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(ツキに憑かれて 前編)
426 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:53:18 ID:f22CIISd
「やぁああああばぁああいぃぃいいい!」
僕は冬の寒空の下、自転車に跨って駆け抜けながら思わず叫んだ。田舎の張り詰めた冷たい空気の中で僕の声は大きく木霊する。
そうしたところで時間がまき戻ることも、スピードが速くなることもないのは分かっているけど、それだけ僕は追い詰められていた。
今日は高校2年生2学期の期末テストの日で、1時間目のテストは数学だ。
遡ること1ヵ月半ほど前の中間テストで、僕は0点に限りなく近い点数で見事赤点を獲得し、お陰で昨日はその汚名を返上すべく一夜漬けで勉強していた。
しかしそのしわ寄せが、最悪なことにテスト当日の朝に来た。
今日の朝、僕が起床した時刻はいつも起きる時間を大きくオーバーし、朝のHRの時間までをも飛び越してちょうどテストが始まるであろう時間にやっと目が覚めた。
それから3分で身支度を整え、母さんが投げ渡した食パンを片手に家を出て、それから自転車に飛び乗り3分ほど全力で走ったところで筆入れを忘れたことを思い出し、急いで逆走。
結果、僕はテスト開始から20分ほどを過ぎて、やっと家と学校までの全道のりの半分ほどまで辿り着いた。
テスト時間は50分、ここから何も問題なく進めば10分で着くはず。20分でどれだけ解けるかは分からないけど、とにかく急がないと!
すっかり身軽になった木々の間をすり抜けて、僕は山道から舗装された道に自転車を横滑りさせながら入った。中学までは家からまだ近いところに学校はあったけど、高校からは大分遠くなってしまった。
それでも自転車で行けるだけまだありがたかったけど、ボコボコの茶色い道を走りなれていた僕にはこの冷たいねずみ色の道がどうも走りづらかった。友達に言ったらお前だけだ、と即答されたけど。
ここ最近になってやっと慣れてきたその道を疾走していたそんな時、無機質な道路に似合わない……とても生々しい光景が僕の目に飛び込んできた。
「はぁはぁはぁ……えっ? くぅっ、っと。うわっ、ひど……」
道路の上にぺしゃんこに横たわっていたのは、真っ赤に染まった何かの死体だった。
その様子はまさに魂が抜けてしまったかのようだった。おそらくこのあたりでは希少な車に運悪くはねられてしまったんだろう。
それを見て僕が先ほど胃袋に入れ終えたばかりの食パンを吐き出さずにすんだのは、以前にまったくのデジャブとも言える光景を目にしたことがあったからだ。
あの時はおそらく猫の死体だったようだけど、まさしく今僕の前にあるこの死体と同じく、一見しただけでは猫とも犬とも狸とも分からない状態だった。
とりあえずの冷静さはなんとか保てた僕の頭の中では、この状況をどうしようかということで議論を始めようとしていた。
しかしそんな無駄な議論は開始されることなく、全会一致の結論を導き出した僕はすぐに自転車を降りてリュックの中身を漁った。
「何かないか? 何か、っと、これなら大丈夫かな?」
右手で掴んだのは母さんが作ってくれた弁当を入れていた、いわゆる給食袋だった。
遡ることかれこれ10年ほど前、小学校入学時に母さんが作ってくれたありがたいものだけど、さすがにこの年齢では堂々と出したくはないレトロな図柄をしている。
だけど、クラスメイトが口を揃えて大きすぎるという僕の弁当箱を入れられるこの袋なら、この目の前の死体を入れられることはたやすくできそうだった。
弁当箱を教科書で動かないようにリュックの中に直接降ろし、僕は空っぽの袋中にできるだけ形を崩さないようにその死体を移動させ始めた。
手に付く生暖かい血、それにアリなどが近くに群がっていないため、事故が起こってからあまり時間が経っていないのだろう。
事故を起こしてしまった人は事故自体には気付いたのかな? もしそうなら、1秒でもこの子に謝ってくれたら幸いだけどね。
そこまで飛び散っていなかったため、その子の欠片を集めるのにはそこまで苦労はしなかった。さすがにコンクリートの地面に染み込んでしまった血までは無理だったけど、大きなものはほとんど集められたと思う。
「ん? これって、この子のかな?」
427 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:54:33 ID:f22CIISd
欠片の残りがないか探していた僕が見つけたのは、赤く染まった細長いカケラだった。
「あっ、これ尻尾だ。そっか、君は狐だったのかぁ」
それはペシャンコにはなってしまっていたけど、よく見れば黄金色の毛並みが生えそろい、その先っぽだけがちょこんと白く染まっていた。
僕自身もこの近くで狐は何度も見たことがある。冬の時期で餌が少なくなって、山から降りてきてしまったのだろうか。
「運が悪かったね。さっ、山に戻ろっか」
給食袋の口を閉じると自転車のカゴにリュックの中身である教科書や弁当箱を置き、入れ替わりに給食袋を丁寧に詰め込んで口を閉じてそれを背負った
ちらりと腕時計を見ようとしたけど、馬鹿らしくなってやめた。どうしたってもう間に合わないから仕方ない。
僕は開き直ると自転車の進行方向を半回転させ、来た道をゆっくりと戻り始めた。これ以上この子の死体を崩してはいけないからね。
さぁってと、それと同時に先生への言い訳も考えないと。どうせ、僕は嘘は下手だからすぐに寝坊だってばれるんだろうけど。
「じゃ、行きますか、っと」
僕が誰に言うでもなくそんなことを言うと、背負ったリュックがまるで返事をするように少しだけ動いたような気がした。
「はぁ、追試かぁ……追試、かぁ……」
僕があの狐の死体を発見して、山の中腹まで自転車で昇り、大きな木の根元に給食袋に入った狐の欠片を埋め、手を合わせて黙祷してから全速力で学校まで自転車を飛ばした結果……2時間目のテストが始まって10分後に僕は教室に滑り込んだ。
それからテスト後、クラスメイトに笑われながら僕は数学担当で、僕のクラスの担任でもある先生に必死で謝った。
そこで僕が言った嘘は、言い出して三秒で看破されて10秒ほどのアームロックを僕を味わった。でも、できればもう少し味わいたかったかなぁ。
いや、それが先生、女性だからその、僕の頭の後ろに先生の胸が……ぐふふっ。
「ぬふふふっ、何でスーパーで鼻の下伸ばしてるのかなぁ~?」
頭の中で先生のクッションの感触を思い出しながら、僕は背後から聞こえたその声の主に思わず返事をする。
「えへへっ、それはせん……って、うわああっ!」
「おっと、危ない」
驚きのあまり、豚肉が並ぶチルドコーナーに僕が倒れこみそうになったが、すぐに僕はその人に引き寄せられ、そして学校でのデジャブが起きる。
今度は顔からだったけど。
「ぶっ! んんんん!」
「ふぅ、相変わらずリアクションが素直でよろしい。おっと、ごめんごめん」
「ぶはっ! ご、ご、ご、ご、ごめんなさい!」
暗転した視界がその人を捕らえる前に僕はすぐに頭を下げてその人に謝る。心臓が夏祭りのピークを迎えた太鼓のように暴れている。
428 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:56:07 ID:f22CIISd
まさか1日で二回も女性の胸を味わうハメになるとは……はたしてこれは運が良いのか、悪いのか……。
何秒ほどそうしてたか分からないけど、気付くとスーパーのチープなオリジナルソングの合間でかみ殺すような笑いが頭の上から聞こえてきていた。
僕が機嫌を伺うように顔を少しだけ上げると、その人はお腹を抱えて声を殺して笑っていた。
「クスクスッ、あ、ごめんごめん。ふぅ……まったく、私が自分でしたんだから気にしなくていいの」
僕の額を人差し指で優しく小突きながらその人は僕に笑い掛けてきたが、そのまま両手で自分の身体を抱きしめると途端に寂しそうな雰囲気で笑顔も鎮めてしまった。
驚きつつも声をかけようと僕が近づくと、突然その潤んだ瞳で僕の顔に向けてこんなことを言ってきた。
「お姉さんはいつでも、準備できてるんだよ? し、い、ちゃん」
「ぶっ!」
妖しさを滲ませながらも守りたくなるその表情と、思わず目がくらんでしまいそうな甘い声のダブルパンチに僕は一撃でノックダウンされてしまい、すさまじい鼻血の大噴火に乗せられて僕の意識はしばらく吹き飛ぶことになった。
先輩、それはだめだって……。
「はぁ~もう、本当に素直で可愛いなぁ、しぃちゃんは」
「だ、だからもうその呼び方はやめてくださいよ、先輩!」
活発なイメージのあるスーパーの赤いエプロンから、少しだけ落ち着いた雰囲気を見せる高校の制服に着替えた先輩と横に並びながら夕日の畦道を歩く。
小さな僕は先輩に気を使わせないように自転車を押しながら大股で歩いていたのだけど、すぐにそれに気付かれまたこうしてからかわれてしまった。
「ふふっ、私にとってはしぃちゃんはいつまで経ってもしぃちゃんだよ。だから私のことも、また名前で呼んで欲しいんだけどなぁ?」
先輩が僕の顔を覗きこみながら小首を傾げてくる。僕の身長より大きいのに、その愛らしさはまるでリスのようだ。
「だ、だ、だ、だめですよ! またクラスのみんなにからかわれます!」
「それはしぃちゃんが恥ずかしそうに言うからよ。もっと堂々と……くーちゃん、って呼べば」
「無理ですよ! 絶対無理!」
5年ぐらい前まで僕が先輩に対して使っていたあだ名を先輩は持ち出して来た。対して僕は首を大きく振って断固拒否する。
すると先輩は先ほどスーパーで見せたようにまた寂しそうな雰囲気で首を垂れる。
僕はそれを見るや否や、今度は絶対に動揺しないように進行方向の夕日を見ながら声を出す。
「ぼ、僕だってそうそう引っ掛かりませんよ! もう十年間の付き合いな」
429 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:56:48 ID:f22CIISd
突然、僕が見ていた夕日が消えると同時に自転車が動かなくなる。時折鳴いていた鳥や虫達の声も聞こえない。
その代わりに、僕の全神経が視覚に集まって夕日を遮った目の前の姿に集中する。眼球を僅かに動かすことすら出来ない。
当たり前だ。先ほどまで僕が見ていた夕日も美しかったが、今僕の前に立つその人の姿と比べてしまったらそれはもう足元にも及ばない。
そして目の前に立った人物は口を開いて震えた声で静かに告げる。
「私の事……嫌いに、なっちゃんったんだ……うっ」
言い終わると同時に先輩の長い黒髪が風でなびき、僕は先輩にまるで包み込まれるかのような錯覚を感じた。
そして僕に襲い掛かるとてつもない罪悪感。女神を泣かせてしまった様な重罪の重さがのしかかる。
口を開いて謝罪の言葉を言おうとしても、それを許さない先輩の悲しい目。結果、僕は罪の重さに後悔を感じるしかない。
随分とそうした果てのない懺悔を続け、やがて後悔が恐怖に変わろうかと言う頃、それはやはりこうして終わりを告げた。
「ぷっ、あははははははははっ!」
先輩は僕の自転車から手を離して大笑いしている。しかし、僕はそれを見ることが出来ない。
僕は目の前の夕日を見ていた。でも、しばらくぶりに見るその光景を別に懐かしがったわけじゃない。
それから数秒してから、やっと僕の身体は再び血が通い始める。まばたきすら忘れていた目は砂漠の砂のようにすっかりとうるおいをなくしてしまっており、ちくちくと痛んだ。
目の痛みが取れるまで瞼のシャッターを切り続けた僕は、まだ笑い続けている先輩の方を見た。すると僕の視線に気付いたのか、先輩もすぐに笑い声を止めた。
それから悪戯っぽく僕に笑いかけてくる。その表情は先ほどの女神とはまるで別人であったが、しかしその女神とは違う可愛らしさを振りまいていた。
「まったく、本当にしぃちゃんは面白い! 抱きしめちゃう!」
自転車を支えていた僕は逃げることも出来ずに、先輩にぎゅっと強く抱きしめられた。甘い香りが鼻をくすぐる。
「ちょ、ちょちょちょっと、せんぱ」
「でもね……私はしぃちゃんのこと大好きだよ? ……前から、ずっと、ず~っと」
先輩の口調が先ほどまで僕と話していたときのそれとはまるで違う。別人と話しているようにさえ感じた。
当たり前だ。先輩は無理をしているんだ。
「……ごめんなさい」
僕は謝った。それが僕に言えるただ一つの言葉だった。
僕の気持ちが分かってくれたのか、先輩の暖かい拘束はゆっくりと解かれた。顔を上げた僕が見たのは先輩の涙でもなんでもない。
ただ、何か言いたそうだけどそれをぐっとこらえて寂しそうに笑い掛ける先輩の顔だった。
「ごめんなさい」
僕はもう一度そう言って自転車に乗ると先輩を置いて全速力で逃げ出した。これ以上先輩のあの顔を見続けるのは辛かったから。
この沈み行く夕日みたいに先輩の存在は僕には眩しすぎるのだ。だれもが羨むほどに。もちろん僕を含めて。
だから……手に入れたくなる。独り占めしたくなるのだ。
「……くそっ!」
ギアを更に一段重くして僕は更に自転車を飛ばす。逃げるように。振り切るように。
そう、自分自身を。
430 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:57:29 ID:f22CIISd
「さぁってと、母さんがいない洗っちゃわないと」
夕食を食べ終わった僕は、母さんが農協の集まりに行っている間に給食袋を洗うためにリュックを開いた。
そして教科書の手前に置いてあったそれを取り出してそのまま口を閉めようとしたとき、僕はその存在に気付いた。
「んっ? げっ、これなんでここに?!」
給食袋を脇に置いて、僕はそれをリュックの中から引っ張り上げる。口に釣り針を引っ掛けれたかのように思わず顔が引きつる。
黄金色のそれはやはり狐の尻尾であった。うわぁ、これだけリュックの中に落ちちゃってたんだ。埋めたときに気付かなかったなぁ。バチ、当たらないよね……?
