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(ゆうと私 Another)
33 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:42:31 ID:fJEpl7/7
……素晴らしいアスキーアートまで書かれた32様までの流れを無駄にしてしまっていいのか迷ったのですが……申し訳ありません。あまり時間がないので失礼します。
こんばんは。前回のスレッドの終盤にて、無駄に長い駄作を投下した者です。
スレッド利用者の皆様にはご迷惑をお掛けいたしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
あの後、私は一昨日まで旅行に出ておりましたが、携帯電話から皆様のご感想をありがとう読ませていただいておりました。
いただいた感想の中で、お気づきになられていた方もいたようですが、確かに別な終わり方をいくつか考えていました。
その中で、最初に考え出したものを、先日投下させていただいた次第です。
しかし、その感想で「感動した」という感想を貰ったのですが……正直、申し訳ないことを、と反省しております。
それはこのスレッドが培ってきた「雰囲気」というものを、ぶち壊してしまったような後ろめたさがあったからです。
なのでそれを償う……という言い方はあまりにこじ付けですが、もう一つ考えていたものを昨日書き上げました。
それを投下させてもらってもよろしいでしょうか?
……と聞いてしまえば、前回の投下の際に掛けてしまったご迷惑を再びお掛けすることになります。
なので、先に謝らせて頂きます。
お目を汚すような駄作を長々と勝手に投下します。本当に申し訳ありません。
一応、前回の設定を無理矢理に纏めたものも投下させていただきます。
長々としている本編からお分かりいただけると思いますが、纏め下手なためほとんど意味不明であるとは思いますが……。
もし、ご興味のある方はご覧下さい。
また、これから投下する物語は【ストーリー説明】にある
****************
の部分まではまったく同じストーリー展開なので、レス数を節約のためにも割愛させていただきます。ご了承下さい。
そこからは別のストーリーとなりますが、前回の話の設定のせいで矛盾している部分も多々ありますが、そちらもご了承下さい。
長々と申し訳ありませんでした。
では、これからまず、設定を投下させていただきます。
お時間有り余っているときにでも読んでいただけたら幸いです。
では、失礼します。
34 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:43:36 ID:fJEpl7/7
【ストーリー説明】
この地球に寄生体として舞い降りた私は、この3日間で寄生もせずに人間という生き物に絶望していた。
私がこのまま寄生せずに生きられるのはあと4日、なんとか理想に一番近い宿主を探さなければ。
しかし、その4日目の探索も無駄足に終わろうとしていた。そんな時、一人の少女が私を拉致した。
彼女の名前は「さえきかおる」と言い、自ら「ゆう」という愛称をつけていた。
そんな彼女は15歳の頃ほとんど捨てられるような形で親から離され、その後好きだった男友達の策略で集団に強姦されていた。
私はそんな境遇の彼女に「なんで?」と思わず聞いてしまう。何故なら、なぜそんな酷いことばかりに彼女が合わなければならないのか納得いかなかったからだ。
それを聞いた彼女は「私にも分からないよ!」と怒りを露にした。そう、誰よりも彼女自身がその原因を知りたかったのだ。
あまりに馬鹿なことを聞いてしまった私は彼女に謝り、そしてゆうは私を優しく抱きしめてくれた。
そして彼女は私に自らの本名をくれた。私がうまれて始めて寄生をしたのは、彼女の本名だった。
それから2日経った6日目。ゆうが玄関を元気よく飛び出して行った。……見事に鍵を掛け忘れて。
*************
私はゆうが鍵を忘れていることも考えて、その鍵は閉めずに開けておき、私はこの身体で最後となる見聞に出掛けた。
この日の夜、ゆうが信頼している仕事先の「オーナー」をという人物を「食べ」、これからは彼女に擬態して、ゆうに会うということを決めていた。
はじめは寄生対象として見ていたゆうに、私は寄生する事も躊躇するぐらいに好きになっていたから。
しかしゆうは夜遅くになっても帰って来ない。私は玄関の鍵を開けたまま、彼女が帰ってくることをひたすら待った。
そして帰ってきたゆうは、突然暴れだして部屋をメチャクチャにしてしまった。
今日のゆうはオーナーの珍しき頼み事で、開店後の店内でも仕事を手伝っていた。そこに、酔った男が乱入し、ゆうを襲おうとしたのだ。
その男が言っていたのは「オーナーの言う通りだ」と言う言葉。ゆうはもう誰も信じられないと言った。
だから私はゆうに寄生して一緒になった。
ゆうに寄生した私が向かったのは、オーナーのお店。
そこから出てきた従業員のあやかを「食べ」、彼女に擬態をすると、私はオーナーを撲殺した。
それから2週間経ち、一つの宿主の身体に合計2週間以上とどまってしまった私と、宿主のゆうの身体が腐敗を始め、私はそのままゆうと一緒に天国へと旅立った。
【寄生体の能力】
・宿主に寄生して、自らの子供(寄生体)を産ませる能力と宿主の記憶を得る能力。
→宿主がいない状態で生きていられるのは7日間のみ。一度寄生した後は、本体だけでの活動はほぼ不可能。
→最終使命は、全人類への寄生。
→一人の宿主に寄生できるのは合計で2週間。
・人間を溶解して「食べる」ことによって身体の構成と、宿主の記憶を得る能力。
・その情報を使って、宿主の身体を変化させる能力。
【登場人物】
ゆう(本名:さえき かおる)
両親が離婚し、母方に引き取られたが、母親の再婚の際にお腹にいた子供のために、中学卒業と同時に一人暮らしを始めた。
それから1年は仕送りを送られていたが、その後打ち切られ、母親と連絡もつかなくなった。
なんとか生活費を稼ぐため、中学時代の好きだった男友達の紹介で仕事を見つけたが、そこで強姦をされてしまう。
以来、男が大嫌いなったが、なんとか昼間のキャバクラで掃除などをする仕事を見つけられ、現在に至る。
オーナー(本名:?)
ゆうが働くキャバクラの若干24歳の若き女オーナー。
以上、前回までの設定
35 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:46:31 ID:fJEpl7/7
(2-1) (前回の1-18から派生)
「じゃあ気をつけて人捜ししてきてね。明日は土曜日で休みだから一緒に探してあげるからね」
「うん、ありがとう。ゆうも気をつけてね」
「りょーかいしました! 行ってきま~す!」
そしてゆうは元気よく家の外へと飛び出して行った。
「行ってらっしゃ~い」
……見事に家の鍵を閉め忘れていった。
「さすがのゆうも……家の鍵ぐらい、持ってってるよね?」
心配になったが、ゆうだって一人暮らしの経験は長いのだ。幾らなんでもそれぐらいは忘れまい。
私はドアの鍵を内側から閉めて、一応元栓などがしっかりと閉まっているかを確認すると、この身体での最後の見聞のために少しだけ窓を開けると、そこから外の世界へと飛び出した。
……時計を見れば既に10時を回っている。しかし、この狭い部屋にゆうはまだ帰ってこない。
私が見聞を終えて夕方に帰ってくると、ゆうから電話があり今日は少しだけ遅くなるとのことだった。
それは少しだけ私の不安感を駆り立てたが、それでもあのお店のオーナーなら信頼できるだろうと私は信じて、ひたすらゆうの帰りを待った。
でも……それにしても遅くないだろうか。私はたまらずに窓を開けて身を乗り出し、地上3階からの階下の暗闇に目を凝らした。しかし、やはりゆうの姿は無い。
その時だった。玄関のドアからまるでドア自体が壊されようとしているかのような荒々しい音が聞こえたのは。
36 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:47:42 ID:fJEpl7/7
「開けて! 開けてよ! ここを、開けてぇええええええええ!」
そんな声に私はすぐに玄関に近づいて、ドアに張り付くと身体を広げでその一部分からの視界で覗き穴を覗いた。そこには髪を振り乱して、必死な形相でドアを叩き続けるゆうがいた。
私がすぐさまドアの鍵を開くと、間髪居れずにドアが開かれ、そして素早く閉じられた。それと同時にゆうが荒々しい息を整えることもせずに私の身体の上からドアの鍵と、そしてドアチェーンを閉めた。
「ゆう、大丈夫!? ごめんなさい、私が鍵なんてしてしまったから」
私はそう言いながらゆうの視界に入るように、彼女の左脇の靴箱の上に移動した。しかし、彼女は肩で息をしながら俯いてしまっている。
そんなゆうに私がもう一回声を掛けようとした瞬間、変化が起きた。
「あああああああああああああああああああ!」
まるで獣のような咆哮でゆうは私の位置と逆にあった電話機を、その電話台ごと蹴り飛ばした。
そして靴のまま部屋に上がり込むと、テーブルを蹴り飛ばして、持っていたバックも私が開けたままの窓から外に投げようとした。
その時だった。まるで雰囲気に似合わない電子音がそのバックから聞こえた。
「あああああああああ…………」
叫び続けていたゆうの行動が止まり、そして彼女はバックから携帯電話機を取り出した。小さなぬいぐるみが携帯電話機の振動と共に点滅をしている。
ゆうは荒い息をしながらそれを、電子音を奏で続けるそれを睨むように見ていたが、やがて意を決したようにボタンを押して音楽を消すと、ゆっくりとそれを耳に当てた。
『ゆうちゃん! ゆうちゃんね!? 大丈夫!? 怪我はしてない!?』
私はゆうの近くの箪笥に移動して、携帯電話機から発せられる聞き覚えのある声を聞いた。これは……オーナー?
ゆうの顔を見ると、怒りを噛み締めるように歯を食いしばり、携帯電話機を握りつぶせそうなほどの力で持っていた。
「……ずっと……ずっと最初から……こうするつもりだったんですね?」
『ごめんなさい、ゆうちゃん! でも、違うの! 私はあなたを』
「うるさい! ……私の事情知ってるのに……あなたはそれを」
『ごめんなさい! 本当にごめんなさい! ゆうちゃん、ごめんなさい!』
携帯電話機から聞こえるオーナーの声は大きな声なのに、なぜか弱々しさを持っていた。
しかしオーナーの言葉はゆうの怒りを一層強くさせてしまった。
ゆうは携帯電話機を持っていない右手をいきなり振り上げると、壁に掛かっていた鏡の中心に小指の方から拳をたたきつけた。亀裂がそこから四方八方へと広がっていく。
「……聞きたくない。……あなたの嘘の言葉じゃ、私の傷は絶対に癒せない!」
『っ! ……そうよね。でも、私が死んであなたが人を、せめて女の子だけでもまだ信じてくれるなら、私はすぐにそうする』
「……」
ゆうはそのオーナーの言葉を聞いて目をそれまでより少しだけ大きく見開いた。
『ゆうちゃん。……多分、あなたがこの電話に出てくれたのはまだ本当にわずか、私を信じてくれていたからだと思うの。だから、何の解決にも……いいえ、あなたはもっと怒るかもしれないけど、ちょっとだけでも私の話を聞いて欲しい』
「……」
ゆうは迷うように視線を泳がしている。それはゆうが彼女自身を取り巻いてきた不安と、今彼女に差し出されている希望が戦っているからだろう。
私はゆうの右側の肩に飛びついて、携帯電話機を当てている耳とは逆の耳に身体を近づけてこう言った。
「もし、あなたをもう一度でも騙そうとしたら私が食べる。彼女の中に入り込んで、ぐちゃぐちゃに溶かし尽くす」
そんな私の言葉にゆうがこちらを向いた。任せとけ、と言うように私は液体の身体を震わす。ゆうも私の食事を何度も世話しているから、それがけして誇張的な表現ではないことを理解しているはずだ。
私の様子を見てゆうは目を閉じた。……後は彼女が決めることだ。私に言える事は、もう何もない。
やがてゆうは目を開くと、こう言った。
「……私の家の住所を、教えます」
37 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:50:35 ID:fJEpl7/7
(2-3)
「ゆう……」
私は袋に入れ終わった鏡の破片を身体に載せて、ゆうの近くまで運んだ。
「ありがとう、かおる」
静かな笑顔で私にそう言うと、彼女は袋に向かって「ごめんね」と謝って、それをゴミ箱に捨てた。
「手、大丈夫?」
私は包帯が巻かれた右手がやはり心配になって彼女に聞いた。すると、彼女は私をその右手で撫でてくれた。
「大丈夫だよ。やっぱり優しい子だね、かおるは」
身体全体でゆうの温かい手のぬくもりを感じ、私は絶対に彼女を守ることをもう一度決意した。
オーナーはゆうの住んでいるところを知らなかったらしい。なんとオーナー自身がそれを聞くことを拒んだという。
ゆうはポツリと、あれも私を信頼させるためだったのかな、とこぼしていた。よく考えれば、オーナーに住んでいる場所を教えているのなら、ゆうがここに帰ってくることもなかっただろう。
ゆうは私を撫でることをやめ、そっと私の身体を持ち上げると胸に抱いてこう言った。
「ありがとう」
その一瞬後、玄関のドアを叩く音がした。ゆうの顔が少しだけ怯えた表情を見せる。
そして胸に抱く私を先ほど元に戻したテーブルに置いて、そっと立ち上がった。
最後にちらりと私を見ると力強く頷いてゆうは玄関へと向かった。
私は近くの壁に張り付く、そこから天井へと移動しながら玄関へと向かった。既にゆうは迷いない動きで、オーナーを家の中に入れていた。
両者とも無言。黒い上着に身を包んでいるオーナーはゆうに頭を下げたが、家の鍵を開けてさっさと茶の間へと進むゆうを見てそれに追従した。もちろん私もそれに続く。
「ゆうちゃん……、いいえ、佐伯薫さん」
茶の間に入って背中を向けたまま立ち止まったゆうに向かって、彼女の本名をオーナーは言った。いや、もうゆうだけの名前でもないのだが。
「本当に、申し訳ありませんでした」
そのまま背中を向けたままのゆうにオーナーは床に頭をピタリと付けた。確かこれは、この国の人が相手に謝罪の意を伝えるための手段で……土下座、っていってたかな。
「……それをしに、あなたは来たのですか?」
振り返ったゆうがそれを見下して一言こぼした。それを聞いてオーナーはゆっくりと上半身を上げて首を振った。
「いいえ、言い訳を……聞いていただけますか?」
それを聞いて向かい側にゆうがオーナーと同じように膝を折った。ゆうはオーナーをただ無機質な視線で見て言葉を待っていた。
「店が開いて暫くしたら週末という事もあり、いつもより少し忙しくなりました。その最中、酔ったお客様の一人が佐伯さんの居たあの部屋に入ろうとして、その時お客様は既にドアに手を掛けていたため、
