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スクール・パンデミック
266 スクール・パンデミック sage 2012/07/24(火) 23:19:38.02 ID:uC1Di9O3
261です。お待たせしました。
執筆しながら投稿しますので、遅筆はご容赦ください。
あと何分初めてですので、その辺りは暖かく見守ってください。
ではどうぞ。
創立100年の私立学校なんてのはあまり珍しくはないだろう。
ただまぁ、そこに今は使われていない旧校舎がそのままあるとなると話は別かもしれない。
なんて如何にもフィクションにありそうな設定だが、実は東京郊外にもあったりする。
「まさか母校をこんな形で再訪することになるとはな…」
びしっという擬音が聞こえてきそうなスーツを着た男が、木造の古そうな校舎を見上げる。
左手にはジェラルミンのケースを持ち、右手には携帯電話を持つ。
今流行りのスマートフォンではなく、所謂ガラケーという奴だ。
時計を見ると午後10時45分。約束の時間まであと15分ほどだ。
「では行くかな」
男は注意深く辺りを探りながら、旧校舎の中に消えていった。
「約束のものは?」
「これだ」
男の目の前には、自分が持つアタッシュケースと似たようなケースが広げられていた。
ただし、相手の中身は万札。万と言う単位ではないことは間違いないだろう。
「確かに」
男は満足そうにうなづいて取引相手を見る。
「では成立ということでいいな?」
「あぁ」
と、ケースを机に置こうとしたところで、ピリリと間抜けな音がした。
「すまん、出てよろしいかな?」
男が尋ねると、相手は不満そうに舌打ちする。
「さっさと済ませろ」
「感謝する」
そう言って男は胸ポケットに手を突っ込む。
「すぐに済むさ」
しかし男の手に握られていたのでは、黒く光る拳銃だった…
267 スクール・パンデミック sage 2012/07/24(火) 23:20:54.14 ID:uC1Di9O3
「くそっ!どうしてこうなった?」
暗闇の階段を駆け下りながら、男は唸る。
取引相手を殺してお金をだまし取ったまではよかった。
しかし何故か、当局にかぎつけられていたようで、追われる立場に。
「くそ!くそ!」
ケースは2つとも隠した。学生時代に偶然見つけた空き部屋にだ。あれは誰にも絶対見つけられない。
誰にも知られていないはずの部屋だ。その証拠に誰も使った形跡が20年経ってもなかった。
この先も絶対に見つからないという保証はないが、とりあえずは大丈夫だろう。
あとはこの場を逃げ切ってほどぼりが冷めてから回収しにくればいい。
とすれば、とりあえずこの場から逃げ切るのが先決だが…
「そこまでだ」
「ぐっ…。公安九課か…」
スーツを着たいかつい男が拳銃を手に待ち構えていた。まるでここに来るのを予測していたかのように。
「悪いが、私もここの出身でね。内部構造はよく知ってるつもりさ」
「なら、そのよしみで…」
「見逃すなどどいう変な気が起きないか、自分が心配だったが、それは杞憂だったようだな」
感情を全く表わさずに拳銃を構えた男が言う。
「それどころか、同じ学校の出身者にこんな奴がいるなんてと、腹立たしくなったな」
「ふん、私の見たところ先輩なんだがな…」
この場に及んでこんなことが言えるのかと男は少し自嘲した。
人間開き直ってしまえばこんなものかなんて、極めて客観的に考えてしまう。
「さて、無駄話をしてしまったが、これでおしまいだ。じきに私の仲間がくる」
スーツの男が言うのとほぼ同時に背後から足音がする。
「同じ学校のよしみだ。私の手で逝け」
「とんだよしみだな…」
「言ってろ」
直後に乾いた銃声が一発。旧校舎に響き渡った。
268 スクール・パンデミック sage 2012/07/24(火) 23:22:06.89 ID:uC1Di9O3
「奴はブツを持っていなかった」
<受け渡しは終わってるのではないか?>
「もしくはまだ渡さずに、どこかに隠し持っているか、だ」
<わかった。両方の線であたろう>
「俺は一度戻る。情報の集め直しだ」
<うむ。とりあえず御苦労>
「あぁ」
電話を切ると、スーツの男は足元に転がる死体を見下ろす。
「何もなければいいがな…」
