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富士神学園天文部2
319 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:26:22 ID:8GsoLCeW
お待たせしました。新作の続きを投下します。
今回はキャラ紹介編なのでエロは薄め。
富士神学園天文部2
目が覚めると、見知らぬ部屋に居た。
生活感の薄い、小綺麗な部屋だ。勉強机やテーブル。タンスなど、最低限の物しか無い。
静葉は体を起こす。二段ベッドの上で寝ていたらしく視界が高い。
自分の格好も寝間着ではなく何故か私服姿だった。
(校舎が見える)
窓の向こうに毎日通っている成櫻学園の高等部校舎が見えた。ここは寮らしい。
(あれ? 私、確か昨日――)
寝起きの頭を無理矢理回転させる。
昨日は日曜日。友達の優衣と出かける約束をしていたのだが、土曜日の夜から連絡が付かなくなる。
学園内で噂の失踪事件に巻き込まれてしまったのかと心配しながら週末を過ごし、
明日の授業に備えて寝ようかと思った時、本人から『合いたい』とメールが届いたのだ。
その後は、確か、
化け物に犯される優衣の姿がフラッシュバックした。
(私も、優衣ちゃんも、化け物に、襲われたっ)
触手を生やした三角錐型の肉柱。あれの白濁液を被り、飲まされ、挙げ句の果てにタップリと中出しされた。
(私の身体、汚れちゃったんだ…!)
異形の精液は雌の本能を刺激し、化け物が相手の初めてのセックスではしたなく喘いでしまった。
だがあの圧倒的な快楽。絶頂の余韻は未成熟の精神には刺激が強すぎた。
そう、媚薬に焦がれた子宮は今にも切なく疼いて、
「あれ?」
(身体、何ともない)
下腹部からは性交の後を窺わせる、ひきつるような痛みがあるだけ。
静葉はそっと自分の下着をずらして下腹部を直に確認する。
「――何これ?」
臍と女性器の間に、紙切れが貼ってあった。
ミミズがのたくったような文字が書いており、何かのお札に見える。
「目が覚めた?」
「きゃあ!?」
部屋の視角外から急に声が掛かり、慌ててスカートを下ろす。
「だだだだ、誰ですか!? 人の部屋にノックもせずに入ってっ…」
「ここ私の部屋なんだけど?」
「――え?」
はたと正気に戻り、二段ベッドの上から顔を出す。
腰に手を当てながら仏頂面をしている女子生徒が居た。
(――あ、昨日、私達を助けてくれた子だ)
「それだけ元気なら大丈夫ね。降りてきなさいよ。朝ご飯、買ってきたから」
「えと…」
「食べないなら貴方の分も私がもらうわよ?」
ぎゅるるるぅ、と腹の虫が抗議の声を上げる。
「あの、ごちそうになります」
「素直でよろしい」
静葉は顔を赤くしながらベッドから降りる。
件の少女は、テーブルの上に購買で買ってきたらしいパンやお握りを並べ始める。
デザートにプリンまであるあたり、気を使ってくれているのだろうか。
320 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:27:19 ID:8GsoLCeW
「どこまで覚えてる?」
「――それって昨日の事ですか?」
「そうよ」
簡潔に受け答えする少女。じっくりと顔を眺めるのは初めてだが、彼女は美人だった。
形のいい柳眉、透き通るような黒髪。眼光は鋭く、意志の強さを伺い知れる。
だが始終浮かべた仏頂面と素っ気ない言葉遣いから、綺麗だが近寄り難い雰囲気を放っていた。
しかし静葉も自他共に天然で通っているおっとり娘だ。
化け物相手はともかく、同世代の女の子には遅れはとらない。
「あの、嫌だけど――気持ち良かったです」
静葉なりの冗談のつもりだった。
「次は助けないわよ」
「いえっ、あのっ、冗談ですから! 御免なさい!」
青筋を浮かべた少女に頭を下げる。
ゴツンっ!
「痛!?」
勢い余ってテーブルに頭突きを食らわしてしまう。
その様子を見た少女も毒気を抜かれ、もとい、呆れた様子だった。
「貴方それ天然?」
「…はい…不本意ながら…」
「そんなんじゃきっと妖魔も萎えるわね」
「妖魔?」
「富士神学園女子生徒失踪事件の原因。貴方達を犯していた化け物の事よ」
「…妖魔」
その言葉を噛みしめる。自分を辱め、友の人格をねじ曲げた異形。静葉にとっては恐怖の対象でしかない。
「もう分かっていると思うけど。あいつらは女を犯す事に特化した化け物よ。
奴らの体液には濃縮された妖気が宿っているわ。妖気は身体も魂も汚して、人間を堕落させる。
一度や二度なら浄化出来るけど何度も受ければ妖気はどんどん蓄積されて、やがて正気を失うわ」
「――そんな」
「身体が穢れればもう、妖魔と交わることしか考えられなくなる。
そして妖気の蓄積量が増えれば――妖魔を孕んでしまうわ」
「え…」
あんな化け物を産むというのか。
(しかもその妖魔の子供が優衣ちゃんや私を襲ったように、他の女の子を襲うって事?)
