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ハイブリッドエンジェル=カナエ 第二話(4スレ目)
838 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:22:39 ID:XMzeOMnI
では、FBX氏の作品が出来上がるまで場繋ぎを。
お待たせしました。ハイブリッドエンジェルカナエの続きです。
第二話
「香奈と愉快なクラスメイト」
「香奈。お姉ちゃんは先に行くぞ」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
時計を見ればもう少しで七時半を回ったところ。
お姉ちゃんは車で通勤しているので学園までには十分もかからない。
「お弁当持った? ハンカチ持った? ティッシュ持った? 忘れ物無い?」
「忘れ物――」
お姉ちゃんは玄関で靴を履いた姿勢で固まる事数秒、
「――そうだ」
唐突に立ち上がり私に顔を寄せた。
「行ってらっしゃいのキスをもらってないな」
真顔で言われた。
「……」
すぱんっ。
キスの代わりに軽くハリセンをあげた。
「はははっ。よし気合入ったぞー。今日も元気に行ってみるかぁ!」
なぜかテンションが上がるお姉ちゃん。ほんと、どういう精神構造をしてるんだろ?
扉を開け、意気揚々と出て行くお姉ちゃん。と、その身体が途中で停止する。
839 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:23:58 ID:XMzeOMnI
「……」
ねだる様な視線を向けてきた。
「……行ってらっしゃい。お姉ちゃん」
「ああ行ってきます。香奈も遅刻するなよ」
「はーい」
「それと、三嶋君が来たら伝えてくれ。『今回の写真』もいい出来だったと」
「分かった」
「じゃあな香奈」
「うん」
がちゃり、と音を立てて扉が閉まった。
「私はどうしよっかなー?」
今から学校行くのはちょっと早いし。んーーーーー。
「寝直しちゃえ!」
ぱぱっ、と制服を脱ぐ。いちいち着替えなおすのも面倒くさいから、
わたしはシャツにパンツ(クマさん柄は基本! 子供っぽいって言われてもいいの!
可愛いから!)なんて、お姉ちゃんに見つかったら間違いなくネタにされる、というか。
確実に襲われそうな格好で自分のベッドにダーイブ!
私はデンコウセッカ? のスピードで布団に包まる。
「あー! 髪くしゃくしゃになるー!」
お姉ちゃんから子ども扱いされるの嫌で近頃ずっと伸ばしてきた髪。
ちょっと前までは、「この横に生えてるの寝癖?」なんて言われていた房も、
今では立派なサイドテールなのだ!
(――まあいっか。起きてから五分で直そっと)
昨日はネルガル退治であんまり眠れなかったからちょっと眠いの。
「あにゃぁああぁ、おやすみいぃぃ」
840 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:25:04 ID:XMzeOMnI
私は気の抜け切った声を出すと、あっという間に眠りに落ちた。
***
夢をまた見た気がする。
夕暮れの教室で。大好きな『雨宮睦月』と二人っきりで。
なんかとてーも良い雰囲気で。
変な方言も言わなくて。
「好きだ」
「わ、私も、雨宮君の事が……好き」
言った! とうとう言った! きゃー! どうしよう!? とうとう言っちゃったよ!?
あにゃあぁ。
あんまりにも嬉しくて頬が緩んじゃう。
「そっか。それなら」
雨宮君がぱちんっ、って指を鳴らす。と、急に視界が青白い光で埋め尽くされる。
教室の中央には0と1の羅列が光を放ちながら、形を成していく。
それはまるで変身した私が『力』を使ったような光景。
徐々に光量を増す物体に私は目を閉じ、
――光が収まった頃を見計らって目を開ける。
すると、なんとそこには!
「べ、ベッド!!?」
し、しかもダブルベッド!!
「さあ、香奈ちゃん。おいで」
いつのまにか上半身裸になった雨宮君が、
教室のど真ん中に設置されたベッドの上で私を手招きしてる。
こ、この状況、私はどうすれば!?
841 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:25:44 ID:XMzeOMnI
(んーーと! んーーと!)
ぽくぽくぽく、ちーん。
そうだ。お姉ちゃんがいつか言っていた。こういう状況の事を
『スエゼン食わぬはオンナの恥』って言ってた!
気がする。
「…………………雨宮くーーん♪」
気が付いたら私は雨宮君と抱き合っていた。下着姿で。
うわあっ、えっちい! どきどきするよう!
真っ赤になった顔を見せるのが恥ずかしくて私は雨宮君の胸に顔を埋めた。
(――あ。凄い柔らかい。それに暖かい)
男の子の身体ってもうちょっとごつごつしたイメージがあるんだけど、全然そんな事は無い。
それどころか包み込むような暖かさすら感じる。
(あにゃぁ。幸せー)
日向ぼっこをする猫みたいに私は頬を緩め、目を細める。
ふと、雨宮君はどんな顔をしているのかと思って、上目遣いで見上げた。
何故かクマの顔が有った。
「え?」
思考が真っ白に塗りつぶされる。
「香奈ちゃん! 香奈ちゃん!」
「きゃわ!?」
842 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:26:30 ID:XMzeOMnI
そしてあろう事か、いつの間にか雨宮君と摩り替わっていた等身大のクマの縫いぐるみは、
可愛らしい女の子の声で大声を上げ始めた。
「遅刻しちゃう! 遅刻しちゃう! 早く起きないと遅刻しちゃう!」
「え!? 遅刻って!? だってここ学校!?」
「起きて! 起きて! 起きて起きておきておきてオキテオキテ掟掟!!!!」
「あにゃーーーーーー!?」
***
「香奈ちゃん!!」
「……雨宮くーん♪ もう離さなーい」
「え? きゃっ!? ちょっ!! 香奈ちゃん!? やーん!」
ずぱーん!!