だけど僕はその物体のおかしな部分に気付いた。
「あれ……でも、これって確か血が付いてたような……」
その尻尾には朝見たときにべっとりと付いていた血がまったくついていないのだ。血など最初から付いていたのかさえ、疑わしくなってきてしまう。
僕がその違和感に首を傾げた時、それは突然起きた。
右手で先っぽをつまむように持っていたその尻尾が僕の指先から飛び出し、まるで芋虫か何かのように僕の顔面めがけて飛んできたのだ。
その様子を僕はスローモーションで見ながらも、驚きのあまり身体はぴくりとも動かずにそれを見つめていた。
そしてそれは僕の視界の下の方へと段々とフェードアウトしていき、少し遅れて口の中に何かの物体の感触を僕は覚えた。
尻尾が僕の口の中に飛び込んできたのだと理解し、僕の右手がとっさに動いた。しかしその尻尾は口の中でうごめいて、僕の更に奥へと進んでいこうとしている。
右手が喉元までやっと上がり、そして僕の身体の中へ消えかけようとしている尻尾の先っぽを掴もうと手を閉じ始めた。
だけどそれと同時に僕は思わず息を吸い込んでしまい、僕の口から出ていた尻尾の先っぽもついに僕の中へと消えてしまった。
「ぐっ、ゲホゲホ、おぇっ、ゲボォ……ぐっ、オェエッ、ゲホゲホ!」
僕は指を口の中に突っ込んで吐き気を催し、なんとか吐き出そうとしたけど出てくるのは咳と涎だけ。
そして段々と冷や汗と共に恐怖がこみ上げてきて身体が震え始める。
「や、や、や、や、や、やっぱり、た、た、た、祟られちゃったんだ……」
『んっ、くぅ……ふむ、まぁ確かに祟られたという表現は近いの』
「ひゃああああああああああ!」
『うぁっと! 大声を出すでない、たわけ』
あ、あ、あ、あまたの中で、違う! あ、あ、頭の中で声が、声がぁああ!
『くっくっく、っと、人間の前ではコンコンコン、と鳴いてやったほうがいいのかの?』
タタリタタリタタリタタリタタリタタリタタリ、タタリだぁあああああああああ!
『だぁあああああ! 小僧、お主やかましい! ちぃとは黙らんか!』
「ひぃっ!」
僕の声とは明らかに違う頭の中に声に怒られ、僕は耳を塞いでガタガタと振るえることしかできない。だ、だ、誰か、た、た、助けて……。
『まったく、そう怯えるでない。別にお主を喰らおうというわけじゃありんせん』
ガタガタブルブルガタガタブルブル。
『……はぁ、まったく。とにかく一つ、お主には礼を言っておく。此方(こなた)の骸を葬ってくれたこと、感謝し申す』
「えっ?」
頭の中の声が冷静なそれになったことで、少しだけ落ち着きをを取り戻した僕は聞き返した。
『明け方、少しばかし山を降りたところで……此方としたことがたわけてしもうての。気付いたら、此方の身体はもう紙のようになっておったわ』
「そ、それってつまり……」
『そう、此方の“身体”は死んだ。だが、此方の魂は生きておる』
「じゃあ、やっぱりユーレイじゃないかぁあああああ!」
『だぁああああああああああ! 此方の話を聞かぬかぁあああああ!』
431 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:58:13 ID:f22CIISd
「つ、つまり……さ、三千年を生きた、そ、その……狐の妖怪、だと?」
『まっ、そうじゃの。此方は妖怪じゃ。名を……名を……うっ? ぅぅぅぅぅぅ』
頭の中で長く小さなうなり声が響いている。
『だめじゃ、思いだせん! 少し前までは此方の名を呼ぶものもおったのじゃがの、ここしばらく名など呼ばれたこともなかったばかりに忘れてしもうた』
「じゃ、じゃあ何て呼べば……」
『呼ぶのは此方ではない。お主じゃ。好きにせい。此方はお主を……しぃ、とでも呼ばせてもらおう』
な、なんでそのあだ名になるのかなぁ? 僕の名前からだとやっぱりそのあだ名しか考え付かないのかなぁ……。
『ほれっ、此方の呼び名、はよう考えんか』
「あっ、はい! え、ええっとじゃあ、コロ、とかでいいですか?」
先ほどまで喋り続けていた頭の中の声がピタリと止まる。あ、あれ? ど、どうしたのかな?
『……お主』
「は、はい!』
『此方のどこからそのような名を考え付いたのじゃ?』
「あ、えっと、コロって言うのは僕が昔飼ってた亀のなま……」
『こ、此方は亀と一緒かぁあああああ!?』
「ひぃいいいいいいっ!」
予想だにしていなかった怒号に僕の身体がまたガクガクと震え始める。
『ま、まったくお主は……。もう少し真面目に考えてくれぬかや?』
「うぅ……じゃ、じゃあ……ええっと……ツキ、とかはどうですか?」
僕は窓の外を見ながら言う。気づけば今日は満月だった。
『……はぁ、真面目にと申しておるのに……。じゃが、此方も月は大好きじゃ。それでよい』
「な、なんかごめんなさい」
僕は見えない頭の声の主に向って頭を下げた。すると小さく喉を鳴らす笑い声が返ってくる。
『くくっ、お主は素直じゃの。可愛いやつじゃ』
「あ、あの、それで……いつまで僕の身体に……」
僕は恐る恐る聞いてみた。
対してツキさんはまるで夕食を聞かれた母親のような軽い口調でこう返してきたんだ。
『うむ、ずっとじゃ。もう此方の身体はありんせん。これからはお主が此方で、此方がお主じゃ』
「ず、ず、ずっと……?」
『そうじゃ。つまりもうお主も妖怪、というわけじゃな。くっくっく……って、し、しぃ? だ、大丈夫かや? しぃ? しぃ!?』
妖怪……僕が、妖怪? どどどどどどどどどど、どうしようぅぅ……。
『はぁ……色々と忙しい奴じゃの、お主は』
そんなこんなでその日、僕は人間を辞めてしまうこととなった。
432 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:59:38 ID:f22CIISd
『がぁああああああ! 呑ませろぉおお!』
「だめですよ。僕、未成年なんですから」
僕の中にツキ……が来て一週間が経った。もう怖がることはあまりなくなったけど、ツキは色々と、その……わがままな人で僕は困っていた。
『お主に申したじゃろ!? お主はもう老いることも死ぬこともない身体じゃ! どれだけ酒を飲んでも害はありんせん!』
「そういう問題じゃないですよ。守るものは守らないとだめです」
『くぅぅぅ、こ、この生真面目がぁあああ!』
はぁ……勉強がまったく進まないよ。追試もあるのに……やばいなぁ。はぁ、コーヒーも冷めちゃったよ。
『くっ、ならばせめて自慰をして、此方に一時の快楽を味わわせい』
「ぶうっ!」
『うおおっと!』
デリカシーなどカケラもない言葉に僕は口に含んだコーヒーを、どこかのバラエティ番組が如く吐き出してしまった。
「な、何を言い出すんですか! まったくもう……」
『そうは言っても……しぃ、此方と共になってから一度も抜いておらぬのだぞ? それこそ身体に毒じゃ』
「うっ……」
確かに僕はツキが来てからはそうした行為を控えていた。……というより、恥ずかしかったからやりたくなかった。
それでも高校二年生という僕の大人になりかけ身体は男として溜まるものは一方的に溜まっているようで、悶々とした気持ちになるときが時折あることも事実だった。
『お主、男女の関係を結んでおるものはおらぬのか?』
「そ、それは……」
うっ、年頃の男には辛い一言……母さんにも最近はしつこく言われて傷ついているのにぃ……。
『んっ? なんだ、好いておる者がおるのか。お主の記憶の中に一人のおなごが』
「見るなっ!」
僕は叫んだ。怒ったからじゃない。ツキに知って欲しくなかったら。
『お、お主、どうしたんじゃ?』
「お願いです。何も聞かないで下さい。何も……見ないで下さい」
意味がないのは分かってるけど、耳を塞いで僕はツキから逃れようとした。
いや、自分の罪から逃げようとしたんだ。
『……すまぬ。誰しも申せぬ過去があるものよの。本当に、すまぬ』
ツキはしおれた声で僕にそう言ってくれた。知ろうとすればと僕の過去を知れるのに、ツキはそうしないでくれたみたいだ。
良かった。……ツキがあれを知ったら、僕のことをどう思うのだろうか?
