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無限の果肉 第七話
674 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:27 ID:S41XYLsI
<翳る日常 前編>
最近ネーアの様子がおかしい。
昼食の準備の為に厨房内をめまぐるしく駆け回る彼女を見ながら、
メライガはそう感じた。
例えば――仕事中にミスをしなくなった。笑顔を見せるようになった。
食事を控えるようになった。代わりとばかりに水ばかり飲むようになった
力仕事が出来るようになった――等々。
メライガが気付いていないだけで、他にもまだ何かあるかもしれない。
(どういう事でしょうか)
厨房内を慌しく動き回る同僚達に混じりながら、ネーアを盗み見る。
彼女は包丁を巧みに使いながら食材を刻んでいた。つい先日までは、食材を切るどころか
自分の指を切るような能無しだったというのに。
(私が『忠告』をした次の日くらいからですね。その日を境に何かあったとしか……)
同僚達が、まるで別人のように立ち振る舞うネーアに声を掛けている。
ネーアも応えるように笑顔を見せ、少し前まで口も聞かなかった同僚達と談笑を始めた。
あがり性はそのままなのか、頬が真っ赤に染まっている。
(やはり男……ですか)
力がついた事や、仕事が出来るようになった事は説明がつかないが。
食事を控えて水を多めに摂る。笑顔を見せるようになった――この二点だけ考えるなら、
恋人が出来、しかも現在付き合っている――そう考えれば今のネーアを納得出来る。
(ですが。それは許されない行為です)
この屋敷に男は二人しかいない。
庭師のシレノスと、我等がウラヌス様だけしか。
シレノスは50を過ぎた輩で、いつもメイド達を嘗め回すような視線で見てくる好き者だ。
無精髭も剃らずに身なりも小汚い。性格も、ウラヌスとは違い、貪欲で品が無い。
そんな、人生の負け犬のような浮浪者のような男と付き合う筈も無い。
675 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:28 ID:S41XYLsI
(まあ、あれだけ私達に『折檻』を受けた女です。人生の負け犬と言う意味ではネーアも大して
変わりませんから。案外手懐けられているのかもしれませんが)
ダンッ!
力が入りすぎ、手元に在るまな板の上の魚が一刀の元に真っ二つになる。
少し大きめのその音も、談笑をしている同僚達の耳には届かなかったようだ。
(あれだけ、ウラヌス様を想っていた彼女が、あんな下賎な輩と付き合う分けがありません)
つまり。彼女は、ウラヌスと。
「メライガ?」
「!?」
突如掛けられた声に思考の沼から引きずり上げられる。
目の前には、ネーア。
「何でしょうか?」
「何でしょうか、じゃなくて。指、血が出てるよ」
言われて初めて左の親指から流血していることに気付く。
(なんて不甲斐ない。これではいつもと立場が逆ではありませんか)
メイドのプライドと女のプライドの両方に傷が付き、怒りで視界が揺らぐ。
「雑菌入ったら大変だよ。早く手当てしないと。私、付いていってあげるよ」
余計なお世話です、という言葉が喉元までせり上がるが――
「――そうですね。この状態で調理を行うわけにはいきません。お願いします」
事情を聞きだすには良い機会だった。
包丁を置き、まだ使われて無い水がめに手を突っ込み傷口を軽く洗う。
「行きましょう」
言い放つとネーアの返事も待たずに厨房から退出する。
ダイニングルームを抜け、廊下に出た辺りで、
駆け足のネーアが付いてくると、メライガの横に並んだ。
過去一ヶ月に渡り、あれだけの暴虐を受けたというのに警戒する素振りは見られない。
それどころか、さっきからメライガの指の傷をしきりに見ている。
676 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:30 ID:S41XYLsI
何故か熱っぽい視線で。
その態度に、違和感を感じた。
目の前にいるネーアという同僚と、二日前までの彼女と、重ね合わせる事が出来ない。
「……そんなに私の怪我が気になりますか?」
「え? あのっ、別にっ」
我に返ったように手を慌しく振り回す。
途端に、何かの花のような香りが鼻腔を満たす。
(香水でもつけているのでしょうか?)
だとしたら、彼女が進行形でウラヌスと付き合っているという可能性がますます高まる。
嫉妬心に胸が切なく疼く。もう我慢の限界だった。
「どういうつもりですか」
「……え?」
「とぼけないで下さい、見苦しい。……ウラヌス様と付き合っているのでしょう?」
「ええっ!?」
ネーアが浮かべたのは驚愕の表情。メライガの中の懐疑が確信へと変わっていく。
「違います!」
「違うというなら説明して下さい。食事を疎かにして水ばかり飲んでいる理由は何ですか?
口紅もろくに塗れない女が香水を付ける理由は何ですか? 私達にあれだけ『折檻』を
されながら笑顔を浮かべられる理由は何ですかっ?」
まくし立てるように問い詰める。
なれない事をしたせいか、息が上がった。
「――っ!?」
人の気配を感じ、辺りを見回す。
ダイニングや客間の掃除をしていた同僚達が、慌てて顔を引っ込めた。
(私としたことが)
「あ、痛っ!」
ネーアの腕を引っ張り、洗濯物を運び込む勝手口から庭へ出ると、視線でネーアに訴える。
677 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:31 ID:S41XYLsI
「それは……言えません」
「私があの夜、あれほど警告したというのに……!」
「ち、違います! 私、ウラヌス様とは付き合っていません!」
「そんな言葉、どうやって信じろというのです!」
「それは、あの――――っ!?」
ネーアが何かに気付いたように顔をあげる。
どうしたんです、と声を掛ける暇もなく、予期せぬ人間が現れた。
「ネーア君にメライガ君。こんな所で何を?」
「……体調が優れないので外の空気を吸いに来ました」
虚を突かれたが、ポーカーフェイスを保つと、
メライガの口からとっさの嘘が付いて出る。
「それは良いが……」
ウラヌスが複雑な表情で二人のメイドを――主にネーアを――見る。
(それは、そうですね。ネーアは一度ウラヌス様の前で、あられのない姿を見せたのですから)
ネーアは、悲しげに目を伏せており、ウラヌスとは視線を合わせようともしない。
(……この反応は……)
恋人同士が顔を合わせた時、こんなにもぎこちない対応を取るだろうか。
頬を赤らめたり、気恥ずかしい表情を浮かべたりするものではないのか。
だが今この空間には、後ろ暗さとぎこちなさが混じった空気しかない。
――急にネーアが顔を上げた。
そしてちらりと、メライガに意味深げな目配せをする。
彼女の目には、何らかの決意が宿っていた。
「あの、ウラヌス様」
「……何だね?」
「今まで色々ご迷惑をおかけしましたっ」
ぶんっ、と音が鳴りそうなほどのお辞儀。
『……』
メライガもウラヌスもネーアの意図を測りあぐねて閉口する。
678 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:32 ID:S41XYLsI
「いえ、あのっ、大した事じゃないんですよ? ただ私、今までろくに働けもしなかった上、
ウラヌス様には何かと心配ばかりかけていましたから」
「そんな事は、」
「お心遣い感謝します。でも、もういいんです。もう私、大丈夫ですから。だから――」
ネーアが笑顔を浮かべた。
それは何かを悟ったような、諦めに似た表情で。
メライガにはそれが泣き顔に見えた。
そして、
「もう、私に構わないで下さい」
一瞬。メライガは我が耳を疑った。
(そんな、馬鹿な)
二人が付き合っている? 冗談ではない。それどころかネーアの方からウラヌスを突き放した。
(これは、一体どういう……)
「――ウラヌス様」
メライガの背中から別のメイドの声。その場に居た三人が同時に声の主を見る。
勝手口から顔を除かせたのは、テミスという名のメイドだ。
「昼食の用意が出来ました。食堂へお出でください」
事務的な声。必要最低限の事しか喋らないところはメライガと似ているが、
テミスの声には有無を言わさず他者を従わせるような迫力がある。
「いや、だが、」
「使用人如きにウラヌス様が気を遣う必要はございません」
ちらりとネーアとメライガを盗み見る。
テミスは責任感が強く、規律や体制と言った物を尊重する彼女は、元無能者ネーアや、
それに絡む三人のメイドを快く思っては居ない。
メイド長のティジフォーンには頭が上がらないが。
また、テミスはその頭の固さから、同僚達に敬遠されている。
679 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:34 ID:S41XYLsI
「そうです。どうぞお食事に行ってください」
ネーアが同調する。
「……分かった」
渋々といった様子でウラヌスが歩き出し、屋敷の中へと消えた。
「――ネーアさんもメライガさんも、早く持ち場に戻って下さい」
まるで自分の方が偉い、とでもいうような口調で言い放つと、踵を返した。
「確かに、長話が過ぎました」
ネーアがウラヌスを突き放した以上、彼女が自分達の障害となる事は無い。
(ライバルが一人減りましたね)
「私達も戻りましょう。あまり遅くなっては皆が怪しみます」
ネーアの方を振り返る。
「――ネーアさん?」
訝しげに声を掛ける。ネーアは自らの体を抱いて震えていた。
「メライガさん……っ……私、言いましたよね? ウラヌス様とは、付き合っていないって」
「何を――」
(待って下さい。その言い方では『ウラヌス様とは交際いないだけで他の誰かとは
交際している』、という事になります)
だが、今更そんな事を知っても何の特にもならない。メライガにとってはウラヌスを狙う
全ての女が敵であり、容赦はしないが、そうでない者にはあくまで無関心だ。
「だからどうしました。貴方が誰と付き合おうが貴方の勝手ですし私には関係有りません」
ネーアに背を向ける。
「待って、下さいっ!」
必死の声に、メライガは振り向く。ネーアが膝を突きながら震えていた。
熱でもあるのか肩で息をし、気だるげな目でメライガを上目遣いに見上げている。
(ここしばらくは健康の塊のようなものだと思っていましたが。そうでもないようですね)
自分に関係の無い事に対しては無関心だが、慈悲の心くらいは持っている。
「風邪でも引いたのですか」
手を伸ばす。ネーアは差し出された手を取ると、
力任せにメライガの体を引っ張った。
680 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:35 ID:S41XYLsI
メライガの視界が回り、背中に衝撃を感じる。
抵抗する間もなく、何をされたかも気付く間もなく。
気が付けば、仰向けに倒れていた。
「なっ、何を!」
起き上がろうとするが、馬乗りになったネーアに阻止される。
両肩を地面に押さえつけられ、身動きが取れなかった。
この華奢な腕の何処にそんな力があるのか、
万力で締め付けられたようにピクリとも動かせない。同時に肩の骨が悲鳴を上げた。
「ああっ!」
メライガの顔が苦痛に歪む。
「ああ、ごめん、なさい。力加減を――はあ――間違いました」
肩への荷重が少しだけ軽くなる。
苦痛から開放されたメライガはネーアの顔を見た。
――あどけなさの残る少女の顔に、凄艶とした微笑を浮かべていた。
人目で分かる。
犬のように呼気を荒げ、制服から除く肌を高潮させ、瞳を濡らせたネーアは、
(私に、欲情しているっ?)