「安心しなさい。貴方は平気よ」
少女の言葉に安堵の息が漏れるが、ふと気付いた。
「優衣ちゃんは!?」
ベッドで寝ている友人は果たして大丈夫なのか?
「その子は、私にはどうしようも出来ないわ。妖気の蓄積量が多すぎる。
今は無理矢理眠らせる事で誤魔化してるけど、それも応急処置みたいなものよ。
――多分何回もあいつ等に――」
ぎり、と怒りで歯を食いしばる少女。
「そんな、それじゃ優衣ちゃん。もう、戻らないんですか!?」
「大丈夫。安心して。仲間を呼んでいるの。
すぐには来れないけど、その人は浄化のプロで貴方の友達も治してもらえるわ」
(…そっかぁ、良かったぁ)
「――あの、結局あなたは何なんですか?
妖魔を知ってたり、浄化とか、昨日は刀まで使って妖魔をやっつけて…」
「そう言えば自己紹介もしてなかったわね」
「あ。はい、そうでした。私は高等部二年三組の美原静葉です」
「私は二年四組の藤間天音。一昨日転校してきた――退魔士よ」
話はそれで終わりだとばかりに天音と名乗った少女は昆布のお握りを頬張った。
321 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:28:44 ID:8GsoLCeW
***
「授業はどうするの?」
ビニール袋にゴミを詰めながら天音が聞いてくる。
携帯を開くと八時前だ。そろそろ支度をしないと間に合わない。
「え? 学校行くつもりですけど」
「止めて起きなさい」
「え? どうしてですか?」
「貴方には分からないでしょうけど。もう学園の中には妖魔に襲われて、
奴らの言いなりになっている生徒が何人も居る筈だわ。
貴方は一度私に助けられているからマークされてる可能性が高いの」
紙パックのイチゴミルクをストローで啜る。
「それって、また、襲われちゃう、って事ですか?」
「そう。だからここに居なさい。結界も張ってあるから、下級妖魔如きじゃ手も足も出ないわ」
飲み干したイチゴミルクをビニールへ。
一瞬、静葉の分のプリンへ視線が揺らいだ気がした。
「…分かりました」
「そうしなさい。ところでどうして敬語を使ってるの? 同い年なのに?」
「何となく、です」
天音が発するオーラがどうしても同年代のものとは思えず、姉のような気がする――だからだろうか。
「まあ、確かに貴方みたいなチンチクリンと私が同い年と言われても信じられないけどね?」
ぽんぽん、と頭を軽く叩かれる。
「ああ酷い! 気にしてるのに!」
「それはごめんなさい」
(あ、天音さん。少しだけ笑った)
天音の笑顔は同性から見ても綺麗で、それに可愛かった。
「さて」
天音は立ち上がる。笑顔は消えていたが一瞬、視線がプリンに向いた。
「どこに行くんですか?」
「登校するのよ。転校生だもの。初日からサボるわけにはいかないわ。それに、」
「それに?」
「動き回れば、奴らの方から近づいてくれるかも知れないしね?」
そう言うと、部屋のドアを開ける。
「ああそうそう。お腹に貼った清めの札。もう捨てて良いわよ」
「え?」
「貴方のアソコ、ツルツルで可愛かったわよ?」
「――あ、あっ…!」
(み、見られたんだ!)
「それじゃ」
ばたん。ドアが閉まる。
静寂が支配する部屋で静葉の顔が見る見るうちに朱くなっていく。
「天音さんのバカぁっ!」
隣の部屋に聞こえるくらい大きな声で叫んだ。
322 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:31:01 ID:8GsoLCeW
***
「藤間さん!? 趣味は何ですか!?」
「スリーサイズ教えて下さい!」
「僕を変態と罵ってぇ!」
転校初日のホームルーム。藤間天音は辟易していた。転校生の登竜門。質問責めである。
特に男子共は容赦というよりデリカシーがない。下ネタを普通に混ぜてくる。
(切り捨ててやろうか…!)
