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淫魔と彼女 第一話
348 淫魔と彼女 第一話 (1/11) sage 2012/09/01(土) 18:55:51.66 ID:ZL9G9eaC
ついに、この時が、来てしまった。
ここは、高校生、須見彰の部屋。何のことはない、ごくごく普通の高校生男子の部屋。
ベッドを背もたれにして床に座る彰のすぐ隣に、おさげの女子高生、佐久遥がいた。
遥は、彰に寄りかかるように体を預け、そして目を閉じ、唇を向け、彼を待っていた。
ここだけ見れは、ごくごく平凡な男女の、ごくごく平凡な青春の一コマかもしれない。
でも、この2人にとってはそうではなかった。
一番の問題は…彰が淫魔だったことである。
----------
(もう、やるしかない。彼女と…遥ちゃんと、ヤッてみせる。
絶対彼女を堕とさずに、遥ちゃんと、セックスする!)
^^^^^^^^^^^^^^^^
彰は淫魔だ。
ほとんど外見は人間と変わらないが、一般の男性についてるようなアレはない。
代わりに、そのあたりから尾てい骨に至るまで、グロテスクな触手がビッシリ何本も生えていた。
気持ちが高ぶると、催淫効果の高い粘液と妖気を放つ。
彼が欲望のままに体を求めたら、普通の女性はものの数分でよがり狂って精神を壊してしまうシロモノだ。
だから、遥ちゃんだけは、壊すわけにはいかなかった。
だから、彰は自分の気持ちを絶対に抑えないといけなかった。
(大丈夫、大丈夫・・・)
この日のために、今まで何度も何度もシミュレーションしてきた内容を、彰は頭の中で反芻した。
「彰、くん…」
じれったくなった遥が、おずおずと彼の名前を呼びかける。
「あ、うん」
ダメだ、考えてるばかりじゃ。
遥の声で決心を固めた彰は、行動を開始した。
すっと腕で肩を抱き寄せ、ゆっくりと唇を合わせる。
「ちゅ、ん、ふっ」
ガチキスはダメだ。妖気をはらんだ自分の吐息は、遥の精神のリミッターを簡単にふっ飛ばす。
幸い、彼女は初めてだ。唇だけで、十分。
ゆっくりと時間をかけて、唇で唇を愛撫した後、やおら唇を離す。
「ふぁ…」
「…服、脱いで」
耳元で囁く彰の言葉に、顔を真っ赤にして体を少し震わせながら、遥は小さくコクンと頷く。
(くぅぅぅううう、カワイイなぁぁぁぁあああああ!! ってヤバイヤバイ、冷静に、冷静に・・・)
遥は立ち上がり、数歩離れた位置に移動すると、震える手で少しずつ、ブラウスとスカートを脱いだ。
少し逡巡のあと、ニーソとブラとショーツも脱ぎ捨て、何もまとわない姿になる。
胸と大事なところを手で隠し、立ったまま俯いている。
「どう、かな、私…」
最高です。マジ鼻血でそうです。
…と思ったが、彰は答えなかった。
答える余裕などなかった。真面目に答えようものなら鼻血と一緒に触手も飛び出してしまいそうだった。
声が出そうになるのをぐっとこらえ、彰は立ち上がると、遥の後ろに素早く回りこんだ。
後ろから手を回して、抱き寄せる。
「あっ…」
「遥、ちゃん」
「…なに?」
「目隠しして、いい?」
349 淫魔と彼女 第一話 (2/11) sage 2012/09/01(土) 18:58:40.92 ID:ZL9G9eaC
「…えっ?」
戸惑う遥が答えるのを待つことなく、お尻の方から伸ばした1本の触手で彼女の両目を塞ぐ。
そのまま、頭の周りを一周させて固定する。
体を抱く両腕を残したままどうやって目隠ししたのか、冷静になればおかしいと気づくはずである。
でもそれよりも、下手に手を動かされ、触手に触れられてしまうのを彰は恐れた。
そして更に、当惑したままの彼女の両耳に、そっと、別々の触手を忍ばせる。
途中をパラボラアンテナのように開き、オーバーヘッドホンのように耳全体を覆いながら、
細くなった触手の先を耳の穴の奥まで、静かに差し込んだ。
これが彰の作戦だった。
多くの淫魔は、夢魔とも呼ばれる。心地良い夢を見させ、微睡みのなかで相手を犯す。
彰はその力を応用することにした。
彰は普通のセックスができない。でも、遥には普通のセックスを「体験」してほしかった。
だから、目を塞いで触手を隠しつつ、遥を催眠で誘導し、普通のセックスをする「夢」を見てもらうことにしたのだ。
目を隠したのはもう1つの理由もあるが…いや、それは説明しなくていいことだろう。
耳奥に差し込んだ触手の先を震わせ、可聴領域ギリギリの音を鳴らして遥をトランス状態に誘導する。
「はぁ…ん、あきら、くぅん…」
声が気だるく甘ったるくなってきたのを確認すると、彰は服の下に残していた触手をしゅるしゅると伸ばし、
遥の手足を拘束し始めた。
350 淫魔と彼女 第一話 (3/11) sage 2012/09/01(土) 19:00:46.60 ID:ZL9G9eaC
遥は夢を見ていた。
今、彼女はベッドの上に仰向けになって、一糸まとわぬ姿になった彰と向かい合っていた。
最初「目隠しする」と言われたときはびっくりしたが、冗談だと彼ははにかんだ後、
優しく包み込むように抱擁してくれた。
ひとしきり抱き合った後、彼にエスコートされるまま、ゆっくりとベッドの上に横たわった。
まるで赤子を寝かせるように、体を倒す間ずっと背中に手を添えてくれたのが、とっても嬉しかった。
遥がすべての体重をベッドに預けたのを確認すると、彰はそのまま、彼女にまたがるように上になった。
向い合って互いの両手を合わせ、しばし見つめ合う。
「あきら、くん…」
「きれい、だよ。すごく」
「…うれしい」
そういうと、2人は2度目のキスをした。さっきとは違い、本物のディープキスだ。
経験のない遥はドギマギしたが、一生懸命彰に合わせて舌を動かした。
「胸、さわっていい?」
「…いい、よ。彰…くん」
遥が言い終わるのを確認すると、彰はその、少し小ぶりの双丘の片方に、静かに手を当てた。
ベッドの上で正常位で横たわっている、という夢の中とは程遠い姿で、遥は彰の前で空中に浮かんでいた。
手は頭上に伸ばされ、足はだらしなく開いてMの字を描いたまま、触手がぐるぐる巻きに固定している。
遥の頭の中では今ちょうど左胸を触り始めたことになっているが、実際は両胸どころか、アソコもお尻も、
体中に大小無数の触手が巻き付いていた。
胸は先端がカップ状に開いた2つの触手があてがわれ、全体を包み込んでいる。
その中で、極細の触手がゆるやかに乳首に絡まるように巻き付いている。
股間にはヒダヒダのついた平べったい一本の触手が、
へその下から会陰を通ってお尻の谷間に割り込み、尾てい骨の辺りまであてがわれている。
「キス」のときに太めの触手を咥えこんでいた口には、今は細く長い触手が、微かに開いた口元から侵入し、
舌にまとわりついていた。
目と耳をふさぐ触手は相変わらずだ。
それぞれの触手は、肌に触れるか触れないかのところで微弱に振動し、遥の全身にかすかな刺激を与え続けていた。
そのせいか、遥の体は常にピクピクと引きつっていた。
傍から見るとすっかり遥が陵辱されているように見えるが、むしろ苦しんでいるのは彰の方だった。
感じれば体から自然ににじみ出る妖気、超強力な媚薬を、必死に抑え込んでいたのである。
それは一般の人間男性に例えれば、このシチュエーションで絶対勃起するなと言っているようなものだ。
脂汗を垂らしながら必死に我慢しているのも、すべて、大好きな彼女のためだった。
351 淫魔と彼女 第一話 (4/11) sage 2012/09/01(土) 19:02:52.27 ID:ZL9G9eaC
「は、あんっ、ふぁっ」
だんだんと声が止められなくなってくる。
手の先から足の先まで、体中を優しく撫でさするように愛撫され、体中が火照るような怠さを感じ始めていた。
意識しないのに体が勝手にピクピクと痙攣する。
全身を覆うじわじわっとした感覚が、体中で勝手に弾ける。
だんだんアソコがムズムズしてきて、腰が自分の意志を持ってるかのようにくねり始めた。
(やっぱり、彰くんって、んっ、す、ごい…)
自分と付き合う前、「イケメンの女タラシ」の浮き名は学校の内外でさんざん耳にした。
エッチがスゴイ、という噂も聞いてはいた。
私も遊ばれてるのかも、一度関係を持ったら捨てられるのかも、と内心どこかで恐れていたのだけど、
この気持ちよさの前には、そんなことどうでもいいかも、と思ってしまいそうだった。
「気持ちいい?」
「…きか、ないで」
「耳真っ赤だよ。乳首も、こんなに固くなってる」
「いやぁ…」
「もう、ここも、ビショビショ」
「はぁっ、そんなとこ、さすら、ないで…」
彰が手で(実際には触手で)やさしく周辺を撫で回しただけで、シーツに大きな染みができそうなくらい濡れていた。
優しく、ヴァギナの上を指で(何度も言うが、実際には触手で)下から上になぞる。
最後に小さく尖ったクリトリスの腹を先で軽く弾くと、遥の体が弓なりに反った。
「はぁあああああああぁぁんっ!」
大きく叫んで、息が荒くなる。頭がボーっとして、何も考えられなくなってきた。
彰が同じ動作を何度か繰り返し、その度に遥が何かに打ちつけられるような反応をしたところで、彰の手がピタっと止まった。
「そろそろ、いい、かな…はぁ、はぁ…」
遥の夢の中ではクールに振舞っている彰であったが、実際は息も絶え絶えの状況だった。
体中から、触手中から湧き上がる欲望が体を駆け巡り、頭がフットーしそうだった。
目の前の女体に妖気を吸わせて粘液たっぷり出して、ぐちょぐちょねちょねちょに犯してしまいたい。
穴という穴に触手をぶち込んで、外から中からしゃぶり尽くしたい。
魔族の血が彰の理性をふっとばそうと暴れていた。
このままでは、遥の前に自分が壊れてしまう。もう限界だった。
しかし、次こそが最後にして最大の難関だった。
淫魔の彰から見れば、いや、淫魔から見なくたって明らかに、遥は処女だ。
処女姦通は霊的に特別な意味を持つ。
淫魔が処女を奪うというだけで、女性には魂を狂わせる超強力な媚薬となるのだ。
だから、挿入は慎重に行わなければならない。人間の男性と同じ程度の刺激に抑えないといけない。
それは彰に細心のコントロールを要求するものだった。
「落ち着け、クールになれ彰。クールクールクール…」
352 淫魔と彼女 第一話 (5/11) sage 2012/09/01(土) 19:07:03.93 ID:ZL9G9eaC
彰の様子が少しおかしいことは、遥にもわかった。
今から挿れようとしてるのもわかる。自分が初めてだから、気を遣ってくれているのもわかる。
でも、それにしても手間取りすぎている。女性に慣れているはずの彰なら、なおさらだ。
「…どうしたの?」
「いや、その、やっぱり、その」
「彰くんでも、こういうの、緊張するの?」
「え、いや、まぁ、その、ほら」
「?」
上気した顔で、小首をかしげる遥。
「その…遥ちゃんの、大事なもの、だから…」
遥は、はっとして、少し俯くと、目に涙を浮かべはじめた。
「えっ、ど、どうしたの?ゴメン、その、えっと、何か悪いこと、した? あわわ…」
何か手痛い失敗をしたのか、もしかして間を空けすぎて催眠が解けてきたのか、と頭の中をグルグルさせる彰。
その前で、遥が首をゆっくり横に振った。
「ううん。なんだか、嬉しいの」
「うれ…しい?」
「うん。彰くんに抱かれて、良かったな、って。
さっきまでみたいに、カッコよくリードしてくれる彰くんも好きだけど。
そういう、実は心の中でいつも慌ててて、優しい彰くんはもっと好き。
最初、彰くんに付き合ってって言われたときは、からかわれてるんじゃないかと思ったけど。
でも、皆の前ではクールなイケメンなのに、私の前では結構おっちょこちょいで純朴で、
実は彰くんってそういう人なんじゃないかって。だから私も好きになったの」
「はるか、ちゃん…」
「さっきまで、彰くん完璧ですごく気持ちよすぎて、だからちょっとだけ不安だったけど、
でもやっぱり、私の好きな彰くんだなって。
だから…いいよ。私のこと、彰くんの好きにしていい」
いつの間にか、夢の中の彰も、実際の彰も、遥と一緒に涙を流していた。
それだけ、遥の言葉は破壊力ありまくりで。
だから、彰の細心のコントロールを、狂わせるには十分だった。
353 淫魔と彼女 第一話 (6/11) sage 2012/09/01(土) 19:09:12.24 ID:ZL9G9eaC
「じゃ、行くよ。遥ちゃん」
「うん。来て」
「ん…」
「ん、ふぁ…」
彰のモノが、優しく、ゆっくり、遥のなかに入ってきた。
(すごく痛いって聞いてたけれど、何だか、最初だけ、かな…擦れる感じはあるけど、でも、気持ちいい…)
予想外にすんなりと収まっていくので、彰の方も少しびっくりしていた。
(処女を相手にするのは初めてだけど、案外こんなものなのかな?
でも、遥ちゃん、すごく締め付けて、しかも何か絡まってくるし、うう…スゴイ…たまらない…)
「…どう?痛くない?」
「ううん、全然。ちょっと刺激があって気持ちいいくらい」
「そ、そっか。じゃ…ちょっと、動かしていいかな」
「うん、いいよ…ふぁあっ?!」
動かしていい、と言ってみたものの、言ったそばから遥の感じた快感は全く未知のものだった。
今までの100倍…いや、10000倍は気持ちいい。
「ぅわあんっ、あっ、らめぇ、これ、すんごい…」
「ほ、ほんとに大丈夫?痛かったら言ってね?」
「ううん、いいの、逆にもっと、動かして、突いて…あぁあああっ」
(どうしよう、何これ、エッチってこんな気持ちいいものなの?
なんか、彰くんのアレが動くたびに、アソコがどんどん熱くなって、全身がかぁってなって…
それもどんどん、どんどん、どんどんっ・・・・・・)
おかしい。心臓がものすごい速さでドクドク言っている。
体中が熱くて熱くてたまらない。体の芯のところがうずいてうずいてたまらない。
まるで…まるで、自分の全てがドロドロに溶けて、なにか違うものに、生まれ変わっていくかのようだ。
「あっ、あああっ、あう、うぁあ゛、う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「は、遥ちゃん? 遥ちゃん?!」
突如、遥が豹変した。
眼をかっと見開いて獣のような咆哮を上げたかと思うと、激しく自分から腰を振り、彰のモノを求め始めた。
それに飽きたらず、頭をぐしゃぐしゃっと掻きむしったかと思うと、自分で両方の胸を鷲掴みにした。
そのまま、引きちぎらんばかりに激しく揉みしだく。
「遥ちゃん!?」
彰は急いで動きを止めたが、遥が収まる気配は全くない。
むしろ、薄くなった刺激を渇望して更に狂おしく吠え、暴れる。
理性を喪失したのは、明らかだった。
――失敗、した。
彰は呆然となった。
遥ちゃんを…自分をあんなに好きと言ってくれて、自分に全てを預けてくれた女の子を、壊してしまった。
ちょっと地味だけど純情で、可愛くて、愛くるしく微笑んでいたあの娘を、壊してしまった。
絶望の淵に叩き落されそうになりながら、でもギリギリのところで、踏みとどまる。
失敗した時の対処。それもシミュレーションのうちに入っていた。
でも、処置は遅くなればなるほど手遅れになる。
「もう、最後の手段しか、ない…やるしか、ない」
354 淫魔と彼女 第一話 (7/11) sage 2012/09/01(土) 19:12:50.37 ID:ZL9G9eaC
猛り狂う遥に応えるように、今まで優しく遥の体を包んでいた触手も、遠慮無く暴れ始めた。
手足や胴体にまとわりついていた触手は緊縛の度合いを上げ、体中をぎゅうぎゅうに締め付ける。
ヴァギナに挿入されていた触手は遥の腕より太く大きく、表面が凸凹になり、より速く強く抽送を始める。
両胸を包んでいた2本のカップ状の触手が、その縁で2つのおっぱいの付け根をきつく縛り上げ、乳房を括り出す。
そしてカップの中で、乳首に絡まっていただけの極細触手が、そのまま乳首の中に侵入していく。
アナルの表面を撫でていただけだった触手も突如として中に掻き分けるように侵入した後、数センチ径まで太さを増す。
舌を弄んでいた触手も、喉の奥まで入っていったかと思うと、こちらは10センチ径にまで膨んでドロドロの液を吐き出す。
両耳の中の極細触手は先端を針のように尖らせると、鼓膜を突き破り、脳に直接接続される。
「ごぶぅ、ぶごぉ、むぐぉぐぐぐぐぁぐお゛お゛お゛お゛っ」
口を喉まで封じられても、なお雄叫びをあげ続ける遥。
女の子とは、いや人間とは思えない力で暴れようとする彼女をなんとか拘束しながら、
彰は力を込め、まったく新しい触手を、胸の真ん中から伸ばし始めた。
それは他の触手とは見るからに異質で、赤黒く、太く、そして、先端が槍のように、鋭利な刃を備えていた。
「ごめんね、遥ちゃん。これを刺したら、もう、遥ちゃんは人間じゃ、なくなっちゃう。
でも、遥ちゃんを助けるには、これしか、ないんだ。…ごめん、遥ちゃん」
彰がそう言うと、赤い触手は遥をめがけ、まっすぐと伸びていった。
そして、正中線の真ん中、ちょうど彰と同じ、両胸のちょうど中間のところに、ブスっと突き刺さった。
途端に、遥の動きがピタっと止まる。
それを見透かしたかのように、赤い触手の先から、何本もの枝のような触手が遥の体内で生まれ、伸びていく。
そのまま遥の体を蹂躙するように、まるで遥の体に根を張るように、枝分かれし、さらに伸びていく。
「はぁ、はぁ、もう、ちょっとだ、から」
「ぐぎぎぎギギギい゛い゛ギギギ」
遥は、遥の体はガクガクと震え始め、悲鳴とも嗚咽ともつかない声を上げ始めた。
「これで、おわ、りっ!ぐぅっ!」
「ふぐぅうううううぅううぅっ!!」
彰の声と同時に、遥の中に侵入していたすべての触手の先から、白くヌルヌルした液体が一斉に噴き出した。
そのすべてを全身で受け止めるかのように、遥は背中をそらし、手足の指までも硬直させて、全身をガクガクと震わせた。
全てが収まると、遥の胸に刺さっていた赤い触手が、力を失うようにだらんと垂れ下がった。
そして、先端部分を遥の体に残したまま、幹の部分がぷつんと切れて、力なく床に落ちた。
355 淫魔と彼女 第一話 (8/11) sage 2012/09/01(土) 19:14:51.62 ID:ZL9G9eaC
「ええっと、その…結局、どういう、こと?」
おさげの髪型をした裸の女の子は、ぽかーんとした顔立ちで、ベッドの縁に腰掛けていた。
その視線の先には、その前に一人の男の子が、床に膝をつき手をつき、土下座をせんばかりに下を向いている。
「だから、その…」
彰もまた、「素」の裸であった。
つまり、股間のあられもない触手たちを、遥に晒していた。
遥の意識が正常にもどったところで、全ての経緯を、彰は打ち明けていた。
しかし、あまりに突拍子のない話なので、同じ事を何度も何度も聞かせる必要があった。
「つまり、彰くんは実はインマ、なのね?」
「…うん、そう」
「そっか。うん。わかった。まぁ、それはいいや」
「いいのかよ…」
力なくツッコミを入れる彰。おそらく遥は「インマ」が何かわかっていない。
しかし、わかれという方がどだい無理な話だ。
「で、私は、えーと…」
「うん、だから、その…」
淡々としたつぶやきに応えて、ひどく申し訳なさそうに、彰は言った。
「遥ちゃんは、俺の、使い魔になった」
356 淫魔と彼女 第一話 (9/11) sage 2012/09/01(土) 19:17:10.97 ID:ZL9G9eaC