私はとにかくそこからお客様を引き離し、そのお客様が覗いた部屋の中の様子を誤魔化そうと、『今日、新しく働きたいって子が面接に来たんです。
今書類を書いてもらっているので、絶対に中にお入りにならないで下さい。おそらく近いうちに、お会いできると思いますので』と言い、なんとかお席にお戻りいただいたんです」
オーナーは見た目に似合わないしっかりとした口調と言葉遣いで話していった。私自身、この星に来てからわずか6日しか経っていないが、
見た目がオーナーと同じほどの年齢でここまで敬語を慣れた口調で話す人物は見たことがなかった。果たしてそれはよく出来た演技なのか、それとも……。
「……多分、あの男は部屋の中の様子までは、その時見ていなかったと思います」
「え!? な、なぜそのようなことをご存知なんですか?」
ゆうの言葉に驚きを全面に表すオーナー。しかし、その間も敬語は崩れない。
「あの男は部屋に入って開口一番に……『オーナーの言う通りだ』と、そう言っていましたから」
ゆうの証言にオーナーは目を見開き、その焦点をゆうから外すと、震えた左手で口を覆った。
38 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:51:54 ID:fJEpl7/7
(2-4)
そのまま少しばかりの沈黙が流れた。ゆうは口を開かないオーナーを前にしても微動だにせず、ただそれをじっと見ていた。同じように私も天井からそれを見ていた。
「……ごめんなさい」
沈黙を破ったのはオーナーのその一言。そして彼女はそのまま震えながら、そう土下座をまた、ゆう向かってしたのだ。
「何からなにまで、本当にごめんなさい。佐伯さんに……男の人に会いたくない佐伯さんに無理を言って私の仕事を手伝わせてしまったことから……私の軽率な発言で佐伯さんの傷を抉るような事件を起こしてしまったことまで……何もかも、本当にごめんなさい」
擦れる声でオーナーは土下座をしたままそう言った。ゆうはそれを目を細めて見下していた。
そして顔を上げると頬から流れる涙を拭く事もせず、赤く腫らした目でゆうのことをしっかりと見据えてこう続けた。
「もちろん、こんなことをして許してもらおうなど思っていません。もちろん、償えるのでしたら何でも……いえ、厚かましいですがこの命で償わせてください」
そこまでオーナーは震え、擦れた声でもしっかりとした口調で話し続けていた。しかし、突然口ごもるようにゆうから視線を外す。ゆうは相変わらず何も言わずにそれを見ている。
しかし、今度の沈黙は10秒と続かなかった。
「一つだけ……ただ一つだけ、お約束していただきたいことがあります」
そう話すオーナーの声は依然擦れはしているが、もう震えはしていなかった。
「何ですか?」
ゆうがそう聞いたのも、おそらくそうしたオーナーの語調の変化に気付いたからだろう。
「佐伯さんが男性をお嫌いなのは重々承知しております。ただもし……本日の私のせいで、女性さえも……いえ、人間全てが信じられなくなったとしてしまったのならば、それだけは考え直していただけませんか?」
オーナーは少し身を乗り出してた。しかし、ゆうはそれに対して静かな微笑みでこう言った。
「随分と勝手なことを言いますね」
「申し訳ありません。ただ、佐伯さん自身が一番ご存知のはずです。誰も信じずにこの世の中を生きて行くことは決して不可能だと」
オーナーの言葉にゆうの笑顔が消え去る。そして自らが傷つけられた過去を思い出したかのように、表情が怒りを孕んだものへと変わった。
「暫く時間がかかってもいいんです。ただ、いつか。もう一度だけ、誰かを信じてください、お願いします!」
そう言い切ると同時に再び頭を下げた。太ももの上に置いた拳を握り締めながら、ゆうは硬く目を瞑っていた。
そして小さい声でこうこぼした。
「あなたが死んで、誰が喜ぶんですか?」
ゆうの目は依然として瞑ったままであり、オーナーも顔を上げる様子はなくただじっとその土下座の体勢を維持している。
「あなたが死んだら、私は笑えるんですか? あなたが死んだら、私の傷はなくなるんですか? あなたが死んだら……私に何が残るんですか?」
ゆうはそう言って目を開いた。しかしオーナーは顔を上げない。
「……私が信じている人は、まだ居ます。……いえ、人ではないですが」
39 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:52:47 ID:fJEpl7/7
(2-5)
ゆうのそんな告白に、オーナーは顔を上げて怪訝そうな表情をしてゆうの顔を覗きこんでいる。私はゆうの言葉に迷うことなく、天井からテーブルに向かって飛び降りた。
私の身体はテーブルに叩きつけられると同時に四散し、そして初めてゆうと出会ったときと同じようにまたゆっくりと集まっていく。口を抑えながら私が修復していく様子をオーナーは目を見開いたまま、瞬きもせず見ていた。
程なくしてテーブルの上に収束した私を、ゆうがゆっくりと持ち上げてその胸へと抱いてくれた。そして私の身体を撫でながらこう言った。
「この子が、私にはいます」
ゆうの顔を唖然とした表情で見ていたオーナーは、そのまま私へと視線を写した。
「会ったのは……たしか一昨日の事です。ただ、もっとずっと前から私と会ってたみたいにこの子は私に優しくしてくれます」
それを聞いていたオーナーの顔から驚きの色合いが消えていく。ただ私を温度のない目でじっと見つめていた。
「私の過去を話した人はほとんどこう言ったんですよ。『私も分かるよ、その気持ち』、『いいことあるよ、これから』……」
そう言って顔を天井に向ける。
「元気付けてくれるのは分かります。でも、この子はこう言ったんですよ。『なんでそんなことされるの?』って」
その言葉にオーナーが僅かに驚愕の色を取り戻した。それに気付いたのかは分からないがゆうは続けた。
「レイプされた私自身もいまだにそう思います。『なんで?』って。でも分からないから、だから自分で理由らしい理由考えて、名前までつけて無理矢理踏ん切りをつけてるんです」
そして顔を下げて私を見ると苦笑いをした。私は先ほどと同じように身体を震わせて元気付ける。
「オーナーの言うとおり、一人で生きていくにはこの世の中は……辛いことばかりです。ただ、この子が……私の痛みを分かって、そして私の傷を癒すのではなく、優しさと言う愛情を注いでくれるこの子が居る限り……私は生きていけると思います。この、優しい子となら……」
そう力強く言ったゆうが、私に向けた笑顔に……ゆう本人は気付けなかっただろうが、私は少しだけ視線を彼女から外してしまった。
「私の話は以上です。ただ……あなたが死んでも私の傷が癒されることはない。それだけは覚えておいてください」
オーナーは自分の方を向かないでそう言ったゆうを見ながらそれを聞いた後、ふと私に視線を移すとこんなことを聞いてきた。
「あなたは、私に対してお怒りではないのですか?」
私は少しだけ答えに困ったが、ここは自分に正直に答えることにした。
「分からない。ただ、もしゆうがあのまま暴れていたのら、私はあなたを憎くて殺したかもしれない」
自分で聞いておきながらオーナーは私が話し出すと、少し驚いたような顔をした。その後、私に向かってこう言った。
「あなたにも謝るべきでした。本当にごめんなさい」
オーナーは深々と頭を下げて、私にそう言うとゆうの方を見た。ゆうは相変わらず、私のほうしか見ていない。
それを見たオーナーはゆっくりと立ち上がると、そこでまた一礼をして、静かに玄関から出て行った。
ドアが閉まる音がすると、ゆうは私を見ていた両目を閉じて、こんなことを言った。
「私は……」
ゆうがこぼしたその言葉に、私はある提案をした。
40 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:53:28 ID:fJEpl7/7
(2-6)
窓から家の下に素早く降りるとそこにオーナーは居た。口には、確かあれは……そうマスクを着用していた。テレビで言っていたがどうやら病気が流行っていてマスクをつけて外出するようにと言っていた気がする。
そしてゆっくりとした足取りで歩き出す。時間は確かゆうの家を出たのが深夜1時過ぎで、住宅が多い周辺は大分暗かった。
そのまま数分間歩くと、車の通りが激しい道路へと出た。そこから道路に面したところで数分待つと、近づいてきた車を止めて乗車した。私はその外側の天井に張り付き、身体を平らにして目立たないようにした。色が私と同じ緑であることも好都合だった。
外気を切り裂きながら走ること約15分。私は時より車の中をこっそりと確認したが、オーナーは流れる風景を横の窓からずっと見ているようだった。
そして人通りの激しい電車の駅前に着いた、そこでオーナーは車から降りると再び歩き出した。向かう方向はやはりお店のほうだ。
私はそれにこっそりと追従する。できるだけ電飾の少ないビルにへばりつきながら、スーツを着込んだ人間の雄の間をすり抜けていくオーナーを見失わないように注視をする。時より、フラフラと倒れこむ雄もいた。
そして3分と経たないうちに、昨日私がゆうにこっそりと着いてきたあのお店へと入っていった。とりあえずは一安心と言えるだろう。
私はゆうのためにオーナーの尾行を彼女に提案したのだ。オーナーがゆうのことを騙そうとしたとはもうゆうは思ってはいなかったのだが、それを信じれる証拠がないのもまた事実だった。だから私はそれを確かめに来たのだ。
正直、今日中に確かめられるとは限らないが私にはもう今日しか時間はない。私はもう、オーナーを「食べる」つもりはなかった。それはゆうとの関係がやはり以前のものと変わってしまったからだ。
もちろん、それでもオーナーがゆうにとって一番身近な人間であることには変わりなかったが、もうゆう自身がオーナーと向き合いたくない可能性もあったからだ。それではオーナーを食べても意味がない。
そのため私が考えていたゆうとの関係を保ちながら使命を果たす手段は、見事にパアとなってしまったが、今はそれよりゆうの安全の確保が最優先だった。
もし、オーナーがゆうを裏切ったならばこれから誰かがゆうの家に襲いに行く可能性がないともいえなかった。オーナーはゆうの家の場所を知ってしまったのだから、それをそう例えばこの店の常連に教えたりするかもしれない。
可能性が限りなく低くはあったが安全のため最善を尽くしたかった。ゆうは一人しかないのだから。
とりあえず私はゆうに近くのホテルに泊まるように勧めたが、ゆうは24時間営業のファミレスに居るといった。そちらのほうが人が多いし安全だとのことだ。
これでとりあえずは安心だろう。後は私がオーナーを監視し、怪しい行動をとったら……「食べる」。
私はそう決意して店の中に侵入した。
41 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:54:45 ID:fJEpl7/7
(2-7)
それから閉店の5時まで、オーナーは店の中を忙しそうに走り回っていた。天井や椅子の陰に隠れて客との会話も盗み聞きしてみたが、それらしい会話はされていなかった。
「オーナー、お疲れ様でした~。お先、失礼しま~す」
「はい、ゲホゲホ、お疲れ様」
「オーナー、大丈夫ですか? 最近咳が多くなってるみたいですけど、流行のインフルエンザの事もありますから病院に行ってみたほうが……」
「大丈夫大丈夫。ささっ、あやかちゃんは早く帰って今日はのんびり休んでね」
あやかは不安そうな顔をして咳き込んだオーナーを心配したが、オーナーの笑顔に押し切られる形でお店を後にした。
残ったオーナーそれを見送ると、カウンター席に座ってお酒らしきものを飲みはじめた。
静かな店内に響くのは、オーナーが傾けるコップの中にある氷と、オーナーのこんな独り言。
「流石に、お客様殴っちゃったのはまずかったかなぁ……ゲホ、ゲホ」
そう言ってオーナーは自らの右手をプラプラと目の前で振り、そして小さく笑っていた。
それからしばらく一人でウィスキーを飲んでいたが、段々と咳が強く、長く続くようになってきていた。
「ゲホ、ゲホ、……病院……いや、節約しなきゃ。とりあえず、ゲホ、帰って寝よう」
オーナーは苦しそうに咳き込むと、それごと飲み込むかのようにウィスキーを一気に飲み干して、席を立った。
その直後だった。オーナーの身体が、先ほど外を歩いていた酔っ払いのようにフラフラと足元がおぼつかなくなり、そしてバタンと倒れた。そして今までにないほど、強く長く咳き込み始めた。
そしてそのまま立ち上がることも出来ずに咳を続けていたオーナーの口から出た何かが、白っぽい床に赤い点を打った。
あれは……血、じゃないよね?
そう思った直後、それが今までよりもっと大きく吐き出される。床がオーナーの咳のたびに、段々と赤くなっていく。
私はたまらず、天井から壁伝いにオーナーの下に移動した。
「どうしたんですか!?」
「ゲホゲホゲホ、君は、どう……して……ここ、に?! ぐぅ……ゴボォ!」
オーナーは私を見てそう言ったが、表情を変える暇もなく咳を続けていた。
やがて咳が少しずつ収まっていく。しかし、オーナーの顔色が明らかにおかしい。
「はぁ、はぁ……だ、大丈夫。ゲホゲホ……」
ゆっくりとオーナーは上半身を起こした。しかし、立ち上がる力はないらしく目もどこか虚ろに見える。
「携帯電話機で、ゆうに知らせてください!」
「ぐっ、ダメ。それより、聞いて欲しいことが、あるの」
オーナーは私をゆうがしたように胸に抱き上げた。ゆうと同じで温かいだが、その奥底で心臓が悲鳴を上げるように早鳴りしている。
「私ねぇ、親に、売られたんだ。離婚して、くっ、母親と住んで、13の時、父親のところに」
そこまで言うと、擦れた呼吸で息を吸っては吐き、吐いては吸ってを苦しそうに続け、やがてまた口を開いた。
「はぁ、はぁ、お母さん、お金貰って、私は、ゲホゲホグボォ……私立の学校に……」
「もういいです! とにかく……そう、病院に!」
「父親、愛人、たくさん居て……その癖、私には清楚に、って……だから嫌になって逃げて、ここ、開いたの」
そこまで話すと、床に倒れこんだ。そして咳をしながら私を宙に掲げるように伸ばしてこう言った。
「私ね……君と、同じこと、ゆうちゃんに、ゲボ、言ったんだ……。面接で……っ、机、殴って……なぎながら」
苦しそうにしながらも、子供のように笑った。
「あんがい……きみ、と私……ゲホゲホ、似ているのかも、ね」
そう言って優しく微笑んだオーナー。しかし、その直後今までより多くの血が咳とともに吐き出され、オーナーの顔を血で塗りたくった。
42 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:55:49 ID:fJEpl7/7
(2-8)
「ゲゲホッ! 私……もう、だめ……。ガン、まっき……肺、弱かった、の……」
だめって……それはつまり、死……ぬってこと?