「うきょわ!?」
聞き慣れた快音と共に、こめかみ辺りに衝撃が走った。
「え? え? 何? え? ここどこ?」
頭が取れちゃうかと思うほどの衝撃で私は目を覚ました。
「早くどいて~っ」
すぐ下から、聞き慣れた女の子の声。それは幼稚園の頃からすっと聞いてきた声だ。
下を向けば、『そこでもいっしょ』の『テロちゃん』のように目を(><)こんな感じにした
おかっぱの女の子がいた。
「え? 蒼衣ちゃん? どうして蒼衣ちゃんがここに居るの!? 雨宮君は!? クマは!?」
すぱーんっ。
「うきょん!?」
無言ではたかれる私、今回は手加減してくれたのか全然痛くなかった。
843 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:28:11 ID:XMzeOMnI
まあ、でもようやく状況が飲み込めた。
「また夢オチ!?」
「うん多分そうだと思う。思うから。その、早く、退いて、くれない…?」
眼鏡越しに、蒼衣ちゃんの目が恥じらうように揺れるのが見えた。
丸っこい私の顔とは違う、綺麗な顔だって真っ赤に染まっていく。
(何だろ? この反応は?)
恥ずかしがるようなシチュエーション?
えっとだって――幼馴染の女の子『三嶋蒼衣』ちゃんに、
何故かマウントポジションを取っている私がいるだけだし。
プロレスごっこなんて男子でもやってるし。
ふと、そこである事に気づく。
あ、いっけなーい。わたし服着てないや。
私は一足で蒼衣ちゃんから飛び退いた。
「ちちちちちちち違うよ!? 私、普通だよ!? 全然ノーマルだよ!?
確かにあのお姉ちゃんの血は引いてるけど、私は女の子より男の子の方が良いからね!?」
「……香奈ちゃん。分かってるから服着ようよ」
「え!? あ、うん! そうだね! アハハハハハhahaha!」
乾いた笑い声を上げながらマッハで制服を着る私。
「準備完了ー!」
「うん。それじゃ行こ?」
「らじゃー! って今何時?」
「八時十二分。――あっ、十三分に変わっちゃった…!」
遅刻コースまっしぐら?
844 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:28:44 ID:XMzeOMnI
バタン!! と蝶番の軋む音を立てて777号室の扉が開く。
「香奈ちゃん! 鍵! 鍵!」
「え!? あ、そだそだ!」
鞄の中からクマのマスコットが付いた鍵を取り出してロックすると、牛乳瓶入れの真下に放り込む。
「香奈ちゃん! 見えてる! 見えてる!」
「うわわわ!?」
反射的に背筋が伸びる。
何が見えてるの? 聞き返すまでもない。
きっと蒼衣ちゃんの目はしっかりと、クマさん柄のパンツが見えちゃったんだろう。
何回も見られてるから別にいいけどね!
「もうちょっと早く起こしてくれればいいのにー!」
エレベーター前までダッシュを掛ける。
「そ、そんな事言われても…! 私、頑張ったんだよ…っ?
あぁっ…エレベーター行ったところだよぅ」
「階段んーーっ!!」
「香奈ちゃん! そんなに跳ねたらまた見えちゃうよ!」
「そんな事気にしてられるかー!!」
***
「信号ー!」
「やーん! どうして目の前で赤になるのー! このままじゃバス間に合わないよう!」
「こうなったら! 一か八か! 赤信号ーっ、二人で渡れば――!」
びゅん! びゅんびゅんびゅん!
「……っ、っっ! ぬぬぬ!」
845 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:29:35 ID:XMzeOMnI
急に増えた車に思わず歯軋り。
「裏道ー!」
「あっ、待ってよー! 香奈ちゃーん!」
***
「バス亭ー!」
「はあ! はあ! はあ! やっとっ…ついたぁっ」
「時間は!?」
「二十分っ」
「確かセーフラインが二十二分のバスだったよね!?」
「うんっ。うん!」
「やったー!」
ばたんきゅう。と椅子にへたり込む。
ぜーはーぜーはー、と二人分の荒い息が小奇麗なバス亭に響く。
遠くからは町の喧騒。思い出したように吹く風が全力疾走直後の身体には気持ちよかった。
それにしても静か。まあ、私と蒼衣ちゃんしかいないんだから静かなのは当たり前で。
「あれ?」
私と蒼衣ちゃんだけ? 他のギリギリ組みの子達は?
「あーーーーー!!!」
「どうしたの蒼衣ちゃん!?」
振り向いた蒼衣ちゃんの顔は真っ青だった。
「今日土曜日だよね?」
「うん。そうだけど――あ!?」
土日、って確か、ダイヤが平日と違ったような!