「…ホントに、ゴメン」
謝らないと気がすまなかった。
使い魔の、象徴。
その前でベッドに腰掛ける遥の胸の間には、直径3cmほどの真っ赤な宝石が輝いていた。
よく目を凝らせば、一段と赤く濃い楕円形の模様が中央最奥部に見える。どことなく、ネコ科の瞳孔を想わせた。
ぱっと見、ペンダントかブローチだと言われれば、そう見えなくもない。
しかし…この宝石は、遥の胸に直接埋まっていた。
遥の双丘の合間が少しだけ浮き上がり、その真中にドーム状に鎮座している。
周囲には、うねうねとしたケロイド状の線が放射状に何本も延びていて、ファッションだと強弁するにはちょっと禍々しい。
「うーん。胸元の開いた水着とか、ちょっと着れなさそうだね」
右手で宝石をさする自分の仕草を眺めつつ、遥はぽつりと呟いた。
彰は言葉を返せない。
「…ねぇ、今までの人は、どうしてたの?…その、彰くん、初めてじゃ、なかったんでしょ?」
何となくの沈黙を破って、素朴な疑問をぶつける遥。
「今までの人は、その、体…っていうか、精気が欲しかったからしてただけで、
別に好きだったわけじゃないんだ。だから俺もそんな本気で求めたわけじゃないし、
自分の気持ちを抑えることなんてどうってことなかった。彼女たちには申し訳ないけど」
「じゃあ、」
一呼吸置いて、遥は続ける。
「コレは、胸のコレは、彰くんが…本気で好きになってくれた、証、ってこと?」
「…うん」
「そっか」
もう一度、今度は少し愛おしそうに、右手で宝石を撫でる。
「じゃあ、いいよ。私、彰くんの使い魔で」
次の瞬間、彰は、遥に跳びかかるように覆いかぶさり、そのままベッドに倒れ込んだ。
ベッドの上で彼女を強く抱きしめる。
「…彰くん」
「俺、ダメなご主人様かもしれないけど、ゼッタイ、遥ちゃんのこと、幸せにする。
遥ちゃんが俺の使い魔だからって、ゼッタイ苦労かけたりしない」
えへへ、と照れ笑いをしながら、遥は抱かれるまま、心地よさそうに彰の胸に顔をうずめていた。
と、少し落ち着いたところで、遥が彰の腕の中で、彰の顔を見上げて、言った。
「ところで…使い魔って何?」
357 淫魔と彼女 第一話 (10/11) sage 2012/09/01(土) 19:18:32.88 ID:ZL9G9eaC
「…俺の代わりに精を集めたり、俺に精を捧げたり、してくれる人」
「精って?」
「エッチなエネルギー。男だと、アレから出す液体、とか」
「……」
「……」
「…ええええええええええー?」
「そう、なるよね…」
「なっ、なっ、なななななななななななな」
痛々しいほどに遥の顔は真っ赤っ赤だ。
「わ、わたし、そ、そんな、ふふふしだらな職業は、その、ちょっと」
「いや職業っていうか…」
話がだんだんずれてきた。
全部を今ここで話しても無駄だ、と思い、要点だけかいつまむことにした。
「話がややこしいから結論だけ言うと、全然そんなこと、してくれなくて、いいんだ」
「え、そうなの?」
「うん。『遥ちゃん』は、何もしなくていい」
「『遥ちゃん』は?他に誰かいるの?」
「…うん。ここに」
と言って、遥の胸にある宝石を指さす。
「ここに、俺の分身で、遥ちゃんの分身でもある人格を作って、そのまま封じ込めたんだ。
いつもは普段通りの『遥ちゃん』でいられるけど、
ここにいる『ハルカ』が目をさますことがある。
その時は、『ハルカ』がエッチなエネルギーを俺にくれる」
「…わかったような、わかんないような」
「ものすごーく大ざっぱに言うと、たまに『遥ちゃん』はエッチな『ハルカ』に変身する」
要領を得たらしい。胸の宝石を見ながら
「なるほど…これが変身アイテムなのか…」と独りでブツブツ言っている。
358 淫魔と彼女 第一話 (11/11) sage 2012/09/01(土) 19:21:02.77 ID:ZL9G9eaC
「で、どうやったら変身できるの?」
さっきはあんなにたじろいでいたのに、立ち直りが早いのか、好奇心が勝ったのか、ケロッとした顔で遥が質問する。
変身したいのかよ…というツッコミを抑えつつ、彰は答えた。
「いくつかあるけど…とりあえず、『遥ちゃん』が、俺とエッチしたいって思ったら、変身する」
「エッチって…さっきの、優しいほう?それとも…スゴイほう?」
微かながら、狂っている間の記憶も遥には残っていた。
「…スゴイほう、かな」
彰の答えに「そう」とだけ言うと、遥は突然胸に手を当てて、何やら念じ始めた。
「いや、いきなりそん…うゎわわわ!?」
遥の胸の宝石が一瞬妖しく光ったかと思うと、全身から大小の赤い触手が洪水のように噴き出した。
とぐろを巻くように体を包んだかと思うと、その一部が遥の大事なところに突き刺さる。
その上から別の触手が股間全体を覆い、一瞬にして締め上げる。
そして、他の触手と一緒に全身を縛り上げ、締め上げ、ボディスーツを形作る。
手足の周囲を巻いていた触手も、肘先と膝先を覆い尽くすロンググローブ、ロングブーツに。
最後に、一本の触手が頭の周囲をグルッと巻いて、両目をすっぽりと覆う形になった。
入れ替わるように、胸にある宝石に光が宿り、生きた「眼」のようにギョロギョロと動き始めた。
「変身」というと聞こえはいいが、変身後の姿は「眼」と真っ赤な目隠しボンデージで、非常に禍々しい。
しかも、余った触手がウネウネと体を這いまわってたり、よく見るとスーツの裏地もウネウネと繊毛が張っている。
おまけに、小ぶりだったはずの胸も、可愛かったお尻も一回り以上大きくなって、スーツの下ははち切れんばかりだ。
「はぁん… ご主人様ぁ… 」
「…『ハルカ』か?」
「はぁい、なんなりとご命令を…ご主人様ぁん」
「じゃ、今すぐ『遥ちゃん』に戻れ」
「えぇぇ、それは意地悪ですわご主人様」
「いいから。『遥ちゃん』が可哀想だろ」
「あーら、あの娘もすっごく欲しがっていますわ。責めが少なくて物足りながってるくらいですわよ」
「そ、そんなことは、ないっ!」
「そんなムキになられなくとも…んーもぅ、仕方ありませんわねぇ」
声を荒げて不機嫌な顔をする彰を横目に『ハルカ』はそう言うと、
体中の触手がしゅるしゅると縮んで、あっという間に元の『遥ちゃん』の姿に戻った。
「は、はわ、はわわわわわわ」
元に戻った遥は一瞬呆気にとられたかと思うと、また顔を真っ赤っ赤にし始めた。
「な、なんか全身がやたらムズムズして、なんかアソコに刺さって…ていうかお尻にも…あわわわわわ。
それに、『ご主人様』だなんて、は、恥ずかし…」
「…やっぱ、ごめん」
「べ、別に変身したいって思わなきゃいいんだよね?」
「実は…たまに『ハルカ』を目覚めさせないと、エッチな気持ちがどんどん溜まって暴発しちゃうから、
たまには、変身、してほしいん…だよ…」
「ええぇ…」とうなだれる遥に、彰はやっぱり「ごめん」と謝るしかなかった。
ついに、この時が、来てしまった。
ここは、高校生、須見彰の部屋。何のことはない、ごくごく普通の高校生男子の部屋。
ベッドを背もたれにして床に座る彰のすぐ隣に、おさげの女子高生、佐久遥がいた。
遥は、彰に寄りかかるように体を預け、そして目を閉じ、唇を向け、彼を待っていた。
ここだけ見れは、ごくごく平凡な男女の、ごくごく平凡な青春の一コマかもしれない。
でも、この2人にとってはそうではなかった。
一番の問題は…彰が淫魔だったことである。
----------
(もう、やるしかない。彼女と…遥ちゃんと、ヤッてみせる。
絶対彼女を堕とさずに、遥ちゃんと、セックスする!)
^^^^^^^^^^^^^^^^
彰は淫魔だ。
ほとんど外見は人間と変わらないが、一般の男性についてるようなアレはない。
代わりに、そのあたりから尾てい骨に至るまで、グロテスクな触手がビッシリ何本も生えていた。
気持ちが高ぶると、催淫効果の高い粘液と妖気を放つ。
彼が欲望のままに体を求めたら、普通の女性はものの数分でよがり狂って精神を壊してしまうシロモノだ。
だから、遥ちゃんだけは、壊すわけにはいかなかった。
だから、彰は自分の気持ちを絶対に抑えないといけなかった。
(大丈夫、大丈夫・・・)
この日のために、今まで何度も何度もシミュレーションしてきた内容を、彰は頭の中で反芻した。
「彰、くん…」
じれったくなった遥が、おずおずと彼の名前を呼びかける。
「あ、うん」
ダメだ、考えてるばかりじゃ。
遥の声で決心を固めた彰は、行動を開始した。
すっと腕で肩を抱き寄せ、ゆっくりと唇を合わせる。
「ちゅ、ん、ふっ」
ガチキスはダメだ。妖気をはらんだ自分の吐息は、遥の精神のリミッターを簡単にふっ飛ばす。
幸い、彼女は初めてだ。唇だけで、十分。
ゆっくりと時間をかけて、唇で唇を愛撫した後、やおら唇を離す。
「ふぁ…」
「…服、脱いで」
耳元で囁く彰の言葉に、顔を真っ赤にして体を少し震わせながら、遥は小さくコクンと頷く。
(くぅぅぅううう、カワイイなぁぁぁぁあああああ!! ってヤバイヤバイ、冷静に、冷静に・・・)
遥は立ち上がり、数歩離れた位置に移動すると、震える手で少しずつ、ブラウスとスカートを脱いだ。
少し逡巡のあと、ニーソとブラとショーツも脱ぎ捨て、何もまとわない姿になる。
胸と大事なところを手で隠し、立ったまま俯いている。
「どう、かな、私…」
最高です。マジ鼻血でそうです。
…と思ったが、彰は答えなかった。
答える余裕などなかった。真面目に答えようものなら鼻血と一緒に触手も飛び出してしまいそうだった。
声が出そうになるのをぐっとこらえ、彰は立ち上がると、遥の後ろに素早く回りこんだ。
後ろから手を回して、抱き寄せる。
「あっ…」
「遥、ちゃん」
「…なに?」
「目隠しして、いい?」
349 淫魔と彼女 第一話 (2/11) sage 2012/09/01(土) 18:58:40.92 ID:ZL9G9eaC
「…えっ?」
戸惑う遥が答えるのを待つことなく、お尻の方から伸ばした1本の触手で彼女の両目を塞ぐ。
そのまま、頭の周りを一周させて固定する。
体を抱く両腕を残したままどうやって目隠ししたのか、冷静になればおかしいと気づくはずである。
でもそれよりも、下手に手を動かされ、触手に触れられてしまうのを彰は恐れた。
そして更に、当惑したままの彼女の両耳に、そっと、別々の触手を忍ばせる。
途中をパラボラアンテナのように開き、オーバーヘッドホンのように耳全体を覆いながら、
細くなった触手の先を耳の穴の奥まで、静かに差し込んだ。
これが彰の作戦だった。
多くの淫魔は、夢魔とも呼ばれる。心地良い夢を見させ、微睡みのなかで相手を犯す。
彰はその力を応用することにした。
彰は普通のセックスができない。でも、遥には普通のセックスを「体験」してほしかった。
だから、目を塞いで触手を隠しつつ、遥を催眠で誘導し、普通のセックスをする「夢」を見てもらうことにしたのだ。
目を隠したのはもう1つの理由もあるが…いや、それは説明しなくていいことだろう。
耳奥に差し込んだ触手の先を震わせ、可聴領域ギリギリの音を鳴らして遥をトランス状態に誘導する。
「はぁ…ん、あきら、くぅん…」
声が気だるく甘ったるくなってきたのを確認すると、彰は服の下に残していた触手をしゅるしゅると伸ばし、
遥の手足を拘束し始めた。
350 淫魔と彼女 第一話 (3/11) sage 2012/09/01(土) 19:00:46.60 ID:ZL9G9eaC
遥は夢を見ていた。
今、彼女はベッドの上に仰向けになって、一糸まとわぬ姿になった彰と向かい合っていた。
最初「目隠しする」と言われたときはびっくりしたが、冗談だと彼ははにかんだ後、
優しく包み込むように抱擁してくれた。
ひとしきり抱き合った後、彼にエスコートされるまま、ゆっくりとベッドの上に横たわった。
まるで赤子を寝かせるように、体を倒す間ずっと背中に手を添えてくれたのが、とっても嬉しかった。
遥がすべての体重をベッドに預けたのを確認すると、彰はそのまま、彼女にまたがるように上になった。
向い合って互いの両手を合わせ、しばし見つめ合う。
「あきら、くん…」
「きれい、だよ。すごく」
「…うれしい」
そういうと、2人は2度目のキスをした。さっきとは違い、本物のディープキスだ。
経験のない遥はドギマギしたが、一生懸命彰に合わせて舌を動かした。
「胸、さわっていい?」
「…いい、よ。彰…くん」
遥が言い終わるのを確認すると、彰はその、少し小ぶりの双丘の片方に、静かに手を当てた。
ベッドの上で正常位で横たわっている、という夢の中とは程遠い姿で、遥は彰の前で空中に浮かんでいた。
手は頭上に伸ばされ、足はだらしなく開いてMの字を描いたまま、触手がぐるぐる巻きに固定している。
遥の頭の中では今ちょうど左胸を触り始めたことになっているが、実際は両胸どころか、アソコもお尻も、
体中に大小無数の触手が巻き付いていた。
胸は先端がカップ状に開いた2つの触手があてがわれ、全体を包み込んでいる。
その中で、極細の触手がゆるやかに乳首に絡まるように巻き付いている。
股間にはヒダヒダのついた平べったい一本の触手が、
へその下から会陰を通ってお尻の谷間に割り込み、尾てい骨の辺りまであてがわれている。
「キス」のときに太めの触手を咥えこんでいた口には、今は細く長い触手が、微かに開いた口元から侵入し、
舌にまとわりついていた。
目と耳をふさぐ触手は相変わらずだ。
それぞれの触手は、肌に触れるか触れないかのところで微弱に振動し、遥の全身にかすかな刺激を与え続けていた。
そのせいか、遥の体は常にピクピクと引きつっていた。
傍から見るとすっかり遥が陵辱されているように見えるが、むしろ苦しんでいるのは彰の方だった。
感じれば体から自然ににじみ出る妖気、超強力な媚薬を、必死に抑え込んでいたのである。
それは一般の人間男性に例えれば、このシチュエーションで絶対勃起するなと言っているようなものだ。
脂汗を垂らしながら必死に我慢しているのも、すべて、大好きな彼女のためだった。
351 淫魔と彼女 第一話 (4/11) sage 2012/09/01(土) 19:02:52.27 ID:ZL9G9eaC
「は、あんっ、ふぁっ」
だんだんと声が止められなくなってくる。
手の先から足の先まで、体中を優しく撫でさするように愛撫され、体中が火照るような怠さを感じ始めていた。
意識しないのに体が勝手にピクピクと痙攣する。
全身を覆うじわじわっとした感覚が、体中で勝手に弾ける。
だんだんアソコがムズムズしてきて、腰が自分の意志を持ってるかのようにくねり始めた。
(やっぱり、彰くんって、んっ、す、ごい…)
自分と付き合う前、「イケメンの女タラシ」の浮き名は学校の内外でさんざん耳にした。
エッチがスゴイ、という噂も聞いてはいた。
私も遊ばれてるのかも、一度関係を持ったら捨てられるのかも、と内心どこかで恐れていたのだけど、
この気持ちよさの前には、そんなことどうでもいいかも、と思ってしまいそうだった。
「気持ちいい?」
「…きか、ないで」
「耳真っ赤だよ。乳首も、こんなに固くなってる」
「いやぁ…」
「もう、ここも、ビショビショ」
「はぁっ、そんなとこ、さすら、ないで…」
彰が手で(実際には触手で)やさしく周辺を撫で回しただけで、シーツに大きな染みができそうなくらい濡れていた。
優しく、ヴァギナの上を指で(何度も言うが、実際には触手で)下から上になぞる。
最後に小さく尖ったクリトリスの腹を先で軽く弾くと、遥の体が弓なりに反った。
「はぁあああああああぁぁんっ!」
大きく叫んで、息が荒くなる。頭がボーっとして、何も考えられなくなってきた。
彰が同じ動作を何度か繰り返し、その度に遥が何かに打ちつけられるような反応をしたところで、彰の手がピタっと止まった。
「そろそろ、いい、かな…はぁ、はぁ…」
遥の夢の中ではクールに振舞っている彰であったが、実際は息も絶え絶えの状況だった。
体中から、触手中から湧き上がる欲望が体を駆け巡り、頭がフットーしそうだった。
目の前の女体に妖気を吸わせて粘液たっぷり出して、ぐちょぐちょねちょねちょに犯してしまいたい。
穴という穴に触手をぶち込んで、外から中からしゃぶり尽くしたい。
魔族の血が彰の理性をふっとばそうと暴れていた。
このままでは、遥の前に自分が壊れてしまう。もう限界だった。
しかし、次こそが最後にして最大の難関だった。
淫魔の彰から見れば、いや、淫魔から見なくたって明らかに、遥は処女だ。
処女姦通は霊的に特別な意味を持つ。
淫魔が処女を奪うというだけで、女性には魂を狂わせる超強力な媚薬となるのだ。
だから、挿入は慎重に行わなければならない。人間の男性と同じ程度の刺激に抑えないといけない。
それは彰に細心のコントロールを要求するものだった。
「落ち着け、クールになれ彰。クールクールクール…」
352 淫魔と彼女 第一話 (5/11) sage 2012/09/01(土) 19:07:03.93 ID:ZL9G9eaC
彰の様子が少しおかしいことは、遥にもわかった。
今から挿れようとしてるのもわかる。自分が初めてだから、気を遣ってくれているのもわかる。
でも、それにしても手間取りすぎている。女性に慣れているはずの彰なら、なおさらだ。
「…どうしたの?」
「いや、その、やっぱり、その」
「彰くんでも、こういうの、緊張するの?」
「え、いや、まぁ、その、ほら」
「?」
上気した顔で、小首をかしげる遥。
「その…遥ちゃんの、大事なもの、だから…」
遥は、はっとして、少し俯くと、目に涙を浮かべはじめた。
「えっ、ど、どうしたの?ゴメン、その、えっと、何か悪いこと、した? あわわ…」
何か手痛い失敗をしたのか、もしかして間を空けすぎて催眠が解けてきたのか、と頭の中をグルグルさせる彰。
その前で、遥が首をゆっくり横に振った。
「ううん。なんだか、嬉しいの」
「うれ…しい?」
「うん。彰くんに抱かれて、良かったな、って。
さっきまでみたいに、カッコよくリードしてくれる彰くんも好きだけど。
そういう、実は心の中でいつも慌ててて、優しい彰くんはもっと好き。
最初、彰くんに付き合ってって言われたときは、からかわれてるんじゃないかと思ったけど。
でも、皆の前ではクールなイケメンなのに、私の前では結構おっちょこちょいで純朴で、
実は彰くんってそういう人なんじゃないかって。だから私も好きになったの」
「はるか、ちゃん…」
「さっきまで、彰くん完璧ですごく気持ちよすぎて、だからちょっとだけ不安だったけど、
でもやっぱり、私の好きな彰くんだなって。
だから…いいよ。私のこと、彰くんの好きにしていい」
いつの間にか、夢の中の彰も、実際の彰も、遥と一緒に涙を流していた。
それだけ、遥の言葉は破壊力ありまくりで。
だから、彰の細心のコントロールを、狂わせるには十分だった。
353 淫魔と彼女 第一話 (6/11) sage 2012/09/01(土) 19:09:12.24 ID:ZL9G9eaC
「じゃ、行くよ。遥ちゃん」
「うん。来て」
「ん…」
「ん、ふぁ…」
彰のモノが、優しく、ゆっくり、遥のなかに入ってきた。
(すごく痛いって聞いてたけれど、何だか、最初だけ、かな…擦れる感じはあるけど、でも、気持ちいい…)
予想外にすんなりと収まっていくので、彰の方も少しびっくりしていた。
(処女を相手にするのは初めてだけど、案外こんなものなのかな?
