を上昇させ、一撃必殺を狙う。
そしてその戦術に最も適正な剣はサーベルだ。
レイピアのような『突き』に特化した剣では威力が足りない。
ロングソードのような『叩く』に特化した剣では技術が生かせない。
剣神の血より与えられた技術と速さを生かす為には『切る』事に特化した剣が良い。
その為の『サーベル』――
「転移魔術!?」
勘の良い魔物はすぐにこちらの居場所に気が付いた。
体を捻り、触手を繰り出す動作に入り、
サーベルが抜き放たれた。
きいぃぃん。
抜刀の余力で刀身が鳴り響いていた。
真上から降り注ぐ陽光を浴びて、きらきらと輝いている。
振り抜いた曲剣はアネモネの胴体の左側から右側へと横一文字に『通り抜けている』。
――魔術で体勢を崩した相手に近付き、強化した膂力にて必殺の『居合い』を放つ。
それこそがマリオン=リビディスタのスタイル。
戦士であり、魔術士である彼女の、常勝の戦術だった。
サーベルを振り、アネモネの体液を刀身から払う。
勝負はついていた。アネモネは動かない。
マリオンは背中を向け、サーベルを鞘に収める。
286 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:05:27 ID:euBGPUwC
――きん。
鞘に刀身が完全に納まった瞬間。
ずり、と生々しい音を立ててアネモネの体が横へと『スライド』する。
構わずにマリオンは歩き始めた。
ぐちゃり、と背後で熟れた果実が潰れる音が響く。
彼女がどうなったかなど、見るまでも無かった。
(余計な時間を取られた)
リオの生存は確認出来たが、本人の顔を見るまではまだ安心出来ない。
今頃は、体内のアドニスに操られるまま男と交わっているかもしれないからだ。
『いや、アソコ、疼いてっ、止まらないっ、助けてぇ! 切ないよぉっ』
「……ぁぅ」
乱れる妹の姿を想像して赤面してしまう。
アネモネを追撃している間、種子に犯され、正気を失った女性を何人も見てきたのだ。
その被害者達の顔が、リオと入れ替わり、あられもない声を発している。
(何考えてるの私っ)
「まだまだ、安心出来ない。これから、なんだから」
そうだ。見知らぬ男とセックスするなんて、絶対認めない。
もし、もうしていたら、その男も両断してやる。
今切り捨てたアネモネのように。
「そうね。これからね」
「っ!?」
背後から聞こえた声に驚き、振り向く。
左腰のサーベルに手を掛け、腰をやや落とし、いつでも迎撃出来る体勢を取った。
「びっくりしたわぁ。振り返った瞬間に――ばっさり!
剣筋が全然見えなかった。『切られた!』って気付いたのも貴女が背中を向けてからだし」
ずりりりりり。
肉を引きずる音を立てながら、花弁の上で触手が蠢いている。
上半身と下半身の断面から細かい触手の束があふれ出し、繋ぎ合っているのだ。
(再生している?)
「でも残念。『切断』じゃ、あたしは殺せないわよ?」
再生を終えたアネモネが、腰に手を当てて胸を張る。
浅葱色の艶かしい肌にはもう傷一つ付いていなかった。
得意の居合いは通用しない。
しかも必殺の一撃は不意打ちである事が大前提。敵も二の轍は踏まないだろう。
(だったら、焼き殺すっ)
サーベルを抜き放ち、雷撃の魔術を付与する。
下手な飛び道具は通用しない。剣を通して、直接雷撃を叩き込むしかない。
「今度はちゃんと殺す」
「そう? まあ頑張って頂戴」
「舐めるなっ」
遠距離から抜き身のサーベルを振りぬく。
魔力を帯びた高速の斬撃。それは雷撃を纏いながら敵を両断する剣圧となる。
それも低い位置から横一文字に放った一撃だ。
体の大きいアネモネには避けられる筈もない。
当たれば、ダメージ。防がれれば距離を詰め、剣による直接攻撃を行う事が出来る。
どちらにしろ、こちらが優位になる流れを生み出す事の出来る一手だ。
だが、
「よっ――こらせぇ!」
だむっ! 大地を震わす衝撃音。
それと同時にアネモネの巨体が宙を舞った!
(なんて出鱈目っ)
飛び上がったアネモネの足元を剣風が通り抜ける。
予想外の行動に対応が遅れた。マリオンはその場に立ち止まり上空のアネモネを見据える。
巨大な影が、足元に落ちる。アネモネは真上だ。
(迎撃するっ)
ワイバーンやハーピーを両断した経験もあるのだ。
287 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:07:00 ID:euBGPUwC
巨大な的が、向こうからやってきてくれるのなら、むしろ好都合というもの。
剣を再び鞘に収め、居合いの構えを取る。
「ネーアスパイラルシュートぉ!!!」
(変な名前!)
心の中で即座に突っ込んだ。
アネモネは花弁の下の触手を螺旋状に束ね、自らの体も錐揉み回転させ、こちらに急降下!
直撃を受ければ、マリオンの使う下位の防御魔術では防ぎきれない。
だが問題ない。こんな直線的な攻撃、すれ違いざまに切り抜けばすむ事だ。
タイミングは体が覚えている。ミスなどしよう筈も、
「――カッコ嘘!」
(えぇ? 嘘? 嘘なの?)
何が嘘なんだろう。ネーアスパイラルシュート? 名前が嘘なのか?
それとも何か別の意味があるのだろうか。
唐突に足元がぐらついた。
「っ!?」
ぼこり、と地面が波打ち、次の瞬間下から何かが飛び出してきた!
(これはっ、!? 木の、根っ!)
反射的に飛び退き、下からの不意打ちを紙一重で回避する。
アネモネのドリルキックの軌道から僅かに逸れ、居合いの間合いからも離れた。
カッコ嘘、とはドリルキックが本命では無かったという事か。
「続けて『触手の檻』!」
まだ何かあるのか。多芸なアネモネだ。
頭上のアネモネから触手が凄まじい勢いで延びる。
(取り囲むつもり!?)
ずむ! ずむずむずむずむずむ!
こちらを包囲するように触手が地面に次々と突き刺さる。
気が付けば頭上に、アネモネの本体が。
(好都合)
こちらを包囲したという事は、どこに攻撃しても当たるという事だ。
だが剣を警戒しているのか触手の包囲は思ったよりも広範囲だ。
半径五メートル程だろうか、剣の間合いよりもかなり遠い。
ならば、と防御魔術に割いていた魔力を使い、雷撃の魔術を展開する。
あとは何処でも良い、この魔術を放てばこのアネモネは黒焦げだ。
そして動けなくなった所をじっくり料理してやればいい。
「私の勝ち」
「いいえ。貴女の負けよ」
ハッタリに耳を貸す気は無かった。
頭上のアネモネ本体に向けて、中位の雷撃魔術を放つ。
それとほぼ同時にアネモネの真下、つまりマリオンの頭上に蒼の魔術陣が展開された。
下位の攻撃魔術だ。別段珍しい事ではない。
人型や知性を持った魔物なら人間の使う魔術の真似事くらい出来る。
強大な魔力を持ったこのアネモネならおかしくはない。
だが中位の雷撃を迎え撃つのに下位の攻撃魔術では打ち勝てない。
相殺し、こちらが押し勝てる。
そう思った瞬間。頭上の魔術陣から『大量の水が零れ落ちてきた』。
しまった、そう思った時にはもう遅い。
火事の時に使用される放水の魔術だ。付近に水場があれば、威力も上昇する。
ばちばちばちばちばちっ!!
雷撃が、流れ落ちる大量の水に押し返され、こちらに牙を向いた。
バケツをひっくり返したような水が、防御結界にぶつかり、魔力同士で摩擦を起こす。
自ら放った雷撃が、水を通してこちらの防御魔術を削り取る。
雷撃に使用した魔力は防御魔術のそれよりも遥かに多い。
288 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:08:43 ID:euBGPUwC
慌てて防御魔術を補強しようと魔力を集中させるが――少し遅かった。
防御魔術が耐久限界を超え、砕け散る。
と同時に全身に大量の水が降り掛かり、感電した。
「…っあ、あぁっ…! あぁぁあぁっ…! ――あぁぁっ!!」
電流が全身を焼く。
救いだったのは、水を通した事で威力が大幅に減衰していた事だ。
防御魔術と相殺し合った分も含めて、人を殺す程の威力は無かった。
(……何て、無様…)
だがダメージは少なくない。
アネモネと戦うどころか、剣を握る事すら出来ないくらいだ。
「……リオ…ごめんなさい…」
呟き、その場に倒れ付す。
視界がぼやけ、脳が働かない。
「殺す、なんて言った割には呆気無いものね」
(…うるさい)
「貴女、腕はいいのに単純なんだから、行動が読み易いわ。まだまだ半人前ね」
(うるさいっ)
「雷撃の魔術なら私の触手にでも撃てばダメージは通るのに、貴女はそうしなかった。
わざわざ私の胴体を狙って真上に魔術を放った。
それって、心の贅肉よ? 触手に撃てば、カウンターの放水も威力が落ちていたのに」
放水という性質上、それは重力に従い落下する。
さっきのネーアの反撃は、マリオンが真上に向けて雷撃を放つ事前提の作戦だったのだ。
(そんな事、言われなくても分かってる!)
そうだ。雷撃は感電という便利な特性があるからマリオンも好んで使っているのだ。
硬い鱗や、鎧を着込んだ敵にもダメージを与えられる。
剣に付与する事で接近戦でも優位に立てる。
だがこのアネモネを相手にしていると、すぐに頭に血が上ってしまう。
(どうして…?)
切れやすいのは性格と分かっているが、このモンスターはそれを差し引いても――苛つく。
その態度や仕草が、癇に障る。
いや、それだけではない。何か、何かあるのだ。
さっきこのアネモネと少し会話をして――駄目だ、上手く言葉に出来ない。
何か、気付きかけている。
だがそれは、喉に引っ掛かった魚の小骨のように、あと少しのところで出てこない。
「リビディスタっていうのはそんな人間ばっかりなのかしら?