「な、なんで!? さっきまであんなに……」
私がそう言うと、力ない笑顔のまま舌を出した。……我慢、していたんですか……。
「ゆう、ちゃん、ゲホッ…っ、よ、ろし、く」
そう言って私を床に降ろした。赤い血だまりの上に、緑色の私の身体が着地する。
「お……ね、……が、い」
「……だめ、絶対に」
私は反射的にそう言っていた。しかし私の方を向きながら目の焦点は既に合っていない。
「し、ま……す」
「私は、今日ゆうの前から消えます」
私の言葉に、虚ろになっていたオーナーの目がわずかに光を取り戻す。
「……えっ? ……なん、で? どう、して?」
「私の身体も限界なんです。このまま19時間経てば、私は死にます」
オーナーの顔に絶望の色が浮かんでいく。でも、それでいい。今は、ゆうが一人になってしまうということだけ、それだけを考えて。
「そん、な……」
「それが嫌なら、ちょっとだけ私に時間を下さい。あなたを助けて見せます」
「無、理……だ、よ」
「じゃあ、ゆうを一人にしますか? あわよくば新しく誰かのことを信じられるかもしれませんが、数日後にはあなたと天国でお会いすることになってしまうかもしれませんよ?」
私の非情な言葉に、悔しそうに唇を噛み締めるオーナー。
「あなたがゆうに人を信じろと言うのなら、あなたは今、私を信じてください。いいですね? 必ず助けますから、それまでしぶとく耐えてください」
私はそう言うと、オーナーの返事も聞かずにすぐさま入り口のドアの隙間から外に這い出た。
力強くオーナーにああは言ったが、100%の確信があったわけではない。ただ、おそらく出来るであろうという過信と、とにかくゆうの力になりたいという思いだけがそこにはあった。
外は暗闇が切り裂かれ始めていて、驚くことに誰一人通りの前にはいなかった。
「っ、嘘でしょ……」
私は予想外のことに焦りを感じながら、とにかく人間を探した。
その時、向かいの路地の奥のドアが開かれ、そこから若い女が携帯電話機を片手に出てきた。
私は瞬時にその女の前に移動すると、こちらに女が視線を向ける前にその口に飛び込んだ。
43 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:57:04 ID:fJEpl7/7
(2-9)
「んんっ?! んんんんんんん!?」
言葉にならない声を上げている女の中に、私は自らの身体をドンドン浸入させて行く。
「んっ、ぷはっ! な、なに……わ、私、今……何を飲んだ、の?」
そんな声が身体の中に浸入しきった私の耳に届く。……ただ、ひとつあなたに私が言えるのはこれだけ。
「ごめんなさい」
私は彼女の身体の中でそう言って、その女の身体を中から一気に溶解し、「食べ始めた」。初めて味わう甘美なる人間の味を噛み締めることもなく、ただひたすらすぐに食べ終えることに集中する。
「えっ?! なっ、何!? なん、の、こ……は」
女は驚きの声を上げていたが、すぐにその声も上げられなくなった。彼女には、もう口もなければ喉もない。溶けていく身体だってもうあなたのものではない。既に私の身体の一部となっている。
そんな彼女の中で私はこう願った。この人間が、ゆうや……オーナーとは違う素晴らしい人間ではないように、と。
そして彼女の身体を完全に「食べて」その身体の情報を全て得たと同時に、その答えは私に流れ込んできた。彼女の記憶という形で。
どうやら彼女はストリップ劇場の新人で中々の人気ダンサーだったようだ。年齢は21歳。昼間は喫茶店で働いている。去年までは大学に通っていたらしいが、今年の春に中退したようだ。しかしそんな情報よりも今は最優先すべきものが他にあった。
私に流れ込んでくる記憶の中に病院で診察を受けたという記憶、それが重要だった。しかし、私が懸念するような記憶は流れ込んでこない。
それを確認するや否や、私は急いでオーナーの元へと戻った。オーナーは苦しそうにしながら、擦れた呼吸でかろうじて意識を取り留めていた。
「オーナー、確認させてください! ガンに掛かっているのは、肺だけですか?」
私はオーナーの下半身に移動して、紫の艶やかなワンピースの中に潜り込みながら白い下着をずらした。
「ゲホゲホゲホ、ちょ、っと……なにして、……リ、ンパ、せつにも……てんい、して、る……グホォゲホゲホ! っ……」
オーナーは私の突然の行動に驚いたようだが、私の質問にはしっかりと答えてくれた。それは他でもないゆうのためだろう。
「分かりました。……私が必ず、あなたとゆうを救ってみせます」
私は既にオーナーの服の中にいるため彼女の顔は見えなかったが、オーナーのこんな言葉が私の心に響いた。
「やっぱり……ゲホゲホ、ゆうちゃんの言ってた通り、君は、優しい……子」
そう言われて私は……やっぱり、オーナーのことも好きであるということが分かった。
そしてもし、ゆうのことがなかったとしても、私は彼女を助けたいと心から思った。
「ひっ、あっ、な、にか、ゲホゲホゲホ! ……はいってぇ、くぅるぅう」
オーナーは咳をしながらも、今まで聞くことなかった甘い声を上げた。それが私の官能をわずかにくすぐるが、それを楽しんでいる暇など今はない。
「くっはぁああ! そ、んあ、はげし、すぎぃいいい!」
そんな声が私の浸入に更なる加速を加える。
「ああっ! ゲホゲホ、いっ、たいぃいい!」
その時だった。突如、オーナーが痛みの悲鳴を上げた。私の身体もそこで止まってしまった。そして目の前にあるものを凝視した。
「これって……処女膜……?」
私は先ほど食べた女の記憶からそれを特定した。……でも、これってつまり……。
「ゲホゲ、ゲホォ!」
そんな間にもオーナーの咳が私の耳に届く。くっ、小さな穴はところどころにあるけど、そこからじっくりと浸入していく時間はない!
「オーナー、ごめんなさい!」
私は少しだけ手前に身体を戻すと、勢いをつけてそれを一息に破り抜けた。
「ひぎぃいぁああああ! ゲホゲホォ、いぁぁああああいいぃいいい!」
オーナーはガンと、処女を喪失するという2重の痛みに大きな悲鳴を上げた。しかし、もうそこから子宮にはすぐに到着し、私はそこからオーナーの身体に私を根付け始めた。
「ゲホォホォ……くふぅ……頭が……」
オーナーの声が弱々しくなり始め、私も段々と意識が朦朧とし始める。
そして突然、私にもとてつもない痛みが広がり始める。それは私とオーナーが繋がりはじめた何よりの証拠。オーナー、は、こんな……痛みに。
「間に……あって……」
オーナーの口から私の言葉が紡ぎだされる。私はただ、薄れいく意識の中、とにかく必死でそれを願い続けた。
胸の奥底で、何かがうごめきそれを変えていく。その感触をわずかに感じながら、私は意識を失った。
44 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:58:12 ID:fJEpl7/7
(2-10)
「……ナー。オー……! を、……して……さい! オーナー……!」
私は暗闇の意識の中、聞こえた声の方向に向けて、うっすらと目を開けた。
「ゆ……う?」
ぼやけた輪郭の主に向かって私は声を掛けた。その輪郭が私の声で上下に動く。
「オーナー! ……よか……った、一体、何が……いえ、今、人を呼んで来ます」
ゆうの声が私を現実に意識を引き戻させる。そして、立ち上がろうとしたゆうの身体を、私は抱きつくように止めた。
「だ、め」
「え……オー、ナー?」
何か、声が聞こえたが私の意識がまたしても段々と暗闇に引き戻され始めた。しかし、胸の辺りに先ほど感じた痛みはないあたり、どうやら私の考えは上手くいったようだ。
「もう少し……寝かせて」
私はそれだけを言うのが精一杯で、言い終わると同時に私はゆうに全体重を預けた。
「オーナー?! オー……! ……」
そして私の意識はまた暗闇の中へと引きずり込まれた。
それから何時間が経ったのだろうか。私は、宙に浮いて闇の中を漂う感覚から、ゆっくりと身体に何かの感触を覚えて目を覚ました。
「あっ、オーナー!」
今度はその声がはっきりと聞こえた。目を開けてみると、私を横から覗き込むゆうの顔もしっかりと確認できた。
「大丈夫ですか? 一体、何があったんですか。それに、あのメールは?」
「メー、ル?」
ゆうの単語を繰り返すと、頭の中に存在するオーナーの記憶が私の頭をよぎる。
「『助けてあげて』」
「そうです。……あの、もしかして、かおる……オーナーが先ほどマンションで会ったあの子に、何かあったんですか?」
ゆうの声が、わずかに震えていた。それは多分、私を心配してくれているから。
「あの子は……オーナーのことを尾行しに行ったんです。私が、もう一度オーナーを信頼できるように。……どこに行ったか、知りませんか?」
私の顔を真剣な眼差しで見ているゆうの視線から、明らかな焦りが感じられる。
「……ゆう」
「え……ゆう、って……」
オーナーは普段からゆうのことを『ゆうちゃん』と呼ぶ。いや、店の従業員は皆親しみを込めて『ちゃん』付けをしている。
「私の、話を聞いてくれる? ゆう」
「……かおる、なの?」
半開きにした口で、私にゆうが問いかけてきた。
私は頷いて事情を話し始めた。
45 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:00:08 ID:fJEpl7/7
(2-11)
「……それで、オーナーの身体に寄生して、私は肺と転移が見られた部分をその『食べた』女の人のものに変化させたの」
「そこに、私がやってきた、と」
話は30分ほどに及んでいる。ゆうは、まず私がオーナーに寄生している事に疑問を持ったが、私が口から本体である緑色の身体をわずかに吐き出して彼女に見せると、彼女は驚きながらも納得した。
それからは比較的に私が話すことを、ゆうが黙って聞く形になり、説明はスムーズに終わった。
「じゃあ、今オーナーの意識は身体の中で眠っているってこと?」
「うん。私が出て行かない限り、目覚めることはない。例え死んでもね」
「生きてるんだよね、ちゃんと」
私は力強く頷く。するとゆうは、大きく息を吐いて笑顔を見せながらこう言った。
「よかったぁ……。う~ん、とりあえず今はかおるなんだよね?」
私は再度頷く。すると、ゆうの顔から笑顔が消え、真剣な目をしてこう言った。
「ちゃんと連絡してくれなきゃダメでしょ! 下手したら、君とオーナーの二人とも死んじゃうところだったんだよ!」
ゆうが大きな声で対面に座る私を叱る。私はゆうに初めて説教をされて、身を縮めこませた。
「まったくぅ……。でも、ありがとう。オーナーがもし死んでたら……私は多分、とても後悔したと思う。もちろん、君が死んでしまっていても、ね」
ゆうはそう言って優しく笑いかけてくれた。そして気の抜けたように席に持たれるとこうこぼした。
「ふぅ、やっぱりオーナーに向かってこんな風に叱るのって緊張するなぁ。部屋に来てくれたときはそんなに気にしなかったのに」
そう言って悪戯っぽくゆうは笑った。私はそれを見てゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと、ここで待っててくれるかな、ゆう」
「え……う、うん。なにかあったの?」
私はそんなゆうを心配させないように笑い掛けると、お店から外に出た。眩しい太陽が暗い店内に慣れていた私の目を、ギラギラと刺激する。
そんな炎天下の中、私は今の時間帯には少し目立つ格好のまま、あるところに向かって歩き出した。
途中人通りの少ないところで、顔と身体を先ほど食べたダンサーのもの、『相沢 晴香』のものに変化させた。オーナーと背丈は似ていたが、胸の辺りが少し寂しい感じで、私はワンピースを胸の辺りで押さえながら走った。
そこは相沢晴香が昼間働いているバイト先である駅の近くの喫茶店だ。今日は休日と言うこともあってかなり繁盛している。
そこからぐるりと回り、ゴミ捨て場の目の前と、立地的にはあまり従業員に優しくない裏口に回ると、私はいつも相沢晴香がそうしているように店に入った。
46 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:01:00 ID:TZvhuugr
(2-12)
「おはようございま~す」
間延びした声で私が入ると、廊下でゴミを両手に立っていた中年の眼鏡を掛けた男性店長が私を見て首をかしげながら近寄ってきた。
「あれ、相沢さん今日、シフト午後からじゃなかったっけ、まだ2時間ぐらいあるけど?」
私は相沢の記憶を反芻し、できるだけ不自然にならないように集中してこう言った。
「あ~、ちょっとヒマしちゃってて、ダメですか、早めに入っちゃ?」
「あっはっは。そんなことあるわけないだろ? こんなに忙しいんだ。こっちは嬉しい限りだよ。はい、鍵どうぞ」
そう言って私にロッカーの鍵を渡して狭い廊下の道を譲ると、私は軽く頭を下げながらその脇を通って、控え室兼更衣室の一室に足を踏み入れた。まったく、ちらちらと人の胸を見なさんな。
「あっ、晴香さん、こんにちは。お疲れ様で~す」
「やっほ~、ちぃちゃん。」
私は中で座っていた後輩『水川 千秋』に片手を上げて挨拶をした。彼女はケータイを片手で誰かにメール打っていたようだった。
しかし私が入るや否や、携帯を閉じるとロッカーから自らの仕事着を取り出した。メイド服という名の仕事着を。
そう、ここは駅前に新しくできたメイド喫茶だった。こんな大人向けの歓楽街にも、世の中の流行に押されるように去年建てられたお店だ。
「あ、使用中の札出しておくね」
私はその存在を思い出して、部屋の中のドアに付いている『使用中』という札を、ドアの外に貼り付け鍵を閉めた。
「あっと、すいません」
水川千秋はどちらかといえば抜けている性格で、よくこの札を付け忘れる。まぁ、それが幸いして、部屋に私と彼女の二人だけの空間を作り出せた。
私は服を脱ぎ始めた水川千秋の背後にゆっくりと近寄り、彼女の身体に手を掛けようとした。
その時、不意に水川千秋は私の方へと振り返るとこんなことを言ってきた。
「そう言えば晴香さん、今日はいつもにまして派手な服着てますね~」
「え、あぁ、うん。ちょっと、ね」
「あぁ~、男ですか?」
「ち、違う違う!」
私は慌ててそう誤魔化すと、反対にある自分のロッカーを開けた。しかし、相変わらず水川千秋はこちらを見てニヤニヤと笑っている。確か彼女は高校生だから、そういう出会いに飢えた年頃なのだろう。
仕方なく私は自分の仕事着を取り出した。残念ながら、携帯を持っていないためそれを見るフリなどはできず、何もしていないのも怪しまれると思ったからだ。
「きっとメチャクチャイケメンなんだろうなぁ~。いいなぁ~、見たいなぁ~」
背後でいやらしく私に声を向ける水川千秋。そのため彼女の着替えはまったく持って進んでいない。
それからもいやらしい皮肉を掛けられながら、私はあっという間に着替えが進み、もう黒いオーバーニーソックスを履き終え、後は白いカチューシャをつければ終わり……って私は何をしてるんだろう。
「あ、ヤバ。急がないと」
やっと自らの着替えに本格着手し始めた。私が白を基調としたメイド服で、彼女が黒を基調としたそれなのはあのスケベ店長の独断によるものだ。
そのため、私のは白いブラウスと黒いスカートを別々に履く必要があったのだが、彼女のそれは上下一体のワンピースのため頭から被るだけで実質済む。
私はその瞬間を狙ったのだが、彼女は私の順序とは逆に座ってソックスから履いて行き、更に靴まで履く。おそらく、メイド服を着たらすぐにでも出れるように準備しているのだろう。
その様子を今度はじろじろと私は見ていたが、相当焦っているらしく彼女はこちらに目などくれない。
その隙に私はこっそりと邪魔な下着をスカートから見えないぐらいにまで降ろした。
そして水川千秋が頭からメイド服を被り視界が失われた瞬間、私は椅子に座っていた彼女を押し倒した。
47 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:02:14 ID:fJEpl7/7
(2-13)
「えっ?! きゃあ!」
当然ながらの声を上げて、腰の部分でメイド服がめくれているとううあられの無い姿で、私に乗り抱えられた。
「あ、あの、ど、どうしたんですか……晴香さん」
さりげなく腰までメイド服を降ろそうとしているが、その手を私が軽く握って抑える。
「なっ、ちょ、ちょっと! 離し……んっ!」
私は反論する間も与えずに自らの唇で彼女の唇をむさぼる。そのまま舌を滑り込ませて、彼女を中を少しずつ浸食する。
「んんっ、んっ、ぷはっ! はぁ、はぁ……」
私は唇を離すと、驚いたまま声も上げない彼女に見て妖しく笑い、そのままゆっくりと彼女の下着を私と同じように降ろし始めた。
しかしそれでも彼女は声を上げない。私はそれを疑問に思ってこう聞いてみた。
「何で声を上げないの? あなた、恥ずかしくないの?」
私がそう聞くと、水川千秋はなんと自ら顔を上げると私の唇に自分の唇を重ね合わせてきた。
「んっ?! んんっ、んんんんっ……あっ、はぁはぁ」
「はぁはぁ、えへへ……晴香さん、もっとしてぇ」
意外な声が彼女の口からこぼれる。しかし、彼女の表情からそれが嘘であるとは私には思えない。元々、その気がある女性なのだろうか?