846 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:30:26 ID:XMzeOMnI
携帯で時計を見る――二十二分を過ぎたところだった。
嫌な予感を感じながらも時刻表を見る。
お茶のお湯学園行き。土日祝日。八時から――三分。十分。十四分。
そして十九分。
パンツを見せながら転んでしまった。
「えー!? うそ!? 行ったところじゃなーい!! ありえないありえないありえなーい!!」
「ど、どうしよう…香奈ちゃん? 次のバス十九分から飛んで四十五分だよ?」
「ありえなーい!!」
「どうしようぅ……わたしずっと皆勤だったのに……」
「うー…っ、どうして今日に限ってプチ不幸がこんなに重なるのよぅ…!
もうこうなったら!」
「こ、こうなったら?」
「変身するしかない!!」
――硬直する蒼衣ちゃん。
「えー!? そんな駄目だよ!?
確かに変身すれば五分もあれば学校に着けるけど……でも目立つよ!?
それに、今、香奈ちゃん変身出来ないんじゃ?」
「どうしてー!? 出来るもん! やるったらやるもん!!」
スカートのポケットに携帯しているDVDプレイヤーっぽい薄型の機械から、
棒状のコントローラーを取り出す。『カナエ・ドライブ』とお姉ちゃんが名付けた
これこそ、私の変身アイテムなのだ。
電源を入れすぐに再生ボタンを押す。
847 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:31:27 ID:XMzeOMnI
『Good morning My dear. Boots up a system of Kanae』
プレイヤーからは低い振動音が鳴り続け、
隣では心配そうな顔をした蒼衣ちゃんが私を見ていた。
『Samon Kanae device』
中空に0と1の羅列が浮かび上がり発光する。
光は細長く棒状に変わって、先っぽが膨らみ、円盤が出来上がる。
やがて、青く淡く光っていた棒状の物体は、ピンク色のステッキへと姿を変えた。
金の縁取りや、先端に白い羽飾りの付いた円盤――これは変身した私が使う武器だ。
後は私が変身するための言葉『変身ワード』を言えばオッケーなんだ。
私は手にしたステッキをくるくると回すと高らかに叫んだ!
「エンジェリック・マジカル・エヴォリュー……!!」
「何やってんだお前?」
「……星群って知ってる!? 一億万年に一度しか流れない、
すごいマイナーな流星群なんだよ!?」
――今私はっ、猛烈に混乱しているぅっ!?
変身ワードに割り込むように現れた第三者の声に、私はパニックった。
「お前さぁ。嘘つくのめっちゃくちゃ下手だよな。
なんだよその。エンジェリックなんたら流星群ってのは? ダサすぎ。
それに一億万年って、そんな単位あるかっつーの。小学生かよ」
「……むー…っ」
段々パニックがイライラへと変わってきた。
848 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:33:03 ID:XMzeOMnI
この、ママチャリに乗って、口が悪くて背が小さくて、
鳥さんみたいなつんつんした髪をして、目つきが悪くて、
デリカシーの欠片もない男子生徒は『香坂 陸』。
ありえない事にクラスメートだったりする。
「こ、香坂君!? い、いつから居たの!?」
蒼衣ちゃんが驚きの声を上げている。
ってそうじゃん! もし今の会話聞かれてたり、
ステッキとか見られたりしてたら私の正体バレちゃう!?
「その派手なステッキをお前のアタマみたいにくるくる回し始めたところ」
「っと言う事は……」
蒼衣ちゃんと顔を見合す。
良かった。特殊効果のバリバリ利いたシーンとかは見られてない。
「それにしてもお前さ。バカだろ? いや、今に始まった事じゃないけどさ」
「……カチン」
「だってそうだろ? 最終バス行ったのにさ、お前らはこんな所で遊んでんだもん」
「あ、遊んでたんじゃないもん!!」
「んじゃ何やってたんだよ?」
「えっ!? えーっ、それはぁ……」
変身しようとしてました! なんて言える分けないし。
でもでもっ。上手い言い訳も思い付かないし。
気が付け綾取りをするように指をモジモジしちゃってるし。
「……あにゃぁ」
「出たよ、あにゃぁ。頭悪い子ワード」
「頭悪い言うなー!!」
「ほんとの事だろ?」
呆れて物も言えない――なーんて顔をした香坂が急に私のステッキに目を付けた。
「……それより、それさ?」
ステッキを指差す。
「な、なによ!?」
849 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:33:57 ID:XMzeOMnI
――ば、ばれたのかなっ?
「それ。どこかで見た事あると思ったんだよ。アレじゃないのか?
今TVとかで話題になってる『現代のヒロイン』。アイツの持ってる杖
とそっくりだ」
「ギクギクゥッ!」
「意味不明のリアクション? まあそれはともかく――」
香坂が言いながら自転車から降りる。それから、多分気のせいだと思うんだけど、
少し目をキラキラさせながら私のステッキを眺めた。
「それすげーよな。本物そっくりじゃねえか」
――あれ?