ぞっとした。今目の前に居るのは、いつかの夜にあられもない喘ぎ声を上げていた雌だ。
ぺろり、と舌なめずりネーアに背筋が寒くなる。
「はぁ……はぁ……メライガさんが、いけないんですよ……こんな、人気の無い所に
私を連れてきて……はあ……ずっと指の傷を見せびらかすから……はあ……私、
我慢出来なく、なったんですよ?」
「何を言って――っ!?」
突如ネーアが覆い被さり、抱き締められる。
香水だと思っていた匂いがきつくなる。まるで、花の香りと、淫汁の生臭さを足したような匂い。
(……この匂い。嗅いでると頭が呆として……)
思考に徐々に霧が掛かっていく感覚の中、ネーアに耳元で囁やかれた。
「最初は、少し痛いかも」
その言葉にはっとした。ネーアに左腕を抱き寄せられる。
「――っ!?」
681 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:36 ID:S41XYLsI
同時に左の親指に激痛。メライガからはネーアの頭部で視界を遮られ見る事は出来ないが、
ネーアが彼女の傷口を爪で抉ったのだ。
じくじくと疼く痛みに顔をしかめていると、今度は生暖かく、ぬめりを持った感触が傷口を覆った。
痛みと、その不快感のギャップに、電撃でも打たれたように体が跳ねる。
「な、何をしているのです!?」
見るまでもなく分かる。この感触は、
(私の指を、しゃぶっているっ? いや、むしろこれは……)
溢れ出る血を、啜っている。
メライガの問いに、ネーアはチュパチュパという卑猥な音を立てて応えた。
その音が、鼻を付く濃厚な香りが、何より自分に欲情する同僚に傷口を舐められるという
異常なシチュエーションが――メライガの理性を少しづつ削り取っていく。
それだけではない。
「ちゅぷちゅぷちゅぷ、ちゅるるるっ」
「……ん」
唾液まみれになっていく親指が気持ち良い。
痛む傷口を舌で擦り付けられる度に、じわり、と疼くような痺れが生まれる。
その淫らな感覚に、体を委ねていたい、とすら思うようになり――
(な、なにを私は考えているのです!?)
すんでの情欲を振り払う。
冗談ではなかった。何が悲しくて元恋敵に傷口をしゃぶられ恍惚としなければならないのか。
682 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:38 ID:S41XYLsI
だが、この状況を打開しようとも、抱きつくネーアを振り払うだけの力は無い。
せめてどちらかの腕が自由になれば、護身用にと、いつも懐に携帯している雷撃の魔石を
使う事が出来るのだが。
「ちゅぱっ、ちゅぱっ、ぢゅぅぅぅぅっっ――ぷはっ、はあ、はあ……」
満足したのか、どこか卑猥なおしゃぶりを中断し、ネーアは呼吸を整える。
「……物足りない……メライガさんの、血、おいしかったけど、これだけじゃ、足りない」
その言葉に心が騒いだ。
ネーアが密着していたメライガから離れ、再び馬乗りになる。
メライガの目の前に、情欲に飢えた雌の顔がある。
「……今度は、こっちのが、沢山、欲しい」
そう言って、ネーアがメライガの下腹部辺りに濡れた目を向けた。
(まさか)
最悪の事態を思い浮かべた。
蒼白になるメライガの顔を見て、ネーアが妖艶な笑みを浮かべる。
「でも、最初は、キスからです」
「なっ! やめなさい!」
制止の声など聞く筈も無い、ネーアは息を荒げたままメライガに顔を近づけ、
その顔が弾かれたように後ろを振り向いた。
獲物を発見した時の肉食獣を連想させる俊敏な動作。同時にそれは、
メライガへの注意が逸れる最初で最後の瞬間だった。
それを彼女は逃さなかった。覆い被さっているネーアを渾身の力を使って跳ね除ける。
「……あ」
呆然とするネーアの表情を見ながら、懐から魔石を取り出す。
そして、メライガは何の躊躇もなく、それをネーアに押し付けると、石の効果を発動させた。
石はメライガの想いに応え、ネーアの体だけに電撃を放つ。
「――あぁっ!?」
ネーアは体を痙攣させ白い喉を晒すと、そのまま芝生の絨毯へと倒れ伏した。
「はあ……はあ……」
683 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:39 ID:S41XYLsI
(助かり、ました)
起き上がる気配の無いネーアに安堵の息を吐きかける。
(一体、どうなっているのか)
ネーアの恍惚とした表情、淫魔のような笑み、そしてあの異常な行動。
気が違ったとしか思えない。
(それにこの匂い)
改めてこの一体の空気を嗅ぎ取ると、女の性臭と花の匂いが混じった濃厚な香りで満ちている。
「どうであれ、長居は無用です」
こんなところを誰かに見られたら事だ。
慌ててメライガは立ち上がり踵を返した。
――その姿を、二つの視線が追っていた。
697 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:18 ID:b+SGKAyQ
<翳る日常 後編>
「きゃー! 見た見たっ? スキャンダルよ! スキャンダル!」
金髪ツインテールのメイド少女が黄色い声を上げながらはしゃぐ。
「お姉ちゃんっ。はしゃいでる場合じゃないよぅ。ネーアさん、倒れたまま動かないよ?
怪我したんじゃないのかな……?」
おどおどといった感じで抗議の声を上げているのは隣の少女と瓜二つの顔であり、
違うのはこちらの少女の髪型がサイドテールという事くらい。
この二人、最近ウラヌスに拾われた戦災孤児で、メイドの中でもフェルナの次に若い、
双子の姉妹だった。
「だーいじょーぶよ。寝てるだけだって。ほら、昨日だって仕事中にぐーすか寝てた、
って話じゃない? 今もそうだって!」
このツインテールの活発な少女が、姉のポリタス。
常日頃から刺激を求めては問題を掘り起こし、拡大させるトラブルメーカーである。
趣味は尾ひれと背びれを付けた噂を広める事。
「え、え? でも、一瞬、びりっ、ってなったよ!? ちょっと痙攣してたよ!?