ふふっ、考えるまでもないか。きっと僕のこと――。
『此方は……お主にどんな過去があろうとも気にはせん。此方は、お主が好きじゃ。お主が何をしたにせよ、それが変わることはありんせん』
僕はそれを聞いたとき、誰かが僕を背後から優しく抱きしめてくれているような気がした。全てを包み込んでくれるような温もり、それはまるで母さんにそうされているようだった。
『んっ? お、お主、これは……』
……なんでそうしたくなったのかは分からない。少なくてもツキに分かってもらおうと思ったわけじゃない。
だけど、僕はツキには知っておいて欲しかったのかもしれない。あるいは試したかったのかも。
僕は頭の中で思い出すことにした。
僕が犯した……罪の全てを。
433 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:00:26 ID:f22CIISd
今から5年ほどまえ、僕は小学校から中学校へと進学したんだ。中学校から始まる部活は、大好きな先輩と同じ部活に入ろうと決めていた。
だけど僕が入学する1ヶ月前に先輩は部活を辞めてしまっていた。理由は学校では禁止されているはずのアルバイトを始めるため、と言うことらしい。
そしてその後すぐ、先輩は宣言どおりスーパーでのアルバイトを始めた。しかし狭い田舎、そんな話はすぐに広まる。
でも……学校から注意されることはなかった。
先輩が部活を辞めた時期、単身赴任していた先輩のお父さんが亡くなった。過労だったらしい。
そして後を追うように先輩のお母さんも病気で亡くなった。それがスーパーのアルバイトを先輩が始める一週間ほどまえのことだった。
つまり、先輩は中学生と言う身分で独りぼっちになり、自立した生活を余儀なくされてしまった、というわけだ。
二人の保険金は降りたものの、それでは生活に不十分だった先輩は学校の先生達を説得してアルバイトの許可をお願いしたのだ。
もちろん、そんなことを学校側がすぐに認めるわけがない。どんなに田舎の小さな学校だとしてもそこは公立の中学校、高校でさえも禁止されているアルバイトなど断固禁止していた。
更に保護者のいない先輩にもしものことがあった場合を考えれば、学校側が責任を恐れてしまうのは当然のことだった。
それを覆させたのが僕の母だった。
母さんは近隣住民を説得して、先輩がスーパーでアルバイトをしていることを滅多に口外しないこと。先輩に危険な仕事はさせないこと。
そして母さんが先輩の保護者代わりとして、先輩を家に同居させることを決めたのだった。
責任を恐れた学校も、近隣住民の集団登校拒否や教師への商品販売拒否などをチラつかせ、田舎で孤立する怖さを思い知らされた学校側も、仕方なく膝を折って暗黙してくれることとなった。
本当のところは、母さんは先輩にアルバイトもしなくていいと言ったのだが、そこは頑固に先輩も譲らなかったらしい。
そうしたひと悶着があったものの、先輩は無事アルバイトを見つけ、そして僕の家に引っ越して来た。
家族が一人増えただけで、僕の毎日は楽しすぎるほどに充実していた。それも同居しているのが、大好きな先輩だったからだろう。
だけど……僕は分からなかった。
それと同時に僕自身が先輩が好きであることを知らず知らずのうちに我慢していたということに。
ある日、僕と先輩は休日の昼下がりを家で過ごしていた。と、言うのも外は雨で進んで外出する気分ではなく、母さんは農協に話し合いに行っていたからだ。
ふと僕はトイレから戻ると、先輩がテレビを見ている後ろ姿を見て足を止めた。
長い髪から覗くうなじ、ほどよく引き締まったお尻、そして後ろから見ても分かる大きな胸。
僕の我慢はもう限界に達していた。大好きな人がこんなに近くに居るのに今まで我慢できたほうが不思議に思えてきたほどだった。
昔なら絶対に湧き上がってくることはなかった感情……それがそのときの僕には生まれていたのだ。
そして真っ黒なそれは僕の背中を後押しして、僕はそれに負けてしまった。
先輩のことを後ろから抱きすくめると、驚く先輩をそのまま押し倒して僕は先輩の上に馬乗りになった。
これまで何度となく優しい言葉を掛けてくれたその口に僕の口を重ねて、服の上からでも充分すぎるほどにその大きさが分かる胸を両手で荒々しく揉み解した。
その時の先輩は慌てているみたいだったけど僕の身体を押し返したりはしなかった。だから僕は、先輩も僕を受け入れてくれたんだと思ったんだ。
だけど……本当は違かったんだ。
やがて勘違いした僕は、先輩の穿いていたジーパンを脱がせようと右手を移動させ始めた。
そして先輩のジーパンのボタンに手を掛けた直後、先輩は短く叫びながら僕を突き飛ばしたんだ。
勢いあまった僕の身体は部屋の端の壁まで吹き飛ばされ、僕は後頭部を思い切りぶつけて意識が揺らいだ。
でも、その不安定な意識の中でも先輩が何と言って叫んだのかはよく理解できた。
先輩は、やめて、と言ったんだ。
その言葉を数十秒かけて頭の中で反芻して頭を上げたときには、部屋に先輩の姿はもうなかった。
……酷く後悔したよ。何てことをしてしまったんだって。
だけど、僕が犯した罪はそれだけじゃ終わらなかったんだ。
434 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:01:12 ID:f22CIISd
次の日、僕が部屋から出てくると先輩はまるで何事もなかったかのように僕におはよう、と挨拶をしてきた。母さんの様子からしても、先輩は母さんにも話さなかったみたいだった。
それからも先輩はやはり僕が暴挙に出る前となんら変わりなく接してくれたけど、逆に僕にはそれがとても申し訳なく思えてしまってきていた。
母さんは農家で朝は早かったけど、先輩が家に来てからは僕達が朝食を食べる時間になると一度家に戻ってきて、一緒にご飯を食べるようになっていた。
だから学校に行っている平日なら先輩と二人だけ、という状況はほぼ無く、休日も先輩はスーパーにバイトに行く日が多かった。
それでもまたこんな日はやってきてしまった。
僕が暴挙をしでかしてからまだ日が経ってないある日に僕と先輩はまたしても家に二人だけとなってしまった。更にスーパーも定休日の上、外は雨のために先輩が外に出掛けることも無いだろう。
朝になってからその状況を知った僕は、しばらく部屋に閉じこもっていたけどこのままだと席を共にしなくちゃいけなくなるため、11時ごろに身支度を整えて外に出掛けようとした。
だけど、僕が玄関に向おうとしたその時、茶の間から出てきた先輩が僕の肩に手を掛けてきたんだ。
心臓が弾丸の如く飛び出そうになるのは何とか抑えられたけど、僕は振り返ることは出来なかった。……大好きだった先輩に、何を言われるのかが怖くて。
だけど先輩は僕がついこの間、先輩にそうしたように僕の身体を抱きすくめてきたのだ。
そして先輩は口から言葉を出したんだ。それが僕にとってはトドメの言葉でもあった。
この間はごめん。あの時はびっくりしちゃったんだ。
私も、しぃちゃんが大好きだよ、と先輩は言ったんだ。
最初は僕はそれを聞いて思わず息を飲み込んで、とてつもない嬉しさを心の中で噛み締めた。
だけどその直後、僕の中で先輩があの時叫んだ言葉が何重にも響いて僕の心を目覚めさせた。あの時の叫びは絶対に驚いただけじゃない。
あれは完全な拒絶の声。
だったら先輩の今の言葉は嘘だ。でもなんで嘘をつく必要がある?
そう考えたとき、僕の頭の中は自分でも驚くほどに覚醒し、そして答えを導き出した。
僕は先輩を突き放し、非力は僕自身は玄関に転がり落ちた。
だけどすぐに僕は立ち上がって、靴も履かずに玄関のドアを乱暴に開けて外に飛び出したんだ。
行く当てもなく山を走りながら僕は叫ぶ。意味も無く、ただ叫んでそして逃げた。先輩、そして自分自身から。
先輩があんな嘘をついた理由……いや、嘘をつかざるを得ない理由。
それは僕の母さんが、今は先輩の保護者だったからだ。
もし僕の犯した罪が母さんにばれたらどうなるだろう? 少なくとも先輩の保護者はやめざるを得ない状況になる。
運よく、他の人が保護者になってくれる可能性もあるかもしれないが、学校側も今まで認めてくれたバイトは間違いなくやめなくてはならないだろう。
下手をすれば先輩はこの田舎を出て親戚の人や、ちゃんとした施設に入ることになる可能性だってある。
先輩は僕によく言っていた。この田舎の風景が大好きだ、と。それにここは先輩が自身のお母さんと過ごした故郷だ。離れたくはないはず。
だから、先輩は我慢をすることを決心したんだ。ここに残るために。
そのためだったら、自身を襲おうとした僕と付き合うことだってしようと、先輩は決めたんだ。
先輩にそんなことをさせてしまった自分が憎くて、悔しくて、大嫌いで僕は叫んだ。
その日から、僕は先輩を“くーちゃん”と呼ばなくなったんだ。
435 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:01:53 ID:f22CIISd
「先輩を襲ったこと。先輩に嘘をつかせたこと……いや、つかせ続けている事、それが僕の罪です」
先輩は高校生になって僕の家から出て行った今でも、今日みたいに僕のことを好きだと言ってくれている。
当たり前だ。先輩は優しい人だから、きっと僕を傷つけまいとそう決めたんだ。
だから僕も先輩を傷つけまいと決めたんだ。それまで通り、何事もなかったかのように接しようと。
『……すまぬ、しぃ。此方は……此方は本当に』
「大丈夫ですよ。でも、ツキの方こそ僕のこと嫌いになったんじゃないですか?」
『ありんせん! そんなこと、ありんせん!』
僕は久しぶりにツキの怒号に驚いた。そして身体が小さく震え始める。だけど恐かったわけじゃない。
……嬉しかった。先輩以外に僕の罪を知ってくれた人も、その上で僕を受け入れてくれた人も初めてだったから。
「ありがとう……ツキ」
僕は心のそこからツキにそう言った。このあまりに優しい同居人が僕の傍にいてくれたことに。
どうしても流れてしまう涙を僕が何とか止めると、ふとツキがこんなことを言ってきた。
『しぃ……すまぬが明かりを消して服を脱ぎ、横になってくれんか?』
「えっ? ど、どうして?」
『くくっ、ただの酔狂じゃ。何も言わずに、の?』
「う、うん」
いつものツキらしからぬ静かな口調に、僕は少しだけ首を傾げながらもツキの言うとおりに敷いてあった布団の上で裸になり、電気を消して横たわった。
『くすっ、よい身体をしておる。……そのまま力を抜き、ゆっくりと目を閉じるのじゃ』