しかしそんなことは、私自身どうでもよくなってきていた。ただ、その悦に酔った顔を見ていると、私も自然に笑ってしまい、そしてこう言った。
「ふふ、分かった。きもちよぉーく、してあげるねぇ」
私はそう言って、自らのスカートを捲り上げてあらわになった秘所を、ちぃちゃんの秘所と重ね合わせた。
「きゃっはぁ! ふぅぁああああ、きもちいぃぃ」
「ああっ! いぃ! いぃよぉぉお、ちぃちゃん!」
自然と私の腰が動いて、私のちぃちゃんの秘所が塗れた体液をお互いに交換し合っている。
「ち、ちぃちゃんのぉお、あったかくてぇええ、きもちいぃいぃぃい!」
「はるかぁ、さんのもぉおおお、やっばぁぁああい、くぅ、はぁああああん!」
私はただ快感を求める頭で、一つだけ、顔と身体をオーナーのものに戻し始めた。胸のサイズが大きくなったため、服に圧迫感を覚えるが、それも今は関係ない。
「いぃぃやああ、かわぃいかぉおおお! おっきぃ、むねぇええ! それでぇ、それでぇもっとわたしぃをいかせてぇええええ!」
「くぅはぁあああん! いいよぉぉお、これでぇえええ、いっちゃぇえええええええ!」
私はそう言ってお互いの秘所から愛液が飛び出すと同時に、擦り合わせたちぃちゃんの穴を目指してオーナーの穴から私の本体を射出した。
「はぁあああああんんぅう! なにかがぁ……なにか、きてるよぉお……」
そう言って水川千秋は疲れきったように静かになった。その間も私は素早く水川千秋の身体の奥へと進んでいく。
そしてまたしても処女膜に出会った。やはり彼女の子宮へと続く道をふさいでいる。
「そうだ……これなら痛みは少ないかも」
私はある方法を思いつき、処女膜に近づくとそれに身体を張り付け、ゆっくりと処女膜を溶解していった。
「はぁああ……なんかぁ、あったかくてぇぃ、きもちぃいいぃ……」
そんな甘い声がくぐもった音で彼女の中に居る私にも聞こえた。蕩ける様な甘い味のそれを溶かしつくし、私は浸入を再開した。
そのまま子宮に到着すると、私の身体が水川千秋へと根付き始めた。そして私の意識も段々薄れていく。
48 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:05:47 ID:TZvhuugr
(2-14)
「う……んんんっ」
しかし、そのまま視界に靄が掛かったようにぼやけた後、すぐに気持ちよさそうに寝ている白いメイド姿のオーナーが私の視界に入った。
私はその身体を抱きかかえながらゆっくりと上半身を起き上がらせる。24歳の若きオーナーがメイド服で眠っている姿は、どこか神秘的な神秘的なものを感じさせる。
そして、その彼女の中には既に私の子を産める器官が備わっている感じたら、私は彼女が愛おしくなりその唇に軽く自らの唇を重ねた。
「ううんっ……んっ」
するとオーナーは眩しそうに瞼に皺を寄せながら、ゆっくりと目を開いた。
「あなたは……誰?」
目を瞬かせながら彼女は起きた。私はそんな彼女にこれだけを言う。
「あなたのお店でゆうが待っています。私と一緒に来てください」
それだけを言うと、私は彼女の手を引っ張って無理矢理に廊下に出た。すると廊下に居たスケベ店長がまたしても嫌らしい視線をしてこちらを見た。
「あっと千秋ちゃん、すぐにフロアに……って、あ、あんたは……な、なんで」
私の後ろに居たオーナーを見て、スケベ店長の顔が変わっていき、後ろにあとずさったところでダンボールに頭をぶつけ、そして眼鏡が落ちた。
「あっ、あなたは!?」
オーナーが驚きの声を上げ、それを見た私も、私の中にあるオーナーの記憶のそれも比較的新しい部分にその眼鏡が取れた中年男性の顔があることに気付いた。
「あ、あんたが……ゆうのことを……」
その記憶とは、昨日の夜にゆうが会計手伝いをしていたあの部屋に入り、そして……オーナーに殴られ、逃げていった男だった。
「き、昨日はよくもやってくれたなぁ!? い、慰謝料払え! そ、それにあの金も!」
そんな風にヒステリックに叫ぶ男に、オーナーは頭を下げてこう言った。
「も、申し訳ありませんでした!」
……なんで? オーナーなんで謝るの? こいつ、ゆうのこと、泣かしたんだよ?
しかし、それもオーナーの記憶がある今なら分かった。オーナーは元々誰にでも優しい人であり、更にオーナーはこの男にかなりの金を借りている。
あのオーナーのお店の経営状態は、かなり悪かったようで、オーナーはガンの治療費さえも店舗の経営のために我慢していたのだ。そして借金の額もかなり大きい。
それは全て……一生懸命働いてくれる女の子たちを、もちろんその中にいるゆうも守るため。
「……慰謝料、借金共に、利子100%つけて返してあげるわよ!」
私はオーナーの手を離すと、全速力でその最低の外道の目の前まで近寄ると、硬く握り締めた拳を頬にめり込ませた。
「ひぃぎゃああぁああああ!」
あの清楚なオーナーに殴られて、逃げ帰る程度の男なのだ。だからか弱い高校生の水川千秋に殴られても、やはり何とも情けない声を上げた。
そのまま裏口のドアに寄りかかったその最悪な男に、私はいつかのテレビで見た懇親のドロップキックを見舞った。
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
何とも情けない声でドアを背中でぶち開け、そのままゴミの山に突っ込んでいった。そのゴミは確かこの外道が先ほど運んでいたものと似ている。
「ゴミの日も守れないとは、さすが外道……」
私は記憶の中にあったゴミの日の一覧を思い出すと、燃えるゴミが火曜日と金曜日であったことに気付き、ゴミに頭から突っ込んだ外道にそう吐き捨てた。
49 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:06:47 ID:fJEpl7/7
(2-15)
「さっ、オーナー行きますよ!」
私は呆然としているオーナーの右手を無理矢理掴むと、お店のフロアのほうから覗き込んでいたお客様と仕事仲間から逃げるように裏口から飛び出した。
しかし結局、オーナーのお店に戻るためにはメイド喫茶店の表を通るのが一番近く、そこを通ったときは賑わっているお客から歓声と拍手をいただいた。
それから人通りが激しくなったお店への道を、黒いメイド服を来た私が白いメイド服を来たオーナーを引っ張りながら走り抜ける。当然、道行く人が物珍しそうに皆こちらを見ていた。
「こ、この格好は、は、恥ずかしいよぉ……」
そんな可愛らしい声が後ろから聞こえ、それが頬を赤らめたオーナーの声であることに私は小さく笑う。当然私も恥ずかしいわけだが。
程なくして私たちはオーナーのお店へと辿り着いた。途端にゆうがこちらに駆け寄ってきた。
「オーナー!? それとも、かおる!? そ、それより一体その格好は……、それに……あ、あなたはどちら様でしょうか?」
ゆうはいっぺんにオーナーと私に質問を投げかけてきた。しかし、私もオーナーも人通りの中を全力疾走で駆け抜けてきたため、息を切らして答えられない。
ふと、圧迫されていたオーナーの胸のボタンがピーンと吹き飛び、たわわに実ったそれがむき出しになった。
「きゃあ!」
オーナーが上げた小さく可愛らしい悲鳴に、私もゆうも一瞬押し黙ったが、やがてクスクスと小さく笑い出した。
「じゃあ、本当に私のガンを」
「はい。一応肺とリンパ節は、あの相沢晴香さんのものに代わっているでしょうから大丈夫でしょう」
私がそうオーナーに言うと、オーナーは複雑な表情でこう言った。
「でも、それじゃその、相沢さんは私の代わりに死んでしまったんですね」
「……すいません。本当は男のそれにしようとしたんですが、通りにはその時間誰も居なくて」
私の言葉にオーナーは首を振る。
「それでも誰かが死ぬのに代わりはない……。あ、けど、あなたを恨んでいるわけじゃないですよ? こうして生きていられて私は本当に嬉しいです」
そう言ってニコリと笑ったオーナーの顔が私にはとても嬉しかった。
「かおる……」
その時、私の隣に座っていたゆうが、不意に私の名前を呼んだ。
「本当に、かおるなんだよね?」
水川千秋の身体の私は、その言葉にゆっくりと頷き、そしてこう聞いた。
「ゆうは……あんなふうに、緑色の身体をした私じゃなきゃ、嫌い?」
私の言葉に、ゆうは迷いなく私を抱きしめた。水川千秋の身体の私を。
「そんなことないよー。私は優しい君が大好き。どんな身体でも、君は私に優しくしてくれると信じてるから」
「ゆう……」
私はそのゆうの優しい言葉。
「これから、かおるはどうするの?」
「……使命を果たすために、この地球の全人類に寄生する。ただ……やっぱり男は全員『食べる』」
身体を離してゆうとオーナーの顔を見ると、二人はそれぞれ微笑んでこういった。
「私は男が嫌いだから……そんな世界があるなら見て見たいと思う」
「ゆう……」
「男が全員大嫌いと言うわけではないですが……かおるちゃんとゆうちゃんが大好きなのは確かなこと。だから私も二人とずっと一緒に居たい」
「オーナー……」
私は、愛する優しき二人を前に決意した。
「やっちゃい……ますか」
50 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:08:47 ID:TZvhuugr
(2-16)
「んんっ、はぁ、さいこう……」
私はそう言って寄生したばかりの身体を持ち上げた。傍らには先ほどまで私が寄生していた同じ大学の生徒が眠っている。
その彼女を私は更衣室のソファーに優しく寝かせると、自らの衣服を整えて更衣室を後にした。
通り行く外国人……と言っても今の私、つまりジェニファーの視点では同じ国民なのだが、その生徒の中を通り過ぎ、大学を後にした。
ニューヨークの町並みを歩いて高層マンションの一室に私が帰ってくると、二人の日本人女性が私を出迎えた。
「お帰り~、かおる」
「お疲れ様、かおるちゃん」
家を出たときとはまったく姿かたちが違う私を見ても、彼女達はいつものように私に接してくれた。
ゆうは私の身体を物珍しそうに触る。顔を引っ張ったり、胸を触ったりと、遠慮がない。
オーナー……もとい『すず』もいつものように、そんな様子を見て、穏やかな微笑みを浮かべている。
「そう言えば、去年より1億人近くも人口が減ったって、アジア圏で、それも男が特に」
ゆうが私の胸に顔を埋めながら言ってきた。私はその頭を撫でると、今度はすずが話しかけてくる。
「かおるちゃんや子供達がこの1年間頑張ったから、ね」
私はその言葉に首を振った。多分、私より子供たちのほうがずっと頑張っていると思う。
「はぁああ、どうしよ、かおるぅぅ……疼いてきちゃった」
私の胸から顔を上げたゆうが、赤い顔をして私を見た。視線をすずに移すと、恥ずかしそうにしながらもこちらに寄ってきて、そのまま私にしだれかかって来た。
「……二人とも、元気ですねぇ」
「あぁ、酷い! 自分は寄生するときに楽しんできてるからって!」
「そ、そうだ、そうだ!」
私の言葉に反論したゆう、それに同意するようにすずが続く。
その二人の股間が盛り上がっている。その正体は、ゆうに寄生した時とすずにもう一度寄生し直したときにつけた雄の性器だ。私が食べた雄の中でも、マシなものを選んで二人の身体を変化させた。
ゆうはあれから私に寄生されることを自ら望んでくれた。その股間に男のものを生やす事も、だ。彼女曰く、男がいなくなるためならこれぐらいなんともない、とのことだ。今ではめっきり楽しんでいるようだが、男は相変わらず大嫌いだ。
それは何も二人だけにしたわけではない。雄がいなくなっても人間が子孫を残せる様に、私は子供達にも2回の寄生につきに1度はこれを生やさせるようにさせている。
しかし……、まさかあの二人がここまで貪欲になるとは思いもしなかったが。
「まぁ、いいけど。じゃあ、楽しみましょうか」
「うんうん、さすがかおる、優しい子だね」
私の頭を優しく撫でてくれるゆう。
「ありがとう、かおるちゃん」
私の頬に優しいキスをしてくれるすず。
そして私たちは隣のベッドルームに向かった。もちろん、私だってこれからの行為が楽しみで仕方ない。
だって、私は二人が大好きだから。
(終)
51 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:22:47 ID:TZvhuugr
書いたものをひたすら番号をつけながら貼り付ける作業なのですが……自らの文章を流し読みしていると……我ながら酷い、と頭を抱えてしまいます。
それと、>>36は 一応(2-2)となります。まったく意味はないのですが、申し訳ありません。
これはもう自分が好きな【寄生】、【捕食】、【擬態】という三原則をなんともご都合主義的にちりばめたのですが……
もうその設定云々ではないですね。文章の貧弱さで泣けてきました。
もっと酷い部分はありますが、あまり自分で言うのも五月蝿いと思われますので、失礼させていただきます。
……近いうちにまた、酷い駄作をお見舞いしに来るかもしれませんが、どうか冷たい視線でお迎えいただければ幸いです。
本当にありがとうございました。
……素晴らしいアスキーアートまで書かれた32様までの流れを無駄にしてしまっていいのか迷ったのですが……申し訳ありません。あまり時間がないので失礼します。
こんばんは。前回のスレッドの終盤にて、無駄に長い駄作を投下した者です。
スレッド利用者の皆様にはご迷惑をお掛けいたしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。
あの後、私は一昨日まで旅行に出ておりましたが、携帯電話から皆様のご感想をありがとう読ませていただいておりました。
いただいた感想の中で、お気づきになられていた方もいたようですが、確かに別な終わり方をいくつか考えていました。
その中で、最初に考え出したものを、先日投下させていただいた次第です。
しかし、その感想で「感動した」という感想を貰ったのですが……正直、申し訳ないことを、と反省しております。
それはこのスレッドが培ってきた「雰囲気」というものを、ぶち壊してしまったような後ろめたさがあったからです。
なのでそれを償う……という言い方はあまりにこじ付けですが、もう一つ考えていたものを昨日書き上げました。
それを投下させてもらってもよろしいでしょうか?