でも、遥ちゃん、すごく締め付けて、しかも何か絡まってくるし、うう…スゴイ…たまらない…)
「…どう?痛くない?」
「ううん、全然。ちょっと刺激があって気持ちいいくらい」
「そ、そっか。じゃ…ちょっと、動かしていいかな」
「うん、いいよ…ふぁあっ?!」
動かしていい、と言ってみたものの、言ったそばから遥の感じた快感は全く未知のものだった。
今までの100倍…いや、10000倍は気持ちいい。
「ぅわあんっ、あっ、らめぇ、これ、すんごい…」
「ほ、ほんとに大丈夫?痛かったら言ってね?」
「ううん、いいの、逆にもっと、動かして、突いて…あぁあああっ」
(どうしよう、何これ、エッチってこんな気持ちいいものなの?
なんか、彰くんのアレが動くたびに、アソコがどんどん熱くなって、全身がかぁってなって…
それもどんどん、どんどん、どんどんっ・・・・・・)
おかしい。心臓がものすごい速さでドクドク言っている。
体中が熱くて熱くてたまらない。体の芯のところがうずいてうずいてたまらない。
まるで…まるで、自分の全てがドロドロに溶けて、なにか違うものに、生まれ変わっていくかのようだ。
「あっ、あああっ、あう、うぁあ゛、う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
「は、遥ちゃん? 遥ちゃん?!」
突如、遥が豹変した。
眼をかっと見開いて獣のような咆哮を上げたかと思うと、激しく自分から腰を振り、彰のモノを求め始めた。
それに飽きたらず、頭をぐしゃぐしゃっと掻きむしったかと思うと、自分で両方の胸を鷲掴みにした。
そのまま、引きちぎらんばかりに激しく揉みしだく。
「遥ちゃん!?」
彰は急いで動きを止めたが、遥が収まる気配は全くない。
むしろ、薄くなった刺激を渇望して更に狂おしく吠え、暴れる。
理性を喪失したのは、明らかだった。
――失敗、した。
彰は呆然となった。
遥ちゃんを…自分をあんなに好きと言ってくれて、自分に全てを預けてくれた女の子を、壊してしまった。
ちょっと地味だけど純情で、可愛くて、愛くるしく微笑んでいたあの娘を、壊してしまった。
絶望の淵に叩き落されそうになりながら、でもギリギリのところで、踏みとどまる。
失敗した時の対処。それもシミュレーションのうちに入っていた。
でも、処置は遅くなればなるほど手遅れになる。
「もう、最後の手段しか、ない…やるしか、ない」
354 淫魔と彼女 第一話 (7/11) sage 2012/09/01(土) 19:12:50.37 ID:ZL9G9eaC
猛り狂う遥に応えるように、今まで優しく遥の体を包んでいた触手も、遠慮無く暴れ始めた。
手足や胴体にまとわりついていた触手は緊縛の度合いを上げ、体中をぎゅうぎゅうに締め付ける。
ヴァギナに挿入されていた触手は遥の腕より太く大きく、表面が凸凹になり、より速く強く抽送を始める。
両胸を包んでいた2本のカップ状の触手が、その縁で2つのおっぱいの付け根をきつく縛り上げ、乳房を括り出す。
そしてカップの中で、乳首に絡まっていただけの極細触手が、そのまま乳首の中に侵入していく。
アナルの表面を撫でていただけだった触手も突如として中に掻き分けるように侵入した後、数センチ径まで太さを増す。
舌を弄んでいた触手も、喉の奥まで入っていったかと思うと、こちらは10センチ径にまで膨んでドロドロの液を吐き出す。
両耳の中の極細触手は先端を針のように尖らせると、鼓膜を突き破り、脳に直接接続される。
「ごぶぅ、ぶごぉ、むぐぉぐぐぐぐぁぐお゛お゛お゛お゛っ」
口を喉まで封じられても、なお雄叫びをあげ続ける遥。
女の子とは、いや人間とは思えない力で暴れようとする彼女をなんとか拘束しながら、
彰は力を込め、まったく新しい触手を、胸の真ん中から伸ばし始めた。
それは他の触手とは見るからに異質で、赤黒く、太く、そして、先端が槍のように、鋭利な刃を備えていた。
「ごめんね、遥ちゃん。これを刺したら、もう、遥ちゃんは人間じゃ、なくなっちゃう。
でも、遥ちゃんを助けるには、これしか、ないんだ。…ごめん、遥ちゃん」
彰がそう言うと、赤い触手は遥をめがけ、まっすぐと伸びていった。
そして、正中線の真ん中、ちょうど彰と同じ、両胸のちょうど中間のところに、ブスっと突き刺さった。
途端に、遥の動きがピタっと止まる。
それを見透かしたかのように、赤い触手の先から、何本もの枝のような触手が遥の体内で生まれ、伸びていく。
そのまま遥の体を蹂躙するように、まるで遥の体に根を張るように、枝分かれし、さらに伸びていく。
「はぁ、はぁ、もう、ちょっとだ、から」
「ぐぎぎぎギギギい゛い゛ギギギ」
遥は、遥の体はガクガクと震え始め、悲鳴とも嗚咽ともつかない声を上げ始めた。
「これで、おわ、りっ!ぐぅっ!」
「ふぐぅうううううぅううぅっ!!」
彰の声と同時に、遥の中に侵入していたすべての触手の先から、白くヌルヌルした液体が一斉に噴き出した。
そのすべてを全身で受け止めるかのように、遥は背中をそらし、手足の指までも硬直させて、全身をガクガクと震わせた。
全てが収まると、遥の胸に刺さっていた赤い触手が、力を失うようにだらんと垂れ下がった。
そして、先端部分を遥の体に残したまま、幹の部分がぷつんと切れて、力なく床に落ちた。
355 淫魔と彼女 第一話 (8/11) sage 2012/09/01(土) 19:14:51.62 ID:ZL9G9eaC
「ええっと、その…結局、どういう、こと?」
おさげの髪型をした裸の女の子は、ぽかーんとした顔立ちで、ベッドの縁に腰掛けていた。
その視線の先には、その前に一人の男の子が、床に膝をつき手をつき、土下座をせんばかりに下を向いている。
「だから、その…」
彰もまた、「素」の裸であった。
つまり、股間のあられもない触手たちを、遥に晒していた。
遥の意識が正常にもどったところで、全ての経緯を、彰は打ち明けていた。
しかし、あまりに突拍子のない話なので、同じ事を何度も何度も聞かせる必要があった。
「つまり、彰くんは実はインマ、なのね?」
「…うん、そう」
「そっか。うん。わかった。まぁ、それはいいや」
「いいのかよ…」
力なくツッコミを入れる彰。おそらく遥は「インマ」が何かわかっていない。
しかし、わかれという方がどだい無理な話だ。
「で、私は、えーと…」
「うん、だから、その…」
淡々としたつぶやきに応えて、ひどく申し訳なさそうに、彰は言った。
「遥ちゃんは、俺の、使い魔になった」
356 淫魔と彼女 第一話 (9/11) sage 2012/09/01(土) 19:17:10.97 ID:ZL9G9eaC
「…ホントに、ゴメン」
謝らないと気がすまなかった。
使い魔の、象徴。
その前でベッドに腰掛ける遥の胸の間には、直径3cmほどの真っ赤な宝石が輝いていた。
よく目を凝らせば、一段と赤く濃い楕円形の模様が中央最奥部に見える。どことなく、ネコ科の瞳孔を想わせた。
ぱっと見、ペンダントかブローチだと言われれば、そう見えなくもない。
しかし…この宝石は、遥の胸に直接埋まっていた。
遥の双丘の合間が少しだけ浮き上がり、その真中にドーム状に鎮座している。
周囲には、うねうねとしたケロイド状の線が放射状に何本も延びていて、ファッションだと強弁するにはちょっと禍々しい。
「うーん。胸元の開いた水着とか、ちょっと着れなさそうだね」
右手で宝石をさする自分の仕草を眺めつつ、遥はぽつりと呟いた。
彰は言葉を返せない。
「…ねぇ、今までの人は、どうしてたの?…その、彰くん、初めてじゃ、なかったんでしょ?」
何となくの沈黙を破って、素朴な疑問をぶつける遥。
「今までの人は、その、体…っていうか、精気が欲しかったからしてただけで、
別に好きだったわけじゃないんだ。だから俺もそんな本気で求めたわけじゃないし、
自分の気持ちを抑えることなんてどうってことなかった。彼女たちには申し訳ないけど」
「じゃあ、」
一呼吸置いて、遥は続ける。
「コレは、胸のコレは、彰くんが…本気で好きになってくれた、証、ってこと?」
「…うん」
「そっか」
もう一度、今度は少し愛おしそうに、右手で宝石を撫でる。
「じゃあ、いいよ。私、彰くんの使い魔で」
次の瞬間、彰は、遥に跳びかかるように覆いかぶさり、そのままベッドに倒れ込んだ。
ベッドの上で彼女を強く抱きしめる。
「…彰くん」
「俺、ダメなご主人様かもしれないけど、ゼッタイ、遥ちゃんのこと、幸せにする。
遥ちゃんが俺の使い魔だからって、ゼッタイ苦労かけたりしない」
えへへ、と照れ笑いをしながら、遥は抱かれるまま、心地よさそうに彰の胸に顔をうずめていた。
と、少し落ち着いたところで、遥が彰の腕の中で、彰の顔を見上げて、言った。
「ところで…使い魔って何?」
357 淫魔と彼女 第一話 (10/11) sage 2012/09/01(土) 19:18:32.88 ID:ZL9G9eaC
「…俺の代わりに精を集めたり、俺に精を捧げたり、してくれる人」
「精って?」
「エッチなエネルギー。男だと、アレから出す液体、とか」
「……」
「……」
「…ええええええええええー?」
「そう、なるよね…」
「なっ、なっ、なななななななななななな」
痛々しいほどに遥の顔は真っ赤っ赤だ。
「わ、わたし、そ、そんな、ふふふしだらな職業は、その、ちょっと」
「いや職業っていうか…」
話がだんだんずれてきた。
全部を今ここで話しても無駄だ、と思い、要点だけかいつまむことにした。
「話がややこしいから結論だけ言うと、全然そんなこと、してくれなくて、いいんだ」
「え、そうなの?」
「うん。『遥ちゃん』は、何もしなくていい」
「『遥ちゃん』は?他に誰かいるの?」
「…うん。ここに」
と言って、遥の胸にある宝石を指さす。
「ここに、俺の分身で、遥ちゃんの分身でもある人格を作って、そのまま封じ込めたんだ。
いつもは普段通りの『遥ちゃん』でいられるけど、
ここにいる『ハルカ』が目をさますことがある。
その時は、『ハルカ』がエッチなエネルギーを俺にくれる」
「…わかったような、わかんないような」
「ものすごーく大ざっぱに言うと、たまに『遥ちゃん』はエッチな『ハルカ』に変身する」
要領を得たらしい。胸の宝石を見ながら
「なるほど…これが変身アイテムなのか…」と独りでブツブツ言っている。
358 淫魔と彼女 第一話 (11/11) sage 2012/09/01(土) 19:21:02.77 ID:ZL9G9eaC
「で、どうやったら変身できるの?」
さっきはあんなにたじろいでいたのに、立ち直りが早いのか、好奇心が勝ったのか、ケロッとした顔で遥が質問する。
変身したいのかよ…というツッコミを抑えつつ、彰は答えた。
「いくつかあるけど…とりあえず、『遥ちゃん』が、俺とエッチしたいって思ったら、変身する」
「エッチって…さっきの、優しいほう?それとも…スゴイほう?」
微かながら、狂っている間の記憶も遥には残っていた。
「…スゴイほう、かな」
彰の答えに「そう」とだけ言うと、遥は突然胸に手を当てて、何やら念じ始めた。
「いや、いきなりそん…うゎわわわ!?」
遥の胸の宝石が一瞬妖しく光ったかと思うと、全身から大小の赤い触手が洪水のように噴き出した。
とぐろを巻くように体を包んだかと思うと、その一部が遥の大事なところに突き刺さる。
その上から別の触手が股間全体を覆い、一瞬にして締め上げる。
そして、他の触手と一緒に全身を縛り上げ、締め上げ、ボディスーツを形作る。
手足の周囲を巻いていた触手も、肘先と膝先を覆い尽くすロンググローブ、ロングブーツに。
最後に、一本の触手が頭の周囲をグルッと巻いて、両目をすっぽりと覆う形になった。
入れ替わるように、胸にある宝石に光が宿り、生きた「眼」のようにギョロギョロと動き始めた。
「変身」というと聞こえはいいが、変身後の姿は「眼」と真っ赤な目隠しボンデージで、非常に禍々しい。
しかも、余った触手がウネウネと体を這いまわってたり、よく見るとスーツの裏地もウネウネと繊毛が張っている。
おまけに、小ぶりだったはずの胸も、可愛かったお尻も一回り以上大きくなって、スーツの下ははち切れんばかりだ。
「はぁん… ご主人様ぁ… 」
「…『ハルカ』か?」
「はぁい、なんなりとご命令を…ご主人様ぁん」
「じゃ、今すぐ『遥ちゃん』に戻れ」
「えぇぇ、それは意地悪ですわご主人様」
「いいから。『遥ちゃん』が可哀想だろ」
「あーら、あの娘もすっごく欲しがっていますわ。責めが少なくて物足りながってるくらいですわよ」
「そ、そんなことは、ないっ!」
「そんなムキになられなくとも…んーもぅ、仕方ありませんわねぇ」
声を荒げて不機嫌な顔をする彰を横目に『ハルカ』はそう言うと、
体中の触手がしゅるしゅると縮んで、あっという間に元の『遥ちゃん』の姿に戻った。
「は、はわ、はわわわわわわ」
元に戻った遥は一瞬呆気にとられたかと思うと、また顔を真っ赤っ赤にし始めた。
「な、なんか全身がやたらムズムズして、なんかアソコに刺さって…ていうかお尻にも…あわわわわわ。
それに、『ご主人様』だなんて、は、恥ずかし…」
「…やっぱ、ごめん」
「べ、別に変身したいって思わなきゃいいんだよね?」
「実は…たまに『ハルカ』を目覚めさせないと、エッチな気持ちがどんどん溜まって暴発しちゃうから、
たまには、変身、してほしいん…だよ…」
「ええぇ…」とうなだれる遥に、彰はやっぱり「ごめん」と謝るしかなかった。
五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』
298 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(1/20) sage 2012/08/24(金) 00:21:56.97 ID:TAhitKst
睦美は蔓を素手で掴んだ。
触肉の先端部は瞬時に石化し、ぼりぼり音を立てて握り潰される。
石化がほかの部位へ伝染し始めると、トカゲの尻尾のように蔓が断ち切り、
翠のところへ戻ってその右腕に巻きつく。
触手の残骸を握ったまま、睦美は翠を見つめる。
学校で別れた時と比べ、少女の様子は随分と変わった。
触手化したコスチュームは、かつてのデザインをもとに大胆なアレンジが施されていた。
胸の谷間や背肌は露出し、匂い立つような色香が伝わってくる。
足の付け根は過激にカットされて、むっちりとした尻肉や太ももを見せ付ける。
体を覆う肉布の隙間からところどころ蜜液が溢れ、いやらしい連想をさせる。
もともと端正な顔立ちも、今では常時欲情しているかのように赤く染め、
異性を誘惑するような息を吐露する。
羞恥なのか快楽なのか、彼女の全身がビクビクと震えていた。
それが潤んだ瞳や切ない表情と合わさって、見る者の嗜虐心を刺激する。
更に異様なのは、彼女の服だった。
植物の蔓のような触手が布地のように繋ぎ止め、
肉付きの良い体を足のつま先までぴっちり包む。
繋ぎ目のところから見え隠れする裏側の繊毛や、ねっとりとした粘液。
そして何よりも不気味な、服の表面にある多数の目玉。
その邪悪な雰囲気は、鈴華のそれとまるっきり同じだった。
ただ鈴華の色は淀んだ黄色に対し、翠の装束は鬱蒼としたダークグリーンである。
いずれも元の五行霊服の面影を残しながらも、おぞましいまでに変貌した触手スーツ。
怪奇ではあるが、それ以上に妖しい魅力を感じさせる姿だった。
あの慎ましい翠がこれほど凄艶に変貌できるとは、
親友である睦美にも想像がつかなかった。
もともと豊満だったバディは触手服によって、余すところ無く性的な興奮を焚きつける。
だがそれが魅力的であればあるほど、睦美は心に痛みを覚えた。
背中で急上昇する温度を感じる。
首に降りかかる息は、溶鉱炉から吹き出る火の粉のように熱くて痛い。
振り返らずとも、背後にいる灯の怒りを感じ取る。
そのまま自分までが沸騰しないよう、睦美はできる限り冷静な口調で尋ねた。
「あなたはいつ妖魔側になったの」
「……昨日から」
「清見はどこ」
「森の奥、あなた達を逃したところ」
「これからどうするつもりだ」
「二人とも妖眼蟲に寄生させてもらうの。……私や、鈴華と同じように」
かつての仲間であり、正義の味方であった少女は静かに答える。
その言葉も態度も、睦美にとって残酷なものだった。
299 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(2/20) sage 2012/08/24(金) 00:24:02.21 ID:TAhitKst
騒ぎ立てる灯を制して、睦美はため息を吐く。
「驚いたな。まさかあなたほどの人間が、そこまで堕ちるとは」
「……」
後ろめたいからか、翠は視線をそらしてうつむいた。
「心配する必要はありません。一度されてみれば、
あなた達もすぐに私と同じ気持ちになれます」
「妖魔に屈するつもりは無いね」
「だがあなた達には勝ち目はありません」
「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん!」
灯は睦美の背中から頭を伸ばして、「べーだ」とあかんべを作った。
そう、と翠はただ悲しげに呟いた。
次の瞬間、彼女の体を覆う触手スーツはにゅるりと音を立ててうねり始める。
服の表面にある妖眼は獰猛な緑光を放ち、
あたりの妖気と淫気は一段とこまやかになっていく。
その妖気に刺激されたか、妖樹の群れはシュルシュルと音をあげながら前進する。
だが先頭に立つ翠はそれを腕で止める。
「この戦いは私だけのもの。あなた達は下がりなさい」
翠の服の胸元にある目玉が強烈な眼光を放つと、妖樹の群れはピタリと動きを止めた。
その光景に、睦美はチクリとした痛みを感じた。
彼女はすでに手足のように、下級妖魔を扱うことができる。
それが何よりも妖魔の一員となった証拠である。
戦端は唐突に開かれる。
翠は腰まで及ぶロングヘアを優雅にかき上げた。
周囲に一陣の薫風が舞い上がり、綺麗な長髪がサラサラと流れる。
どこからともなく花びらが現われ、ふらふらと睦美達の方向へ吹いてくる。
ほぼ同時に、睦美は人差し指と中指で印を結んで地面を突いた。
一枚の巨岩が地表から急速にせり上がる。
ただ浮かんでいるように見えた花びらは、
まるで発射されたカッターナイフのように次々と岩に刻んだ。
岩に受け止められた花びらはその場で青々しく変化し、
まもなく刻み込んだ溝から苗が生え出た。
苗の生長が終わるよりも速く、睦美は岩をまるごと放り投げた。
疾走しながら翠は蔓鞭を縦一線に振り上げ、
すでに内部まで植え崩された巨岩はその一撃によって砕かれる。
降り注ぐ土石の中から、翠は睦美達に急接近する。
彼女が踏みつけた土に草花が生え、睦美のテリトリーだった砂地を緑に作り変える。
睦美は相手の動きを目で追いながら、背中に一筋の冷や汗を流した。
相性は、断然こっちのほうが不利である。
その上自分は一歩も動けない。
300 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(3/20) sage 2012/08/24(金) 00:26:49.50 ID:TAhitKst
綿密な戦闘スタイルを擁する翠相手では、
こちらから仕掛けなければどんどん追い込まれてしまう。
その先手さえ譲らないといわんばかりに、翠は睦美を目掛けて蔓触手を振るわす。
だが彼女が睦美に向かって踏み込んだ途端、
足場が崩れて大きな落とし穴が現われる。
(今だ……!)