僕は照れながらも言われるがままに身体の力を抜いて、目を閉じてみた。僕の視界は完全に暗闇に溶け込んだ。
次はどうすれば……って、あれ? く、口が動かない。右手も、左手も、両足も、目も開けない! ツ、ツキ、一体な……。
慌てる僕の視界に片隅に、ふと一人の女性の姿が目に入った。いや、勝手に首がそちらに動いた、というのが正しい表現かもしれない。
暗闇の中でその女の人は光を放っていて、雪のように白い着物に身を包み、そして流れるような黄金色の髪の毛をしていた。
その女の人は大人の雰囲気を持ったなやましい身体つきをしているんだけど、その笑顔はまるで無邪気な子供のような笑顔であり、そして暖かな優しさをも秘めたものだった。
僕が見とれていると女の人はゆっくりと僕に近づいてきて、動けない僕の耳元でこう囁いてきた。
「これは此方が百年ほど前まで人間の元に現れるときにしていた姿じゃ。どうじゃ? かわいいかの?」
さっきまで頭の中でしか響いていなかった声が生暖かい息に乗せられて僕の耳に入り込んできた。
その背後に黄金色をした、先っぽが着物と同じく真っ白な尻尾が振り子のようにゆらゆらと揺れていた。ふわふわで暖かそうなその尻尾はなんとも可愛らしい。
更にツキの髪の上から顔を覗かせる二つの小さな耳。それが時折瞬きをするかのようにピクピクと動くさまもこれまた愛おしい。
実際に頭は動かなかったけど僕は心の中で何度も頷いていた。ツキはそれを分かってくれたようで、顔を上げてにこやかな笑顔で口を開いた。
「くくっ、お主は素直じゃ。ほれ、お主のいちもつが既にいきりたっておる」
してやったり、と言った感じでニヤリとツキに僕は笑われた。ううぅぅぅ、恥ずかしいぃぃ……。
「くくくくっ、すまぬすまぬ。じゃが……此方はうれしいぞ。んっ」
儚げな雰囲気を持った表情をしたツキは、ゆっくりとその顔を僕の顔に近づけてくると、そのまま小さな唇を僕のそれに重ねてきた。
軽く濡れたツキの舌が僕の唇を優しく舐め回し、動けない僕はされるがままにその甘い感触に酔いしれる。
そしてツキは濡れた僕の唇の間を滑り込むようにして僕の口の中へと入ってきた。僕の口の中で彼女の舌は静かに、だけど僕が予想できない動きで翻弄してくる。
目の前のツキは大きな目を時折細く開いて僕を見るとそのたびに小さく笑いかけてきてくれて、僕はといえばそのたびに骨抜きにされてしまっていた。
「んっ、ふぅぅ……どうじゃ、おなごに一方的に蹂躙されるのもたまにはよかろう?」
僕の口の中をもてあそんだツキは可愛げのある顔で妖しい言葉を掛けてきた。そのギャップがなやましくて僕は余計にツキが愛おしくなってしまう。
436 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:02:36 ID:f22CIISd
「次は、お主の身体の逞しいこれを可愛がってやるかの。……お主、顔に似合わず立派なものをもっとるの」
その言葉に喜ぶべきなのか、恥ずかしがるべきなのかを僕が迷っていると人肌の感触が僕の……モノを包み込んできた。
僕の頭が勝手に動き、気付けばツキが僕が軽く広げた両足の間で膝まづいて僕のモノを掴んでいた。
「すぐにでもこれを飲み込みたいところじゃが……まずは濡らしてやるかの。……ペロッ、んっ」
口が開くのなら僕はものすごく恥ずかしい声を上げていたことだろう。それだけの快感が僕を襲ったのだ。
ツキは僕のモノに口を近づけると、軽くひと舐めすると僕のモノを自らの口の中に納め始めたのだ。
頭が動かせない僕は自分のモノがツキの口の中に消えていく光景を見ながら、同時に襲ってくる津波のような快感、そして収まった部分から感じるぬくもりまで感じさせられ、頭がおかしくなってしまいそうだった。
その津波にされるがままの僕がそれをやっと通り越したときには、僕のモノがあったところにはツキの頭が変わりにそこにはあった。
僕がなんとか頭を落ち着かせようと心の中で荒い息を繰り返していると、ツキはなやましげな上目遣いをこちらをちらりと見ると、ニヤリと悪ガキよろしく笑ったのだ。
そしてまたしても僕に大津波が襲いかかる。しかもさっきのとは明らかに質の違うものだ。それもそのはずだ。
ツキは僕のモノを吸い込むように口で絞りながら、そのまま僕のモノをまるで僕自身から引き抜くように吸い込んでいるのだ。
今度は僕の股間とツキの顔の間に一本の橋が現れるのを僕は見ながら、またしても大津波に吸い込まれてしまう。
なんとかそれを通り越して、僕のモノがほとんど現れたのを僕は見て波を通り越せたことを安心し始めた。
しかしその次の瞬間、またしても波が僕に襲い掛かってきたのだ。しかも、先程よりもそれは明らかに強いものなのだ。
それもそのはず。僕のモノの先端が見えようかと言うとき、ツキはいきなり頭を止めると、すぐさま僕のモノを勢いよく再び飲み込み始めたのだ。
油断した僕が驚いている間に僕のモノはすぐさま彼女の口の中に納まり、そして息をつかせるまもなく再び僕のモノは吸い出され始めた。
荒れた大海原に放り込まれたような僕が出来ることなど一つもない。ただそれが過ぎ去るのを待つのみ。
僕のモノが納めるたびにツキの尻尾は右に揺れ、吸い出すたびに左に揺れる。それが十何度か繰り返されたとき、僕の限界はもう目の前まで迫っていた。
そして何度目かの波の途中で、その我慢はついに限界を迎え――。
「んっ! っと、まだだめじゃ」
目の前が真っ白になり、そして僕は言いようのない感覚。絶頂の手前で地団太を踏む、あの独特の地獄を味わうことになった。
「くっ、ぬぅ……男は、一度抜いたら終わりだからの。くくっ、どうせならもっと気持ちよくなりたいじゃろ?」
すっかりと濡れた僕のモノを掴んでいるツキのもっと気持ちよく、という言葉に僕は思わず反応してしまい、そして心の中ですぐさま頷いた。
「くくくっ、本当にお主は素直じゃの。可愛いものじゃ。こりゃ此方も応えてやらんとの」
ツキは嬉しそうに笑うと着物をはだけさせ、そして中途半端に脱げた裸よりいやらしい格好で僕の腰の上で膝立ちをした。
「さぁて、今から此方の下の口でお主のいちもつを味わわせてもらうからの。くくくっ」
思わずつばを飲み込んで僕はそのツキの言葉に期待をする。そしてゆっくりと降りてくるツキの腰に僕の目は釘付けだ。
「んっ、ほれ。お主のいちもつの頭が此方の口に接吻をしたぞ。くっくっく、じゃあ頂くの。お主の、ものをの!」
僕のモノの先っぽが締め付けられ、そして飲み込まれていく。先ほどの口とは比べ物にならない快感が僕を飲み込む。
ツキが僕の上でまるで小さな子供のようにぎゅっと目を瞑りながらも、ゆっくりと腰を降ろすその顔も僕を更に興奮させる。
「くぅ、んぁぁあっ! ふぅ、ふぅ……くくっ、お主のものが此方の中に入ったぞ。どうじゃ、気分は?」
どうということじゃない。ただ僕のモノが何かに包まれているだけ、ただそれだけなのに僕は思わず舌を噛み切ってしまいそうな快感に酔いしれていた。
「くくっ、かわいいやつじゃ。じゃが、まだまだこれからが本番だがの? んっ、ぐっ」
妖しく笑ったツキがまた、きゅっと顔を締めて今度は僕のモノを引き抜きに掛かる。僕のモノはツキの濡れた中に絡みついて、ツキはそれを彼女の顔と同じようにぎゅっと締め付けてくる。
437 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:03:07 ID:f22CIISd
その連鎖的な快感を味わっている間に僕のモノは再び姿を現し、そして再び沈み始める。
「ぐうぅぅぅ! くくっ、此方が壊れてしまいそうじゃ。さぁて、お主の子種。此方の中に存分に吐き出すがよい。ぐんっ、んっ!」
ツキが今度は跳ねるように僕のモノを彼女の口に納めたり引き抜いたりと繰り返す。ツキの耳は終始、ピンと逆立っている。
そうして僕の限界が再び近づいてくると、ツキは上半身を折り曲げて、僕の身体の上に寝そべってきた。彼女のたわわな胸が僕の貧弱な胸板の上に乗っかる。
「さぁっ、此方に出すのじゃ、お主のこだねぇえええええ!」
ツキのその一言に後押しされるように、ツキが僕のモノを全て飲み込んだ瞬間、僕はツキに放った。
これまでにないほどの絶頂を僕は迎え、3、4度に分けて彼女の中に全てを放った。同時にどっと疲労感が身体を襲う。
「はぁはぁ……しぃ。しぃ。起きるのじゃ』
「はぁはぁはぁ、んっぐぅっ……」
耳元で聞こえていたツキの声が段々と僕の中に響くものへと変わり、それから僕はゆっくりと目を開けた。
『くくっ、どうじゃったかの? 此方の味は』
「い、今のは?」
僕は身体を起こしながらツキに問いかける。冬にはだかだと言うのに全身が汗ばんでいる。
『此方は狐の妖怪じゃ。化かすことなど造作もないことぞ?』
「え、えっ?」
僕は驚きながらも真っ暗な部屋の電気をつけた。久しぶりの眩しさに思わず目をしかめる。
『お主の隣の障子』
「んっ? げぇっ!」
白い障子に、青い模様が入っている僕の部屋の障子。そのちょうど青い模様のど真ん中に、なにやら白いぬめってそうな液体を見つけた。
そこから布団までを目で追うとその間のところどころにおなじようなものがくっついている。
「こ、これって……」
『いや、さすが立派ないちもつをしているの。よく飛ぶものじゃ』
心のそこから感心したような声がツキの声が響く。僕は思わずため息を吐きながら、ティッシュでそれらを拭いていく。
そんな僕にツキが静かな口調で告げる。
『すまんの。此方の身体があればよかったのじゃがの……』
「ううん。すんごく気持ちよかったです。それに……」
言うべきなのかな? と、僕は思ったけどそうやって考えた時点でツキには分かってしまうんだろうから僕は正直に言った。
「ツキ、とてもかわいかったよ……」
ああ、恥ずかしい! 僕はティッシュを掴む右手により一層力を込めてシミを拭く。だけど、顔が熱くなるのは抑えられない。
そんな時、また背後から誰かに抱きしめられるような感覚が僕を包む。
そして頭の中で甘い声が響く。
『お主も可愛かったぞよ……特に、達する瞬間のあのお主の顔は……くくくくくっ!』
口元を手で押さえながら笑うツキの姿が目に浮かぶ。……相当な顔をしてたんだろうな、僕。
『じゃがな、お主……此方も、お主が大好きじゃ……ず~っと一緒に居て、いいかの?』
「くすっ、当たり前だよ。ツキ」
そんな甘えた声で言われて、あんな姿まで見たら誰だってこう答えるよ。
『くくくっ、じゃったら毎晩、此方も精一杯ご奉公させてもらうからの?』
「そ、それは……」
『嫌、かの?』
……だぁああっ! もう!