天音が妖魔退治に使う『蛇媚螺』は実体を持たない霊刀だ。彼女の意志一つで虚空より顕現する。
刀身を自在に変質させ、鞭のように振るったり、刀身自体を何本にも増やす事も可能だ。
無茶をするなら相応の集中力が必要とされるが、下品な男子の制服だけを切り裂いて、裸に剥くくらいは出来る。「止めなさいよこのケダモノ! 藤間さん嫌がってるじゃない!」
ところが天音の怒りが頂点に達する前に、女子生徒が怒鳴り散らす。
それで天音の溜飲もいくらか下がった。
「御免なさい藤間さん。内のクラスの男子、猿ばっかりで」
「――」
だが天音はだんまりを決め込む。
「えっと、あの? 天音さん?」
「――」
やはり無視。だがその女子も負けずに食い付いた。
「私、富山真子。クラス委員長をしてるから。何か分からないことが遠慮しないで聞いてね?」
アホ毛が特徴のクラス委員長は精一杯の笑顔を浮かべながら天音に接してくる。
だが天音は彼女を見返そうともしなかった。まるで眼中に無いとでも言うように。
他の者も天音の人格をようやく理解したらしく、一人、また一人と彼女から興味を失い離れていく。
(それでいい)
どうせ妖魔を倒せばまた転校する。交友関係など作るだけ無駄だ。
静葉を助け、部屋に置いているのも成り行きに過ぎない。少なくとも天音はそう思っていた。
「皆、席に着け-」
気まずい沈黙を破るように、教師が入って来る。そして退屈な授業が始まった。
***
そして放課後。天音は帰り支度を進めながらある少女を見ていた。
(このクラスにも、もう犠牲者が…)
退魔の稼業を始めてから三年。実戦で鍛えられた霊感が、一人の女子生徒から強力な妖気を感じ取る。
彼女はどこかぼんやりとしていて、たまに思い出したかのように熱い吐息を吐き出した。
「藤間さん?」
と、その少女が突然、天音に話しかけてくる。
急な接触に僅かに動揺するが、平静を装いながら聞き返した。
「――何?」
「部活動、何をするか、決めましたか?」
「まだよ」
まさかと思いつつ、一応会話をしてやる。
「だったら是非、天文学部に入りませんか!?」
「天文学部?」
「はい! 夜に皆で集まるんです!」
(夜? ――ああ、そういう事か)
天音は内心でほくそ笑んだ。なんて事はない。これは『お誘いだ』。
「それは面白そうね」
「はい! とっても楽しいですよ! 藤間さんも絶対に気に入ってくれます!」
興奮気味に話すクラスメート。彼女の体に充満している妖気が漏れ出し、
雌の臭いと一緒に周囲に撒き散らす。この娘も、どうやらもう手遅れらしかった。
(すぐに解放してあげる。この学園に巣くう、妖魔を滅ぼしてね)
「そこまで言うなら一度見学してみるわ。どこに集合?」
「体育館です」
「屋外じゃないの?」
「今日は発表会なんです。最初は視聴覚室を借りていたんですが部員が増えてしまって…」
「…そう」
323 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:32:03 ID:8GsoLCeW
(なる程。今日は『集会』と言うことか。部員の増加はそのまま犠牲者の増加に繋がる)
今晩、体育館では多人数でのサバトが開かれるのだろう。
だとすれば、そこにターゲットがいる可能性も高い。
下級妖魔を従える上級妖魔が。
(転校初日でこれとは、千載一遇のチャンスね)
「天音さん。私が迎えに行きますから。寮のお部屋を教えて下さい」
「ああ。私の部屋は――」
かくして。天音は、狙い通り学園を支配する妖魔と討つチャンスを得た。
だがそれが妖魔の仕掛けた罠だと気付く事はない。
「楽しみにして下さいね♪」
クラスメートの少女は、淫蕩な笑みを浮かべた。
***
その後。天音は校舎内を練り歩き妖魔の気配を探っていた。
(マズいわね。昼は分からなかったど。暗くなるにつれて、学校全体から妖気を感じる。
思ったよりも奴らの進行が早いわ)
不可解な点も他にある。これだけの妖気を感じるのに、他の生徒達は何も感じていない事だ。
普通なら精神に異常をきたし始めるレベルだというのに。
(しかもこれだけの妖気、どこかに発生源が有る筈だ)
だがそれがどこかも分からない。
「お大事に」
「はい。ありがとうございます」
目の前を通り過ぎようとした保健室からクラス委員長の富山真子が出て来る。
「体の調子でも悪いの?」
「うっひゃあ!?」
(そこまで驚く?)
確かに後ろから話しかけたが。
「藤間さん!? もう、ビックリさせないでよっ」
富山の言葉は無視してちらりと保健室の中を覗き見る。
天音の視線に美人の保険医が気付いて、にこやかに手を振ってた。
(妖気は感じないわね)
保健室、という単語に退魔士の本能が引っかかったが異常は見あたらない。
「私、あれが重くて」
「――え?」
いきなりの告白に天音が目を丸くする。
「そのリアクションスッゴイ失礼だと思うんだけど? ひょっとして私独り恥をかいちゃったの!?」
「いえ、そんな事を言われれば誰でも――」
「藤間さんから話を振ったんじゃない! 責任取ってよ!」
「悪いけど急用を思いだしたわ」
さっさとその場から離れる。
324 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:33:06 ID:8GsoLCeW
「こらっ、逃げるな!」
面倒は御免だった。
(しかし妖気の発生源が特定出来ない。こんな事は初めてだわ)
ひょっとしたら今度の敵は妖気を自由に操る事が出来るのかも知れない。厄介な相手だった。
「けれどそれも、今日までよ」
新たな犠牲者を出さないためにも。今晩で勝負を決める。そう天音は決意した。
***
「藤間さん行きましたよ?」
保健室の中へと、委員長の富山が声を掛ける。
ジュルルル――それに答えるように保健室から妖魔の触手が伸びた。
「あん♪」
触手に捕まり、保健室へと引き込まれる富山。
「あれが噂の藤間天音ね?」
「もう。どうせ夜になったら皆で相手をしてあげるのに、こんな時まで真面目に退魔士しなくてもいいのに」