睦美は機を逃さず右の拳に霊力を溜め始めた。
狙いは全身全霊の一撃のみ。
相性をも覆し、翠の回復力でさえ追いつかない大きなダメージを。
しかし、翠は想定したよりも速く復帰した。
落とし穴から数本のツタが伸びると、
そこからラフレシアのような巨大植物がよじ登る。
開花した中から無傷な翠が現われ、蔓触手で睦美の首を絡め取る。
「おしまいです。もう降参してください」
言い終わってから、翠は違和感を覚えた。
あれほど騒がしかった灯が、戦い始まってからまだ一言も喋っていない。
睦美の背後に目をやると、
灯の顔が真っ赤なヒキガエルのように膨らんでいるのが視界に入る。
翠はすかさずラフレシアを前へ蹴り上げ、そこから飛び降りる。
一瞬速く、灯が口を広げて大きな火炎弾を吐き出す。
直径二メートルにも及ぶラフレシアは、悪臭を散らしながら灯に向かって突進する。
だがまばゆいほど輝く火球に触れると、わずかな炭屑を残して蒸発した。
火炎弾は翠の上方を掠め、明後日の方向へ飛んで行った。
灯はケホンケホンと煙を吐きながら、悔しそうに睨みつける。
あと一歩というタイミングで、狙いを邪魔されてしまった。
首より下が動けない彼女にとって、この攻撃は唯一取れる行動だった。
しかし彼女が作ったこの隙は、睦美にとって十二分の助けとなる。
彼女は緩んだ触手を振り解きながら、溜め終わった右拳を構える。
その時。
翠は忽然と睦美に顔を近付けた。
そして彼女の耳側で、小さな声で呟く。
(お願い、私に捕まったフリをして)
その言葉はどういう意図で言っているのか、睦美にはよく分からなかった。
考える暇もなかった。
凝縮しきった霊力は、ギリギリまでつがえた矢のように、発さずにいられない。
「……砕石拳!」
気合の入った一喝とともに、
睦美の右手は無数の石つぶてと砂塵を巻き上げて相手に直撃する。
301 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(4/20) sage 2012/08/24(金) 00:29:15.23 ID:TAhitKst
翠は何もしてこなかった。
小腹に直撃を受けて、糸が切れた凧のように遠くへ飛んだ。
その様子を、睦美は半信半疑の表情で見つめるしかなかった。
力を一点に凝縮した一撃は、単純に対象を内側から破壊するのみ。
あまりにも凄まじいパワーに、睦美自身も途中で不発にすることはできない。
それを無防備に向かってくるなんて、自滅するようなものだ。
妖樹達の前で、翠は震えながら立ち上がった。
直撃を受けた触手スーツはぐにゃりと潰れ、
その部分に生えていた目玉の白身と合わせて溶け出し、
下にある少女の素肌を外気に晒す。
すぐに周りの肉布が活発に細胞分裂を繰り返し、
損傷部分を補うための緑色の液体を分泌する。
緑汁は肌の上で絡み合いながら、だんだんと繊維の形を成す。
「……お見事です……」
負傷した部分を手で抑え、口から一筋の血を流す翠。
たとえ表面の傷は妖眼蟲の力で回復できても、
体内部まで届いたダメージはそう短時間に回復できないはずだ。
「皮肉なことですね……味方だったとき、何よりも頼もしかったこの技を、
自分の身で受けるなんて……」
翠は口の血を拭いながら、冷たい表情に戻る。
「しかし残念です。睦美さん、あなたは最後のところで迷いが生じましたね。
本来なら、私がここで横になったままのはずです。
その未練が、あなたの命取りとなりましょう」
翠が言い終わった途端、睦美と灯のまわりから大量の蔓が伸び出た。
不意を突かれた二人は抵抗する暇さえなく、
次から次へと現われる触手によって体を隅々まで緊縛される。
翠は更に印を結ぶと、砂を押しのけて一つの巨大植物が現れる。
それはウツボカズラのような、長い壷型の怪物だった。
壷のような捕虫器で二人を足元から頭まで一気に呑み込むと、
蓋を閉じ蔓で何重も巻いた。
ウツボの内側からもがく音が漏れ出るが、蔓が巻いていくにつれ弱まり、
やがて何も聞こえなくなった。
完全に静まったことを見届けた翠は、妖眼樹の群れを振り返る。
「この子達は私が連れて行くわ。
あなた達はこの森に誰も入らないよう、周囲を監視してきなさい」
「「……シュルルル……」」
スライムの肉同士が擦れ合って、奇声を発しながら緩慢な足取りで散った。
その場にほかの者がいないことを確認してから、
翠はゆっくりとウツボカズラの前にやってきた。
巨大食虫植物の蓋はパカッと開き、息を求める二つの頭が急浮上する。
302 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(5/20) sage 2012/08/24(金) 00:31:12.68 ID:TAhitKst
「ハァ、ハァ……」
「ぷはー! あと少しで窒息するところだったぜ」
睦美と灯が口を大きく開けて息を吸っている隙に、
翠は丸薬を取り出しそれぞれの口に押し込む。
「んぐぅ!」
「これは……?」
「解毒剤よ」
お腹が暖かいと感じるや否や、睦美達は鉄枷がはずれたような身軽さを感じた。
気の流れが一循すると、
それまで体にまとい付いていた悪寒がスーッと消えていく。
ついさきほどまで筋肉が動けなかったのが嘘のようだ。
灯はウツボカズラから地面に降り立ち、嬉しそうに屈伸運動を繰り返す。
「おお、体が治った!」
「即効性のものです。後遺症も一切残らないはずです」
「オレは最初から翠のことを信じてたからな。
五行戦隊の絆は、ダイヤモンドカッターでも切れないぜ!」
灯は翠に向かってウインクしながら、ピースを作る。
その横で、睦美がゆっくり足を伸ばして着地する。
「よく言うよ。火を吹いた時は必死だったくせに」
「そ、そういう睦美こそ、マジになって翠を殴ったじゃないか」
「そうよ」
「えっ?」
「敵の目を欺くには、それくらい力を入れないと」
「なんだよ、最初から全部分かってたのかよ!」
「いいえ、私もあなたと同じ本気だったわ」
睦美はそう言いながら、翠に顔を向けた。
「敵を容赦するつもりは一切無い。あの時点では翠を敵として見ているから、
例えかつての仲間だろうと手加減しないし、後悔もしない。
それでいいよね、翠?」
石よりも固い信念を滲ませながら、睦美は翠を見つめた。
今度の翠は視線をそらさず最後まで視線を受けとめた。
そして、いつも学校で見せるような微笑を浮かべて。
「ありがとう、睦美。でも、手加減しなかったというのは、嘘かな」
「うーん……ちょっと、したかもしれない」
「あれれ、睦美はもしかしは照れちゃってるの?」
灯が意地悪い声をあげると、睦美はますます気恥ずかしそうに頬をかいた。
それを隠すかのように、睦美は改めて翠に尋ねた。
「ごめん、翠。まだ痛い?」
「大丈夫よ。私が今まで傷つけた人と比べれば、
これくらい何でもないから……」
その言葉にこもる悲しい感情を感じると、睦美も灯も真剣な表情になる。
303 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(6/20) sage 2012/08/24(金) 00:33:02.85 ID:TAhitKst
「翠、あなたや鈴華に起きたことを詳しく教えてくれない?」
「はい……」
翠はつらそうに顔を俯き、重々しく口を開く。
「全ては昨日の夜のことです。私はみんなと離れた後、
鈴華ちゃんの影を見かけて……そして彼女に襲われたの」
「鈴華め! やっぱり原因はあいつだったのか」
「あの時点で、彼女はすでに妖眼蟲に支配されていました。
そして、私も妖眼蟲に寄生され、彼らの……言いなりになったのです。
そこから今までずっと」
翠は震えながら、言葉を続けた。
彼女が身に着けている触手スーツを観察しながら、睦美は慎重に尋ねる。
「これもその妖眼蟲の一種なのか?」
「はい。姿形はさまざまありますが、このタイプは人間に寄生して全身を支配し、
精神まで浸蝕します。寄生の進行度は人によって違うみたいで、
鈴華ちゃんはすでに心を支配されたが、私はまだなんとか意識が保てる状態です」
「鈴華は、やはり完全に敵側になったのか」
「……はい。一度妖眼に寄生された者は、速かれ遅かれ悪の心を植えつけられてしまいます。
この妖眼蟲がある限り、私もいずれ……」
「へどが出る妖怪だぜ! こんなもの、オレがひっぺかしてやる!」
灯はいきり立って、触手スーツの襟口を掴み取った。
しかし彼女が力を入れた途端、スーツの表面にある妖眼はぎょろりと視線を集める。
翠は悲鳴を上げながら地面にうずくまり、
同時に寄生スーツから数本の触手が分裂して灯に襲い掛かる。
「灯、やめろ!」
睦美はすかさず灯を引き離す。
触手は空中でうねうね浮遊した後、攻撃対象を失ったせいか、
元の触手服に合体していく。
翠の荒々しい息遣いだけがいつまでも響き渡った。
その中にかすかな官能的な響きが含まれていたが、
睦美や灯には気付くはずがなかった。
「どうやら外から敵意を感じると、宿主の意思によらず自動的に反撃を行うようだ」
「くそっ、これじゃあ迂闊に手が出せないじゃないか!」
「一気に除去ではなく、霊力で少しずつ浄化するほかないだろう。
いったんここを離れて、翠を安全な場所に移動させよう」
「だ……め……」
翠は熱っぽい吐息を漏らしながら、まだ身震いが止まらぬ体を無理やり立たせる。
ほのかに赤い肌色は、しらずしらずのうちに雌としての媚態を強調する。
しかし、彼女の表情は必死だった。
「私なら、大丈夫よ……それより、速く清見ちゃんを助けて!」
彼女は睦美と灯の顔を見つめ、一字一句続けた。
「今はまだ間に合うけど……速くしないと、彼女の寄生化が終わってしまう」
304 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(7/20) sage 2012/08/24(金) 00:34:53.89 ID:TAhitKst
□
清見が目を覚ましたのは、蕾に三度目の激震が走った時だった。
ぶよぶよした肉色の壁は不規則にうねり、次第に大きく波を打つ。
脳髄に直接刻まれるような鋭い快感が、曖昧な意識を強引に覚醒させる。
まぶたをゆっくり開けば、肉壁についた妖眼が一斉に自分を見つめ返す。
「うぅっ……」
妖眼が怪しげな光を放つたびに、快感がさざなみとなって背筋を押し上げる。
肉壁に埋もれる四肢はまるで咀嚼されているかのように、
ねっとりとした気持ち良さが伝わってくる。
天井から滴る粘液の頻度は、明らかに以前よりも増した。
絶え間なく分泌される甘汁が顔を汚し、体に垂れ落ちる。
気を紛らそうと体を見下ろした時、清見は愕然となった。
身に付けているバトルスーツが、触手化しているのだ。
最初はただの錯覚かと思った。
だが目を良く凝らしてみると、自分の服が少しずつ蠢いていることに気付く。
粘液をたっぷり吸い込んだ布地は、ゆっくりと液状に同化されていく。
爽やかな青が絵の具のような青液と化し、
そこから更にドロドロした肉質に変化する。
粘体同士が凝縮しながら濃度を高め、繊維を伸ばし合い、
新たな肉布として生まれ変わる。
それは元の清らかなイメージと異なり、暗く淀んだものだった。
青色の肉布はまるで生き物のように蠕動し、更に効率よく粘液を吸い上げる。
面積はまだ小さいが、触手化はまるで伝染するかのように周りへと広がっていく。
固体と液体の中間状態で細い繊毛を伸ばし、肉質の繊維を増殖させる。
そしてより長時間粘液に漬かった部分から触手化が速く進んでいく。
不思議なことに、恐怖の気持ちは一瞬しか起こらなかった。
それよりもすぐに、麻薬のような背徳感が脳を染める。
(私は……蕾の一部……)
ぼんやりとした思考の中、まるで誰かに囁かれたかのような思念が浮かぶ。
それを口に出してつぶやいた途端、
体中から言いようのない甘い幸福感が起こる。
心臓は秘所と繋がる触手と同じリズムで、ドクドク鼓動する。
血液が循環するたびに霊力が吸収され、
代わりに邪悪な妖力を体内に注がれているのを実感できる。
ふと、正面の肉壁から一本の触手が盛り上がり、清見の前まで伸びる。
淫靡な香りが漂い、二三個の目玉が嵌め込まれた先端部は、
思わず顔を背けたくなるほどグロテスクだった。
しかし、清見はそこから目を離すことができない。
粘液よりもずっと濃い匂いが、少女の淫欲を引き付けて離さない。
以前の清見なら、この淫臭には耐えられただろう。
だが霊服が保護機能を果たさないほど弱まった今、
体の奥底から抑えきれないほどの衝動が湧き上がる。
305 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(8/20) sage 2012/08/24(金) 00:36:49.32 ID:TAhitKst
(私は、雌しべだから……雌しべはちゃんと雄しべから受精しなきゃ……)
自分じゃない声が心を支配する。
おかしいと分かっていても、清見はこの寄生本能に抗えなかった。
肉壁がうねり出すと、清見の四肢を後ろに回し、彼女をバック体勢から突き出す。
顔の間近に雄しべの触手があると、くらくらするような匂いがより濃くなる。
まわりの無数の妖眼に見守られる中、
清見はただうつろな目で勃起をじっと見つめていた。
猛々しい造形の表面に血管が浮かび、一定のリズムで脈打つ。
先端から滲み出る白い液体は、蜂を誘う蜜のようにキラキラ輝く。
そこに顔を近付け、唇を開き、小さな舌先で先端をちょこっと舐める。
触手がビクンと反応する。
それに安心したかのように、清見は触手の輪郭をなぞって上から下へ、下から上へと舐める。
雄しべの蜜と自分の唾液が混ざり合う。
飲み込んだ時の甘さは、陶酔した表情によって表現する。
気がついたら、清見は夢中になって異型をしゃぶり始めた。
普段機知に富んだ両目も今はとろんとして、
無表情な顔は赤く染まり色気を振りまく。
「ぴちゅ……はむっ、んぐ」
まるで恋人とディープキスをかわすかのように、雄しべの柱頭と舌を絡め合わせる。
ときには唇で優しくついばみ、ときにはざらついた表面を舌でなぞる。
最初こそ噛み千切ることを思い立ったが、
それもすぐに淫液が飲める安堵感に代替される。
それどころか、時折思い出したかのように両足の付け根をもぞもぞさせ、
娼婦になった気持ちで股間の触手から快感をねだる。
性器を突かれる嫌悪感はすっかり無くなり、今では何よりも体に馴染んでいた。
気だるい淫楽が妖力とともに体に染み渡り、
自然と腰を振って迎合するようになる。
蕾の雌しべとなってから、乙女の体がどんどん淫乱な色に染められていく。
ふと、口内の触手が雄々しく脈を打ち始める。
心の準備ができるよりも速く、触手の先端からおびただしい量の白液が吐き出される。
「ひゃっ……」
思わず口を離して、小さな悲鳴をあげた。
口で受け止めきれなかった熱液は顔や髪にかかり、
そこからいやらしい匂いを放つようになる。
しかし清見はよごれることも気にせず、虚ろのまま雄しべ周りの残滓を舐め取り始めた。
花の雌しべにとって、雄しべから受精することはこの上ない喜びである。
妖液を大量に浴び続けたことにより、霊気が溶かされるスピードはますます速くなった。
妖力が宿し始めた肉布は更なるスピードでうねり、
小腸のような表面積を増やしていく。
そうして分裂した繊毛を通して、毛細管現象のごとく妖液を正常だった服まで浸透させる。
アメーバがほかの細胞を食いながら増殖するよう。
たびかさなる浸蝕を経て、
もともと服の表面にあった霊気の紋様はほとんど消えかかっていた。
その代わりに、妖気を滲ませる禍々しい模様が浮かび上がる。
寄生面積が増加していくにつれ、霊服は蕾の肉壁と同じ肉繊維に作りかえられる。
306 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(9/20) sage 2012/08/24(金) 00:38:44.98 ID:TAhitKst
ポトッと、一つの目玉が天井からふってきた。
目玉は触手化し終わった服地に移動すると、そのまま表面にピタッと張り付く。
「んんむ……はああぁん!」
体を弓のように反らす清見。
妖眼が取りついた部分を中心に筋が走る。
そこから妖眼は押し込むように肉布の中に入っていく。
目玉がめり込むたびに、ずきゅんとするような痺れが全身に広がる。
体がいくらこわばったところで、触手に絡められた清見は身動きもできず、
ただ背中をもどかしそうに揺らすしかなかった。
(だめ、それ以上は……!)
激しい衝撃によって、失いかけた我を取り戻す。
妖眼と肉布が一体化していく。
普通の人間にとって、今すぐにも没頭してしまう快感。
しかし、その意味を察知した清見は、なんとか寄生を食い止めようと歯を食い縛った。
妖眼と肉布が繋がってしまえば、おそらくその部位は完全に触手化してしまう。
五行戦隊のバトルスーツはもともと霊力で維持されるため、
仮に破壊されても修復はできる。
だがそれ自体が妖魔化してしまった、もはや浄化しても元には戻れないだろう。
妖眼が深く押し込むほど、布地と接する肌から甘い快感が広がる。
裏側に生え始めた繊毛がぬめっと肌を愛撫し、
抵抗の意思を少しずつ溶解していく。
(くぅぅぅ……っん!)
清見は眉を悩ましげに曲げた。
筋目は一気に裂かれ、そこに目玉全体が沈む。
肉布がしばらく激しくうねったが、
やがて妖眼が完全に定着すると、そこで改めてまぶたをあける。
「かぁあああんっ!」
清見の瞳孔が大きく開いた。
妖眼の寄生が終わった瞬間、極限に迫るような快楽が体を突き抜ける。
みるみるうちに目玉と肉布は融合し、繋ぎ目が見当たらなくなった。
そして新たに神経細胞のネットワークが構築され、今までなかった性感帯が一つ増える。
妖眼は寄生後の居心地に満足したのか、きょろりとあたりを眺め回す。
その映像が綺麗に脳内で再生された。
「ハァ、ハァ……」
少女の可憐な胸が起伏を繰り返す。
衝撃を感じる気力さえなかった。
上昇してくる粘液の水位をぼんやりと見つめ、清見は疲れ切った顔で目をつむる。
何も考えられない。
何もできない。
身を焦がす淫欲は自分の感情なのか、それとも植えつけられたものなのか、
それすら区別できなくなった。
だがどちらにしろ、彼女はもうその快感に身を委ねるしかない。
触手化していくスーツがベトベトしてて気持ち良い。
307 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(10/20) sage 2012/08/24(金) 00:40:58.87 ID:TAhitKst
□
緑、赤、褐の三色が風のごとく木々の間を駆け抜け、
地面の落ち葉に踏み跡を残す。
ふと、先頭を走る緑の人影が立ち止まる。
残りの二人は一瞬飛び越えるが、すぐ地面に釘を刺したようにピタッと止まる。
「二人とも、隠れて」
緑の少女が小声で呟くと、赤と褐色は音も無く幹を登って気配を消す。
森奥からシュルシュルと草葉の掠れ音が近付く。
二匹の暗緑色のスライムが現われ、体中央にある目玉を輝かせる。
それを応えるかのように、少女の服の胸元にある妖眼も淡く光る。
「こちらに敵はいないわ。あなた達はあっちへ行って見張りなさい」
「「シュルルル」」
スライムは躯体をうねらせ、指示された方向へのろのろと移動した。
妖気が完全に遠のいてから、少女はほっと息をつく。
「もう大丈夫です」
「ハラハラするぜ。あいつらは何考えてるかまったく分からないし。
翠を襲ったりしないのか?」
「はい……私が心の中で念じれば、彼らには意思が伝わるみたいです」
木の後ろから出てきた灯に対し、翠はやや答えづらそうに顔を俯いた。
途中で何度かこうして妖眼蟲と遭遇したが、その度に翠が出てやり過ごした。
その不思議な光景に灯は驚くばかりでいた。
一方、睦美の考え方は堅実だった。
「識別信号みたいなものなのか。あの植物型以外の蟲にも通じるか?