……と聞いてしまえば、前回の投下の際に掛けてしまったご迷惑を再びお掛けすることになります。
なので、先に謝らせて頂きます。
お目を汚すような駄作を長々と勝手に投下します。本当に申し訳ありません。
一応、前回の設定を無理矢理に纏めたものも投下させていただきます。
長々としている本編からお分かりいただけると思いますが、纏め下手なためほとんど意味不明であるとは思いますが……。
もし、ご興味のある方はご覧下さい。
また、これから投下する物語は【ストーリー説明】にある
****************
の部分まではまったく同じストーリー展開なので、レス数を節約のためにも割愛させていただきます。ご了承下さい。
そこからは別のストーリーとなりますが、前回の話の設定のせいで矛盾している部分も多々ありますが、そちらもご了承下さい。
長々と申し訳ありませんでした。
では、これからまず、設定を投下させていただきます。
お時間有り余っているときにでも読んでいただけたら幸いです。
では、失礼します。
34 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:43:36 ID:fJEpl7/7
【ストーリー説明】
この地球に寄生体として舞い降りた私は、この3日間で寄生もせずに人間という生き物に絶望していた。
私がこのまま寄生せずに生きられるのはあと4日、なんとか理想に一番近い宿主を探さなければ。
しかし、その4日目の探索も無駄足に終わろうとしていた。そんな時、一人の少女が私を拉致した。
彼女の名前は「さえきかおる」と言い、自ら「ゆう」という愛称をつけていた。
そんな彼女は15歳の頃ほとんど捨てられるような形で親から離され、その後好きだった男友達の策略で集団に強姦されていた。
私はそんな境遇の彼女に「なんで?」と思わず聞いてしまう。何故なら、なぜそんな酷いことばかりに彼女が合わなければならないのか納得いかなかったからだ。
それを聞いた彼女は「私にも分からないよ!」と怒りを露にした。そう、誰よりも彼女自身がその原因を知りたかったのだ。
あまりに馬鹿なことを聞いてしまった私は彼女に謝り、そしてゆうは私を優しく抱きしめてくれた。
そして彼女は私に自らの本名をくれた。私がうまれて始めて寄生をしたのは、彼女の本名だった。
それから2日経った6日目。ゆうが玄関を元気よく飛び出して行った。……見事に鍵を掛け忘れて。
*************
私はゆうが鍵を忘れていることも考えて、その鍵は閉めずに開けておき、私はこの身体で最後となる見聞に出掛けた。
この日の夜、ゆうが信頼している仕事先の「オーナー」をという人物を「食べ」、これからは彼女に擬態して、ゆうに会うということを決めていた。
はじめは寄生対象として見ていたゆうに、私は寄生する事も躊躇するぐらいに好きになっていたから。
しかしゆうは夜遅くになっても帰って来ない。私は玄関の鍵を開けたまま、彼女が帰ってくることをひたすら待った。
そして帰ってきたゆうは、突然暴れだして部屋をメチャクチャにしてしまった。
今日のゆうはオーナーの珍しき頼み事で、開店後の店内でも仕事を手伝っていた。そこに、酔った男が乱入し、ゆうを襲おうとしたのだ。
その男が言っていたのは「オーナーの言う通りだ」と言う言葉。ゆうはもう誰も信じられないと言った。
だから私はゆうに寄生して一緒になった。
ゆうに寄生した私が向かったのは、オーナーのお店。
そこから出てきた従業員のあやかを「食べ」、彼女に擬態をすると、私はオーナーを撲殺した。
それから2週間経ち、一つの宿主の身体に合計2週間以上とどまってしまった私と、宿主のゆうの身体が腐敗を始め、私はそのままゆうと一緒に天国へと旅立った。
【寄生体の能力】
・宿主に寄生して、自らの子供(寄生体)を産ませる能力と宿主の記憶を得る能力。
→宿主がいない状態で生きていられるのは7日間のみ。一度寄生した後は、本体だけでの活動はほぼ不可能。
→最終使命は、全人類への寄生。
→一人の宿主に寄生できるのは合計で2週間。
・人間を溶解して「食べる」ことによって身体の構成と、宿主の記憶を得る能力。
・その情報を使って、宿主の身体を変化させる能力。
【登場人物】
ゆう(本名:さえき かおる)
両親が離婚し、母方に引き取られたが、母親の再婚の際にお腹にいた子供のために、中学卒業と同時に一人暮らしを始めた。
それから1年は仕送りを送られていたが、その後打ち切られ、母親と連絡もつかなくなった。
なんとか生活費を稼ぐため、中学時代の好きだった男友達の紹介で仕事を見つけたが、そこで強姦をされてしまう。
以来、男が大嫌いなったが、なんとか昼間のキャバクラで掃除などをする仕事を見つけられ、現在に至る。
オーナー(本名:?)
ゆうが働くキャバクラの若干24歳の若き女オーナー。
以上、前回までの設定
35 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:46:31 ID:fJEpl7/7
(2-1) (前回の1-18から派生)
「じゃあ気をつけて人捜ししてきてね。明日は土曜日で休みだから一緒に探してあげるからね」
「うん、ありがとう。ゆうも気をつけてね」
「りょーかいしました! 行ってきま~す!」
そしてゆうは元気よく家の外へと飛び出して行った。
「行ってらっしゃ~い」
……見事に家の鍵を閉め忘れていった。
「さすがのゆうも……家の鍵ぐらい、持ってってるよね?」
心配になったが、ゆうだって一人暮らしの経験は長いのだ。幾らなんでもそれぐらいは忘れまい。
私はドアの鍵を内側から閉めて、一応元栓などがしっかりと閉まっているかを確認すると、この身体での最後の見聞のために少しだけ窓を開けると、そこから外の世界へと飛び出した。
……時計を見れば既に10時を回っている。しかし、この狭い部屋にゆうはまだ帰ってこない。
私が見聞を終えて夕方に帰ってくると、ゆうから電話があり今日は少しだけ遅くなるとのことだった。
それは少しだけ私の不安感を駆り立てたが、それでもあのお店のオーナーなら信頼できるだろうと私は信じて、ひたすらゆうの帰りを待った。
でも……それにしても遅くないだろうか。私はたまらずに窓を開けて身を乗り出し、地上3階からの階下の暗闇に目を凝らした。しかし、やはりゆうの姿は無い。
その時だった。玄関のドアからまるでドア自体が壊されようとしているかのような荒々しい音が聞こえたのは。
36 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:47:42 ID:fJEpl7/7
「開けて! 開けてよ! ここを、開けてぇええええええええ!」
そんな声に私はすぐに玄関に近づいて、ドアに張り付くと身体を広げでその一部分からの視界で覗き穴を覗いた。そこには髪を振り乱して、必死な形相でドアを叩き続けるゆうがいた。
私がすぐさまドアの鍵を開くと、間髪居れずにドアが開かれ、そして素早く閉じられた。それと同時にゆうが荒々しい息を整えることもせずに私の身体の上からドアの鍵と、そしてドアチェーンを閉めた。
「ゆう、大丈夫!? ごめんなさい、私が鍵なんてしてしまったから」
私はそう言いながらゆうの視界に入るように、彼女の左脇の靴箱の上に移動した。しかし、彼女は肩で息をしながら俯いてしまっている。
そんなゆうに私がもう一回声を掛けようとした瞬間、変化が起きた。
「あああああああああああああああああああ!」
まるで獣のような咆哮でゆうは私の位置と逆にあった電話機を、その電話台ごと蹴り飛ばした。
そして靴のまま部屋に上がり込むと、テーブルを蹴り飛ばして、持っていたバックも私が開けたままの窓から外に投げようとした。
その時だった。まるで雰囲気に似合わない電子音がそのバックから聞こえた。
「あああああああああ…………」
叫び続けていたゆうの行動が止まり、そして彼女はバックから携帯電話機を取り出した。小さなぬいぐるみが携帯電話機の振動と共に点滅をしている。
ゆうは荒い息をしながらそれを、電子音を奏で続けるそれを睨むように見ていたが、やがて意を決したようにボタンを押して音楽を消すと、ゆっくりとそれを耳に当てた。
『ゆうちゃん! ゆうちゃんね!? 大丈夫!? 怪我はしてない!?』
私はゆうの近くの箪笥に移動して、携帯電話機から発せられる聞き覚えのある声を聞いた。これは……オーナー?
ゆうの顔を見ると、怒りを噛み締めるように歯を食いしばり、携帯電話機を握りつぶせそうなほどの力で持っていた。
「……ずっと……ずっと最初から……こうするつもりだったんですね?」
『ごめんなさい、ゆうちゃん! でも、違うの! 私はあなたを』
「うるさい! ……私の事情知ってるのに……あなたはそれを」
『ごめんなさい! 本当にごめんなさい! ゆうちゃん、ごめんなさい!』
携帯電話機から聞こえるオーナーの声は大きな声なのに、なぜか弱々しさを持っていた。
しかしオーナーの言葉はゆうの怒りを一層強くさせてしまった。
ゆうは携帯電話機を持っていない右手をいきなり振り上げると、壁に掛かっていた鏡の中心に小指の方から拳をたたきつけた。亀裂がそこから四方八方へと広がっていく。
「……聞きたくない。……あなたの嘘の言葉じゃ、私の傷は絶対に癒せない!」
『っ! ……そうよね。でも、私が死んであなたが人を、せめて女の子だけでもまだ信じてくれるなら、私はすぐにそうする』
「……」
ゆうはそのオーナーの言葉を聞いて目をそれまでより少しだけ大きく見開いた。
『ゆうちゃん。……多分、あなたがこの電話に出てくれたのはまだ本当にわずか、私を信じてくれていたからだと思うの。だから、何の解決にも……いいえ、あなたはもっと怒るかもしれないけど、ちょっとだけでも私の話を聞いて欲しい』
「……」
ゆうは迷うように視線を泳がしている。それはゆうが彼女自身を取り巻いてきた不安と、今彼女に差し出されている希望が戦っているからだろう。
私はゆうの右側の肩に飛びついて、携帯電話機を当てている耳とは逆の耳に身体を近づけてこう言った。
「もし、あなたをもう一度でも騙そうとしたら私が食べる。彼女の中に入り込んで、ぐちゃぐちゃに溶かし尽くす」
そんな私の言葉にゆうがこちらを向いた。任せとけ、と言うように私は液体の身体を震わす。ゆうも私の食事を何度も世話しているから、それがけして誇張的な表現ではないことを理解しているはずだ。
私の様子を見てゆうは目を閉じた。……後は彼女が決めることだ。私に言える事は、もう何もない。
やがてゆうは目を開くと、こう言った。
「……私の家の住所を、教えます」
37 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:50:35 ID:fJEpl7/7
(2-3)
「ゆう……」
私は袋に入れ終わった鏡の破片を身体に載せて、ゆうの近くまで運んだ。
「ありがとう、かおる」
静かな笑顔で私にそう言うと、彼女は袋に向かって「ごめんね」と謝って、それをゴミ箱に捨てた。
「手、大丈夫?」
私は包帯が巻かれた右手がやはり心配になって彼女に聞いた。すると、彼女は私をその右手で撫でてくれた。
「大丈夫だよ。やっぱり優しい子だね、かおるは」
身体全体でゆうの温かい手のぬくもりを感じ、私は絶対に彼女を守ることをもう一度決意した。
オーナーはゆうの住んでいるところを知らなかったらしい。なんとオーナー自身がそれを聞くことを拒んだという。
ゆうはポツリと、あれも私を信頼させるためだったのかな、とこぼしていた。よく考えれば、オーナーに住んでいる場所を教えているのなら、ゆうがここに帰ってくることもなかっただろう。
ゆうは私を撫でることをやめ、そっと私の身体を持ち上げると胸に抱いてこう言った。
「ありがとう」
その一瞬後、玄関のドアを叩く音がした。ゆうの顔が少しだけ怯えた表情を見せる。
そして胸に抱く私を先ほど元に戻したテーブルに置いて、そっと立ち上がった。
最後にちらりと私を見ると力強く頷いてゆうは玄関へと向かった。
私は近くの壁に張り付く、そこから天井へと移動しながら玄関へと向かった。既にゆうは迷いない動きで、オーナーを家の中に入れていた。
両者とも無言。黒い上着に身を包んでいるオーナーはゆうに頭を下げたが、家の鍵を開けてさっさと茶の間へと進むゆうを見てそれに追従した。もちろん私もそれに続く。
「ゆうちゃん……、いいえ、佐伯薫さん」
茶の間に入って背中を向けたまま立ち止まったゆうに向かって、彼女の本名をオーナーは言った。いや、もうゆうだけの名前でもないのだが。
「本当に、申し訳ありませんでした」
そのまま背中を向けたままのゆうにオーナーは床に頭をピタリと付けた。確かこれは、この国の人が相手に謝罪の意を伝えるための手段で……土下座、っていってたかな。
「……それをしに、あなたは来たのですか?」
振り返ったゆうがそれを見下して一言こぼした。それを聞いてオーナーはゆっくりと上半身を上げて首を振った。
「いいえ、言い訳を……聞いていただけますか?」
それを聞いて向かい側にゆうがオーナーと同じように膝を折った。ゆうはオーナーをただ無機質な視線で見て言葉を待っていた。
「店が開いて暫くしたら週末という事もあり、いつもより少し忙しくなりました。その最中、酔ったお客様の一人が佐伯さんの居たあの部屋に入ろうとして、その時お客様は既にドアに手を掛けていたため、
私はとにかくそこからお客様を引き離し、そのお客様が覗いた部屋の中の様子を誤魔化そうと、『今日、新しく働きたいって子が面接に来たんです。
今書類を書いてもらっているので、絶対に中にお入りにならないで下さい。おそらく近いうちに、お会いできると思いますので』と言い、なんとかお席にお戻りいただいたんです」
オーナーは見た目に似合わないしっかりとした口調と言葉遣いで話していった。私自身、この星に来てからわずか6日しか経っていないが、
見た目がオーナーと同じほどの年齢でここまで敬語を慣れた口調で話す人物は見たことがなかった。果たしてそれはよく出来た演技なのか、それとも……。
「……多分、あの男は部屋の中の様子までは、その時見ていなかったと思います」