「お預け食らったものね」
保険医がベッドをし切りカーテンを引いた。
「あんっ! イっちゃう! またイっちゃうよぉ!」
「触手、触手好きい!」
「ハラませて! 赤ちゃん産ませてぇ!」
カーテンの布切れ一枚を隔てた向こう側。
そこでは、三人の女子が下級妖魔にしがみつきながら、自ら腰を振っていた。
富山に触手を伸ばしているのは、一匹だけあぶれていた妖魔だ。
「あぁん皆あんなにヨガって…私も我慢出来ない…」
制服姿のまま妖魔に自ら抱き付く富山。天音に見せた顔とはまるで別人のように彼女の表情は淫靡だった。
***
天音は放課後、暗くなるまで校内を散策していたが結局成果らしいモノは無かった。
空腹感が襲い掛かり売店で夕食を買ってから寮に戻る。
「今戻ったわ」
「あ、お帰りなさい天音さん♪」
人懐っこい笑顔が天音を出迎える。飼い犬が尻尾を振って主人の帰りを迎えるようだった。
「あ、ああ…」
こう見えても天音は甘いものと可愛いモノに目がない。無邪気な静葉の笑顔に心がぐらついた。
「遅くなって悪かったな。腹が減っただろう」
「はい!」
昼も食べてないはずだから、空腹な筈だ。
売店で買ってきたモノをテーブルに並べて質素なディナータイムとなった。
「お手数をおかけします」
「気にしないでいいわ。当然の事をしてるだけだし」
「いえいえ。助けてくれた上にご飯までご馳走になって、私も感謝感激アメアラレ、です!」
325 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:34:04 ID:8GsoLCeW
「…そう」
「と言うわけで私からささやかな恩返しをさせて下さいっ」
どん、とテーブルに置かれる平べったい箱。
(こ、これは!?)
「そうです! かの有名洋菓子店『碧』の生菓子セット! 3,880円なり!
私の取って置きです。一緒に食べましょう♪」
「ごくり――」
餌付けされているとも知らずに、天音は生唾を飲み込んだ。
「し、しょうがないわね。どうしてもというなら付き合ってもいいわ」
評判のカステラに遠慮無く手を伸ばし――ふと気付いてしまった。
「ちょっと待って、これを一体どこから持ってきたの?」
「はい? 私の部屋からですけど?」
「ここから出たの!?」
「え? あの、だって下着とかも昨日のままだし、着替えを取りに行きたかったんです」
「何かあれば私に言って、と言ったでしょ!?」
「ふえっ、そんなに怒らなくても…っ」
(う、しまったわ)
半泣きになっている静葉を見て罪悪感に捕らわれる。
「私っ、天音さんに喜んでもらおうと思っただけなのにっ」
静葉の気持ちは痛いほど分かったが、それを素直に認める程天音は正直な人間ではない。
「私がいつそんな事を頼んだの? 余計なお世話よ」
(天の邪鬼にもほどがあるわ!)
生粋の口の悪さがここでも遺憾なく発揮され、天音は内心で頭を抱えた。
「助ける方の身にもなってよ。これ以上、手間を掛けさせないで」
「ご、ごめんなさいっ――ぐずっ」
静葉はとうとう鼻を鳴らして泣き始める。何の罪もない女の子を泣かせた自分が情けない。
――こんこんっ。
その時、気まずい空気を打ち払うように部屋のドアがノックされた。
『藤間さん? お迎えに来ました』
「待って。すぐに行くわ」
「ぐすっ。天音さん?」
「仕事だ。少し遅くなるかも知れないわ。先に寝ていて」
「あの、私に何か出来ないですか? お手伝い、」
「足手まといよ」
「ふえっ…御免なさい」
再び静葉の瞳から涙が溢れる。見ていられなくて顔を背け、それから小さく呟いた。
「――あまり、心配を掛けさせないで…」
「…え…?」
「何でもないわ。行ってくる――そうだ、私が戻るまで、絶対部屋を出ないで。
それに誰か他の人を入れても駄目。約束して?」
326 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:37:41 ID:8GsoLCeW
「…分かりました」
「そう。じゃあ、行ってくるわ」
「あの!」
「…何?」
「朝のプリン残してありますから。戻ったら食べて下さい」
「……ばか」
小さく呟くと天音は部屋を出る。その言葉が照れ隠しだと静葉にも分かっていたらしく。
あどけない顔は涙に塗れながらも微笑んでいた。
***
以上で第二話終了です。
投下してから気付きました。
天音を勧誘する生徒の台詞が少しおかしい。
『天文学部』じゃなくて『天文部』ですね。はい。
お手数をおかけしますが脳内変換を宜しくお願いします。
ついでにエロ少なめで申し訳ない。
というか寄生替えの保守レスの方がよっぽどエロスでした。314氏GJです。
さて話的には次回投下分で折り返し地点となります。
今回薄かった分次回は濃い目です。
天音が敵地のど真ん中でニョロニョロされる予定。
ではまた。
お待たせしました。新作の続きを投下します。
今回はキャラ紹介編なのでエロは薄め。
富士神学園天文部2
目が覚めると、見知らぬ部屋に居た。
生活感の薄い、小綺麗な部屋だ。勉強机やテーブル。タンスなど、最低限の物しか無い。
静葉は体を起こす。二段ベッドの上で寝ていたらしく視界が高い。
自分の格好も寝間着ではなく何故か私服姿だった。
(校舎が見える)
窓の向こうに毎日通っている成櫻学園の高等部校舎が見えた。ここは寮らしい。
(あれ? 私、確か昨日――)
寝起きの頭を無理矢理回転させる。
昨日は日曜日。友達の優衣と出かける約束をしていたのだが、土曜日の夜から連絡が付かなくなる。
学園内で噂の失踪事件に巻き込まれてしまったのかと心配しながら週末を過ごし、
明日の授業に備えて寝ようかと思った時、本人から『合いたい』とメールが届いたのだ。
その後は、確か、
化け物に犯される優衣の姿がフラッシュバックした。
(私も、優衣ちゃんも、化け物に、襲われたっ)
触手を生やした三角錐型の肉柱。あれの白濁液を被り、飲まされ、挙げ句の果てにタップリと中出しされた。
(私の身体、汚れちゃったんだ…!)