なにか光ってたよ!?」
不安げな面持ちでサイドテールを揺らしているこの少女が妹のコルタス。
ネタを見つけては暴走する姉を抑制するストッパーとして日々気苦労が絶えない。
だが真面目そうに見えても15歳というお年頃。性への関心は尽きない。
ちなみに彼女はかなりの面食いである。
「うーん。……あぁ! きっと気持ちよかったのよっ。よくあるじゃない、こう、
鞭で叩かれたり、電気流されたりして、痛いー! でも気持ちいいー! みたいなっ」
「……そ、そんなの知らないよ!」
かなりディープな話題にコルタスが顔を真っ赤に染める。
「コルタスはウブねぇ」
「お、お姉ちゃんがおマセなだけだよっ」
「何言ってるのっ。これくらいはレディの必須知識よっ」
「お姉ちゃん。わたし的には色々と突っ込みたいんだけど。とりあえず
レディを名乗るんだったらブラをつけるくらいお胸は大きくならないとね」
698 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:24 ID:b+SGKAyQ
「うっ……確かにせめて70は欲しいわね」
「でもでもっ。四捨五入すればなんとか70だよ」
「コルタス――言ってて虚しくない?」
「……」「……」
僅かな沈黙の後
『はぁ』
姉妹は同時に羨望と憂いの詰まった息を吐いた。
***
「……はあ」
姉妹が溜息を付いている頃。自室に篭っているフェルナも溜息を付いた。
だが、双子の姉妹の溜息とは意味合いが違う。
「……はあ」
何度目かの溜息。双子達のそれとは違い、フェルナのそれは、風邪を引いた時のような
気だるさと、熱っぽさを帯びていた。
「……何でかなあ。発情期は再来月の筈なのに」呟く。
そう。フェルナは亜人なのだ。人間と獣の特性を両方併せ持つ彼等彼女等には、
発情期と呼ばれるものがある。人間で言うところの排卵日だが、亜人の場合、
年に四回、名前の如く性欲に苛まれる時期がある。
フェルナは先月、込み上げる欲情に必死に耐えていたのだ。
結局本能には勝てず、自分を慰めてしまったのだが。
「どうしよう。フェルナ、病気になっちゃったのかなぁ」また溜息。
(一昨日か、昨日くらいからだよね?)
そのくらいの時期から、亜人のフェルナにしか嗅ぎ取れないほど微かな花の香りが、漂い始めた。
それきり、体調がおかしい。まるで発情期のように、体が熱くなる。
(尻尾の付け根とアソコがムズムズするよぅ)
風邪かもしれないので大事を取って休ませてもらったのはいいが、
逆効果だったような気がした。
「これなら、動いていた方がマシだよぉ」
699 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:26 ID:b+SGKAyQ
だが、嘆いていても仕方が無い。
密室になった自分の部屋の匂いを嗅ぐ。嗅ぎなれた自分の体臭と、微かな性臭がする。
「あう……換気しよっと」
ベッドの上で横になっていた体を起こし、這うようにしてそこから降りると、
おぼつかない足取りで窓まで歩く。窓に手を伸ばし、んしょ、と声を出して開ける。
開け放たれた窓から爽やかな風が入り込んで、フェルナの垂れ耳をパタパタとなびかせる。
「ふう」
外の空気を吸って少しは気分が落ち着いた。
(……そういえばお腹空いちゃった。そろそろご飯だよね?)
思った瞬間何処からとも無くパタパタと、まるではたきで家具の埃を
払っているような音が聞こえてくる。
何の音かと思って首を巡らすと、自分の尻尾が勢いよく左右に振れ、
安物の化粧台(使った事が無い)やらタンスやらを叩いていた。
まるでパブロフの犬。
我ながら本能に忠実な体だ、などと思った時、
「……?」
窓の外から覚えのある匂いが流れ込んできた。スンスンと鼻を動かす。
花の香り。とは言っても中庭にある花壇や、屋敷内に添えられた観賞用の花、
敷地外にある野花の匂い、そのどれにも当てはまらない匂いだった。
強いて言うなら、百合の花に、女の発情臭を掛け合わせたような。
「……きゅううん……」
(この匂い、フェルナをおかしくさせるのと同じだ)
だが、徐々に強くなってくる香りは、普段嗅いでいる匂いの残滓とは
比べ物にならない程、濃厚だ。まるで、匂いの発生源がすぐ近くから
この催淫臭を垂れ流しているような。
「……きゅうん……もうだめぇ……」
強烈な臭気に、尻尾と下腹部の疼きが我慢できなくなる。
もじもじと落ち着きなく腰が動く。心臓は早鐘を打つように暴れ周り、
息が荒くなる。制服から覗く真っ白な素肌が、紅く染まる。
とうとうフェルナは、その場に座り込んだ。
700 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:27 ID:b+SGKAyQ
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
思考と本能が反転していく。
右半身から壁に寄りかかった体勢で左手が、先の姉妹より幾分か成長している
小ぶりな胸を、ゆっくりと制服の上から触る。
「きゃうんっ」
それだけで痺れに似た甘い官能が、フェルナの脳を焼く。
じくり、と子宮が疼いた。
「きゅうん……きゅうぅん……」
物悲しい、すすり泣く様な犬の鳴き声を上げながら、
右手も小さな膨らみの上へと乗せ、擦るようにこね回す。
じわっ、とした愉悦が急速に広がった。
「わうっ!?」
(……なんか、すっごい、気持ちいい……先月の、発情期よりも
ずっとずっと、気持ちいい。なんで? )
予想を上回る快楽に、ムクムクと、二つのポッチが自己主張し始める。
「わうんっ」
まるで性器を弄られた時の様に、二つの勃起が官能を弾けさせた。
(乳首っ、ブラに擦れてっ、きゅううぅんっ、擦れて、びりっ、って!)
「はあっ、はあっ、はあっ…!」
半開きにした愛らしい口から、発情した獣のような吐息が漏れる。
狂ったように二つの腕が、胸を揉み込む。
理性が、本能に駆逐されようとしていた。
(もう、やだっ、もどかしいようっ!)
胸から手が離れる。蛇を思わせる素早い動きで手が後ろに回り、
エプロンの紐を解き、すぐに取り外した。次に腰を浮かせ、
スカートをたくし上げる。健康そうな足、真っ白の下着、そして臍までが露になる。
すでに何回もこういう事をやってきたのだ。その動作は酷く手馴れている。
火照る体が、淫臭を孕んだ空気の流れを感じ取り、ぞくりとした。
際限なく高揚していく気分のままに、両手をたくし上げたスカートの下から
突っ込むと、最小サイズのブラを上方へとずらし、外す。
701 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:29 ID:b+SGKAyQ
再び敏感になった突起物が擦れ、脳内で火花が散った。
「わぅん…っ」
甘い鳴き声を上げると、吐息を荒げながら震える両の掌を胸の頂点へと、
近づけていき、ごくりと、生唾を飲み込む。
そして――両の人差し指で同時に、いやらしく膨らみ勃つピンク色の肉を撫でた。
「――わうぅっ!?」
電気を流されたような快楽に、思わず背筋が伸びた。
その淫らな電気は、フェルナの上半身を嘗め尽くすと、脳を真っ白に染め上げる。
こっちも欲しいとばかりに子宮が疼き、肉のトンネルでこんこんと牝の汁を搾り、
下着を濡らしていく。
(き、きもちいいっ、きもちいい!)
「はっ! はっ! わぅんっ、わぅ……きゅううんっ」
本能が理性を圧倒する。腹から下を剥き出しにしたあられもない格好で、
乳首を、擦り、摘み、、捻り、そして弾く。
その度に脳裏に快楽のスパークが弾け、下着に淫らな染みを作っていく。
(もっと、もっと、もっと、もっと!)
「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」
いつの間にか、口の端からだらだらと涎が垂れ、足元の地面に糸を引いていた。
牝の汁を存分に吸ってしまった下着が幼い秘裂に張り付き、
いやらしく綻び始めた縦皺の隅々まで透けて見えた。
何度も慰め、劣情を静めてきた体だ、どこが一番感じるか、どういう順番が
より燃えられるか――自分の性感は体が覚えている。
それに従い、ただひたすら狂ったように双房とその頂点をこね回す。
やがて、外から流れ込んでくる例の臭気が気にならなくなるほど、
部屋の中が甘酸っぱい匂いで満たされ、その自分の発情臭で更に興奮する。
「わ、わ、わ、わぅぅぅぅっ!」
快楽にびくびくと体が震えた。
(い、いっちゃう! きもちよすぎて、いっちゃう!
フェルナ、お胸で、おむねでいっちゃうぅ!)