なんだかテンションの高くなってきた香坂を見ている内に気付く。
――作り物だと思われてる? んー。それはそれで良いんだけど。
なんだか複雑な気分。
「そんなんどこで手に入れたんだ? ――あ、分かった! お前の姉貴が
作ったんだろ!?」
「う、うん。ドンピシャ」
「やっぱりなぁ! お前の姉貴ってそういうの作るのすごい好きそうだもんな!」
「まあ、ね。よく暴走したりするけど」
「でもそれは良く出来てんじゃないの?」
「え、えー? そりゃ、もう、すごいよ? ディスクだって入れられるし。
ちゃんと音声だって出るんだから!」
――あにゃー。
心の中でデレデレと笑う私。だってねだってね? これだけ褒められるとは
思わなかったんだもん。香坂ってもっと嫌な奴だったと思ってたし。
そうだ! 香坂って、変身ヒロインとか好きなのかな!?
だから今、楽しくお喋りも出来てるし!
「マジで!? ちょっと貸して見せてくれよ!」
850 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:34:43 ID:XMzeOMnI
「えー? うんー? どうしよっかなー?」
なんて言いながら心の中ではどうするか決めてるけどねー?
でもね、ちょっと意地悪したくなるというか。
もうちょっとこの優越感に浸って居たいというか。
「頼むよー。ちょっとだけで良いからさ? な? ――この通り!」
手を合わされて頭を下げられる。
あにゃぁあ、あにゃあぁぁ♪ うふふのふ♪
「しょうがないなあ♪ ちょっとだけだからね♪ は――い?」
ステッキを手渡そうとした瞬間。香坂の姿が消えた。
そして次の瞬間。一陣の風と共に、
私のスカートが腰の上まで捲くれ上がった。
「――え?」
目の前には、してやったり、っていう顔の香坂が、アッパーを決めたような体勢で
私を――正確には私の下半身を見ていた。
スカートめくられた。
「なんだよ、今日もクマか? だ…………っせーーーーーー!!!」
言いながら香坂はそそくさと自転車に跨る。
「~~~~~~~~っ!!!!!」
「ひどいよ香坂君っ。ステッキ見たいって言ったから、
香奈ちゃんが見せてあげようとしてたのに」
「プッ。ばーーかっ。男がそんなチャラチャラしたもん好きなわけ無いだろ!?
だ…………っせーーーーの!!」
851 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:35:45 ID:XMzeOMnI
パリーン。
その言葉を聞いた瞬間。
頭の中で何かが弾けた気がした。
「がーん!?」
「じゃ、そーいうわけで、俺は先に行くな?
お前らはここで仲良く変身ヒロインごっこでもやってろよ!?」
ショックを受けてる蒼衣ちゃんをまるで気にする風でもなく、
すいー、と自転車を扱ぎ出す香坂。
香坂の乗った自転車はすぐ先の交差点を右に曲がり、建物の陰に消える。
その直前、私は手に持ったステッキを、思いっきり投げた。
ぶんっ! ……ぎしっ!
「うぇお!?」
がしゃーん!!
派手な音を立てながら自転車が倒れて、香坂の体が前へとぶっ飛ぶ。
横で蒼衣ちゃんが顔を青ざめながら呟いた。
「……香奈ちゃん。すごい。タイヤのフレームに、
ステッキを投げ込んで自転車止めちゃうなんて……
あっ!? でも、ステッキ壊れないかな!?」
「大丈夫だよ。頑丈だもん」
答えながらどすどすと、足音を立てて香坂の元へ向かう。
交差点の角を曲がると、横転しているママチャリと私の投げたステッキ、
その二メートルほど先で香坂が後頭部を抑えながら悶絶してた。
「いってぇっ、くそっ、一体何が起きて……あ、てめえっ! 何しやが! ……」
852 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:36:41 ID:XMzeOMnI
私に気付いた香坂は抗議の声を上げるけど、私の顔を見てすぐに言葉を失う。
「何しやがるはこっちのセリフよっ。人を騙した挙句に、
スカートめくるなんて最っ低ーーっ!!」
ズパーーン!!
「ぶうぇらっ!!?」
怒りのハリセンをその顔面に叩き込んでやる。
――あ、テンプルに入った。
ついでに過剰なくらい首が曲がってる気がする。
「ま、別にいいよね。乙女の心を踏みにじった罰だから」
気持ち良さそうに気絶した香坂は放っておいて倒れた自転車を起こすと、
遠慮なく跨る。
「蒼衣ちゃん。足をゲットしたよ」
「それ、香坂君の……」
「借りるの」
「借りるって……」
蒼衣ちゃんが白目を向いた香坂に目を向ける。
「さっき借りたの!」
「そ、そう…まあ、いいかな? 香坂君、自業自得だもんね――よいしょ」
座席の後ろの、買い物籠を乗せるスペースに、
横向きに座った蒼衣ちゃんが私の腰に手を回した。
「香奈ちゃん、いいよ」
「らじゃー!!」
私は勢い良くママチャリを漕ぎ出す。
後には、気絶した香坂だけが取り残された。
853 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:42:30 ID:XMzeOMnI
以上で第二話終了です。
これで主要キャラの紹介は大体終わりましたね。
ぱっと見、平和そのものの光景ですが、水面下ではネルガルの魔の手が。
というわけで次回からはいよいよ陵辱開始です。
でもやられるのは脇キャラなのであんまり期待しないで下さい(汗
では、FBX氏の作品が出来上がるまで場繋ぎを。
お待たせしました。ハイブリッドエンジェルカナエの続きです。
第二話
「香奈と愉快なクラスメイト」
「香奈。お姉ちゃんは先に行くぞ」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
時計を見ればもう少しで七時半を回ったところ。
お姉ちゃんは車で通勤しているので学園までには十分もかからない。
「お弁当持った? ハンカチ持った? ティッシュ持った? 忘れ物無い?」
「忘れ物――」
お姉ちゃんは玄関で靴を履いた姿勢で固まる事数秒、
「――そうだ」
唐突に立ち上がり私に顔を寄せた。
「行ってらっしゃいのキスをもらってないな」
真顔で言われた。
「……」
すぱんっ。
キスの代わりに軽くハリセンをあげた。
「はははっ。よし気合入ったぞー。今日も元気に行ってみるかぁ!」
なぜかテンションが上がるお姉ちゃん。ほんと、どういう精神構造をしてるんだろ?