以前私達が戦った金色のやつとか」
「あれは鈴華ちゃんの直属だから、私を敵とは認識しないだけで、
直接指示を下せるのは鈴華ちゃんだけだと思います」
翠は顔を赤らめ、「もうすぐ着くはずです」と再び先頭をとった。
森を抜ける道中、睦美と灯はむず痒いような、複雑な気持ちになった。
今の翠は、妖魔の寄生スーツを身にまとっている。
正義を象徴する五行戦隊の霊服と違い、
それは女性をより淫らに見せるための造形だった。
邪悪を示す妖力以外にも、翠の肢体から絶えず芳ばしい香りが漂う。
それは決してアロマなど上品なものではなく、
メスがオスを誘うときに放つ淫らな匂いであった。
そして翠自身は抑制しているものの、
彼女の仕草には無意識のうちに官能的な情緒が溢れ、淫花のように美しかった。
人一倍気配りする翠には、自分の身に起きている変化は当然気付いているはず。
それでも睦美と灯に心配をかけまいと、恥ずかしさをこらえて道案内を先導する。
その心内を思うと、睦美も灯もやるせなかった。
308 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(11/20) sage 2012/08/24(金) 00:42:23.92 ID:TAhitKst
「そろそろ見えてきましたわ」
翠は足を緩め、一本の木の後ろに体を預ける。
睦美と灯は手前にある茂みに身を屈め、視線をそこに移す。
やや開いた空け地に、複数の巨大蕾が地面に根ざしていた。
蕾から地面に突き刺さる極太触手は、リズミカルに膨張と収縮を繰り返す。
そのたびに、気色悪い触肉の表面に妖気が凝縮し、
まるで地中から養分を吸い上げているようだ。
それぞれの蕾の表面に妖眼が開きかけているが、
一番奥にある蕾だけ三つもの妖眼が見開いていた。
その蕾はほかと比べ、異様なほど大量な妖気を漂わせる。
霊力を習得している睦美や灯には、一目でその異常性を理解した。
「あの一番大きい中に、清見がいるだろ?」
「はい。それ以外の蕾の中にも、一般人が捕らえられています」
「なぜそんな手間をかける。寄生だけならすぐじゃないのか」
「あの特殊な方法により、どうやら宿主に記憶や能力を植え付けることができるみたいです。
潜在的霊力を持つ人間を選別し、よりも強い妖魔に作り変える……
これは私の予測ですが、おそらくその人達を上級妖魔の指揮官に仕立てて、
人間界に侵略させるつもりでしょう」
「じゃあ、清見のやつを解放したら、この人達も助けないと」
「はい……あれは!?」
突如、翠の声色が変わった。
睦美と灯は急いで視線を戻す。
清見を捕らえた巨大蕾はぶよぶよ蠢き、
太い触手を給水ポンプのように膨らませた。
それに合わせて蕾表面の脈絡膜が抽縮を繰り返し、新たな筋目が開き始める。
筋目の隙間はみるみるうちに広がり、
やがて完全な巨大妖眼として見開いた。
すでに開いた三つの妖眼と合わせて、不気味な眼光を周囲に放つ。
さっきよりも増して、濃密な妖気が睦美と灯の胸に圧しかかる。
だが、彼女達よりも翠のほうがよっぽど驚いていた。
「そんな、もう四つ目が……!」
「何かまずいのか?」
「寄生の進行速度が、予想をはるかに越えています!
……まだ四つ目ですが、これが五つ全て開いてしまうと、妖気が五行循環してしまい、
中にいる清見ちゃんが完全に妖魔になってしまいます!」
「つまり今すぐあのデカイのをぶっ壊せばいいだろ?」
「灯、待てっ!」
睦美が制止するよりも速く、灯はとび出した。
回復した彼女は動物園の檻から解放された豹のように、
標的に向かって一直線に飛んでいく。
だが彼女が蕾に届く直前、一つの梯形の鉄塊が空から降ってきた。
309 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(12/20) sage 2012/08/24(金) 00:43:50.98 ID:TAhitKst
灯は寸前のところで身を引き、後ろから駆けつけた睦美や翠と肩を並べる。
表面に「5t」と書かれた鉄塊は地面にめり込み、
その上に一人の小柄な少女が立っていた。
彼女は黄色い触手スーツを身に付け、憤怒と不服の表情を灯達に向ける。
「どういうことなのよ……どうしてお前達がピンピンしてるの?
どうして翠はそっち側にいるのよ!」
「やい鈴華、いつまで寝ぼけるつもりだ!」
灯が啖呵を切ると、鈴華は鼻で笑った。
「寝ぼける? ふふっ……今まで我慢してたけど、この際はっきり言わせてもらうわ。
私はね、馬鹿で馬鹿なバカリのことは大っ嫌いなのっ!
あなたも百眼様のしもべに寄生させて、一生私の性奴隷になってもらうわ!」
鈴華は鉄塊の一端を掴んで走り出す。
鉄塊からそのまま一本の棒が伸び出て、鈴鹿によって力いっぱい薙ぎ払われる。
地中から起こされた鉄塊はそのままハンマーとなって振り下ろされる。
だがそれが目標を叩く直前、幾重もの葛草がきつく巻きつく。
「鈴華は私が止める。あなた達はその間に!」
「翠……!」
心配の表情を浮かべる灯や睦美に対し、翠は頬を赤らめながらも健気な笑みを返す。
「私のことなら心配いりません。それより、残り時間はもうそんなに無いはずです。
速く清見さんのところへ行ってください」
「清見は私と百眼様のもの! 誰にも渡さないんだから!」
「行って!」
翠は灯と睦美を押し出すと、すかさず巻き蔓を手放して無数の花びらを散らした。
鋭い刃が空を擦る。
葛草の巻き蔓は横一線に両断され、あとずさった翠の頬にも一筋の傷がつけられる。
微量の血の色が滲み出す。
「灯、行くぞ」
その場から離れる睦美に、灯はきょとんとする。
「鈴華と戦うには翠一人じゃきついだろ」
「足止め戦は彼女が一番得意としている。逆に言えば、
残り時間はそれくらいしか無いってことだろう。翠自身がそれを一番理解してるはずだ」
「くっ……分かったよ」
最後に翠の背中を一瞥してから、灯は睦美の後を追った。
切り刻まれた植物の残骸が地面に散らばり、鈴華と翠の剣幕を彩る。
「ふふっ、裏切り者がわざわざ裁きを受けに来たわけ?」
「私はもとから妖魔の味方になっていないから、裏切りではありません。
あなたの目から離れるチャンスをずっと待っていました」
「でも、翠ちゃんのおかげでこれまで色んな人間に寄生できたわ」
「……その罪を含めて、私が償いをするだけです」
「無意味だな。いずれあなたの精神は完全に邪悪に染まり、その感情さえ忘れてしまうわ」
「そうなる前に、この命と引き換えに妖魔の野望を防いで見せます」
310 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(13/20) sage 2012/08/24(金) 00:45:16.34 ID:TAhitKst
嘲笑じみた口調の鈴華に対し、翠は毅然とした表情で答えた。
彼女は頬の血珠を指で拭うと、それを地面に垂らした。
まるで息が吹き返ったかのように、
蔓の残骸から刺々しいイバラと真紅の薔薇が生え、鈴華と翠を取り囲む。
植物の表面に妖眼が見開き、禍々しい妖気を発散する。
翠の寄生スーツからも同様な妖気が溢れるが、彼女の表情には迷いは無かった。
「笑えるね。その体はもう完全に妖魔化したのに。まだ正義の味方でいるつもり?」
「蓮は泥沼より出でて、汚れに染まらず気高く伸びる。
例え私の体が邪道に堕ちようと、心を正義のために使うことができます」
「ざれごとを――!」
鈴華は全身の妖気を漲らせた。
彼女の触手スーツが一気に解放され、無数の刃となって翠に襲い掛かる。
翠もすかさず妖気を集中させ、目玉の生えたイバラと薔薇を起動させる。
邪悪なオーラ同士が、互いに激しくぶつかり合った。
□
翠や鈴華と違って、灯の技は単純明快である。
彼女が最も得意としている攻撃方法は、ズバリ体当たり。
四方八方から集まってくる蟲の群れの中、一陣の陽炎が縦横無尽に突き進む。
「どけどけどけ――っ!」
陽気な叫び声とともに、爆炎をまとった灯が敵の集団に突っ込む。
彼女が通った道に、ただ焼け溶けた蟲の黒染みが残される。
妖気の弱いものは、彼女に半径一メートル近付いただけで沸騰して蒸発していく。
そんな我先逃げまとう蟲の中、一匹の金属体の妖眼蟲が立ちはだかる。
その蟲ほかの軟体種と違い、はがねの体はくっきりとした輪郭を持っていた。
以前灯が戦ったことのある特殊種だ。
「出やがったな!」
灯は不敵な笑みを浮かべると、立ち止まるどころか更に加速した。
金色スライムの体から八本もの刀が伸び出て、左右から灯の体を切り裂く。
灯は頭身を低くしてかわすと、豪快な勢いでタックルをしかけた。
妖魔の金属体は瞬時に高熱化し、地面と摩擦する度に大量な体液が溶け出していく。
残された妖眼を灯がポイと捨てると、空中で小さく爆発して飛び散った。
久々に動けるのがよっぽど嬉しいのか、灯の炎はいつも増して燃えていた。
だが次に現れた敵手に、彼女は思わず足を止めた。
相手は少女だった。
華奢な体の上に、一本の蔓触手が右手から左足にかけていやらしく巻きつく。
その顔に恍惚な表情を浮かべていたが、灯を認識した途端腕を振り上げた。
蔓が一瞬にして伸び、灯が避けた後の地面に深い溝を作る。
その溝の縁から、緑色のコケが素早く成長する。
「こいつは……!」
「おそらく、ほかの寄生者だろう」
後方の妖眼蟲を退けて、睦美が灯のそばに駆けつけ指をさす。
311 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(14/20) sage 2012/08/24(金) 00:47:04.18 ID:TAhitKst
「あれを見ろ」
「なにっ!?」
灯は睦美に言われたとおり、視野を広げた。
左右にある二つの蕾の妖眼が完全に見開いていた。
蕾の肉片は縫い目を沿って綻び、毒々しいほど鮮やかな花が咲く。
中からとろりと粘液が流れ出た後、それぞれ一人の少女がおぼつかない足取りで立ち上がる。
一人は葉っぱのような服飾を身に付け、もう一人は頭に一輪の花をかざす。
花は綺麗な色に反し、中央に一つの目玉が生えている。
まだ乾かぬ体から、生まれたての淫香が漂ってくる。
だが灯達の前を阻むようにして立つと、改めて妖眼蟲を上回る妖気が伝わってくる。
「こいつら、翠の能力を……!」
「厄介な話だが、今は彼女達を相手にしている場合ではない」
「わかってらあ!」
灯は前を飛び越えるようにして大きく跳躍した。
しかし想像以上の速さで少女達は反応し、
三つの角度からそれぞれ蔓、葉っぱ、花びらを飛ばして攻撃した。
一方の睦美はその場でジャンプして、両足で地面を力いっぱい踏んだ。
土は平方形に沈み、逆に違う場所から同面積の土台が高く盛り上がった。
空高く跳んだ灯はそれを足場にして、敵の攻撃を越えて巨大蕾の真上に飛び上がった。
そのタイミングは阿吽のごとく一致する。
「清見は返してもらうぜ!」
灯は両腕を胸の前で交差すると、闘志を頂点までに燃やした。
火の鳥を模した霊気の形が背後で生成される。
「喰らえ、バーニング・バースト・バード!」
語尾を延ばしながら、灯は空中から急降下した。
朱雀色の霊気は空気と摩擦するたびに、耳をつんざくような爆音を弾く。
いつもより完璧な一撃だった。
蕾も凄まじい気配を感じたか、四つの妖眼をぎょろりと空に向け、灯と見つめ合う。
だが次に起きたことに対し、灯は自分の目を疑った。
それまで「蕾」と思い込んでいた敵は、
なんと地面から茎を引っこ抜き、そのまま逃走した。
カサカサと音を立てて、高速に離れていく。
「な――に――?」
あまりにも衝撃的な光景に、灯はポカンとした。
せっかくの必殺技はただの着地技となり、ぽっかり空いた穴の中で立ち尽くす。
蕾はジグザグ移動で、睦美の放った地烈斬を華麗にかわす。
「灯、やつを追え! 絶対逃すな!」
「おおう!」
灯は躊躇なく快足を飛ばす。
寄生された少女達はそれを追いかけようとする。
しかし、彼女達は一歩たりとも前へ進めなかった。
地面の土はまるで流砂のように後退していき、後方にいる睦美の足元へ集まっていく。
縮地法を駆使しながら、睦美は不安な気持ちで灯の去り姿を見つめた。
一瞬だが、蕾の最後の目が開きかけていることを彼女は見てしまった。
(でも、やらなくちゃ……!)
砂から起き上がる敵の少女達を見て、睦美は意を決して霊力を練り出す。
312 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(15/20) sage 2012/08/24(金) 00:48:49.44 ID:TAhitKst
□
四度目の激震が収束したしばらく後。
蕾の中を充満する粘液は、左右に軽く揺れた。
頭まで液体に漬かる清見は、口や秘部に触手をくわえたまま、
眠ったように目をつむっていた。
外界の衝撃は肉壁と粘液によって緩衝され、
彼女の髪が液体の中を揺れる程度だった。
バトルスーツはすでに半分以上が触手化していた。
淫液に漬かれた布地は目に見える速さで触肉と同化し、
溶かされた部分から小さな泡が浮上する。
暗い溶液の中は静寂に包まれ、寄生眼だけが不気味に輝く。
目玉は一度スーツに着床すると、地盤を固めるようにして繊毛を侵食させ、
今まで寄生した妖眼と絡め合って、更なる強固な肉布に形成する。
時間が一分一秒経つにつれ、その面積が拡大していく。
熟成した触肉は裏側に生え渡った繊毛を使って、清見の肌にべっとりと吸い付く。
そしていまだに抵抗する正常な布地に対し、寄生しながら強制的に変質させる。
長い時間をかけて進化した結果、肉布の構成は単純なものから複雑な形となった。
肉帯は彼女の首筋を巻きつき、そこから鎖骨まで二本に分かれて左右の乳房を覆い、
更に後背部で交差する。
露出した胸のラインや腋下の肌は、少女の性的な部分をより強調する。
そして触肉は腰つきを撫で下ろしながら、レオタード状となって股間を覆う。
蕾の中に埋もれていた四肢はすでにロンググローブやブーツ状の触手を履かされ、
触肉の切断面はうようよと繊毛がひしめく。
押し寄せてくる邪悪に、心が染まっていく。
清見は薄っすらと目を開いた。
淫液は彼女を内側から改造し、一から妖魔として作りかえていく。
なんとなく、もうすぐ終わるんだなと理解する。
だが頭に浮かぶのは悲しい感情ではなく、ドキドキするような気持ちだった。
蕾の雌しべとして受精し、ちゃんとした妖眼蟲の虜に成長することができた。
これからは自分が妖眼蟲を産み出し、妖魔の繁栄のために尽くす。
正義だった自分がもうすぐ悪のしもべになってしまうと思うと、
妖しい興奮がこみ上げてくる。
それを睦美や灯が見たら、二人はどんな表情をしてくれるだろう。
(すごく、ゾクゾクする……)
ドス黒い思いが、清見の心の中をよぎる。
彼女の瞳もまわりの妖眼と同じよう、邪悪な光がともり始めた。
313 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(16/20) sage 2012/08/24(金) 00:50:23.54 ID:TAhitKst
「清見――ィ!」
灯は懸命に叫び声をあげた。
しかし蕾が木々を押し潰して進む音が、その声を覆いかぶさる。
森中を進む敵を追いながら、灯は顔の前に腕を構えて飛んでくる木屑を防いだ。
なかなか縮まらない距離に、灯は強火で焼かれた卵のように焦った。
倒れてくる樹木が邪魔で、なかなか思うように闊歩できない。
そして少しでも近付けば、蕾は花粉やら種やらを放出して攻撃してくる。
こうして駆けくらべしているうちにも、五つ目の筋が開きつつある。
(絶対に開けさせないんだから……!)
灯は妖眼の様子を確認していた、その時。
彼女の足は、茂みから伸びた一本のツタに引っかかってしまった。
全力疾走が全力転倒となり、鼻から地面にぶつける。
その直後、四方八方から触手が伸び出て彼女をぐるぐる巻きにする。
罠にかかったことをあざ笑うかのように、蕾は振り向いた。
五つ目の筋間から強い眼光が漏れ出し、今にも完全に開きそうだ。
「舐めたマネしやがって……」
触手巻きの中から、くぐもった怒声が響く。
次の瞬間、灯に巻きつく触手が急速に枯れ落ちる。
蔓をつたって、一陣の炎が目にも留まらぬ速さで延焼していく。
「シュルルルル!」
蕾は重い奇声をあげながら、みずから蔓を寸断する。
それを機に、高熱化した炎気が蔓の残骸から突き破って出る。
鳳凰の形をした霊気を背に、
灯は空気をつんざくような音を立てながら蕾に向かって突進する。
すかさず蕾は自身を触手で包み、体組織を戦車の装甲よりも固く変化させる。
「いっけえ――!」
少女の火拳は一番外側のガクに直撃した。
そのまま中の木部繊維を貫き、維管束を貫き、子房を貫く。
大きな爆音とともに、蕾は内部から木っ端微塵に崩れ、
あいた大穴からおびただしい量の白液が飛び散った。
その粘液をかき分けながら、灯は一人の少女を抱き起こす。
少女の手足は肉片に埋め込んでいて、大文字のように固定されていた。
灯が力をこめて外へ引っ張り出すと、触肉の筋糸が少しずつ切れ、
肘や膝まで包んだ触手の布地が露呈する。
「清見、清見!」
灯は少女の体を地面に置くと、その名前を大声で呼んだ。
清見の目は閉じられ、白紙のような顔色に血の気がまったく見当たらない。
少女の体は暗藍色の肉布に覆われ、まだ癒着が終わらない触肉が小刻みに蠢き、
最後の合成を完成させようとしている。
彼女の手足にいたっては、すでに触肉の布地が服飾として完成していた。
淫らにうごめく媚肉は、少女の体にいやらしいイメージを添える。
そして寄生スーツ全体から濃厚な淫気と妖気がたちこめ、意志の弱い者を堕落させる。
314 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(17/20) sage 2012/08/24(金) 00:51:59.21 ID:TAhitKst
「清見、今すぐ助けるからな!」
灯は粘液でよごれてしまうこともかまわず、
清見の側で膝を立て、両手を彼女の腹に重ねた。
寄生スーツの妖眼に触れると、ふにゃっとした手触りが返ってくる。
意識を集中し霊気を高め、本人を傷つけないよう慎重に解き放つ。
霊力が触肉に衝撃を与えると、次第に熱したマグマのように赤く変色し、
妖眼もろとも溶け始めた。
「シュルルルゥ!」
触肉は耳を裂くような奇声を作りながら、
いくつもの肉紐に分裂して灯に襲い掛かる。
だが、灯はそれに気をかけることは無かった。
触手がいくら絡んでこようと、ただ霊力を両手に集中させる。
(妖魔なんかに、成らせてたまるものか!)
心の中で必死に唱えると、灯は霊力を十二分に引き上げた。
触手スーツはドロドロに溶け出し、流れ落ちた粘液が地面に溢れかえる。
その粘液の下から、本来の肌の色が見えた。
触肉が全て溶けた後、灯はようやく手を引いた。
額を伝う汗を拭う暇もなく、清見の胸に耳を伏せた。
しかし、伝ってくるのは冷たい感触だけだった。
「そんな、清見……お前、まさか自分から命を……!」
ますます生気が減っていく仲間の顔色に、灯は目尻を濡らした。
「せっかく助けてあげたんだから、死んだら絶対許さないんだからな!」
灯は清見の胸骨を押さえ、肘をまっすぐ伸ばして圧迫を繰り返した。
更に彼女の気道を確保して、人工呼吸を行おうと口を伏せる。
心肺蘇生で何がなるか分からない。
だが今の灯にとって、どんなことでもいいから、ただ清見に返事をしてほしかった。
その時。
いきなり開いた清見の目と、バッタリ見つめ合った。
「灯、顔が近い」
「うわあぁぁ!」
灯は思わずビックリしたが、すぐ歓喜の表情に一変する。
飽きるほど見慣れた、むっつりで無愛想な顔。
それが今の灯にとって、どんなものよりも愛着を感じた。
「清見、無事だったのか!」
「来るのが遅い。暑苦しい。後ろ危ない」
清見は灯に頬ずりされながら、矢継ぎ早にしゃべり出す。
灯は喜びの表情のまま背後へ裏拳を打ち出す。
拳の甲は飛び掛ってきた妖眼蟲に命中し、吹き飛んだ先にある木の幹でぺちゃっと潰れる。
315 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(18/20) sage 2012/08/24(金) 00:53:43.12 ID:TAhitKst
「良かった、本当に良かったよ。無事だったなんて」
「実のところ、ちょっと危なかった。蕾を破壊してくれるのがもう少し遅かったら、
私の体まで完全に妖魔化していたかもしれない。
しかし息を止めたおかげで、寄生はそこまで浸透しなかった」
「へぇ、息を止めたって……?」
「脳部から副交感神経を刺激し、心臓の鼓動を抑制したの。
私、潜水だけは得意だから……」
「二度とそんな危ない方法で泳ぐな!」
灯は清見を支えた手でツッコミを入れた。
だが意外なことに、清見はそのまま力無く倒れた。
まるで四十度の熱を出したままマラソンを走りぬいたように、
憔悴しきった表情を浮かべる。
虚ろな瞳は、どこまでも遠くを見つめていた。
「おい、清見? 冗談なんかやっている場合じゃないんだぞ」
灯は慌てて清見に触れる。
そしてビックリする。
少女の体は、まるで厳冬の湖に沈む氷のように冷たい。
その温度は、なおも下がり続けている。
「うんっ……」
苦しげな息が清見の口から漏れ出る。
彼女が呻き声をあげると、はだけた胸の部分から勾玉が浮かび上がる。
五行戦隊に変身するための霊具。
本来なら彼女を象徴する澄んだ青色が、今では色彩を失って黒がかっていた。
灯は愕然とする。
勾玉は彼女達それぞれの霊力によって作り出され、
彼女達の生命力を示すものでもある。
それがこんなにも黒く変色したのは、灯にとって初めて見た光景だ。
「そんな、どうして……」
「私の霊力は、ほとんど吸い取られて……」
「これ以上しゃべるな!」
「大丈夫……私より、速く鈴華達を……」
「何が大丈夫だバカヤロウ! いつもいつも必要以上にがんばって!