異形の精液は雌の本能を刺激し、化け物が相手の初めてのセックスではしたなく喘いでしまった。
だがあの圧倒的な快楽。絶頂の余韻は未成熟の精神には刺激が強すぎた。
そう、媚薬に焦がれた子宮は今にも切なく疼いて、
「あれ?」
(身体、何ともない)
下腹部からは性交の後を窺わせる、ひきつるような痛みがあるだけ。
静葉はそっと自分の下着をずらして下腹部を直に確認する。
「――何これ?」
臍と女性器の間に、紙切れが貼ってあった。
ミミズがのたくったような文字が書いており、何かのお札に見える。
「目が覚めた?」
「きゃあ!?」
部屋の視角外から急に声が掛かり、慌ててスカートを下ろす。
「だだだだ、誰ですか!? 人の部屋にノックもせずに入ってっ…」
「ここ私の部屋なんだけど?」
「――え?」
はたと正気に戻り、二段ベッドの上から顔を出す。
腰に手を当てながら仏頂面をしている女子生徒が居た。
(――あ、昨日、私達を助けてくれた子だ)
「それだけ元気なら大丈夫ね。降りてきなさいよ。朝ご飯、買ってきたから」
「えと…」
「食べないなら貴方の分も私がもらうわよ?」
ぎゅるるるぅ、と腹の虫が抗議の声を上げる。
「あの、ごちそうになります」
「素直でよろしい」
静葉は顔を赤くしながらベッドから降りる。
件の少女は、テーブルの上に購買で買ってきたらしいパンやお握りを並べ始める。
デザートにプリンまであるあたり、気を使ってくれているのだろうか。
320 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:27:19 ID:8GsoLCeW
「どこまで覚えてる?」
「――それって昨日の事ですか?」
「そうよ」
簡潔に受け答えする少女。じっくりと顔を眺めるのは初めてだが、彼女は美人だった。
形のいい柳眉、透き通るような黒髪。眼光は鋭く、意志の強さを伺い知れる。
だが始終浮かべた仏頂面と素っ気ない言葉遣いから、綺麗だが近寄り難い雰囲気を放っていた。
しかし静葉も自他共に天然で通っているおっとり娘だ。
化け物相手はともかく、同世代の女の子には遅れはとらない。
「あの、嫌だけど――気持ち良かったです」
静葉なりの冗談のつもりだった。
「次は助けないわよ」
「いえっ、あのっ、冗談ですから! 御免なさい!」
青筋を浮かべた少女に頭を下げる。
ゴツンっ!
「痛!?」
勢い余ってテーブルに頭突きを食らわしてしまう。
その様子を見た少女も毒気を抜かれ、もとい、呆れた様子だった。
「貴方それ天然?」
「…はい…不本意ながら…」
「そんなんじゃきっと妖魔も萎えるわね」
「妖魔?」
「富士神学園女子生徒失踪事件の原因。貴方達を犯していた化け物の事よ」
「…妖魔」
その言葉を噛みしめる。自分を辱め、友の人格をねじ曲げた異形。静葉にとっては恐怖の対象でしかない。
「もう分かっていると思うけど。あいつらは女を犯す事に特化した化け物よ。
奴らの体液には濃縮された妖気が宿っているわ。妖気は身体も魂も汚して、人間を堕落させる。
一度や二度なら浄化出来るけど何度も受ければ妖気はどんどん蓄積されて、やがて正気を失うわ」
「――そんな」
「身体が穢れればもう、妖魔と交わることしか考えられなくなる。
そして妖気の蓄積量が増えれば――妖魔を孕んでしまうわ」
「え…」
あんな化け物を産むというのか。
(しかもその妖魔の子供が優衣ちゃんや私を襲ったように、他の女の子を襲うって事?)