強くなる事だけを考えて、本当に大切なのがなんなのか、気付いていない」
触手が体を拘束する。
剣を取りこぼし、花弁の上へと引き上げられた。
待ち受けていたのは、眉根を寄せて、こちらを睨むアネモネの女だ。
「ねえ? 貴女さっき言ったわよね? 自分はリオのお姉さんだって」
「…だから…なに…」
「少しでも、あの子の気持ちを考えた事はあるの?」
「あるっ、あるに決まってるっ…」
リオは健気な子だった。
厳格なリビディスタの家で育った彼女は我侭を言わない、素直な子になった。
物心付いた頃。自分の髪や瞳の色が他人と違う事に気付いた。
そして、自分がリビディスタの家に歓迎されていない事も。
父は無関心。義母は赤の他人どころか、仇を見るような目でリオを見た。
次第に、リオは世話係のパセットしか心を開かなくなった。
「リビディスタに居ても、リオは幸せになれない。
だから私は、強くなって。父様と母様に認めてもらって。お金を稼いで。
屋敷からリオを連れて出て行こうと思ったっ」
それが、十二年前リオの母リシュテアと交わした約束だ。
その約束があったから、父と母の厳しい教育にも。
そしてヘスペリスの任務にも耐えてこられた。
マリオンは目前のアネモネを睨み付けた。
剣は無くても、体がいう事を利かなくても、戦う意思は残っていた。
視線が交錯する。
289 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:10:10 ID:euBGPUwC
それは一瞬か、それとも永遠か。
何十秒と続いた睨み合いの末、先に引いたのは人外の赤い瞳だ。
「この、分からず屋ぁっ」
ばちいん! と、張り手が炸裂した。
叩かれたのは無論、身動きの取れないマリオンだ。
が、何故叩かれたのかが理解出来ない。
自分はリオの為を思って今まで行動してきた。
褒められはしても、咎められる事は無い筈だ。
「ど、どうしてっ」
「貴女、ほんっきで馬鹿ねっ。
そこまでリオの事を思ってるなら、どうして今まで一緒に居てあげなかったのよ!?」
「だから、それは、お金を稼ぐ為にっ」
「いらない! いりません! そりゃ貧乏が良いって訳じゃないわよ。
でもね。その為にリオの傍から離れる必要は無かった。
ううん。離れちゃいけなかったのよ」
このアネモネの言い分も少しは分かる。
リオの事が心配なら、片時も離れるな、といいたいのだろう。
出来れば自分もそうしたい。
だが、将来の事を考えると、ほんの少しの間だけでも、傍から離れる必要があったのだ。
「屋敷には、面倒見のいいメイドがいる。
その子は賢くて、優しくて、リオとも仲がいい。だから、」
「馬鹿。それって単に貴女がそのメイドの子に甘えてるだけじゃないの」
「それは、」
「違うとでも言うの?
じゃあ聞くけど、そのメイドにも手に負えない事態が発生していたら?
貴女がリオの傍を離れたせいで、リオが危ない目に遭っていたとしたら?」
「……何それ。自分の事を棚に上げて、よくそんな事が、」
「リオはね。実の父親にレイプされてたのよ」
自分の耳を疑った。
まさか。ありえない。母なら何かしでかす可能性もあったかもしれない。
だがあの厳格な父親が自分の娘に手を出すなど。
『旦那様っ、リオっちが居なくなった事、誰にも口外するなってっ。
余計な事はするなってっ!
それじゃまるで『探すな』って言ってるみたいじゃないですか!』
不意に、パセットとの会話がリフレインされた。
父の真意は分からない。感情を表に出さない人だ。彼の考えなど理解できない。
だが、このアネモネの言葉。そしてパセットの言葉。
それらを統合すると――
(――口、封じ?)
娘を犯した、という事実を隠蔽する為、リオの探索をあえて行わなかった。
病弱な娘だ。放っておいても野垂れ死にする事を見越して。
そう考えれば、辻褄が合う。
ぞっとした。あの父親が、そんな汚い一面を隠し持っていた事に。
「貴女が居たら。そんな事にはならなかったんじゃないの?」
「それは…」
「貴女が傍でリオの事を見ていたら。お父さんとの関係にも気付けたんじゃないのっ?」
「……っ」
「お金もっ。名声もっ。どうだっていいわよ!
どうしてずっとあの子の傍に居てあげなかったのよ!?
傍に居てあの子の悩みを聞いてあげればよかったのよ!
お姉ちゃんが相談に乗ってあげるから、って!
あの子の味方になってあげれば良かったのよ!」
290 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:12:28 ID:euBGPUwC
この時になって、ようやくマリオンは気付いた。
目の前の魔物が、リオを今まで放っていた自分に対して本気で怒っている、と。
「傍にいて、抱きしめてあげればよかったのよ!
リオは親の温もりを知らずに育ったんだのよっ。
だから貴女が甘やかしてあげないといけなかったのにっ」
「…ごめんなさい」
「…今更謝っても遅いわよ。
もう、あの子は道を踏み外してしまった。
実の父に身も心も犯されて、汚されて。
だから、あたしみたいな化け物に縋ってきた。
あたしから与えられる、仮初の温もりに依存した。
可哀想な子……もう、人には、戻れない…」
それっきり言葉が途切れた。
二人の間で重々しい空気が流れる。
(このアネモネは…嘘なんて一つもついてない)
目を見れば分かる。
この魔物は、リオの事を親身になって心配してくれていた。
そして自分を叱ってくれた。まるで母親のように。
(――あ、そうか。そうなんだ)
やっと分かった。このアネモネと会話をし始めてから、気に掛かっていた『何か』。
喉元まで来ているのに中々出てこない正体不明の感覚。
それは、郷愁だ。
(このアネモネ……雰囲気がリシュテアお義母様とそっくりなんだ)
身振り手振りを使った大袈裟な仕草。話し方や言葉遣いも似ている。
それに何よりも、他人の世話を焼きたがるところがそっくりだ。
魔物如きに尊敬する女性の真似事をされていると思って、腹が立っていたんだろうか。
(ほんと、私は馬鹿)
不器用で、気が利かなくて、すぐに周りが見えなくなる。
リオの事を考えたつもりで、結局全部が空回りだった。
どうしようもない、お姉さんだ。
「私、リオに会いたい」
「…会ってどうするのよ?」
「分からない…でも会いたい」
会って、どうしようか?
先ずは挨拶だろうか。
ただ今。遅くなって御免。寂しくなかった? いい子にしてた?
それとも、ごめんなさいだろうか。
辛い思いをさせてしまった。
予想も出来ない事だったが、だからと言って『しょうがない』で片付けられる訳もない。
(どうしよう?)
考えれば考えるほど何をすべきか分からなくなってくる。
しょうがないので目の前の『お姉さん』に助言を頼んだ。
「私何を言えばいいの? リオに何をしてあげれば、いいの?」
「あら簡単よ。ぎゅー、って抱きしめてあげればいいの」
「…え? それだけ?」
「だって、言葉になんて出来ないでしょ? 貴女の気持ち。
だったら、行動で示してあげればいいのよ」
(私の気持ち……)
そうだ。どうせ不器用なのだ、言葉で伝えようと思っても、きっと上手くいかない。
「ありがとう」
あっさりと、その言葉は出てきた。
「あれ? 私、ありがとう、って今言った?」
自分でも信じられない。
ありがとうなんて言ったのはいつ振りだろうか。
しかもさっきまでいがみ合っていた、魔物相手なのに。
「あはは。何よそれ? あたしにそれ、どうリアクションしろって言うの?」
アネモネは愉快そうに笑っている。
291 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:14:24 ID:euBGPUwC
その表情が、死んだリシュテアと一瞬被った。
(お義母様……私、約束破るところだった)
リオを守る。そう誓ったのに。
危険はやはりというか、すぐ近くに潜んでいた。
父も母も、もう信用出来ない。
そして真実を知った今こそ、リオを救ってみせる。
「いい顔になったわね」
「……じろじろ見ないで」
「堅苦しい事言わないでよ♪ どうせ今から『親密な仲になる』んだし♪」
「……え」
忘れていたが目の前の女はアネモネである。
アネモネは人間の女に種子を植え付け、繁殖するモンスターだ。
(そんな事分かってる)
分かってるが、あまりにも人間臭いので忘れていただけだ。
「そういえば、お互い自己紹介もまだだったわね? あたしはネーアよ」
「いきなり馴れ馴れしくなるのは種付けの前フリ?」
「もう。こっちが名乗ったんだからそっちも素直に名乗りなさい」
「……マリオン=リビディスタ」
「マリオンね。素敵な名前じゃない」
真正面から笑顔で言われて面食らってしまう。
名前を褒められたのはリシュテアに一度あるだけで、それ以来だった。
「べ、別に普通」
「あははっ。何照れてるのよ。そういう時は素直にありがとう、って言えばいいのよ」
「…お節介」
「あら。そうだった? ごめんね。こういう性格だから」
(ほんと、お義母様と似てる)
「それでねマリオン?」
「…何」
「種付けさせてくれる?」
「死んでも嫌」
「素直でいい子ね。ますます種付けしたくなったわ♪」
「ほんと、止めて」
虚勢を張ってはいるが体の痺れは抜けていない。
この状態で催淫ガスを使われればあっと言う間に理性を失ってしまうだろう。
そうなったら終わりだ。
「あははっ。冗談よ冗談♪ 本気にするんじゃないの」
「え? 種付け、しないの?」
「また次にしましょう。あ、ほんとはあたしも種付けしたいわよ?
でも少しだけ待ってあげるわ」
「どうして?」
「リオの事なんだけどね? あの子、自分から望んで人間を止めたい、って言ったの。
ひ弱な体も、居場所の無い屋敷も、怖い両親も、全部要らない、ってね」
「……ん…」
「あたしは最初からリオの味方よ。
あの子がモンスターとして生きるというなら、それについていく。
でも貴女はどう? アネモネになってまで、リオについていく?
それとも、リオの意思を無視して、あの子を人間に戻す?」
「……まだ、分からない」
「そうでしょうね。
だから、実際貴女がリオと会って決心するまで、貴女に種付けするのは止めておくわ」
「助かります」
正直いきなり犯されて、アドニスの種子を植えつけられるのは御免こうむる。
しかしリオが望むのなら。一緒にアネモネになって欲しいと思っているなら。
(それも、悪くないかもしれない)
「ま、そういうわけだからゆっくり考えて頂戴。
――あ、そうだ。それよりも少し聞きたい事があるのよ。
リオのご両親って…二人とも普通の人間なの?」
「え?」
(何でそんな事聞くの?)
292 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:16:01 ID:euBGPUwC
少なくとも父のグリーズは人間だ。
彼は幾多の魔物を葬り去ってきた英雄であり、マリオンの剣の師でもある。
魔物などよりもよっぽど化け物じみた強さを持つが、普通の人間のはずだ。
その心は、おぞましい化け物かもしれないが。
「父様は人間。間違いない」
「お母さんの方は?」
尋ねられて、考え込んでしまった。
人間、だとは思う。仮に魔物だったというなら父が子供を設けようとは思わないだろう。
何か特別な力があった訳でも無い。
強いて言うなら。
「リシュテア義母様は魅了の魔術を使えた――みたい」
「チャーム、ね……他には?」
「オッドアイだった。右目が緑で。左目が赤。髪はピンク」
「身体的特徴はリオにちゃんと受け継がれてたのね。他には何かない?