そこでじっとしてろ」
灯はバトルスーツから自分の勾玉を取り外した。
身に付けていた服は瞬時に赤い炎と化し、勾玉の中へ吸い込まれる。
その代わりに、彼女は変身した前の学生服姿に戻る。
灯は勾玉同士を当て、意識を落ち着かせた。
「鈴華のやつなら、睦美と翠に任せれば良い。今はこっちに集中しろ」
「……翠も睦美と一緒にいるのか」
「ああ、オレと睦美を助けてくれたんだ。だから心配は無い。
さあ経脈を開いて、霊気を同調させるぞ。オレの力を分けてやるから」
316 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(19/20) sage 2012/08/24(金) 00:55:01.27 ID:TAhitKst
清見は目を瞑り、弱々しく頷いた。
軽くしかめた眉間は、今にも苦痛を我慢しているようだ。
灯は二つの勾玉を通して、清見と気の流れを循環させる。
勾玉の片方は輝き、片方は黒ずむ。
焦りが増していく。
手のひらの先から、清見の霊力が微塵も感じられない。
自分の霊力だけ相手に流れていって、まるで一方通行のようだ。
どんな人間にも、最低限の生命エネルギーがあれば霊力となって現われるはず。
それがまったく感知できないとは、
清見の容態が想像もつかないほど悪いということだ。
「本当に……灯がもう少し速く来てくれたら、手遅れになることもなかったわ」
「……っ?」
霊力のコントロールに精神を集中するため、灯は言葉を発することもできず、
ただ清見の顔を見つめた。
清見の雰囲気は、どこか変わったように感じた。
「あともう少し速かったら、私も希望を捨てずに待っていられたのに」
清見は何事も無かったように、手のひらを広げて見せた。
彼女の勾玉は、墨汁の中から拾い上げたかのように真っ黒だった。
灯の心は震え上がった。
恐ろしいほどのスピードで、自分の霊気が吸い取られていくことに感付く。
「蕾が花咲く前に私を助けてくれて、ありがとう。でも、ちょっと遅かった。
私はもうあなた達の助けを諦め、妖魔に心を捧げてしまったの」
清見は淡々と述べながら、黒い勾玉を強く当てた。
まるでダムが決壊するかのように、灯の体から霊力が急速に溢れ出ていく。
顔を真っ赤にして止めるが、最初から無防備に解放した霊力は、
そう簡単にせき止めることはできない。
清見は立ち上がると、その体から濃密な邪気がほとばしる。
やがて、彼女の勾玉は一つの妖眼として見開く。
「はい、五つ目」
清見は静かに宣言した。
その途端、彼女の気配が完全に妖魔のものに変質する。
灯は渾身の力を振り絞り、なんとか清見から離れた。
「清見、お前……」
「邪魔よ」
冷酷な口調とともに、清見の手から激しい水流が放たれ、灯の胴体をつんざく。
森を切り裂くような悲鳴をあげ、灯の躯体が吹き飛ばされる。
その拍子に、赤の勾玉を手放してしまう。
何の前触れもない一撃。
バトルスーツも無く、無防備な体で受けてしまった灯は、
気絶しないだけで精一杯だった。
彼女は苦痛を耐えながら、傷だらけの体をなんとか起こす。
317 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(20/20) sage 2012/08/24(金) 00:56:25.99 ID:TAhitKst
「バカな……体に憑依した邪気は、全て浄化したはずなのに……!」
「ええ。確かに私の体は完全に妖魔化には至らなかった。
だから、灯の霊力を借りて、妖力を補充したの」
「なにっ……?」
「助けてくれてありがとう、灯。
あなたのおかげで、私は生まれ変わることができたわ」
清見は静かに告げると、蕾の残骸のほうへ歩んだ。
「やめろ……!」
灯は腹の底から声をきしませ、懸命に起き上がろうとした。
夜空に雲が集まり、月明かりを遮る。
空気のうなりが突風を呼び起こし、周囲の木々を揺らし始める。
一滴、二滴と続いて、無数の雨粒が降り始める。
清見は蕾の中にある一番太い触手を拾い、それを自分の股間に近づける。
そして眉間を悩ましく曲げて、触手の先端を自分の陰部に宛がう。
損傷を受けなかった蕾内壁の妖眼は、まるで祝福を贈るかのように妖しく光り出す。
「さようなら、灯」
「やめろ、清見――ぃ!」
灯が必死にあげた声は、激しく降り注いだ雨音に消される。
暗闇の中、清見の背中が弓なりに反らすと、
彼女が握る邪眼の勾玉から暗黒のオーラが溢れ出る。
魔の妖気は黒帯となって、乙女の裸体を妖しく包む。
形のいい乳房や柔らかい腰つき、腕や太もも、そして女性器までも。
一連の変身動作は、五行戦隊の時とまるっきり一緒だった。
だから灯は一瞬、これが全部清見の嘘じゃないかと思った。
そのささやかな希望は、周囲を溢れ返る妖気によって打ち砕かれる。
ひそかに伸ばした腕が、暗闇から伸びた水の触手に弾かれる。
触手はそのまま灯の前から赤い勾玉を奪い去る。
「くっ……!」
「灯、あなたにはもうチャンスは無いの」
清見はゆっくりと灯の側にやってきて、触肉に包まれた足で彼女を踏みつけた。
雷の閃光が遠くの空で炸裂する。
しばらく経ってから、ようやくゴロゴロと轟音が鳴り響いた。
だが、灯の頭にはその音は入らなかった。
彼女の脳内には、雷光によって一瞬照らされた清見の姿が、
いつまでも焼きついていた。
深海よりも暗い青色の寄生スーツ。
下から見ると良く見える太ももや、陰部に食い込むいやらしい触肉の形。
その宿主は、底知れぬ冷たい目で自分を見下ろしていた。
官能的な色香があたりを包みこむ。
(以上です)
睦美は蔓を素手で掴んだ。
触肉の先端部は瞬時に石化し、ぼりぼり音を立てて握り潰される。
石化がほかの部位へ伝染し始めると、トカゲの尻尾のように蔓が断ち切り、
翠のところへ戻ってその右腕に巻きつく。
触手の残骸を握ったまま、睦美は翠を見つめる。
学校で別れた時と比べ、少女の様子は随分と変わった。
触手化したコスチュームは、かつてのデザインをもとに大胆なアレンジが施されていた。
胸の谷間や背肌は露出し、匂い立つような色香が伝わってくる。
足の付け根は過激にカットされて、むっちりとした尻肉や太ももを見せ付ける。
体を覆う肉布の隙間からところどころ蜜液が溢れ、いやらしい連想をさせる。
もともと端正な顔立ちも、今では常時欲情しているかのように赤く染め、
異性を誘惑するような息を吐露する。
羞恥なのか快楽なのか、彼女の全身がビクビクと震えていた。
それが潤んだ瞳や切ない表情と合わさって、見る者の嗜虐心を刺激する。
更に異様なのは、彼女の服だった。
植物の蔓のような触手が布地のように繋ぎ止め、
肉付きの良い体を足のつま先までぴっちり包む。
繋ぎ目のところから見え隠れする裏側の繊毛や、ねっとりとした粘液。
そして何よりも不気味な、服の表面にある多数の目玉。
その邪悪な雰囲気は、鈴華のそれとまるっきり同じだった。
ただ鈴華の色は淀んだ黄色に対し、翠の装束は鬱蒼としたダークグリーンである。
いずれも元の五行霊服の面影を残しながらも、おぞましいまでに変貌した触手スーツ。
怪奇ではあるが、それ以上に妖しい魅力を感じさせる姿だった。
あの慎ましい翠がこれほど凄艶に変貌できるとは、
親友である睦美にも想像がつかなかった。
もともと豊満だったバディは触手服によって、余すところ無く性的な興奮を焚きつける。
だがそれが魅力的であればあるほど、睦美は心に痛みを覚えた。
背中で急上昇する温度を感じる。
首に降りかかる息は、溶鉱炉から吹き出る火の粉のように熱くて痛い。
振り返らずとも、背後にいる灯の怒りを感じ取る。
そのまま自分までが沸騰しないよう、睦美はできる限り冷静な口調で尋ねた。
「あなたはいつ妖魔側になったの」
「……昨日から」
「清見はどこ」
「森の奥、あなた達を逃したところ」
「これからどうするつもりだ」
「二人とも妖眼蟲に寄生させてもらうの。……私や、鈴華と同じように」
かつての仲間であり、正義の味方であった少女は静かに答える。
その言葉も態度も、睦美にとって残酷なものだった。
299 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(2/20) sage 2012/08/24(金) 00:24:02.21 ID:TAhitKst
騒ぎ立てる灯を制して、睦美はため息を吐く。
「驚いたな。まさかあなたほどの人間が、そこまで堕ちるとは」
「……」
後ろめたいからか、翠は視線をそらしてうつむいた。
「心配する必要はありません。一度されてみれば、
あなた達もすぐに私と同じ気持ちになれます」
「妖魔に屈するつもりは無いね」
「だがあなた達には勝ち目はありません」
「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃん!」
灯は睦美の背中から頭を伸ばして、「べーだ」とあかんべを作った。
そう、と翠はただ悲しげに呟いた。
次の瞬間、彼女の体を覆う触手スーツはにゅるりと音を立ててうねり始める。
服の表面にある妖眼は獰猛な緑光を放ち、
あたりの妖気と淫気は一段とこまやかになっていく。
その妖気に刺激されたか、妖樹の群れはシュルシュルと音をあげながら前進する。
だが先頭に立つ翠はそれを腕で止める。
「この戦いは私だけのもの。あなた達は下がりなさい」
翠の服の胸元にある目玉が強烈な眼光を放つと、妖樹の群れはピタリと動きを止めた。
その光景に、睦美はチクリとした痛みを感じた。
彼女はすでに手足のように、下級妖魔を扱うことができる。
それが何よりも妖魔の一員となった証拠である。
戦端は唐突に開かれる。
翠は腰まで及ぶロングヘアを優雅にかき上げた。
周囲に一陣の薫風が舞い上がり、綺麗な長髪がサラサラと流れる。
どこからともなく花びらが現われ、ふらふらと睦美達の方向へ吹いてくる。
ほぼ同時に、睦美は人差し指と中指で印を結んで地面を突いた。
一枚の巨岩が地表から急速にせり上がる。
ただ浮かんでいるように見えた花びらは、
まるで発射されたカッターナイフのように次々と岩に刻んだ。
岩に受け止められた花びらはその場で青々しく変化し、
まもなく刻み込んだ溝から苗が生え出た。
苗の生長が終わるよりも速く、睦美は岩をまるごと放り投げた。
疾走しながら翠は蔓鞭を縦一線に振り上げ、
すでに内部まで植え崩された巨岩はその一撃によって砕かれる。
降り注ぐ土石の中から、翠は睦美達に急接近する。
彼女が踏みつけた土に草花が生え、睦美のテリトリーだった砂地を緑に作り変える。
睦美は相手の動きを目で追いながら、背中に一筋の冷や汗を流した。
相性は、断然こっちのほうが不利である。
その上自分は一歩も動けない。
300 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(3/20) sage 2012/08/24(金) 00:26:49.50 ID:TAhitKst
綿密な戦闘スタイルを擁する翠相手では、
こちらから仕掛けなければどんどん追い込まれてしまう。
その先手さえ譲らないといわんばかりに、翠は睦美を目掛けて蔓触手を振るわす。
だが彼女が睦美に向かって踏み込んだ途端、
足場が崩れて大きな落とし穴が現われる。
(今だ……!)
睦美は機を逃さず右の拳に霊力を溜め始めた。
狙いは全身全霊の一撃のみ。
相性をも覆し、翠の回復力でさえ追いつかない大きなダメージを。
しかし、翠は想定したよりも速く復帰した。
落とし穴から数本のツタが伸びると、
そこからラフレシアのような巨大植物がよじ登る。
開花した中から無傷な翠が現われ、蔓触手で睦美の首を絡め取る。
「おしまいです。もう降参してください」
言い終わってから、翠は違和感を覚えた。
あれほど騒がしかった灯が、戦い始まってからまだ一言も喋っていない。
睦美の背後に目をやると、
灯の顔が真っ赤なヒキガエルのように膨らんでいるのが視界に入る。
翠はすかさずラフレシアを前へ蹴り上げ、そこから飛び降りる。
一瞬速く、灯が口を広げて大きな火炎弾を吐き出す。
直径二メートルにも及ぶラフレシアは、悪臭を散らしながら灯に向かって突進する。
だがまばゆいほど輝く火球に触れると、わずかな炭屑を残して蒸発した。
火炎弾は翠の上方を掠め、明後日の方向へ飛んで行った。
灯はケホンケホンと煙を吐きながら、悔しそうに睨みつける。
あと一歩というタイミングで、狙いを邪魔されてしまった。
首より下が動けない彼女にとって、この攻撃は唯一取れる行動だった。
しかし彼女が作ったこの隙は、睦美にとって十二分の助けとなる。
彼女は緩んだ触手を振り解きながら、溜め終わった右拳を構える。
その時。
翠は忽然と睦美に顔を近付けた。
そして彼女の耳側で、小さな声で呟く。
(お願い、私に捕まったフリをして)
その言葉はどういう意図で言っているのか、睦美にはよく分からなかった。
考える暇もなかった。
凝縮しきった霊力は、ギリギリまでつがえた矢のように、発さずにいられない。
「……砕石拳!」
気合の入った一喝とともに、
睦美の右手は無数の石つぶてと砂塵を巻き上げて相手に直撃する。
301 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(4/20) sage 2012/08/24(金) 00:29:15.23 ID:TAhitKst
翠は何もしてこなかった。
小腹に直撃を受けて、糸が切れた凧のように遠くへ飛んだ。
その様子を、睦美は半信半疑の表情で見つめるしかなかった。
力を一点に凝縮した一撃は、単純に対象を内側から破壊するのみ。
あまりにも凄まじいパワーに、睦美自身も途中で不発にすることはできない。
それを無防備に向かってくるなんて、自滅するようなものだ。
妖樹達の前で、翠は震えながら立ち上がった。
直撃を受けた触手スーツはぐにゃりと潰れ、
その部分に生えていた目玉の白身と合わせて溶け出し、
下にある少女の素肌を外気に晒す。
すぐに周りの肉布が活発に細胞分裂を繰り返し、
損傷部分を補うための緑色の液体を分泌する。
緑汁は肌の上で絡み合いながら、だんだんと繊維の形を成す。
「……お見事です……」
負傷した部分を手で抑え、口から一筋の血を流す翠。
たとえ表面の傷は妖眼蟲の力で回復できても、
体内部まで届いたダメージはそう短時間に回復できないはずだ。
「皮肉なことですね……味方だったとき、何よりも頼もしかったこの技を、
自分の身で受けるなんて……」
翠は口の血を拭いながら、冷たい表情に戻る。
「しかし残念です。睦美さん、あなたは最後のところで迷いが生じましたね。
本来なら、私がここで横になったままのはずです。
その未練が、あなたの命取りとなりましょう」
翠が言い終わった途端、睦美と灯のまわりから大量の蔓が伸び出た。
不意を突かれた二人は抵抗する暇さえなく、
次から次へと現われる触手によって体を隅々まで緊縛される。
翠は更に印を結ぶと、砂を押しのけて一つの巨大植物が現れる。
それはウツボカズラのような、長い壷型の怪物だった。
壷のような捕虫器で二人を足元から頭まで一気に呑み込むと、
蓋を閉じ蔓で何重も巻いた。
ウツボの内側からもがく音が漏れ出るが、蔓が巻いていくにつれ弱まり、
やがて何も聞こえなくなった。
完全に静まったことを見届けた翠は、妖眼樹の群れを振り返る。
「この子達は私が連れて行くわ。
あなた達はこの森に誰も入らないよう、周囲を監視してきなさい」
「「……シュルルル……」」
スライムの肉同士が擦れ合って、奇声を発しながら緩慢な足取りで散った。
その場にほかの者がいないことを確認してから、
翠はゆっくりとウツボカズラの前にやってきた。
巨大食虫植物の蓋はパカッと開き、息を求める二つの頭が急浮上する。
302 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(5/20) sage 2012/08/24(金) 00:31:12.68 ID:TAhitKst
「ハァ、ハァ……」
「ぷはー! あと少しで窒息するところだったぜ」
睦美と灯が口を大きく開けて息を吸っている隙に、
翠は丸薬を取り出しそれぞれの口に押し込む。
「んぐぅ!」
「これは……?」
「解毒剤よ」
お腹が暖かいと感じるや否や、睦美達は鉄枷がはずれたような身軽さを感じた。
気の流れが一循すると、
それまで体にまとい付いていた悪寒がスーッと消えていく。
ついさきほどまで筋肉が動けなかったのが嘘のようだ。
灯はウツボカズラから地面に降り立ち、嬉しそうに屈伸運動を繰り返す。
「おお、体が治った!」
「即効性のものです。後遺症も一切残らないはずです」
「オレは最初から翠のことを信じてたからな。
五行戦隊の絆は、ダイヤモンドカッターでも切れないぜ!」
灯は翠に向かってウインクしながら、ピースを作る。
その横で、睦美がゆっくり足を伸ばして着地する。
「よく言うよ。火を吹いた時は必死だったくせに」
「そ、そういう睦美こそ、マジになって翠を殴ったじゃないか」
「そうよ」
「えっ?」
「敵の目を欺くには、それくらい力を入れないと」
「なんだよ、最初から全部分かってたのかよ!」
「いいえ、私もあなたと同じ本気だったわ」
睦美はそう言いながら、翠に顔を向けた。
「敵を容赦するつもりは一切無い。あの時点では翠を敵として見ているから、
例えかつての仲間だろうと手加減しないし、後悔もしない。
それでいいよね、翠?」
石よりも固い信念を滲ませながら、睦美は翠を見つめた。
今度の翠は視線をそらさず最後まで視線を受けとめた。
そして、いつも学校で見せるような微笑を浮かべて。
「ありがとう、睦美。でも、手加減しなかったというのは、嘘かな」
「うーん……ちょっと、したかもしれない」
「あれれ、睦美はもしかしは照れちゃってるの?」
灯が意地悪い声をあげると、睦美はますます気恥ずかしそうに頬をかいた。