「安心しなさい。貴方は平気よ」
少女の言葉に安堵の息が漏れるが、ふと気付いた。
「優衣ちゃんは!?」
ベッドで寝ている友人は果たして大丈夫なのか?
「その子は、私にはどうしようも出来ないわ。妖気の蓄積量が多すぎる。
今は無理矢理眠らせる事で誤魔化してるけど、それも応急処置みたいなものよ。
――多分何回もあいつ等に――」
ぎり、と怒りで歯を食いしばる少女。
「そんな、それじゃ優衣ちゃん。もう、戻らないんですか!?」
「大丈夫。安心して。仲間を呼んでいるの。
すぐには来れないけど、その人は浄化のプロで貴方の友達も治してもらえるわ」
(…そっかぁ、良かったぁ)
「――あの、結局あなたは何なんですか?
妖魔を知ってたり、浄化とか、昨日は刀まで使って妖魔をやっつけて…」
「そう言えば自己紹介もしてなかったわね」
「あ。はい、そうでした。私は高等部二年三組の美原静葉です」
「私は二年四組の藤間天音。一昨日転校してきた――退魔士よ」
話はそれで終わりだとばかりに天音と名乗った少女は昆布のお握りを頬張った。
321 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:28:44 ID:8GsoLCeW
***
「授業はどうするの?」
ビニール袋にゴミを詰めながら天音が聞いてくる。
携帯を開くと八時前だ。そろそろ支度をしないと間に合わない。
「え? 学校行くつもりですけど」
「止めて起きなさい」
「え? どうしてですか?」
「貴方には分からないでしょうけど。もう学園の中には妖魔に襲われて、
奴らの言いなりになっている生徒が何人も居る筈だわ。
貴方は一度私に助けられているからマークされてる可能性が高いの」
紙パックのイチゴミルクをストローで啜る。
「それって、また、襲われちゃう、って事ですか?」
「そう。だからここに居なさい。結界も張ってあるから、下級妖魔如きじゃ手も足も出ないわ」
飲み干したイチゴミルクをビニールへ。
一瞬、静葉の分のプリンへ視線が揺らいだ気がした。
「…分かりました」
「そうしなさい。ところでどうして敬語を使ってるの? 同い年なのに?」
「何となく、です」
天音が発するオーラがどうしても同年代のものとは思えず、姉のような気がする――だからだろうか。
「まあ、確かに貴方みたいなチンチクリンと私が同い年と言われても信じられないけどね?」
ぽんぽん、と頭を軽く叩かれる。
「ああ酷い! 気にしてるのに!」
「それはごめんなさい」
(あ、天音さん。少しだけ笑った)
天音の笑顔は同性から見ても綺麗で、それに可愛かった。
「さて」
天音は立ち上がる。笑顔は消えていたが一瞬、視線がプリンに向いた。
「どこに行くんですか?」
「登校するのよ。転校生だもの。初日からサボるわけにはいかないわ。それに、」
「それに?」
「動き回れば、奴らの方から近づいてくれるかも知れないしね?」
そう言うと、部屋のドアを開ける。
「ああそうそう。お腹に貼った清めの札。もう捨てて良いわよ」
「え?」
「貴方のアソコ、ツルツルで可愛かったわよ?」
「――あ、あっ…!」
(み、見られたんだ!)
「それじゃ」
ばたん。ドアが閉まる。
静寂が支配する部屋で静葉の顔が見る見るうちに朱くなっていく。
「天音さんのバカぁっ!」
隣の部屋に聞こえるくらい大きな声で叫んだ。
322 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:31:01 ID:8GsoLCeW
***
「藤間さん!? 趣味は何ですか!?」
「スリーサイズ教えて下さい!」
「僕を変態と罵ってぇ!」
転校初日のホームルーム。藤間天音は辟易していた。転校生の登竜門。質問責めである。
特に男子共は容赦というよりデリカシーがない。下ネタを普通に混ぜてくる。
(切り捨ててやろうか…!)