誰にでもなく、意識したわけでもなく、そんな言葉が口から漏れた。
269 スクール・パンデミック sage 2012/07/24(火) 23:37:30.79 ID:uC1Di9O3
河原文香はこの学校の2年生である。
学業は並。運動は割と得意。部活からのオファーも時々。
さばさばした性格と、容姿端麗とも言える外見からモテないなんてこともない。
しかしそんな彼女が文学部に所属しているのにはちょっと理由がある。
古典文学好き。
いや、最早フェチと言ってもよいだろう。
文学部にいれば、いくら古典文学を読んでも文句は言われない。
実際中学の古典の授業ではまって以来、読みふけっている姿を見られてはからかわれたものだ。
―似合わない―
まぁ確かに自分は深窓のお嬢様のような容姿でもないし、
木漏れ日のさす窓の側に座って本を読む姿はあまり想像できない。
セミロングの髪は、遺伝のせいか地毛も茶色っぽく、目はちょっと吊り気味の大きめ。
手足は太くはなく、どちらかと言えばすらっとしているが、ちょっとばかり筋肉がついてる。
身長は165センチでちょっと痩せ型、バストはもうちょっとあればいいなと思っていたが、友達曰く、
「文香のは形と大きさといい、お手頃だよね!」
それでいて相手はEカップなのだから、バカにされているようにしか思えない。
中学までは私のが大きかったはずなんだがと、毎度首をひねってしまう。
270 スクール・パンデミック sage 2012/07/25(水) 00:04:19.84 ID:uC1Di9O3
そんな文香のお気に入りは旧校舎の屋上だ。
昼休みはちょっと時間が足りないにしても、放課後は時間があれば、結構こちらで過ごすことも多い。
誰もこず、静かでこの時期に快適に過ごせる屋上はまさに文香が読書する為に用意された場所、
と勝手に思うようにしてる。
戦前に建てられた木造建築の校舎で屋上があるのも不思議と言えば不思議だが、
文香の学校には、時計付きの洒落た鐘楼があった。それを見ると屋上があるのも何となくは納得できる。
「さぁてと!今日は平家物語の続きでも読みますかぁ!」
ご存知平家物語。
日本を代表する古典文学の一つだが、それを女子高生、しかも口語訳されたものではなく、
わざわざ原文で書かれた本を探し出して読んでいるのだから、滑稽と言えば滑稽なのかもしれない。
お気に入りの日が差す場所に腰かけると文香は早速分厚い本のページをめくりだす。
ぺラリ。
梅雨前のこの時期はセミのうるさい声もせず、鳥のさえずり程度と
グラウンドから時折聞こえる運動部の掛け声しか雑音になりえるものがない。
その為、最近は日没直前まで集中して読んでしまうこともしょっちゅうだった。
しかし今日は違った。
ページを3つほどめくったところで、視線がふと文字より上、
ちょうど鐘楼から3メートルくらい離れた場所に行った。
特に何もない。
いつも見ている風景だ。
気にせず文字に目を戻す。
ぺラリ
1ページめくったところでまたそこに目が行く。
また文字に目を戻す。
ぺラリ
チラリ
ぺラリ
チラリ
チラリ
ぺラリ
…
271 スクール・パンデミック sage 2012/07/25(水) 00:46:26.58 ID:GQ21fnLz
「あー、もう!集中できないじゃんか!!」
別に何が悪いというわけではない。強いて言うのなら文香が悪いのだが、それを否定するかの如く大きな声を出す。
「なーんか、今日変よ?」
腰かけてた場所からすっと立ち上がり、ちょっと短めのスカートの後ろの部分を両手ではたくと、
件の場所へスタスタと歩み寄ると、しゃがみこんでその辺りをじーっと観察してみる。
特に何もない。いつもと変わらない屋上の床がある。
しかし雰囲気が少しばかり違う。そう、普段からここを使っている文香でなければわからないような。
「普段から観察することを心がけていれば、ちょっとした変化にも気付くものさ…」
まるで、昔のイギリスの名探偵がいいそうなセリフを呟きながら、その辺りを撫でてみたり、コツコツと叩いてみる。
隣に髭の中肉中背の紳士がいれば、絵になるやもしれなかったが、これではただの不審者、いや残念な美少女である。
「…うっさい」
自分の脳内妄想にツッコミをいれながら、コツコツと叩き続ける。
と、
カンカン
明らかに先ほどとは違うがらんどうな音がした。