それを隠すかのように、睦美は改めて翠に尋ねた。
「ごめん、翠。まだ痛い?」
「大丈夫よ。私が今まで傷つけた人と比べれば、
これくらい何でもないから……」
その言葉にこもる悲しい感情を感じると、睦美も灯も真剣な表情になる。
303 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(6/20) sage 2012/08/24(金) 00:33:02.85 ID:TAhitKst
「翠、あなたや鈴華に起きたことを詳しく教えてくれない?」
「はい……」
翠はつらそうに顔を俯き、重々しく口を開く。
「全ては昨日の夜のことです。私はみんなと離れた後、
鈴華ちゃんの影を見かけて……そして彼女に襲われたの」
「鈴華め! やっぱり原因はあいつだったのか」
「あの時点で、彼女はすでに妖眼蟲に支配されていました。
そして、私も妖眼蟲に寄生され、彼らの……言いなりになったのです。
そこから今までずっと」
翠は震えながら、言葉を続けた。
彼女が身に着けている触手スーツを観察しながら、睦美は慎重に尋ねる。
「これもその妖眼蟲の一種なのか?」
「はい。姿形はさまざまありますが、このタイプは人間に寄生して全身を支配し、
精神まで浸蝕します。寄生の進行度は人によって違うみたいで、
鈴華ちゃんはすでに心を支配されたが、私はまだなんとか意識が保てる状態です」
「鈴華は、やはり完全に敵側になったのか」
「……はい。一度妖眼に寄生された者は、速かれ遅かれ悪の心を植えつけられてしまいます。
この妖眼蟲がある限り、私もいずれ……」
「へどが出る妖怪だぜ! こんなもの、オレがひっぺかしてやる!」
灯はいきり立って、触手スーツの襟口を掴み取った。
しかし彼女が力を入れた途端、スーツの表面にある妖眼はぎょろりと視線を集める。
翠は悲鳴を上げながら地面にうずくまり、
同時に寄生スーツから数本の触手が分裂して灯に襲い掛かる。
「灯、やめろ!」
睦美はすかさず灯を引き離す。
触手は空中でうねうね浮遊した後、攻撃対象を失ったせいか、
元の触手服に合体していく。
翠の荒々しい息遣いだけがいつまでも響き渡った。
その中にかすかな官能的な響きが含まれていたが、
睦美や灯には気付くはずがなかった。
「どうやら外から敵意を感じると、宿主の意思によらず自動的に反撃を行うようだ」
「くそっ、これじゃあ迂闊に手が出せないじゃないか!」
「一気に除去ではなく、霊力で少しずつ浄化するほかないだろう。
いったんここを離れて、翠を安全な場所に移動させよう」
「だ……め……」
翠は熱っぽい吐息を漏らしながら、まだ身震いが止まらぬ体を無理やり立たせる。
ほのかに赤い肌色は、しらずしらずのうちに雌としての媚態を強調する。
しかし、彼女の表情は必死だった。
「私なら、大丈夫よ……それより、速く清見ちゃんを助けて!」
彼女は睦美と灯の顔を見つめ、一字一句続けた。
「今はまだ間に合うけど……速くしないと、彼女の寄生化が終わってしまう」
304 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(7/20) sage 2012/08/24(金) 00:34:53.89 ID:TAhitKst
□
清見が目を覚ましたのは、蕾に三度目の激震が走った時だった。
ぶよぶよした肉色の壁は不規則にうねり、次第に大きく波を打つ。
脳髄に直接刻まれるような鋭い快感が、曖昧な意識を強引に覚醒させる。
まぶたをゆっくり開けば、肉壁についた妖眼が一斉に自分を見つめ返す。
「うぅっ……」
妖眼が怪しげな光を放つたびに、快感がさざなみとなって背筋を押し上げる。
肉壁に埋もれる四肢はまるで咀嚼されているかのように、
ねっとりとした気持ち良さが伝わってくる。
天井から滴る粘液の頻度は、明らかに以前よりも増した。
絶え間なく分泌される甘汁が顔を汚し、体に垂れ落ちる。
気を紛らそうと体を見下ろした時、清見は愕然となった。
身に付けているバトルスーツが、触手化しているのだ。
最初はただの錯覚かと思った。
だが目を良く凝らしてみると、自分の服が少しずつ蠢いていることに気付く。
粘液をたっぷり吸い込んだ布地は、ゆっくりと液状に同化されていく。
爽やかな青が絵の具のような青液と化し、
そこから更にドロドロした肉質に変化する。
粘体同士が凝縮しながら濃度を高め、繊維を伸ばし合い、
新たな肉布として生まれ変わる。
それは元の清らかなイメージと異なり、暗く淀んだものだった。
青色の肉布はまるで生き物のように蠕動し、更に効率よく粘液を吸い上げる。
面積はまだ小さいが、触手化はまるで伝染するかのように周りへと広がっていく。
固体と液体の中間状態で細い繊毛を伸ばし、肉質の繊維を増殖させる。
そしてより長時間粘液に漬かった部分から触手化が速く進んでいく。
不思議なことに、恐怖の気持ちは一瞬しか起こらなかった。
それよりもすぐに、麻薬のような背徳感が脳を染める。
(私は……蕾の一部……)
ぼんやりとした思考の中、まるで誰かに囁かれたかのような思念が浮かぶ。
それを口に出してつぶやいた途端、
体中から言いようのない甘い幸福感が起こる。
心臓は秘所と繋がる触手と同じリズムで、ドクドク鼓動する。
血液が循環するたびに霊力が吸収され、
代わりに邪悪な妖力を体内に注がれているのを実感できる。
ふと、正面の肉壁から一本の触手が盛り上がり、清見の前まで伸びる。
淫靡な香りが漂い、二三個の目玉が嵌め込まれた先端部は、
思わず顔を背けたくなるほどグロテスクだった。
しかし、清見はそこから目を離すことができない。
粘液よりもずっと濃い匂いが、少女の淫欲を引き付けて離さない。
以前の清見なら、この淫臭には耐えられただろう。
だが霊服が保護機能を果たさないほど弱まった今、
体の奥底から抑えきれないほどの衝動が湧き上がる。
305 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(8/20) sage 2012/08/24(金) 00:36:49.32 ID:TAhitKst
(私は、雌しべだから……雌しべはちゃんと雄しべから受精しなきゃ……)
自分じゃない声が心を支配する。
おかしいと分かっていても、清見はこの寄生本能に抗えなかった。
肉壁がうねり出すと、清見の四肢を後ろに回し、彼女をバック体勢から突き出す。
顔の間近に雄しべの触手があると、くらくらするような匂いがより濃くなる。
まわりの無数の妖眼に見守られる中、
清見はただうつろな目で勃起をじっと見つめていた。
猛々しい造形の表面に血管が浮かび、一定のリズムで脈打つ。
先端から滲み出る白い液体は、蜂を誘う蜜のようにキラキラ輝く。
そこに顔を近付け、唇を開き、小さな舌先で先端をちょこっと舐める。
触手がビクンと反応する。
それに安心したかのように、清見は触手の輪郭をなぞって上から下へ、下から上へと舐める。
雄しべの蜜と自分の唾液が混ざり合う。
飲み込んだ時の甘さは、陶酔した表情によって表現する。
気がついたら、清見は夢中になって異型をしゃぶり始めた。
普段機知に富んだ両目も今はとろんとして、
無表情な顔は赤く染まり色気を振りまく。
「ぴちゅ……はむっ、んぐ」
まるで恋人とディープキスをかわすかのように、雄しべの柱頭と舌を絡め合わせる。
ときには唇で優しくついばみ、ときにはざらついた表面を舌でなぞる。
最初こそ噛み千切ることを思い立ったが、
それもすぐに淫液が飲める安堵感に代替される。
それどころか、時折思い出したかのように両足の付け根をもぞもぞさせ、
娼婦になった気持ちで股間の触手から快感をねだる。
性器を突かれる嫌悪感はすっかり無くなり、今では何よりも体に馴染んでいた。
気だるい淫楽が妖力とともに体に染み渡り、
自然と腰を振って迎合するようになる。
蕾の雌しべとなってから、乙女の体がどんどん淫乱な色に染められていく。
ふと、口内の触手が雄々しく脈を打ち始める。
心の準備ができるよりも速く、触手の先端からおびただしい量の白液が吐き出される。
「ひゃっ……」
思わず口を離して、小さな悲鳴をあげた。
口で受け止めきれなかった熱液は顔や髪にかかり、
そこからいやらしい匂いを放つようになる。
しかし清見はよごれることも気にせず、虚ろのまま雄しべ周りの残滓を舐め取り始めた。
花の雌しべにとって、雄しべから受精することはこの上ない喜びである。
妖液を大量に浴び続けたことにより、霊気が溶かされるスピードはますます速くなった。
妖力が宿し始めた肉布は更なるスピードでうねり、
小腸のような表面積を増やしていく。
そうして分裂した繊毛を通して、毛細管現象のごとく妖液を正常だった服まで浸透させる。
アメーバがほかの細胞を食いながら増殖するよう。
たびかさなる浸蝕を経て、
もともと服の表面にあった霊気の紋様はほとんど消えかかっていた。
その代わりに、妖気を滲ませる禍々しい模様が浮かび上がる。
寄生面積が増加していくにつれ、霊服は蕾の肉壁と同じ肉繊維に作りかえられる。
306 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(9/20) sage 2012/08/24(金) 00:38:44.98 ID:TAhitKst
ポトッと、一つの目玉が天井からふってきた。
目玉は触手化し終わった服地に移動すると、そのまま表面にピタッと張り付く。
「んんむ……はああぁん!」
体を弓のように反らす清見。
妖眼が取りついた部分を中心に筋が走る。
そこから妖眼は押し込むように肉布の中に入っていく。
目玉がめり込むたびに、ずきゅんとするような痺れが全身に広がる。
体がいくらこわばったところで、触手に絡められた清見は身動きもできず、
ただ背中をもどかしそうに揺らすしかなかった。
(だめ、それ以上は……!)
激しい衝撃によって、失いかけた我を取り戻す。
妖眼と肉布が一体化していく。
普通の人間にとって、今すぐにも没頭してしまう快感。
しかし、その意味を察知した清見は、なんとか寄生を食い止めようと歯を食い縛った。
妖眼と肉布が繋がってしまえば、おそらくその部位は完全に触手化してしまう。
五行戦隊のバトルスーツはもともと霊力で維持されるため、
仮に破壊されても修復はできる。
だがそれ自体が妖魔化してしまった、もはや浄化しても元には戻れないだろう。
妖眼が深く押し込むほど、布地と接する肌から甘い快感が広がる。
裏側に生え始めた繊毛がぬめっと肌を愛撫し、
抵抗の意思を少しずつ溶解していく。
(くぅぅぅ……っん!)
清見は眉を悩ましげに曲げた。
筋目は一気に裂かれ、そこに目玉全体が沈む。
肉布がしばらく激しくうねったが、
やがて妖眼が完全に定着すると、そこで改めてまぶたをあける。
「かぁあああんっ!」
清見の瞳孔が大きく開いた。
妖眼の寄生が終わった瞬間、極限に迫るような快楽が体を突き抜ける。
みるみるうちに目玉と肉布は融合し、繋ぎ目が見当たらなくなった。
そして新たに神経細胞のネットワークが構築され、今までなかった性感帯が一つ増える。
妖眼は寄生後の居心地に満足したのか、きょろりとあたりを眺め回す。
その映像が綺麗に脳内で再生された。
「ハァ、ハァ……」
少女の可憐な胸が起伏を繰り返す。
衝撃を感じる気力さえなかった。
上昇してくる粘液の水位をぼんやりと見つめ、清見は疲れ切った顔で目をつむる。
何も考えられない。
何もできない。
身を焦がす淫欲は自分の感情なのか、それとも植えつけられたものなのか、
それすら区別できなくなった。
だがどちらにしろ、彼女はもうその快感に身を委ねるしかない。
触手化していくスーツがベトベトしてて気持ち良い。
307 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(10/20) sage 2012/08/24(金) 00:40:58.87 ID:TAhitKst
□
緑、赤、褐の三色が風のごとく木々の間を駆け抜け、
地面の落ち葉に踏み跡を残す。
ふと、先頭を走る緑の人影が立ち止まる。
残りの二人は一瞬飛び越えるが、すぐ地面に釘を刺したようにピタッと止まる。
「二人とも、隠れて」
緑の少女が小声で呟くと、赤と褐色は音も無く幹を登って気配を消す。
森奥からシュルシュルと草葉の掠れ音が近付く。
二匹の暗緑色のスライムが現われ、体中央にある目玉を輝かせる。
それを応えるかのように、少女の服の胸元にある妖眼も淡く光る。
「こちらに敵はいないわ。あなた達はあっちへ行って見張りなさい」
「「シュルルル」」
スライムは躯体をうねらせ、指示された方向へのろのろと移動した。
妖気が完全に遠のいてから、少女はほっと息をつく。
「もう大丈夫です」
「ハラハラするぜ。あいつらは何考えてるかまったく分からないし。
翠を襲ったりしないのか?」
「はい……私が心の中で念じれば、彼らには意思が伝わるみたいです」
木の後ろから出てきた灯に対し、翠はやや答えづらそうに顔を俯いた。
途中で何度かこうして妖眼蟲と遭遇したが、その度に翠が出てやり過ごした。
その不思議な光景に灯は驚くばかりでいた。
一方、睦美の考え方は堅実だった。
「識別信号みたいなものなのか。あの植物型以外の蟲にも通じるか?
以前私達が戦った金色のやつとか」
「あれは鈴華ちゃんの直属だから、私を敵とは認識しないだけで、
直接指示を下せるのは鈴華ちゃんだけだと思います」
翠は顔を赤らめ、「もうすぐ着くはずです」と再び先頭をとった。
森を抜ける道中、睦美と灯はむず痒いような、複雑な気持ちになった。
今の翠は、妖魔の寄生スーツを身にまとっている。
正義を象徴する五行戦隊の霊服と違い、
それは女性をより淫らに見せるための造形だった。
邪悪を示す妖力以外にも、翠の肢体から絶えず芳ばしい香りが漂う。
それは決してアロマなど上品なものではなく、
メスがオスを誘うときに放つ淫らな匂いであった。
そして翠自身は抑制しているものの、
彼女の仕草には無意識のうちに官能的な情緒が溢れ、淫花のように美しかった。
人一倍気配りする翠には、自分の身に起きている変化は当然気付いているはず。
それでも睦美と灯に心配をかけまいと、恥ずかしさをこらえて道案内を先導する。
その心内を思うと、睦美も灯もやるせなかった。
308 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(11/20) sage 2012/08/24(金) 00:42:23.92 ID:TAhitKst
「そろそろ見えてきましたわ」
翠は足を緩め、一本の木の後ろに体を預ける。
睦美と灯は手前にある茂みに身を屈め、視線をそこに移す。
やや開いた空け地に、複数の巨大蕾が地面に根ざしていた。
蕾から地面に突き刺さる極太触手は、リズミカルに膨張と収縮を繰り返す。
そのたびに、気色悪い触肉の表面に妖気が凝縮し、
まるで地中から養分を吸い上げているようだ。
それぞれの蕾の表面に妖眼が開きかけているが、
一番奥にある蕾だけ三つもの妖眼が見開いていた。
その蕾はほかと比べ、異様なほど大量な妖気を漂わせる。
霊力を習得している睦美や灯には、一目でその異常性を理解した。
「あの一番大きい中に、清見がいるだろ?」
「はい。それ以外の蕾の中にも、一般人が捕らえられています」
「なぜそんな手間をかける。寄生だけならすぐじゃないのか」
「あの特殊な方法により、どうやら宿主に記憶や能力を植え付けることができるみたいです。
潜在的霊力を持つ人間を選別し、よりも強い妖魔に作り変える……
これは私の予測ですが、おそらくその人達を上級妖魔の指揮官に仕立てて、
人間界に侵略させるつもりでしょう」
「じゃあ、清見のやつを解放したら、この人達も助けないと」
「はい……あれは!?」
突如、翠の声色が変わった。
睦美と灯は急いで視線を戻す。
清見を捕らえた巨大蕾はぶよぶよ蠢き、
太い触手を給水ポンプのように膨らませた。
それに合わせて蕾表面の脈絡膜が抽縮を繰り返し、新たな筋目が開き始める。
筋目の隙間はみるみるうちに広がり、
やがて完全な巨大妖眼として見開いた。
すでに開いた三つの妖眼と合わせて、不気味な眼光を周囲に放つ。
さっきよりも増して、濃密な妖気が睦美と灯の胸に圧しかかる。
だが、彼女達よりも翠のほうがよっぽど驚いていた。
「そんな、もう四つ目が……!」
「何かまずいのか?」
「寄生の進行速度が、予想をはるかに越えています!
……まだ四つ目ですが、これが五つ全て開いてしまうと、妖気が五行循環してしまい、
中にいる清見ちゃんが完全に妖魔になってしまいます!」
「つまり今すぐあのデカイのをぶっ壊せばいいだろ?」
「灯、待てっ!」
睦美が制止するよりも速く、灯はとび出した。
回復した彼女は動物園の檻から解放された豹のように、
標的に向かって一直線に飛んでいく。
だが彼女が蕾に届く直前、一つの梯形の鉄塊が空から降ってきた。
309 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(12/20) sage 2012/08/24(金) 00:43:50.98 ID:TAhitKst
灯は寸前のところで身を引き、後ろから駆けつけた睦美や翠と肩を並べる。
表面に「5t」と書かれた鉄塊は地面にめり込み、
その上に一人の小柄な少女が立っていた。
彼女は黄色い触手スーツを身に付け、憤怒と不服の表情を灯達に向ける。
「どういうことなのよ……どうしてお前達がピンピンしてるの?
どうして翠はそっち側にいるのよ!」
「やい鈴華、いつまで寝ぼけるつもりだ!」
灯が啖呵を切ると、鈴華は鼻で笑った。
「寝ぼける? ふふっ……今まで我慢してたけど、この際はっきり言わせてもらうわ。
私はね、馬鹿で馬鹿なバカリのことは大っ嫌いなのっ!