天音が妖魔退治に使う『蛇媚螺』は実体を持たない霊刀だ。彼女の意志一つで虚空より顕現する。
刀身を自在に変質させ、鞭のように振るったり、刀身自体を何本にも増やす事も可能だ。
無茶をするなら相応の集中力が必要とされるが、下品な男子の制服だけを切り裂いて、裸に剥くくらいは出来る。「止めなさいよこのケダモノ! 藤間さん嫌がってるじゃない!」
ところが天音の怒りが頂点に達する前に、女子生徒が怒鳴り散らす。
それで天音の溜飲もいくらか下がった。
「御免なさい藤間さん。内のクラスの男子、猿ばっかりで」
「――」
だが天音はだんまりを決め込む。
「えっと、あの? 天音さん?」
「――」
やはり無視。だがその女子も負けずに食い付いた。
「私、富山真子。クラス委員長をしてるから。何か分からないことが遠慮しないで聞いてね?」
アホ毛が特徴のクラス委員長は精一杯の笑顔を浮かべながら天音に接してくる。
だが天音は彼女を見返そうともしなかった。まるで眼中に無いとでも言うように。
他の者も天音の人格をようやく理解したらしく、一人、また一人と彼女から興味を失い離れていく。
(それでいい)
どうせ妖魔を倒せばまた転校する。交友関係など作るだけ無駄だ。
静葉を助け、部屋に置いているのも成り行きに過ぎない。少なくとも天音はそう思っていた。
「皆、席に着け-」
気まずい沈黙を破るように、教師が入って来る。そして退屈な授業が始まった。
***
そして放課後。天音は帰り支度を進めながらある少女を見ていた。
(このクラスにも、もう犠牲者が…)
退魔の稼業を始めてから三年。実戦で鍛えられた霊感が、一人の女子生徒から強力な妖気を感じ取る。
彼女はどこかぼんやりとしていて、たまに思い出したかのように熱い吐息を吐き出した。
「藤間さん?」
と、その少女が突然、天音に話しかけてくる。
急な接触に僅かに動揺するが、平静を装いながら聞き返した。
「――何?」
「部活動、何をするか、決めましたか?」
「まだよ」
まさかと思いつつ、一応会話をしてやる。
「だったら是非、天文学部に入りませんか!?」
「天文学部?」
「はい! 夜に皆で集まるんです!」
(夜? ――ああ、そういう事か)
天音は内心でほくそ笑んだ。なんて事はない。これは『お誘いだ』。
「それは面白そうね」
「はい! とっても楽しいですよ! 藤間さんも絶対に気に入ってくれます!」
興奮気味に話すクラスメート。彼女の体に充満している妖気が漏れ出し、
雌の臭いと一緒に周囲に撒き散らす。この娘も、どうやらもう手遅れらしかった。
(すぐに解放してあげる。この学園に巣くう、妖魔を滅ぼしてね)
「そこまで言うなら一度見学してみるわ。どこに集合?」
「体育館です」
「屋外じゃないの?」
「今日は発表会なんです。最初は視聴覚室を借りていたんですが部員が増えてしまって…」
「…そう」
323 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:32:03 ID:8GsoLCeW
(なる程。今日は『集会』と言うことか。部員の増加はそのまま犠牲者の増加に繋がる)
今晩、体育館では多人数でのサバトが開かれるのだろう。
だとすれば、そこにターゲットがいる可能性も高い。
下級妖魔を従える上級妖魔が。
(転校初日でこれとは、千載一遇のチャンスね)
「天音さん。私が迎えに行きますから。寮のお部屋を教えて下さい」
「ああ。私の部屋は――」
かくして。天音は、狙い通り学園を支配する妖魔と討つチャンスを得た。
だがそれが妖魔の仕掛けた罠だと気付く事はない。
「楽しみにして下さいね♪」
クラスメートの少女は、淫蕩な笑みを浮かべた。
***
その後。天音は校舎内を練り歩き妖魔の気配を探っていた。
(マズいわね。昼は分からなかったど。暗くなるにつれて、学校全体から妖気を感じる。
思ったよりも奴らの進行が早いわ)
不可解な点も他にある。これだけの妖気を感じるのに、他の生徒達は何も感じていない事だ。
普通なら精神に異常をきたし始めるレベルだというのに。
(しかもこれだけの妖気、どこかに発生源が有る筈だ)
だがそれがどこかも分からない。
「お大事に」
「はい。ありがとうございます」
目の前を通り過ぎようとした保健室からクラス委員長の富山真子が出て来る。
「体の調子でも悪いの?」
「うっひゃあ!?」
(そこまで驚く?)
確かに後ろから話しかけたが。
「藤間さん!? もう、ビックリさせないでよっ」
富山の言葉は無視してちらりと保健室の中を覗き見る。
天音の視線に美人の保険医が気付いて、にこやかに手を振ってた。
(妖気は感じないわね)
保健室、という単語に退魔士の本能が引っかかったが異常は見あたらない。
「私、あれが重くて」
「――え?」
いきなりの告白に天音が目を丸くする。
「そのリアクションスッゴイ失礼だと思うんだけど? ひょっとして私独り恥をかいちゃったの!?」
「いえ、そんな事を言われれば誰でも――」
「藤間さんから話を振ったんじゃない! 責任取ってよ!」
「悪いけど急用を思いだしたわ」
さっさとその場から離れる。
324 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:33:06 ID:8GsoLCeW
「こらっ、逃げるな!」
面倒は御免だった。
(しかし妖気の発生源が特定出来ない。こんな事は初めてだわ)
ひょっとしたら今度の敵は妖気を自由に操る事が出来るのかも知れない。厄介な相手だった。