「よろしくお願いします!」
『くくくくっ、本当にかわいいやつじゃ』
頭の中でツキに笑われながらも僕はすごく嬉しい気分だった。
だって僕を分かってくれる人が、こんなにも近くに居てくれるんだから。
「やぁああああばぁああいぃぃいいい!」
僕は冬の寒空の下、自転車に跨って駆け抜けながら思わず叫んだ。田舎の張り詰めた冷たい空気の中で僕の声は大きく木霊する。
そうしたところで時間がまき戻ることも、スピードが速くなることもないのは分かっているけど、それだけ僕は追い詰められていた。
今日は高校2年生2学期の期末テストの日で、1時間目のテストは数学だ。
遡ること1ヵ月半ほど前の中間テストで、僕は0点に限りなく近い点数で見事赤点を獲得し、お陰で昨日はその汚名を返上すべく一夜漬けで勉強していた。
しかしそのしわ寄せが、最悪なことにテスト当日の朝に来た。
今日の朝、僕が起床した時刻はいつも起きる時間を大きくオーバーし、朝のHRの時間までをも飛び越してちょうどテストが始まるであろう時間にやっと目が覚めた。
それから3分で身支度を整え、母さんが投げ渡した食パンを片手に家を出て、それから自転車に飛び乗り3分ほど全力で走ったところで筆入れを忘れたことを思い出し、急いで逆走。
結果、僕はテスト開始から20分ほどを過ぎて、やっと家と学校までの全道のりの半分ほどまで辿り着いた。
テスト時間は50分、ここから何も問題なく進めば10分で着くはず。20分でどれだけ解けるかは分からないけど、とにかく急がないと!
すっかり身軽になった木々の間をすり抜けて、僕は山道から舗装された道に自転車を横滑りさせながら入った。中学までは家からまだ近いところに学校はあったけど、高校からは大分遠くなってしまった。
それでも自転車で行けるだけまだありがたかったけど、ボコボコの茶色い道を走りなれていた僕にはこの冷たいねずみ色の道がどうも走りづらかった。友達に言ったらお前だけだ、と即答されたけど。
ここ最近になってやっと慣れてきたその道を疾走していたそんな時、無機質な道路に似合わない……とても生々しい光景が僕の目に飛び込んできた。
「はぁはぁはぁ……えっ? くぅっ、っと。うわっ、ひど……」
道路の上にぺしゃんこに横たわっていたのは、真っ赤に染まった何かの死体だった。
その様子はまさに魂が抜けてしまったかのようだった。おそらくこのあたりでは希少な車に運悪くはねられてしまったんだろう。
それを見て僕が先ほど胃袋に入れ終えたばかりの食パンを吐き出さずにすんだのは、以前にまったくのデジャブとも言える光景を目にしたことがあったからだ。
あの時はおそらく猫の死体だったようだけど、まさしく今僕の前にあるこの死体と同じく、一見しただけでは猫とも犬とも狸とも分からない状態だった。
とりあえずの冷静さはなんとか保てた僕の頭の中では、この状況をどうしようかということで議論を始めようとしていた。
しかしそんな無駄な議論は開始されることなく、全会一致の結論を導き出した僕はすぐに自転車を降りてリュックの中身を漁った。
「何かないか? 何か、っと、これなら大丈夫かな?」
右手で掴んだのは母さんが作ってくれた弁当を入れていた、いわゆる給食袋だった。
遡ることかれこれ10年ほど前、小学校入学時に母さんが作ってくれたありがたいものだけど、さすがにこの年齢では堂々と出したくはないレトロな図柄をしている。
だけど、クラスメイトが口を揃えて大きすぎるという僕の弁当箱を入れられるこの袋なら、この目の前の死体を入れられることはたやすくできそうだった。
弁当箱を教科書で動かないようにリュックの中に直接降ろし、僕は空っぽの袋中にできるだけ形を崩さないようにその死体を移動させ始めた。
手に付く生暖かい血、それにアリなどが近くに群がっていないため、事故が起こってからあまり時間が経っていないのだろう。
事故を起こしてしまった人は事故自体には気付いたのかな? もしそうなら、1秒でもこの子に謝ってくれたら幸いだけどね。
そこまで飛び散っていなかったため、その子の欠片を集めるのにはそこまで苦労はしなかった。さすがにコンクリートの地面に染み込んでしまった血までは無理だったけど、大きなものはほとんど集められたと思う。
「ん? これって、この子のかな?」
427 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:54:33 ID:f22CIISd
欠片の残りがないか探していた僕が見つけたのは、赤く染まった細長いカケラだった。
「あっ、これ尻尾だ。そっか、君は狐だったのかぁ」
それはペシャンコにはなってしまっていたけど、よく見れば黄金色の毛並みが生えそろい、その先っぽだけがちょこんと白く染まっていた。
僕自身もこの近くで狐は何度も見たことがある。冬の時期で餌が少なくなって、山から降りてきてしまったのだろうか。
「運が悪かったね。さっ、山に戻ろっか」
給食袋の口を閉じると自転車のカゴにリュックの中身である教科書や弁当箱を置き、入れ替わりに給食袋を丁寧に詰め込んで口を閉じてそれを背負った
ちらりと腕時計を見ようとしたけど、馬鹿らしくなってやめた。どうしたってもう間に合わないから仕方ない。
僕は開き直ると自転車の進行方向を半回転させ、来た道をゆっくりと戻り始めた。これ以上この子の死体を崩してはいけないからね。
さぁってと、それと同時に先生への言い訳も考えないと。どうせ、僕は嘘は下手だからすぐに寝坊だってばれるんだろうけど。
「じゃ、行きますか、っと」
僕が誰に言うでもなくそんなことを言うと、背負ったリュックがまるで返事をするように少しだけ動いたような気がした。
「はぁ、追試かぁ……追試、かぁ……」
僕があの狐の死体を発見して、山の中腹まで自転車で昇り、大きな木の根元に給食袋に入った狐の欠片を埋め、手を合わせて黙祷してから全速力で学校まで自転車を飛ばした結果……2時間目のテストが始まって10分後に僕は教室に滑り込んだ。
それからテスト後、クラスメイトに笑われながら僕は数学担当で、僕のクラスの担任でもある先生に必死で謝った。
そこで僕が言った嘘は、言い出して三秒で看破されて10秒ほどのアームロックを僕を味わった。でも、できればもう少し味わいたかったかなぁ。
いや、それが先生、女性だからその、僕の頭の後ろに先生の胸が……ぐふふっ。
「ぬふふふっ、何でスーパーで鼻の下伸ばしてるのかなぁ~?」
頭の中で先生のクッションの感触を思い出しながら、僕は背後から聞こえたその声の主に思わず返事をする。
「えへへっ、それはせん……って、うわああっ!」
「おっと、危ない」
驚きのあまり、豚肉が並ぶチルドコーナーに僕が倒れこみそうになったが、すぐに僕はその人に引き寄せられ、そして学校でのデジャブが起きる。
今度は顔からだったけど。
「ぶっ! んんんん!」
「ふぅ、相変わらずリアクションが素直でよろしい。おっと、ごめんごめん」
「ぶはっ! ご、ご、ご、ご、ごめんなさい!」
暗転した視界がその人を捕らえる前に僕はすぐに頭を下げてその人に謝る。心臓が夏祭りのピークを迎えた太鼓のように暴れている。
428 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:56:07 ID:f22CIISd
まさか1日で二回も女性の胸を味わうハメになるとは……はたしてこれは運が良いのか、悪いのか……。
何秒ほどそうしてたか分からないけど、気付くとスーパーのチープなオリジナルソングの合間でかみ殺すような笑いが頭の上から聞こえてきていた。
僕が機嫌を伺うように顔を少しだけ上げると、その人はお腹を抱えて声を殺して笑っていた。
「クスクスッ、あ、ごめんごめん。ふぅ……まったく、私が自分でしたんだから気にしなくていいの」
僕の額を人差し指で優しく小突きながらその人は僕に笑い掛けてきたが、そのまま両手で自分の身体を抱きしめると途端に寂しそうな雰囲気で笑顔も鎮めてしまった。
驚きつつも声をかけようと僕が近づくと、突然その潤んだ瞳で僕の顔に向けてこんなことを言ってきた。
「お姉さんはいつでも、準備できてるんだよ? し、い、ちゃん」
「ぶっ!」
妖しさを滲ませながらも守りたくなるその表情と、思わず目がくらんでしまいそうな甘い声のダブルパンチに僕は一撃でノックダウンされてしまい、すさまじい鼻血の大噴火に乗せられて僕の意識はしばらく吹き飛ぶことになった。
先輩、それはだめだって……。
「はぁ~もう、本当に素直で可愛いなぁ、しぃちゃんは」
「だ、だからもうその呼び方はやめてくださいよ、先輩!」
活発なイメージのあるスーパーの赤いエプロンから、少しだけ落ち着いた雰囲気を見せる高校の制服に着替えた先輩と横に並びながら夕日の畦道を歩く。
小さな僕は先輩に気を使わせないように自転車を押しながら大股で歩いていたのだけど、すぐにそれに気付かれまたこうしてからかわれてしまった。
「ふふっ、私にとってはしぃちゃんはいつまで経ってもしぃちゃんだよ。だから私のことも、また名前で呼んで欲しいんだけどなぁ?」
先輩が僕の顔を覗きこみながら小首を傾げてくる。僕の身長より大きいのに、その愛らしさはまるでリスのようだ。
「だ、だ、だ、だめですよ! またクラスのみんなにからかわれます!」
「それはしぃちゃんが恥ずかしそうに言うからよ。もっと堂々と……くーちゃん、って呼べば」
「無理ですよ! 絶対無理!」
5年ぐらい前まで僕が先輩に対して使っていたあだ名を先輩は持ち出して来た。対して僕は首を大きく振って断固拒否する。
すると先輩は先ほどスーパーで見せたようにまた寂しそうな雰囲気で首を垂れる。
僕はそれを見るや否や、今度は絶対に動揺しないように進行方向の夕日を見ながら声を出す。
「ぼ、僕だってそうそう引っ掛かりませんよ! もう十年間の付き合いな」
429 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:56:48 ID:f22CIISd
突然、僕が見ていた夕日が消えると同時に自転車が動かなくなる。時折鳴いていた鳥や虫達の声も聞こえない。
その代わりに、僕の全神経が視覚に集まって夕日を遮った目の前の姿に集中する。眼球を僅かに動かすことすら出来ない。
当たり前だ。先ほどまで僕が見ていた夕日も美しかったが、今僕の前に立つその人の姿と比べてしまったらそれはもう足元にも及ばない。
そして目の前に立った人物は口を開いて震えた声で静かに告げる。
「私の事……嫌いに、なっちゃんったんだ……うっ」
言い終わると同時に先輩の長い黒髪が風でなびき、僕は先輩にまるで包み込まれるかのような錯覚を感じた。
そして僕に襲い掛かるとてつもない罪悪感。女神を泣かせてしまった様な重罪の重さがのしかかる。
口を開いて謝罪の言葉を言おうとしても、それを許さない先輩の悲しい目。結果、僕は罪の重さに後悔を感じるしかない。
随分とそうした果てのない懺悔を続け、やがて後悔が恐怖に変わろうかと言う頃、それはやはりこうして終わりを告げた。
「ぷっ、あははははははははっ!」
先輩は僕の自転車から手を離して大笑いしている。しかし、僕はそれを見ることが出来ない。
僕は目の前の夕日を見ていた。でも、しばらくぶりに見るその光景を別に懐かしがったわけじゃない。
それから数秒してから、やっと僕の身体は再び血が通い始める。まばたきすら忘れていた目は砂漠の砂のようにすっかりとうるおいをなくしてしまっており、ちくちくと痛んだ。
目の痛みが取れるまで瞼のシャッターを切り続けた僕は、まだ笑い続けている先輩の方を見た。すると僕の視線に気付いたのか、先輩もすぐに笑い声を止めた。
それから悪戯っぽく僕に笑いかけてくる。その表情は先ほどの女神とはまるで別人であったが、しかしその女神とは違う可愛らしさを振りまいていた。
「まったく、本当にしぃちゃんは面白い! 抱きしめちゃう!」
自転車を支えていた僕は逃げることも出来ずに、先輩にぎゅっと強く抱きしめられた。甘い香りが鼻をくすぐる。
「ちょ、ちょちょちょっと、せんぱ」
「でもね……私はしぃちゃんのこと大好きだよ? ……前から、ずっと、ず~っと」
先輩の口調が先ほどまで僕と話していたときのそれとはまるで違う。別人と話しているようにさえ感じた。
当たり前だ。先輩は無理をしているんだ。
「……ごめんなさい」
僕は謝った。それが僕に言えるただ一つの言葉だった。
僕の気持ちが分かってくれたのか、先輩の暖かい拘束はゆっくりと解かれた。顔を上げた僕が見たのは先輩の涙でもなんでもない。
ただ、何か言いたそうだけどそれをぐっとこらえて寂しそうに笑い掛ける先輩の顔だった。
「ごめんなさい」
僕はもう一度そう言って自転車に乗ると先輩を置いて全速力で逃げ出した。これ以上先輩のあの顔を見続けるのは辛かったから。
この沈み行く夕日みたいに先輩の存在は僕には眩しすぎるのだ。だれもが羨むほどに。もちろん僕を含めて。
だから……手に入れたくなる。独り占めしたくなるのだ。
「……くそっ!」
ギアを更に一段重くして僕は更に自転車を飛ばす。逃げるように。振り切るように。
そう、自分自身を。
430 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:57:29 ID:f22CIISd
「さぁってと、母さんがいない洗っちゃわないと」
夕食を食べ終わった僕は、母さんが農協の集まりに行っている間に給食袋を洗うためにリュックを開いた。
そして教科書の手前に置いてあったそれを取り出してそのまま口を閉めようとしたとき、僕はその存在に気付いた。
「んっ? げっ、これなんでここに?!」
給食袋を脇に置いて、僕はそれをリュックの中から引っ張り上げる。口に釣り針を引っ掛けれたかのように思わず顔が引きつる。
黄金色のそれはやはり狐の尻尾であった。うわぁ、これだけリュックの中に落ちちゃってたんだ。埋めたときに気付かなかったなぁ。バチ、当たらないよね……?