どんな些細な事でもいいから。マリオンが気付いた事」
「と言われても」
何しろ十年以上も前の話だ。
見た目や声、雰囲気は何となく思い出せるが……細かい事は流石に。
「…お義母様の家、ずっと娼館をやっていた、って聞いた」
これは関係ないか。
「ふぅん。生まれてくる子に店をずっと継がせてきたのね。何か理由があるのかしら」
「決まりだって、言ってた。気がする」
「気がするだけなのね……他には? 何かない?」
「……そう言えば、勘がいい、みたいな事を言ってた」
「気がする?」
「真似しないで――私、父様にずっと剣を教えてもらってたけどあの人の事全然分からない。
でも、義母様は私が子供の頃から、父様の事を理解してた」
「へえ。愛の力かしら?」
「……えと、肌を通して、心が分かる、って言ってた」
「気がする?」
「気がする」
「ふぅん? 何かしらね? 読心能力かしら?」
「ん。今思えばそうとも思える」
「他には何か無い?」
「――あ」
思い出した。特徴的というか、どちらかと言えば個性というか。
「猫っぽかった」
「は?」
「にゃーん」
「いや、リアクションしにくいんだけど」
「猫舌だった」
「……それだけ?」
「リオの名前は最初はクロとかシロでした。名付け親はお義母様」
「ネーミングセンス無いわね」
「貴女、人の事言えない」
ネーアスパイラルシュートとか触手の檻とか。
「他にも猫さんのこすぷれしてたみたい」
「あー。そんなサービスまであったのねぇ」
「にゃーん」
「いやもうそれ分かったから。うーん。猫ねぇ。成る程ねぇ。
でも猫のモンスターなんて居たかしら?」
「異国の地に『ネコマタ』というモンスターが居る」
「流石、そういう事は詳しいのね。そいつどんな奴なの?」
「それは――ごにょごにょごにょ――」
「ずばり当ててあげましょうか? サキュバスの親戚みたいな奴なんじゃない?」
「すごい。どうして分かったの?」
ネコマタは男を誘惑して精気を吸うモンスターだ。
何分異国の魔物なので生態系を含めてその詳細までは分かっていないが。
293 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:17:37 ID:euBGPUwC
「んー。まあ何となく、ね。でもそいつって魔術とか使えないでしょ?」
「分からない。ネコマタは、普通の猫が長生きして、魔力を蓄えて、それで魔物になる。
だから、魔術っぽい何かは使えるかもしれない」
そもそも魔術自体がその異国とやらに存在しない可能性が高いのだ。
魔術はこの国でウラヌスが研究し、発展させたものだから。
「と、なると――ネコマタ以外にも混じっているのかしら」
「魅了の魔術と言えばサキュバス」
「他には…セイレーンかしら。リオのお母さん、歌とか上手かった?」
「……聞いたこと無い」
「スケベだったとか?」
「お義母様の事馬鹿にしないで」
ついキツイ口調になってしまった。
「あ――ごめんね? そういうつもりで言ったわけじゃないの」
が、本当に申し訳なさそうに謝罪するアネモネの顔を見て、冷静になる。
「――ん……こっちも言い過ぎた…ごめんなさい」
ネーアは、決して義母の事を嘲ったり侮蔑しているわけでは無い。
悪気は無かったのだ。
だが、その義母の事を悪く言う人間は、リビディスタにいくらでも居た。
その代表ともいえる人物は――言うまでもない。母ドルキだ。
母はリシュテアの事を汚らわしい毒婦、とよく罵っていた。
見舞いに行く時も、あんな女の所に言ってはいけません、と何度も怒られた。
あんなに、素晴らしい女性なのに。
皆知らないのだ。リシュテアが、どれだけ魅力的な女性か。
面倒見が良くて。優しくて。面白くて。それに、強い。
力が強い、という意味ではない。心だ。
病を患っているとは思えないほど、あの人はバイタリティに溢れていた。
無茶――と言われていたリオの出産も、無事に成し遂げた。
自分の命を犠牲にして。
その覚悟がどれほどのものか。
マリオンは、その時この指に絡めた温もりを通して、良く知っていた。
だから、リシュテアを馬鹿にする者は許せなかった。
「――正直に話すわよ?」
不意に、アネモネが切り出した。
真剣な表情だ。何か大切な話があるらしかった。
「今の話の流れで薄々感づいたと思うけど、リオのお母さん、人間じゃないかもしれないわ。
いえ。正確に言うと、人間じゃないモノの血が混じってる」
「……うん」
そう言われて、不思議と納得できた。
あの瞳や髪は勿論、声や仕草に至るまで、彼女は魅力的過ぎた。
それは人ならざるモノのみが、成せる事なのかもしれなかった。
「実は、リオと……その、している時にね?」
ちらちらとこちらの顔色を伺いながらネーアは話す。
もうしてしまったのだから堂々と話せばいいのに。いや切れるかもしれないけど。
自分の妹に種付けした張本人が目の前に居るのだから即座に叩っ切るのが普通だけど。
なんか、もう。話しているとそんな気も失せた。この魔物は悪い奴じゃない。
現に今も、こちらに気を遣って慎重に言葉を選んでいる。
悪戯をした子供が親に謝罪するように。
「もう、別に怒らないから。普通に話して」
そう助け舟を出すと、一瞬呆気に取られた顔をして、
「――ありがと。貴女、いい子ね。切れやすいけど」
「一言多い。次は十七つに分割して欲しい?」
「あはは。謹んで遠慮させてもらうわ」
緊張していた空気が僅かに緩んだ。
こういう空気は、嫌いではない。
ヘスペリスの仲間達には気のいい娘も居たが、ここまで気楽に話す事は無かった。
「そうそう。リオの事だったわね。
実はエッチしている時ね。あの子、急に性格が変わったの」
294 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:18:53 ID:euBGPUwC
「え?」
「エロエロだったわ」
「え、エロエロ…?」
「ええそれはもう。凄かったわ。
事こういう事はあたし達アネモネの専売特許なのに。リオも負けてなかった。
っていうかあたしちょっと自身無くしちゃったわ。
あんな小さな子に好き放題されて。
敏感な所を膣圧でピンポイントで締め付けるとか、あの子の歳で出来る訳ないじゃない」
「――ごくり」
「ちょっと興奮した?」
「どきどきしてる」
「雰囲気作りにガスでも撒く?」
「それはいらない」
「あら、残念――ええぇと、それでね? 言葉遣いもエロエロだったわ。
なんかおマンコとか触手チンポとか言ってたし」
「……そ、それは嘘っ、リオが、そんな事っ」
「んふー。そう? そう思うわよねぇ? でもねぇ…うふふふ。
真実は残酷なのよ? あたしと出会う前からあの子はエロスの権化だったのよ?」
「うぅ。いかにもそれが真実みたいな言い方は止めて」
自分の妹がそんないやらしい女の子だったとは思いたくなかった。
「事実よ。でも、理由がちゃんとある。リオね。性格が変わったって言ったけど。
同時に魔力も上昇していたわ。凄い勢いでね。
あれって、あたしの体液を飲ませてからだわ。リオの中で、何かが変わったのよ」
「どういう事?」
「眠っていた魔物の血が、目覚めたのよ」
変わり者の母。その血を継いだ娘は人外と交わり、豹変した。
「あの魔力の質は、人間よりもあたし達魔物に近かった。間違いないわ。
リオも、リオのお母さんもモンスターの血を引いてる」
「……そんな」
「エッチしてる時、やたらとにゃーにゃー喘いでるなー、って思ったんだけど。
ネコマタか……でも、もう一種類が分からないわ。
魅了の魔術を使う魔物の血が、混じっている筈なのよ」
候補としてはサキュバスか、もしくはそれ以外の何かか。
「あたしの勘では、そのもう一種類が、ちょっとやばい奴かもしれない」
サキュバスやネコマタなら単に『食事』の為に人間を襲うだけだ。
それも人間側からすれば、迷惑な話だろうが、人が家畜を殺して食うのと変わりない。
だが魔物の中には、純粋に破壊を愉しむ者もいる。
人を騙し、堕落させる事に快感を覚える者も居る。
リオがそういう類のモンスターであった場合、事は深刻になる――という事か。
(――あれ?)
「今、気付いた」
「ん? 何?」
「アネモネは、体内のアドニスを通じて互いに繋がってる」
「そうよ。上下関係が強い種でね。
種付けされた女は自分に種付けをした女に逆らえないの。吸血鬼とかと一緒ね」
「だったら、貴女がリオの事を調べたり、言う事を聞いてもらう事も出来る」
種付けをしたのがこのアネモネなのだから、リオはこの女に絶対逆らえない筈だ。
今のリオの様子も、このアネモネには分かる筈である。
「その筈なんだけど……どうにも繋がりが悪いのよねぇ」
「何それ」
「リオ自身の魔力が強すぎるのかしら、アドニス同士の繋がりが阻害されてるのよ」
話を聞けば聞くほど不安になっていた。
リビディスタの屋敷を出ておよそ二年。
その間に守るべき妹は穢された挙句、正体不明の魔物へと変容しつつあるというのだ。
「触手、放して」
295 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:20:20 ID:euBGPUwC
「どうするつもり?」
「おしゃべりはここまで。リオを探しに行く」
「体は大丈夫なの?」
「まだ少し痺れが残ってるけど、じっとしてられない」
「そう。まあ、しょうがないわね。
あたしも少し心配してたところだし、一緒に行きましょうか」
「一人で大丈夫」
「…貴女気付いてないの? 一人じゃ無理よ多分」
「何で」
「探索魔術使ってみなさい」
「?」
意識を集中し、魔術を発動。半径三百メートル付近を調べ上げる。
「――うじゃうじゃいる」
魔物が。それもその筈。会話の為にアネモネがガスを撒いていないのだ。
暢気におしゃべりに夢中になっている間にすっかり取り囲まれてしまった訳である。
「全員蹴散らす」
「ちょっと待ちなさい。様子がおかしいわ」
アネモネの言葉を聞いて、再び探索魔術を展開。
(移動、している?)