702 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:31 ID:b+SGKAyQ
絶頂を予感した体が痙攣する。愛らしい筈の目は欲情に濡れ、
焦点をぼやけさせる。だらしなく半開きにした口からは涎と共に舌まで垂れ、
銀色の粘着質の糸は冷たい板張りの床に小さな池溜まりを作る。
吐く息は冬でもないのに白い湯気が見えそうなほど、荒く、激しい。
やがて、
「わうっ! わぅっ! わぅっ! わうぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」
脳みその皺が無くなるのではないかと思うほどの快楽。
視界が真っ白に染まり、キーンと、耳鳴りまで聞こえる。
ビクビクビクビクッ! と体が痙攣し、すぐに体が硬直する。
痙攣した子宮が、何かを飲み込もうと蠢く膣が、大量の蜜を吐き出す。
「はっ、はっ、はっ…はっ……はっ……………はあぁぁ♪……」
じっくりと時間をかけて、筋肉が弛緩していく。
ぶしゅ、という音と共に、下着に張り付く幼い淫裂が、内側から
捲くり上がるように口を開き、湯気が立ちそうな程臭気の強い本気汁を吐き出す。
既に飽和状態だった下着は、それで給水量を遥かに超えてしまい、
さらけ出された太ももや内股に、淫らな光沢を付ける。
まるで浜辺に打ち上げれたクラゲのような有様になってしまったフェルナの顔には、
およそ、幼子には不釣合いな、雌が浮かべる喜悦の表情が浮かんでいた。
ふと。絶頂の余韻にぼんやりする意識の中、ある事にフェルナは気付く。
(――あ……この、フェルナを変にさせる、変な匂いって、)
「ネーアちゃんのエッチな匂いだぁ」
(ネーアちゃん。またエッチな事してるのかなぁ……)
廊下で、フェルナの目前で派手にオルガズムを迎えてしまったネーアの事を思い出す。
――またムラムラしてきた。
(お胸でいっちゃったから……もし、アソコを触ったらどうなるんだろう?)
「はあ……はあ……はあっ……」
気が付けば、また息が荒くなっている。際限の無い劣情、
そして快楽への期待に心臓が早鐘を打つ。
ごく自然に、両手が、水の中にでも入ったような下着へと伸びる。
張り付いた下着を、ズズズッ、とずり下ろす。
703 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:33 ID:b+SGKAyQ
「きゃうんっ!?」
捲くり上がり、物欲しそうにヒクヒクと脈打つ陰部が布地に擦られ、
快楽が弾けた。達した直後には強すぎる刺激に、体をわななかせ、
上と下の口から涎が垂れる。
(き、きもちよすぎっ)
想像以上の気持ち良さに、気後れする。
これ以上自慰を続ければ、ひょっとしたら壊れてしまうんじゃないのだろうか
――そんな不安と。恐らく生涯で最高の快楽を得られるかもしれない――
そんな期待を抱きながら、目線を落とした。
「うわあぁ」
露になった股間。何度も見てきたそこが、白っぽい愛液が糸を引き、
下着の中心部と繋がっている。
(くさいよお)
その雌の臭気、汁の多さに、湯気が立っていると錯覚を覚えそうだった。
耳を澄ますと――壊れたように動く心臓の音、再び荒くなる自分の吐息、
淫らな期待に蠢く唇口の粘着音、思い出したように吹き抜ける風の音、
――そして、パタパタと誰かが廊下を走る音が聞こえた。
反応が、遅れた。
バタンッ!
ノックも何もなしに問答無用で開かれるドア。
「フェルっち、フェルっち! 大ニュース! 大ニュース! さっきね!
庭の方でね! ネーアさんと、メライガさん……が…………」
「お、お姉ちゃんっ、女の子の部屋に入る時は、ちゃんとノックしないと、
っていつも言ってるでしょっ。何かあったらどうする……つもり、なの……?」
嵐のように飛び込んできた金髪の姉妹と、これから嵐の中へと
身を投じようとしていたフェルナの視線がばったりと合う。
口を「あ」の形にして固まる事数秒。
妹のコルタスが顔を真っ赤にすると、顔を両手で覆った。
704 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:34 ID:b+SGKAyQ
姉のポリタスが、口の形を「あ」から「え?」に変え、
続いて「んん?」となり、最後に「にやり」と歪ませる。
フェルナの顔は真っ青だった。
「ふふふふふふふふっ」
天使のような悪魔の笑顔を浮かべながら、ポリタスがフェルナににじり寄る。
「きゅうん……」
お仕置きをされる子犬のように体を震わせ、情けない声を上げる。
目前までやってきたポリタスが、すっと腰を下ろす。
ポンッ、と肩が叩かれた。
ポリタスが何か言おうと口を開き――あまりの臭気にかぶりをを振りつつ、
匂いを払おうと手をパタパタと振る。
その仕草がフェルナの心を酷く傷つけたのは言うまでも無い。
「ああ、ごめんごめん」
仕切り直しのつもりか、再び軽く肩を叩かれる。
「――で? どうだった? ……気持ちよかった?」
囁くようにポリタスの言葉に頭のてっぺんから足の指まで真っ赤になった。
ぷつんっ、と目に見えない何かが切れた。
「出てって――――――――――――――っ!!!」
***
フェルナが不幸な事故に遭っている間、ティジフォーン、レアクト、
メライガの折檻メイド達が、ティジフォーンの部屋へと集っていた。
「で? 話って何よ? こんな所まで呼び出して?」
「ネーアの事です」
気だるげにしているレアクトの問いにメライガが答える。
ネーアと言う名前に、ティジフォーンが忌々しげに顔を歪めた。
「彼女の様子、どことなくおかしいとは思いませんか?」
705 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:36 ID:b+SGKAyQ
「確かに。いつもニコニコ笑っちゃってさ、口数も増えたし、
力仕事まで出来るようになってる。水汲みの件に関しても未だに信じられない」
「反抗期で『むき』になっているだけでしょう」
(むきになっているのは貴方でしょう)
ティジフォーンの推論にメライガが心の中でほくそ笑む。
ティジフォーンに対してだけ、極稀に反抗するネーアに対し、
彼女は嫌がらせのようにネーアに仕事を与えている。
文句も泣き言も言わず、ネーアはそれすらも楽々とこなすのだが。
「そうかもしれません」
適当に相槌を打ちながら、今から言うべき事を脳内で整理する。
「だったらほっとけば? 別に私達にとって不都合な訳じゃないでしょう?
それとも何?『あれだけ』の仕打ちを受けながらまだあの子は、
ウラヌス様の事を諦めてないの?」
くっくっくっ、とレアクトが喉を鳴らす。
メライガがネーアに警告し、自害を促した日――ウラヌスの前で、
凶悪な張り型を使い強制的に絶頂させた時の事を言っているのだろう。
「違います」
「? じゃあ、あの子いまだにウラヌス様の事諦めてないの?」
「それも少し違います」
「はっきりおっしゃりなさい」
ティジフォーンが軽く叱咤する。
実際は、ネーアはウラヌスの事を完璧に諦めたのだろう。今日の行動を見れば
それは分かる。だがその理由が理解出来ない。いや理解出来ない事は、
それだけではない。
――常人では考えられないほどの筋力。怪しげな香水の匂い。
まるで獣のような過敏な反応。それに――
にたり、と口の端を歪めたネーアの顔が脳裏に浮かぶ。
あの狂気が見え隠れする笑顔を思い出す度に背筋が寒くなる。
706 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:37 ID:b+SGKAyQ
(あのような人間を野放しにする訳にはいかない。きっと何か、
良くない事を起こす)
それは確信めいたものだった。
だが、先程の事件を包み隠さず二人に説明する事はしない。
ネーアがウラヌスを振った事を話せば、
少なくとも私達にとっては脅威が減った事が分かる。
メライガがネーアに襲われた事を話しても。ただ笑い話の種になるだけだろう。
「メライガ?」
「どうしたのですか?」
二人に協力を呼びかける為には、少しばかり真実に脚色を加える必要がある。
メライガはティジフォーンを見、レアクトを見ると、静かに宣言した。
「彼女は、ウラヌス様を諦めるどころか、他の者と二股を掛けています」
『……っ!?』
ティジフォーンとレアクトが驚愕の表情を浮かべる。
「――はっ。ただの臆病者かと思ったら。とんだ食わせ者ね。
尻が軽いったりゃありゃしない」
「……っ……っ…!」
レアクトは興奮気味に話、ティジフォーンは怒りに身を振るわせる。
「それは、本当なのですか?」
ティジフォ-ンが尋ねる。それが問題だった。捏造した事実には根拠が無い。
適当な事を言って誤魔化そうとした時、助け舟は意外な所からやってきた。
「それ多分本当よ」
レアクトだった。
(どういう事です?)