あなたも百眼様のしもべに寄生させて、一生私の性奴隷になってもらうわ!」
鈴華は鉄塊の一端を掴んで走り出す。
鉄塊からそのまま一本の棒が伸び出て、鈴鹿によって力いっぱい薙ぎ払われる。
地中から起こされた鉄塊はそのままハンマーとなって振り下ろされる。
だがそれが目標を叩く直前、幾重もの葛草がきつく巻きつく。
「鈴華は私が止める。あなた達はその間に!」
「翠……!」
心配の表情を浮かべる灯や睦美に対し、翠は頬を赤らめながらも健気な笑みを返す。
「私のことなら心配いりません。それより、残り時間はもうそんなに無いはずです。
速く清見さんのところへ行ってください」
「清見は私と百眼様のもの! 誰にも渡さないんだから!」
「行って!」
翠は灯と睦美を押し出すと、すかさず巻き蔓を手放して無数の花びらを散らした。
鋭い刃が空を擦る。
葛草の巻き蔓は横一線に両断され、あとずさった翠の頬にも一筋の傷がつけられる。
微量の血の色が滲み出す。
「灯、行くぞ」
その場から離れる睦美に、灯はきょとんとする。
「鈴華と戦うには翠一人じゃきついだろ」
「足止め戦は彼女が一番得意としている。逆に言えば、
残り時間はそれくらいしか無いってことだろう。翠自身がそれを一番理解してるはずだ」
「くっ……分かったよ」
最後に翠の背中を一瞥してから、灯は睦美の後を追った。
切り刻まれた植物の残骸が地面に散らばり、鈴華と翠の剣幕を彩る。
「ふふっ、裏切り者がわざわざ裁きを受けに来たわけ?」
「私はもとから妖魔の味方になっていないから、裏切りではありません。
あなたの目から離れるチャンスをずっと待っていました」
「でも、翠ちゃんのおかげでこれまで色んな人間に寄生できたわ」
「……その罪を含めて、私が償いをするだけです」
「無意味だな。いずれあなたの精神は完全に邪悪に染まり、その感情さえ忘れてしまうわ」
「そうなる前に、この命と引き換えに妖魔の野望を防いで見せます」
310 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(13/20) sage 2012/08/24(金) 00:45:16.34 ID:TAhitKst
嘲笑じみた口調の鈴華に対し、翠は毅然とした表情で答えた。
彼女は頬の血珠を指で拭うと、それを地面に垂らした。
まるで息が吹き返ったかのように、
蔓の残骸から刺々しいイバラと真紅の薔薇が生え、鈴華と翠を取り囲む。
植物の表面に妖眼が見開き、禍々しい妖気を発散する。
翠の寄生スーツからも同様な妖気が溢れるが、彼女の表情には迷いは無かった。
「笑えるね。その体はもう完全に妖魔化したのに。まだ正義の味方でいるつもり?」
「蓮は泥沼より出でて、汚れに染まらず気高く伸びる。
例え私の体が邪道に堕ちようと、心を正義のために使うことができます」
「ざれごとを――!」
鈴華は全身の妖気を漲らせた。
彼女の触手スーツが一気に解放され、無数の刃となって翠に襲い掛かる。
翠もすかさず妖気を集中させ、目玉の生えたイバラと薔薇を起動させる。
邪悪なオーラ同士が、互いに激しくぶつかり合った。
□
翠や鈴華と違って、灯の技は単純明快である。
彼女が最も得意としている攻撃方法は、ズバリ体当たり。
四方八方から集まってくる蟲の群れの中、一陣の陽炎が縦横無尽に突き進む。
「どけどけどけ――っ!」
陽気な叫び声とともに、爆炎をまとった灯が敵の集団に突っ込む。
彼女が通った道に、ただ焼け溶けた蟲の黒染みが残される。
妖気の弱いものは、彼女に半径一メートル近付いただけで沸騰して蒸発していく。
そんな我先逃げまとう蟲の中、一匹の金属体の妖眼蟲が立ちはだかる。
その蟲ほかの軟体種と違い、はがねの体はくっきりとした輪郭を持っていた。
以前灯が戦ったことのある特殊種だ。
「出やがったな!」
灯は不敵な笑みを浮かべると、立ち止まるどころか更に加速した。
金色スライムの体から八本もの刀が伸び出て、左右から灯の体を切り裂く。
灯は頭身を低くしてかわすと、豪快な勢いでタックルをしかけた。
妖魔の金属体は瞬時に高熱化し、地面と摩擦する度に大量な体液が溶け出していく。
残された妖眼を灯がポイと捨てると、空中で小さく爆発して飛び散った。
久々に動けるのがよっぽど嬉しいのか、灯の炎はいつも増して燃えていた。
だが次に現れた敵手に、彼女は思わず足を止めた。
相手は少女だった。
華奢な体の上に、一本の蔓触手が右手から左足にかけていやらしく巻きつく。
その顔に恍惚な表情を浮かべていたが、灯を認識した途端腕を振り上げた。
蔓が一瞬にして伸び、灯が避けた後の地面に深い溝を作る。
その溝の縁から、緑色のコケが素早く成長する。
「こいつは……!」
「おそらく、ほかの寄生者だろう」
後方の妖眼蟲を退けて、睦美が灯のそばに駆けつけ指をさす。
311 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(14/20) sage 2012/08/24(金) 00:47:04.18 ID:TAhitKst
「あれを見ろ」
「なにっ!?」
灯は睦美に言われたとおり、視野を広げた。
左右にある二つの蕾の妖眼が完全に見開いていた。
蕾の肉片は縫い目を沿って綻び、毒々しいほど鮮やかな花が咲く。
中からとろりと粘液が流れ出た後、それぞれ一人の少女がおぼつかない足取りで立ち上がる。
一人は葉っぱのような服飾を身に付け、もう一人は頭に一輪の花をかざす。
花は綺麗な色に反し、中央に一つの目玉が生えている。
まだ乾かぬ体から、生まれたての淫香が漂ってくる。
だが灯達の前を阻むようにして立つと、改めて妖眼蟲を上回る妖気が伝わってくる。
「こいつら、翠の能力を……!」
「厄介な話だが、今は彼女達を相手にしている場合ではない」
「わかってらあ!」
灯は前を飛び越えるようにして大きく跳躍した。
しかし想像以上の速さで少女達は反応し、
三つの角度からそれぞれ蔓、葉っぱ、花びらを飛ばして攻撃した。
一方の睦美はその場でジャンプして、両足で地面を力いっぱい踏んだ。
土は平方形に沈み、逆に違う場所から同面積の土台が高く盛り上がった。
空高く跳んだ灯はそれを足場にして、敵の攻撃を越えて巨大蕾の真上に飛び上がった。
そのタイミングは阿吽のごとく一致する。
「清見は返してもらうぜ!」
灯は両腕を胸の前で交差すると、闘志を頂点までに燃やした。
火の鳥を模した霊気の形が背後で生成される。
「喰らえ、バーニング・バースト・バード!」
語尾を延ばしながら、灯は空中から急降下した。
朱雀色の霊気は空気と摩擦するたびに、耳をつんざくような爆音を弾く。
いつもより完璧な一撃だった。
蕾も凄まじい気配を感じたか、四つの妖眼をぎょろりと空に向け、灯と見つめ合う。
だが次に起きたことに対し、灯は自分の目を疑った。
それまで「蕾」と思い込んでいた敵は、
なんと地面から茎を引っこ抜き、そのまま逃走した。
カサカサと音を立てて、高速に離れていく。
「な――に――?」
あまりにも衝撃的な光景に、灯はポカンとした。
せっかくの必殺技はただの着地技となり、ぽっかり空いた穴の中で立ち尽くす。
蕾はジグザグ移動で、睦美の放った地烈斬を華麗にかわす。
「灯、やつを追え! 絶対逃すな!」
「おおう!」
灯は躊躇なく快足を飛ばす。
寄生された少女達はそれを追いかけようとする。
しかし、彼女達は一歩たりとも前へ進めなかった。
地面の土はまるで流砂のように後退していき、後方にいる睦美の足元へ集まっていく。
縮地法を駆使しながら、睦美は不安な気持ちで灯の去り姿を見つめた。
一瞬だが、蕾の最後の目が開きかけていることを彼女は見てしまった。
(でも、やらなくちゃ……!)
砂から起き上がる敵の少女達を見て、睦美は意を決して霊力を練り出す。
312 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(15/20) sage 2012/08/24(金) 00:48:49.44 ID:TAhitKst
□
四度目の激震が収束したしばらく後。
蕾の中を充満する粘液は、左右に軽く揺れた。
頭まで液体に漬かる清見は、口や秘部に触手をくわえたまま、
眠ったように目をつむっていた。
外界の衝撃は肉壁と粘液によって緩衝され、
彼女の髪が液体の中を揺れる程度だった。
バトルスーツはすでに半分以上が触手化していた。
淫液に漬かれた布地は目に見える速さで触肉と同化し、
溶かされた部分から小さな泡が浮上する。
暗い溶液の中は静寂に包まれ、寄生眼だけが不気味に輝く。
目玉は一度スーツに着床すると、地盤を固めるようにして繊毛を侵食させ、
今まで寄生した妖眼と絡め合って、更なる強固な肉布に形成する。
時間が一分一秒経つにつれ、その面積が拡大していく。
熟成した触肉は裏側に生え渡った繊毛を使って、清見の肌にべっとりと吸い付く。
そしていまだに抵抗する正常な布地に対し、寄生しながら強制的に変質させる。
長い時間をかけて進化した結果、肉布の構成は単純なものから複雑な形となった。
肉帯は彼女の首筋を巻きつき、そこから鎖骨まで二本に分かれて左右の乳房を覆い、
更に後背部で交差する。
露出した胸のラインや腋下の肌は、少女の性的な部分をより強調する。
そして触肉は腰つきを撫で下ろしながら、レオタード状となって股間を覆う。
蕾の中に埋もれていた四肢はすでにロンググローブやブーツ状の触手を履かされ、
触肉の切断面はうようよと繊毛がひしめく。
押し寄せてくる邪悪に、心が染まっていく。
清見は薄っすらと目を開いた。
淫液は彼女を内側から改造し、一から妖魔として作りかえていく。
なんとなく、もうすぐ終わるんだなと理解する。
だが頭に浮かぶのは悲しい感情ではなく、ドキドキするような気持ちだった。
蕾の雌しべとして受精し、ちゃんとした妖眼蟲の虜に成長することができた。
これからは自分が妖眼蟲を産み出し、妖魔の繁栄のために尽くす。
正義だった自分がもうすぐ悪のしもべになってしまうと思うと、
妖しい興奮がこみ上げてくる。
それを睦美や灯が見たら、二人はどんな表情をしてくれるだろう。
(すごく、ゾクゾクする……)
ドス黒い思いが、清見の心の中をよぎる。
彼女の瞳もまわりの妖眼と同じよう、邪悪な光がともり始めた。
313 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(16/20) sage 2012/08/24(金) 00:50:23.54 ID:TAhitKst
「清見――ィ!」
灯は懸命に叫び声をあげた。
しかし蕾が木々を押し潰して進む音が、その声を覆いかぶさる。
森中を進む敵を追いながら、灯は顔の前に腕を構えて飛んでくる木屑を防いだ。
なかなか縮まらない距離に、灯は強火で焼かれた卵のように焦った。
倒れてくる樹木が邪魔で、なかなか思うように闊歩できない。
そして少しでも近付けば、蕾は花粉やら種やらを放出して攻撃してくる。
こうして駆けくらべしているうちにも、五つ目の筋が開きつつある。
(絶対に開けさせないんだから……!)
灯は妖眼の様子を確認していた、その時。
彼女の足は、茂みから伸びた一本のツタに引っかかってしまった。
全力疾走が全力転倒となり、鼻から地面にぶつける。
その直後、四方八方から触手が伸び出て彼女をぐるぐる巻きにする。
罠にかかったことをあざ笑うかのように、蕾は振り向いた。
五つ目の筋間から強い眼光が漏れ出し、今にも完全に開きそうだ。
「舐めたマネしやがって……」
触手巻きの中から、くぐもった怒声が響く。
次の瞬間、灯に巻きつく触手が急速に枯れ落ちる。
蔓をつたって、一陣の炎が目にも留まらぬ速さで延焼していく。
「シュルルルル!」
蕾は重い奇声をあげながら、みずから蔓を寸断する。
それを機に、高熱化した炎気が蔓の残骸から突き破って出る。
鳳凰の形をした霊気を背に、
灯は空気をつんざくような音を立てながら蕾に向かって突進する。
すかさず蕾は自身を触手で包み、体組織を戦車の装甲よりも固く変化させる。
「いっけえ――!」
少女の火拳は一番外側のガクに直撃した。
そのまま中の木部繊維を貫き、維管束を貫き、子房を貫く。
大きな爆音とともに、蕾は内部から木っ端微塵に崩れ、
あいた大穴からおびただしい量の白液が飛び散った。
その粘液をかき分けながら、灯は一人の少女を抱き起こす。
少女の手足は肉片に埋め込んでいて、大文字のように固定されていた。
灯が力をこめて外へ引っ張り出すと、触肉の筋糸が少しずつ切れ、
肘や膝まで包んだ触手の布地が露呈する。
「清見、清見!」
灯は少女の体を地面に置くと、その名前を大声で呼んだ。
清見の目は閉じられ、白紙のような顔色に血の気がまったく見当たらない。
少女の体は暗藍色の肉布に覆われ、まだ癒着が終わらない触肉が小刻みに蠢き、
最後の合成を完成させようとしている。
彼女の手足にいたっては、すでに触肉の布地が服飾として完成していた。
淫らにうごめく媚肉は、少女の体にいやらしいイメージを添える。
そして寄生スーツ全体から濃厚な淫気と妖気がたちこめ、意志の弱い者を堕落させる。
314 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(17/20) sage 2012/08/24(金) 00:51:59.21 ID:TAhitKst
「清見、今すぐ助けるからな!」
灯は粘液でよごれてしまうこともかまわず、
清見の側で膝を立て、両手を彼女の腹に重ねた。
寄生スーツの妖眼に触れると、ふにゃっとした手触りが返ってくる。
意識を集中し霊気を高め、本人を傷つけないよう慎重に解き放つ。
霊力が触肉に衝撃を与えると、次第に熱したマグマのように赤く変色し、
妖眼もろとも溶け始めた。
「シュルルルゥ!」
触肉は耳を裂くような奇声を作りながら、
いくつもの肉紐に分裂して灯に襲い掛かる。
だが、灯はそれに気をかけることは無かった。
触手がいくら絡んでこようと、ただ霊力を両手に集中させる。
(妖魔なんかに、成らせてたまるものか!)
心の中で必死に唱えると、灯は霊力を十二分に引き上げた。
触手スーツはドロドロに溶け出し、流れ落ちた粘液が地面に溢れかえる。
その粘液の下から、本来の肌の色が見えた。
触肉が全て溶けた後、灯はようやく手を引いた。
額を伝う汗を拭う暇もなく、清見の胸に耳を伏せた。
しかし、伝ってくるのは冷たい感触だけだった。
「そんな、清見……お前、まさか自分から命を……!」
ますます生気が減っていく仲間の顔色に、灯は目尻を濡らした。
「せっかく助けてあげたんだから、死んだら絶対許さないんだからな!」
灯は清見の胸骨を押さえ、肘をまっすぐ伸ばして圧迫を繰り返した。
更に彼女の気道を確保して、人工呼吸を行おうと口を伏せる。
心肺蘇生で何がなるか分からない。
だが今の灯にとって、どんなことでもいいから、ただ清見に返事をしてほしかった。
その時。
いきなり開いた清見の目と、バッタリ見つめ合った。
「灯、顔が近い」
「うわあぁぁ!」
灯は思わずビックリしたが、すぐ歓喜の表情に一変する。
飽きるほど見慣れた、むっつりで無愛想な顔。
それが今の灯にとって、どんなものよりも愛着を感じた。
「清見、無事だったのか!」
「来るのが遅い。暑苦しい。後ろ危ない」
清見は灯に頬ずりされながら、矢継ぎ早にしゃべり出す。
灯は喜びの表情のまま背後へ裏拳を打ち出す。
拳の甲は飛び掛ってきた妖眼蟲に命中し、吹き飛んだ先にある木の幹でぺちゃっと潰れる。
315 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(18/20) sage 2012/08/24(金) 00:53:43.12 ID:TAhitKst
「良かった、本当に良かったよ。無事だったなんて」
「実のところ、ちょっと危なかった。蕾を破壊してくれるのがもう少し遅かったら、
私の体まで完全に妖魔化していたかもしれない。
しかし息を止めたおかげで、寄生はそこまで浸透しなかった」
「へぇ、息を止めたって……?」
「脳部から副交感神経を刺激し、心臓の鼓動を抑制したの。
私、潜水だけは得意だから……」
「二度とそんな危ない方法で泳ぐな!」
灯は清見を支えた手でツッコミを入れた。
だが意外なことに、清見はそのまま力無く倒れた。
まるで四十度の熱を出したままマラソンを走りぬいたように、
憔悴しきった表情を浮かべる。
虚ろな瞳は、どこまでも遠くを見つめていた。
「おい、清見? 冗談なんかやっている場合じゃないんだぞ」
灯は慌てて清見に触れる。
そしてビックリする。
少女の体は、まるで厳冬の湖に沈む氷のように冷たい。
その温度は、なおも下がり続けている。
「うんっ……」
苦しげな息が清見の口から漏れ出る。
彼女が呻き声をあげると、はだけた胸の部分から勾玉が浮かび上がる。
五行戦隊に変身するための霊具。
本来なら彼女を象徴する澄んだ青色が、今では色彩を失って黒がかっていた。
灯は愕然とする。
勾玉は彼女達それぞれの霊力によって作り出され、
彼女達の生命力を示すものでもある。
それがこんなにも黒く変色したのは、灯にとって初めて見た光景だ。
「そんな、どうして……」
「私の霊力は、ほとんど吸い取られて……」
「これ以上しゃべるな!」
「大丈夫……私より、速く鈴華達を……」
「何が大丈夫だバカヤロウ! いつもいつも必要以上にがんばって!
そこでじっとしてろ」
灯はバトルスーツから自分の勾玉を取り外した。
身に付けていた服は瞬時に赤い炎と化し、勾玉の中へ吸い込まれる。
その代わりに、彼女は変身した前の学生服姿に戻る。
灯は勾玉同士を当て、意識を落ち着かせた。
「鈴華のやつなら、睦美と翠に任せれば良い。今はこっちに集中しろ」
「……翠も睦美と一緒にいるのか」
「ああ、オレと睦美を助けてくれたんだ。だから心配は無い。
さあ経脈を開いて、霊気を同調させるぞ。オレの力を分けてやるから」
316 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(19/20) sage 2012/08/24(金) 00:55:01.27 ID:TAhitKst
清見は目を瞑り、弱々しく頷いた。
軽くしかめた眉間は、今にも苦痛を我慢しているようだ。
灯は二つの勾玉を通して、清見と気の流れを循環させる。
勾玉の片方は輝き、片方は黒ずむ。
焦りが増していく。
手のひらの先から、清見の霊力が微塵も感じられない。
自分の霊力だけ相手に流れていって、まるで一方通行のようだ。
どんな人間にも、最低限の生命エネルギーがあれば霊力となって現われるはず。
それがまったく感知できないとは、
清見の容態が想像もつかないほど悪いということだ。
「本当に……灯がもう少し速く来てくれたら、手遅れになることもなかったわ」
「……っ?」
霊力のコントロールに精神を集中するため、灯は言葉を発することもできず、
ただ清見の顔を見つめた。
清見の雰囲気は、どこか変わったように感じた。
「あともう少し速かったら、私も希望を捨てずに待っていられたのに」
清見は何事も無かったように、手のひらを広げて見せた。
彼女の勾玉は、墨汁の中から拾い上げたかのように真っ黒だった。
灯の心は震え上がった。
恐ろしいほどのスピードで、自分の霊気が吸い取られていくことに感付く。
「蕾が花咲く前に私を助けてくれて、ありがとう。でも、ちょっと遅かった。
私はもうあなた達の助けを諦め、妖魔に心を捧げてしまったの」
清見は淡々と述べながら、黒い勾玉を強く当てた。
まるでダムが決壊するかのように、灯の体から霊力が急速に溢れ出ていく。
顔を真っ赤にして止めるが、最初から無防備に解放した霊力は、
そう簡単にせき止めることはできない。
清見は立ち上がると、その体から濃密な邪気がほとばしる。
やがて、彼女の勾玉は一つの妖眼として見開く。
「はい、五つ目」
清見は静かに宣言した。
その途端、彼女の気配が完全に妖魔のものに変質する。
灯は渾身の力を振り絞り、なんとか清見から離れた。
「清見、お前……」
「邪魔よ」
冷酷な口調とともに、清見の手から激しい水流が放たれ、灯の胴体をつんざく。
森を切り裂くような悲鳴をあげ、灯の躯体が吹き飛ばされる。
その拍子に、赤の勾玉を手放してしまう。
何の前触れもない一撃。
バトルスーツも無く、無防備な体で受けてしまった灯は、
気絶しないだけで精一杯だった。
彼女は苦痛を耐えながら、傷だらけの体をなんとか起こす。
317 五行戦隊 第五話『寄生化スーツ』(20/20) sage 2012/08/24(金) 00:56:25.99 ID:TAhitKst
「バカな……体に憑依した邪気は、全て浄化したはずなのに……!」
「ええ。確かに私の体は完全に妖魔化には至らなかった。
だから、灯の霊力を借りて、妖力を補充したの」
「なにっ……?」
「助けてくれてありがとう、灯。
あなたのおかげで、私は生まれ変わることができたわ」
清見は静かに告げると、蕾の残骸のほうへ歩んだ。
「やめろ……!」
灯は腹の底から声をきしませ、懸命に起き上がろうとした。
夜空に雲が集まり、月明かりを遮る。
空気のうなりが突風を呼び起こし、周囲の木々を揺らし始める。
一滴、二滴と続いて、無数の雨粒が降り始める。
清見は蕾の中にある一番太い触手を拾い、それを自分の股間に近づける。
そして眉間を悩ましく曲げて、触手の先端を自分の陰部に宛がう。
損傷を受けなかった蕾内壁の妖眼は、まるで祝福を贈るかのように妖しく光り出す。
「さようなら、灯」
「やめろ、清見――ぃ!」
灯が必死にあげた声は、激しく降り注いだ雨音に消される。
暗闇の中、清見の背中が弓なりに反らすと、
彼女が握る邪眼の勾玉から暗黒のオーラが溢れ出る。
魔の妖気は黒帯となって、乙女の裸体を妖しく包む。
形のいい乳房や柔らかい腰つき、腕や太もも、そして女性器までも。
一連の変身動作は、五行戦隊の時とまるっきり一緒だった。
だから灯は一瞬、これが全部清見の嘘じゃないかと思った。
そのささやかな希望は、周囲を溢れ返る妖気によって打ち砕かれる。
ひそかに伸ばした腕が、暗闇から伸びた水の触手に弾かれる。
触手はそのまま灯の前から赤い勾玉を奪い去る。
「くっ……!」
「灯、あなたにはもうチャンスは無いの」
清見はゆっくりと灯の側にやってきて、触肉に包まれた足で彼女を踏みつけた。
雷の閃光が遠くの空で炸裂する。
しばらく経ってから、ようやくゴロゴロと轟音が鳴り響いた。
だが、灯の頭にはその音は入らなかった。
彼女の脳内には、雷光によって一瞬照らされた清見の姿が、
いつまでも焼きついていた。
深海よりも暗い青色の寄生スーツ。
下から見ると良く見える太ももや、陰部に食い込むいやらしい触肉の形。
その宿主は、底知れぬ冷たい目で自分を見下ろしていた。
官能的な色香があたりを包みこむ。
(以上です)