「見つけたよ!ワトソン君!」
思わずガッツポーズをしてから、慌てて辺りを見回してほっと溜息。
「こういう音がする時は下に何か空間があるって、ホームズ先生も言ってた!」
どうやら、彼女はドイルも愛読しているらしい。はて?ドイルは古典だったかな…
文香は嬉々として、その辺りを念入りにまさぐってみる。と、
ビンゴ。
直径わずか4センチくらいのくぼみがあった。上手い具合に指もひっかけられそうだ。
「よいしょ…っと!!」
腰を入れ、両手で思い切り引っ張りあげる。
が、湿気をすった古い木独特の感触で中々動かない。
「まさかスライド式?」
なんて考えてるうちに抵抗がすっと軽くなる。
まずいと思った時には後の祭り。思い切り尻もちをついてしまった。
「あいたたた…」
お尻をさすりながら、ぽっかりと空いた空間を見てみる。
縦横がそれぞれ50センチくらいの大きさで、覗いてみるとちょうどいい具合の場所に階段があった。
続
277 スクール・パンデミック sage 2012/07/25(水) 23:21:53.79 ID:GQ21fnLz
「何というご都合主義!何というテンプレ展開!」
如何にも隠し部屋ですと言わんばかりの階段。
そして狭いながらも下に降りて行けるスペースを見て文香は一人ごちる。
「でもこういうのってワクワクするよねー」
埃がちょっと多いのが気になったが、好奇心の方が優に勝ったのは言わずもがな。
頭をぶつけないように慎重に降りていくと、12畳くらいのスペースがあった。
案の定、埃くさい。
「こんな部屋あったんだー。知らなかったな…」
左手で鼻口を押さえながら、右手を顔の前でパタパタさせる。
所謂、うわーっ、埃くっさーというモーションだ。
それにしても、旧校舎内は隈なく散策したはずだが、こんな部屋があったとは意外だった。
「上以外に出口ないのかな?」
辺りをきょろきょろしてみると、割としっかりしてそうな扉があった。
近寄ってみると、どうやらこちらか押すタイプのようだ。
「よっと!…あれれ??」
ノブに手をかけて押したが、ピクリともしない。
さては自分の勘違いかと引いてもみたが、こちらもダメ。
「あーあ、扉の向こうに何か置いてあるのかなぁ」
推測すると場所的には隣は理科室か何かだったような気がする。
ならば物があっても仕方ないと、自分を納得させると、文香は改めてこの隠し部屋を眺めてみる。
入ってきた時は気づかなかったが、棚がたくさん置いてあり、物置として使われていた雰囲気を醸し出している。
最も今は埃だらけであったが。
そして部屋を見回していてあるものに気がつく。
278 スクール・パンデミック sage 2012/07/25(水) 23:22:31.01 ID:GQ21fnLz
「本?」
古そうな装丁の本が何冊も平積みにされてるのが見えた。ちょっと背を伸ばせば届きそうなところにある。
手にとってみて、文香は愕然とした。
「え?枕草子?」
慌ててページを開いてみて、更に驚愕する。
今時の本ではなく、江戸時代以前に作られたような、紐でしばって製本されたものだ。
当然中の文字も印刷ではなく、手書きの筆のようだ。しかも驚くほど状態がよい。
「これは読めるかも…?」
興奮した文香は枕草子があった近辺を探す。
「うわ、隣は土佐日記?新古今和歌集?」
有名どころと言われる作品がいくつもあった。しかも全部枕草子と同じような状態。
「これすごいよ!」
中には当然読んだこともあるものも見つかったが、それでも文香の興奮は醒めない。
再度見渡してみると、結構な量があるようだ。
学校の図書館にある古典文学はあらかた読み尽くしかけていた文香にとって、
これは僥倖と言えた。
「毎日通うしかない!」
しかし、生憎本を読める環境ではなさそうだ。
「借りてもいいよね?この埃の積もり具合だとかなりの年月読まれた形跡がないし」
本も埃積もるよりは、読まれた方が本望、なんちって、てへぺろと付け足す。
「でも何でこんなにたくさんあるんだろう?昔のお偉いさんにマニアがいたとかかな?」
首をかしげて考えるが、すぐやめる。
「まぁ、それはいいか。とりあえずその人には感謝しないとね!」
そして文香は棚に向き直り、パンっと顔の前で手を合わせる。
「では借りていきまーすっ」
鼻歌を歌いながら、スキップしそうな足取りで、数冊の本を抱えて文香は外に出た。