時間を掛けて魔物達の動きを見ていると、彼らはこちらを無視して移動していた。
移動先は――アレエスの街。
「何で。街には結界が張ってるのに」
それを分かっているからこの森の魔物達は街には中々近付こうとしない。
攻めても無駄、と分かっているのだ。それが何故今になってこんな行動を。
「あ。これはまずいわ」
「どうしたの」
「リオの居場所が分かったのよ。何処だと思う?」
「勿体ぶらなくていい」
「街の中よ」
「ならいい。森の中よりかは安全」
「そうじゃないのよ。今繋がりが少し戻ったんだけど――
あの子、もう人間じゃなくなってるわ」
言われてどきりとした。それはつまり、
「アネモネに、なっちゃったの?」
「そんなに早く種子は育たないわ」
「でも、今、人間じゃなくなってるって」
「恐れていた事が現実になったわね…」
アネモネは肩越しにアレエスの街を見詰める。
その視線の先に、リオの姿を見ているようだった。
「結局、どういう事なの」
「繋がりが戻ったのはアレエスの結界が無くなったからよ」
「っ!? そんな、ありえないっ。だって結界は内側からしか解除出来ないからっ」
「だから、内側から空けてもらったのよ。
きっとリオがそう、仕向けたんだわ。完全に魔物になってしまった自分が潜入する為に」
「でも、入ったなら結界はまた張り直せばいい!
わざわざ解除するなんて、どうしてそんな事をするか、分からない!」
「理由は、そうね……はっきりとは分からないわね。でもこれだけは言えるわ。
今のリオは、貴女の知っているリオじゃないかもしれない」
「え?」
「そうか――結界を解除したのは魔物を招き入れて、街を混乱させる為。
自分が動きやすくする為ね。全く酷い事を思いつくものだわ。
人間の時のリオなら、絶対にこんな酷い事はしないのに」
「結局何なの? リオは一体どうなったのっ。教えてっ」
「この魔力の反応には覚えがある。ドス黒くて、どろどろしていて。
触るとこちらが腐ってしまいそう。……そう。あいつらは人の負の感情を好む。
純情な心を、汚く穢し、堕落させる事に快感を覚える最低の連中よ」
アネモネが振り返った。
美しい顔は、悔しそうに唇を噛み、苦々しい表情を浮かべていた。
「あの子の正体は、悪魔よ」
296 乙×風 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:26:25 ID:euBGPUwC
以上で八話終了です。
何時の間にか全体の半分を過ぎてますね。まあプロット段階では、ですが。
勿論ここから話が伸びたり縮んだりする可能性もあります。
尚、今回のバトルシーンですが慣れないモノを書いたと思うので色々間違いがあると思います。
もし何か気になるところがあれば遠慮なく言って下さいね。
――実際サーベルで居合抜きとか出来るんだろうか。
まあ、出来なくてもマリオンのは居合専用に調整しているという事で。
あそうだ。次回ですが、ちょっと思い立って予告っぽいのを考えてみました。
――親友であるリオを必死に探すパセット。
だがどれだけ探してもリオは見つからない。
絶望に明け暮れるパセット。
しかし突如、その前に探し人が現れた。
涙を流しながら喜ぶパセット。
だが彼女は知らなかった。目の前の唯一無二の親友がすでに人でない事を。
そして、人の姿をしたリオが悪魔のような笑みを浮かべている事にも気付かない。
魅了の魔術を使われた事にも。
気が付けば、パセットは見知らぬ場所に居た。
人気の無い細い路地裏。その奥に、人々に忘れ去られたような一軒家がある。
その中でパセットが見た物は。
メイドの背中で、悪魔が邪悪な笑みを浮かべている。
彼女の運命は決まっていた。
リオの数々の責め苦に、パセットは喘ぎ悶える!
次回、永久の果肉、第九話、
『ドッグ・ハント』
――あはは。やめときゃよかったwwww
もうやりませんよ次回予告。私の羞恥心的に。
いつものように感想や誤字脱字の指摘等承りますー。
まだまだ修行が足りませんね色々な意味で。
それでは今回はこの辺で。
幼女万歳。
って今回幼女出てないし。まあいいか。
今日もロリータデイがやってきました。
最近れでぃ×○と!とか幼女の裸をプッシュする番組が多くて大変よろしい。
でもみみなちゃんのチクビまで見せるのはどうかと思うよ!! 嬉しかったけど!
はい。自重します。チラシの裏にでもって奴ですね。スレ違いだし。
>>278
何この娘可愛い。ハグされたい!!
葉っぱやら何やらで大事なところが見えない所がかえってエロスですな。
補足ですが、アネモネになると人だった時の足は無くなります。
下半身=花本体、みたいな。
そういう意味ではデビルメイクライ4のエキドナさんに近いか。
あ、そういえば、キメラシードって寄生要素かw
デビクラでエロSSは何か違う気がするけどw
さて。今回投稿分はエロシーン無しです。ごめんなさい。
内容はサブタイトル通り。NGワードは、
(エロ無し、バトル多め)
戦いの末に友情が生まれるかもしれません。なんという少年漫画。
そんなノリですが、それでもよろしければどうぞ。
以下、15レス消費します。
282 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 17:58:17 ID:euBGPUwC
第八話 ネーアVSマリオン
マリオン=リビディスタは森の中を駆けていた。
日は昇り、太陽光が木々を縫って真下へと降り注いでいる。
早朝、リオが居なくなってから五時間程度が経っていた。
魔物が闊歩するこの森で、五時間もの間生存出来る可能性は、低い。
(――おかしい)
そこでマリオンはふと気付いた。
森の中に足を踏み入れてから二時間程度経つが、今まで一匹も魔物と遭遇していない。
偶然なのか、それとも何か理由があるのか。
マリオンは脚を止め、意識を集中し、探索魔術を展開する。
青い魔術陣が足元から展開し、その余波で茜色のマントが揺れる。
探索魔術の範囲は半径300メートル程度。
その範囲内に存在する人や魔物の気配を捉える事が出来る。
熟練の魔術師ならもっと広範囲に渡って探索を掛ける事が出来るのだが。
(こんな事なら、もっと探索魔術の勉強をしておけばよかった…っ)
マリオンの魔術は攻撃と強化に特化している。
高等と言われる転移魔術すら扱えるので、魔術師としてはむしろ優秀だ。
母から施されたスパルタ教育の賜物と言える。
(でも、どれだけ強くてもっ、これじゃ意味がない!)
大切な妹を守る為に力をつけた。だがその守るべき対象が居なくなってしまったら。
自分は何の為に今まで生きてきたのか。
(――? 強い魔力反応がある)
探索魔術の範囲ぎりぎりの所で覚えのある魔力反応を感知した。
これは――あのアネモネの反応だ。
アネモネの撃破は、ヘスペリスとしての任務だ。放っておく訳にはいかない。
(でも、今は)
今はリオを見つけ出すのが最優先だ。アネモネはお呼びじゃない。
しかしそれにしてもこのモンスターは見つけ易い。
アネモネは催淫ガスは人間を引き寄せるだけではない。
獰猛な魔物を遠ざける効果があるのだ。これは最近判明した事である。
今までも、探索魔術でモンスターの少ない所を探し出す事で、アネモネを追跡したのだ。
(この辺りに魔物が少ないのはあのアネモネのせい――あ…)
ちょっと待て。
と、いう事はこの辺りは、森の中で唯一『人間にとって最も安全な場所』という事では。
最後の望みが見えた気がした。
マリオンは探索魔術を切り上げ、アネモネが居た方向へと走る。
木々の密度が増し、徐々に視界がピンクの靄で染まる。
走りながら防御魔術を展開し、催淫ガスを防ぐ。
リオが生きているかもしれない。
だが楽観視も出来ない。アドニスの種を植え付けられている可能性もあるのだから。
(いや、大丈夫。定着するほど、まだ時間が経ってない。今なら間に合う)
アドニスの種子を分離する術はこの二百年の間である程度研究が進んだ。
完全にアネモネ化していない限りは、人間へと戻す事が出来る。
精神や肉体――主に子宮を中心に少なからず後遺症は残るが、社会復帰も可能だ。
「――いた」
木々のカーテンが途切れる。
視界が開けたその先は、小さな泉だ。
その端で、蕾上となった肉の花が鎮座していた。
脚となる触手を泉に浸し、水分を吸収しているのか。
そう言えばここは日当たりもいい。植物らしく光合成でもしているのだろう。
(――寝ている?)
ゆっくりと近付けば花の様子を観察する。
しゅうしゅうとガスを撒く花は、人が呼吸するように一定の間隔で膨らみ、萎む。
足元の触手は微動だにしない。
(リオは――居ない、か)
探索魔術を使って辺りを調べるが泉周辺にはこのアネモネしか存在しない。
そしてアネモネの魔力反応が強すぎてその中に人が居るかどうか判別は出来なかった。
283 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:00:51 ID:euBGPUwC
(花びらの一枚でも切り取って、中を覗いてみよう)
気分としては散々引っ掻き回されたので一刀両断でもしてみたい。
だが中にリオが居る可能性がある以上、そんな事は出来なかった。
(起こさないようにしないと)
目が覚めたら、中に居るリオを人質に取られる可能性もある。
マリオンは腰の鞘から愛用のサーベルを引き抜いた。
刀身にやや反りがある、細身の剣だ。異国の地にカタナと呼ばれる類似種があるらしい。
マリオンはゆっくりとアネモネに近付く。
動作は一瞬だ。花弁の根元に剣を突き刺し、切り裂く。
中を覗いてリオが居るなら素早く取り戻して、すぐに転移魔術を起動。森の外へと、
『んふふ。いいわぁ。リオのぷにぷにお肌。病み付きになりそう♪』
閉じた花から、声が聞こえた。
『肌だけじゃない。この匂いも、その声も。だいすきよぉ♪
あたし、もう貴女を絶対に手放さない♪』
ぎり、と剣を持つ手に必要以上の力が篭った。
『ほらぁ。リオもいいでしょう? 気持ちいいでしょう?
アネモネの触手、癖になるでしょう? いいのよ? 好きなだけ味わって?