扉を開け、意気揚々と出て行くお姉ちゃん。と、その身体が途中で停止する。
839 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:23:58 ID:XMzeOMnI
「……」
ねだる様な視線を向けてきた。
「……行ってらっしゃい。お姉ちゃん」
「ああ行ってきます。香奈も遅刻するなよ」
「はーい」
「それと、三嶋君が来たら伝えてくれ。『今回の写真』もいい出来だったと」
「分かった」
「じゃあな香奈」
「うん」
がちゃり、と音を立てて扉が閉まった。
「私はどうしよっかなー?」
今から学校行くのはちょっと早いし。んーーーーー。
「寝直しちゃえ!」
ぱぱっ、と制服を脱ぐ。いちいち着替えなおすのも面倒くさいから、
わたしはシャツにパンツ(クマさん柄は基本! 子供っぽいって言われてもいいの!
可愛いから!)なんて、お姉ちゃんに見つかったら間違いなくネタにされる、というか。
確実に襲われそうな格好で自分のベッドにダーイブ!
私はデンコウセッカ? のスピードで布団に包まる。
「あー! 髪くしゃくしゃになるー!」
お姉ちゃんから子ども扱いされるの嫌で近頃ずっと伸ばしてきた髪。
ちょっと前までは、「この横に生えてるの寝癖?」なんて言われていた房も、
今では立派なサイドテールなのだ!
(――まあいっか。起きてから五分で直そっと)
昨日はネルガル退治であんまり眠れなかったからちょっと眠いの。
「あにゃぁああぁ、おやすみいぃぃ」
840 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:25:04 ID:XMzeOMnI
私は気の抜け切った声を出すと、あっという間に眠りに落ちた。
***
夢をまた見た気がする。
夕暮れの教室で。大好きな『雨宮睦月』と二人っきりで。
なんかとてーも良い雰囲気で。
変な方言も言わなくて。
「好きだ」
「わ、私も、雨宮君の事が……好き」
言った! とうとう言った! きゃー! どうしよう!? とうとう言っちゃったよ!?
あにゃあぁ。
あんまりにも嬉しくて頬が緩んじゃう。
「そっか。それなら」
雨宮君がぱちんっ、って指を鳴らす。と、急に視界が青白い光で埋め尽くされる。
教室の中央には0と1の羅列が光を放ちながら、形を成していく。
それはまるで変身した私が『力』を使ったような光景。
徐々に光量を増す物体に私は目を閉じ、
――光が収まった頃を見計らって目を開ける。
すると、なんとそこには!
「べ、ベッド!!?」
し、しかもダブルベッド!!
「さあ、香奈ちゃん。おいで」
いつのまにか上半身裸になった雨宮君が、
教室のど真ん中に設置されたベッドの上で私を手招きしてる。
こ、この状況、私はどうすれば!?
841 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:25:44 ID:XMzeOMnI
(んーーと! んーーと!)
ぽくぽくぽく、ちーん。
そうだ。お姉ちゃんがいつか言っていた。こういう状況の事を
『スエゼン食わぬはオンナの恥』って言ってた!
気がする。
「…………………雨宮くーーん♪」
気が付いたら私は雨宮君と抱き合っていた。下着姿で。
うわあっ、えっちい! どきどきするよう!
真っ赤になった顔を見せるのが恥ずかしくて私は雨宮君の胸に顔を埋めた。
(――あ。凄い柔らかい。それに暖かい)
男の子の身体ってもうちょっとごつごつしたイメージがあるんだけど、全然そんな事は無い。
それどころか包み込むような暖かさすら感じる。
(あにゃぁ。幸せー)
日向ぼっこをする猫みたいに私は頬を緩め、目を細める。
ふと、雨宮君はどんな顔をしているのかと思って、上目遣いで見上げた。
何故かクマの顔が有った。
「え?」
思考が真っ白に塗りつぶされる。
「香奈ちゃん! 香奈ちゃん!」
「きゃわ!?」
842 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:26:30 ID:XMzeOMnI
そしてあろう事か、いつの間にか雨宮君と摩り替わっていた等身大のクマの縫いぐるみは、
可愛らしい女の子の声で大声を上げ始めた。
「遅刻しちゃう! 遅刻しちゃう! 早く起きないと遅刻しちゃう!」
「え!? 遅刻って!? だってここ学校!?」
「起きて! 起きて! 起きて起きておきておきてオキテオキテ掟掟!!!!」
「あにゃーーーーーー!?」
***
「香奈ちゃん!!」
「……雨宮くーん♪ もう離さなーい」
「え? きゃっ!? ちょっ!! 香奈ちゃん!? やーん!」
ずぱーん!!