床に自分以外の足跡があったことに気付かずに…
261です。お待たせしました。
執筆しながら投稿しますので、遅筆はご容赦ください。
あと何分初めてですので、その辺りは暖かく見守ってください。
ではどうぞ。
創立100年の私立学校なんてのはあまり珍しくはないだろう。
ただまぁ、そこに今は使われていない旧校舎がそのままあるとなると話は別かもしれない。
なんて如何にもフィクションにありそうな設定だが、実は東京郊外にもあったりする。
「まさか母校をこんな形で再訪することになるとはな…」
びしっという擬音が聞こえてきそうなスーツを着た男が、木造の古そうな校舎を見上げる。
左手にはジェラルミンのケースを持ち、右手には携帯電話を持つ。
今流行りのスマートフォンではなく、所謂ガラケーという奴だ。
時計を見ると午後10時45分。約束の時間まであと15分ほどだ。
「では行くかな」
男は注意深く辺りを探りながら、旧校舎の中に消えていった。
「約束のものは?」
「これだ」
男の目の前には、自分が持つアタッシュケースと似たようなケースが広げられていた。
ただし、相手の中身は万札。万と言う単位ではないことは間違いないだろう。
「確かに」
男は満足そうにうなづいて取引相手を見る。
「では成立ということでいいな?」
「あぁ」
と、ケースを机に置こうとしたところで、ピリリと間抜けな音がした。
「すまん、出てよろしいかな?」
男が尋ねると、相手は不満そうに舌打ちする。
「さっさと済ませろ」
「感謝する」
そう言って男は胸ポケットに手を突っ込む。
「すぐに済むさ」
しかし男の手に握られていたのでは、黒く光る拳銃だった…
267 スクール・パンデミック sage 2012/07/24(火) 23:20:54.14 ID:uC1Di9O3
「くそっ!どうしてこうなった?」
暗闇の階段を駆け下りながら、男は唸る。
取引相手を殺してお金をだまし取ったまではよかった。
しかし何故か、当局にかぎつけられていたようで、追われる立場に。
「くそ!くそ!」
ケースは2つとも隠した。学生時代に偶然見つけた空き部屋にだ。あれは誰にも絶対見つけられない。
誰にも知られていないはずの部屋だ。その証拠に誰も使った形跡が20年経ってもなかった。
この先も絶対に見つからないという保証はないが、とりあえずは大丈夫だろう。
あとはこの場を逃げ切ってほどぼりが冷めてから回収しにくればいい。
とすれば、とりあえずこの場から逃げ切るのが先決だが…
「そこまでだ」
「ぐっ…。公安九課か…」
スーツを着たいかつい男が拳銃を手に待ち構えていた。まるでここに来るのを予測していたかのように。
「悪いが、私もここの出身でね。内部構造はよく知ってるつもりさ」
「なら、そのよしみで…」
「見逃すなどどいう変な気が起きないか、自分が心配だったが、それは杞憂だったようだな」
感情を全く表わさずに拳銃を構えた男が言う。
「それどころか、同じ学校の出身者にこんな奴がいるなんてと、腹立たしくなったな」
「ふん、私の見たところ先輩なんだがな…」
この場に及んでこんなことが言えるのかと男は少し自嘲した。
人間開き直ってしまえばこんなものかなんて、極めて客観的に考えてしまう。
「さて、無駄話をしてしまったが、これでおしまいだ。じきに私の仲間がくる」
スーツの男が言うのとほぼ同時に背後から足音がする。
「同じ学校のよしみだ。私の手で逝け」
「とんだよしみだな…」
「言ってろ」
直後に乾いた銃声が一発。旧校舎に響き渡った。
268 スクール・パンデミック sage 2012/07/24(火) 23:22:06.89 ID:uC1Di9O3
「奴はブツを持っていなかった」
<受け渡しは終わってるのではないか?>
「もしくはまだ渡さずに、どこかに隠し持っているか、だ」
<わかった。両方の線であたろう>
「俺は一度戻る。情報の集め直しだ」
<うむ。とりあえず御苦労>
「あぁ」
電話を切ると、スーツの男は足元に転がる死体を見下ろす。
「何もなければいいがな…」
誰にでもなく、意識したわけでもなく、そんな言葉が口から漏れた。
269 スクール・パンデミック sage 2012/07/24(火) 23:37:30.79 ID:uC1Di9O3
河原文香はこの学校の2年生である。