「え!? な、なぜそのようなことをご存知なんですか?」
ゆうの言葉に驚きを全面に表すオーナー。しかし、その間も敬語は崩れない。
「あの男は部屋に入って開口一番に……『オーナーの言う通りだ』と、そう言っていましたから」
ゆうの証言にオーナーは目を見開き、その焦点をゆうから外すと、震えた左手で口を覆った。
38 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:51:54 ID:fJEpl7/7
(2-4)
そのまま少しばかりの沈黙が流れた。ゆうは口を開かないオーナーを前にしても微動だにせず、ただそれをじっと見ていた。同じように私も天井からそれを見ていた。
「……ごめんなさい」
沈黙を破ったのはオーナーのその一言。そして彼女はそのまま震えながら、そう土下座をまた、ゆう向かってしたのだ。
「何からなにまで、本当にごめんなさい。佐伯さんに……男の人に会いたくない佐伯さんに無理を言って私の仕事を手伝わせてしまったことから……私の軽率な発言で佐伯さんの傷を抉るような事件を起こしてしまったことまで……何もかも、本当にごめんなさい」
擦れる声でオーナーは土下座をしたままそう言った。ゆうはそれを目を細めて見下していた。
そして顔を上げると頬から流れる涙を拭く事もせず、赤く腫らした目でゆうのことをしっかりと見据えてこう続けた。
「もちろん、こんなことをして許してもらおうなど思っていません。もちろん、償えるのでしたら何でも……いえ、厚かましいですがこの命で償わせてください」
そこまでオーナーは震え、擦れた声でもしっかりとした口調で話し続けていた。しかし、突然口ごもるようにゆうから視線を外す。ゆうは相変わらず何も言わずにそれを見ている。
しかし、今度の沈黙は10秒と続かなかった。
「一つだけ……ただ一つだけ、お約束していただきたいことがあります」
そう話すオーナーの声は依然擦れはしているが、もう震えはしていなかった。
「何ですか?」
ゆうがそう聞いたのも、おそらくそうしたオーナーの語調の変化に気付いたからだろう。
「佐伯さんが男性をお嫌いなのは重々承知しております。ただもし……本日の私のせいで、女性さえも……いえ、人間全てが信じられなくなったとしてしまったのならば、それだけは考え直していただけませんか?」
オーナーは少し身を乗り出してた。しかし、ゆうはそれに対して静かな微笑みでこう言った。
「随分と勝手なことを言いますね」
「申し訳ありません。ただ、佐伯さん自身が一番ご存知のはずです。誰も信じずにこの世の中を生きて行くことは決して不可能だと」
オーナーの言葉にゆうの笑顔が消え去る。そして自らが傷つけられた過去を思い出したかのように、表情が怒りを孕んだものへと変わった。
「暫く時間がかかってもいいんです。ただ、いつか。もう一度だけ、誰かを信じてください、お願いします!」
そう言い切ると同時に再び頭を下げた。太ももの上に置いた拳を握り締めながら、ゆうは硬く目を瞑っていた。
そして小さい声でこうこぼした。
「あなたが死んで、誰が喜ぶんですか?」
ゆうの目は依然として瞑ったままであり、オーナーも顔を上げる様子はなくただじっとその土下座の体勢を維持している。
「あなたが死んだら、私は笑えるんですか? あなたが死んだら、私の傷はなくなるんですか? あなたが死んだら……私に何が残るんですか?」
ゆうはそう言って目を開いた。しかしオーナーは顔を上げない。
「……私が信じている人は、まだ居ます。……いえ、人ではないですが」
39 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:52:47 ID:fJEpl7/7
(2-5)
ゆうのそんな告白に、オーナーは顔を上げて怪訝そうな表情をしてゆうの顔を覗きこんでいる。私はゆうの言葉に迷うことなく、天井からテーブルに向かって飛び降りた。
私の身体はテーブルに叩きつけられると同時に四散し、そして初めてゆうと出会ったときと同じようにまたゆっくりと集まっていく。口を抑えながら私が修復していく様子をオーナーは目を見開いたまま、瞬きもせず見ていた。
程なくしてテーブルの上に収束した私を、ゆうがゆっくりと持ち上げてその胸へと抱いてくれた。そして私の身体を撫でながらこう言った。
「この子が、私にはいます」
ゆうの顔を唖然とした表情で見ていたオーナーは、そのまま私へと視線を写した。
「会ったのは……たしか一昨日の事です。ただ、もっとずっと前から私と会ってたみたいにこの子は私に優しくしてくれます」
それを聞いていたオーナーの顔から驚きの色合いが消えていく。ただ私を温度のない目でじっと見つめていた。
「私の過去を話した人はほとんどこう言ったんですよ。『私も分かるよ、その気持ち』、『いいことあるよ、これから』……」
そう言って顔を天井に向ける。
「元気付けてくれるのは分かります。でも、この子はこう言ったんですよ。『なんでそんなことされるの?』って」
その言葉にオーナーが僅かに驚愕の色を取り戻した。それに気付いたのかは分からないがゆうは続けた。
「レイプされた私自身もいまだにそう思います。『なんで?』って。でも分からないから、だから自分で理由らしい理由考えて、名前までつけて無理矢理踏ん切りをつけてるんです」
そして顔を下げて私を見ると苦笑いをした。私は先ほどと同じように身体を震わせて元気付ける。
「オーナーの言うとおり、一人で生きていくにはこの世の中は……辛いことばかりです。ただ、この子が……私の痛みを分かって、そして私の傷を癒すのではなく、優しさと言う愛情を注いでくれるこの子が居る限り……私は生きていけると思います。この、優しい子となら……」
そう力強く言ったゆうが、私に向けた笑顔に……ゆう本人は気付けなかっただろうが、私は少しだけ視線を彼女から外してしまった。
「私の話は以上です。ただ……あなたが死んでも私の傷が癒されることはない。それだけは覚えておいてください」
オーナーは自分の方を向かないでそう言ったゆうを見ながらそれを聞いた後、ふと私に視線を移すとこんなことを聞いてきた。
「あなたは、私に対してお怒りではないのですか?」
私は少しだけ答えに困ったが、ここは自分に正直に答えることにした。
「分からない。ただ、もしゆうがあのまま暴れていたのら、私はあなたを憎くて殺したかもしれない」
自分で聞いておきながらオーナーは私が話し出すと、少し驚いたような顔をした。その後、私に向かってこう言った。
「あなたにも謝るべきでした。本当にごめんなさい」
オーナーは深々と頭を下げて、私にそう言うとゆうの方を見た。ゆうは相変わらず、私のほうしか見ていない。
それを見たオーナーはゆっくりと立ち上がると、そこでまた一礼をして、静かに玄関から出て行った。
ドアが閉まる音がすると、ゆうは私を見ていた両目を閉じて、こんなことを言った。
「私は……」
ゆうがこぼしたその言葉に、私はある提案をした。
40 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:53:28 ID:fJEpl7/7
(2-6)
窓から家の下に素早く降りるとそこにオーナーは居た。口には、確かあれは……そうマスクを着用していた。テレビで言っていたがどうやら病気が流行っていてマスクをつけて外出するようにと言っていた気がする。
そしてゆっくりとした足取りで歩き出す。時間は確かゆうの家を出たのが深夜1時過ぎで、住宅が多い周辺は大分暗かった。
そのまま数分間歩くと、車の通りが激しい道路へと出た。そこから道路に面したところで数分待つと、近づいてきた車を止めて乗車した。私はその外側の天井に張り付き、身体を平らにして目立たないようにした。色が私と同じ緑であることも好都合だった。
外気を切り裂きながら走ること約15分。私は時より車の中をこっそりと確認したが、オーナーは流れる風景を横の窓からずっと見ているようだった。
そして人通りの激しい電車の駅前に着いた、そこでオーナーは車から降りると再び歩き出した。向かう方向はやはりお店のほうだ。
私はそれにこっそりと追従する。できるだけ電飾の少ないビルにへばりつきながら、スーツを着込んだ人間の雄の間をすり抜けていくオーナーを見失わないように注視をする。時より、フラフラと倒れこむ雄もいた。
そして3分と経たないうちに、昨日私がゆうにこっそりと着いてきたあのお店へと入っていった。とりあえずは一安心と言えるだろう。
私はゆうのためにオーナーの尾行を彼女に提案したのだ。オーナーがゆうのことを騙そうとしたとはもうゆうは思ってはいなかったのだが、それを信じれる証拠がないのもまた事実だった。だから私はそれを確かめに来たのだ。
正直、今日中に確かめられるとは限らないが私にはもう今日しか時間はない。私はもう、オーナーを「食べる」つもりはなかった。それはゆうとの関係がやはり以前のものと変わってしまったからだ。
もちろん、それでもオーナーがゆうにとって一番身近な人間であることには変わりなかったが、もうゆう自身がオーナーと向き合いたくない可能性もあったからだ。それではオーナーを食べても意味がない。
そのため私が考えていたゆうとの関係を保ちながら使命を果たす手段は、見事にパアとなってしまったが、今はそれよりゆうの安全の確保が最優先だった。
もし、オーナーがゆうを裏切ったならばこれから誰かがゆうの家に襲いに行く可能性がないともいえなかった。オーナーはゆうの家の場所を知ってしまったのだから、それをそう例えばこの店の常連に教えたりするかもしれない。
可能性が限りなく低くはあったが安全のため最善を尽くしたかった。ゆうは一人しかないのだから。
とりあえず私はゆうに近くのホテルに泊まるように勧めたが、ゆうは24時間営業のファミレスに居るといった。そちらのほうが人が多いし安全だとのことだ。
これでとりあえずは安心だろう。後は私がオーナーを監視し、怪しい行動をとったら……「食べる」。
私はそう決意して店の中に侵入した。
41 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:54:45 ID:fJEpl7/7
(2-7)
それから閉店の5時まで、オーナーは店の中を忙しそうに走り回っていた。天井や椅子の陰に隠れて客との会話も盗み聞きしてみたが、それらしい会話はされていなかった。
「オーナー、お疲れ様でした~。お先、失礼しま~す」
「はい、ゲホゲホ、お疲れ様」
「オーナー、大丈夫ですか? 最近咳が多くなってるみたいですけど、流行のインフルエンザの事もありますから病院に行ってみたほうが……」
「大丈夫大丈夫。ささっ、あやかちゃんは早く帰って今日はのんびり休んでね」
あやかは不安そうな顔をして咳き込んだオーナーを心配したが、オーナーの笑顔に押し切られる形でお店を後にした。
残ったオーナーそれを見送ると、カウンター席に座ってお酒らしきものを飲みはじめた。
静かな店内に響くのは、オーナーが傾けるコップの中にある氷と、オーナーのこんな独り言。
「流石に、お客様殴っちゃったのはまずかったかなぁ……ゲホ、ゲホ」
そう言ってオーナーは自らの右手をプラプラと目の前で振り、そして小さく笑っていた。
それからしばらく一人でウィスキーを飲んでいたが、段々と咳が強く、長く続くようになってきていた。
「ゲホ、ゲホ、……病院……いや、節約しなきゃ。とりあえず、ゲホ、帰って寝よう」
オーナーは苦しそうに咳き込むと、それごと飲み込むかのようにウィスキーを一気に飲み干して、席を立った。
その直後だった。オーナーの身体が、先ほど外を歩いていた酔っ払いのようにフラフラと足元がおぼつかなくなり、そしてバタンと倒れた。そして今までにないほど、強く長く咳き込み始めた。
そしてそのまま立ち上がることも出来ずに咳を続けていたオーナーの口から出た何かが、白っぽい床に赤い点を打った。
あれは……血、じゃないよね?
そう思った直後、それが今までよりもっと大きく吐き出される。床がオーナーの咳のたびに、段々と赤くなっていく。
私はたまらず、天井から壁伝いにオーナーの下に移動した。
「どうしたんですか!?」
「ゲホゲホゲホ、君は、どう……して……ここ、に?! ぐぅ……ゴボォ!」
オーナーは私を見てそう言ったが、表情を変える暇もなく咳を続けていた。
やがて咳が少しずつ収まっていく。しかし、オーナーの顔色が明らかにおかしい。
「はぁ、はぁ……だ、大丈夫。ゲホゲホ……」
ゆっくりとオーナーは上半身を起こした。しかし、立ち上がる力はないらしく目もどこか虚ろに見える。
「携帯電話機で、ゆうに知らせてください!」
「ぐっ、ダメ。それより、聞いて欲しいことが、あるの」
オーナーは私をゆうがしたように胸に抱き上げた。ゆうと同じで温かいだが、その奥底で心臓が悲鳴を上げるように早鳴りしている。
「私ねぇ、親に、売られたんだ。離婚して、くっ、母親と住んで、13の時、父親のところに」
そこまで言うと、擦れた呼吸で息を吸っては吐き、吐いては吸ってを苦しそうに続け、やがてまた口を開いた。
「はぁ、はぁ、お母さん、お金貰って、私は、ゲホゲホグボォ……私立の学校に……」
「もういいです! とにかく……そう、病院に!」
「父親、愛人、たくさん居て……その癖、私には清楚に、って……だから嫌になって逃げて、ここ、開いたの」
そこまで話すと、床に倒れこんだ。そして咳をしながら私を宙に掲げるように伸ばしてこう言った。
「私ね……君と、同じこと、ゆうちゃんに、ゲボ、言ったんだ……。面接で……っ、机、殴って……なぎながら」
苦しそうにしながらも、子供のように笑った。
「あんがい……きみ、と私……ゲホゲホ、似ているのかも、ね」
そう言って優しく微笑んだオーナー。しかし、その直後今までより多くの血が咳とともに吐き出され、オーナーの顔を血で塗りたくった。
42 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:55:49 ID:fJEpl7/7
(2-8)
「ゲゲホッ! 私……もう、だめ……。ガン、まっき……肺、弱かった、の……」
だめって……それはつまり、死……ぬってこと?