だけど僕はその物体のおかしな部分に気付いた。
「あれ……でも、これって確か血が付いてたような……」
その尻尾には朝見たときにべっとりと付いていた血がまったくついていないのだ。血など最初から付いていたのかさえ、疑わしくなってきてしまう。
僕がその違和感に首を傾げた時、それは突然起きた。
右手で先っぽをつまむように持っていたその尻尾が僕の指先から飛び出し、まるで芋虫か何かのように僕の顔面めがけて飛んできたのだ。
その様子を僕はスローモーションで見ながらも、驚きのあまり身体はぴくりとも動かずにそれを見つめていた。
そしてそれは僕の視界の下の方へと段々とフェードアウトしていき、少し遅れて口の中に何かの物体の感触を僕は覚えた。
尻尾が僕の口の中に飛び込んできたのだと理解し、僕の右手がとっさに動いた。しかしその尻尾は口の中でうごめいて、僕の更に奥へと進んでいこうとしている。
右手が喉元までやっと上がり、そして僕の身体の中へ消えかけようとしている尻尾の先っぽを掴もうと手を閉じ始めた。
だけどそれと同時に僕は思わず息を吸い込んでしまい、僕の口から出ていた尻尾の先っぽもついに僕の中へと消えてしまった。
「ぐっ、ゲホゲホ、おぇっ、ゲボォ……ぐっ、オェエッ、ゲホゲホ!」
僕は指を口の中に突っ込んで吐き気を催し、なんとか吐き出そうとしたけど出てくるのは咳と涎だけ。
そして段々と冷や汗と共に恐怖がこみ上げてきて身体が震え始める。
「や、や、や、や、や、やっぱり、た、た、た、祟られちゃったんだ……」
『んっ、くぅ……ふむ、まぁ確かに祟られたという表現は近いの』
「ひゃああああああああああ!」
『うぁっと! 大声を出すでない、たわけ』
あ、あ、あ、あまたの中で、違う! あ、あ、頭の中で声が、声がぁああ!
『くっくっく、っと、人間の前ではコンコンコン、と鳴いてやったほうがいいのかの?』
タタリタタリタタリタタリタタリタタリタタリ、タタリだぁあああああああああ!
『だぁあああああ! 小僧、お主やかましい! ちぃとは黙らんか!』
「ひぃっ!」
僕の声とは明らかに違う頭の中に声に怒られ、僕は耳を塞いでガタガタと振るえることしかできない。だ、だ、誰か、た、た、助けて……。
『まったく、そう怯えるでない。別にお主を喰らおうというわけじゃありんせん』
ガタガタブルブルガタガタブルブル。
『……はぁ、まったく。とにかく一つ、お主には礼を言っておく。此方(こなた)の骸を葬ってくれたこと、感謝し申す』
「えっ?」
頭の中の声が冷静なそれになったことで、少しだけ落ち着きをを取り戻した僕は聞き返した。
『明け方、少しばかし山を降りたところで……此方としたことがたわけてしもうての。気付いたら、此方の身体はもう紙のようになっておったわ』
「そ、それってつまり……」
『そう、此方の“身体”は死んだ。だが、此方の魂は生きておる』
「じゃあ、やっぱりユーレイじゃないかぁあああああ!」
『だぁああああああああああ! 此方の話を聞かぬかぁあああああ!』
431 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:58:13 ID:f22CIISd
「つ、つまり……さ、三千年を生きた、そ、その……狐の妖怪、だと?」
『まっ、そうじゃの。此方は妖怪じゃ。名を……名を……うっ? ぅぅぅぅぅぅ』
頭の中で長く小さなうなり声が響いている。
『だめじゃ、思いだせん! 少し前までは此方の名を呼ぶものもおったのじゃがの、ここしばらく名など呼ばれたこともなかったばかりに忘れてしもうた』
「じゃ、じゃあ何て呼べば……」
『呼ぶのは此方ではない。お主じゃ。好きにせい。此方はお主を……しぃ、とでも呼ばせてもらおう』
な、なんでそのあだ名になるのかなぁ? 僕の名前からだとやっぱりそのあだ名しか考え付かないのかなぁ……。
『ほれっ、此方の呼び名、はよう考えんか』
「あっ、はい! え、ええっとじゃあ、コロ、とかでいいですか?」
先ほどまで喋り続けていた頭の中の声がピタリと止まる。あ、あれ? ど、どうしたのかな?
『……お主』
「は、はい!』
『此方のどこからそのような名を考え付いたのじゃ?』
「あ、えっと、コロって言うのは僕が昔飼ってた亀のなま……」
『こ、此方は亀と一緒かぁあああああ!?』
「ひぃいいいいいいっ!」
予想だにしていなかった怒号に僕の身体がまたガクガクと震え始める。
『ま、まったくお主は……。もう少し真面目に考えてくれぬかや?』
「うぅ……じゃ、じゃあ……ええっと……ツキ、とかはどうですか?」
僕は窓の外を見ながら言う。気づけば今日は満月だった。
『……はぁ、真面目にと申しておるのに……。じゃが、此方も月は大好きじゃ。それでよい』
「な、なんかごめんなさい」
僕は見えない頭の声の主に向って頭を下げた。すると小さく喉を鳴らす笑い声が返ってくる。
『くくっ、お主は素直じゃの。可愛いやつじゃ』
「あ、あの、それで……いつまで僕の身体に……」
僕は恐る恐る聞いてみた。
対してツキさんはまるで夕食を聞かれた母親のような軽い口調でこう返してきたんだ。
『うむ、ずっとじゃ。もう此方の身体はありんせん。これからはお主が此方で、此方がお主じゃ』
「ず、ず、ずっと……?」
『そうじゃ。つまりもうお主も妖怪、というわけじゃな。くっくっく……って、し、しぃ? だ、大丈夫かや? しぃ? しぃ!?』
妖怪……僕が、妖怪? どどどどどどどどどど、どうしようぅぅ……。
『はぁ……色々と忙しい奴じゃの、お主は』
そんなこんなでその日、僕は人間を辞めてしまうこととなった。
432 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 20:59:38 ID:f22CIISd
『がぁああああああ! 呑ませろぉおお!』
「だめですよ。僕、未成年なんですから」
僕の中にツキ……が来て一週間が経った。もう怖がることはあまりなくなったけど、ツキは色々と、その……わがままな人で僕は困っていた。
『お主に申したじゃろ!? お主はもう老いることも死ぬこともない身体じゃ! どれだけ酒を飲んでも害はありんせん!』
「そういう問題じゃないですよ。守るものは守らないとだめです」
『くぅぅぅ、こ、この生真面目がぁあああ!』
はぁ……勉強がまったく進まないよ。追試もあるのに……やばいなぁ。はぁ、コーヒーも冷めちゃったよ。
『くっ、ならばせめて自慰をして、此方に一時の快楽を味わわせい』
「ぶうっ!」
『うおおっと!』
デリカシーなどカケラもない言葉に僕は口に含んだコーヒーを、どこかのバラエティ番組が如く吐き出してしまった。
「な、何を言い出すんですか! まったくもう……」
『そうは言っても……しぃ、此方と共になってから一度も抜いておらぬのだぞ? それこそ身体に毒じゃ』
「うっ……」
確かに僕はツキが来てからはそうした行為を控えていた。……というより、恥ずかしかったからやりたくなかった。
それでも高校二年生という僕の大人になりかけ身体は男として溜まるものは一方的に溜まっているようで、悶々とした気持ちになるときが時折あることも事実だった。
『お主、男女の関係を結んでおるものはおらぬのか?』
「そ、それは……」
うっ、年頃の男には辛い一言……母さんにも最近はしつこく言われて傷ついているのにぃ……。
『んっ? なんだ、好いておる者がおるのか。お主の記憶の中に一人のおなごが』
「見るなっ!」
僕は叫んだ。怒ったからじゃない。ツキに知って欲しくなかったら。
『お、お主、どうしたんじゃ?』
「お願いです。何も聞かないで下さい。何も……見ないで下さい」
意味がないのは分かってるけど、耳を塞いで僕はツキから逃れようとした。
いや、自分の罪から逃げようとしたんだ。
『……すまぬ。誰しも申せぬ過去があるものよの。本当に、すまぬ』
ツキはしおれた声で僕にそう言ってくれた。知ろうとすればと僕の過去を知れるのに、ツキはそうしないでくれたみたいだ。
良かった。……ツキがあれを知ったら、僕のことをどう思うのだろうか?