「うきょわ!?」
聞き慣れた快音と共に、こめかみ辺りに衝撃が走った。
「え? え? 何? え? ここどこ?」
頭が取れちゃうかと思うほどの衝撃で私は目を覚ました。
「早くどいて~っ」
すぐ下から、聞き慣れた女の子の声。それは幼稚園の頃からすっと聞いてきた声だ。
下を向けば、『そこでもいっしょ』の『テロちゃん』のように目を(><)こんな感じにした
おかっぱの女の子がいた。
「え? 蒼衣ちゃん? どうして蒼衣ちゃんがここに居るの!? 雨宮君は!? クマは!?」
すぱーんっ。
「うきょん!?」
無言ではたかれる私、今回は手加減してくれたのか全然痛くなかった。
843 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:28:11 ID:XMzeOMnI
まあ、でもようやく状況が飲み込めた。
「また夢オチ!?」
「うん多分そうだと思う。思うから。その、早く、退いて、くれない…?」
眼鏡越しに、蒼衣ちゃんの目が恥じらうように揺れるのが見えた。
丸っこい私の顔とは違う、綺麗な顔だって真っ赤に染まっていく。
(何だろ? この反応は?)
恥ずかしがるようなシチュエーション?
えっとだって――幼馴染の女の子『三嶋蒼衣』ちゃんに、
何故かマウントポジションを取っている私がいるだけだし。
プロレスごっこなんて男子でもやってるし。
ふと、そこである事に気づく。
あ、いっけなーい。わたし服着てないや。
私は一足で蒼衣ちゃんから飛び退いた。
「ちちちちちちち違うよ!? 私、普通だよ!? 全然ノーマルだよ!?
確かにあのお姉ちゃんの血は引いてるけど、私は女の子より男の子の方が良いからね!?」
「……香奈ちゃん。分かってるから服着ようよ」
「え!? あ、うん! そうだね! アハハハハハhahaha!」
乾いた笑い声を上げながらマッハで制服を着る私。
「準備完了ー!」
「うん。それじゃ行こ?」
「らじゃー! って今何時?」
「八時十二分。――あっ、十三分に変わっちゃった…!」
遅刻コースまっしぐら?
844 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:28:44 ID:XMzeOMnI
バタン!! と蝶番の軋む音を立てて777号室の扉が開く。
「香奈ちゃん! 鍵! 鍵!」
「え!? あ、そだそだ!」
鞄の中からクマのマスコットが付いた鍵を取り出してロックすると、牛乳瓶入れの真下に放り込む。
「香奈ちゃん! 見えてる! 見えてる!」
「うわわわ!?」
反射的に背筋が伸びる。
何が見えてるの? 聞き返すまでもない。
きっと蒼衣ちゃんの目はしっかりと、クマさん柄のパンツが見えちゃったんだろう。
何回も見られてるから別にいいけどね!
「もうちょっと早く起こしてくれればいいのにー!」
エレベーター前までダッシュを掛ける。
「そ、そんな事言われても…! 私、頑張ったんだよ…っ?
あぁっ…エレベーター行ったところだよぅ」
「階段んーーっ!!」
「香奈ちゃん! そんなに跳ねたらまた見えちゃうよ!」
「そんな事気にしてられるかー!!」
***
「信号ー!」
「やーん! どうして目の前で赤になるのー! このままじゃバス間に合わないよう!」
「こうなったら! 一か八か! 赤信号ーっ、二人で渡れば――!」
びゅん! びゅんびゅんびゅん!
「……っ、っっ! ぬぬぬ!」
845 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:29:35 ID:XMzeOMnI
急に増えた車に思わず歯軋り。
「裏道ー!」
「あっ、待ってよー! 香奈ちゃーん!」
***
「バス亭ー!」
「はあ! はあ! はあ! やっとっ…ついたぁっ」
「時間は!?」
「二十分っ」
「確かセーフラインが二十二分のバスだったよね!?」
「うんっ。うん!」
「やったー!」
ばたんきゅう。と椅子にへたり込む。
ぜーはーぜーはー、と二人分の荒い息が小奇麗なバス亭に響く。
遠くからは町の喧騒。思い出したように吹く風が全力疾走直後の身体には気持ちよかった。
それにしても静か。まあ、私と蒼衣ちゃんしかいないんだから静かなのは当たり前で。
「あれ?」
私と蒼衣ちゃんだけ? 他のギリギリ組みの子達は?
「あーーーーー!!!」
「どうしたの蒼衣ちゃん!?」
振り向いた蒼衣ちゃんの顔は真っ青だった。
「今日土曜日だよね?」
「うん。そうだけど――あ!?」
土日、って確か、ダイヤが平日と違ったような!