「あの子、今でも毎夜のように折檻部屋に足を運ぶのを、私見てる」
「そうですか。そういう事ですか…!」
ティジフォーンが、ばんっ、と化粧台を掌で叩きつける。
「夜、ネーアを呼び出します」
「問い詰める気ですか?」
707 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:38 ID:b+SGKAyQ
「他にどうしろと言うのです!?」
完全に頭に血が上ったティジフォーンをなだめるように言う。
「夜中に折檻部屋に行くのは分かっているんです」
「――ああ、そうね」
こちらの意図に気付いたのかレアクトが得心したように頷く。
「後を着けましょう。弱みを握るんです」
<翳る日常 前編>
最近ネーアの様子がおかしい。
昼食の準備の為に厨房内をめまぐるしく駆け回る彼女を見ながら、
メライガはそう感じた。
例えば――仕事中にミスをしなくなった。笑顔を見せるようになった。
食事を控えるようになった。代わりとばかりに水ばかり飲むようになった
力仕事が出来るようになった――等々。
メライガが気付いていないだけで、他にもまだ何かあるかもしれない。
(どういう事でしょうか)
厨房内を慌しく動き回る同僚達に混じりながら、ネーアを盗み見る。
彼女は包丁を巧みに使いながら食材を刻んでいた。つい先日までは、食材を切るどころか
自分の指を切るような能無しだったというのに。
(私が『忠告』をした次の日くらいからですね。その日を境に何かあったとしか……)
同僚達が、まるで別人のように立ち振る舞うネーアに声を掛けている。
ネーアも応えるように笑顔を見せ、少し前まで口も聞かなかった同僚達と談笑を始めた。
あがり性はそのままなのか、頬が真っ赤に染まっている。
(やはり男……ですか)
力がついた事や、仕事が出来るようになった事は説明がつかないが。
食事を控えて水を多めに摂る。笑顔を見せるようになった――この二点だけ考えるなら、
恋人が出来、しかも現在付き合っている――そう考えれば今のネーアを納得出来る。
(ですが。それは許されない行為です)
この屋敷に男は二人しかいない。
庭師のシレノスと、我等がウラヌス様だけしか。
シレノスは50を過ぎた輩で、いつもメイド達を嘗め回すような視線で見てくる好き者だ。
無精髭も剃らずに身なりも小汚い。性格も、ウラヌスとは違い、貪欲で品が無い。
そんな、人生の負け犬のような浮浪者のような男と付き合う筈も無い。
675 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:28 ID:S41XYLsI
(まあ、あれだけ私達に『折檻』を受けた女です。人生の負け犬と言う意味ではネーアも大して
変わりませんから。案外手懐けられているのかもしれませんが)
ダンッ!
力が入りすぎ、手元に在るまな板の上の魚が一刀の元に真っ二つになる。
少し大きめのその音も、談笑をしている同僚達の耳には届かなかったようだ。
(あれだけ、ウラヌス様を想っていた彼女が、あんな下賎な輩と付き合う分けがありません)
つまり。彼女は、ウラヌスと。
「メライガ?」
「!?」
突如掛けられた声に思考の沼から引きずり上げられる。
目の前には、ネーア。
「何でしょうか?」
「何でしょうか、じゃなくて。指、血が出てるよ」
言われて初めて左の親指から流血していることに気付く。
(なんて不甲斐ない。これではいつもと立場が逆ではありませんか)
メイドのプライドと女のプライドの両方に傷が付き、怒りで視界が揺らぐ。
「雑菌入ったら大変だよ。早く手当てしないと。私、付いていってあげるよ」
余計なお世話です、という言葉が喉元までせり上がるが――
「――そうですね。この状態で調理を行うわけにはいきません。お願いします」
事情を聞きだすには良い機会だった。
包丁を置き、まだ使われて無い水がめに手を突っ込み傷口を軽く洗う。
「行きましょう」
言い放つとネーアの返事も待たずに厨房から退出する。
ダイニングルームを抜け、廊下に出た辺りで、
駆け足のネーアが付いてくると、メライガの横に並んだ。
過去一ヶ月に渡り、あれだけの暴虐を受けたというのに警戒する素振りは見られない。
それどころか、さっきからメライガの指の傷をしきりに見ている。
676 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:30 ID:S41XYLsI
何故か熱っぽい視線で。
その態度に、違和感を感じた。
目の前にいるネーアという同僚と、二日前までの彼女と、重ね合わせる事が出来ない。
「……そんなに私の怪我が気になりますか?」
「え? あのっ、別にっ」
我に返ったように手を慌しく振り回す。
途端に、何かの花のような香りが鼻腔を満たす。
(香水でもつけているのでしょうか?)
だとしたら、彼女が進行形でウラヌスと付き合っているという可能性がますます高まる。
嫉妬心に胸が切なく疼く。もう我慢の限界だった。
「どういうつもりですか」
「……え?」
「とぼけないで下さい、見苦しい。……ウラヌス様と付き合っているのでしょう?」
「ええっ!?」
ネーアが浮かべたのは驚愕の表情。メライガの中の懐疑が確信へと変わっていく。
「違います!」
「違うというなら説明して下さい。食事を疎かにして水ばかり飲んでいる理由は何ですか?
口紅もろくに塗れない女が香水を付ける理由は何ですか? 私達にあれだけ『折檻』を
されながら笑顔を浮かべられる理由は何ですかっ?」
まくし立てるように問い詰める。
なれない事をしたせいか、息が上がった。
「――っ!?」
人の気配を感じ、辺りを見回す。
ダイニングや客間の掃除をしていた同僚達が、慌てて顔を引っ込めた。
(私としたことが)
「あ、痛っ!」
ネーアの腕を引っ張り、洗濯物を運び込む勝手口から庭へ出ると、視線でネーアに訴える。
677 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:31 ID:S41XYLsI
「それは……言えません」
「私があの夜、あれほど警告したというのに……!」
「ち、違います! 私、ウラヌス様とは付き合っていません!」
「そんな言葉、どうやって信じろというのです!」
「それは、あの――――っ!?」
ネーアが何かに気付いたように顔をあげる。
どうしたんです、と声を掛ける暇もなく、予期せぬ人間が現れた。
「ネーア君にメライガ君。こんな所で何を?」
「……体調が優れないので外の空気を吸いに来ました」
虚を突かれたが、ポーカーフェイスを保つと、
メライガの口からとっさの嘘が付いて出る。
「それは良いが……」
ウラヌスが複雑な表情で二人のメイドを――主にネーアを――見る。
(それは、そうですね。ネーアは一度ウラヌス様の前で、あられのない姿を見せたのですから)
ネーアは、悲しげに目を伏せており、ウラヌスとは視線を合わせようともしない。
(……この反応は……)
恋人同士が顔を合わせた時、こんなにもぎこちない対応を取るだろうか。
頬を赤らめたり、気恥ずかしい表情を浮かべたりするものではないのか。
だが今この空間には、後ろ暗さとぎこちなさが混じった空気しかない。
――急にネーアが顔を上げた。
そしてちらりと、メライガに意味深げな目配せをする。
彼女の目には、何らかの決意が宿っていた。
「あの、ウラヌス様」
「……何だね?」
「今まで色々ご迷惑をおかけしましたっ」
ぶんっ、と音が鳴りそうなほどのお辞儀。
『……』
メライガもウラヌスもネーアの意図を測りあぐねて閉口する。
678 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:32 ID:S41XYLsI
「いえ、あのっ、大した事じゃないんですよ? ただ私、今までろくに働けもしなかった上、
ウラヌス様には何かと心配ばかりかけていましたから」
「そんな事は、」
「お心遣い感謝します。でも、もういいんです。もう私、大丈夫ですから。だから――」
ネーアが笑顔を浮かべた。
それは何かを悟ったような、諦めに似た表情で。
メライガにはそれが泣き顔に見えた。
そして、
「もう、私に構わないで下さい」
一瞬。メライガは我が耳を疑った。
(そんな、馬鹿な)
二人が付き合っている? 冗談ではない。それどころかネーアの方からウラヌスを突き放した。
(これは、一体どういう……)
「――ウラヌス様」
メライガの背中から別のメイドの声。その場に居た三人が同時に声の主を見る。
勝手口から顔を除かせたのは、テミスという名のメイドだ。
「昼食の用意が出来ました。食堂へお出でください」
事務的な声。必要最低限の事しか喋らないところはメライガと似ているが、
テミスの声には有無を言わさず他者を従わせるような迫力がある。
「いや、だが、」
「使用人如きにウラヌス様が気を遣う必要はございません」
ちらりとネーアとメライガを盗み見る。
テミスは責任感が強く、規律や体制と言った物を尊重する彼女は、元無能者ネーアや、
それに絡む三人のメイドを快く思っては居ない。
メイド長のティジフォーンには頭が上がらないが。
また、テミスはその頭の固さから、同僚達に敬遠されている。
679 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:34 ID:S41XYLsI
「そうです。どうぞお食事に行ってください」
ネーアが同調する。
「……分かった」
渋々といった様子でウラヌスが歩き出し、屋敷の中へと消えた。
「――ネーアさんもメライガさんも、早く持ち場に戻って下さい」
まるで自分の方が偉い、とでもいうような口調で言い放つと、踵を返した。
「確かに、長話が過ぎました」
ネーアがウラヌスを突き放した以上、彼女が自分達の障害となる事は無い。
(ライバルが一人減りましたね)
「私達も戻りましょう。あまり遅くなっては皆が怪しみます」
ネーアの方を振り返る。
「――ネーアさん?」
訝しげに声を掛ける。ネーアは自らの体を抱いて震えていた。
「メライガさん……っ……私、言いましたよね? ウラヌス様とは、付き合っていないって」
「何を――」
(待って下さい。その言い方では『ウラヌス様とは交際いないだけで他の誰かとは
交際している』、という事になります)
だが、今更そんな事を知っても何の特にもならない。メライガにとってはウラヌスを狙う
全ての女が敵であり、容赦はしないが、そうでない者にはあくまで無関心だ。
「だからどうしました。貴方が誰と付き合おうが貴方の勝手ですし私には関係有りません」
ネーアに背を向ける。
「待って、下さいっ!」
必死の声に、メライガは振り向く。ネーアが膝を突きながら震えていた。
熱でもあるのか肩で息をし、気だるげな目でメライガを上目遣いに見上げている。
(ここしばらくは健康の塊のようなものだと思っていましたが。そうでもないようですね)
自分に関係の無い事に対しては無関心だが、慈悲の心くらいは持っている。
「風邪でも引いたのですか」
手を伸ばす。ネーアは差し出された手を取ると、
力任せにメライガの体を引っ張った。
680 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:35 ID:S41XYLsI
メライガの視界が回り、背中に衝撃を感じる。
抵抗する間もなく、何をされたかも気付く間もなく。
気が付けば、仰向けに倒れていた。
「なっ、何を!」
起き上がろうとするが、馬乗りになったネーアに阻止される。
両肩を地面に押さえつけられ、身動きが取れなかった。
この華奢な腕の何処にそんな力があるのか、
万力で締め付けられたようにピクリとも動かせない。同時に肩の骨が悲鳴を上げた。
「ああっ!」
メライガの顔が苦痛に歪む。
「ああ、ごめん、なさい。力加減を――はあ――間違いました」
肩への荷重が少しだけ軽くなる。
苦痛から開放されたメライガはネーアの顔を見た。
――あどけなさの残る少女の顔に、凄艶とした微笑を浮かべていた。
人目で分かる。
犬のように呼気を荒げ、制服から除く肌を高潮させ、瞳を濡らせたネーアは、
(私に、欲情しているっ?)