そしてエッチな声をあたしに沢山聞かせて? んふふ。んふふふふっ』
ぶちん。自分の血管が切れる音を聞いた気がした。
強化魔術発動。サーベルを納刀し、ロッドを両手で持つ。
足元で魔術陣が浮かび上がり、淡い光がマリオンの両手を包み込んだ。
光が晴れれば白いグローブの上にびっしりと魔術文字が浮かび上がる。
強化魔術の作用を表すそれは魔術文字の密度が濃ければ濃い程威力も比例する。
そしてマリオンの二の腕は魔術文字の光で真っ白に埋め尽くされていた。
これがどれくらいのものなのか――5メートル程度のゴーレムと殴り合いが出来る程度だ。
「死ね」
両手で握り締めたロッドをフルスイング。
渾身の力を込めてにっくきアネモネに怒りの一撃を、
「――っ!?」
足元の触手が急になぎ払われた。
こちらの胴を狙う横薙ぎの一撃だ。
しかしそれも牽制のつもりだったらしく、威力も、速さも大した事はない。
反射的に身を翻らせ、距離を取ってかわした。
「――寝込みを襲うとは、やってくれるじゃない」
着地し、眼前を見据えた瞬間、肉の花が咲いた。
ぐぱり、と音を立てて四つの花弁が割れる。
中から現れたのは豊満な肉体を持った浅葱色の肌の女。
何度も苦汁を舐めさせられた、アネモネだ。
――そう、花肉の中にはアネモネしか居なかった。
「ってあら? また貴女なの? いい加減しつこ、」
「リオは何処」
「え? 何、貴女リオの知り合いなの?」
「質問に答えて」
「は。最近の子供は礼儀がなってないわねぇ。それが人にものを頼む態度なのかしら?」
「人が相手なら、敬意は払う。でも貴女はモンスター」
「あら。あたし、これでも中身は立派な乙女よ♪」
ウィンクをするアネモネに向けてロッドを突きつけた。
魔力を収束させ、いつでも雷撃の魔術を発動できるようにする。
「私、そういう冗談は嫌い。もう一度だけ聞く。リオは何処」
こちらの心中を察して、アネモネは大袈裟に肩を竦めた。
「さあねぇ。何処に居るかまではちょっと分からないわ。
まあでも何をやっているかは想像つくけど?」
284 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:02:26 ID:euBGPUwC
「何を、やっているか?」
「分かってるでしょう? あたしはアネモネ。リオは人間。
アネモネに魅了された女の子がどうなるか」
「種子を、植え付けたのっ?」
「それがあの子の望みよ」
「え?」
今、何と言った。
(リオが、望んだ?)
自ら、進んでアドニスの種子を受けれた? そんな馬鹿な。
あの子は優しくて、臆病な子だ。
魔物に襲われて、犯されて、そして自らも魔物へと変わる事を、恐れない筈がない。
「嘘。リオに限って、そんな事ある筈ない」
「は。笑わせるじゃない。貴女にリオの何が分かるのよ」
「分かる。だって私はリオのお姉さんだから」
そうだ。リシュテアの意思を受け継ぎ、あの子を守るとあの日誓った。
そしてその為に強くなった。
厳しい父と母の教育にも耐えて、ヘスペリスになり、過酷な任務をいくつもこなした。
その間、リオの事を忘れた事など一度もない。
「貴女の言う事なんて信じない。きっとガスのせいでリオはおかしくなった。
だからアドニスの種子を受け入れた。そうに決まってる」
「貴女、救いようのない馬鹿ね」
心底呆れたような声だった。
いや、その表情の奥底に、別の感情が垣間見える――それは、怒り。
「モンスターに説教される謂れはない」
「あっそう。丁度良かったわ。話し合いの通じる相手じゃないな、って思ったところよ」
「化け物と話す舌なんて持ってない」
「それは残念だわ。あたし貴女の妹さんとは楽しくお喋りしたのに」
「嘘。そんな筈ない。貴女は卑怯。リオの事を話して、私を混乱させようとしている」
だったらもう言葉はいらない。
「リオを探すつもりだったけど、もういい。先に貴女を始末する」
「やれるものならやってみなさい。でも泣いても謝っても許さないわ。
貴女みたいな分からず屋の頑固者は一度きつーくお灸を据えてあげなきゃね?」
骨の一本や二本、覚悟しなさい。
そう、アネモネが宣言すると同時に、ロッドから紫電を放った。
不意打ち上等。問答無用の四連射。
それらを大した狙いも付けず、巨体に向けて放つ。
「ふん。おざなりな攻撃ね」
避ける気もないのか、四つの雷撃は四本の触手に迎撃され、消滅する。
だがそれは只の牽制。次弾を放つ為、注意を逸らしたに過ぎない。
ロッドに収束させていた魔力のストックはまだある。
次は計八発の雷撃を生み出し、放つ。
ばじばじ。空気が爆ぜる音を響かせ、紫電の矢がアネモネを襲う。
「数撃てば当たるって? 芸のない攻撃ね」
触手が再びなぎ払われ、五つの電撃が消滅した。
残る三発はかすりもしない。雷撃をわざと拡散させたのだ。
そのせいで一発はアネモネの上方へと逸れ、一発は森の奥へと吸い込まれる。
だが最後の一発は違う。
適当に撃った七発の雷撃に交えて、こちらは狙いを定めていた。
魔術の集弾率を広げ、あたかも適当に打ったと見せかけて。
最後の一発、その狙いは、泉の水面。
「――っ!?」
アネモネがこちらの意図に気付いた。が――遅い。
彼女が、泉に浸した触手を水面から引き上げるよりも早く、雷撃が水面に着弾した!
285 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:04:09 ID:euBGPUwC
「きゃあぁっ!!」
悲鳴を上げ、アネモネが体を仰け反らせる。
だがダメージ自体はそれほどではない。魔力をセーブし威力を搾ったのだ。
次の一撃で終わらせる為に。
ロッドを放り出し、腰のサーベルに手を掛ける。
何故愛用の剣が『サーベル』なのか、勿論理由がある。
魔術と剣術の両方を体得する為、マリオンはとある近道をした。
魔術にしろ、剣術にしろ多種多様な種類があり、戦術がある。
魔術なら攻撃、防御、回復、補助、探索。
剣術にしてもそうだ。そもそもどんな剣を使うかで覚えるべき技術も変わる。
女の細腕と低い体力で切り合いをするならば、速度と技術に特化した短期決戦しかない。
マリオンは父と母と共に考えた。
父の戦士としての才能。母の魔術師としての才能。
それら両方を生かす為に、娘にどんな戦闘スタイルを身に着けさせるべきか。
結果、魔術にしろ剣術にしろ、汎用性を切り捨て、たった一つの戦術を極めた――
剣の柄に手を添えたまま、アネモネに肉薄する。
「っ、このっ、小癪なまねをっ」
ダメージから回復したアネモネが触手を繰り出す。
その瞬間、体内にストックして魔力を開放。転移魔術を発動させる。
「っ!?」
そして転移先は、目標を失い、混乱するアネモネの真後ろ。
――マリオンの戦術は実にシンプルだ。
攻撃魔術はあくまで牽制。敵の注意を引き付け、本命を叩き込む為の布石。
ダメージを与え、弱らせる事も目的ではあるが、それで終わらない時もある。
本命は剣による直接攻撃。
しかし、女の腕では限界がある。
スピードによるかく乱も、緻密な技術も、通じるのは人間同士の決闘だけだ。
こと魔物相手には兎に角、威力だけが求められる。
そして女の力では限界がある。
それ故の強化魔術だった。筋力を上昇させ、一撃必殺を狙う。
そしてその戦術に最も適正な剣はサーベルだ。
レイピアのような『突き』に特化した剣では威力が足りない。
ロングソードのような『叩く』に特化した剣では技術が生かせない。
剣神の血より与えられた技術と速さを生かす為には『切る』事に特化した剣が良い。
その為の『サーベル』――
「転移魔術!?」
勘の良い魔物はすぐにこちらの居場所に気が付いた。
体を捻り、触手を繰り出す動作に入り、
サーベルが抜き放たれた。
きいぃぃん。
抜刀の余力で刀身が鳴り響いていた。
真上から降り注ぐ陽光を浴びて、きらきらと輝いている。
振り抜いた曲剣はアネモネの胴体の左側から右側へと横一文字に『通り抜けている』。
――魔術で体勢を崩した相手に近付き、強化した膂力にて必殺の『居合い』を放つ。
それこそがマリオン=リビディスタのスタイル。
戦士であり、魔術士である彼女の、常勝の戦術だった。
サーベルを振り、アネモネの体液を刀身から払う。
勝負はついていた。アネモネは動かない。
マリオンは背中を向け、サーベルを鞘に収める。
286 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:05:27 ID:euBGPUwC
――きん。
鞘に刀身が完全に納まった瞬間。
ずり、と生々しい音を立ててアネモネの体が横へと『スライド』する。
構わずにマリオンは歩き始めた。
ぐちゃり、と背後で熟れた果実が潰れる音が響く。
彼女がどうなったかなど、見るまでも無かった。
(余計な時間を取られた)
リオの生存は確認出来たが、本人の顔を見るまではまだ安心出来ない。
今頃は、体内のアドニスに操られるまま男と交わっているかもしれないからだ。
『いや、アソコ、疼いてっ、止まらないっ、助けてぇ! 切ないよぉっ』
「……ぁぅ」
乱れる妹の姿を想像して赤面してしまう。
アネモネを追撃している間、種子に犯され、正気を失った女性を何人も見てきたのだ。
その被害者達の顔が、リオと入れ替わり、あられもない声を発している。
(何考えてるの私っ)
「まだまだ、安心出来ない。これから、なんだから」
そうだ。見知らぬ男とセックスするなんて、絶対認めない。
もし、もうしていたら、その男も両断してやる。
今切り捨てたアネモネのように。
「そうね。これからね」
「っ!?」
背後から聞こえた声に驚き、振り向く。
左腰のサーベルに手を掛け、腰をやや落とし、いつでも迎撃出来る体勢を取った。
「びっくりしたわぁ。振り返った瞬間に――ばっさり!
剣筋が全然見えなかった。『切られた!』って気付いたのも貴女が背中を向けてからだし」
ずりりりりり。
肉を引きずる音を立てながら、花弁の上で触手が蠢いている。
上半身と下半身の断面から細かい触手の束があふれ出し、繋ぎ合っているのだ。
(再生している?)
「でも残念。『切断』じゃ、あたしは殺せないわよ?」
再生を終えたアネモネが、腰に手を当てて胸を張る。
浅葱色の艶かしい肌にはもう傷一つ付いていなかった。
得意の居合いは通用しない。
しかも必殺の一撃は不意打ちである事が大前提。敵も二の轍は踏まないだろう。
(だったら、焼き殺すっ)
サーベルを抜き放ち、雷撃の魔術を付与する。
下手な飛び道具は通用しない。剣を通して、直接雷撃を叩き込むしかない。
「今度はちゃんと殺す」
「そう? まあ頑張って頂戴」
「舐めるなっ」
遠距離から抜き身のサーベルを振りぬく。
魔力を帯びた高速の斬撃。それは雷撃を纏いながら敵を両断する剣圧となる。
それも低い位置から横一文字に放った一撃だ。
体の大きいアネモネには避けられる筈もない。
当たれば、ダメージ。防がれれば距離を詰め、剣による直接攻撃を行う事が出来る。
どちらにしろ、こちらが優位になる流れを生み出す事の出来る一手だ。
だが、
「よっ――こらせぇ!」
だむっ! 大地を震わす衝撃音。
それと同時にアネモネの巨体が宙を舞った!