「な、なんで!? さっきまであんなに……」
私がそう言うと、力ない笑顔のまま舌を出した。……我慢、していたんですか……。
「ゆう、ちゃん、ゲホッ…っ、よ、ろし、く」
そう言って私を床に降ろした。赤い血だまりの上に、緑色の私の身体が着地する。
「お……ね、……が、い」
「……だめ、絶対に」
私は反射的にそう言っていた。しかし私の方を向きながら目の焦点は既に合っていない。
「し、ま……す」
「私は、今日ゆうの前から消えます」
私の言葉に、虚ろになっていたオーナーの目がわずかに光を取り戻す。
「……えっ? ……なん、で? どう、して?」
「私の身体も限界なんです。このまま19時間経てば、私は死にます」
オーナーの顔に絶望の色が浮かんでいく。でも、それでいい。今は、ゆうが一人になってしまうということだけ、それだけを考えて。
「そん、な……」
「それが嫌なら、ちょっとだけ私に時間を下さい。あなたを助けて見せます」
「無、理……だ、よ」
「じゃあ、ゆうを一人にしますか? あわよくば新しく誰かのことを信じられるかもしれませんが、数日後にはあなたと天国でお会いすることになってしまうかもしれませんよ?」
私の非情な言葉に、悔しそうに唇を噛み締めるオーナー。
「あなたがゆうに人を信じろと言うのなら、あなたは今、私を信じてください。いいですね? 必ず助けますから、それまでしぶとく耐えてください」
私はそう言うと、オーナーの返事も聞かずにすぐさま入り口のドアの隙間から外に這い出た。
力強くオーナーにああは言ったが、100%の確信があったわけではない。ただ、おそらく出来るであろうという過信と、とにかくゆうの力になりたいという思いだけがそこにはあった。
外は暗闇が切り裂かれ始めていて、驚くことに誰一人通りの前にはいなかった。
「っ、嘘でしょ……」
私は予想外のことに焦りを感じながら、とにかく人間を探した。
その時、向かいの路地の奥のドアが開かれ、そこから若い女が携帯電話機を片手に出てきた。
私は瞬時にその女の前に移動すると、こちらに女が視線を向ける前にその口に飛び込んだ。
43 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:57:04 ID:fJEpl7/7
(2-9)
「んんっ?! んんんんんんん!?」
言葉にならない声を上げている女の中に、私は自らの身体をドンドン浸入させて行く。
「んっ、ぷはっ! な、なに……わ、私、今……何を飲んだ、の?」
そんな声が身体の中に浸入しきった私の耳に届く。……ただ、ひとつあなたに私が言えるのはこれだけ。
「ごめんなさい」
私は彼女の身体の中でそう言って、その女の身体を中から一気に溶解し、「食べ始めた」。初めて味わう甘美なる人間の味を噛み締めることもなく、ただひたすらすぐに食べ終えることに集中する。
「えっ?! なっ、何!? なん、の、こ……は」
女は驚きの声を上げていたが、すぐにその声も上げられなくなった。彼女には、もう口もなければ喉もない。溶けていく身体だってもうあなたのものではない。既に私の身体の一部となっている。
そんな彼女の中で私はこう願った。この人間が、ゆうや……オーナーとは違う素晴らしい人間ではないように、と。
そして彼女の身体を完全に「食べて」その身体の情報を全て得たと同時に、その答えは私に流れ込んできた。彼女の記憶という形で。
どうやら彼女はストリップ劇場の新人で中々の人気ダンサーだったようだ。年齢は21歳。昼間は喫茶店で働いている。去年までは大学に通っていたらしいが、今年の春に中退したようだ。しかしそんな情報よりも今は最優先すべきものが他にあった。
私に流れ込んでくる記憶の中に病院で診察を受けたという記憶、それが重要だった。しかし、私が懸念するような記憶は流れ込んでこない。
それを確認するや否や、私は急いでオーナーの元へと戻った。オーナーは苦しそうにしながら、擦れた呼吸でかろうじて意識を取り留めていた。
「オーナー、確認させてください! ガンに掛かっているのは、肺だけですか?」
私はオーナーの下半身に移動して、紫の艶やかなワンピースの中に潜り込みながら白い下着をずらした。
「ゲホゲホゲホ、ちょ、っと……なにして、……リ、ンパ、せつにも……てんい、して、る……グホォゲホゲホ! っ……」
オーナーは私の突然の行動に驚いたようだが、私の質問にはしっかりと答えてくれた。それは他でもないゆうのためだろう。
「分かりました。……私が必ず、あなたとゆうを救ってみせます」
私は既にオーナーの服の中にいるため彼女の顔は見えなかったが、オーナーのこんな言葉が私の心に響いた。
「やっぱり……ゲホゲホ、ゆうちゃんの言ってた通り、君は、優しい……子」
そう言われて私は……やっぱり、オーナーのことも好きであるということが分かった。
そしてもし、ゆうのことがなかったとしても、私は彼女を助けたいと心から思った。
「ひっ、あっ、な、にか、ゲホゲホゲホ! ……はいってぇ、くぅるぅう」
オーナーは咳をしながらも、今まで聞くことなかった甘い声を上げた。それが私の官能をわずかにくすぐるが、それを楽しんでいる暇など今はない。
「くっはぁああ! そ、んあ、はげし、すぎぃいいい!」
そんな声が私の浸入に更なる加速を加える。
「ああっ! ゲホゲホ、いっ、たいぃいい!」
その時だった。突如、オーナーが痛みの悲鳴を上げた。私の身体もそこで止まってしまった。そして目の前にあるものを凝視した。
「これって……処女膜……?」
私は先ほど食べた女の記憶からそれを特定した。……でも、これってつまり……。
「ゲホゲ、ゲホォ!」
そんな間にもオーナーの咳が私の耳に届く。くっ、小さな穴はところどころにあるけど、そこからじっくりと浸入していく時間はない!
「オーナー、ごめんなさい!」
私は少しだけ手前に身体を戻すと、勢いをつけてそれを一息に破り抜けた。
「ひぎぃいぁああああ! ゲホゲホォ、いぁぁああああいいぃいいい!」
オーナーはガンと、処女を喪失するという2重の痛みに大きな悲鳴を上げた。しかし、もうそこから子宮にはすぐに到着し、私はそこからオーナーの身体に私を根付け始めた。
「ゲホォホォ……くふぅ……頭が……」
オーナーの声が弱々しくなり始め、私も段々と意識が朦朧とし始める。
そして突然、私にもとてつもない痛みが広がり始める。それは私とオーナーが繋がりはじめた何よりの証拠。オーナー、は、こんな……痛みに。
「間に……あって……」
オーナーの口から私の言葉が紡ぎだされる。私はただ、薄れいく意識の中、とにかく必死でそれを願い続けた。
胸の奥底で、何かがうごめきそれを変えていく。その感触をわずかに感じながら、私は意識を失った。
44 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/21(金) 23:58:12 ID:fJEpl7/7
(2-10)
「……ナー。オー……! を、……して……さい! オーナー……!」
私は暗闇の意識の中、聞こえた声の方向に向けて、うっすらと目を開けた。
「ゆ……う?」
ぼやけた輪郭の主に向かって私は声を掛けた。その輪郭が私の声で上下に動く。
「オーナー! ……よか……った、一体、何が……いえ、今、人を呼んで来ます」
ゆうの声が私を現実に意識を引き戻させる。そして、立ち上がろうとしたゆうの身体を、私は抱きつくように止めた。
「だ、め」
「え……オー、ナー?」
何か、声が聞こえたが私の意識がまたしても段々と暗闇に引き戻され始めた。しかし、胸の辺りに先ほど感じた痛みはないあたり、どうやら私の考えは上手くいったようだ。
「もう少し……寝かせて」
私はそれだけを言うのが精一杯で、言い終わると同時に私はゆうに全体重を預けた。
「オーナー?! オー……! ……」
そして私の意識はまた暗闇の中へと引きずり込まれた。
それから何時間が経ったのだろうか。私は、宙に浮いて闇の中を漂う感覚から、ゆっくりと身体に何かの感触を覚えて目を覚ました。
「あっ、オーナー!」
今度はその声がはっきりと聞こえた。目を開けてみると、私を横から覗き込むゆうの顔もしっかりと確認できた。
「大丈夫ですか? 一体、何があったんですか。それに、あのメールは?」
「メー、ル?」
ゆうの単語を繰り返すと、頭の中に存在するオーナーの記憶が私の頭をよぎる。
「『助けてあげて』」
「そうです。……あの、もしかして、かおる……オーナーが先ほどマンションで会ったあの子に、何かあったんですか?」
ゆうの声が、わずかに震えていた。それは多分、私を心配してくれているから。
「あの子は……オーナーのことを尾行しに行ったんです。私が、もう一度オーナーを信頼できるように。……どこに行ったか、知りませんか?」
私の顔を真剣な眼差しで見ているゆうの視線から、明らかな焦りが感じられる。
「……ゆう」
「え……ゆう、って……」
オーナーは普段からゆうのことを『ゆうちゃん』と呼ぶ。いや、店の従業員は皆親しみを込めて『ちゃん』付けをしている。
「私の、話を聞いてくれる? ゆう」
「……かおる、なの?」
半開きにした口で、私にゆうが問いかけてきた。
私は頷いて事情を話し始めた。
45 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:00:08 ID:fJEpl7/7
(2-11)
「……それで、オーナーの身体に寄生して、私は肺と転移が見られた部分をその『食べた』女の人のものに変化させたの」
「そこに、私がやってきた、と」
話は30分ほどに及んでいる。ゆうは、まず私がオーナーに寄生している事に疑問を持ったが、私が口から本体である緑色の身体をわずかに吐き出して彼女に見せると、彼女は驚きながらも納得した。
それからは比較的に私が話すことを、ゆうが黙って聞く形になり、説明はスムーズに終わった。
「じゃあ、今オーナーの意識は身体の中で眠っているってこと?」
「うん。私が出て行かない限り、目覚めることはない。例え死んでもね」
「生きてるんだよね、ちゃんと」
私は力強く頷く。するとゆうは、大きく息を吐いて笑顔を見せながらこう言った。
「よかったぁ……。う~ん、とりあえず今はかおるなんだよね?」
私は再度頷く。すると、ゆうの顔から笑顔が消え、真剣な目をしてこう言った。
「ちゃんと連絡してくれなきゃダメでしょ! 下手したら、君とオーナーの二人とも死んじゃうところだったんだよ!」
ゆうが大きな声で対面に座る私を叱る。私はゆうに初めて説教をされて、身を縮めこませた。
「まったくぅ……。でも、ありがとう。オーナーがもし死んでたら……私は多分、とても後悔したと思う。もちろん、君が死んでしまっていても、ね」
ゆうはそう言って優しく笑いかけてくれた。そして気の抜けたように席に持たれるとこうこぼした。
「ふぅ、やっぱりオーナーに向かってこんな風に叱るのって緊張するなぁ。部屋に来てくれたときはそんなに気にしなかったのに」
そう言って悪戯っぽくゆうは笑った。私はそれを見てゆっくりと立ち上がった。
「ちょっと、ここで待っててくれるかな、ゆう」
「え……う、うん。なにかあったの?」
私はそんなゆうを心配させないように笑い掛けると、お店から外に出た。眩しい太陽が暗い店内に慣れていた私の目を、ギラギラと刺激する。
そんな炎天下の中、私は今の時間帯には少し目立つ格好のまま、あるところに向かって歩き出した。
途中人通りの少ないところで、顔と身体を先ほど食べたダンサーのもの、『相沢 晴香』のものに変化させた。オーナーと背丈は似ていたが、胸の辺りが少し寂しい感じで、私はワンピースを胸の辺りで押さえながら走った。
そこは相沢晴香が昼間働いているバイト先である駅の近くの喫茶店だ。今日は休日と言うこともあってかなり繁盛している。
そこからぐるりと回り、ゴミ捨て場の目の前と、立地的にはあまり従業員に優しくない裏口に回ると、私はいつも相沢晴香がそうしているように店に入った。
46 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:01:00 ID:TZvhuugr
(2-12)
「おはようございま~す」
間延びした声で私が入ると、廊下でゴミを両手に立っていた中年の眼鏡を掛けた男性店長が私を見て首をかしげながら近寄ってきた。
「あれ、相沢さん今日、シフト午後からじゃなかったっけ、まだ2時間ぐらいあるけど?」
私は相沢の記憶を反芻し、できるだけ不自然にならないように集中してこう言った。
「あ~、ちょっとヒマしちゃってて、ダメですか、早めに入っちゃ?」
「あっはっは。そんなことあるわけないだろ? こんなに忙しいんだ。こっちは嬉しい限りだよ。はい、鍵どうぞ」
そう言って私にロッカーの鍵を渡して狭い廊下の道を譲ると、私は軽く頭を下げながらその脇を通って、控え室兼更衣室の一室に足を踏み入れた。まったく、ちらちらと人の胸を見なさんな。
「あっ、晴香さん、こんにちは。お疲れ様で~す」
「やっほ~、ちぃちゃん。」
私は中で座っていた後輩『水川 千秋』に片手を上げて挨拶をした。彼女はケータイを片手で誰かにメール打っていたようだった。
しかし私が入るや否や、携帯を閉じるとロッカーから自らの仕事着を取り出した。メイド服という名の仕事着を。
そう、ここは駅前に新しくできたメイド喫茶だった。こんな大人向けの歓楽街にも、世の中の流行に押されるように去年建てられたお店だ。
「あ、使用中の札出しておくね」
私はその存在を思い出して、部屋の中のドアに付いている『使用中』という札を、ドアの外に貼り付け鍵を閉めた。
「あっと、すいません」
水川千秋はどちらかといえば抜けている性格で、よくこの札を付け忘れる。まぁ、それが幸いして、部屋に私と彼女の二人だけの空間を作り出せた。
私は服を脱ぎ始めた水川千秋の背後にゆっくりと近寄り、彼女の身体に手を掛けようとした。
その時、不意に水川千秋は私の方へと振り返るとこんなことを言ってきた。
「そう言えば晴香さん、今日はいつもにまして派手な服着てますね~」
「え、あぁ、うん。ちょっと、ね」
「あぁ~、男ですか?」
「ち、違う違う!」
私は慌ててそう誤魔化すと、反対にある自分のロッカーを開けた。しかし、相変わらず水川千秋はこちらを見てニヤニヤと笑っている。確か彼女は高校生だから、そういう出会いに飢えた年頃なのだろう。
仕方なく私は自分の仕事着を取り出した。残念ながら、携帯を持っていないためそれを見るフリなどはできず、何もしていないのも怪しまれると思ったからだ。
「きっとメチャクチャイケメンなんだろうなぁ~。いいなぁ~、見たいなぁ~」
背後でいやらしく私に声を向ける水川千秋。そのため彼女の着替えはまったく持って進んでいない。
それからもいやらしい皮肉を掛けられながら、私はあっという間に着替えが進み、もう黒いオーバーニーソックスを履き終え、後は白いカチューシャをつければ終わり……って私は何をしてるんだろう。
「あ、ヤバ。急がないと」
やっと自らの着替えに本格着手し始めた。私が白を基調としたメイド服で、彼女が黒を基調としたそれなのはあのスケベ店長の独断によるものだ。
そのため、私のは白いブラウスと黒いスカートを別々に履く必要があったのだが、彼女のそれは上下一体のワンピースのため頭から被るだけで実質済む。
私はその瞬間を狙ったのだが、彼女は私の順序とは逆に座ってソックスから履いて行き、更に靴まで履く。おそらく、メイド服を着たらすぐにでも出れるように準備しているのだろう。
その様子を今度はじろじろと私は見ていたが、相当焦っているらしく彼女はこちらに目などくれない。
その隙に私はこっそりと邪魔な下着をスカートから見えないぐらいにまで降ろした。
そして水川千秋が頭からメイド服を被り視界が失われた瞬間、私は椅子に座っていた彼女を押し倒した。
47 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:02:14 ID:fJEpl7/7
(2-13)
「えっ?! きゃあ!」
当然ながらの声を上げて、腰の部分でメイド服がめくれているとううあられの無い姿で、私に乗り抱えられた。
「あ、あの、ど、どうしたんですか……晴香さん」
さりげなく腰までメイド服を降ろそうとしているが、その手を私が軽く握って抑える。
「なっ、ちょ、ちょっと! 離し……んっ!」
私は反論する間も与えずに自らの唇で彼女の唇をむさぼる。そのまま舌を滑り込ませて、彼女を中を少しずつ浸食する。
「んんっ、んっ、ぷはっ! はぁ、はぁ……」
私は唇を離すと、驚いたまま声も上げない彼女に見て妖しく笑い、そのままゆっくりと彼女の下着を私と同じように降ろし始めた。
しかしそれでも彼女は声を上げない。私はそれを疑問に思ってこう聞いてみた。
「何で声を上げないの? あなた、恥ずかしくないの?」
私がそう聞くと、水川千秋はなんと自ら顔を上げると私の唇に自分の唇を重ね合わせてきた。
「んっ?! んんっ、んんんんっ……あっ、はぁはぁ」
「はぁはぁ、えへへ……晴香さん、もっとしてぇ」
意外な声が彼女の口からこぼれる。しかし、彼女の表情からそれが嘘であるとは私には思えない。元々、その気がある女性なのだろうか?