ぞっとした。今目の前に居るのは、いつかの夜にあられもない喘ぎ声を上げていた雌だ。
ぺろり、と舌なめずりネーアに背筋が寒くなる。
「はぁ……はぁ……メライガさんが、いけないんですよ……こんな、人気の無い所に
私を連れてきて……はあ……ずっと指の傷を見せびらかすから……はあ……私、
我慢出来なく、なったんですよ?」
「何を言って――っ!?」
突如ネーアが覆い被さり、抱き締められる。
香水だと思っていた匂いがきつくなる。まるで、花の香りと、淫汁の生臭さを足したような匂い。
(……この匂い。嗅いでると頭が呆として……)
思考に徐々に霧が掛かっていく感覚の中、ネーアに耳元で囁やかれた。
「最初は、少し痛いかも」
その言葉にはっとした。ネーアに左腕を抱き寄せられる。
「――っ!?」
681 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:36 ID:S41XYLsI
同時に左の親指に激痛。メライガからはネーアの頭部で視界を遮られ見る事は出来ないが、
ネーアが彼女の傷口を爪で抉ったのだ。
じくじくと疼く痛みに顔をしかめていると、今度は生暖かく、ぬめりを持った感触が傷口を覆った。
痛みと、その不快感のギャップに、電撃でも打たれたように体が跳ねる。
「な、何をしているのです!?」
見るまでもなく分かる。この感触は、
(私の指を、しゃぶっているっ? いや、むしろこれは……)
溢れ出る血を、啜っている。
メライガの問いに、ネーアはチュパチュパという卑猥な音を立てて応えた。
その音が、鼻を付く濃厚な香りが、何より自分に欲情する同僚に傷口を舐められるという
異常なシチュエーションが――メライガの理性を少しづつ削り取っていく。
それだけではない。
「ちゅぷちゅぷちゅぷ、ちゅるるるっ」
「……ん」
唾液まみれになっていく親指が気持ち良い。
痛む傷口を舌で擦り付けられる度に、じわり、と疼くような痺れが生まれる。
その淫らな感覚に、体を委ねていたい、とすら思うようになり――
(な、なにを私は考えているのです!?)
すんでの情欲を振り払う。
冗談ではなかった。何が悲しくて元恋敵に傷口をしゃぶられ恍惚としなければならないのか。
682 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:38 ID:S41XYLsI
だが、この状況を打開しようとも、抱きつくネーアを振り払うだけの力は無い。
せめてどちらかの腕が自由になれば、護身用にと、いつも懐に携帯している雷撃の魔石を
使う事が出来るのだが。
「ちゅぱっ、ちゅぱっ、ぢゅぅぅぅぅっっ――ぷはっ、はあ、はあ……」
満足したのか、どこか卑猥なおしゃぶりを中断し、ネーアは呼吸を整える。
「……物足りない……メライガさんの、血、おいしかったけど、これだけじゃ、足りない」
その言葉に心が騒いだ。
ネーアが密着していたメライガから離れ、再び馬乗りになる。
メライガの目の前に、情欲に飢えた雌の顔がある。
「……今度は、こっちのが、沢山、欲しい」
そう言って、ネーアがメライガの下腹部辺りに濡れた目を向けた。
(まさか)
最悪の事態を思い浮かべた。
蒼白になるメライガの顔を見て、ネーアが妖艶な笑みを浮かべる。
「でも、最初は、キスからです」
「なっ! やめなさい!」
制止の声など聞く筈も無い、ネーアは息を荒げたままメライガに顔を近づけ、
その顔が弾かれたように後ろを振り向いた。
獲物を発見した時の肉食獣を連想させる俊敏な動作。同時にそれは、
メライガへの注意が逸れる最初で最後の瞬間だった。
それを彼女は逃さなかった。覆い被さっているネーアを渾身の力を使って跳ね除ける。
「……あ」
呆然とするネーアの表情を見ながら、懐から魔石を取り出す。
そして、メライガは何の躊躇もなく、それをネーアに押し付けると、石の効果を発動させた。
石はメライガの想いに応え、ネーアの体だけに電撃を放つ。
「――あぁっ!?」
ネーアは体を痙攣させ白い喉を晒すと、そのまま芝生の絨毯へと倒れ伏した。
「はあ……はあ……」
683 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/14 11:39 ID:S41XYLsI
(助かり、ました)
起き上がる気配の無いネーアに安堵の息を吐きかける。
(一体、どうなっているのか)
ネーアの恍惚とした表情、淫魔のような笑み、そしてあの異常な行動。
気が違ったとしか思えない。
(それにこの匂い)
改めてこの一体の空気を嗅ぎ取ると、女の性臭と花の匂いが混じった濃厚な香りで満ちている。
「どうであれ、長居は無用です」
こんなところを誰かに見られたら事だ。
慌ててメライガは立ち上がり踵を返した。
――その姿を、二つの視線が追っていた。
697 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:18 ID:b+SGKAyQ
<翳る日常 後編>
「きゃー! 見た見たっ? スキャンダルよ! スキャンダル!」
金髪ツインテールのメイド少女が黄色い声を上げながらはしゃぐ。
「お姉ちゃんっ。はしゃいでる場合じゃないよぅ。ネーアさん、倒れたまま動かないよ?
怪我したんじゃないのかな……?」
おどおどといった感じで抗議の声を上げているのは隣の少女と瓜二つの顔であり、
違うのはこちらの少女の髪型がサイドテールという事くらい。
この二人、最近ウラヌスに拾われた戦災孤児で、メイドの中でもフェルナの次に若い、
双子の姉妹だった。
「だーいじょーぶよ。寝てるだけだって。ほら、昨日だって仕事中にぐーすか寝てた、
って話じゃない? 今もそうだって!」
このツインテールの活発な少女が、姉のポリタス。
常日頃から刺激を求めては問題を掘り起こし、拡大させるトラブルメーカーである。
趣味は尾ひれと背びれを付けた噂を広める事。
「え、え? でも、一瞬、びりっ、ってなったよ!? ちょっと痙攣してたよ!?