(なんて出鱈目っ)
飛び上がったアネモネの足元を剣風が通り抜ける。
予想外の行動に対応が遅れた。マリオンはその場に立ち止まり上空のアネモネを見据える。
巨大な影が、足元に落ちる。アネモネは真上だ。
(迎撃するっ)
ワイバーンやハーピーを両断した経験もあるのだ。
287 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:07:00 ID:euBGPUwC
巨大な的が、向こうからやってきてくれるのなら、むしろ好都合というもの。
剣を再び鞘に収め、居合いの構えを取る。
「ネーアスパイラルシュートぉ!!!」
(変な名前!)
心の中で即座に突っ込んだ。
アネモネは花弁の下の触手を螺旋状に束ね、自らの体も錐揉み回転させ、こちらに急降下!
直撃を受ければ、マリオンの使う下位の防御魔術では防ぎきれない。
だが問題ない。こんな直線的な攻撃、すれ違いざまに切り抜けばすむ事だ。
タイミングは体が覚えている。ミスなどしよう筈も、
「――カッコ嘘!」
(えぇ? 嘘? 嘘なの?)
何が嘘なんだろう。ネーアスパイラルシュート? 名前が嘘なのか?
それとも何か別の意味があるのだろうか。
唐突に足元がぐらついた。
「っ!?」
ぼこり、と地面が波打ち、次の瞬間下から何かが飛び出してきた!
(これはっ、!? 木の、根っ!)
反射的に飛び退き、下からの不意打ちを紙一重で回避する。
アネモネのドリルキックの軌道から僅かに逸れ、居合いの間合いからも離れた。
カッコ嘘、とはドリルキックが本命では無かったという事か。
「続けて『触手の檻』!」
まだ何かあるのか。多芸なアネモネだ。
頭上のアネモネから触手が凄まじい勢いで延びる。
(取り囲むつもり!?)
ずむ! ずむずむずむずむずむ!
こちらを包囲するように触手が地面に次々と突き刺さる。
気が付けば頭上に、アネモネの本体が。
(好都合)
こちらを包囲したという事は、どこに攻撃しても当たるという事だ。
だが剣を警戒しているのか触手の包囲は思ったよりも広範囲だ。
半径五メートル程だろうか、剣の間合いよりもかなり遠い。
ならば、と防御魔術に割いていた魔力を使い、雷撃の魔術を展開する。
あとは何処でも良い、この魔術を放てばこのアネモネは黒焦げだ。
そして動けなくなった所をじっくり料理してやればいい。
「私の勝ち」
「いいえ。貴女の負けよ」
ハッタリに耳を貸す気は無かった。
頭上のアネモネ本体に向けて、中位の雷撃魔術を放つ。
それとほぼ同時にアネモネの真下、つまりマリオンの頭上に蒼の魔術陣が展開された。
下位の攻撃魔術だ。別段珍しい事ではない。
人型や知性を持った魔物なら人間の使う魔術の真似事くらい出来る。
強大な魔力を持ったこのアネモネならおかしくはない。
だが中位の雷撃を迎え撃つのに下位の攻撃魔術では打ち勝てない。
相殺し、こちらが押し勝てる。
そう思った瞬間。頭上の魔術陣から『大量の水が零れ落ちてきた』。
しまった、そう思った時にはもう遅い。
火事の時に使用される放水の魔術だ。付近に水場があれば、威力も上昇する。
ばちばちばちばちばちっ!!
雷撃が、流れ落ちる大量の水に押し返され、こちらに牙を向いた。
バケツをひっくり返したような水が、防御結界にぶつかり、魔力同士で摩擦を起こす。
自ら放った雷撃が、水を通してこちらの防御魔術を削り取る。
雷撃に使用した魔力は防御魔術のそれよりも遥かに多い。
288 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:08:43 ID:euBGPUwC
慌てて防御魔術を補強しようと魔力を集中させるが――少し遅かった。
防御魔術が耐久限界を超え、砕け散る。
と同時に全身に大量の水が降り掛かり、感電した。
「…っあ、あぁっ…! あぁぁあぁっ…! ――あぁぁっ!!」
電流が全身を焼く。
救いだったのは、水を通した事で威力が大幅に減衰していた事だ。
防御魔術と相殺し合った分も含めて、人を殺す程の威力は無かった。
(……何て、無様…)
だがダメージは少なくない。
アネモネと戦うどころか、剣を握る事すら出来ないくらいだ。
「……リオ…ごめんなさい…」
呟き、その場に倒れ付す。
視界がぼやけ、脳が働かない。
「殺す、なんて言った割には呆気無いものね」
(…うるさい)
「貴女、腕はいいのに単純なんだから、行動が読み易いわ。まだまだ半人前ね」
(うるさいっ)
「雷撃の魔術なら私の触手にでも撃てばダメージは通るのに、貴女はそうしなかった。
わざわざ私の胴体を狙って真上に魔術を放った。
それって、心の贅肉よ? 触手に撃てば、カウンターの放水も威力が落ちていたのに」
放水という性質上、それは重力に従い落下する。
さっきのネーアの反撃は、マリオンが真上に向けて雷撃を放つ事前提の作戦だったのだ。
(そんな事、言われなくても分かってる!)
そうだ。雷撃は感電という便利な特性があるからマリオンも好んで使っているのだ。
硬い鱗や、鎧を着込んだ敵にもダメージを与えられる。
剣に付与する事で接近戦でも優位に立てる。
だがこのアネモネを相手にしていると、すぐに頭に血が上ってしまう。
(どうして…?)
切れやすいのは性格と分かっているが、このモンスターはそれを差し引いても――苛つく。
その態度や仕草が、癇に障る。
いや、それだけではない。何か、何かあるのだ。
さっきこのアネモネと少し会話をして――駄目だ、上手く言葉に出来ない。
何か、気付きかけている。
だがそれは、喉に引っ掛かった魚の小骨のように、あと少しのところで出てこない。
「リビディスタっていうのはそんな人間ばっかりなのかしら?
強くなる事だけを考えて、本当に大切なのがなんなのか、気付いていない」
触手が体を拘束する。
剣を取りこぼし、花弁の上へと引き上げられた。
待ち受けていたのは、眉根を寄せて、こちらを睨むアネモネの女だ。
「ねえ? 貴女さっき言ったわよね? 自分はリオのお姉さんだって」
「…だから…なに…」
「少しでも、あの子の気持ちを考えた事はあるの?」
「あるっ、あるに決まってるっ…」
リオは健気な子だった。
厳格なリビディスタの家で育った彼女は我侭を言わない、素直な子になった。
物心付いた頃。自分の髪や瞳の色が他人と違う事に気付いた。
そして、自分がリビディスタの家に歓迎されていない事も。
父は無関心。義母は赤の他人どころか、仇を見るような目でリオを見た。
次第に、リオは世話係のパセットしか心を開かなくなった。
「リビディスタに居ても、リオは幸せになれない。
だから私は、強くなって。父様と母様に認めてもらって。お金を稼いで。
屋敷からリオを連れて出て行こうと思ったっ」
それが、十二年前リオの母リシュテアと交わした約束だ。
その約束があったから、父と母の厳しい教育にも。
そしてヘスペリスの任務にも耐えてこられた。
マリオンは目前のアネモネを睨み付けた。
剣は無くても、体がいう事を利かなくても、戦う意思は残っていた。
視線が交錯する。
289 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:10:10 ID:euBGPUwC
それは一瞬か、それとも永遠か。
何十秒と続いた睨み合いの末、先に引いたのは人外の赤い瞳だ。
「この、分からず屋ぁっ」
ばちいん! と、張り手が炸裂した。
叩かれたのは無論、身動きの取れないマリオンだ。
が、何故叩かれたのかが理解出来ない。
自分はリオの為を思って今まで行動してきた。
褒められはしても、咎められる事は無い筈だ。
「ど、どうしてっ」
「貴女、ほんっきで馬鹿ねっ。
そこまでリオの事を思ってるなら、どうして今まで一緒に居てあげなかったのよ!?」
「だから、それは、お金を稼ぐ為にっ」
「いらない! いりません! そりゃ貧乏が良いって訳じゃないわよ。
でもね。その為にリオの傍から離れる必要は無かった。
ううん。離れちゃいけなかったのよ」
このアネモネの言い分も少しは分かる。
リオの事が心配なら、片時も離れるな、といいたいのだろう。
出来れば自分もそうしたい。
だが、将来の事を考えると、ほんの少しの間だけでも、傍から離れる必要があったのだ。
「屋敷には、面倒見のいいメイドがいる。
その子は賢くて、優しくて、リオとも仲がいい。だから、」
「馬鹿。それって単に貴女がそのメイドの子に甘えてるだけじゃないの」
「それは、」
「違うとでも言うの?
じゃあ聞くけど、そのメイドにも手に負えない事態が発生していたら?
貴女がリオの傍を離れたせいで、リオが危ない目に遭っていたとしたら?」
「……何それ。自分の事を棚に上げて、よくそんな事が、」
「リオはね。実の父親にレイプされてたのよ」
自分の耳を疑った。
まさか。ありえない。母なら何かしでかす可能性もあったかもしれない。
だがあの厳格な父親が自分の娘に手を出すなど。
『旦那様っ、リオっちが居なくなった事、誰にも口外するなってっ。
余計な事はするなってっ!
それじゃまるで『探すな』って言ってるみたいじゃないですか!』
不意に、パセットとの会話がリフレインされた。
父の真意は分からない。感情を表に出さない人だ。彼の考えなど理解できない。
だが、このアネモネの言葉。そしてパセットの言葉。
それらを統合すると――
(――口、封じ?)
娘を犯した、という事実を隠蔽する為、リオの探索をあえて行わなかった。
病弱な娘だ。放っておいても野垂れ死にする事を見越して。
そう考えれば、辻褄が合う。
ぞっとした。あの父親が、そんな汚い一面を隠し持っていた事に。
「貴女が居たら。そんな事にはならなかったんじゃないの?」
「それは…」
「貴女が傍でリオの事を見ていたら。お父さんとの関係にも気付けたんじゃないのっ?」
「……っ」
「お金もっ。名声もっ。どうだっていいわよ!
どうしてずっとあの子の傍に居てあげなかったのよ!?
傍に居てあの子の悩みを聞いてあげればよかったのよ!
お姉ちゃんが相談に乗ってあげるから、って!