846 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:30:26 ID:XMzeOMnI
携帯で時計を見る――二十二分を過ぎたところだった。
嫌な予感を感じながらも時刻表を見る。
お茶のお湯学園行き。土日祝日。八時から――三分。十分。十四分。
そして十九分。
パンツを見せながら転んでしまった。
「えー!? うそ!? 行ったところじゃなーい!! ありえないありえないありえなーい!!」
「ど、どうしよう…香奈ちゃん? 次のバス十九分から飛んで四十五分だよ?」
「ありえなーい!!」
「どうしようぅ……わたしずっと皆勤だったのに……」
「うー…っ、どうして今日に限ってプチ不幸がこんなに重なるのよぅ…!
もうこうなったら!」
「こ、こうなったら?」
「変身するしかない!!」
――硬直する蒼衣ちゃん。
「えー!? そんな駄目だよ!?
確かに変身すれば五分もあれば学校に着けるけど……でも目立つよ!?
それに、今、香奈ちゃん変身出来ないんじゃ?」
「どうしてー!? 出来るもん! やるったらやるもん!!」
スカートのポケットに携帯しているDVDプレイヤーっぽい薄型の機械から、
棒状のコントローラーを取り出す。『カナエ・ドライブ』とお姉ちゃんが名付けた
これこそ、私の変身アイテムなのだ。
電源を入れすぐに再生ボタンを押す。
847 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:31:27 ID:XMzeOMnI
『Good morning My dear. Boots up a system of Kanae』
プレイヤーからは低い振動音が鳴り続け、
隣では心配そうな顔をした蒼衣ちゃんが私を見ていた。
『Samon Kanae device』
中空に0と1の羅列が浮かび上がり発光する。
光は細長く棒状に変わって、先っぽが膨らみ、円盤が出来上がる。
やがて、青く淡く光っていた棒状の物体は、ピンク色のステッキへと姿を変えた。
金の縁取りや、先端に白い羽飾りの付いた円盤――これは変身した私が使う武器だ。
後は私が変身するための言葉『変身ワード』を言えばオッケーなんだ。
私は手にしたステッキをくるくると回すと高らかに叫んだ!
「エンジェリック・マジカル・エヴォリュー……!!」
「何やってんだお前?」
「……星群って知ってる!? 一億万年に一度しか流れない、
すごいマイナーな流星群なんだよ!?」
――今私はっ、猛烈に混乱しているぅっ!?
変身ワードに割り込むように現れた第三者の声に、私はパニックった。
「お前さぁ。嘘つくのめっちゃくちゃ下手だよな。
なんだよその。エンジェリックなんたら流星群ってのは? ダサすぎ。
それに一億万年って、そんな単位あるかっつーの。小学生かよ」
「……むー…っ」
段々パニックがイライラへと変わってきた。
848 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:33:03 ID:XMzeOMnI
この、ママチャリに乗って、口が悪くて背が小さくて、
鳥さんみたいなつんつんした髪をして、目つきが悪くて、
デリカシーの欠片もない男子生徒は『香坂 陸』。
ありえない事にクラスメートだったりする。
「こ、香坂君!? い、いつから居たの!?」
蒼衣ちゃんが驚きの声を上げている。
ってそうじゃん! もし今の会話聞かれてたり、
ステッキとか見られたりしてたら私の正体バレちゃう!?
「その派手なステッキをお前のアタマみたいにくるくる回し始めたところ」
「っと言う事は……」
蒼衣ちゃんと顔を見合す。
良かった。特殊効果のバリバリ利いたシーンとかは見られてない。
「それにしてもお前さ。バカだろ? いや、今に始まった事じゃないけどさ」
「……カチン」
「だってそうだろ? 最終バス行ったのにさ、お前らはこんな所で遊んでんだもん」
「あ、遊んでたんじゃないもん!!」
「んじゃ何やってたんだよ?」
「えっ!? えーっ、それはぁ……」
変身しようとしてました! なんて言える分けないし。
でもでもっ。上手い言い訳も思い付かないし。
気が付け綾取りをするように指をモジモジしちゃってるし。
「……あにゃぁ」
「出たよ、あにゃぁ。頭悪い子ワード」
「頭悪い言うなー!!」
「ほんとの事だろ?」
呆れて物も言えない――なーんて顔をした香坂が急に私のステッキに目を付けた。
「……それより、それさ?」
ステッキを指差す。
「な、なによ!?」
849 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:33:57 ID:XMzeOMnI
――ば、ばれたのかなっ?
「それ。どこかで見た事あると思ったんだよ。アレじゃないのか?
今TVとかで話題になってる『現代のヒロイン』。アイツの持ってる杖
とそっくりだ」
「ギクギクゥッ!」
「意味不明のリアクション? まあそれはともかく――」
香坂が言いながら自転車から降りる。それから、多分気のせいだと思うんだけど、
少し目をキラキラさせながら私のステッキを眺めた。
「それすげーよな。本物そっくりじゃねえか」
――あれ?