なにか光ってたよ!?」
不安げな面持ちでサイドテールを揺らしているこの少女が妹のコルタス。
ネタを見つけては暴走する姉を抑制するストッパーとして日々気苦労が絶えない。
だが真面目そうに見えても15歳というお年頃。性への関心は尽きない。
ちなみに彼女はかなりの面食いである。
「うーん。……あぁ! きっと気持ちよかったのよっ。よくあるじゃない、こう、
鞭で叩かれたり、電気流されたりして、痛いー! でも気持ちいいー! みたいなっ」
「……そ、そんなの知らないよ!」
かなりディープな話題にコルタスが顔を真っ赤に染める。
「コルタスはウブねぇ」
「お、お姉ちゃんがおマセなだけだよっ」
「何言ってるのっ。これくらいはレディの必須知識よっ」
「お姉ちゃん。わたし的には色々と突っ込みたいんだけど。とりあえず
レディを名乗るんだったらブラをつけるくらいお胸は大きくならないとね」
698 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:24 ID:b+SGKAyQ
「うっ……確かにせめて70は欲しいわね」
「でもでもっ。四捨五入すればなんとか70だよ」
「コルタス――言ってて虚しくない?」
「……」「……」
僅かな沈黙の後
『はぁ』
姉妹は同時に羨望と憂いの詰まった息を吐いた。
***
「……はあ」
姉妹が溜息を付いている頃。自室に篭っているフェルナも溜息を付いた。
だが、双子の姉妹の溜息とは意味合いが違う。
「……はあ」
何度目かの溜息。双子達のそれとは違い、フェルナのそれは、風邪を引いた時のような
気だるさと、熱っぽさを帯びていた。
「……何でかなあ。発情期は再来月の筈なのに」呟く。
そう。フェルナは亜人なのだ。人間と獣の特性を両方併せ持つ彼等彼女等には、
発情期と呼ばれるものがある。人間で言うところの排卵日だが、亜人の場合、
年に四回、名前の如く性欲に苛まれる時期がある。
フェルナは先月、込み上げる欲情に必死に耐えていたのだ。
結局本能には勝てず、自分を慰めてしまったのだが。
「どうしよう。フェルナ、病気になっちゃったのかなぁ」また溜息。
(一昨日か、昨日くらいからだよね?)
そのくらいの時期から、亜人のフェルナにしか嗅ぎ取れないほど微かな花の香りが、漂い始めた。
それきり、体調がおかしい。まるで発情期のように、体が熱くなる。
(尻尾の付け根とアソコがムズムズするよぅ)
風邪かもしれないので大事を取って休ませてもらったのはいいが、
逆効果だったような気がした。
「これなら、動いていた方がマシだよぉ」
699 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:26 ID:b+SGKAyQ
だが、嘆いていても仕方が無い。
密室になった自分の部屋の匂いを嗅ぐ。嗅ぎなれた自分の体臭と、微かな性臭がする。
「あう……換気しよっと」
ベッドの上で横になっていた体を起こし、這うようにしてそこから降りると、
おぼつかない足取りで窓まで歩く。窓に手を伸ばし、んしょ、と声を出して開ける。
開け放たれた窓から爽やかな風が入り込んで、フェルナの垂れ耳をパタパタとなびかせる。
「ふう」
外の空気を吸って少しは気分が落ち着いた。
(……そういえばお腹空いちゃった。そろそろご飯だよね?)
思った瞬間何処からとも無くパタパタと、まるではたきで家具の埃を
払っているような音が聞こえてくる。
何の音かと思って首を巡らすと、自分の尻尾が勢いよく左右に振れ、
安物の化粧台(使った事が無い)やらタンスやらを叩いていた。
まるでパブロフの犬。
我ながら本能に忠実な体だ、などと思った時、
「……?」
窓の外から覚えのある匂いが流れ込んできた。スンスンと鼻を動かす。
花の香り。とは言っても中庭にある花壇や、屋敷内に添えられた観賞用の花、
敷地外にある野花の匂い、そのどれにも当てはまらない匂いだった。
強いて言うなら、百合の花に、女の発情臭を掛け合わせたような。
「……きゅううん……」
(この匂い、フェルナをおかしくさせるのと同じだ)
だが、徐々に強くなってくる香りは、普段嗅いでいる匂いの残滓とは
比べ物にならない程、濃厚だ。まるで、匂いの発生源がすぐ近くから
この催淫臭を垂れ流しているような。
「……きゅうん……もうだめぇ……」
強烈な臭気に、尻尾と下腹部の疼きが我慢できなくなる。
もじもじと落ち着きなく腰が動く。心臓は早鐘を打つように暴れ周り、
息が荒くなる。制服から覗く真っ白な素肌が、紅く染まる。
とうとうフェルナは、その場に座り込んだ。
700 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:27 ID:b+SGKAyQ
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
思考と本能が反転していく。
右半身から壁に寄りかかった体勢で左手が、先の姉妹より幾分か成長している
小ぶりな胸を、ゆっくりと制服の上から触る。
「きゃうんっ」
それだけで痺れに似た甘い官能が、フェルナの脳を焼く。
じくり、と子宮が疼いた。
「きゅうん……きゅうぅん……」
物悲しい、すすり泣く様な犬の鳴き声を上げながら、
右手も小さな膨らみの上へと乗せ、擦るようにこね回す。
じわっ、とした愉悦が急速に広がった。
「わうっ!?」
(……なんか、すっごい、気持ちいい……先月の、発情期よりも
ずっとずっと、気持ちいい。なんで? )
予想を上回る快楽に、ムクムクと、二つのポッチが自己主張し始める。
「わうんっ」
まるで性器を弄られた時の様に、二つの勃起が官能を弾けさせた。
(乳首っ、ブラに擦れてっ、きゅううぅんっ、擦れて、びりっ、って!)
「はあっ、はあっ、はあっ…!」
半開きにした愛らしい口から、発情した獣のような吐息が漏れる。
狂ったように二つの腕が、胸を揉み込む。
理性が、本能に駆逐されようとしていた。
(もう、やだっ、もどかしいようっ!)
胸から手が離れる。蛇を思わせる素早い動きで手が後ろに回り、
エプロンの紐を解き、すぐに取り外した。次に腰を浮かせ、
スカートをたくし上げる。健康そうな足、真っ白の下着、そして臍までが露になる。
すでに何回もこういう事をやってきたのだ。その動作は酷く手馴れている。
火照る体が、淫臭を孕んだ空気の流れを感じ取り、ぞくりとした。
際限なく高揚していく気分のままに、両手をたくし上げたスカートの下から
突っ込むと、最小サイズのブラを上方へとずらし、外す。
701 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:29 ID:b+SGKAyQ
再び敏感になった突起物が擦れ、脳内で火花が散った。
「わぅん…っ」
甘い鳴き声を上げると、吐息を荒げながら震える両の掌を胸の頂点へと、
近づけていき、ごくりと、生唾を飲み込む。
そして――両の人差し指で同時に、いやらしく膨らみ勃つピンク色の肉を撫でた。
「――わうぅっ!?」
電気を流されたような快楽に、思わず背筋が伸びた。
その淫らな電気は、フェルナの上半身を嘗め尽くすと、脳を真っ白に染め上げる。
こっちも欲しいとばかりに子宮が疼き、肉のトンネルでこんこんと牝の汁を搾り、
下着を濡らしていく。
(き、きもちいいっ、きもちいい!)
「はっ! はっ! わぅんっ、わぅ……きゅううんっ」
本能が理性を圧倒する。腹から下を剥き出しにしたあられもない格好で、
乳首を、擦り、摘み、、捻り、そして弾く。
その度に脳裏に快楽のスパークが弾け、下着に淫らな染みを作っていく。
(もっと、もっと、もっと、もっと!)
「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」
いつの間にか、口の端からだらだらと涎が垂れ、足元の地面に糸を引いていた。
牝の汁を存分に吸ってしまった下着が幼い秘裂に張り付き、
いやらしく綻び始めた縦皺の隅々まで透けて見えた。
何度も慰め、劣情を静めてきた体だ、どこが一番感じるか、どういう順番が
より燃えられるか――自分の性感は体が覚えている。
それに従い、ただひたすら狂ったように双房とその頂点をこね回す。
やがて、外から流れ込んでくる例の臭気が気にならなくなるほど、
部屋の中が甘酸っぱい匂いで満たされ、その自分の発情臭で更に興奮する。
「わ、わ、わ、わぅぅぅぅっ!」
快楽にびくびくと体が震えた。
(い、いっちゃう! きもちよすぎて、いっちゃう!
フェルナ、お胸で、おむねでいっちゃうぅ!)