しかしそんなことは、私自身どうでもよくなってきていた。ただ、その悦に酔った顔を見ていると、私も自然に笑ってしまい、そしてこう言った。
「ふふ、分かった。きもちよぉーく、してあげるねぇ」
私はそう言って、自らのスカートを捲り上げてあらわになった秘所を、ちぃちゃんの秘所と重ね合わせた。
「きゃっはぁ! ふぅぁああああ、きもちいぃぃ」
「ああっ! いぃ! いぃよぉぉお、ちぃちゃん!」
自然と私の腰が動いて、私のちぃちゃんの秘所が塗れた体液をお互いに交換し合っている。
「ち、ちぃちゃんのぉお、あったかくてぇええ、きもちいぃいぃぃい!」
「はるかぁ、さんのもぉおおお、やっばぁぁああい、くぅ、はぁああああん!」
私はただ快感を求める頭で、一つだけ、顔と身体をオーナーのものに戻し始めた。胸のサイズが大きくなったため、服に圧迫感を覚えるが、それも今は関係ない。
「いぃぃやああ、かわぃいかぉおおお! おっきぃ、むねぇええ! それでぇ、それでぇもっとわたしぃをいかせてぇええええ!」
「くぅはぁあああん! いいよぉぉお、これでぇえええ、いっちゃぇえええええええ!」
私はそう言ってお互いの秘所から愛液が飛び出すと同時に、擦り合わせたちぃちゃんの穴を目指してオーナーの穴から私の本体を射出した。
「はぁあああああんんぅう! なにかがぁ……なにか、きてるよぉお……」
そう言って水川千秋は疲れきったように静かになった。その間も私は素早く水川千秋の身体の奥へと進んでいく。
そしてまたしても処女膜に出会った。やはり彼女の子宮へと続く道をふさいでいる。
「そうだ……これなら痛みは少ないかも」
私はある方法を思いつき、処女膜に近づくとそれに身体を張り付け、ゆっくりと処女膜を溶解していった。
「はぁああ……なんかぁ、あったかくてぇぃ、きもちぃいいぃ……」
そんな甘い声がくぐもった音で彼女の中に居る私にも聞こえた。蕩ける様な甘い味のそれを溶かしつくし、私は浸入を再開した。
そのまま子宮に到着すると、私の身体が水川千秋へと根付き始めた。そして私の意識も段々薄れていく。
48 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:05:47 ID:TZvhuugr
(2-14)
「う……んんんっ」
しかし、そのまま視界に靄が掛かったようにぼやけた後、すぐに気持ちよさそうに寝ている白いメイド姿のオーナーが私の視界に入った。
私はその身体を抱きかかえながらゆっくりと上半身を起き上がらせる。24歳の若きオーナーがメイド服で眠っている姿は、どこか神秘的な神秘的なものを感じさせる。
そして、その彼女の中には既に私の子を産める器官が備わっている感じたら、私は彼女が愛おしくなりその唇に軽く自らの唇を重ねた。
「ううんっ……んっ」
するとオーナーは眩しそうに瞼に皺を寄せながら、ゆっくりと目を開いた。
「あなたは……誰?」
目を瞬かせながら彼女は起きた。私はそんな彼女にこれだけを言う。
「あなたのお店でゆうが待っています。私と一緒に来てください」
それだけを言うと、私は彼女の手を引っ張って無理矢理に廊下に出た。すると廊下に居たスケベ店長がまたしても嫌らしい視線をしてこちらを見た。
「あっと千秋ちゃん、すぐにフロアに……って、あ、あんたは……な、なんで」
私の後ろに居たオーナーを見て、スケベ店長の顔が変わっていき、後ろにあとずさったところでダンボールに頭をぶつけ、そして眼鏡が落ちた。
「あっ、あなたは!?」
オーナーが驚きの声を上げ、それを見た私も、私の中にあるオーナーの記憶のそれも比較的新しい部分にその眼鏡が取れた中年男性の顔があることに気付いた。
「あ、あんたが……ゆうのことを……」
その記憶とは、昨日の夜にゆうが会計手伝いをしていたあの部屋に入り、そして……オーナーに殴られ、逃げていった男だった。
「き、昨日はよくもやってくれたなぁ!? い、慰謝料払え! そ、それにあの金も!」
そんな風にヒステリックに叫ぶ男に、オーナーは頭を下げてこう言った。
「も、申し訳ありませんでした!」
……なんで? オーナーなんで謝るの? こいつ、ゆうのこと、泣かしたんだよ?
しかし、それもオーナーの記憶がある今なら分かった。オーナーは元々誰にでも優しい人であり、更にオーナーはこの男にかなりの金を借りている。
あのオーナーのお店の経営状態は、かなり悪かったようで、オーナーはガンの治療費さえも店舗の経営のために我慢していたのだ。そして借金の額もかなり大きい。
それは全て……一生懸命働いてくれる女の子たちを、もちろんその中にいるゆうも守るため。
「……慰謝料、借金共に、利子100%つけて返してあげるわよ!」
私はオーナーの手を離すと、全速力でその最低の外道の目の前まで近寄ると、硬く握り締めた拳を頬にめり込ませた。
「ひぃぎゃああぁああああ!」
あの清楚なオーナーに殴られて、逃げ帰る程度の男なのだ。だからか弱い高校生の水川千秋に殴られても、やはり何とも情けない声を上げた。
そのまま裏口のドアに寄りかかったその最悪な男に、私はいつかのテレビで見た懇親のドロップキックを見舞った。
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
何とも情けない声でドアを背中でぶち開け、そのままゴミの山に突っ込んでいった。そのゴミは確かこの外道が先ほど運んでいたものと似ている。
「ゴミの日も守れないとは、さすが外道……」
私は記憶の中にあったゴミの日の一覧を思い出すと、燃えるゴミが火曜日と金曜日であったことに気付き、ゴミに頭から突っ込んだ外道にそう吐き捨てた。
49 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:06:47 ID:fJEpl7/7
(2-15)
「さっ、オーナー行きますよ!」
私は呆然としているオーナーの右手を無理矢理掴むと、お店のフロアのほうから覗き込んでいたお客様と仕事仲間から逃げるように裏口から飛び出した。
しかし結局、オーナーのお店に戻るためにはメイド喫茶店の表を通るのが一番近く、そこを通ったときは賑わっているお客から歓声と拍手をいただいた。
それから人通りが激しくなったお店への道を、黒いメイド服を来た私が白いメイド服を来たオーナーを引っ張りながら走り抜ける。当然、道行く人が物珍しそうに皆こちらを見ていた。
「こ、この格好は、は、恥ずかしいよぉ……」
そんな可愛らしい声が後ろから聞こえ、それが頬を赤らめたオーナーの声であることに私は小さく笑う。当然私も恥ずかしいわけだが。
程なくして私たちはオーナーのお店へと辿り着いた。途端にゆうがこちらに駆け寄ってきた。
「オーナー!? それとも、かおる!? そ、それより一体その格好は……、それに……あ、あなたはどちら様でしょうか?」
ゆうはいっぺんにオーナーと私に質問を投げかけてきた。しかし、私もオーナーも人通りの中を全力疾走で駆け抜けてきたため、息を切らして答えられない。
ふと、圧迫されていたオーナーの胸のボタンがピーンと吹き飛び、たわわに実ったそれがむき出しになった。
「きゃあ!」
オーナーが上げた小さく可愛らしい悲鳴に、私もゆうも一瞬押し黙ったが、やがてクスクスと小さく笑い出した。
「じゃあ、本当に私のガンを」
「はい。一応肺とリンパ節は、あの相沢晴香さんのものに代わっているでしょうから大丈夫でしょう」
私がそうオーナーに言うと、オーナーは複雑な表情でこう言った。
「でも、それじゃその、相沢さんは私の代わりに死んでしまったんですね」
「……すいません。本当は男のそれにしようとしたんですが、通りにはその時間誰も居なくて」
私の言葉にオーナーは首を振る。
「それでも誰かが死ぬのに代わりはない……。あ、けど、あなたを恨んでいるわけじゃないですよ? こうして生きていられて私は本当に嬉しいです」
そう言ってニコリと笑ったオーナーの顔が私にはとても嬉しかった。
「かおる……」
その時、私の隣に座っていたゆうが、不意に私の名前を呼んだ。
「本当に、かおるなんだよね?」
水川千秋の身体の私は、その言葉にゆっくりと頷き、そしてこう聞いた。
「ゆうは……あんなふうに、緑色の身体をした私じゃなきゃ、嫌い?」
私の言葉に、ゆうは迷いなく私を抱きしめた。水川千秋の身体の私を。
「そんなことないよー。私は優しい君が大好き。どんな身体でも、君は私に優しくしてくれると信じてるから」
「ゆう……」
私はそのゆうの優しい言葉。
「これから、かおるはどうするの?」
「……使命を果たすために、この地球の全人類に寄生する。ただ……やっぱり男は全員『食べる』」
身体を離してゆうとオーナーの顔を見ると、二人はそれぞれ微笑んでこういった。
「私は男が嫌いだから……そんな世界があるなら見て見たいと思う」
「ゆう……」
「男が全員大嫌いと言うわけではないですが……かおるちゃんとゆうちゃんが大好きなのは確かなこと。だから私も二人とずっと一緒に居たい」
「オーナー……」
私は、愛する優しき二人を前に決意した。
「やっちゃい……ますか」
50 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:08:47 ID:TZvhuugr
(2-16)
「んんっ、はぁ、さいこう……」
私はそう言って寄生したばかりの身体を持ち上げた。傍らには先ほどまで私が寄生していた同じ大学の生徒が眠っている。
その彼女を私は更衣室のソファーに優しく寝かせると、自らの衣服を整えて更衣室を後にした。
通り行く外国人……と言っても今の私、つまりジェニファーの視点では同じ国民なのだが、その生徒の中を通り過ぎ、大学を後にした。
ニューヨークの町並みを歩いて高層マンションの一室に私が帰ってくると、二人の日本人女性が私を出迎えた。
「お帰り~、かおる」
「お疲れ様、かおるちゃん」
家を出たときとはまったく姿かたちが違う私を見ても、彼女達はいつものように私に接してくれた。
ゆうは私の身体を物珍しそうに触る。顔を引っ張ったり、胸を触ったりと、遠慮がない。
オーナー……もとい『すず』もいつものように、そんな様子を見て、穏やかな微笑みを浮かべている。
「そう言えば、去年より1億人近くも人口が減ったって、アジア圏で、それも男が特に」
ゆうが私の胸に顔を埋めながら言ってきた。私はその頭を撫でると、今度はすずが話しかけてくる。
「かおるちゃんや子供達がこの1年間頑張ったから、ね」
私はその言葉に首を振った。多分、私より子供たちのほうがずっと頑張っていると思う。
「はぁああ、どうしよ、かおるぅぅ……疼いてきちゃった」
私の胸から顔を上げたゆうが、赤い顔をして私を見た。視線をすずに移すと、恥ずかしそうにしながらもこちらに寄ってきて、そのまま私にしだれかかって来た。
「……二人とも、元気ですねぇ」
「あぁ、酷い! 自分は寄生するときに楽しんできてるからって!」
「そ、そうだ、そうだ!」
私の言葉に反論したゆう、それに同意するようにすずが続く。
その二人の股間が盛り上がっている。その正体は、ゆうに寄生した時とすずにもう一度寄生し直したときにつけた雄の性器だ。私が食べた雄の中でも、マシなものを選んで二人の身体を変化させた。
ゆうはあれから私に寄生されることを自ら望んでくれた。その股間に男のものを生やす事も、だ。彼女曰く、男がいなくなるためならこれぐらいなんともない、とのことだ。今ではめっきり楽しんでいるようだが、男は相変わらず大嫌いだ。
それは何も二人だけにしたわけではない。雄がいなくなっても人間が子孫を残せる様に、私は子供達にも2回の寄生につきに1度はこれを生やさせるようにさせている。
しかし……、まさかあの二人がここまで貪欲になるとは思いもしなかったが。
「まぁ、いいけど。じゃあ、楽しみましょうか」
「うんうん、さすがかおる、優しい子だね」
私の頭を優しく撫でてくれるゆう。
「ありがとう、かおるちゃん」
私の頬に優しいキスをしてくれるすず。
そして私たちは隣のベッドルームに向かった。もちろん、私だってこれからの行為が楽しみで仕方ない。
だって、私は二人が大好きだから。
(終)
51 名無しさん@ピンキー sage 2009/08/22(土) 00:22:47 ID:TZvhuugr
書いたものをひたすら番号をつけながら貼り付ける作業なのですが……自らの文章を流し読みしていると……我ながら酷い、と頭を抱えてしまいます。
それと、>>36は 一応(2-2)となります。まったく意味はないのですが、申し訳ありません。
これはもう自分が好きな【寄生】、【捕食】、【擬態】という三原則をなんともご都合主義的にちりばめたのですが……
もうその設定云々ではないですね。文章の貧弱さで泣けてきました。
もっと酷い部分はありますが、あまり自分で言うのも五月蝿いと思われますので、失礼させていただきます。
……近いうちにまた、酷い駄作をお見舞いしに来るかもしれませんが、どうか冷たい視線でお迎えいただければ幸いです。
本当にありがとうございました。
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