ふふっ、考えるまでもないか。きっと僕のこと――。
『此方は……お主にどんな過去があろうとも気にはせん。此方は、お主が好きじゃ。お主が何をしたにせよ、それが変わることはありんせん』
僕はそれを聞いたとき、誰かが僕を背後から優しく抱きしめてくれているような気がした。全てを包み込んでくれるような温もり、それはまるで母さんにそうされているようだった。
『んっ? お、お主、これは……』
……なんでそうしたくなったのかは分からない。少なくてもツキに分かってもらおうと思ったわけじゃない。
だけど、僕はツキには知っておいて欲しかったのかもしれない。あるいは試したかったのかも。
僕は頭の中で思い出すことにした。
僕が犯した……罪の全てを。
433 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:00:26 ID:f22CIISd
今から5年ほどまえ、僕は小学校から中学校へと進学したんだ。中学校から始まる部活は、大好きな先輩と同じ部活に入ろうと決めていた。
だけど僕が入学する1ヶ月前に先輩は部活を辞めてしまっていた。理由は学校では禁止されているはずのアルバイトを始めるため、と言うことらしい。
そしてその後すぐ、先輩は宣言どおりスーパーでのアルバイトを始めた。しかし狭い田舎、そんな話はすぐに広まる。
でも……学校から注意されることはなかった。
先輩が部活を辞めた時期、単身赴任していた先輩のお父さんが亡くなった。過労だったらしい。
そして後を追うように先輩のお母さんも病気で亡くなった。それがスーパーのアルバイトを先輩が始める一週間ほどまえのことだった。
つまり、先輩は中学生と言う身分で独りぼっちになり、自立した生活を余儀なくされてしまった、というわけだ。
二人の保険金は降りたものの、それでは生活に不十分だった先輩は学校の先生達を説得してアルバイトの許可をお願いしたのだ。
もちろん、そんなことを学校側がすぐに認めるわけがない。どんなに田舎の小さな学校だとしてもそこは公立の中学校、高校でさえも禁止されているアルバイトなど断固禁止していた。
更に保護者のいない先輩にもしものことがあった場合を考えれば、学校側が責任を恐れてしまうのは当然のことだった。
それを覆させたのが僕の母だった。
母さんは近隣住民を説得して、先輩がスーパーでアルバイトをしていることを滅多に口外しないこと。先輩に危険な仕事はさせないこと。
そして母さんが先輩の保護者代わりとして、先輩を家に同居させることを決めたのだった。
責任を恐れた学校も、近隣住民の集団登校拒否や教師への商品販売拒否などをチラつかせ、田舎で孤立する怖さを思い知らされた学校側も、仕方なく膝を折って暗黙してくれることとなった。
本当のところは、母さんは先輩にアルバイトもしなくていいと言ったのだが、そこは頑固に先輩も譲らなかったらしい。
そうしたひと悶着があったものの、先輩は無事アルバイトを見つけ、そして僕の家に引っ越して来た。
家族が一人増えただけで、僕の毎日は楽しすぎるほどに充実していた。それも同居しているのが、大好きな先輩だったからだろう。
だけど……僕は分からなかった。
それと同時に僕自身が先輩が好きであることを知らず知らずのうちに我慢していたということに。
ある日、僕と先輩は休日の昼下がりを家で過ごしていた。と、言うのも外は雨で進んで外出する気分ではなく、母さんは農協に話し合いに行っていたからだ。
ふと僕はトイレから戻ると、先輩がテレビを見ている後ろ姿を見て足を止めた。
長い髪から覗くうなじ、ほどよく引き締まったお尻、そして後ろから見ても分かる大きな胸。
僕の我慢はもう限界に達していた。大好きな人がこんなに近くに居るのに今まで我慢できたほうが不思議に思えてきたほどだった。
昔なら絶対に湧き上がってくることはなかった感情……それがそのときの僕には生まれていたのだ。
そして真っ黒なそれは僕の背中を後押しして、僕はそれに負けてしまった。
先輩のことを後ろから抱きすくめると、驚く先輩をそのまま押し倒して僕は先輩の上に馬乗りになった。
これまで何度となく優しい言葉を掛けてくれたその口に僕の口を重ねて、服の上からでも充分すぎるほどにその大きさが分かる胸を両手で荒々しく揉み解した。
その時の先輩は慌てているみたいだったけど僕の身体を押し返したりはしなかった。だから僕は、先輩も僕を受け入れてくれたんだと思ったんだ。
だけど……本当は違かったんだ。
やがて勘違いした僕は、先輩の穿いていたジーパンを脱がせようと右手を移動させ始めた。
そして先輩のジーパンのボタンに手を掛けた直後、先輩は短く叫びながら僕を突き飛ばしたんだ。
勢いあまった僕の身体は部屋の端の壁まで吹き飛ばされ、僕は後頭部を思い切りぶつけて意識が揺らいだ。
でも、その不安定な意識の中でも先輩が何と言って叫んだのかはよく理解できた。
先輩は、やめて、と言ったんだ。
その言葉を数十秒かけて頭の中で反芻して頭を上げたときには、部屋に先輩の姿はもうなかった。
……酷く後悔したよ。何てことをしてしまったんだって。
だけど、僕が犯した罪はそれだけじゃ終わらなかったんだ。
434 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:01:12 ID:f22CIISd
次の日、僕が部屋から出てくると先輩はまるで何事もなかったかのように僕におはよう、と挨拶をしてきた。母さんの様子からしても、先輩は母さんにも話さなかったみたいだった。
それからも先輩はやはり僕が暴挙に出る前となんら変わりなく接してくれたけど、逆に僕にはそれがとても申し訳なく思えてしまってきていた。
母さんは農家で朝は早かったけど、先輩が家に来てからは僕達が朝食を食べる時間になると一度家に戻ってきて、一緒にご飯を食べるようになっていた。
だから学校に行っている平日なら先輩と二人だけ、という状況はほぼ無く、休日も先輩はスーパーにバイトに行く日が多かった。
それでもまたこんな日はやってきてしまった。
僕が暴挙をしでかしてからまだ日が経ってないある日に僕と先輩はまたしても家に二人だけとなってしまった。更にスーパーも定休日の上、外は雨のために先輩が外に出掛けることも無いだろう。
朝になってからその状況を知った僕は、しばらく部屋に閉じこもっていたけどこのままだと席を共にしなくちゃいけなくなるため、11時ごろに身支度を整えて外に出掛けようとした。
だけど、僕が玄関に向おうとしたその時、茶の間から出てきた先輩が僕の肩に手を掛けてきたんだ。
心臓が弾丸の如く飛び出そうになるのは何とか抑えられたけど、僕は振り返ることは出来なかった。……大好きだった先輩に、何を言われるのかが怖くて。
だけど先輩は僕がついこの間、先輩にそうしたように僕の身体を抱きすくめてきたのだ。
そして先輩は口から言葉を出したんだ。それが僕にとってはトドメの言葉でもあった。
この間はごめん。あの時はびっくりしちゃったんだ。
私も、しぃちゃんが大好きだよ、と先輩は言ったんだ。
最初は僕はそれを聞いて思わず息を飲み込んで、とてつもない嬉しさを心の中で噛み締めた。
だけどその直後、僕の中で先輩があの時叫んだ言葉が何重にも響いて僕の心を目覚めさせた。あの時の叫びは絶対に驚いただけじゃない。
あれは完全な拒絶の声。
だったら先輩の今の言葉は嘘だ。でもなんで嘘をつく必要がある?
そう考えたとき、僕の頭の中は自分でも驚くほどに覚醒し、そして答えを導き出した。
僕は先輩を突き放し、非力は僕自身は玄関に転がり落ちた。
だけどすぐに僕は立ち上がって、靴も履かずに玄関のドアを乱暴に開けて外に飛び出したんだ。
行く当てもなく山を走りながら僕は叫ぶ。意味も無く、ただ叫んでそして逃げた。先輩、そして自分自身から。
先輩があんな嘘をついた理由……いや、嘘をつかざるを得ない理由。
それは僕の母さんが、今は先輩の保護者だったからだ。
もし僕の犯した罪が母さんにばれたらどうなるだろう? 少なくとも先輩の保護者はやめざるを得ない状況になる。
運よく、他の人が保護者になってくれる可能性もあるかもしれないが、学校側も今まで認めてくれたバイトは間違いなくやめなくてはならないだろう。
下手をすれば先輩はこの田舎を出て親戚の人や、ちゃんとした施設に入ることになる可能性だってある。
先輩は僕によく言っていた。この田舎の風景が大好きだ、と。それにここは先輩が自身のお母さんと過ごした故郷だ。離れたくはないはず。
だから、先輩は我慢をすることを決心したんだ。ここに残るために。
そのためだったら、自身を襲おうとした僕と付き合うことだってしようと、先輩は決めたんだ。
先輩にそんなことをさせてしまった自分が憎くて、悔しくて、大嫌いで僕は叫んだ。
その日から、僕は先輩を“くーちゃん”と呼ばなくなったんだ。
435 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:01:53 ID:f22CIISd
「先輩を襲ったこと。先輩に嘘をつかせたこと……いや、つかせ続けている事、それが僕の罪です」
先輩は高校生になって僕の家から出て行った今でも、今日みたいに僕のことを好きだと言ってくれている。
当たり前だ。先輩は優しい人だから、きっと僕を傷つけまいとそう決めたんだ。
だから僕も先輩を傷つけまいと決めたんだ。それまで通り、何事もなかったかのように接しようと。
『……すまぬ、しぃ。此方は……此方は本当に』
「大丈夫ですよ。でも、ツキの方こそ僕のこと嫌いになったんじゃないですか?」
『ありんせん! そんなこと、ありんせん!』
僕は久しぶりにツキの怒号に驚いた。そして身体が小さく震え始める。だけど恐かったわけじゃない。
……嬉しかった。先輩以外に僕の罪を知ってくれた人も、その上で僕を受け入れてくれた人も初めてだったから。
「ありがとう……ツキ」
僕は心のそこからツキにそう言った。このあまりに優しい同居人が僕の傍にいてくれたことに。
どうしても流れてしまう涙を僕が何とか止めると、ふとツキがこんなことを言ってきた。
『しぃ……すまぬが明かりを消して服を脱ぎ、横になってくれんか?』
「えっ? ど、どうして?」
『くくっ、ただの酔狂じゃ。何も言わずに、の?』
「う、うん」
いつものツキらしからぬ静かな口調に、僕は少しだけ首を傾げながらもツキの言うとおりに敷いてあった布団の上で裸になり、電気を消して横たわった。
『くすっ、よい身体をしておる。……そのまま力を抜き、ゆっくりと目を閉じるのじゃ』
僕は照れながらも言われるがままに身体の力を抜いて、目を閉じてみた。僕の視界は完全に暗闇に溶け込んだ。