学業は並。運動は割と得意。部活からのオファーも時々。
さばさばした性格と、容姿端麗とも言える外見からモテないなんてこともない。
しかしそんな彼女が文学部に所属しているのにはちょっと理由がある。
古典文学好き。
いや、最早フェチと言ってもよいだろう。
文学部にいれば、いくら古典文学を読んでも文句は言われない。
実際中学の古典の授業ではまって以来、読みふけっている姿を見られてはからかわれたものだ。
―似合わない―
まぁ確かに自分は深窓のお嬢様のような容姿でもないし、
木漏れ日のさす窓の側に座って本を読む姿はあまり想像できない。
セミロングの髪は、遺伝のせいか地毛も茶色っぽく、目はちょっと吊り気味の大きめ。
手足は太くはなく、どちらかと言えばすらっとしているが、ちょっとばかり筋肉がついてる。
身長は165センチでちょっと痩せ型、バストはもうちょっとあればいいなと思っていたが、友達曰く、
「文香のは形と大きさといい、お手頃だよね!」
それでいて相手はEカップなのだから、バカにされているようにしか思えない。
中学までは私のが大きかったはずなんだがと、毎度首をひねってしまう。
270 スクール・パンデミック sage 2012/07/25(水) 00:04:19.84 ID:uC1Di9O3
そんな文香のお気に入りは旧校舎の屋上だ。
昼休みはちょっと時間が足りないにしても、放課後は時間があれば、結構こちらで過ごすことも多い。
誰もこず、静かでこの時期に快適に過ごせる屋上はまさに文香が読書する為に用意された場所、
と勝手に思うようにしてる。
戦前に建てられた木造建築の校舎で屋上があるのも不思議と言えば不思議だが、
文香の学校には、時計付きの洒落た鐘楼があった。それを見ると屋上があるのも何となくは納得できる。
「さぁてと!今日は平家物語の続きでも読みますかぁ!」
ご存知平家物語。
日本を代表する古典文学の一つだが、それを女子高生、しかも口語訳されたものではなく、
わざわざ原文で書かれた本を探し出して読んでいるのだから、滑稽と言えば滑稽なのかもしれない。
お気に入りの日が差す場所に腰かけると文香は早速分厚い本のページをめくりだす。
ぺラリ。
梅雨前のこの時期はセミのうるさい声もせず、鳥のさえずり程度と
グラウンドから時折聞こえる運動部の掛け声しか雑音になりえるものがない。
その為、最近は日没直前まで集中して読んでしまうこともしょっちゅうだった。
しかし今日は違った。
ページを3つほどめくったところで、視線がふと文字より上、
ちょうど鐘楼から3メートルくらい離れた場所に行った。
特に何もない。
いつも見ている風景だ。
気にせず文字に目を戻す。
ぺラリ
1ページめくったところでまたそこに目が行く。
また文字に目を戻す。
ぺラリ
チラリ
ぺラリ
チラリ
チラリ
ぺラリ
…
271 スクール・パンデミック sage 2012/07/25(水) 00:46:26.58 ID:GQ21fnLz
「あー、もう!集中できないじゃんか!!」
別に何が悪いというわけではない。強いて言うのなら文香が悪いのだが、それを否定するかの如く大きな声を出す。
「なーんか、今日変よ?」
腰かけてた場所からすっと立ち上がり、ちょっと短めのスカートの後ろの部分を両手ではたくと、
件の場所へスタスタと歩み寄ると、しゃがみこんでその辺りをじーっと観察してみる。
特に何もない。いつもと変わらない屋上の床がある。
しかし雰囲気が少しばかり違う。そう、普段からここを使っている文香でなければわからないような。
「普段から観察することを心がけていれば、ちょっとした変化にも気付くものさ…」
まるで、昔のイギリスの名探偵がいいそうなセリフを呟きながら、その辺りを撫でてみたり、コツコツと叩いてみる。
隣に髭の中肉中背の紳士がいれば、絵になるやもしれなかったが、これではただの不審者、いや残念な美少女である。
「…うっさい」
自分の脳内妄想にツッコミをいれながら、コツコツと叩き続ける。
と、
カンカン
明らかに先ほどとは違うがらんどうな音がした。
「見つけたよ!ワトソン君!」
思わずガッツポーズをしてから、慌てて辺りを見回してほっと溜息。
「こういう音がする時は下に何か空間があるって、ホームズ先生も言ってた!」