あの子の味方になってあげれば良かったのよ!」
290 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:12:28 ID:euBGPUwC
この時になって、ようやくマリオンは気付いた。
目の前の魔物が、リオを今まで放っていた自分に対して本気で怒っている、と。
「傍にいて、抱きしめてあげればよかったのよ!
リオは親の温もりを知らずに育ったんだのよっ。
だから貴女が甘やかしてあげないといけなかったのにっ」
「…ごめんなさい」
「…今更謝っても遅いわよ。
もう、あの子は道を踏み外してしまった。
実の父に身も心も犯されて、汚されて。
だから、あたしみたいな化け物に縋ってきた。
あたしから与えられる、仮初の温もりに依存した。
可哀想な子……もう、人には、戻れない…」
それっきり言葉が途切れた。
二人の間で重々しい空気が流れる。
(このアネモネは…嘘なんて一つもついてない)
目を見れば分かる。
この魔物は、リオの事を親身になって心配してくれていた。
そして自分を叱ってくれた。まるで母親のように。
(――あ、そうか。そうなんだ)
やっと分かった。このアネモネと会話をし始めてから、気に掛かっていた『何か』。
喉元まで来ているのに中々出てこない正体不明の感覚。
それは、郷愁だ。
(このアネモネ……雰囲気がリシュテアお義母様とそっくりなんだ)
身振り手振りを使った大袈裟な仕草。話し方や言葉遣いも似ている。
それに何よりも、他人の世話を焼きたがるところがそっくりだ。
魔物如きに尊敬する女性の真似事をされていると思って、腹が立っていたんだろうか。
(ほんと、私は馬鹿)
不器用で、気が利かなくて、すぐに周りが見えなくなる。
リオの事を考えたつもりで、結局全部が空回りだった。
どうしようもない、お姉さんだ。
「私、リオに会いたい」
「…会ってどうするのよ?」
「分からない…でも会いたい」
会って、どうしようか?
先ずは挨拶だろうか。
ただ今。遅くなって御免。寂しくなかった? いい子にしてた?
それとも、ごめんなさいだろうか。
辛い思いをさせてしまった。
予想も出来ない事だったが、だからと言って『しょうがない』で片付けられる訳もない。
(どうしよう?)
考えれば考えるほど何をすべきか分からなくなってくる。
しょうがないので目の前の『お姉さん』に助言を頼んだ。
「私何を言えばいいの? リオに何をしてあげれば、いいの?」
「あら簡単よ。ぎゅー、って抱きしめてあげればいいの」
「…え? それだけ?」
「だって、言葉になんて出来ないでしょ? 貴女の気持ち。
だったら、行動で示してあげればいいのよ」
(私の気持ち……)
そうだ。どうせ不器用なのだ、言葉で伝えようと思っても、きっと上手くいかない。
「ありがとう」
あっさりと、その言葉は出てきた。
「あれ? 私、ありがとう、って今言った?」
自分でも信じられない。
ありがとうなんて言ったのはいつ振りだろうか。
しかもさっきまでいがみ合っていた、魔物相手なのに。
「あはは。何よそれ? あたしにそれ、どうリアクションしろって言うの?」
アネモネは愉快そうに笑っている。
291 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:14:24 ID:euBGPUwC
その表情が、死んだリシュテアと一瞬被った。
(お義母様……私、約束破るところだった)
リオを守る。そう誓ったのに。
危険はやはりというか、すぐ近くに潜んでいた。
父も母も、もう信用出来ない。
そして真実を知った今こそ、リオを救ってみせる。
「いい顔になったわね」
「……じろじろ見ないで」
「堅苦しい事言わないでよ♪ どうせ今から『親密な仲になる』んだし♪」
「……え」
忘れていたが目の前の女はアネモネである。
アネモネは人間の女に種子を植え付け、繁殖するモンスターだ。
(そんな事分かってる)
分かってるが、あまりにも人間臭いので忘れていただけだ。
「そういえば、お互い自己紹介もまだだったわね? あたしはネーアよ」
「いきなり馴れ馴れしくなるのは種付けの前フリ?」
「もう。こっちが名乗ったんだからそっちも素直に名乗りなさい」
「……マリオン=リビディスタ」
「マリオンね。素敵な名前じゃない」
真正面から笑顔で言われて面食らってしまう。
名前を褒められたのはリシュテアに一度あるだけで、それ以来だった。
「べ、別に普通」
「あははっ。何照れてるのよ。そういう時は素直にありがとう、って言えばいいのよ」
「…お節介」
「あら。そうだった? ごめんね。こういう性格だから」
(ほんと、お義母様と似てる)
「それでねマリオン?」
「…何」
「種付けさせてくれる?」
「死んでも嫌」
「素直でいい子ね。ますます種付けしたくなったわ♪」
「ほんと、止めて」
虚勢を張ってはいるが体の痺れは抜けていない。
この状態で催淫ガスを使われればあっと言う間に理性を失ってしまうだろう。
そうなったら終わりだ。
「あははっ。冗談よ冗談♪ 本気にするんじゃないの」
「え? 種付け、しないの?」
「また次にしましょう。あ、ほんとはあたしも種付けしたいわよ?
でも少しだけ待ってあげるわ」
「どうして?」
「リオの事なんだけどね? あの子、自分から望んで人間を止めたい、って言ったの。
ひ弱な体も、居場所の無い屋敷も、怖い両親も、全部要らない、ってね」
「……ん…」
「あたしは最初からリオの味方よ。
あの子がモンスターとして生きるというなら、それについていく。
でも貴女はどう? アネモネになってまで、リオについていく?
それとも、リオの意思を無視して、あの子を人間に戻す?」
「……まだ、分からない」
「そうでしょうね。
だから、実際貴女がリオと会って決心するまで、貴女に種付けするのは止めておくわ」
「助かります」
正直いきなり犯されて、アドニスの種子を植えつけられるのは御免こうむる。
しかしリオが望むのなら。一緒にアネモネになって欲しいと思っているなら。
(それも、悪くないかもしれない)
「ま、そういうわけだからゆっくり考えて頂戴。
――あ、そうだ。それよりも少し聞きたい事があるのよ。
リオのご両親って…二人とも普通の人間なの?」
「え?」
(何でそんな事聞くの?)
292 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:16:01 ID:euBGPUwC
少なくとも父のグリーズは人間だ。
彼は幾多の魔物を葬り去ってきた英雄であり、マリオンの剣の師でもある。
魔物などよりもよっぽど化け物じみた強さを持つが、普通の人間のはずだ。
その心は、おぞましい化け物かもしれないが。
「父様は人間。間違いない」
「お母さんの方は?」
尋ねられて、考え込んでしまった。
人間、だとは思う。仮に魔物だったというなら父が子供を設けようとは思わないだろう。
何か特別な力があった訳でも無い。
強いて言うなら。
「リシュテア義母様は魅了の魔術を使えた――みたい」
「チャーム、ね……他には?」
「オッドアイだった。右目が緑で。左目が赤。髪はピンク」
「身体的特徴はリオにちゃんと受け継がれてたのね。他には何かない?
どんな些細な事でもいいから。マリオンが気付いた事」
「と言われても」
何しろ十年以上も前の話だ。
見た目や声、雰囲気は何となく思い出せるが……細かい事は流石に。
「…お義母様の家、ずっと娼館をやっていた、って聞いた」
これは関係ないか。
「ふぅん。生まれてくる子に店をずっと継がせてきたのね。何か理由があるのかしら」
「決まりだって、言ってた。気がする」
「気がするだけなのね……他には? 何かない?」
「……そう言えば、勘がいい、みたいな事を言ってた」
「気がする?」
「真似しないで――私、父様にずっと剣を教えてもらってたけどあの人の事全然分からない。
でも、義母様は私が子供の頃から、父様の事を理解してた」
「へえ。愛の力かしら?」
「……えと、肌を通して、心が分かる、って言ってた」
「気がする?」
「気がする」
「ふぅん? 何かしらね? 読心能力かしら?」
「ん。今思えばそうとも思える」
「他には何か無い?」
「――あ」
思い出した。特徴的というか、どちらかと言えば個性というか。
「猫っぽかった」
「は?」
「にゃーん」
「いや、リアクションしにくいんだけど」
「猫舌だった」
「……それだけ?」
「リオの名前は最初はクロとかシロでした。名付け親はお義母様」
「ネーミングセンス無いわね」
「貴女、人の事言えない」
ネーアスパイラルシュートとか触手の檻とか。
「他にも猫さんのこすぷれしてたみたい」
「あー。そんなサービスまであったのねぇ」
「にゃーん」
「いやもうそれ分かったから。うーん。猫ねぇ。成る程ねぇ。
でも猫のモンスターなんて居たかしら?」
「異国の地に『ネコマタ』というモンスターが居る」
「流石、そういう事は詳しいのね。そいつどんな奴なの?」
「それは――ごにょごにょごにょ――」
「ずばり当ててあげましょうか? サキュバスの親戚みたいな奴なんじゃない?」
「すごい。どうして分かったの?」
ネコマタは男を誘惑して精気を吸うモンスターだ。
何分異国の魔物なので生態系を含めてその詳細までは分かっていないが。
293 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:17:37 ID:euBGPUwC
「んー。まあ何となく、ね。でもそいつって魔術とか使えないでしょ?」
「分からない。ネコマタは、普通の猫が長生きして、魔力を蓄えて、それで魔物になる。
だから、魔術っぽい何かは使えるかもしれない」
そもそも魔術自体がその異国とやらに存在しない可能性が高いのだ。
魔術はこの国でウラヌスが研究し、発展させたものだから。
「と、なると――ネコマタ以外にも混じっているのかしら」
「魅了の魔術と言えばサキュバス」
「他には…セイレーンかしら。リオのお母さん、歌とか上手かった?」
「……聞いたこと無い」
「スケベだったとか?」
「お義母様の事馬鹿にしないで」
ついキツイ口調になってしまった。
「あ――ごめんね? そういうつもりで言ったわけじゃないの」
が、本当に申し訳なさそうに謝罪するアネモネの顔を見て、冷静になる。
「――ん……こっちも言い過ぎた…ごめんなさい」
ネーアは、決して義母の事を嘲ったり侮蔑しているわけでは無い。
悪気は無かったのだ。
だが、その義母の事を悪く言う人間は、リビディスタにいくらでも居た。
その代表ともいえる人物は――言うまでもない。母ドルキだ。