「けれどそれも、今日までよ」
新たな犠牲者を出さないためにも。今晩で勝負を決める。そう天音は決意した。
***
「藤間さん行きましたよ?」
保健室の中へと、委員長の富山が声を掛ける。
ジュルルル――それに答えるように保健室から妖魔の触手が伸びた。
「あん♪」
触手に捕まり、保健室へと引き込まれる富山。
「あれが噂の藤間天音ね?」
「もう。どうせ夜になったら皆で相手をしてあげるのに、こんな時まで真面目に退魔士しなくてもいいのに」
「お預け食らったものね」
保険医がベッドをし切りカーテンを引いた。
「あんっ! イっちゃう! またイっちゃうよぉ!」
「触手、触手好きい!」
「ハラませて! 赤ちゃん産ませてぇ!」
カーテンの布切れ一枚を隔てた向こう側。
そこでは、三人の女子が下級妖魔にしがみつきながら、自ら腰を振っていた。
富山に触手を伸ばしているのは、一匹だけあぶれていた妖魔だ。
「あぁん皆あんなにヨガって…私も我慢出来ない…」
制服姿のまま妖魔に自ら抱き付く富山。天音に見せた顔とはまるで別人のように彼女の表情は淫靡だった。
***
天音は放課後、暗くなるまで校内を散策していたが結局成果らしいモノは無かった。
空腹感が襲い掛かり売店で夕食を買ってから寮に戻る。
「今戻ったわ」
「あ、お帰りなさい天音さん♪」
人懐っこい笑顔が天音を出迎える。飼い犬が尻尾を振って主人の帰りを迎えるようだった。
「あ、ああ…」
こう見えても天音は甘いものと可愛いモノに目がない。無邪気な静葉の笑顔に心がぐらついた。
「遅くなって悪かったな。腹が減っただろう」
「はい!」
昼も食べてないはずだから、空腹な筈だ。
売店で買ってきたモノをテーブルに並べて質素なディナータイムとなった。
「お手数をおかけします」
「気にしないでいいわ。当然の事をしてるだけだし」
「いえいえ。助けてくれた上にご飯までご馳走になって、私も感謝感激アメアラレ、です!」
325 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:34:04 ID:8GsoLCeW
「…そう」
「と言うわけで私からささやかな恩返しをさせて下さいっ」
どん、とテーブルに置かれる平べったい箱。
(こ、これは!?)
「そうです! かの有名洋菓子店『碧』の生菓子セット! 3,880円なり!
私の取って置きです。一緒に食べましょう♪」
「ごくり――」
餌付けされているとも知らずに、天音は生唾を飲み込んだ。
「し、しょうがないわね。どうしてもというなら付き合ってもいいわ」
評判のカステラに遠慮無く手を伸ばし――ふと気付いてしまった。
「ちょっと待って、これを一体どこから持ってきたの?」
「はい? 私の部屋からですけど?」
「ここから出たの!?」
「え? あの、だって下着とかも昨日のままだし、着替えを取りに行きたかったんです」
「何かあれば私に言って、と言ったでしょ!?」
「ふえっ、そんなに怒らなくても…っ」
(う、しまったわ)
半泣きになっている静葉を見て罪悪感に捕らわれる。
「私っ、天音さんに喜んでもらおうと思っただけなのにっ」
静葉の気持ちは痛いほど分かったが、それを素直に認める程天音は正直な人間ではない。
「私がいつそんな事を頼んだの? 余計なお世話よ」
(天の邪鬼にもほどがあるわ!)
生粋の口の悪さがここでも遺憾なく発揮され、天音は内心で頭を抱えた。
「助ける方の身にもなってよ。これ以上、手間を掛けさせないで」
「ご、ごめんなさいっ――ぐずっ」
静葉はとうとう鼻を鳴らして泣き始める。何の罪もない女の子を泣かせた自分が情けない。
――こんこんっ。
その時、気まずい空気を打ち払うように部屋のドアがノックされた。
『藤間さん? お迎えに来ました』
「待って。すぐに行くわ」
「ぐすっ。天音さん?」
「仕事だ。少し遅くなるかも知れないわ。先に寝ていて」
「あの、私に何か出来ないですか? お手伝い、」
「足手まといよ」
「ふえっ…御免なさい」
再び静葉の瞳から涙が溢れる。見ていられなくて顔を背け、それから小さく呟いた。
「――あまり、心配を掛けさせないで…」
「…え…?」
「何でもないわ。行ってくる――そうだ、私が戻るまで、絶対部屋を出ないで。
それに誰か他の人を入れても駄目。約束して?」
326 乙×風 ◆./0xgeyM2k sage 2008/11/08(土) 17:37:41 ID:8GsoLCeW
「…分かりました」
「そう。じゃあ、行ってくるわ」
「あの!」
「…何?」
「朝のプリン残してありますから。戻ったら食べて下さい」
「……ばか」
小さく呟くと天音は部屋を出る。その言葉が照れ隠しだと静葉にも分かっていたらしく。
あどけない顔は涙に塗れながらも微笑んでいた。
***
以上で第二話終了です。
投下してから気付きました。
天音を勧誘する生徒の台詞が少しおかしい。
『天文学部』じゃなくて『天文部』ですね。はい。
お手数をおかけしますが脳内変換を宜しくお願いします。
ついでにエロ少なめで申し訳ない。
というか寄生替えの保守レスの方がよっぽどエロスでした。314氏GJです。
さて話的には次回投下分で折り返し地点となります。
今回薄かった分次回は濃い目です。
天音が敵地のど真ん中でニョロニョロされる予定。
ではまた。
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