702 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:31 ID:b+SGKAyQ
絶頂を予感した体が痙攣する。愛らしい筈の目は欲情に濡れ、
焦点をぼやけさせる。だらしなく半開きにした口からは涎と共に舌まで垂れ、
銀色の粘着質の糸は冷たい板張りの床に小さな池溜まりを作る。
吐く息は冬でもないのに白い湯気が見えそうなほど、荒く、激しい。
やがて、
「わうっ! わぅっ! わぅっ! わうぅぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」
脳みその皺が無くなるのではないかと思うほどの快楽。
視界が真っ白に染まり、キーンと、耳鳴りまで聞こえる。
ビクビクビクビクッ! と体が痙攣し、すぐに体が硬直する。
痙攣した子宮が、何かを飲み込もうと蠢く膣が、大量の蜜を吐き出す。
「はっ、はっ、はっ…はっ……はっ……………はあぁぁ♪……」
じっくりと時間をかけて、筋肉が弛緩していく。
ぶしゅ、という音と共に、下着に張り付く幼い淫裂が、内側から
捲くり上がるように口を開き、湯気が立ちそうな程臭気の強い本気汁を吐き出す。
既に飽和状態だった下着は、それで給水量を遥かに超えてしまい、
さらけ出された太ももや内股に、淫らな光沢を付ける。
まるで浜辺に打ち上げれたクラゲのような有様になってしまったフェルナの顔には、
およそ、幼子には不釣合いな、雌が浮かべる喜悦の表情が浮かんでいた。
ふと。絶頂の余韻にぼんやりする意識の中、ある事にフェルナは気付く。
(――あ……この、フェルナを変にさせる、変な匂いって、)
「ネーアちゃんのエッチな匂いだぁ」
(ネーアちゃん。またエッチな事してるのかなぁ……)
廊下で、フェルナの目前で派手にオルガズムを迎えてしまったネーアの事を思い出す。
――またムラムラしてきた。
(お胸でいっちゃったから……もし、アソコを触ったらどうなるんだろう?)
「はあ……はあ……はあっ……」
気が付けば、また息が荒くなっている。際限の無い劣情、
そして快楽への期待に心臓が早鐘を打つ。
ごく自然に、両手が、水の中にでも入ったような下着へと伸びる。
張り付いた下着を、ズズズッ、とずり下ろす。
703 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:33 ID:b+SGKAyQ
「きゃうんっ!?」
捲くり上がり、物欲しそうにヒクヒクと脈打つ陰部が布地に擦られ、
快楽が弾けた。達した直後には強すぎる刺激に、体をわななかせ、
上と下の口から涎が垂れる。
(き、きもちよすぎっ)
想像以上の気持ち良さに、気後れする。
これ以上自慰を続ければ、ひょっとしたら壊れてしまうんじゃないのだろうか
――そんな不安と。恐らく生涯で最高の快楽を得られるかもしれない――
そんな期待を抱きながら、目線を落とした。
「うわあぁ」
露になった股間。何度も見てきたそこが、白っぽい愛液が糸を引き、
下着の中心部と繋がっている。
(くさいよお)
その雌の臭気、汁の多さに、湯気が立っていると錯覚を覚えそうだった。
耳を澄ますと――壊れたように動く心臓の音、再び荒くなる自分の吐息、
淫らな期待に蠢く唇口の粘着音、思い出したように吹き抜ける風の音、
――そして、パタパタと誰かが廊下を走る音が聞こえた。
反応が、遅れた。
バタンッ!
ノックも何もなしに問答無用で開かれるドア。
「フェルっち、フェルっち! 大ニュース! 大ニュース! さっきね!
庭の方でね! ネーアさんと、メライガさん……が…………」
「お、お姉ちゃんっ、女の子の部屋に入る時は、ちゃんとノックしないと、
っていつも言ってるでしょっ。何かあったらどうする……つもり、なの……?」
嵐のように飛び込んできた金髪の姉妹と、これから嵐の中へと
身を投じようとしていたフェルナの視線がばったりと合う。
口を「あ」の形にして固まる事数秒。
妹のコルタスが顔を真っ赤にすると、顔を両手で覆った。
704 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:34 ID:b+SGKAyQ
姉のポリタスが、口の形を「あ」から「え?」に変え、
続いて「んん?」となり、最後に「にやり」と歪ませる。
フェルナの顔は真っ青だった。
「ふふふふふふふふっ」
天使のような悪魔の笑顔を浮かべながら、ポリタスがフェルナににじり寄る。
「きゅうん……」
お仕置きをされる子犬のように体を震わせ、情けない声を上げる。
目前までやってきたポリタスが、すっと腰を下ろす。
ポンッ、と肩が叩かれた。
ポリタスが何か言おうと口を開き――あまりの臭気にかぶりをを振りつつ、
匂いを払おうと手をパタパタと振る。
その仕草がフェルナの心を酷く傷つけたのは言うまでも無い。
「ああ、ごめんごめん」
仕切り直しのつもりか、再び軽く肩を叩かれる。
「――で? どうだった? ……気持ちよかった?」
囁くようにポリタスの言葉に頭のてっぺんから足の指まで真っ赤になった。
ぷつんっ、と目に見えない何かが切れた。
「出てって――――――――――――――っ!!!」
***
フェルナが不幸な事故に遭っている間、ティジフォーン、レアクト、
メライガの折檻メイド達が、ティジフォーンの部屋へと集っていた。
「で? 話って何よ? こんな所まで呼び出して?」
「ネーアの事です」
気だるげにしているレアクトの問いにメライガが答える。
ネーアと言う名前に、ティジフォーンが忌々しげに顔を歪めた。
「彼女の様子、どことなくおかしいとは思いませんか?」
705 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:36 ID:b+SGKAyQ
「確かに。いつもニコニコ笑っちゃってさ、口数も増えたし、
力仕事まで出来るようになってる。水汲みの件に関しても未だに信じられない」
「反抗期で『むき』になっているだけでしょう」
(むきになっているのは貴方でしょう)
ティジフォーンの推論にメライガが心の中でほくそ笑む。
ティジフォーンに対してだけ、極稀に反抗するネーアに対し、
彼女は嫌がらせのようにネーアに仕事を与えている。
文句も泣き言も言わず、ネーアはそれすらも楽々とこなすのだが。
「そうかもしれません」
適当に相槌を打ちながら、今から言うべき事を脳内で整理する。
「だったらほっとけば? 別に私達にとって不都合な訳じゃないでしょう?
それとも何?『あれだけ』の仕打ちを受けながらまだあの子は、
ウラヌス様の事を諦めてないの?」
くっくっくっ、とレアクトが喉を鳴らす。
メライガがネーアに警告し、自害を促した日――ウラヌスの前で、
凶悪な張り型を使い強制的に絶頂させた時の事を言っているのだろう。
「違います」
「? じゃあ、あの子いまだにウラヌス様の事諦めてないの?」
「それも少し違います」
「はっきりおっしゃりなさい」
ティジフォーンが軽く叱咤する。
実際は、ネーアはウラヌスの事を完璧に諦めたのだろう。今日の行動を見れば
それは分かる。だがその理由が理解出来ない。いや理解出来ない事は、
それだけではない。
――常人では考えられないほどの筋力。怪しげな香水の匂い。
まるで獣のような過敏な反応。それに――
にたり、と口の端を歪めたネーアの顔が脳裏に浮かぶ。
あの狂気が見え隠れする笑顔を思い出す度に背筋が寒くなる。
706 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:37 ID:b+SGKAyQ
(あのような人間を野放しにする訳にはいかない。きっと何か、
良くない事を起こす)
それは確信めいたものだった。
だが、先程の事件を包み隠さず二人に説明する事はしない。
ネーアがウラヌスを振った事を話せば、
少なくとも私達にとっては脅威が減った事が分かる。
メライガがネーアに襲われた事を話しても。ただ笑い話の種になるだけだろう。
「メライガ?」
「どうしたのですか?」
二人に協力を呼びかける為には、少しばかり真実に脚色を加える必要がある。
メライガはティジフォーンを見、レアクトを見ると、静かに宣言した。
「彼女は、ウラヌス様を諦めるどころか、他の者と二股を掛けています」
『……っ!?』
ティジフォーンとレアクトが驚愕の表情を浮かべる。
「――はっ。ただの臆病者かと思ったら。とんだ食わせ者ね。
尻が軽いったりゃありゃしない」
「……っ……っ…!」
レアクトは興奮気味に話、ティジフォーンは怒りに身を振るわせる。
「それは、本当なのですか?」
ティジフォ-ンが尋ねる。それが問題だった。捏造した事実には根拠が無い。
適当な事を言って誤魔化そうとした時、助け舟は意外な所からやってきた。
「それ多分本当よ」
レアクトだった。
(どういう事です?)
「あの子、今でも毎夜のように折檻部屋に足を運ぶのを、私見てる」
「そうですか。そういう事ですか…!」
ティジフォーンが、ばんっ、と化粧台を掌で叩きつける。
「夜、ネーアを呼び出します」
「問い詰める気ですか?」
707 名前:乙×風【無限の果肉 第七話】 :04/05/21 11:38 ID:b+SGKAyQ
「他にどうしろと言うのです!?」
完全に頭に血が上ったティジフォーンをなだめるように言う。
「夜中に折檻部屋に行くのは分かっているんです」
「――ああ、そうね」
こちらの意図に気付いたのかレアクトが得心したように頷く。
「後を着けましょう。弱みを握るんです」
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