母はリシュテアの事を汚らわしい毒婦、とよく罵っていた。
見舞いに行く時も、あんな女の所に言ってはいけません、と何度も怒られた。
あんなに、素晴らしい女性なのに。
皆知らないのだ。リシュテアが、どれだけ魅力的な女性か。
面倒見が良くて。優しくて。面白くて。それに、強い。
力が強い、という意味ではない。心だ。
病を患っているとは思えないほど、あの人はバイタリティに溢れていた。
無茶――と言われていたリオの出産も、無事に成し遂げた。
自分の命を犠牲にして。
その覚悟がどれほどのものか。
マリオンは、その時この指に絡めた温もりを通して、良く知っていた。
だから、リシュテアを馬鹿にする者は許せなかった。
「――正直に話すわよ?」
不意に、アネモネが切り出した。
真剣な表情だ。何か大切な話があるらしかった。
「今の話の流れで薄々感づいたと思うけど、リオのお母さん、人間じゃないかもしれないわ。
いえ。正確に言うと、人間じゃないモノの血が混じってる」
「……うん」
そう言われて、不思議と納得できた。
あの瞳や髪は勿論、声や仕草に至るまで、彼女は魅力的過ぎた。
それは人ならざるモノのみが、成せる事なのかもしれなかった。
「実は、リオと……その、している時にね?」
ちらちらとこちらの顔色を伺いながらネーアは話す。
もうしてしまったのだから堂々と話せばいいのに。いや切れるかもしれないけど。
自分の妹に種付けした張本人が目の前に居るのだから即座に叩っ切るのが普通だけど。
なんか、もう。話しているとそんな気も失せた。この魔物は悪い奴じゃない。
現に今も、こちらに気を遣って慎重に言葉を選んでいる。
悪戯をした子供が親に謝罪するように。
「もう、別に怒らないから。普通に話して」
そう助け舟を出すと、一瞬呆気に取られた顔をして、
「――ありがと。貴女、いい子ね。切れやすいけど」
「一言多い。次は十七つに分割して欲しい?」
「あはは。謹んで遠慮させてもらうわ」
緊張していた空気が僅かに緩んだ。
こういう空気は、嫌いではない。
ヘスペリスの仲間達には気のいい娘も居たが、ここまで気楽に話す事は無かった。
「そうそう。リオの事だったわね。
実はエッチしている時ね。あの子、急に性格が変わったの」
294 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:18:53 ID:euBGPUwC
「え?」
「エロエロだったわ」
「え、エロエロ…?」
「ええそれはもう。凄かったわ。
事こういう事はあたし達アネモネの専売特許なのに。リオも負けてなかった。
っていうかあたしちょっと自身無くしちゃったわ。
あんな小さな子に好き放題されて。
敏感な所を膣圧でピンポイントで締め付けるとか、あの子の歳で出来る訳ないじゃない」
「――ごくり」
「ちょっと興奮した?」
「どきどきしてる」
「雰囲気作りにガスでも撒く?」
「それはいらない」
「あら、残念――ええぇと、それでね? 言葉遣いもエロエロだったわ。
なんかおマンコとか触手チンポとか言ってたし」
「……そ、それは嘘っ、リオが、そんな事っ」
「んふー。そう? そう思うわよねぇ? でもねぇ…うふふふ。
真実は残酷なのよ? あたしと出会う前からあの子はエロスの権化だったのよ?」
「うぅ。いかにもそれが真実みたいな言い方は止めて」
自分の妹がそんないやらしい女の子だったとは思いたくなかった。
「事実よ。でも、理由がちゃんとある。リオね。性格が変わったって言ったけど。
同時に魔力も上昇していたわ。凄い勢いでね。
あれって、あたしの体液を飲ませてからだわ。リオの中で、何かが変わったのよ」
「どういう事?」
「眠っていた魔物の血が、目覚めたのよ」
変わり者の母。その血を継いだ娘は人外と交わり、豹変した。
「あの魔力の質は、人間よりもあたし達魔物に近かった。間違いないわ。
リオも、リオのお母さんもモンスターの血を引いてる」
「……そんな」
「エッチしてる時、やたらとにゃーにゃー喘いでるなー、って思ったんだけど。
ネコマタか……でも、もう一種類が分からないわ。
魅了の魔術を使う魔物の血が、混じっている筈なのよ」
候補としてはサキュバスか、もしくはそれ以外の何かか。
「あたしの勘では、そのもう一種類が、ちょっとやばい奴かもしれない」
サキュバスやネコマタなら単に『食事』の為に人間を襲うだけだ。
それも人間側からすれば、迷惑な話だろうが、人が家畜を殺して食うのと変わりない。
だが魔物の中には、純粋に破壊を愉しむ者もいる。
人を騙し、堕落させる事に快感を覚える者も居る。
リオがそういう類のモンスターであった場合、事は深刻になる――という事か。
(――あれ?)
「今、気付いた」
「ん? 何?」
「アネモネは、体内のアドニスを通じて互いに繋がってる」
「そうよ。上下関係が強い種でね。
種付けされた女は自分に種付けをした女に逆らえないの。吸血鬼とかと一緒ね」
「だったら、貴女がリオの事を調べたり、言う事を聞いてもらう事も出来る」
種付けをしたのがこのアネモネなのだから、リオはこの女に絶対逆らえない筈だ。
今のリオの様子も、このアネモネには分かる筈である。
「その筈なんだけど……どうにも繋がりが悪いのよねぇ」
「何それ」
「リオ自身の魔力が強すぎるのかしら、アドニス同士の繋がりが阻害されてるのよ」
話を聞けば聞くほど不安になっていた。
リビディスタの屋敷を出ておよそ二年。
その間に守るべき妹は穢された挙句、正体不明の魔物へと変容しつつあるというのだ。
「触手、放して」
295 永久の果肉8 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:20:20 ID:euBGPUwC
「どうするつもり?」
「おしゃべりはここまで。リオを探しに行く」
「体は大丈夫なの?」
「まだ少し痺れが残ってるけど、じっとしてられない」
「そう。まあ、しょうがないわね。
あたしも少し心配してたところだし、一緒に行きましょうか」
「一人で大丈夫」
「…貴女気付いてないの? 一人じゃ無理よ多分」
「何で」
「探索魔術使ってみなさい」
「?」
意識を集中し、魔術を発動。半径三百メートル付近を調べ上げる。
「――うじゃうじゃいる」
魔物が。それもその筈。会話の為にアネモネがガスを撒いていないのだ。
暢気におしゃべりに夢中になっている間にすっかり取り囲まれてしまった訳である。
「全員蹴散らす」
「ちょっと待ちなさい。様子がおかしいわ」
アネモネの言葉を聞いて、再び探索魔術を展開。
(移動、している?)
時間を掛けて魔物達の動きを見ていると、彼らはこちらを無視して移動していた。
移動先は――アレエスの街。
「何で。街には結界が張ってるのに」
それを分かっているからこの森の魔物達は街には中々近付こうとしない。
攻めても無駄、と分かっているのだ。それが何故今になってこんな行動を。
「あ。これはまずいわ」
「どうしたの」
「リオの居場所が分かったのよ。何処だと思う?」
「勿体ぶらなくていい」
「街の中よ」
「ならいい。森の中よりかは安全」
「そうじゃないのよ。今繋がりが少し戻ったんだけど――
あの子、もう人間じゃなくなってるわ」
言われてどきりとした。それはつまり、
「アネモネに、なっちゃったの?」
「そんなに早く種子は育たないわ」
「でも、今、人間じゃなくなってるって」
「恐れていた事が現実になったわね…」
アネモネは肩越しにアレエスの街を見詰める。
その視線の先に、リオの姿を見ているようだった。
「結局、どういう事なの」
「繋がりが戻ったのはアレエスの結界が無くなったからよ」
「っ!? そんな、ありえないっ。だって結界は内側からしか解除出来ないからっ」
「だから、内側から空けてもらったのよ。
きっとリオがそう、仕向けたんだわ。完全に魔物になってしまった自分が潜入する為に」
「でも、入ったなら結界はまた張り直せばいい!
わざわざ解除するなんて、どうしてそんな事をするか、分からない!」
「理由は、そうね……はっきりとは分からないわね。でもこれだけは言えるわ。
今のリオは、貴女の知っているリオじゃないかもしれない」
「え?」
「そうか――結界を解除したのは魔物を招き入れて、街を混乱させる為。
自分が動きやすくする為ね。全く酷い事を思いつくものだわ。
人間の時のリオなら、絶対にこんな酷い事はしないのに」
「結局何なの? リオは一体どうなったのっ。教えてっ」
「この魔力の反応には覚えがある。ドス黒くて、どろどろしていて。
触るとこちらが腐ってしまいそう。……そう。あいつらは人の負の感情を好む。
純情な心を、汚く穢し、堕落させる事に快感を覚える最低の連中よ」
アネモネが振り返った。
美しい顔は、悔しそうに唇を噛み、苦々しい表情を浮かべていた。
「あの子の正体は、悪魔よ」
296 乙×風 ◆VBguGDzqNI sage 2010/03/29(月) 18:26:25 ID:euBGPUwC
以上で八話終了です。
何時の間にか全体の半分を過ぎてますね。まあプロット段階では、ですが。
勿論ここから話が伸びたり縮んだりする可能性もあります。
尚、今回のバトルシーンですが慣れないモノを書いたと思うので色々間違いがあると思います。
もし何か気になるところがあれば遠慮なく言って下さいね。
――実際サーベルで居合抜きとか出来るんだろうか。
まあ、出来なくてもマリオンのは居合専用に調整しているという事で。
あそうだ。次回ですが、ちょっと思い立って予告っぽいのを考えてみました。
――親友であるリオを必死に探すパセット。
だがどれだけ探してもリオは見つからない。
絶望に明け暮れるパセット。
しかし突如、その前に探し人が現れた。
涙を流しながら喜ぶパセット。
だが彼女は知らなかった。目の前の唯一無二の親友がすでに人でない事を。
そして、人の姿をしたリオが悪魔のような笑みを浮かべている事にも気付かない。
魅了の魔術を使われた事にも。
気が付けば、パセットは見知らぬ場所に居た。
人気の無い細い路地裏。その奥に、人々に忘れ去られたような一軒家がある。
その中でパセットが見た物は。
メイドの背中で、悪魔が邪悪な笑みを浮かべている。
彼女の運命は決まっていた。
リオの数々の責め苦に、パセットは喘ぎ悶える!
次回、永久の果肉、第九話、
『ドッグ・ハント』
――あはは。やめときゃよかったwwww
もうやりませんよ次回予告。私の羞恥心的に。
いつものように感想や誤字脱字の指摘等承りますー。
まだまだ修行が足りませんね色々な意味で。
それでは今回はこの辺で。
幼女万歳。
って今回幼女出てないし。まあいいか。
コメント
コメントの投稿