次はどうすれば……って、あれ? く、口が動かない。右手も、左手も、両足も、目も開けない! ツ、ツキ、一体な……。
慌てる僕の視界に片隅に、ふと一人の女性の姿が目に入った。いや、勝手に首がそちらに動いた、というのが正しい表現かもしれない。
暗闇の中でその女の人は光を放っていて、雪のように白い着物に身を包み、そして流れるような黄金色の髪の毛をしていた。
その女の人は大人の雰囲気を持ったなやましい身体つきをしているんだけど、その笑顔はまるで無邪気な子供のような笑顔であり、そして暖かな優しさをも秘めたものだった。
僕が見とれていると女の人はゆっくりと僕に近づいてきて、動けない僕の耳元でこう囁いてきた。
「これは此方が百年ほど前まで人間の元に現れるときにしていた姿じゃ。どうじゃ? かわいいかの?」
さっきまで頭の中でしか響いていなかった声が生暖かい息に乗せられて僕の耳に入り込んできた。
その背後に黄金色をした、先っぽが着物と同じく真っ白な尻尾が振り子のようにゆらゆらと揺れていた。ふわふわで暖かそうなその尻尾はなんとも可愛らしい。
更にツキの髪の上から顔を覗かせる二つの小さな耳。それが時折瞬きをするかのようにピクピクと動くさまもこれまた愛おしい。
実際に頭は動かなかったけど僕は心の中で何度も頷いていた。ツキはそれを分かってくれたようで、顔を上げてにこやかな笑顔で口を開いた。
「くくっ、お主は素直じゃ。ほれ、お主のいちもつが既にいきりたっておる」
してやったり、と言った感じでニヤリとツキに僕は笑われた。ううぅぅぅ、恥ずかしいぃぃ……。
「くくくくっ、すまぬすまぬ。じゃが……此方はうれしいぞ。んっ」
儚げな雰囲気を持った表情をしたツキは、ゆっくりとその顔を僕の顔に近づけてくると、そのまま小さな唇を僕のそれに重ねてきた。
軽く濡れたツキの舌が僕の唇を優しく舐め回し、動けない僕はされるがままにその甘い感触に酔いしれる。
そしてツキは濡れた僕の唇の間を滑り込むようにして僕の口の中へと入ってきた。僕の口の中で彼女の舌は静かに、だけど僕が予想できない動きで翻弄してくる。
目の前のツキは大きな目を時折細く開いて僕を見るとそのたびに小さく笑いかけてきてくれて、僕はといえばそのたびに骨抜きにされてしまっていた。
「んっ、ふぅぅ……どうじゃ、おなごに一方的に蹂躙されるのもたまにはよかろう?」
僕の口の中をもてあそんだツキは可愛げのある顔で妖しい言葉を掛けてきた。そのギャップがなやましくて僕は余計にツキが愛おしくなってしまう。
436 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:02:36 ID:f22CIISd
「次は、お主の身体の逞しいこれを可愛がってやるかの。……お主、顔に似合わず立派なものをもっとるの」
その言葉に喜ぶべきなのか、恥ずかしがるべきなのかを僕が迷っていると人肌の感触が僕の……モノを包み込んできた。
僕の頭が勝手に動き、気付けばツキが僕が軽く広げた両足の間で膝まづいて僕のモノを掴んでいた。
「すぐにでもこれを飲み込みたいところじゃが……まずは濡らしてやるかの。……ペロッ、んっ」
口が開くのなら僕はものすごく恥ずかしい声を上げていたことだろう。それだけの快感が僕を襲ったのだ。
ツキは僕のモノに口を近づけると、軽くひと舐めすると僕のモノを自らの口の中に納め始めたのだ。
頭が動かせない僕は自分のモノがツキの口の中に消えていく光景を見ながら、同時に襲ってくる津波のような快感、そして収まった部分から感じるぬくもりまで感じさせられ、頭がおかしくなってしまいそうだった。
その津波にされるがままの僕がそれをやっと通り越したときには、僕のモノがあったところにはツキの頭が変わりにそこにはあった。
僕がなんとか頭を落ち着かせようと心の中で荒い息を繰り返していると、ツキはなやましげな上目遣いをこちらをちらりと見ると、ニヤリと悪ガキよろしく笑ったのだ。
そしてまたしても僕に大津波が襲いかかる。しかもさっきのとは明らかに質の違うものだ。それもそのはずだ。
ツキは僕のモノを吸い込むように口で絞りながら、そのまま僕のモノをまるで僕自身から引き抜くように吸い込んでいるのだ。
今度は僕の股間とツキの顔の間に一本の橋が現れるのを僕は見ながら、またしても大津波に吸い込まれてしまう。
なんとかそれを通り越して、僕のモノがほとんど現れたのを僕は見て波を通り越せたことを安心し始めた。
しかしその次の瞬間、またしても波が僕に襲い掛かってきたのだ。しかも、先程よりもそれは明らかに強いものなのだ。
それもそのはず。僕のモノの先端が見えようかと言うとき、ツキはいきなり頭を止めると、すぐさま僕のモノを勢いよく再び飲み込み始めたのだ。
油断した僕が驚いている間に僕のモノはすぐさま彼女の口の中に納まり、そして息をつかせるまもなく再び僕のモノは吸い出され始めた。
荒れた大海原に放り込まれたような僕が出来ることなど一つもない。ただそれが過ぎ去るのを待つのみ。
僕のモノが納めるたびにツキの尻尾は右に揺れ、吸い出すたびに左に揺れる。それが十何度か繰り返されたとき、僕の限界はもう目の前まで迫っていた。
そして何度目かの波の途中で、その我慢はついに限界を迎え――。
「んっ! っと、まだだめじゃ」
目の前が真っ白になり、そして僕は言いようのない感覚。絶頂の手前で地団太を踏む、あの独特の地獄を味わうことになった。
「くっ、ぬぅ……男は、一度抜いたら終わりだからの。くくっ、どうせならもっと気持ちよくなりたいじゃろ?」
すっかりと濡れた僕のモノを掴んでいるツキのもっと気持ちよく、という言葉に僕は思わず反応してしまい、そして心の中ですぐさま頷いた。
「くくくっ、本当にお主は素直じゃの。可愛いものじゃ。こりゃ此方も応えてやらんとの」
ツキは嬉しそうに笑うと着物をはだけさせ、そして中途半端に脱げた裸よりいやらしい格好で僕の腰の上で膝立ちをした。
「さぁて、今から此方の下の口でお主のいちもつを味わわせてもらうからの。くくくっ」
思わずつばを飲み込んで僕はそのツキの言葉に期待をする。そしてゆっくりと降りてくるツキの腰に僕の目は釘付けだ。
「んっ、ほれ。お主のいちもつの頭が此方の口に接吻をしたぞ。くっくっく、じゃあ頂くの。お主の、ものをの!」
僕のモノの先っぽが締め付けられ、そして飲み込まれていく。先ほどの口とは比べ物にならない快感が僕を飲み込む。
ツキが僕の上でまるで小さな子供のようにぎゅっと目を瞑りながらも、ゆっくりと腰を降ろすその顔も僕を更に興奮させる。
「くぅ、んぁぁあっ! ふぅ、ふぅ……くくっ、お主のものが此方の中に入ったぞ。どうじゃ、気分は?」
どうということじゃない。ただ僕のモノが何かに包まれているだけ、ただそれだけなのに僕は思わず舌を噛み切ってしまいそうな快感に酔いしれていた。
「くくっ、かわいいやつじゃ。じゃが、まだまだこれからが本番だがの? んっ、ぐっ」
妖しく笑ったツキがまた、きゅっと顔を締めて今度は僕のモノを引き抜きに掛かる。僕のモノはツキの濡れた中に絡みついて、ツキはそれを彼女の顔と同じようにぎゅっと締め付けてくる。
437 名無しさん@ピンキー sage 2009/12/06(日) 21:03:07 ID:f22CIISd
その連鎖的な快感を味わっている間に僕のモノは再び姿を現し、そして再び沈み始める。
「ぐうぅぅぅ! くくっ、此方が壊れてしまいそうじゃ。さぁて、お主の子種。此方の中に存分に吐き出すがよい。ぐんっ、んっ!」
ツキが今度は跳ねるように僕のモノを彼女の口に納めたり引き抜いたりと繰り返す。ツキの耳は終始、ピンと逆立っている。
そうして僕の限界が再び近づいてくると、ツキは上半身を折り曲げて、僕の身体の上に寝そべってきた。彼女のたわわな胸が僕の貧弱な胸板の上に乗っかる。
「さぁっ、此方に出すのじゃ、お主のこだねぇえええええ!」
ツキのその一言に後押しされるように、ツキが僕のモノを全て飲み込んだ瞬間、僕はツキに放った。
これまでにないほどの絶頂を僕は迎え、3、4度に分けて彼女の中に全てを放った。同時にどっと疲労感が身体を襲う。
「はぁはぁ……しぃ。しぃ。起きるのじゃ』
「はぁはぁはぁ、んっぐぅっ……」
耳元で聞こえていたツキの声が段々と僕の中に響くものへと変わり、それから僕はゆっくりと目を開けた。
『くくっ、どうじゃったかの? 此方の味は』
「い、今のは?」
僕は身体を起こしながらツキに問いかける。冬にはだかだと言うのに全身が汗ばんでいる。
『此方は狐の妖怪じゃ。化かすことなど造作もないことぞ?』
「え、えっ?」
僕は驚きながらも真っ暗な部屋の電気をつけた。久しぶりの眩しさに思わず目をしかめる。
『お主の隣の障子』
「んっ? げぇっ!」
白い障子に、青い模様が入っている僕の部屋の障子。そのちょうど青い模様のど真ん中に、なにやら白いぬめってそうな液体を見つけた。
そこから布団までを目で追うとその間のところどころにおなじようなものがくっついている。
「こ、これって……」
『いや、さすが立派ないちもつをしているの。よく飛ぶものじゃ』
心のそこから感心したような声がツキの声が響く。僕は思わずため息を吐きながら、ティッシュでそれらを拭いていく。
そんな僕にツキが静かな口調で告げる。
『すまんの。此方の身体があればよかったのじゃがの……』
「ううん。すんごく気持ちよかったです。それに……」
言うべきなのかな? と、僕は思ったけどそうやって考えた時点でツキには分かってしまうんだろうから僕は正直に言った。
「ツキ、とてもかわいかったよ……」
ああ、恥ずかしい! 僕はティッシュを掴む右手により一層力を込めてシミを拭く。だけど、顔が熱くなるのは抑えられない。
そんな時、また背後から誰かに抱きしめられるような感覚が僕を包む。
そして頭の中で甘い声が響く。
『お主も可愛かったぞよ……特に、達する瞬間のあのお主の顔は……くくくくくっ!』
口元を手で押さえながら笑うツキの姿が目に浮かぶ。……相当な顔をしてたんだろうな、僕。
『じゃがな、お主……此方も、お主が大好きじゃ……ず~っと一緒に居て、いいかの?』
「くすっ、当たり前だよ。ツキ」
そんな甘えた声で言われて、あんな姿まで見たら誰だってこう答えるよ。
『くくくっ、じゃったら毎晩、此方も精一杯ご奉公させてもらうからの?』
「そ、それは……」
『嫌、かの?』
……だぁああっ! もう!
「よろしくお願いします!」
『くくくくっ、本当にかわいいやつじゃ』
頭の中でツキに笑われながらも僕はすごく嬉しい気分だった。
だって僕を分かってくれる人が、こんなにも近くに居てくれるんだから。
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