どうやら、彼女はドイルも愛読しているらしい。はて?ドイルは古典だったかな…
文香は嬉々として、その辺りを念入りにまさぐってみる。と、
ビンゴ。
直径わずか4センチくらいのくぼみがあった。上手い具合に指もひっかけられそうだ。
「よいしょ…っと!!」
腰を入れ、両手で思い切り引っ張りあげる。
が、湿気をすった古い木独特の感触で中々動かない。
「まさかスライド式?」
なんて考えてるうちに抵抗がすっと軽くなる。
まずいと思った時には後の祭り。思い切り尻もちをついてしまった。
「あいたたた…」
お尻をさすりながら、ぽっかりと空いた空間を見てみる。
縦横がそれぞれ50センチくらいの大きさで、覗いてみるとちょうどいい具合の場所に階段があった。
続
277 スクール・パンデミック sage 2012/07/25(水) 23:21:53.79 ID:GQ21fnLz
「何というご都合主義!何というテンプレ展開!」
如何にも隠し部屋ですと言わんばかりの階段。
そして狭いながらも下に降りて行けるスペースを見て文香は一人ごちる。
「でもこういうのってワクワクするよねー」
埃がちょっと多いのが気になったが、好奇心の方が優に勝ったのは言わずもがな。
頭をぶつけないように慎重に降りていくと、12畳くらいのスペースがあった。
案の定、埃くさい。
「こんな部屋あったんだー。知らなかったな…」
左手で鼻口を押さえながら、右手を顔の前でパタパタさせる。
所謂、うわーっ、埃くっさーというモーションだ。
それにしても、旧校舎内は隈なく散策したはずだが、こんな部屋があったとは意外だった。
「上以外に出口ないのかな?」
辺りをきょろきょろしてみると、割としっかりしてそうな扉があった。
近寄ってみると、どうやらこちらか押すタイプのようだ。
「よっと!…あれれ??」
ノブに手をかけて押したが、ピクリともしない。
さては自分の勘違いかと引いてもみたが、こちらもダメ。
「あーあ、扉の向こうに何か置いてあるのかなぁ」
推測すると場所的には隣は理科室か何かだったような気がする。
ならば物があっても仕方ないと、自分を納得させると、文香は改めてこの隠し部屋を眺めてみる。
入ってきた時は気づかなかったが、棚がたくさん置いてあり、物置として使われていた雰囲気を醸し出している。
最も今は埃だらけであったが。
そして部屋を見回していてあるものに気がつく。
278 スクール・パンデミック sage 2012/07/25(水) 23:22:31.01 ID:GQ21fnLz
「本?」
古そうな装丁の本が何冊も平積みにされてるのが見えた。ちょっと背を伸ばせば届きそうなところにある。
手にとってみて、文香は愕然とした。
「え?枕草子?」
慌ててページを開いてみて、更に驚愕する。
今時の本ではなく、江戸時代以前に作られたような、紐でしばって製本されたものだ。
当然中の文字も印刷ではなく、手書きの筆のようだ。しかも驚くほど状態がよい。
「これは読めるかも…?」
興奮した文香は枕草子があった近辺を探す。
「うわ、隣は土佐日記?新古今和歌集?」
有名どころと言われる作品がいくつもあった。しかも全部枕草子と同じような状態。
「これすごいよ!」
中には当然読んだこともあるものも見つかったが、それでも文香の興奮は醒めない。
再度見渡してみると、結構な量があるようだ。
学校の図書館にある古典文学はあらかた読み尽くしかけていた文香にとって、
これは僥倖と言えた。
「毎日通うしかない!」
しかし、生憎本を読める環境ではなさそうだ。
「借りてもいいよね?この埃の積もり具合だとかなりの年月読まれた形跡がないし」
本も埃積もるよりは、読まれた方が本望、なんちって、てへぺろと付け足す。
「でも何でこんなにたくさんあるんだろう?昔のお偉いさんにマニアがいたとかかな?」
首をかしげて考えるが、すぐやめる。
「まぁ、それはいいか。とりあえずその人には感謝しないとね!」
そして文香は棚に向き直り、パンっと顔の前で手を合わせる。
「では借りていきまーすっ」
鼻歌を歌いながら、スキップしそうな足取りで、数冊の本を抱えて文香は外に出た。
床に自分以外の足跡があったことに気付かずに…
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