なんだかテンションの高くなってきた香坂を見ている内に気付く。
――作り物だと思われてる? んー。それはそれで良いんだけど。
なんだか複雑な気分。
「そんなんどこで手に入れたんだ? ――あ、分かった! お前の姉貴が
作ったんだろ!?」
「う、うん。ドンピシャ」
「やっぱりなぁ! お前の姉貴ってそういうの作るのすごい好きそうだもんな!」
「まあ、ね。よく暴走したりするけど」
「でもそれは良く出来てんじゃないの?」
「え、えー? そりゃ、もう、すごいよ? ディスクだって入れられるし。
ちゃんと音声だって出るんだから!」
――あにゃー。
心の中でデレデレと笑う私。だってねだってね? これだけ褒められるとは
思わなかったんだもん。香坂ってもっと嫌な奴だったと思ってたし。
そうだ! 香坂って、変身ヒロインとか好きなのかな!?
だから今、楽しくお喋りも出来てるし!
「マジで!? ちょっと貸して見せてくれよ!」
850 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:34:43 ID:XMzeOMnI
「えー? うんー? どうしよっかなー?」
なんて言いながら心の中ではどうするか決めてるけどねー?
でもね、ちょっと意地悪したくなるというか。
もうちょっとこの優越感に浸って居たいというか。
「頼むよー。ちょっとだけで良いからさ? な? ――この通り!」
手を合わされて頭を下げられる。
あにゃぁあ、あにゃあぁぁ♪ うふふのふ♪
「しょうがないなあ♪ ちょっとだけだからね♪ は――い?」
ステッキを手渡そうとした瞬間。香坂の姿が消えた。
そして次の瞬間。一陣の風と共に、
私のスカートが腰の上まで捲くれ上がった。
「――え?」
目の前には、してやったり、っていう顔の香坂が、アッパーを決めたような体勢で
私を――正確には私の下半身を見ていた。
スカートめくられた。
「なんだよ、今日もクマか? だ…………っせーーーーーー!!!」
言いながら香坂はそそくさと自転車に跨る。
「~~~~~~~~っ!!!!!」
「ひどいよ香坂君っ。ステッキ見たいって言ったから、
香奈ちゃんが見せてあげようとしてたのに」
「プッ。ばーーかっ。男がそんなチャラチャラしたもん好きなわけ無いだろ!?
だ…………っせーーーーの!!」
851 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:35:45 ID:XMzeOMnI
パリーン。
その言葉を聞いた瞬間。
頭の中で何かが弾けた気がした。
「がーん!?」
「じゃ、そーいうわけで、俺は先に行くな?
お前らはここで仲良く変身ヒロインごっこでもやってろよ!?」
ショックを受けてる蒼衣ちゃんをまるで気にする風でもなく、
すいー、と自転車を扱ぎ出す香坂。
香坂の乗った自転車はすぐ先の交差点を右に曲がり、建物の陰に消える。
その直前、私は手に持ったステッキを、思いっきり投げた。
ぶんっ! ……ぎしっ!
「うぇお!?」
がしゃーん!!
派手な音を立てながら自転車が倒れて、香坂の体が前へとぶっ飛ぶ。
横で蒼衣ちゃんが顔を青ざめながら呟いた。
「……香奈ちゃん。すごい。タイヤのフレームに、
ステッキを投げ込んで自転車止めちゃうなんて……
あっ!? でも、ステッキ壊れないかな!?」
「大丈夫だよ。頑丈だもん」
答えながらどすどすと、足音を立てて香坂の元へ向かう。
交差点の角を曲がると、横転しているママチャリと私の投げたステッキ、
その二メートルほど先で香坂が後頭部を抑えながら悶絶してた。
「いってぇっ、くそっ、一体何が起きて……あ、てめえっ! 何しやが! ……」
852 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:36:41 ID:XMzeOMnI
私に気付いた香坂は抗議の声を上げるけど、私の顔を見てすぐに言葉を失う。
「何しやがるはこっちのセリフよっ。人を騙した挙句に、
スカートめくるなんて最っ低ーーっ!!」
ズパーーン!!
「ぶうぇらっ!!?」
怒りのハリセンをその顔面に叩き込んでやる。
――あ、テンプルに入った。
ついでに過剰なくらい首が曲がってる気がする。
「ま、別にいいよね。乙女の心を踏みにじった罰だから」
気持ち良さそうに気絶した香坂は放っておいて倒れた自転車を起こすと、
遠慮なく跨る。
「蒼衣ちゃん。足をゲットしたよ」
「それ、香坂君の……」
「借りるの」
「借りるって……」
蒼衣ちゃんが白目を向いた香坂に目を向ける。
「さっき借りたの!」
「そ、そう…まあ、いいかな? 香坂君、自業自得だもんね――よいしょ」
座席の後ろの、買い物籠を乗せるスペースに、
横向きに座った蒼衣ちゃんが私の腰に手を回した。
「香奈ちゃん、いいよ」
「らじゃー!!」
私は勢い良くママチャリを漕ぎ出す。
後には、気絶した香坂だけが取り残された。
853 名前:乙×風 ◆WApneMW3ro :2005/09/14(水) 19:42:30 ID:XMzeOMnI
以上で第二話終了です。
これで主要キャラの紹介は大体終わりましたね。
ぱっと見、平和そのものの光景ですが、水面下ではネルガルの魔の手が。
というわけで次回からはいよいよ陵辱開始です。
でもやられるのは脇キャラなのであんまり期待しないで下さい(汗
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